■ テスト その1

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673辻 希美
「…きゅ〜ん…。」
そう言ったかと思うと後藤はバタンと倒れ込んだ。辻が駆け寄る。
「ごとうさん!」
「…ZZZ。」
どうやら後藤は眠ってしまったらしい。
小湊の刀を直接受ける事は無かったが、浜崎にやられた傷が再び重度のダメージとなった。
立っているのもやっとだったろう。ひどい汗をかいている。
辻は服の袖で後藤のその汗を拭く。そして立ち上がって稲葉を睨み付けた。
(あとはののにまかせてくらさい…!)
自分が稲葉を倒せばすべてが終わる。石川を呪縛から解き放つ事が出来る!
辻は稲葉に歩み寄る。しかし、稲葉はそんな辻を冷ややかな目で見据える。
「…またどえらい事してくれたもんやなー。まあ遅かれ早かれこうなってもらう
 つもりやったけどな。せやけど、あの後藤を道連れにしてくれただけでも良しとしよか。」
「……!」
辻には稲葉の言う事が信じられない。仲間がやられて何故そんな事が言える?
「…おまえはひとれなしれす!」
「なんとでも言うたらえーわ。せやけど、ウチは戦わへんで。お前ら、やってまうんや!」
稲葉は集まっていた手下どもに促す。その半数以上は後藤の大戦時の強さを知っていた。
直接見なかった者もその噂だけは聞いている。だから恐ろしくて動けなかった。
しかし今、その後藤は倒れている。残っているのは小娘。ひとり。何も恐れる事はない。
674辻希美:02/02/27 19:37 ID:QJ+HNtDY
T&Cボンバーの手下たちが武器を手に取り襲い掛かる!
(…まずいのれす!)
後藤と吉澤の身の危険を感じた辻は、倒れたままの二人を塀の側まで引き摺った。
すぐさま振り返って手下どもを向かい撃つ!
ズン!
辻のこぶしの一撃で一人の男が崩れ落ちた。男たちに動揺が広がる。
「何しとるんや!相手は小娘。ひとりや!束になってかかってまえ!」
稲葉の檄に我に返る男たち。そうだ、こんな小娘。よりも稲葉のほうが恐ろしい。
辻は周りを取り囲まれる。背後を守りながらの戦いを強いられる事となった。

辻は明らかに強くなった。一対一では何度も戦った。
大人数相手の戦いも経験した。しかし、こんな経験は初めてだ。
辻の強さはそのスピードを生かしたフットワークと一発のパワーにある。
だがこの状態では自慢の足は使えない。
一人一人を確実に倒していくが、それだけでは追い着かない。
辻の体には無数の傷が付けられ、そのスタミナも奪われていた。
「…ひきょうなのれす!ちゃんとたたかってくらさい!」
辻は稲葉に向かって叫ぶ。しかし、稲葉はいやらしい笑いを浮かべるだけだ。
(…ゆるせない、…ゆるせない!)
そんな辻の一瞬の隙を突き、一人の男が眠る後藤に襲いかかった!
「…しまった!」
675辻希美:02/02/27 19:39 ID:QJ+HNtDY
「…ウワッ!」
男が顔を抑えて倒れ込む。その足元に転がる小さな鉛の玉。
こんな武器を使う人物を辻は一人しか知らない。
「…あいぼん!」
「大の大人が寄って集って小娘。一人に何さらしとんねん。」
加護だった。あさみの犬ぞりに乗って戻って来た加護のパチンコだ。
義剛たちはその姿に驚きを隠せない。
「あさみ、まさか…。」
「はい!加護さんはあのルルを倒したんです!」

バチィッ!
「グワッ…!」
辻を取り囲む輪の外側にいた男が背中を押さえて倒れ込む。
そこに現れた娘。の姿に辻は思わず笑みが零れる。
「…りかちゃん!」
石川だった。石川のムチによる痛烈な一撃だ。
「アタシだってみんなの仲間だもん!友達だもん!
 みんなみたいに強くないけど…、アタシだって戦う!」
676辻希美:02/02/27 19:42 ID:QJ+HNtDY
石川の言葉に加護が頷き、さらに数発のパチンコを弾く。
「そうや!梨華ちゃんはひとりやないんや!ウチらは仲間や、友達なんや!」
石川が男たちに次々とムチを叩き付ける。
「ありがとう、あいぼん!ののちゃん待ってて、今助けるから!」
ふたりの娘。の攻撃によって辻を囲む輪が乱れ出す。
しかし、いかんせん多勢に無勢だ。辻はまだ囲みを突破する事が出来ずにいた。
「…あたしも戦います!」
「あさみ!」
あさみが輪の中に飛び込む。それを見た義剛、花畑村の男たちは心を決めた。
恐ろしい四人の内の三人までも倒してくれた娘。たち。
暗い闇に閉ざされた道のりだった。そこにこの娘。たちが一筋の光明を差し込んでくれた。
あとは自分たちの力でその光を、眩い未来をこの手に掴み獲るだけだ!
「…みんな、オラたちも戦うべ!」
「「オオーッ!」」
花畑村の男たちが立ち上がった。辻を囲む輪を一気に押し崩す。
村人たちの加勢に石川は喜びを隠せない。思わず嬉し涙が零れそうになる。
「みんな、ありがとう!…ののちゃん、お願い!アイツを、稲葉を倒して!」
「そうや、のの!雑魚はウチらに任せろ!お前やったら出来る!やってまえ!」
「…りかちゃん、…あいぼん、ありがとう!」
辻は二人の言葉に勇気づけられた。自分のやるべき事は一つだけだ。
677辻希美:02/02/27 19:44 ID:QJ+HNtDY
稲葉は明らかに動揺していた。この状況が信じられない。
「…なんでや、なんで村の連中まで…。」
自分の支配に間違いは無かったはずだ。
金を取る事で力を奪い、恐怖を与える事で希望を奪い去った。
反乱など起こるはずが無かった。それなのに、今のこの有り様はどういう事だ?
そんな稲葉の目の前に辻がゆっくりと歩いて来る。
「…お前らが、お前らが余計な事さえせーへんかったら…!」
稲葉は銃を構えた。しかし、辻は構わずそのまま進む。
ドン、ドン!
稲葉の銃が火を吹いた!しかし…
プニ、プニン…
辻の腹にめり込んだ弾丸は、あらぬ方向へと弾かれた。
「…まさか、能力者…!?」
稲葉が辻はただ者ではないと気付いたその時だった。
ゴツッ!
「…うげっ!」
辻の右こぶしの一撃が稲葉の顔面を捉えた。
678辻希美:02/02/27 19:49 ID:QJ+HNtDY
「…おまえらけはぜったいにゆるさねーのれす!」
辻の怒りは頂点に達していた。その卑怯な手口はもちろんだ。
しかしそれ以上に、稲葉は仲間がやられてもへらへらと笑っていた。
「おまえはなかまをなんらとおもってるのれすか!?」
稲葉は辻の一撃で口の中を切ったのだろう。唾と一緒に血をペッと吹き出した。
「…お前かて一緒やろ!後藤やそこの頬袋みたな強いヤツがおったら助かるやろ!
 石川やそこの団子頭みたいなヤツがおったら便利やろ!せやから一緒におるんと
 ちゃうんか!?それは結局、利用してるだけなんちゃうんか!」
「そんなんじゃない!」
稲葉はその辻の剣幕にビクッとなった。
確かに辻は後藤のように圧倒的な強さを持ち合わせていない。
石川のように海図が読める訳ではない。加護のようにどこにも無い物を作り出す
能力はないし、吉澤のように料理を作れる訳ではない(あまり美味くは無いが)。
だからもちろん、みんなが居てくれて本当にありがたい。
みんなに助けてもらっているという事は痛いほど身に染みている。
だがそれだけで一緒にいる訳ではない。そんな事なんか本当は全然関係ない!
「みんなのことがすきらから…、らいすきらかららーーー!」