☆☆業務連絡☆☆

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「保田さん、トイレ行きたいです」
「え?」
ようやく道路に軍用車が見えなくなり安心していた所で
亜依ちゃんが呟く。ふと見ると、公園らしき所に公衆トイレがあった。
−−あれを見て言ったんだろう
私は、車を止める。
「あそこでしてきたら」
「ついてきてくれないんですかっ?」
驚いたように言う。
飯田は、いつもついて行ってたんだろうか・・・
仕方なく私は、ののちゃんを車に待たせてついていく。

公衆トイレは、予想通り汚かった・・・
私は、入口によっかかって亜依ちゃんが出てくるのを待つ。
風が冷たい・・・

−−もう、冬なんだな〜
−−帰ったら、矢口のとこ行ってこれからのこと考えなきゃ


「ねぇ、保田さん。その服の血って飯田さんのですよね」


私がそんなことを考えていると、不意に背後でトイレにいるはずの亜依ちゃんの声が聞こえる。
その声は、ものすごく棘を含んでいる。
私は、驚いて振り向く。


−−ドスッ−−


あ・・・れ・・・?なに、これ・・・

(・・・血??)

私は、不意をついた攻撃にとっさに腰の銃を手にする。
しかし、攻撃をした本人を視界にとらえて・・・発砲を躊躇う。

「撃たないんですか?」
亜依ちゃんは、銃を前にして冷静に言う。
「・・・・な、んで・・・こんなこと・・するの?」
「保田さんが、飯田さんを殺したんやろっ!!」
亜依ちゃんは、私の言葉に、突然の感情の爆発を見せる。

−−うかつだった。

私の服には、飯田を運んだときの血が付いていた・・・
(勘の鋭い子だな・・・)
今は、私自身の血が徐々に同じシミを作ってきている。
私は、ナイフの刺さった腹部を押さえる。
亜依ちゃんは、憎しみのこもった目でそんな私を見ている。


『もう二度と人が人を殺すとこなんて見せたくなくて・・・』


飯田の言葉が頭をよぎる。
それなのに、この子が私を殺しちゃダメじゃない・・・

「・・・フッ・・・フフフ・・・」
「な、何がおかしいんですか?」
突然、笑い出した私に亜依ちゃんは動揺する。
「飯田はさー、あんたたちに、もう人が殺されるとこも死ぬとこも
 見せたくないって言ってたのよ」
「えっ?」
「それなのに・・・アンタが私を殺そうとするなんて、おかしくてさ−」
「・・い、いださん・・・が?」
亜依ちゃんは、呆然と自分の掌を見る。
その目には、明らかにさっきまでの憎しみはない。

「そんなん、ウソやっ・・・うち、飯田さんの敵とろうと・・・
 うちの手、汚れてしまったやんか・・・うち、どうしたら・・・どうしたら・・・」
亜依ちゃんの瞳から涙がこぼれる。泣きながら、自分の顔をおおって座り込む。

「うち・・・飯田さんのおるとこ・・・もう行けへんのか?」

ポツリという。
後悔が襲っているのだろう。
飯田の願いを自らがコワしてしまったことに・・・

「・・・そんなことないわよ」
私も視線を合わせるようにしゃがみ込む。
空いている左手で亜依ちゃんの頭を撫でる。
亜依ちゃんは、一瞬ビクッとしおそるおそる顔を上げる。

「うち、どうやったら飯田さんのとこ、行けるんや?」
すがりつくような瞳。
「・・・生きてればいいのよ、飯田はあんたが笑って生きてくれたら
 それだけで嬉しいんだから」
「・・でも、うちの手はもう」
再び、自分の震えている掌に視線を移す。
(・・・仕方ないわね〜)
乗りかかった船・・・
というか、飯田の死に対して私はある種、罪悪感を感じていた。
よりそうように生きていた3人
だから・・・この子たちだけは救ってあげたい

「アンタの手はキレイよ」

私は、尻ポケットからある袋を取り出す。
そして、それを握りつぶす。私のもうひとつの手が真っ赤になる。

「な、に・・・それ?」
驚いた顔で亜依ちゃんが聞く。
「コレね、保田印の血のり。ケガしてたら相手も油断すると思って
 念のため持ってきてたの」
「じゃ、じゃぁ・・・」
亜依ちゃんの顔がパッと明るくなる。
「・・・当たり前でしょ。アンタみたいな子供の攻撃くらうわけないじゃない」
「ホンマに??」
「うん、さっ、もう行かなきゃ。ののちゃんが待ってるわよ」
亜依ちゃんをたたせて歩き出す。
亜依ちゃんは、途中から走り出す。

こんなことで罪悪感が薄れるワケじゃない
でも、あの子たちがしっかり生きてくれればアンタも満足なんでしょ・・・

私は、温かく感じる腹部に布を巻き付け、冷たくなる体をムリに動かした。