ソナチネ(彼女たちの場合)

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1que
帰りのバスは乗客が少なかった。
最後の客が降りて、残りは亜弥一人になった。
ルームミラー越しの運転手を見ると、目が合ってしまい、思わず亜弥は視線をそらした。

もう一度ミラーを見ると、運転手は彼の後ろの席を指で示している。
「こっちの方が暖かいよ」

再び目をそらし、窓の外を見た。対向車の群れが冬の雨に濡れ、ネオン状に輝いている。
しばらく外を眺めていたが、亜弥は立ち上がって最前席へと移動した。
運転手は微笑んだのかどうかは亜弥には見えなかったが、彼は前を見たまま「いつも遅いね」と言った。

「塾か何かかい?」
「仕事です」
座った亜弥がそう言うと、フロントガラスに拍子抜けした顔が映る。

「おやおや、いまどき感心だ」
そう言うと、運転手は運転に集中した。
亜弥はMDのイヤホンをつける。再生すると轟音が耳をつんざく。慌ててボリュームを下げた。
へとへとだった。もうすぐ胃に穴が開くと思う。しかし病院はイヤ。声の出がおかしい。失敗、叱咤、罵倒。頭を抱えてしまう。今は早く帰って眠りたかった。
ミラーを見ると、運転手は口をぱくぱくさせて何か言っているが、亜弥にはこれ以上話す気力はなかった。
運転席の後ろは暖かい。亜弥はMDのボリュームを少し上げて目を閉じた。
2que:01/11/24 03:14 ID:kDcG2nsC
次の日、停留所に到着したバスのドアが開くと、昨日の顔が見えた。
微笑む運転手に定期を見せて亜弥は運転席の後ろに陣取る。
そしてすぐイヤホンを耳につけた。

依然として胃の痛みはとれていない。カバンから胃薬を取り出したものの、飲み物がない事に気付く。亜弥は苛立たしげに薬のふたを閉めてカバンの中に放り込んだ。ミラー越しに運転手を見ると、まだ微笑んでいる。
「なんですか?」
「ここのシワはゆるめたほうがいい」

運転手は眉間に指を当てて、そう言った。
亜弥も眉間に手を当てる。いつからシワがよっていたのだろう。なるべく顔には出したくないのに。自分の気持ちを他人になど悟られたくない。

「今日も仕事かい」
ハンドルを切りながら言う。
「そうです」
「大変そうだね」
「そうでもないです」
「でも辛そうだよ」
やっぱり悟られていた。

亜弥は身を乗り出す。
「なんの仕事か聞かないんですか」
「その年で仕事なんて昔は当たり前だった。珍しいことじゃない」
それを聞いて椅子にもたれた。
この人は私の事は知らない。
知らなくて当然だと思った。むしろほっとした。
3ねぇ、名乗って:01/11/24 04:03 ID:xK/6uAGk
小説か…
いいな。
4ねぇ、名乗って:01/11/24 04:33 ID:oHvj3GSi
おもろそう。期待age
5que:01/11/24 21:00 ID:gBzpMoae
亜弥はバスを追う。
10秒遅かった。いつもはもっと遅れてくるのに。走りながら思ったとき、バスは止まった。
昇降口を上りながら、笑顔を見る。亜弥は微笑んだ。
運転席の後ろに座り、胃をさすった。
「これから渋滞らしいんだけど、ちょっと早かったかな」
運転手は言う。
6que:01/11/24 21:01 ID:gBzpMoae
胃がしくしく痛み出し、胃薬を取り出そうとした時、運転手の手がのびてきた。
手のひらの上に120円。
「そこで買ってくるといい」
今日は飲み物を持ってきていたのだが。
「今ちょうど渋滞だし」
亜弥はペットボトルをカバンに引っ込めて、それを受け取る。
バスから降りて、来た道を少し戻り、自動販売機に硬貨を入れる。
その際亜弥は、財布から120円を出して、もう一本買った。
バスに向かって走り出すと、渋滞は解消し始めていたが、バスは扉を開けて待っててくれていた。
7que:01/11/24 21:41 ID:gBzpMoae
次の日は後ろの方に座った。
亜弥はMDを聞きながら運転手と話をしている男を眺めていた。

運転手と同じくらいの中年は、運転席に上半身を突っ込んだかたちで、何やら話し掛けている。
男の声はしだいに大きくなっていき、明らかに運転手をののしるような言葉まで聞こえた。
乗客達は時折そちらを見つつも、知らないふりを決め込んでいる。
亜弥は前の方の席に移動した。

「おまえさえ辞めちまえば、会社は安泰なんだよ。お荷物は縁側で茶でもすすってればいい」
そんな言葉が聞こえる。
ミラー越しに運転手を見ると、男が邪魔になってよく見えなかったが、運転に集中しているようだった。
「聞こえてんのか?目もそろそろ見えないんだろ?おまえの運転に付き合うのは乗客だ。迷惑なんだよ」
文句の理由など知らないが、亜弥の目にはただの嫌な人間にしか映らなかった。ひどい人だと思った。
「はやいとこ死ねよ!」
亜弥は男を睨んだ。
男がその視線に気付き、亜弥の方に振り向く。
寒気がしたが、亜弥は目をそらさなかった。

バスが止まり、ドアがガタンと開く。
男は運転手を睨む。
「降りろってのか。客に対してなんだその態度は」

運転手は無言だった。
男は亜弥を一度睨み、唾を運転手に吐いて、出ていった。
ドアが閉まり、発車するするバス。
亜弥がミラーを見ると、運転手は何事もなかったようにハンドルを握っていた。
いつもの笑顔を今夜は見られなかった。
8que:01/11/25 01:05 ID:8DYS05r+
次の日のバスは比較的空いていた。
「定年なの?」
亜弥の問いに運転手は笑った。
「まだそんな年じゃないよ。ただいろいろあってね、新旧交代というところかな。ところで、いつも何聴いているんだい?」
亜弥の首からさがったイヤホンを指して言う。
「聴きますか?」
亜弥はイヤホンを彼の耳につけてあげた。
「これは?今どきの歌謡曲というやつかい?」
「どう思いますか?」
「カラオケにしちゃ上手いじゃないか」
納得しながらうなずく彼をみて亜弥は苦笑した。
9que:01/11/25 01:36 ID:8DYS05r+
ベッドに入る前に亜弥は胃薬のふたを開けた。
どこからか、人の怒鳴る声が聞こえる。

どうして内面を隠して気丈に振る舞うのか。
自分はいつからそれを覚えたのだろう。
彼も同じだった。
思いきり人の前で吐き出してしまえば、相手は対処の仕方もわかるし、自分も少しは楽になるというもの。
なぜ、素直になれないんだろう。
なぜ、素直ではだめなの?
思わず手のひらで顔を覆った。

運転手が胃をさする亜弥に教えてくれたツボの場所を思い出した。
「胃は足の裏」

亜弥は胃薬のふたを閉めた。
ベッドに座ってひたすら足の裏を押したり揉んだりしてみる。
いい加減やりすぎで痛くなり、ベッドに入って電気を消した。
10ねぇ、名乗って:01/11/25 06:10 ID:f43CQe68
暗え・・
ドラマのあややとシンクロしますな
11ねぇ、名乗って:01/11/25 06:26 ID:r4XyybZ2
確かに暗いかな。
あまり関係ないけど自分でスレを立てる作者さんには好感が持てる。
12que:01/11/26 00:08 ID:bGHSQxfN
バスは、光の中をかき分けて進んだ。
見回すとバスの中には亜弥の他に乗客はいない。
「なにこれ」
前の運転席を覗き込んだが、運転手の姿すら見えなかった。
「いやだ!」
叫んでも声はかすれていた。
これじゃあ歌なんて無理ね。
光はバスの中まで入ってきて、亜弥を包み込んだ。


そこで目がさめた。
辺りを見回すとバスの中だった。
夢と同じ席。
いつから眠っていたのだろう。
後ろを見ると乗客は子連れの中年女性と、会社帰りの男。
運転席を覗き込むと、彼はハンドルを動かしていた。

いつまでも覗き込んでいると、運転手はおかしそうに笑った。
13que:01/11/26 05:15 ID:sjad7boz
今日の運転席の後席には先客がいたので、亜弥は昇降口前の席に座っていた。
先客の三十代くらいの女性は苛立った口調で話す。
「母さんは別れるなら早い方がいいって言ってる。それは父さんも何回も聞いたはずでしょう」
「ここで話す事じゃない」
運転手は運転しながら小さく言った。
「あたしは、父さんが出ていくべきだと思う。悪いのは父さんなんだから」

亜弥は女性を見つめた。そんな事にはお構い無しに女性の口撃は延々と続いた。
14que:01/11/26 05:16 ID:sjad7boz
「追い出されるの?」
女性が降りた後、亜弥は昇降口前に座ったまま聞いた。
「まだ居たのかい?」
驚いて振り向く運転手。
「おいおい、もう終点だぞ。君の家過ぎちゃったじゃないか」
「終点で降りる」
呟く亜弥を見て、運転手は呆れた顔を見せた。
15ねぇ、名乗って:01/11/26 07:40 ID:BS/tAkeM
適切な感想か分からないけど
なんだかほのぼのとしてきたね。
16名無し募集中。。。:01/11/26 08:19 ID:oCo0uDHY
海外の絵本みたいな不思議な雰囲気で(・∀・)イイ!
話がどうなっていくのか楽しみ
ガンガッテ!!
17que:01/11/26 22:04 ID:Q5ASq8ZA
バスは終点を越えて営業所まで来た。
倉庫のバスの中で待つ亜弥に運転手はコーヒーを持ってきてくれた。
「家に帰るの?」
「今夜は営業所にいるよ」
「いつもは?」
「ホテルかな」

笑ってコーヒーを飲む運転手。
「キミはいくつ」
「15」
「きっと幸せになれるよ」

亜弥は眉をひそめた。
「どうしてわかるんですか?」
「顔でかな」
「顔…?」
この性悪顔で?
「優しい子は幸せになる」


「そうそう、このバスは最後にはどこに行くと思う?」
「車庫。ここじゃないですか」
「違う、実はもっと違う世界に行く。それも私が運転しないと行けない」
「今からそこへ行くの?」
亜弥はそう言って吹き出した。

「違う世界って?」
「あの世というところだ」
「あの世…」
「あの世と言っても恐い世界じゃない。光に溢れていてその…優しい世界だ」
正直よくわからなかった。また眉をひそめる。
「そう言う話はもうちょっと下の子にするべきです」

熱いコーヒーを冷ます亜弥に運転手はいつもの笑顔を投げかけてくれた。
暖かい感覚に亜弥は快感を覚えた。
18que:01/11/26 22:44 ID:Q5ASq8ZA
次の日は亜弥は後部に座っていたが、昨夜の女が乗車してくるのをみつけると、
あわてて前に移動した。
が、ひと足遅く、女に席を奪われてしまった。
亜弥が昇降口席に座ると、前回と同じ女の話が始まる。

(離婚)(調停)(慰謝料)

運転手は依然として前を見ながら口を閉ざしていた。
10分くらい聞いたところで、亜弥には耐えられくなり、ブザーを押した。
そのまま席を立ち、昇降口を降りようとしたが、ドアが開いていなかった。
しばらく立って、開くのを待ったが、ドアは一向に開かない。
亜弥はドアを無言で叩いた。
それでも開かなかった。

振り返ると運転手は亜弥を見つめていた。救いの目のようにも思えたが、
亜弥はかまわず女にも一瞥をくれてやった。

ドアが開いて、亜弥は飛び出すようにしてバスを降りた。
19que:01/11/26 23:08 ID:Q5ASq8ZA
亜弥は帰ってからやみくもに自分の曲をMDにダビングした。無心に。
何やってるのかよくわからなくなって、ベッドに寝転がった。

あの世。
光の…。
頭の中で呟いてみる。

胃をさすったが、痛みは不思議となかった。
そしていつのまにか眠りに落ちていった。
20que:01/11/27 01:34 ID:7Se04lCU
今夜はいつもの席に座れた。
「胃はどうだい」
いつもの状況。安心して亜弥は頭を壁にもたれた。

「だいぶいいですよ」
さすっているところをミラー越しに見せる。
そして微笑み返す。いつまでもこんな日常が続けばいい。
そう思った。
「キミはキレイだ」

えっ?

驚いた。一瞬耳を疑って、もたれていた頭を上げた。
正直そんな言葉は聞き慣れていた。けど。

亜弥は、携帯MDをポケットから取り出した。こっそり録音していたのを再生する。
「キミはキレイだ」
もう一度聞く。
「キミはキレイだ」

キミハキレイダ…キミハキレイダ…キミハキレイダ…

亜弥は目を閉じた。
そしてバスのゆっくりとした揺れに身を任せた。
21que:01/11/27 01:36 ID:7Se04lCU
いつものように停留所でバスを待ってる間に、亜弥はカバンの中から紙袋を取り出した。
自分の曲を入れたMD、ウォークマン、今朝作ったサンドイッチ、コーヒー。

バスが見えて、紙袋を握りしめる。
到着したバスのドアが開き、急いで昇降口を上ったが、亜弥は足を止めた。
そこには、いつもと違う顔があった。
亜弥は笑みを止める。

「どうぞ」
30代程の運転手は言う。

亜弥は昇降口を降りた。
紙袋をさらに握りしめる亜弥の前を、バスは発進していった。
22que:01/11/27 01:39 ID:7Se04lCU
23ねぇ、名乗って:01/11/27 02:03 ID:I4pFwqhn
おもろい 暗いけど
24ねぇ、名乗って:01/11/27 05:23 ID:Jzv98aVL
隠れた名作だな
25que:01/11/27 07:47 ID:VPzQfk/8
とりあえず逃げたかった。

愛はリュック(しかも仕事用の)ひとつで家を出た。
明確な目的地などなかったが、ふらふらと交通手段を探してるうちに行き着いたのが港だった。船に乗ればいっきに遠くに行く事ができる。単純な考えだと思ったが、あちこち乗り継いで行く精神的余裕は無かった。

この船はどこに行くのだろう。
目の前の巨大な旅客船を見上げる。
26que:01/11/27 07:51 ID:VPzQfk/8
ターミナルに行き、乗船の料金表を眺めた。そして目を丸くした。

足りない−−。

一番安い料金でも金が足りない。値切るのにも程遠いし、そんな勇気は持ち合わせていない。
もうとっくに日は暮れていた。ここまで歩いてきて引き返すという事は、深夜の湾岸道路を長く歩く事になる。といってターミナルでひとりすごすのも気がひけた。明日になったところで船に乗れるわけじゃない。

愛はターミナルのベンチに腰を降ろした。急に睡魔が襲う。
乗船の列で旅行へ行くらしい家族連れの声が、なんとか睡魔を払ってくれる。
27名無し募集中。。。:01/11/27 08:31 ID:VSS3qEU6
>>22
微妙に似てる…
28ねぇ、名乗って:01/11/27 21:06 ID:9vfdRzV+
高橋になるのか?
29名無し募集中。。。:01/11/28 02:46 ID:mMnMNkJ2
>>28
この作者さんはあやあい?の先駆者だからな。
30que:01/11/28 04:08 ID:pdHHGEOa
ライトの当たる場所を避けて、船に近付く。
運のいい事に船の周りには人が見当たらなかった。
愛は船にかかった階段をかけ上った。
船と言っても客船ではなく、何かの運搬船のようだった。
かなり大きなこの船は、荷物やコンテナが多く積まれていて、しかも乗員が見当たらない。
乗船成功。
絶好の隠れ場所。
この際、行くところなんてどうだって良かった。待っていればいつか出航してくれるだろう。そんな事を考えながら少し笑ってしまった。
愛は、コンテナの間に身をひそめた。腰を降ろすと疲れた体が重く感じた。
31que:01/11/28 04:34 ID:pdHHGEOa
(向いてないよ)

その言葉がいつまでも頭から離れず、いろんな人の言葉と一緒にぐるぐる飛び交う。
寒くてひざを抱える腕に力を込めた。
諦めるつもりはなかったけど、今ここにいるのだって、ちょっとした休暇のつもりだったんだけど。

ーーもう遅いよね。
ーー数日騒いであとは忘れてくれれば、いい方かな。

帰ったところで、謝る気なんて全然なかった。
ーー逃げたでも、弱かったでもなんとでも言って下さい。

愛はすでに眠りはじめていた。
32名無し募集中。。。:01/11/28 07:35 ID:1xILj6Yt
たかはしーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
33ねぇ、名乗って:01/11/28 09:48 ID:pdHHGEOa
34ねぇ、名乗って:01/11/28 09:51 ID:pdHHGEOa
35名無し募集中。。。:01/11/28 15:17 ID:jORCTRNb
>>33
これ知らない人が見たら姉妹って言っても疑わないだろうね
>>34
久しぶりに見た(w
36名無し募集中。。。:01/11/29 03:31 ID:S/nkXP2S
保全
37que:01/11/29 03:31 ID:Qj7H73na
ガチガチという音に目がさめる。すぐに自分の歯が激しく震えているとわかった。
コンテナのすきま風にさらされて髪がなびいている。
コンテナの間から這い出て、デッキに出てみた。強風に髪が逆立つ。
寒い。身を縮めて周りを眺め、愛は気がついた。波の音と真っ黒な周辺。

港を出たんだ。
念願かなったり。

なのにちっとも笑えなかった。思わず陸を港を振り返ってしまったが、とっくに見えなくなっていた。
ただ今はそれどころじゃなかった。
凍え死ぬ!
愛は急いで、コンテナのすきまに戻ったが、一度潮風にさらされたおかげで、すっかり体温が下がってしまったようだ。
震えは止まらない。
とにかく体を丸めて夜が開けるのを待つだけだった。
38que:01/11/29 03:49 ID:Qj7H73na
海に出てどれくらい経っただろうか。
愛は気を失いかけていた。
歯の音はひどくなる一方だった。

死んだらどこへ行くのだろう。
天国…地獄?
そんなものは存在しなくて、たぶん、自分の思い通りの世界に行くのだと、小さい時から思っていた。夢の世界が広がる。ディズニーランド?お花畑?少なくともひとりは避けたい。誰かと一緒。寂しいのはイヤだ。また寝る?オヤスミナサイ。
39que:01/11/29 04:12 ID:Qj7H73na
目の前がぱっと明るくなった。
なにやらわけのわけらない言葉が聞こえる。
怒鳴ってる…。
光が眩しくて見にくかったが、目をこらすとどうやら乗員がライトを自分の顔に当てているのだとわかった。
とうとう見つかってしまった。

腕をつかまれた愛は観念して、というかその力もなく、引きずり出された。
コンテナの外はまだ夜だった。相変わらず強風が吹いていて、さっきと何も変わっていないのがわかった。

放り出されるのかもしれない。

「フーアーユー」

フーアーユー。誰だ。誰だおまえは。
それくらいはわかったが、目の前の巨体の白人に対して愛は何も言えなかった。
歯はまだ音をたて続けていた。
40que:01/11/29 05:59 ID:Qj7H73na
「ワイデアチャイルドヒア?」
こんな子供にまさか手は出さないだろう。
そう思ったが、彼の腕をつかむ力は恐怖と不信感を倍増させて、愛は思わず手を振払って逃げた。
が、すぐ捕まった。
「ヤダアアアアアア!」
あわてた白人に口を押さえられ、当然抵抗できるわけもない力で、愛は引きずられていった。
41que:01/11/29 06:23 ID:Qj7H73na
42名無し募集中。。。:01/11/29 06:37 ID:9uSaGbPW
愛たんハァハァ・・・
43que:01/11/29 08:22 ID:Qj7H73na
44ねぇ、名乗って:01/11/29 21:07 ID:5FlNvTzf
ageとけ
45ねぇ、名乗って:01/11/30 01:34 ID:ev8tKCOT
あやや。最近に気になる娘だ。
46que:01/11/30 07:02 ID:ymP0SZwc
物置き部屋の荷物の上に座らされて、自分の腕を握ってる大きな手を払った。
「オウ」と言って白人はドアの外をうかがう。

「アユオーライ?」
ドアを閉めて言う巨人に愛はうなずいた。
震える愛の鼻先に手が差し出されて、思わず引いてしまう。
手にはカイロが乗っていた。
愛はそれを受け取り、胸に押し付けた。
暖かった。氷のように冷えた手にはむしろやけどしそうな熱さだった。

巨人はマフラー、防寒服、毛布を何重にも巻いてくれる。
団子虫のぬいぐるみと化した愛を前に、巨人は立ったり座ったりと落ち着かなかった。
愛はそれを目で追った。
寒さと恐怖で固まった筋肉が和らいでいくのがわかった。
47que:01/11/30 08:06 ID:ymP0SZwc
巨人は食べ物を持ってきてくれた。パンや食べた事のない缶詰め等、それでも愛は構わずに食べた。
コーヒーは苦かった。

その後は質問の連続だった。
当然、愛には彼が何を言ってるのか半分もわからなかった。

巨人の身ぶり手ぶりを交えた質問に、愛は首を振るか、うなずく事しか出来かったが、
それでも彼の一生懸命な様子が伝わってきて、それがちょっと可笑しかったが、
自分も必死に耳を傾けた。

フェリーに乗れなかった事。
ひとりである事。
家を出た事。これには彼も「ノー」と首を振った。
この船はアメリカに向かっている事。

「アメリカ?」
このときの愛の驚きは、彼にも充分伝わった。
いくら遠くと言っても、そこまでは考えてなかった。
みるみる青ざめる自分の顔を、彼は心配そうに見つめていた。
48que:01/12/01 08:34 ID:UfKFLbav
指で「10と…5」と年齢を教える愛に対して彼は
「マイ娘も、フィフティン」と言って笑った。
愛もようやく緊張の解けた顔で笑い返す事が出来た。

そのときドアがノックされて、巨人は飛び上がった。
なにやら呼びかける英語が聞こえ、ドアが開けられる。
愛は巨人にひょいとかつがれて、開いたドアの後ろに隠された。
乗員は巨人を怒鳴りつけ、彼はひたすら謝っているのがわかった。
乗員は部屋に入ってきて、食べ物や毛布を見つけると、さらに激しく声を上げる。
その際も彼は巨体で愛をかくまい続けてくれた。
49que:01/12/02 05:46 ID:CJ9hJwBp
急に気持ち悪くなって口を押さえてしまった。
再びかつがれて、デッキに連れ出されて、背中をさすってもらった。

ぜいぜいと上下する背中をなおもさすりながら、巨人は言う。
たどたどしい日本語で、教えてくれた事は、この船は直接アメリカに行くわけではなく、仙台に一度立ち寄るから、君はそこで降りるといいという事だった。

「所詮ムリな話デスネ」
「降りないですよ」
「ホワット?」
「連れてってくれないの?」

「ムリ」
「降ろさないで」
「ムリ」
「なんでもするから」
たぐりよせた細い糸がぷっつり切られるような気がした。

愛の訴えを聞く彼の顔はいたって真面目だった。
「ムスメ家出たら、親チョーさみしい。だまって出たならナオサラのコト。私ならソウ」

愛は言葉が出なくなった。ただ、うつむくだけだった。
口の中が気持ち悪い。
愛は震える足で船の揺れに耐え続けた。
彼もまた、呆れる事もなくそれに付き合ってくれた。
50ねぇ、名乗って:01/12/02 05:51 ID:LaN+xuuy
「チョーさみしい」なんて日本語はどこで覚えたんだ(w
51que:01/12/02 05:51 ID:CJ9hJwBp
愛は物置き部屋で、巨人が毛布で作ってくれた簡易ベッドに横になったいた。
低い鉄板の天井を眺めていると、自分が何をしているのかわかってきて、だんだん恥ずかしくなってきた。

どう言い訳するかとか、どんな顔で帰ればいいのかとか、考えたくない事が頭に入ってきて、必死でそれらをかき消す。
迷惑をかけている自分がいい加減、嫌になっていた。

巨人は仕事の合間を抜けて来て、毛布をもう一枚持ってきてくれた。
それを愛にかけ、横に座る。
そして「ソレは?」と愛の耳のイヤホンを示した。

愛がはずしてそれを渡すと、彼は再生中のディスコ(チック)サウンドを聞いて、驚いていた。

「朝になったら仙台ダヨ。それまで眠るといい」
愛は静かにうなずいた。なぜか目頭が熱くなった。

「大丈夫。帰ったらきっとイイ事待ってるのです。辛くないヨ」
溢れた涙が押さえきれず、愛は毛布に顔を隠した。
巨人は震える髪を眠りにつくまで、撫でてくれた。
52名無し募集中。。。:01/12/02 05:56 ID:9g/WaGUW
巨人萌え〜
53que:01/12/02 06:04 ID:CJ9hJwBp
再生中の曲「ニポンの未来は明るい」

あと誤字多いかな…
http://www.geocities.co.jp/MotorCity-Rally/9195/slp.jpg
54que:01/12/03 03:11 ID:3QnpVrM1
朝まで眠り続けてしまった。
物置き部屋には窓がないので、巨人に起こされるまで愛は夜が明けた事を知らなかった。

乗員達が作業をする中、みつからないよう巨人に誘導されて、船を降りた。
その際、乗員に名前を呼ばれてあわてて逃げ、コンテナのかげに隠れる。
「冗談じゃないヨ、まったくゥ」
「ごめんなさい」
愛の情けない顔に巨人は「オウノウ」と顔を振り、ポケットからエアメールの便せんを取り出した。
愛はそれを渡されて中を見る。お札が数枚入っていた。
「しっかりと電車乗って帰ルのですよ」

愛は便せんを握ったまま、顔を上げられなかった。
巨人はまた首を振り「ずっとそういう顔しかみれなかったのデス。シゴク残念」
と言って笑った。
「ホラ、行くのデスヨ。わたし、後ろ向いてるから行っちまうといい」
と、巨人は愛に背を向けた。
愛は、その背中に思いきりしがみついた。手が腹まで伸ばせないほど大きかった。数秒の間、時が止まる。
言おうと思ってた言葉は最後まで咽から出なかった。
やがて愛は、走って港をあとにした。
55kinnkann:01/12/03 18:23 ID:OsX3a0Ls
?
56田口ななし:01/12/03 23:06 ID:8HjsPnRh
すごくいいよ!
57ほえほえ:01/12/04 02:12 ID:ok8Pnnb4
58hoehoe:01/12/04 02:13 ID:ok8Pnnb4
59ねぇ、名乗って:01/12/04 06:24 ID:xDrNpiaA
もう松浦は出てこないのかなぁ・・・?
60名無し募集中。。。:01/12/04 07:06 ID:Pix0k+5Y
シゴク残念萌え
61que:01/12/04 10:20 ID:ok8Pnnb4
図書館で、亜弥はパソコンに向かっていた。
昼から読みはじめてすでに飽きてしまった小説は、横に広げたまま置かれている。
一方、お供でついてきた愛は、横に山積みにした絵本を読みあさっていたが、さすがに飽きたらしく、パソコンを覗き込む。

「なに調べてるの?」
画面にはなにやら難解な文字とカタカナが並んでいる。

ダルメート
ソメリン
ユーロジン
エリミン
バルビタール系
ヴェロナール及びジャール

「なにこれ」
「睡眠薬の種類」
くすくす笑って答える亜弥に、愛は顔をしかめた。
「そんなの興味あるわけ?」
「少しね」
「やだあ、恐怖だわあ」
「ちょっと見てみただけだよ」

ただ、検索欄に入っている文字が「睡眠薬 致死量」なのは、興味がある程度じゃないなと愛は思った。
62que:01/12/04 10:21 ID:ok8Pnnb4
愛はレジでパンの乗ったトレイを受け取る際、バラバラと小銭を落としてしまった。
パンを選んでいた亜弥が駆け寄ってくる。

「鈍臭いよ愛ちゃん」
「ごめん」

二人は昼食時の人込みの中、カフェの床に這いつくばっていた。
63que:01/12/04 10:24 ID:ok8Pnnb4
カフェの窓際で昼食をとりながら、愛は図書館から借りてきた雑誌のページをめくっている。
亜弥はぼんやりおもてを眺めていた。
人の行き交う中、浮浪者風の老人が不安な足つきで行ったり来たりしている。

「亜弥ちゃん、占い信じる?」
愛の声に振り向く。

「占い?…見るけど」
「信じる?」
「う〜ん、信じない事もないけど…やなこと書いてたら信じない」
「そりゃ都合いいというものだよ。でも今年の亜弥ちゃんはいいよー。ラッキーイヤーだって。なにがラッキーなんだろ」
「ふうん、じゃあ信じるよ」
ケタケタ笑う愛。

「愛ちゃんは?」
「ウチは、あんまりよくないな…」
亜弥は雑誌を覗き込もうとして、おもての光景がふと気になった。
「あ」
亜弥の声に愛が顔を上げる。
「どうしたの?」
64que:01/12/04 10:46 ID:YDAKC8Ue
うえ!矛盾があるな。
昼から小説読んでてなんで昼食食ってんだ
と自ら突っ込んでおこう。まあいいや
65名無し募集中。。。:01/12/04 12:46 ID:TVDBrGu3
自分でつっこむなよ(笑)> que

面白いから細かいところ気にせず気楽に書いて。
66悪魔:01/12/05 00:40 ID:AtFtu1l5
QUE
さん、復活してくれて嬉しい!!!
おもしろいです。でも、私は,最初のバスの運転手とのやりとりが楽しいです。

これからも応援してきます!
67ねぇ、名乗って:01/12/05 05:07 ID:7fkGga+k


68que:01/12/05 11:30 ID:ddZtcxvm
浮浪者が通行人の肩にぶつかって倒れたと思うと、そのまま微動だにしなかった。
「あ、死んだ」
愛がぽかんと口を開けた。

亜弥が立ち上がると、愛は不安そうな顔を見せる。
「やめなよ」
かまわず亜弥はカフェを出る。愛もしぶしぶ後を追った。
69que:01/12/05 11:32 ID:ddZtcxvm
人込みの中でうつぶせに寝ている男にそっと近寄って顔をうかがおうとすると、その頭がキッとこちらを向いて、二人揃って「ひっ」と後ずさってしまった。よくみると額から血。

「亜弥ちゃん」
愛の制止をきかず、亜弥はハンカチを差し出した。
男は何も言わずにそれを受け取って、何かブツブツ呟きながらそれを額に当てた。
70que:01/12/05 11:32 ID:ddZtcxvm
立ち去ろうとする二人に男は「ああ」と呼び止めた。
「みてあげる」
二人は顔を見合わせる。
「何をですか?」
「みらい」

また占い?
「いいです」
亜弥は彼の持ってる酒の小瓶をちらりと見て言ったが、そのそっけない言葉に、愛は不満そうな顔を見せた。
「え〜、見てもらいたいなあ。タダだよタダ。お願いします!」
そう言って男の前に立ちはだかる。
男は愛の額に手をかざして納得したように頷く。

期待して待つ愛に男は「みえず」と言った。
亜弥の番になると「ますますみえず」と言った。

それを聞いた愛は頬をふくらまし、あからさまに不機嫌を顔に出す。
「行こう、亜弥ちゃん」
手を引っぱれながら振り返ると、男はまだ何か言いたげな目でじっとこちらを見つめていた。
71ねぇ、名乗って:01/12/06 03:40 ID:jG170yR2

 や
  や
72que:01/12/08 03:22 ID:fIZaJwY/
73que:01/12/08 03:54 ID:fIZaJwY/
夜、自宅で亜弥がよくわからない数式に悩んでいると携帯が鳴った。
画面を見て、亜弥は玄関へ行きドアを開けた。が誰もいなかった。
ドアの裏側をちらと確認すると、目を腫れ上がらせた愛が立っていて、ぎくっとした。
愛は何も言わずに上がって亜弥の部屋に向かう。いつもの事であり、静かに上がり込むところはよくわきまえていた。
愛はそのままベッドに腰を降ろした。
「なんか飲む?」
亜弥の言葉に「おかまいなく」という風に愛は首を振った。
亜弥は腫れ上がった目の事には触れなかった。
74que:01/12/08 03:54 ID:fIZaJwY/
深夜になって、何度参考書を睨んだところで解けない数式に、亜弥は嫌気がさした。布団を敷いて寝ようと思ったが、面倒になって愛の寝ているベッドにもぐりこむと、布団にうずくまっていた愛が顔を出したので電気を消そうとした手を止めた。
「起こしちゃった?」
「いや…寝ちゃってごめん。寝るの?」
「寝るよ…明日早いし」
「ごめんね」
といいつつすぐ笑顔になって、愛は自分の隣をポンポンと叩いた。
75que:01/12/08 03:55 ID:fIZaJwY/
ベッドに入って枕元の照明を頼りにスケジュール帳を見てると、愛が横から覗き込んできて「あ、ここ空いてる」と、何も書かれていない欄を指さして言う。「ねえ、この日付き合って」
「なにかあるの?」
亜弥は手帳を閉めて愛の指を挟んで言った。
「う〜ん、ひとりじゃやだなあと思って。いい?」
「だから、どこ行くのよ」
そう聞くと、急に愛の表情が沈む。
「親戚んとこ」
「親戚って、今のところも親戚の家じゃないの。それとはまた別の?」
「……」
「やっぱり、また出てきちゃったんでしょう」
「ちゃうよ、ウチは心入れ替えてなんとかうまくやろうと努力したもん。今回の家では、ソウホウゴウイの上よ」
亜弥は何度か下宿先でのトラブルで愛が悩んでいるのを聞いていたので、特に驚かなかったし、深く聞こうともしなかった。
「ねえ、いい?」
「いいよ」
「わあい、やったね」
そう言って再び布団にもぐり込む。
愛は照明を消して、ため息をついた。
76あほかと:01/12/08 04:16 ID:fIZaJwY/
訂正
今回の家では→家出は
愛は照明を消して→亜弥は
77ねぇ、名乗って:01/12/08 05:05 ID:nw/JX7w8
あ や や
78ねぇ、名乗って:01/12/08 15:46 ID:+ItvKaDd
下がり過ぎジャ
79que:01/12/09 16:16 ID:RUPwWWRV
地下鉄のホームでそれぞれMDを聞きながら、二人はベンチに座って地下鉄が来るのを待っていた。
亜弥は目深にかぶったニット帽の下から、行き交う人達を覗き見た。
混み合う時間帯らしく、顔という顔を眺めるのに、亜弥の目は忙しく動く。
携帯をいじる学生。騒ぐカップル。今にもホームから転落しそうな会社員。成金女。
亜弥にはどの人間も視点がさまよっていて、みな自分の事だけを考えてるように見えた。
人の波に埋もれながらも周りは全く見えていない、そんな自己中心の顔…。
80que:01/12/09 16:18 ID:RUPwWWRV
愛は、自分の編集したMDに飽き飽きしてるところだった。
いつも亜弥のMDの方が選曲が良く、それがいつも悔しかったのだが、
「亜弥ちゃん、MD取り替えて」
と自分のMDを出す。
「ああ」と言って亜弥はMD機からMDを取り出した。
愛がその選曲の良いMDをもらって再生したとたん、亜弥がイヤホンを耳からひっこ抜く。
「痛い…何?」
「ねえ、帽子取ってみようか」
「いや。うるさいから」
そう言って愛はイヤホンを耳につけるが、再び抜かれた。
「取るの」
「いやだってば」
亜弥は愛の帽子をひったくって投げ捨てると、愛はあわててそれを取りに行く。そして
、自分もニット帽を脱いでホームの人間達を観察した。
思った通り、誰も自分達には気付かない様子で、視線は相変わらず宙を舞い続ける。あの目も、この目も。
今日のテレビは?現在の残高は?仕事のミスは?今日の女は?おそらくそんなところ。
こちらをちらと見たカップルも「ねえアレ…」と言うだけでただ通り過ぎて行くだけだった。
81名無し募集中。。。:01/12/11 00:47 ID:tFzYVovR
hozen
82que:01/12/11 03:47 ID:5dqIAGZ6
愛によると、親戚同士で話はついてるらしく、これからはそこに世話になるという事で、それをうれしそうに話す。
「あそこのおばさんは優しいの」

案外質素なその家は、郊外にあった。中に入るのを遠慮する亜弥の手を引っ張る愛。
「わたしはいいよ」
「付き合ってくれるって言ったじゃん」
「いい人なんでしょ。ほら行ってきなさいよ」
亜弥は愛の背中を押した。
83que:01/12/11 03:47 ID:5dqIAGZ6
「大きくなったのねえ」
居間のソファで遠慮がちに座る愛に、叔母はお茶とお菓子を大急ぎで持ってくる。
「辛かったでしょう。お仕事も大変なのに」
心配そうな顔の叔母に、愛は首を振った。
「でも、恨まないでやってね。あそこの家も大変なの。でも叔母さんは愛ちゃんが来てくれる事、大歓迎よ。こんな狭い家だけど、どうぞよろしくね」
頭を下げられて、あわてて頭を下げると、そこに小さな女の子が入ってきた。
「ママ」
3、4才くらいだろうか。それまで、はにかんでいた愛は微笑をやめた。
「愛ちゃん、これうちの子。ほら挨拶しなさいな」
母親の元に駆け寄ってきた女の子は愛に気付くと、あわてて引き返していった。
「ごめんなさいね。まだ他人が怖いらしいの。でも愛ちゃんにならすぐ慣れるわ。仲良くしてあげてね」
愛は、女の子の去った後を見つめたまま止まっていた。
叔母は「そうそう、わたしが見た愛ちゃんは丁度あれぐらいだったわね」と微笑んだ。
84que:01/12/11 03:52 ID:5dqIAGZ6
家から出てきた愛は、近くのベンチに座っている亜弥の元へと向かった。それに気付いた亜弥は駆け寄ってくる。
「挨拶してきたの?明日からあそこに住むんでしょう」

家の玄関で、叔母が女の子の手を振らせているのが見える。
「ううん、行かない」
「え?」
愛は手を振り返す。
「もう、これ以上やっかいものになるのはイヤ。ウチ、お荷物じゃないもん」
小さな声でも意志のある口調。
じゃれて遊ぶ女の子をみつめる愛に、亜弥はかける言葉を探した。
けれども、それは出てこなかった。
85ねぇ、名乗って:01/12/12 05:16 ID:MQawCQ8C
Mの黙示録
86que:01/12/12 13:43 ID:u0FNTil1
「松浦さん」
はいと答えて、診察室に入る。何度来ても薬品の匂いに慣れる事が出来ない。
医師は椅子に座る亜弥には振り向かず、カルテを見続けていた。
「ええと結果なんですが、ちょっとした甲状腺の腫れ物のようです」
「はい…」
「ようするに液が固まってしまったんですね。それで…職業上、大変だとは
思うんですが、あまり声を出さないよう注意してもらえますか」
「声を…、 あの。それはつまり、悪性という事ですか」
「いやいや、それはないです。安心して下さい。邪魔なようであれば
すぐにでも手術は可能ですけど、まあしばらくの間、声を抑えてもらう
だけですから」
「そうですか…」
気のない返事。普通ならここで、よかった、なんて安心した表情でも
見せるのだろうけど、どうにもそんな余裕はなかった。
医師の顔も不安を感じさせない(ように気をつかってる?)表情だったのだけど。
87que:01/12/12 13:43 ID:u0FNTil1
事務所の反応は、亜弥が思っていたよりも冷静で、
「しばらく休もうか。何、そういう会見は出さないよ。マスコミが嗅ぎ付けても
学業が忙しいとか、いろいろ対応策はあるから」
正直、ちっとも嬉しくなかった。
あれだけ忙しい事に嫌気がさしていたはずなのに。
まあ、いいです。そう、少し休もう。休みます、休むのだ。働き過ぎ。
88que:01/12/12 13:43 ID:u0FNTil1
帰り道で、亜弥はあの男を見つけた。浮浪者風の占い師。
彼は夜の寒空に、また地面に寝そべっていた。
亜弥は近寄って行って、顔を覗き込む。またキッと振り向くと思いきや、
一向にこちらを見てくれない。
「あの…」
回り込んで顔を見た。
まるで生気の無い顔。「大丈夫ですか?」
体を揺すろうとして、ひどく固くなっている事にぎょっとした。
手に触れると、氷のような冷たさ。
89que:01/12/12 13:44 ID:u0FNTil1
腰が抜けそうな虚脱感になんとか耐えて、亜弥は救急車を呼んだ。
その到着を物陰から確認する。そこにいたくはなかった。
男が運ばれていくのを、消えて行くまで見送った。
悲しさとか怒りとか、そういう感情はなぜか湧いてこなくて、
それがなぜなのかはよくわからかったけど。ただみつめていた。
彼は光の世界に行けたかな…?ふとそんな事を思う。
その後は部屋に帰って、ひたすらうがいをした。
90ねぇ、名乗って:01/12/12 15:11 ID:Bbv5n/TJ
暗っ(w
91名無し募集中。。。:01/12/12 16:52 ID:Zu4E/nVJ
(・∀・)イイ
92ねぇ、名乗って:01/12/13 07:16 ID:qiR8BNqj
「最後の家族」が最終回だね
93que:01/12/13 13:42 ID:cGkxMINc
愛が遅い夕食をとっていると、ポケットの携帯が鳴った。
あわてて、音を消す。居間にいる伯父に依然しかられた事があったから。
しかし、伯父は気にも止めなかった。
すでに伯母と口論を始めていて、忙しそうだった。
愛はそっと夕食を片付け、部屋に戻った。
携帯を取り出して画面を確認すると、メールが入っていて笑顔になる。
メールを読みながら、すぐ送信者に電話をかけようとしたが、本文を最後まで読
んだところでその手を止めてしまった。
居間の方からはまだ怒声が聞こえていた。
94que:01/12/13 13:42 ID:cGkxMINc
市民プールはなぜか閑散としていて、いくらはしゃいでもとがめられる様子はな
かった。だだっ広い空間で潜水して、競泳して、落とし合い。笑い過ぎでお腹が
よじれる。

亜弥が25メートル泳ぎきって顔をあげると、愛の顔が目の前にあって驚いた。
「わ」
「今、どうですか?」
「え?」
「『休めてせいせい』『みんな嫌い』『愛が好き』」
亜弥は急によどんだ顔になる。
「うん……」
「そんな。ごめん、冗談よ」
あわてて愛は亜弥の顔色を伺った。
「愛ちゃん。わたし……」
「ごめんね」
「3番で」
亜弥はにと笑顔を見せた。愛もすぐ笑い返して手を差し伸べる。つかまって上が
ろうとする手をぱっと放すと、亜弥は水の中に消えた。「鈍臭いよ亜弥ちゃん」
95que:01/12/13 13:43 ID:cGkxMINc
図書館で愛は、あと少しで読み終わる本を読んでいた。あと数ページだった。こ
れを読破するまでは死ねない―!
そんな勢いで活字を追い、目が血走る。

亜弥は二時間前からパソコンの画面を睨んでは、眉間にシワを寄せていた。
アンダーグラウンドなサイトを次々廻ってみたものの、求めている情報は見つけ
るのは難しくて、
「だめだコリャ」
ひとり呟いて、椅子にもたれた。
96que:01/12/13 13:44 ID:cGkxMINc
白い壁や清楚な置き物に目を奪われる。
二人は都心、ビル郡の中にある心理カウンセリングセンターを訪ねた。
入口を入るなり女性所員に応対され、少し後ずさってしまう。
「どんな御用件でしょうか?」
亜弥は、手慣れた様子で応じる所員を前に、用意していた質問が出てこなかった。
にこやかに案内される。
「どうぞ、こちらへ」
そう言われても、なぜか気が進まなかった。愛が背中を押してくるのを踏ん張る。
所員は笑顔のまま、待っている。「どうぞ」
「あの……」
「……?」
愛は、今度は亜弥の服を引っ張る。
「なんでしょう?」
「死にたい場合って、ここでよかったんですか?」
97que:01/12/13 13:44 ID:cGkxMINc
数秒、白けた間を感じる。所員の笑顔は一瞬崩れたが、すぐ元に戻り「少々お待
ちください」と言って奥に引き下がった。
それを見て、愛が吹き出した。それにつられて亜弥も笑う。動揺した表情が可笑
しくて。
そのまま二人は逃げるようにセンターを後にした。
98名無し募集中。。。:01/12/14 02:56 ID:h9amitLb
破滅と隣り合わせな感じの雰囲気が(・∀・)イイ!
99que:01/12/14 20:18 ID:07C5mW0A
夜の病院に忍び込むのは、案外簡単だった。亜弥と愛は、堂々と入口から侵入し
た。
「亜弥ちゃん」
亜弥が振り返ると、愛は必要もないのに床を這っている。
「超怖いんですけど」
「しいっ」
しがみついて怯える愛の口を手でふさぐ。
受付の看護婦は机に突っ伏してご就寝中だった。そこを突破して、二人は診療室
に向かった。

亜弥は一度、不眠症について医師と話し、睡眠薬の処方を受けた事があった。
そのとき看護婦が、すぐ近くの棚から睡眠薬を取り出すのを見て亜弥は、意外と
簡単に置いてあるものだな、と思った。
100que:01/12/14 20:18 ID:07C5mW0A
診療室のドアを開けて、亜弥は中を伺う。確かあそこに。
そっと忍び込んで棚を開けた。開いていてほっとする。
「ライトライト」
愛に懐中電灯を当ててもらい、薬品名を確認した。
「どれ?」
「わかんない」
あれだこれだと迷ってるうちに廊下から足音が聞こえてきて、あわてて身を隠
す。
机の下から愛が顔を出し、「亜弥ちゃん、これ」ゴミ袋をみつけて広げた。
足音が消えるのを待って、二人は薬の瓶や包装をやみくもにゴミ袋に放り込ん
だ。
101que:01/12/14 20:19 ID:07C5mW0A
愛がドアの隙間から足音の方向を伺う。
「どう?」
廊下の奥で、夜勤の看護婦か警備の人間かはわからないが、懐中電灯の光が動い
ているのが見える。
「気付いてないみたい。大丈夫そうよ」
二人はそっと部屋を出て、ゴミ袋を背負って入口へと逃げた。
102ねぇ、名乗って:01/12/16 09:27 ID:8cIsRim0
HOZEMU
103que:01/12/17 00:56 ID:QhjAa0r/
冬の海岸は少々風が強く、マフラーの端が高く舞い上がる。
愛はデジカムのスイッチを眺めていた。
「どれがどれだかわからん」
砂に足を取られながら亜弥が駆け寄ってくる。
「撮れた?」
「ううん」
「この赤いのを押すんだよ」
「これか」
ファインダーを覗くとRECの表示。カメラを持ち上げると画面に海が映った。
「わあー、きれい」
こっちこっちと呼ぶ亜弥の方にカメラを向けると、波打ち際を駆けている。
もう一度海に向けてみた。直射日光の反射が愛の目を細くさせる。
「うおー」
空は夕暮れ間近、少し染まり始めていて、愛はそこからしばらくカメラを動かせ
なかった。

あ、と気が付いてと亜弥の方にカメラを向けると、どうやら波に打たれたらし
く、下半身を濡らして右往左往していた。愛はそれを撮りながら、笑いでカメラ
がブレるのを必死で抑えた。
104que:01/12/17 00:57 ID:QhjAa0r/
深夜になって急激に冷え込み、とうとう雪が降った。
愛は亜弥の部屋の鏡台の前で、その震えに耐えながら借りてきた本を読んでい
た。
「ほら」亜弥が電気ストーブを愛の足下に近付けてくれる。
乾かした髪の毛をすいてくれる亜弥の手は優しく、弱いクシの引っ掛かりが心地
良い。

「全然いいコじゃないよね」最後のページをめくりながら言った。
「誰が?」
「ウチ。いいコでいられなかった。そんな気がする」
愛は最後のページをさらっと読んで、本を閉じた。
「そんな事はないと思うけど」止まったクシが再び動き出す。「――良くはない
よね」
呟く亜弥の顔を鏡越しに見て、愛はあははと笑った。
105ねぇ、名乗って:01/12/17 10:50 ID:qtE2QPm+
 
106ねぇ、名乗って:01/12/17 19:47 ID:881wy/M6
あやあいはココが良いですね
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107que:01/12/18 04:22 ID:G0lgw4wW
亜弥は地下鉄構内のベンチに腰を降ろしながら顔を上げた。ホームの人間は極まばらで、それが不安感をあおる。

その横で愛はリュックの中の、かさばったものを押し込むのに苦戦していた。
「それ、出しときなよ」
亜弥が忠告すると
「う〜ん邪魔」
と、リュックから飛び出している棒を引っ張り出し、それを掲げる。
(どなたかが止めなければ わたしたちは死にます)
太字でそう書かれたプラカード。

「派手だね」
赤やピンクの文字を見て亜弥は言った。
「見た瞬間、引くと思うな」
愛もプラカードを見つめた。
108que:01/12/18 04:24 ID:G0lgw4wW
車両がホームに到着して二人が乗り込むと、思いのほか混んでいた。少ないより
は多いほういいけど。それでも亜弥の胸はきゅっと痛む。
次の駅まで待つと席が空いて、すかさず二人はシートの端に陣取った。
愛はホームで出しておいたプラカードをなぜかリュックにしまっており、取り出
すのにまた四苦八苦していた。亜弥が手伝って、そのそんなに大きくない紙の看
板を取り出すと、愛は迷いなくそれをシートの後ろに突き刺す。すると否応なく
こちらを向いている乗客に、それが目に入る案配となった。
プラカードを見てぎょっとなる御婦人方。それを見て愛は少し得意げな顔を見せ
たが「愛ちゃん」
亜弥に、前に投げ出した足を注意された。
109que:01/12/18 04:26 ID:G0lgw4wW
看板の文字を凝視する、頭の薄い中年。
愛はその目を見つめた。眼鏡をずり下げて看板の文字を読む彼の目は、明らかに
いかがわしいもの見る目で、読み終わると不快感をあらわに今度は自分に睨みを
投げてくる。やがて読みかけの新聞に読みに入ってしまった。

ドア付近に立っている青年は愛と目が合うと同時に、持っていた携帯に素早く目
を移す。
愛が視線をはずすと、彼はちらちらと看板と自分の顔を交互に見つめる。それが
視界の端でも把握できた。
特にどうという感情も湧いてこなかった。こういう状況がいたって普通という事
は愛なりに理解しているつもりだった。
110ねぇ、名乗って:01/12/19 05:06 ID:AhKq06B1
「いきなり圧縮逝き」を防ぐため保全
111que:01/12/19 14:01 ID:Nr6yjWvb
亜弥の視線は乗客の足元に向けられていた。
乗客の視線の先には自分がいる。顔を上げてその目を、心を読んでしまうのが嫌
だった。
誰かが話しかけてくるまで。それまでは、目は伏せておく事にした。
「亜弥ちゃん」
「はい?」愛の声に顔を上げる。
「飲み物がない」
亜弥は「ああ」と顔をしかめた。「そうか」
112que:01/12/19 14:02 ID:Nr6yjWvb
二人は次の駅で下車した。
「何がいい?」
「愛ちゃんの好きなので」
「うわあ、買いにくいな。亜弥ちゃんの好きなの言ってよ」
「牛乳で」
「牛乳でいいの?」

亜弥をベンチで待たせて、愛は売店に向かった。

売店には自分の100%オレンジはあったものの牛乳は無かった。愛は青ざめて探し
たが、どうやら品切れのようだった。

ベンチに戻った愛が袋から出したのはコーヒー牛乳。
「いいよこれで」亜弥は受け取って笑った。

再び車両に乗り、先程同様プラカードを立てる。
113que:01/12/19 14:03 ID:Nr6yjWvb
さほど進まないうちに車両が急停止した。がくんと大きく揺れて車内がざわめ
く。その拍子にプラカードが乗客の足元に滑り落ちた。それはちょうど乗客の目
に止まる具合。
やがて車両はのろのろと動き出す。
亜弥は顔を上げた。床に集まるはずの視線を確認する為に。けれども、そんなに
都合良くはいかなかった。落ちた瞬間だけ目をくれる人。興味も示さず雑誌を読
み続ける人。寝てる人。
愛が腰を重たげに上げてそれを拾い、ゴミを払ってからシートの後ろに立てた。
114que:01/12/19 14:03 ID:Nr6yjWvb
ドアが開いては人が吐き出され、入ってくる。
その数も徐々に少なくなりはじめた頃、旅行の帰りらしい家族連れがぞろぞろと
乗り込んできた。疲労の表情だった父親は、すぐにプラカードに気付いた。何が
書かれてあるかが気になるのか、二人の前にやってきて目をこらす。二人はまじ
まじとその顔をみつめた。
文字を読んで眉をひそめた彼がなにか言いかけたとき、ドアの方で騒ぐ子供に手
をやいた母親が父親を呼んだ。
「なんとかして!」その叫びに父親はあわてて戻って行った。
115que:01/12/19 14:04 ID:Nr6yjWvb
じゃらじゃらと錠剤を手に注いで、思わず揃って背筋を伸ばす。
お互いの手をみつめて、緊張したまま。
思わず笑い合った。

亜弥は勢い良く手の物を全て口に放り込んだ。それをコーヒー牛乳で流し
込む。
愛も続いた。手におさまりきらなかった分も袋から出して全部飲み込んだ。
無理に流し込んで、げふと戻しそうになる。
116que:01/12/19 14:10 ID:sDGelBNf
しばらく二人は宙をみつめて待ったが、なにも異常は感じられない。
――?
不可解な表情のまま、再び乗客の観察に戻った。

半分近く減ったが、相変わらず微動だにしない乗客。
一定のレールのリズム。
愛は見つめる対象のいなくなった前方のシートをただ眺めていた。
117que:01/12/19 14:10 ID:sDGelBNf
亜弥は目を床に伏せたままの体勢を変えずに、あれこれ考えていた。
もしひとりだったら、どういう行動をとっていただろう。これとは違う方法?わ
からない。
気丈に振る舞うのはもうやめていいのかな。別に悲しくはなかったんだけど。

でも、もう遅いです。

ぱたんとまぶたが落ちてきて、あわてて大きく見開いた。
こんなに明るかっただろうか?車内が急に白くなったような気がした。
118que:01/12/19 14:11 ID:sDGelBNf
愛も同様、まぶたをさかんに動かしていた。
――ちょっと怖いかも。そんな不安がしだいに大きくなってきて。
愛は亜弥の手を探り当てると、軽く握った。
119que:01/12/19 14:11 ID:sDGelBNf
「亜弥ちゃんはいいなあと思う人とかいるの?」
その声の方を見ると伏目がちの愛がいた。急に田舎くさくなった気がする。ちょ
うど初めて会った頃のような。こんなにダサかったかな。亜弥は苦笑した。

「そうだな、すごいなって思う人はたくさん。だけど、いろんな人と会ったけ
ど、特にこれといって。たぶんわたしに見る目がないんだと思う。感受性ってい
うの?そういうのが足りないのかも」
「嫌いじゃないの?」
「誰が?」と顔をゆがめた。
「あ、その顔」
指摘されて、あわてて手で顔を確かめる。

「周りの人を」
「なんでそう思うの」
「なんとなくそんな風に見えるから」
「ひどいな」
「ウチは嫌いにならないでね」
「あはは」亜弥は笑って愛の頬をつねった。「どうしたの愛ちゃん」
120que:01/12/19 14:13 ID:sDGelBNf
どれくらい経ったのだろう。亜弥はふと目をさました。相変わらず車内は白くぼ
んやりしていたが、まだ乗客はちらほら乗っているのが薄目でもわかる。愛に目
をやると、すでに眠っていた。
愛ちゃん
――
大声で呼んだつもりが、声が出なくて驚いた。もう一度呼ぼうとしたがやはり無
理で、亜弥は自分の手に力なく触れている愛の手をぎゅっと握り返した。それで
も、さほど強くは握られなかったが。
そして愛の肩にもたれて眠った。
121que:01/12/19 14:14 ID:0NFuHoN8
二人から少し離れたシートで参考書を読んでいた予備校生は、足元に落ちている
手製らしきプラカードを拾った。靴の跡にまみれた派手な文字を一通り読み、首
をかしげた。
やがて車両が停車して、彼はそれをシートに残し下車していった。
終点に近付き、二人の乗った車両はついに誰もいなくなった。
122que:01/12/19 14:14 ID:0NFuHoN8
終点で残りの乗客を全て降ろした車両は、ドアを閉めて再び発車していく。あと
は倉庫に向けて走るのみ。最小限の照明が入っただけの暗い構内を、車両は低速
で進んだ。
123que:01/12/19 14:15 ID:0NFuHoN8
倉庫に入った車両は止まり、小さく揺れる。ドアが開放されて、運転手は早々と
出て行った。
車掌はいつも通り、車内の見回りを始めるはずだったが、死んだように疲れた体
にムチを入れる必要はないと思った。彼は今日初めて見回り作業をさぼり、構内
へと消えて行った。
124que:01/12/19 14:16 ID:0NFuHoN8
二人の体は停止したはずみで崩れかかったものの、離れる事はなかった。愛は亜
弥のひざの上に、亜弥はそれを守るように。
やがて構内と車両の照明が静かに消えた。
125que:01/12/19 14:16 ID:0NFuHoN8
『sonatine』終
126名無し募集中。。。:01/12/19 14:43 ID:J++SVJe3
>>125
おつかれ
127名無し募集中。。。:01/12/20 05:32 ID:FRtND1F0
que殿お疲れさまでした
情景描写が鮮やかで最後の方は特に目に浮かぶようでした
この静かで穏やかな時の流れから最後こうなってしまうとは・・・
あと、ふたりの繊細な感情と微妙な関係がたまらんかったです
冷静で淡々としてる中にも激しい感情が渦を巻くみたいな
美少女ふたりだから絵になりますね
お疲れの所聞くのもなんですが、次の御予定は?
128どーん:01/12/21 01:16 ID:V4h+vqdf
129ねぇ、名乗って:01/12/21 04:17 ID:yDmAIVEJ
今更なんだけどソナチネってなに?
130名無し募集中。。。:01/12/21 08:45 ID:IO/1X7bF
>>128
いいねぇ
ここの影響か、おとといのトップアーティスト30での共演になんかワクワクしてしまった・・・

>>129
■[ソナチネ]の大辞林第二版からの検索結果 


ソナチネ

[(イタリア) sonatine]
〔小さなソナタの意〕第一楽章を簡略なソナタ形式とした器楽曲で、全体は短い二、三の楽章から構成される。
 ピアノ教材として多く書かれている。小奏鳴曲。


俺もはっきりとは知らなかったので調べてみました
>que氏
こういう意味でよろしいのでしょうか?
131ねぇ、名乗って:01/12/22 02:10 ID:/ZrhR3i3
>que氏
「一スレ一作品主義」だったりしますか?
とりあえず保全しときます。
132129:01/12/22 02:33 ID:UoCaLtQO
>>130
おお、サンクス。
辞書で調べれば出る言葉だったのかぁ。スマソ
133名無し募集中。。。:01/12/23 04:01 ID:NfMw01Da
改訂版も楽しみにしています
134名無しさん:01/12/23 12:03 ID:ICsqe54E
作者さんでもないのに勝手に貼っていいのかどうかわかりませんが
改訂版が始まってます。
m-seek
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=flower&thp=1009035776&ls=50
135名無し募集中。。。
>>134
アリガト