ソナチネ(彼女たちの場合)

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82que
愛によると、親戚同士で話はついてるらしく、これからはそこに世話になるという事で、それをうれしそうに話す。
「あそこのおばさんは優しいの」

案外質素なその家は、郊外にあった。中に入るのを遠慮する亜弥の手を引っ張る愛。
「わたしはいいよ」
「付き合ってくれるって言ったじゃん」
「いい人なんでしょ。ほら行ってきなさいよ」
亜弥は愛の背中を押した。
83que:01/12/11 03:47 ID:5dqIAGZ6
「大きくなったのねえ」
居間のソファで遠慮がちに座る愛に、叔母はお茶とお菓子を大急ぎで持ってくる。
「辛かったでしょう。お仕事も大変なのに」
心配そうな顔の叔母に、愛は首を振った。
「でも、恨まないでやってね。あそこの家も大変なの。でも叔母さんは愛ちゃんが来てくれる事、大歓迎よ。こんな狭い家だけど、どうぞよろしくね」
頭を下げられて、あわてて頭を下げると、そこに小さな女の子が入ってきた。
「ママ」
3、4才くらいだろうか。それまで、はにかんでいた愛は微笑をやめた。
「愛ちゃん、これうちの子。ほら挨拶しなさいな」
母親の元に駆け寄ってきた女の子は愛に気付くと、あわてて引き返していった。
「ごめんなさいね。まだ他人が怖いらしいの。でも愛ちゃんにならすぐ慣れるわ。仲良くしてあげてね」
愛は、女の子の去った後を見つめたまま止まっていた。
叔母は「そうそう、わたしが見た愛ちゃんは丁度あれぐらいだったわね」と微笑んだ。
84que:01/12/11 03:52 ID:5dqIAGZ6
家から出てきた愛は、近くのベンチに座っている亜弥の元へと向かった。それに気付いた亜弥は駆け寄ってくる。
「挨拶してきたの?明日からあそこに住むんでしょう」

家の玄関で、叔母が女の子の手を振らせているのが見える。
「ううん、行かない」
「え?」
愛は手を振り返す。
「もう、これ以上やっかいものになるのはイヤ。ウチ、お荷物じゃないもん」
小さな声でも意志のある口調。
じゃれて遊ぶ女の子をみつめる愛に、亜弥はかける言葉を探した。
けれども、それは出てこなかった。