☆☆業務連絡☆☆

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133第4章 All for you

11

「・・・シーサー・・?」
飯田の第一声はそれだった。

−誰がシーサーよ!?と思ったが私は、それをムシする。
それよりも聞きたいことがあった。

「どうして撃たなかったの?」
飯田は、ふっと目を細める。
そして、突然、私に向かって血塗れの手の平を伸ばした。
(起こせってこと?)
私は、飯田の行動をそう解釈して倒れている彼女の体を抱き起こす。
「・・・ありがと」
か細い声で飯田は言う。

奇妙な違和感−−
・・・この人、こんな人だったっけ?
記憶の中の飯田像とは全く違う気がする。
しかし、この顔は飯田に間違いはない・・・
私は、少しの混乱に陥る。

「誰か来たら・・・騒ぎになっちゃうよ・・・
 だから、あの部屋まで連れてってくれ・・ない?」
そう言って、飯田は中庭に面した廊下にあるドアの開いた部屋を指さす。
私は、飯田の顔を見る。
その顔には、私を騙そうとかそういった一切の邪念は見られない。
私は、無言で飯田に肩を貸し、彼女の指定した部屋に入る。
134第4章 All for you:02/01/11 01:16 ID:Gpc0+dY7
12

「ふー」
やっと一息つけた・・・
っていうか、この人どういうつもりなの?

「どうして、撃たなかった?」
私は、もう一度尋ねる。
飯田は、なにも答えない。
なんだかバカにされているような気分だ。
「どう考えてもあなたの方が早かったでしょ!
 あなたなら私を確実に殺せたはずじゃないっ!!」
少し口調が荒くなる。
「・・・カオリの銃ね−」
飯田が不意に口を開く。
「え?」
「・・銃に・・・サイレンサーつけてなかった」
「サイレンサー?」
「あなたは・・・付けてたでしょ?」

だから何だというのだろう。
私は、音をたてるとヤバイ立場だから付けていただけだ。
しかし、音をたてることはこの人にとっては好都合のハズじゃないか。

「銃声なんかしたら・・・あの子たち・・驚いて出てきちゃう・・・」

(あの子たち?)

飯田は、なんだかすごく穏やかな顔をしている。
こんな顔をしたヤツは戦場には1人もいない。
よくわからないが、私の知っている飯田カオリとは果てしなく変わってしまったみたいだ。
135第4章 All for you:02/01/11 01:17 ID:Gpc0+dY7

「カオリ・・・あの子たちには・・もう二度と・・・」

そこまで言って、飯田は咳込む。
私の撃った弾は確実に急所に当たったようだ。
彼女の腹部からは心臓の鼓動に呼応するかのようにドクドクと血が流れ出ている。

「−もう二度と・・・人が人を殺すとこなんて見せたく・・・なくて」

・・・だからなの?
だから、私を−撃たなかった・・・?

「カオリが・・・人を殺すと・・・なんて・・・見せたく、なくて・・・」

そんなに・・・
自分の命よりもその誰かたちの方が、大切なの?
それならば、どうして・・・

「どうしてANGELなんかに入ったの?
 こんな間違った方向に進んでるところにどうして?」

私がそう言うと、飯田は微かに笑う。

「間違った、方向・・・そう・・・かな・・・そう見える・・かな?
 でも、カオリは・・・あの子たちが笑って、暮らせるような・・・社会を
 つく・・ろ・・・って思った・・・」

飯田のキレイな二重の瞳から、涙がこぼれ落ちる。

「それが例え・・・間違ってる、って・・・言われても・・・カオリには・
 カオリは・・・戦場しか知らな・・から・・・ANGELに賭けるしか・・・なかった・・・
 ここで、2人を守り・・・つづけるって・・・それしか・・・」

−−それだけで?
・・・違う。
飯田にとってはそれが全てなんだ・・・

私は、かける言葉を見つけられない
飯田の座っている床には、真っ赤な水たまり。
(この人は・・・もう、助からない)
私は、息も荒くなった飯田を見つめる。
飯田の顔は、すでに蒼白くなっている。
部屋には、激しい呼吸音だけが響いていた。
136第4章 All for you:02/01/11 01:19 ID:Gpc0+dY7

13

カオリ・・・もうダメみたいだな・・・
人生ってホントになにもなくて、そのままどこかで私が殺した人たちのように
のたれ死んじゃうんだってずっと思ってた。
ううん・・・あの頃は、死んでるのに生きてるフリして過ごしてたんだよね、カオリ
でも・・・あの子たちに出逢って、守る者が出来て−
だから−後悔なんてないんだ
カオリは、あの子たちを守って死ぬんだもん・・・かっこいーよ、ね。


あーあ・・・でも、もうちょっとだけ一緒にいたかった・・・な
137第4章 All for you:02/01/11 01:21 ID:Gpc0+dY7

14

「・・・ねぇ」

沈黙を破ったのは飯田だった。
「もしよかったら・・・あの子たちのこと、頼んで・い・・かな?」
その瞳には、なにかを決意したような輝きさえ放っている。
私は、自然にうなづいていた。
「よかった・・・」
飯田は、そんな私を見て嬉しそうに呟く。

「この部屋の・・・隣に・・いるの・・・。暗号が・・・こう・・・」

トントン トン トントン

力ない手がゆっくりと上がり壁を叩いた。
私は、目だけでうなづく。

「辻は・・・甘えん坊で泣き虫なの・・・ 加護は・・・強がっちゃって・・・
 素直に甘えるのが下手なんだけど・・・ホントは、すごく・・・甘・・・ん坊・・・なんだ。2人のこと・・・お願・・・ね」

飯田は、それだけを言うと静かにその瞳を閉じた。
その顔はまるで聖母のようだった。

私は、飯田を置いて隣の部屋へ向かった。
−−それが飯田の最後の願いなのだから
138nanasi:02/01/11 12:20 ID:ZXa2i9UP
age
139第4章 All for you :02/01/11 16:55 ID:3+b5KJiT

15

・・・加護・・・・・・加護・・・

「んっ、飯田、さん?」
鍵をかけて誰も入って来れないはずの部屋の中に飯田さんの声が聞こえた。
うちは、部屋を見渡す。
部屋の隅に、ボーっと飯田さんが立っているのが見えた。
「どないしたんですか?そんなとこに立って・・・」
うちは、飯田さんがココにいることよりも、なんで近くに来てくれへんのかが不思議やった。
140第4章 All for you :02/01/11 16:56 ID:3+b5KJiT

・・・・・・カオリねぇ、行かなきゃいけないの

「え?」

・・・だから、お別れを言いに来た・・・

「な、なんでやっ!ずっと一緒におるって言うたやんかっ!!」
飯田さんは、悲しそうに微笑む。

・・・・・・ずっと、一緒だよ。加護たちのことはずっと見てる・・・

うちは、その時ようやく気づいた。
飯田さんの口は全く動いてへんのに、うちの耳元で囁かれているように
はっきりと声が聞こえることに−−そして、飯田さんは透き通っていて
その後ろにある壁が見えていることに・・・

「・い・・ださん?」

・・・きっと、加護たちが笑って暮らせる社会はできる・・よ

「そんなん、できひんっ!飯田さんがおらんかったら、うちもののも笑えへんやんか」
いつのまにかうちは泣いとった。
ボロボロと泣きじゃくっとった。
その時、不意に頭に温かいなにかが触れる。

・・・加護の泣き顔、初めてみたよ・・・

うちは、顔を上げる。
飯田さんはさっきと違ってキレイに微笑む。

・・・大丈夫だよ、カオリは、ずっと傍にいて守ってるから・・・
だから、しっかり生きるんだよ・・・

飯田さんの声が遠くなる。
その姿が、空気のように掻き消える
141第4章 All for you :02/01/11 16:58 ID:3+b5KJiT

「イヤやっ!!飯田さん!!!」

うちは、自分の声で目が覚める
(・・・夢やったんやろうか?)
−−違う、この部屋にうちの頭に飯田さんのぬくもりが残ってる。

「い・・ださん・・・っ」
頬に温かな液体がとめどなく流れ落ちた。
その時、遠慮がちなノックの音が聞こえた。
142第4章 All for you:02/01/11 23:41 ID:yZxOkWas

16

トントン トン トントン

なんで私は、こんなことをしているんだろう・・・
ホントは、矢口のためにもつんくの居場所を突き止めて上げたいのに

飯田の穏やかな死に顔が浮かんでくる。

きっと−−だからだろう。
飯田は、この中にいる辻と加護という子のために戦った。
だけど・・・私は−−。
143第4章 All for you:02/01/11 23:43 ID:yZxOkWas

その時、ガチャッとドアが開く。
そこに立っていたのは、まだ幼さの残る少女だった。
泣いていたんだろうか、目がウサギみたいに赤くなっている。
私を見ても驚きを見せずにただまっすぐ見つめてくる。
少女の瞳は、なにも語らない。

「・・・亜依ちゃん?・・・その人、誰れすか?」
その少女の後ろからもう一人の少女が顔を見せた。
「・・・いいらさんは?」
みるみるうちに目に涙がたまってくる。
「−飯田さんに頼まれてきたの。あなたたちをココから連れ出してって」
私は、少女を安心させるように言う。
「・・・ちょっと待っといてください」
亜依ちゃんと呼ばれた少女は、部屋の奥に行くと荷物を持ってくる。
もう1人の少女は、驚いたように亜依ちゃんを見ている。
「どうして、亜依ちゃん?・・・いいらさんは??」
もう1人の少女は、さらに泣きじゃくる。
「ええから、行こ」
亜依ちゃんは、私を見上げる。
相変わらず、なにも読みとれない瞳。
「・・・飯田さんは、ちょっとお仕事で忙しくなるの。
でも、絶対迎えに狂って言ってたわよ」
私は、泣きじゃくる少女にあまり得意ではない笑顔を見せる。
「・・・ホン・・ト??」
少女が上目づかいで私を見る。
私は、うなづいた。
そうして、2人の少女を連れて部屋を出る。
144第4章 All for you:02/01/11 23:44 ID:yZxOkWas

17

さて・・・連れ出すとは言ったもののココは敵陣の真っ只中だ。
(やっぱり、壁づたいがいいわよね)
でも、そうなるとこの子たちに不信感を与えてしまう恐れがある。
私は、チラッと横目で少女たちを見る。

「なぁ、のの。たまにはおもろい降り方せーへんか?」
私の心を読んだかのように亜依ちゃんが言う。
「おもしろい降り方れすか?」
「せやっ。なぁ、おばちゃん、なんかない?」

おば・・ちゃんっ!?

私は、亜依ちゃんを睨む。
しかし、亜依ちゃんは平然としている。

まぁ、いっか・・・

「そ、そうね〜じゃぁ、あそこから降りてみましょ」
亜依ちゃんの言葉はこっちにとって好都合だ。
行きと違って帰りは腕力はそう必要ない。
なんたって、保田印の(以下略)があるから・・・

私たちは、そのまますべりおりてビルから脱出した。
行き先は1つ。
私がいつもお世話になっているところ・・・そこを目指して車を発進させた。