義剛たちが屋敷の前に着くと、閉ざされた門の前でユウキが座り込んでいた。
「…通してくれないべか?」
「あんた、その顔死ぬ気だろ?そんなの通す訳にはいかないね。
オレはここである人たちを待ってるんだ。」
「…ある人たちって…?」
「もうすぐ、きっとここにやって来る。この海最強の剣士と、海賊王を裏切った
極悪の海軍大佐を倒した連中がね。諦めるのはそれからでも遅くないんじゃん?」
この海最強の剣士といえばあの娘。しかいない。確かにその娘。ならこの連中を
倒せるかもしれない。しかし、その娘。が本当にこの島に?
「来た!」
ユウキが義剛たちの後ろからやって来る四人の人影に気付いた。
義剛たちが振り返る。するとそこには辻・後藤・加護・吉澤の姿があった。
「お前、なんで…?」
義剛は加護の姿に驚いた。自分は加護を、村の皆を救う為にここに来たのに。
そんな義剛に加護は笑顔で答える。
「おっちゃんには関係ないで。きっちりケジメとらなアカンねん。それに頼もしい
仲間がおる。ウチは弱いけど、コイツらと一緒やったら強くなれる!」
「……!」
義剛は絶句した。加護の晴れやかな表情から込み上げてくる自信。
そして、一緒にいる娘。とくに大剣を背負った娘。から漂う圧倒的な威圧感。
それはあの連中をも凌ぐほどの強烈なオーラだった。
「…みなさん、待ってくださーい!」
その時、あさみが犬ぞりを走らせて追い着いてきた。
「後藤さん、ソニンさんがあなたにこれをって…。」
あさみは大事そうに抱えていた刀を後藤に差し出した。
「…どういう事?」
「みんなが出て行った後にソニンさんが意識を取り戻したんです。
そしたら後藤さんにこれを渡してくれって。きっと役に立つはずだからって。」
「そう…、分かった!ありがとう、あさみちゃん!」
ソニンの気持ちを無視出来ない。後藤は刀を受け取り、腰に差した。
「待ってだぜ、ねーちゃん!」
ユウキが笑顔で四人を迎えた。後藤はそのボロボロな姿に呆れ返っている。
「…お前さー…。」
「おっととっと、言いたい事は分かってるぜ。でも、その話は後だ。
まずはあの連中を始末してからだよ…。」
義剛は気付いた。噂にだけは聞いていた、この海最強の剣士の姿に。
「…後藤って、あの後藤真希だべか…?」
「そうです。この娘。こそ、あの“三色”を制した後藤真希さんです。
…そしてみなさんは、梨華ちゃんの大切な友達です!」
そう言ったあさみの表情は晴れやかに、そして自信に満ち溢れていた。
ドッゴーン!
門が打ち破られて、その破片が稲葉たちの元へと飛んで来た。
それを叩き落としながら稲葉が叫ぶ。
「何や!?どこのどいつの仕業や!?」
強引に開けられた門から入って来る四人の姿。それを見てルルがニヤリを笑う。
「フフフ、ガキが自ら死にに来たアルね。“三度目の正直”アルよ…。」
「アホか。そない簡単にやられてたまるかっちゅーねん。」
加護とルルは互いにやる気満々だ。信田が後藤を睨み付ける。
「久し振りだね。あの時は裕ちゃんに邪魔されたけど、今こそ決着を着けてやる!」
そう言ったかと思うと、大きく跳んで後藤に襲い掛かってきた。
空中で体を捻らせ、後藤に蹴りを叩き付ける!
ゴッ!
その信田の蹴りは後藤の目の前で、蹴りによって止められた。
「…貴様!」
「お前の相手はごっちんじゃないよ。お前なんて、あたしで充分お釣りがくるね。」
吉澤だった。吉澤は後藤の体調が気になっていた。
それに何か含む所もあるだろうと、信田の相手を買って出た。
「でかい口叩くやつだね。あとで後悔するなよ!」
信田が吉澤に向き直って、怒りも露わに叫んだ。
「それじゃあ、ののはあいつれすね…。」
辻が小湊に向かおうとする。そんな辻を見て、後藤がスッと前に出た。
「…ごとうさん?」
「悪い、じーつー。あいつはあたしにやらせて。」
ソニンの魂を受け取った後藤だ。それが小湊を倒せと言っている。
そんな後藤の姿を見て小湊は薄ら笑いを浮かべていた。
「これは光栄だっぺ。あの有名な後藤真希、自らのご指名とはね。
お前も倒せば、小湊流が上だって完全に証明されるっぺ!」
「別にー。そんなの興味ないね。」
そう、後藤には道場の看板を背負っているなんて気持ちはさらさら無い。
それどころか道場の禁を破ったくらいだ。
和田道場で旅に出るのを許されるのは十五歳以上からだった。
ところが、後藤が和田の制止を振り切って旅に出たのは十三歳の時。
しかも当時の後藤の髪は金色。その外見からあらぬ噂を立てられたものだ。
背中の大剣を後藤は抜いた。小湊も腰の刀、二本の内の一本を抜いた。
後藤は小湊の二本の刀に気付く。
(…まさか、ね。そんなはずはない…。)
二人の剣士は静かに向かい合った。
そうすると、辻の相手は自然と残った稲葉になる。
だが稲葉は戦いに興味が無いらしく、椅子から立ちあがる気配も無い。
辻が稲葉に向かおうとしたその時だった。
「くらえ、ボケ!」
加護の先制攻撃!
ルルに向かって卵をパチンコで弾く。しかもそれが見事に顔面に命中した。
「“二度あることは、三度ある”や。このアホー。」
加護はルルに向かってもの凄い勢いでお尻ペンペンをする。
ルルはまたまたコケにされて怒りが抑えきれない。
ベタベタになった顔を拭いながら、もの凄い形相で加護を睨みつけた。
「…き、貴様!絶対に殺す…!」
ルルが腕を振り上げる。
「ドアホー、こっちじゃい、このうんこたれー。」
それを見た加護は一目散に門の外へと逃げ出した。
初めて見た時は分からなかったが、加護はルルの技を読んでいた。
ここでルルを暴れさせると、他のみんなにまで迷惑がかかる。
そう思った加護の懸命の策だった。
「…クソッ!待つアルよ!」
頭に血が昇り切ったルルは全速力で加護を追いかける。
こうして二人の、とんでもない速さの追いかけっこが始まった。
「加護さん…!」
加護の身を按じたあさみが犬ぞりを走らせて、二人のあとを追いかけた。