サウンドノベル4「ハッピーエンド」勇者の章

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893辻っ子のお豆さん
正々堂々、1対1、勝負!
私は戦闘の構えをとった。
福田明日香は特に武器の様な物は持たず、無防備に立ち尽くしている。
魔法を使うような素振りも見せない、まるでスキだらけだ。
いけるんじゃないだろうか?
このまま真っ直ぐに踏み込めば、簡単に一撃で決めれそうだ。
恐れる事はない、私はあの保田にだって勝ったんだ。
自信を持て、ひとみ。やれる、やれるんだ。
ジリ・・ジリ・・
ゆっくりとゆっくりと間合いを詰める。
それでも福田は構えをとろうとしない、棒立ちのまま。
こいつ、本当にやる気があるのか?
二人の間の距離が徐々に縮まっていく。
あと一歩、あと一歩踏み込めば私の間合い、確実に打ち込める間合い。
空を切る音が鳴る。
吉澤の拳は福田の顔面に直撃した。
一撃、勝負あり。吉澤はそう確信した。
しかし次の瞬間、顔面を捕らえた右腕に激しい激痛を感じる。
そして天地が逆転した。
894辻っ子のお豆さん:01/12/13 01:06 ID:WkKnask0
「この程度か。」
眉一つ動かす事なく、福田は落ちた吉澤を見下ろす。
直撃を受けた方の福田には、傷一つついてはいなかった。
砕けたのは攻撃をしかけた吉澤の拳の方であった。
さらに、その右腕を捕まれ強引に床へ振り落とされた。
一瞬の出来事で、吉澤には何が起こったのかすぐに理解する事ができなかった。
考える間もなく次の攻撃が襲ってくる。
福田の足が、床に転がされた吉澤の体を思いきり踏みつける。
そしてまるでサッカーボールの様に蹴り飛ばされ、吉澤は廊下の壁に激突した。
口から血と胃液の混じった物が溢れ出てくる。
圧倒的だった。
もはや勝負といえるものではなかった。
吉澤もこれまでの旅で、何人もの強者を見てきた。
だが福田明日香の強さはそのどれとも異なっていた。
力、技、早さ、固さ、体力、全てにおいて完璧な存在だった。
いや完璧というより、それはもはや人間の域を越えているレベル。
福田の顔面に拳を叩き込んだ時に気付いた。
人間じゃない。
895辻っ子のお豆さん:01/12/13 01:07 ID:WkKnask0
私の心を絶望が包む。
私の体を恐怖が包む。
目の前にあるのは純粋な死。そして殺戮。
初めての経験だった。
相手に畏怖し震えが止まらない。
怖い・・
死にたくない・・
私が私でなくなる。
砕けた右手の痛みも感じない。
叩き付けられた背中の感覚もない。
蹴り上げられた体も、もう何もわからない。
私が吉澤ひとみじゃなくなる。
「死ね。」
冷酷に、冷徹に、あいつが腕を伸ばす。
あの手が私の体に届いた時、私の炎が消えるんだ。
全てが終るんだ。
意識が朦朧としてきた。
死んだら、ののに会えるのかなぁ?なんて思った。
896辻っ子のお豆さん:01/12/13 01:08 ID:WkKnask0
目の前にののがいた。
そうか、ここは天国なんだ。
やっぱりののも死んでいたのか。
へへ、ひさしぶり、私も来ちゃったよ。
「よっすぃーをいじめる奴は許さねーのれす!」
どうしたの、のの?なんで怒ってるの?
ここは天国なんだよ、楽しくやろーよ。
私達は死んじゃったんだよ。
振り返り微笑む辻希美の顔。
「勇者は死なねーのれすよ。」
希望が私の目の前に、光となって射す。
周りの景色が現実の物へと移り変わる。私は意識を取り戻した。
目の前には、にっこりと微笑む辻の顔があった。
それは夢でも幻でもない、現実の辻希美。
このプニプニほっぺ、プヨプヨおなか、間違いない。
「生きてたの・・?」
大きくピースマークを作るのの。
「へい!」
ののが生きていた。
897辻っ子のお豆さん:01/12/13 01:12 ID:WkKnask0
「うちもいるでぇ〜。」
辻の後ろから、加護もひょっこりと顔を出した。
「あいぼん!」
ののとあいぼんが一斉に私の胸に飛び込んでくる。
私を包んでいた恐怖が、絶望が、跡形もなく消えていく。
「良かった、本当に良かったよ・・」
嬉しくて涙が出てきた。
「皆殺しだ!」
二人に不意打ちをくらい、弾き飛ばされた福田がゆっくりと起き上がる。
その顔は激しい憎悪の色に変わっていた。
「勇者は悪い奴には負けないのれす!」
私達は立ち上がり、敵を見据える。
ののの背中が、私にまた希望と勇気を湧き起こしてくれる。
それは紛れもなく勇者の背中だった。
もう絶対に離さない。
この世でたった一人、私の勇者だ。

【第二部 勇者の章 終】