ソナチネ(彼女たちの場合)

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79que
地下鉄のホームでそれぞれMDを聞きながら、二人はベンチに座って地下鉄が来るのを待っていた。
亜弥は目深にかぶったニット帽の下から、行き交う人達を覗き見た。
混み合う時間帯らしく、顔という顔を眺めるのに、亜弥の目は忙しく動く。
携帯をいじる学生。騒ぐカップル。今にもホームから転落しそうな会社員。成金女。
亜弥にはどの人間も視点がさまよっていて、みな自分の事だけを考えてるように見えた。
人の波に埋もれながらも周りは全く見えていない、そんな自己中心の顔…。
80que:01/12/09 16:18 ID:RUPwWWRV
愛は、自分の編集したMDに飽き飽きしてるところだった。
いつも亜弥のMDの方が選曲が良く、それがいつも悔しかったのだが、
「亜弥ちゃん、MD取り替えて」
と自分のMDを出す。
「ああ」と言って亜弥はMD機からMDを取り出した。
愛がその選曲の良いMDをもらって再生したとたん、亜弥がイヤホンを耳からひっこ抜く。
「痛い…何?」
「ねえ、帽子取ってみようか」
「いや。うるさいから」
そう言って愛はイヤホンを耳につけるが、再び抜かれた。
「取るの」
「いやだってば」
亜弥は愛の帽子をひったくって投げ捨てると、愛はあわててそれを取りに行く。そして
、自分もニット帽を脱いでホームの人間達を観察した。
思った通り、誰も自分達には気付かない様子で、視線は相変わらず宙を舞い続ける。あの目も、この目も。
今日のテレビは?現在の残高は?仕事のミスは?今日の女は?おそらくそんなところ。
こちらをちらと見たカップルも「ねえアレ…」と言うだけでただ通り過ぎて行くだけだった。