傍目から見ていても、彼女の落ち込みようは普通ではないように思われた。
いや、なによりも彼女自身がまだ信じられないようだった。
こんなにも心に空白ができてしまうなんて・・・・
いままでずっと彼女の横にいた彼・・・
その彼が自らの不注意で彼女の隣からいなくなってしまったのだ。
最初はいなくなったこともそんなに重要には考えていなかった。
だって・・・彼とは所詮仕事の上でのパートナー。
それに、自分は元々一人でやっていくつもりだった。
なのに・・・
やっぱり・・・あんなことがあったから?
最初はただの悪戯のつもりだった。
3つも年下の少年をちょっとからかってみたいという意地悪な気持ち。
大人になりきれない男の子を、少しだけ大人の自分が虐めてみたい。
そしてその反応を楽しみたいという残酷な気持ち・・・
きっかけはほんのささいなこと。
それがまさかこんなふうになるなんて・・・
そう、あの日の夜・・・
それはキャンペーンでのツアー中のこと・・・
いつものように「お疲れさま」といってホテルの互いの部屋に別れたあの夜。
シャワーを浴びて、ベッドにもぐりこむ。
明日もキャンペーンがあるから、早く寝なくちゃ・・・
そう思いながらも、その日はなかなか寝付けなかった。
しかたないなあ・・・TVでも見ようか・・・
部屋のTVのスイッチを入れる。
えと・・・番組は・・・
手元に番組表を引き寄せる彼女の目に止まったもの。
「有料チャンネル・30分100円」という番組表。
彼女にすこしばかり好奇心が芽生えた。
もちろん、これまでに泊ったどのホテルのTVにも有料チャンネルはあった。
しかし彼女はこれまでそれを一度たりとも見たことはなかった。
だからといって彼女にそっちの興味がなかったわけではない。
いや、むしろ若い女性である彼女がそんな興味を持たないわけがなかった。
ただこれまでは仕事で疲れていてとてもそんな気分にならなかったのと、
「料金はチェックアウトの際にいただきます」
という一文が彼女をためらわせていたのだ。
だが今日のホテルはTVの横に料金箱があるタイプだ。
これなら他人にバレる心配はない。
彼女は財布から100円玉を数枚取り出すと、立て続けに料金箱に放り込んだ。
画面には自分より少しだけ年上だろう、若い女の人が映っていた。
全裸だった。
そして、その女の人の上に同じような年の若い男が身体を乗せていた。
男は若い女の全身に舌を這わせると、やがて女の両足を開かせ、自分の身体をその間に押し入れていった。
もちろん、肝心な部分はモザイクで消されて見えなかったが、それでも
二人がなにをしているかははっきりわかった。
画面の女が声をあげる。
まずい、ちょっと小さくしなくちゃ。あたしがこんなもの見てるなんて知られたら・・・
あわててTVの音量を絞る。
そのとき、彼女の心にいたずら心が芽生えた・・・
そういや・・・隣の彼もこれを見てるんだろうか・・・
やっぱり男のコだし、見てるんだろうな・・・
ようし、ちょっとイタズラしてやれ・・・
正直ソニンじゃ萌えねぇーな。
コンコン・・・
「あたし。ねえ、起きてる?」
「な、なに?こんな時間?」
「へへ・・・眠れなくてさ。ね、ちょっとイイかな?」
そう言って彼女は彼の部屋に入ると、ベッドの端に腰を下ろした。
「ね、なにしてたの?」
「べ・・別に・・・TV見てただけだよ。」
彼は間近にいる彼女をまともに見ようとしなかった。
もちろん、彼が彼女をこんなに間近に見るのはいつものことといっていい。
だが、TV局などで用意された衣装とは違い、今横にいる彼女はパジャマを着ていた。
いくらなんでも彼女のこの姿を見るのは初めてだった。
パジャマ姿は、彼女の身体のラインを強調しているかのように思えた。
彼の視線は否応なく彼女のパジャマの胸の部分に向かおうとするが、彼は懸命にそれをこらえていた。
しかも、お風呂に入ったんだろう。彼女の身体からは石鹸の甘い香りが漂ってきている。
「ねえ、エッチなTV見てたんでしょ。」
「え・・・そんなもの・・・見てないよ。」
事実、彼はそれまで別の番組を見ていたのだ。
無論、彼とて興味ないことはなかったが、もう一歩、勇気を踏み出すことができなかったのだ。
「いっしょに見よっか。」
そういうと彼女は100円玉を料金箱に入れた。
画面にはさっき彼女の部屋のTVに映っていた若い男と女が映し出された。
あっ・・・あっ・・・あっ・・・・
画面の女が声を上げる。
彼はその画面から懸命に目をそらそうとしている。
いや、実際のところ彼も興味はありすぎるほどあって正直見たいのだが、
自分のすぐ隣には甘い香りを漂わせている若い女性がいるのだ。
見たいという好奇心以上に、羞恥の方が先にたったのだ。
彼女はその彼の心を知ってか知らずか、なおも彼に言葉を投げかける。
「ほら、見て見て。スゴイ事してる。」
その言葉に彼は反射的にTVの方を向いた。
画面では男と女が愛し合っている最中だった。
男は激しく腰を動かし、女はある時は男の背中に腕を回し、ある時は後ろ手にシーツを掴んで喘いでいた。
目をそらそうとしても、若い彼の視線は画面に集中してしまっていた。
やがて画面の中の男が果てても、彼の視線はそのまま画面に釘付けのままだった。
そんな彼に彼女が悪戯っぽく囁いた。
「一生懸命見てたね。フフッ・・・」
「そ・・・そんなこと・・・」
彼はふと我に帰る。よりによって仕事仲間でいつもそばにいるの彼女に見られたのだ。
これからもずっと一緒にやっていくのに・・・そう考えると、すごくバツが悪かった。
「そんなんじゃ実際の女の人の裸って見たことないんでしょ。」
「え・・そ・・そんな・・・」
なおも彼女は悪戯っぽく続ける。
「見たいんでしょ。見せてあげよっか・・・」