■ テスト その1

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625第二話 家族
義剛たちが屋敷の前に着くと、閉ざされた門の前でユウキが座り込んでいた。
「…通してくれないべか?」
「あんた、その顔死ぬ気だろ?そんなの通す訳にはいかないね。
 オレはここである人たちを待ってるんだ。」
「…ある人たちって…?」
「もうすぐ、きっとここにやって来る。この海最強の剣士と、海賊王を裏切った
 極悪の海軍大佐を倒した連中がね。諦めるのはそれからでも遅くないんじゃん?」
この海最強の剣士といえばあの娘。しかいない。確かにその娘。ならこの連中を
倒せるかもしれない。しかし、その娘。が本当にこの島に?
「来た!」
ユウキが義剛たちの後ろからやって来る四人の人影に気付いた。
義剛たちが振り返る。するとそこには辻・後藤・加護・吉澤の姿があった。
「お前、なんで…?」
義剛は加護の姿に驚いた。自分は加護を、村の皆を救う為にここに来たのに。
そんな義剛に加護は笑顔で答える。
「おっちゃんには関係ないで。きっちりケジメとらなアカンねん。それに頼もしい
 仲間がおる。ウチは弱いけど、コイツらと一緒やったら強くなれる!」
「……!」
義剛は絶句した。加護の晴れやかな表情から込み上げてくる自信。
そして、一緒にいる娘。とくに大剣を背負った娘。から漂う圧倒的な威圧感。
それはあの連中をも凌ぐほどの強烈なオーラだった。
626第二話 家族:02/02/20 19:13 ID:bNXPSzDp
「…みなさん、待ってくださーい!」
その時、あさみが犬ぞりを走らせて追い着いてきた。
「後藤さん、ソニンさんがあなたにこれをって…。」
あさみは大事そうに抱えていた刀を後藤に差し出した。
「…どういう事?」
「みんなが出て行った後にソニンさんが意識を取り戻したんです。
 そしたら後藤さんにこれを渡してくれって。きっと役に立つはずだからって。」
「そう…、分かった!ありがとう、あさみちゃん!」
ソニンの気持ちを無視出来ない。後藤は刀を受け取り、腰に差した。
「待ってだぜ、ねーちゃん!」
ユウキが笑顔で四人を迎えた。後藤はそのボロボロな姿に呆れ返っている。
「…お前さー…。」
「おっととっと、言いたい事は分かってるぜ。でも、その話は後だ。
 まずはあの連中を始末してからだよ…。」
義剛は気付いた。噂にだけは聞いていた、この海最強の剣士の姿に。
「…後藤って、あの後藤真希だべか…?」
「そうです。この娘。こそ、あの“三色”を制した後藤真希さんです。
 …そしてみなさんは、梨華ちゃんの大切な友達です!」
そう言ったあさみの表情は晴れやかに、そして自信に満ち溢れていた。
627第二話 家族:02/02/20 19:16 ID:bNXPSzDp
ドッゴーン!
門が打ち破られて、その破片が稲葉たちの元へと飛んで来た。
それを叩き落としながら稲葉が叫ぶ。
「何や!?どこのどいつの仕業や!?」
強引に開けられた門から入って来る四人の姿。それを見てルルがニヤリを笑う。
「フフフ、ガキが自ら死にに来たアルね。“三度目の正直”アルよ…。」
「アホか。そない簡単にやられてたまるかっちゅーねん。」
加護とルルは互いにやる気満々だ。信田が後藤を睨み付ける。
「久し振りだね。あの時は裕ちゃんに邪魔されたけど、今こそ決着を着けてやる!」
そう言ったかと思うと、大きく跳んで後藤に襲い掛かってきた。
空中で体を捻らせ、後藤に蹴りを叩き付ける!
ゴッ!
その信田の蹴りは後藤の目の前で、蹴りによって止められた。
「…貴様!」
「お前の相手はごっちんじゃないよ。お前なんて、あたしで充分お釣りがくるね。」
吉澤だった。吉澤は後藤の体調が気になっていた。
それに何か含む所もあるだろうと、信田の相手を買って出た。
「でかい口叩くやつだね。あとで後悔するなよ!」
信田が吉澤に向き直って、怒りも露わに叫んだ。
628第二話 家族:02/02/20 19:18 ID:bNXPSzDp
「それじゃあ、ののはあいつれすね…。」
辻が小湊に向かおうとする。そんな辻を見て、後藤がスッと前に出た。
「…ごとうさん?」
「悪い、じーつー。あいつはあたしにやらせて。」
ソニンの魂を受け取った後藤だ。それが小湊を倒せと言っている。
そんな後藤の姿を見て小湊は薄ら笑いを浮かべていた。
「これは光栄だっぺ。あの有名な後藤真希、自らのご指名とはね。
 お前も倒せば、小湊流が上だって完全に証明されるっぺ!」
「別にー。そんなの興味ないね。」
そう、後藤には道場の看板を背負っているなんて気持ちはさらさら無い。
それどころか道場の禁を破ったくらいだ。
和田道場で旅に出るのを許されるのは十五歳以上からだった。
ところが、後藤が和田の制止を振り切って旅に出たのは十三歳の時。
しかも当時の後藤の髪は金色。その外見からあらぬ噂を立てられたものだ。
背中の大剣を後藤は抜いた。小湊も腰の刀、二本の内の一本を抜いた。
後藤は小湊の二本の刀に気付く。
(…まさか、ね。そんなはずはない…。)
二人の剣士は静かに向かい合った。
629第二話 家族:02/02/20 19:21 ID:bNXPSzDp
そうすると、辻の相手は自然と残った稲葉になる。
だが稲葉は戦いに興味が無いらしく、椅子から立ちあがる気配も無い。
辻が稲葉に向かおうとしたその時だった。
「くらえ、ボケ!」
加護の先制攻撃!
ルルに向かって卵をパチンコで弾く。しかもそれが見事に顔面に命中した。
「“二度あることは、三度ある”や。このアホー。」
加護はルルに向かってもの凄い勢いでお尻ペンペンをする。
ルルはまたまたコケにされて怒りが抑えきれない。
ベタベタになった顔を拭いながら、もの凄い形相で加護を睨みつけた。
「…き、貴様!絶対に殺す…!」
ルルが腕を振り上げる。
「ドアホー、こっちじゃい、このうんこたれー。」
それを見た加護は一目散に門の外へと逃げ出した。
初めて見た時は分からなかったが、加護はルルの技を読んでいた。
ここでルルを暴れさせると、他のみんなにまで迷惑がかかる。
そう思った加護の懸命の策だった。
「…クソッ!待つアルよ!」
頭に血が昇り切ったルルは全速力で加護を追いかける。
こうして二人の、とんでもない速さの追いかけっこが始まった。
「加護さん…!」
加護の身を按じたあさみが犬ぞりを走らせて、二人のあとを追いかけた。