そのたいせーの部屋にひとりの海兵が飛び込んできた。
「たいせー大佐、海賊がやって来ました!それもあのはたけ大佐の船を
沈めた海賊のようです!」
はたけの船に乗っていた海兵たちのほとんどがこの基地に来ていた。
そして彼らは、自分たちの船が沈められたのは小さな海賊団のせいだと話していた。
本当は浜崎のせいなのだが、それを言ってしまうと体裁を保つ為に
浜崎の討伐に行かなければならなくなってしまう。
そんな恐ろしい事はとても出来ない。出来れば二度と顔も見たくない女だ。
そこで出たのが辻と後藤、吉澤の名前だった。
確かに後藤も恐ろしいが浜崎ほどではない。現に浜崎には手も足も出なかった。
そして辻と吉澤には痛めつけられた個人的な恨みがある。
なんとも身勝手な話ではあるが、自らの保身を第一に考えた
彼らにとっては至極当然の話であった。
そして運悪く、三人の顔を知っている海兵が港の見張りに立っていた為に
見つかってしまったのであった。
入口に背を向けて腰掛けていたたいせーがその椅子ごと振り返る。
まず目がいくのはそのヘアースタイル。おでこは大きく禿げ上がり、
横も大きく刈り上げている。短いモヒカンといった感じだ。
そしてその顔のパーツといえば目・鼻・口それぞれ小さく、耳だけが異様に大きい。
海軍本部の大佐にしては線が細く、どことなく頼りない印象を受ける。
「…なんや、騒がしいな。どーせザコなんやから、そない慌てんなや。」
「ハ、ハイッ!失礼しました!」
飛び込んできた海兵は直立をして敬礼した。
「しゃーないな。突っ込む事しか知らんアホやったけど、
あれでも一応、仲間やったからな。はたけの仇は討たなあかんか。」
たいせーは海兵たちの報告を信じきっていた。無理も無い。
“三色”の大戦の終盤、後藤と安倍の一騎打ちをたいせーは見ていた。
あの伝説の娘。たちはたいせーにとってやっかいな存在だった。
その中でも安倍の戦闘力は脅威だった。だから平家を使って安倍を孤立させた。
三つにまで分かれたのは予想外だったが、計画はすべて順調だった。
しかしそれは恐れていたもうひとりの娘。と突然姿を現した娘。によって打ち崩される。
その突然現れた娘。が後藤だった。その力は安倍とほぼ互角の戦いを演じるほどだった。
それだけの実力があればはたけがやられても納得がいく。
しかしその後藤の力も今の自分ならば何という事もない。
「まずは港を閉鎖するんや。それからアイツにもちゃんと声かけるんやで。行くで!」
「ハイッ!」
辻はこの街のほぼ中央に位置する広場に来ていた。
港から真っ直ぐに続く道の終わりにこの広場はあり、
突き当たりにやぐらのように高い処刑台が建てられている。
その台の上には海賊王が愛用し、そしてそこに縛られたまま運ばれてきたという
世界でただ一つのひとり用寝台、通称“シングルベッド”が置かれていた。
そして今では多くの人々が訪れる有名な観光スポットとなっている。
ここであの偉大な海賊王が処刑され、大海賊時代が始まった。
処刑台も“シングルベッド”も月日の経過と風雨に晒された事により
かなり傷んではいるが、その持つ重い歴史に圧倒されて辻の気持ちは高ぶっていた。
「…すごい、…すごいのれす…!」
なんとかと煙は高い所が好き、ではないが、放送禁止とまで言われた辻だ。
どうしてもあの“シングルベッド”に触りたく、
そして横になりたくなってしまった。
こうなると辻は自分を抑える事が出来ない。
(てへてへ、ちょっとくらいいいれすよね…。)
多くの人々が見守る中、辻は処刑台を上り始めた。
「…よっこいしょっ!」
吉澤は担いできた大きな荷物を船に積み込んだ。
そして陸に立つ後藤に振り返る。
「これで全部だっけー?」
「うん、そーだよー。」
「OK牧場!」
吉澤は軽い身のこなしで船から陸へと飛び移る。
「それじゃあさー、うちらも例の場所、行ってみよっか?」
「んあー、後藤はあんまし興味無いけどねー。」
「まあまあ、せっかく来たんだし、ついでだよ。ついで。」
あまり気のすすまない後藤の背中を吉澤は後ろから押して歩き始めた。
「…そーいやさー、ごっちんは気付いてた?
辻と加護の様子がおかしかったの…。」
「うん。知ってたよー。…でもあいつらふたりの問題だからねー。
自分たちで解決するしかないと思うんだー。」
「…そっか、うちらが口出しする話じゃないよね…、
ってごっちん、自分でも歩けよー!」
後藤はずっと吉澤に体重をかけて押されるがままだった。
「あはー、だってこのほーが楽なんだもーん。」
加護と石川は街で一番大きなデパートに来ていた。
「なぁ、梨華ちゃん。これなんかののに似合うんちゃうかな?」
「あっ。あのマネキン、ののにそっくりやんか。めっちゃオモロイわ。」
さっきから加護が口にするのは辻の事ばかり。それを石川は微笑ましく見つめていた。
(もう、素直じゃないんだからっ♪)
色々見て回ったふたりだったが、まだ何も買ってはいない。
歩き疲れたふたりはアイスを買ってベンチに腰掛けていた。
「…そーいや、ののは八段アイスが好きやったな…。」
加護がアイスを見つめながら溜息をつく。そんな加護の顔を石川が覗き込む。
「あいぼん、意地張ってちゃダメだよ。喧嘩するのは悪い事じゃないけど、
ちゃんと話合わなきゃ。ののちゃんにも話せなかった理由があるんだと思う。」
加護は石川の顔をじっと見つめていた。
とその時、石川のアイスを持つ手を下から押し上げた。
「キャッ!」
不意をつかれた石川の顔は自分のアイスでベットリだ。
「コラッ!あいぼん!」
石川は加護を叩こうとするが、加護はすでにベンチを離れて石川を見て笑っていた。
「あははは…。まさか梨華ちゃんに説教されるとは思ってへんかったわ。
せやけどありがとな。ちょっと待っててや。買うてくるモンあるさかい!」
そう言うと加護は元気に跳ねるように走っていった。それを見送る石川。
(ウウッ…。何もこんなコトしなくても…。)
>>773-775さん
いつも本当にありがとうございます。
とくに775なんて書き足りなかった
トコまでフォローして貰って感謝感激です。
,一-、
┏━━┓
三\(; ゚Д゚)/ ┃ ┃つ
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(((0^〜^)( ´Д)
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@ノハ@
( ^▽)○ ( ‘д ‘) ○
⊃∇ ⊃∇
辻は処刑台の上に立っていた。空は透き通るように青く雲ひとつない。
真っ直ぐ先に海が見える。そこから来る潮風が心地良い。
(かいぞくおうはさいごに、このけしきをみたのれすね…。)
珍しく辻は感慨深げだ。しかしそれも長くは続かない。
辻はぴょ〜んと飛んで“シングルベッド”に寝そべった。
「…う〜ん。おもってたより、ねごごちはわるいれすね…。」
当然だ。布団もシーツも何も敷いていなければ、あちこちガタもきている。
それでも辻は何度か寝返りをうってみる。
少しでも憧れの海賊王の気持ちに近付いてみたいらしい。
その時だった。
ガシャン!
「ぐっ…!」
ベッドに横たわる辻の首がガッチリと固定されてしまった。
「おもろいやっちゃなー。わざわざ自分から首を当てがっとるなんて…。」
辻は声の主を睨み付ける。それはあのたいせーだった。
この“シングルベッド”の枕元には海賊王が処刑された当時のまま、
首を固定して動けなくする留め具が残されていた。
それをたいせーはそのまま利用したのだった。
広場はあっという間に海兵たちで埋め尽くされた。
さすがに本部直轄基地の海兵たちだ。
その動きは統制がとれて一糸の乱れも無い。
「ふーっ、ふーっ!」
辻は渾身の力で逃れようとする。しかしビクとも動かない。
当然だろう。あの海賊王も外す事が出来なかった代物だ。
最も彼には外すつもりなど毛頭無かったが。
「はたけの仇は討たせてもらうで。せやけどひとまずお前には
おとりになってもらうわ。仲間をおびき寄せる為のな…。」
たいせーはいやらしくニヤリと微笑んだ。
「お前ら、これより小娘。海賊の処刑を行う!大々的に宣伝するんや!
こいつの仲間がやってくるようにな!」
「「ハイッ!」」
数人の海兵が大声で叫びながら広場を飛び出す。
辻の体に戦慄が走った。そうだ。この男は海軍だ。
海軍の大佐を倒した自分たちが狙われるのは当然の事だった。
その事について全く考えていなかった。
そして今、自分は人質として捕われている。
辻はちぎれそうになるくらい強く唇を噛み締めた。
(ののは…!ののは…!)
後藤と吉澤はふたり並んで歩いていた。
すると広場の方からひとりの海兵が大声で叫びながら走ってくる。
「今から処刑を行うぞ!小娘。海賊の処刑だ!」
それを聞いたふたりは驚きを隠せない。後藤は吉澤の顔を見る。
「小娘。海賊って、まさか!?」
「うん!とりあえず、あいつとっ捕まえて聞き出そう!」
吉澤はそう言うやいなや、素早くその海兵に近付いて腕を後ろに捻り上げ、
そのまま路地裏に引き摺り込んだ。そこで後藤が大剣を海兵の喉元に突き付ける。
「おい、どういう事だ!?詳しく教えろ…!」
加護と石川はデパートを後にして処刑台広場の方へと向かっていた。
「ねぇ、あいぼん。何買ったのか教えてよ〜♪」
「へへっ、内緒や。…それより梨華ちゃん、なんか向こうが騒がしいな。」
処刑台広場から海兵が街の人々に向かって叫びながら走ってくる。
「小娘。海賊の処刑だ!派手にやるぞ!」
それを聞いたふたりは互いに顔を見合わせる。
「「まさか!?」」
辻は何度も首の留め具を外そうと力を込めるがビクともしない。
「無駄や、大人しゅうしとれ。心配せんでも仲間も一緒に殺したるさかい。」
(…みんな、きちゃらめれす…!こないれくらさい…!)
その時、港からの入口に立つ海兵たちが数人一度に吹っ飛んだ。
「「うわっ!」」
海兵たちの隊列を乱したのはふたりの娘。そう、後藤と吉澤だった。
「つじ!今、助ける!」
「待ってろよ!すぐ行くから!」
ふたりの強力な娘。の襲撃によって海兵たちは後退を余儀なくされる。
それを見たたいせーは怒り心頭だ。
「あいつは…、後藤か!お前ら、何しとるんや!取り囲んでやってまえ!」
他の入口を見張っていた海兵たちも動員してふたりを取り囲む。
ここの海兵たちははたけの時とは違って体調は万全だ。
いくら後藤と吉澤でもなかなかその厚い囲みを突破する事が出来ない。
その時、手薄になった入口から加護と石川が姿を現した。
ビチイッ!
「ぐわっ!」
石川が海兵にムチを叩き付けた。海兵が顔を押さえて地面に転がる。
「ののちゃん!すぐ助けるからね!」
まただ。自分が情けないばかりに、またみんなを危険に晒してしまった。
自分の命なんかより、ずっとずっと大切な仲間なのに。
もう我慢が出来ない。辻の頬をくやし涙が伝っていた。
「…みんな、もういいのれす…!ののをおいてにげてくらさい…!」
「うるさい、黙れ!」
(ごとうさん…!?)
後藤が海兵を数人一度に叩き切る。
「あたしはお前を守るって決めたんだ!だから絶対に守る!」
吉澤が海兵を蹴り飛ばす。
「お前、あたしに諦めるなって言っただろ!だからお前も諦めんなよ!」
石川が海兵にムチを叩き付ける。
「ののちゃんアタシの事、大切だって言ってくれたよね!
アタシにだってののちゃんが大切だもん!だから頑張って!」
「みんな…。」
それぞれの自分への思いが胸に染み渡る。体が震えそうになるくらい嬉しい。
しかしただひとり、押し黙ってうつむいている娘。がいた。加護だ。
(…やっぱりあいぼんはのののこと、きらいになったのれすね…。)
別に辻は自分がどうなろうと構わない。しかし加護との事だけが心残りだ。
その時、加護が顔を上げた。うっすらと目に涙を浮かべている。
「フザケんなや、のの!」
(…えっ…!?)
「先に死んでまうモンはええわい!せやけどな!残されたモンは
どないすればええねん!?残されたウチは一人でどないしたら
ええんや!?お前のおらんユニットなんか…、お前のおらん世界なんか、
面白くもなんともないんや!」
(あいぼん…!)
加護は懐からパチンコを取り出し、海兵に向かってそれを弾く。
「待っとれ、のの!今助けるから!ウチが絶対に助けるから!」
「…あいぼん…!」
良かった。自分は加護に嫌われている訳ではなかった。
それが分かっただけで充分だ。もう何も思い残す事は無い。
「…あいぼん、…みんな、ありがとう…。」
辻は涙ながらに微笑んだ。
「……!」
それを見たたいせーは驚愕した。どんなに大物で極悪だった海賊だろうと、
ひと度処刑台に上れば恐怖し命乞いをするものだ。それをしなかったどころか
笑った人間をたいせーはひとりしか知らない。そう、あの海賊王だ。
(…こいつは、今殺しとかなアカン…!)
たいせーは腰から剣を抜き、それを大きく振り上げた。
>>783-786さん
すごい、いつもホントに高いクオリティでありがとうございます。
次回の更新はここの話のクライマックスです。
Σ ( ´D` ) |
⊂/⌒\⊃ (j`_ ` j)
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ほぜーん
(D` )ノ
(0^〜^)( ´Д)__/ (Д゚ )(Д゚ ) ∩∩ ̄
( ´D`)ノ @ノハ@
∩∩ ̄ ( ゚Д) 〜⌒ヾ__(▽^ ) ( ‘д ‘ )
その時だった。
「セクシーーー、ビーーーム!」
――――――ドオ!
広場一帯が青白く輝いた。天空を光の帯が駆け巡り処刑台を打ち抜く。
ボッカーーーン!
その光は処刑台だけにとどまらず、後ろに建ついくつもの建物を貫いて
遥か彼方へと消えていった。処刑台は崩れ落ち、さらにその上に
後ろにあった建物の瓦礫が落ちてくる。
すべてを打ち抜く貫通力と圧倒的な熱量、破壊力。
広場にいた人々はその光が発せられた元を辿る。
そこに立つのは背の低い金髪の娘。と大きな黄色い熊。そう、矢口としげるだ。
「キャハハハッ、どーだっ!この完全なオーバーテクノロジー!
見様見真似で造ってみたけど大・成・功!オイッ!もう一発ぶっ放せ!」
『ダメだ、真里!今ので砲身が焼け焦げてもう撃てない!』
しげるが後ろで支えている大砲の砲身がドロドロに溶けていた。
どうやら強力すぎる破壊力にその砲身自体が耐え切れなかったらしい。
「チクショー!たった一発だけかよ!仕方ない、こっからは白兵戦だ!いくぞ!」
『オウ!』
後藤はいきなり現れた矢口の姿に驚きを隠せない。
「やぐっつぁん!?なんで…?」
「オイッスー!ごっつぁん、ヒサブリ!こないだはゴメンね、
って、そんなん後だ!早く辻ちゃん助けてやりな!」
矢口は笑顔でそう答えると、しげると供に海兵の群れに飛び込んだ。
そうだ。辻の体は山のように積まれた瓦礫の下だ。早く助け出さないとまずい。
すでに加護・石川・吉澤の三人は瓦礫をどかしにかかっている。
後藤が駆け寄ろうとしたその時だ。ひとりの娘。が風のように現れた。
「任せるべさ!」
ドン!
その娘。の金棒のひと振りによって瓦礫の山は一瞬にして消し飛ぶ。
同時になにやら痩せた男のような物も吹っ飛んだようだ。
後藤はその金棒を手にした娘。の姿に我が目を疑う。
「なっつぁんまで、なんで…!?」
そう、あの三色の最後で互いに命を削りあった相手。安倍なつみだ。
「ヒサブリだべさ、ごっつぁん。詳しい話は後だべ。
まずはこの娘。を助けるのが先決だべさ!」
瓦礫の下から現れた辻はぐったりとして動かない。どうやら気を失っているようだ。
安倍が矢口の加勢をする為に海兵の群れに飛び込む。
「ごっつぁん!ここはウチらに任せて、早く辻を連れて港へ行くべさ!」
「でもこの様子じゃ多分、港は閉鎖されて…。」
これだけ訓練された海兵たちだ。
それを見落としているとは後藤には考えられない。
そこへ数人の海兵を相手にしながらの矢口の声が飛ぶ。
「大丈夫!オイラたちの仲間がちゃんと待ってるから!」
「……!」
後藤は迷っていた。一度は敵として戦ったふたりを信じていいのか?
しかし、こんな危険を冒してまで自分たちを罠にはめる理由などない。
「ごっちん!信用して良いの!?」
吉澤が後藤に問いかける。それに答えたのは石川だ。
「平気だよ、よっすぃー!矢口さんは信用出来るよ!」
「梨華ちゃん…!」
そうだ。迷う事など何もなかった。このふたりも、自分たちも思いはひとつ。
辻を守る。
それだけだ。その気持ちに疑う所は何も無い。
矢口と安倍。自分を眠らせるくらいに痛めつけたふたりが力を貸してくれる。
これほど心強い事は無い。後藤は心を決めた。
「加護と梨華ちゃんはつじをお願い!」
「よっしゃ!」
「ウン!」
加護と石川が辻の両脇を抱えて立ち上がらせる。
「よっすぃーは前を突破して!後ろはあたしが引き受けた!」
「OK牧場!」
吉澤がもの凄い勢いで海兵の囲いを突き破る。それに続く辻を支えた加護と石川。
そして追いすがる海兵を後藤が切り倒す。
「ヒュ〜♪なかなかのコンビネーションじゃん。しげる、援護だ!」
『オッケーイ。』
矢口に促され、しげるは大きく息を吸い込んだ。
ウオォーーー!
しげるの雄叫び!
海兵たちの身が縮こまり、その動きが止まった。
まるでマネキンのようになった海兵たちの間を五人は真っ直ぐに駆け抜ける。
「ありがとう、ふたりとも!この借りは必ず返すから!」
後藤が矢口と安倍に振り返って小さく頭を下げる。ふたりは笑顔でそれを見送った。
僅かに追いすがる海兵たちを蹴散らしながら五人は港へとやって来た。
そこに立つのは娘。にしてはかなり長身なほうの吉澤よりも背が高く髪の長い娘。
後藤・石川・加護・吉澤の四人は初対面だがその容姿だけで分かる。
あの矢口と安倍の仲間。そう、伝説の娘。のひとり、飯田圭織だ。
飯田は我が娘。を見るような優しい眼差しで辻に近付く。
「つじー。すごいじゃーん。こんなすごい仲間に巡り合えてさー。
カオリ、ホントに嬉しーよ。」
そう言いながら飯田は辻の頭を右手で優しく撫でる。
気を失っている辻が心なしか微笑んだように他の四人には思えた。その時だ。
「飯田さん!ウチ、加護っていいます!ウチの…!」
「そっかー。今おじさん、海軍の船、沈めてるトコだからいないんだー。ゴメンねー。」
そう言うと飯田は加護の頭も優しく撫でた。思わず加護の顔にも笑顔が零れる。
(そっか。今は会えへんけど、旅さえしとれば、生きてさえおれば、
いつかまたきっと会える!今はののを安全なトコに連れて行くのが先や。)
そんな加護の気持ちをまるで読んだかのように飯田は話す。
「そう、生きてさえいれば、諦めてさえいなかったら
絶対にまた会えるよ。ウチら三人だって、圭ちゃんだってそうだったから。」
それを聞いた吉澤は目を丸くする。
「えーっ!オバチャンに会って来たんですかーっ!?」
「うん、圭ちゃん、言ってたよ。いつか必ず帰ってくるみんなの事を待ってるって…。」
五人はトロピカ〜ル号に乗り込んだ。辻はまだ気を失っている。
陸に立つ飯田が四人に笑顔で呼びかける。
「みんなー!これからもさー、つじと仲良くしてやってねー!」
四人は笑顔で頷いた。とくに加護は強く大きく頷いていた。
(のの、お前はホンマに凄いやっちゃで…。)
後藤と吉澤、そして戦闘が得意でない石川までもが命懸けで危険に立ち向かった。
それどころではない。あの伝説の娘。の三人が辻を助ける為に駆けつけた。
辻が羨ましい?辻にやきもちを妬いている?
そんなんじゃない。
自分が一番、辻の事を考えている。自分こそ一番、辻を守ってやりたいと思っている。
辻の為ならいくらでも自分の命など投げ出せる。
友達だと言ってくれたから。辻の事が大好きだから。
(ウチが一番の友達なんや!一番の親友なんや!)
飯田は足を肩幅に開いて大きく息を吸い込み、うつろな目をして叫んだ。
ディアァァァーーー!
海から陸に向かって吹いていた風がピタリと止んだ。すると今度は陸から海へと
強い風が吹き始めた。それに帆をいっぱいに膨らませてトロピカ〜ル号は海に出る。
(頑張れよ、ののたん!また会おうね!)
急に吹き始めた強風に矢口と安倍は互いに顔を見合わせる。
「カオリ、上手くやったみたいだね!」
「うん!後はこっちを片付けるだけだべさ!」
矢口と安倍、しげるの奮闘によって海兵たちは完全に打ち崩されていた。
雌雄はほぼ決している。ふたりに残された目的はあとひとつだけ。
「…この風は飯田の仕業か。全く、用意周到なこっちゃで…。」
瓦礫を掻き分けてたいせーが立ち上がった。
「年貢の納め時だよ!オイラたちふたりにひとりで勝てるとでも思うのか!?」
「そうだべさ!つんくさんの仇、今こそ討つべさ!」
矢口と安倍はたいせーに向かって身構える。しかし、たいせーは余裕の笑みだ。
「まーな。確かに安倍ひとりでもしんどいのに、うるさいのがおったら
敵わんわ。せやけど、いつオレがひとりやって言った?」
「「……!」」
ふたりにはたいせーが何を言っているのか分からない。
裏切り者の三人の内、すでにふたりが死んでいるにも関わらず。
その時だった。
バシュッ!
「やぐち!」
突然現れた影に矢口の首が切り落とされた。地面に転がる矢口の首。
と、それを追いかける体。首を拾い上げて小脇に抱える。
「ビックリしたー!イキナリ何すんだよー!」
そうだ。矢口の能力は“バラバラ”だ。
知ってはいても心臓に悪い。安倍はほっと胸を撫で下ろした。
しかし、そこに立つ影、いや、娘。の姿に我が目を疑う。
「…そんな、…まさか!?」
矢口も自分を切った娘。の姿に気付く。
「まさか…!?まさか…!?」
忘れるはずが無い。見間違えるはずが無い。
少し髪が伸びてこそいるが、その顔と両手に構えた二本の刀。
あの時のあの娘。そのままだ。
「…ちっ、能力者か。やっかいな…。」
「遅かったやないか、市井…。」
たいせーがニヤリと笑う。矢口と安倍には信じられない。
しかし、目の前に叩きつけられた非情な現実から逃れる術は無かった。
「サヤカ!オマエ…、オマエ、本当に裏切ったのかよ…!?」
飯田の風に吹かれたトロピカ〜ル号からはみるみる島が見えなくなっていた。
これだけ離れてしまえば簡単に追い着かれはしない。
しかもあの娘。たちの援護付きとくればもう安心だ。
辻を囲むように四人は甲板に座り込んでいた。
「…うーん…。」
どうやら辻が意識を取り戻したようだ。四人はその顔を覗き込む。
辻は体を起こしてそれぞれの顔を順番に見た。笑顔で見守る四人。
すると急に辻はボロボロと涙を零して泣き出した。四人はあっ気に取られる。
「どないしたんや、のの?ワケ分からんで…。」
「…ひっく、ひっく、のののせいれ、またみんなをきけんなめにあわせて
しまったのれす…。ののはおちこぼれなのれす…。ひっく、ひっく…。」
どうやら辻はまた自分に責任を感じているらしい。
「ごとうさんは、すごいおーらがあるのれす。りかちゃんは、かわいくてすたいるが
いいのれす。よっすぃーは、かっけーくておとこまえなのれす。あいぼんは、
あたまのかいてんがはやくてけいさんずくなのれす…。」
(計算ずくっちゅーのはホメ言葉なんか?)
「…それなのに、ののがこのゆにっとのせんたーれいいのれすか…?
ほんとにそれれいいのれすか?…うわーん!」
辻は大声で泣き出した。
「なんやねん、のの。そないアホな事、言うとったら承知せーへんで。」
(…あいぼん?)
加護が辻の両手を優しく握る。そしてお揃いの紅白の手袋を取り出した。
「ホラ。コレ片っぽづつしよーや。友情のあかしやで。照れくさいけどな…。」
吉澤が優しく辻の肩を抱く。
「あたしはお前に会わなかったら、たぶん一生、あのレストランで自分を抑えたまま、
オバチャンを苦しめたままでいたと思う。お前はあたしとオバチャンの恩人なんだ。
だからあたしはお前についてくって決めたんだ。」
石川がハンカチで優しく辻の涙を拭く。
「そーだよ♪アタシだって、みんながいなかったら今頃どうなっていたか分かんない。
でもののちゃんがアタシを信じてくれたから村を救う事が出来たと思うの。
アタシもののちゃんを信じてる。ののちゃんの事が大好き♪」
後藤が優しい笑顔でみんなを見守っている。
「あんましつまんない事、言ってんじゃないの。みんなお前に出会って変わったんだ。
お前がいなかったら集まらなかった。みんなお前に導かれたんだ。」
「…みんな…!」
辻の瞳からより大きく、より熱い涙が溢れ出す。
(いいらさん!ののはれう゛ゅーして、ほんとによかったのれす…!)
最高だ。最高の仲間たちだ。海に出たおかげでこれほどまでの、自分の身に余るほどの
素晴らしい仲間に巡り会う事が出来た。このみんなとなら歌える。
そう、あの海賊王が作詞作曲をし、すべての人々に愛されたあの歌を。
HOー、ほら行こうぜ!そうだ、みんな行こうぜ!…
五人の歌声は風に乗って遥か遠くまで、いつまでもいつまでも響き渡っていた。
ワン☆ピ〜ス! 第一部 完
以上で第一部イーストブルー(ハロプロ・UFA)編終了です。
これから辻たちのユニットはグランドライン(芸能界)の文字通り荒波に乗り出します。
やっぱり復活、市井紗耶香。詳しくはもうひとつの物語で語られます。
それから出てこなかったメンバーは、もちろんこの先に出てきます。
しかし、思ってたよりも長かった(w もしかしてこの板で一番長いかも。
結構しんどかったんで、若干、燃え尽きた感も正直あります。
ここで終わるのも綺麗かな、なんて思ったりして。
なにしろ文が下手くそなのが非常に痛い(w そんな訳で再開は今のところ未定です。
読んで下さった方々、保全して下さった方々に感謝です。
そしていつも素晴らしいAAを提供してくださった保全さん。
あなたのおかげで楽しく続ける事が出来ました。ありがとうございました。
ここではちょっと容量が足りないので、再開は別スレですると思います。
その際はこっちにURLを貼り付けます。
それではまた他の氏にスレを乗っ取るその日まで。
おつかれー、すげー面白かったよ
やっぱ、こーいう話好きw
書き慣れてる感じがする反面、適当にバラまかれた漫画ネタの
ギャップが、個人的にツボにハマっておもろかった
次回作、期待してます。落ちたら、総合スレか何かにURL張ってね
出来れば、圭たんの出番も増やしてねw
三( ´Å)三( 〜^◇^) Σ(Д ` )__/ (Д゚ )(Д゚ )
@ノハ@
(^〜^0) (▽^ )(D- )(‘д ‘ ) (Д ` )三 (^◇^〜 )(´ー`● )__┃
彡 彡
彡 《 《 ( ( ( (皿 ゜ )
_ ( ;●´ー)┃ \ ヽ^∀^ノ /
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@ノハ@
\(0^〜^) \( ‘д ‘) \( ´D`) \( ´Д`) \( ^▽^)
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(・-・o川 ・・・お疲れ様でした・・・
と u )
宜 (⌒)(⌒)
/ | | | |ヽ
(・-・o川
(ゝ と )
宜 (⌒)(⌒)
びみょーに違うところが好き
818 :
_:02/03/30 16:50 ID:YXnCurRK
えーん、また書いてよーん
チョッパー編楽しみにしてるんだよー
819 :
名無し募集中。。。:02/04/01 19:02 ID:ReEtCWD6
保全age
保全
hozen
ほぜん
ホゼン
ほじぇーん
825 :
名無し募集中。。。:02/04/12 19:13 ID:QSpL7lUB
保全age
久々に来てもうないかと思ってたらまだ生き残ってた(w
>>810さん
全然慣れてないっすよ。コイツがお初です。楽しんでもらえて幸いです。
>>811-816さん
怒涛のAAオモロイっす。
>>816は「コンコンを宜しく」ってことっすかね?
それならOK。コンコンはこの後出てきます。
>>818さん
そうです。ビミョーに違います。
>>817さん
そうっすね。やっぱ一番好きなエピソードを書かない訳にはいかない。
他、保全目的の書き込みに感謝です。
なにかと色々バタバタしていたせいでこの板にすら来れなかった。
待ってる人なんてほとんどいないと思うけど、ほんの少しでも
いらっしゃったら続けたいと思います。
とりあえず、来週あたりに再開の予定です。