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165第5章 頼りなく儚い彼女の背中



格闘を続けること数十分。
私たちは、くたびれて床に寝転がる。

「ハァハァ・・・ったく」
「すいません・・・」
その姿は、とてもさっき私をからかったヤツと同一人物には見えない。
−どうしてこう、浮き沈みの激しいヤツなんだ・・・
「まぁ、いいや。石川は石川でなんか考えがあるんだろ?
 平家とのこと、言いたくなったら言ってよ。相談にのるからさ」
結局、何度聞いても平家とのことをはぐらかす石川に私が折れる形になる。

「市井さん・・・」
「ん?」
隣にいる石川は、体を私の方に向ける。
その顔は、さっきまでのふざけた感じと違ってすごく真剣だ。
(本当によくココまで表情を変えられるな)
−−驚きに値するよ。
しかし、つづく石川の言葉はそれ以上に私を驚かせた。
166第5章 頼りなく儚い彼女の背中:02/01/15 08:36 ID:AdjHmyK+

「人・・・殺したことありますか?」

「へ?」
私は、突拍子もない石川の質問にまたもマヌケな声で答えてしまう。
「・・・イヤ、ない・・・と思うけど・・・・・・多分」
記憶を失う前は、分からないから答えは中途半端だ。
「・・・そうですか」
「・・・・・・なんで?」
そう聞いていいのか悪いのか微妙だったが、聞かないでおくと
ものすごく気になりそうなので聞いてみる。
石川は、なにも答えずただニコッと笑う。
私が、ワケが分からないまま石川を見ていると
「もう寝ましょうか?」
と、石川は寝室の方へ行ってしまった。

「・・・ホントに、なに考えてんだ?」
私は、そう呟かずに入られなかった。



−−−石川がいなくなったのは、その次の日のことだった。
167第5章 頼りなく儚い彼女の背中:02/01/15 23:04 ID:mCS/o67W



石川が寝ているはずの真っ白なシーツにピンクの封筒が目立つ。
市井さんへ、と書かれている。
私は、姿のない手紙の差出人に不安を覚え焦って中から手紙を取り出す。



市井さん、おはようございます。
って、なにのんきに挨拶してるんだーって、怒っちゃいましたか?
えっと、突然なんですが、私はもうここには戻りません。
A・S・Aの皆さんにもよろしく言っておいてください。
最後の最後まで本当にご迷惑をおかけしました。
本当は、昨日かなり心が揺れてたんですよ。
市井さんが、私のこと心配だなんて言ってくれるから(^▽^
でも、私が本当に傍にいたいのはたった1人なんです。
市井さんもきっとあの写真の子が気になっていると思います。
だから、市井さんは私のことよりもその子のことを考えて上げてください。
それでは、市井さんの記憶が戻ることを祈って、石川はフェードアウトします。
チャオッ!!         
                  石川 梨華
168第5章 頼りなく儚い彼女の背中:02/01/15 23:05 ID:mCS/o67W

「・・・んだよ、コレ・・・」
女の子らしい丸っこい文字がやけに切ない。
最後まで勝手なことばっかり言いやがって・・・
どこ行ったんだよ、石川・・・・・・

私は、玄関を裸足のまま飛び出していた。
まだ早朝ということもあって通りには人の姿はまばらだ。
その中に、石川の頼りない背中はない。
「クソッ!」
別に石川を特別視しているわけじゃない。
でも−−−あんな頼りなさげな弱っちーヤツほっとけるワケないじゃないかっ!
私は、足の裏に突き刺さる小石など気にもとめずに走り続けた。
169第5章 頼りなく儚い彼女の背中:02/01/15 23:06 ID:mCS/o67W



「ほんなら、コレ、ヤツらの任務情報な」
あたしは、石川に紙を手渡す。
「ありがとうございます」
石川は、にこりと笑う。
「ええよ、最後やし。サービスや」
そう、これでこの少女の姿を見るのもきっと最後になる。
ココは、石川と初めてあった地下道だ。
2回目に会ったのもココやった。
最後もココかいっ・・・ホンマ、ムードないわ。
って、別にそんな気ないけどな・・・

「よいしょ・・・っと」
石川は、そのか細い体に似合わない銃を背中に背負う。
「・・・ホンマに行くんか?」
あたしは、なんか聞かずにおられへんかった。
まるで、自分の子供を戦場に送る気持ちや・・・
「・・・平家さん・・・・・・いつも、ありがとうございました」
石川は、困ったように眉を八の字にして言う。
そして、あたしに背を向けて最初に通ってきた道を反対に向かって走り出した。
あたしは、その背中を見送ると、地上へと続く梯子を登った。