ソナチネ(彼女たちの場合)

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73que
夜、自宅で亜弥がよくわからない数式に悩んでいると携帯が鳴った。
画面を見て、亜弥は玄関へ行きドアを開けた。が誰もいなかった。
ドアの裏側をちらと確認すると、目を腫れ上がらせた愛が立っていて、ぎくっとした。
愛は何も言わずに上がって亜弥の部屋に向かう。いつもの事であり、静かに上がり込むところはよくわきまえていた。
愛はそのままベッドに腰を降ろした。
「なんか飲む?」
亜弥の言葉に「おかまいなく」という風に愛は首を振った。
亜弥は腫れ上がった目の事には触れなかった。
74que:01/12/08 03:54 ID:fIZaJwY/
深夜になって、何度参考書を睨んだところで解けない数式に、亜弥は嫌気がさした。布団を敷いて寝ようと思ったが、面倒になって愛の寝ているベッドにもぐりこむと、布団にうずくまっていた愛が顔を出したので電気を消そうとした手を止めた。
「起こしちゃった?」
「いや…寝ちゃってごめん。寝るの?」
「寝るよ…明日早いし」
「ごめんね」
といいつつすぐ笑顔になって、愛は自分の隣をポンポンと叩いた。
75que:01/12/08 03:55 ID:fIZaJwY/
ベッドに入って枕元の照明を頼りにスケジュール帳を見てると、愛が横から覗き込んできて「あ、ここ空いてる」と、何も書かれていない欄を指さして言う。「ねえ、この日付き合って」
「なにかあるの?」
亜弥は手帳を閉めて愛の指を挟んで言った。
「う〜ん、ひとりじゃやだなあと思って。いい?」
「だから、どこ行くのよ」
そう聞くと、急に愛の表情が沈む。
「親戚んとこ」
「親戚って、今のところも親戚の家じゃないの。それとはまた別の?」
「……」
「やっぱり、また出てきちゃったんでしょう」
「ちゃうよ、ウチは心入れ替えてなんとかうまくやろうと努力したもん。今回の家では、ソウホウゴウイの上よ」
亜弥は何度か下宿先でのトラブルで愛が悩んでいるのを聞いていたので、特に驚かなかったし、深く聞こうともしなかった。
「ねえ、いい?」
「いいよ」
「わあい、やったね」
そう言って再び布団にもぐり込む。
愛は照明を消して、ため息をついた。