■ テスト その1

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559第二話 家族
(…ここは…?)
加護はベッドの中で目を覚ました。どうやら民家の一室のようだ。
洗いたての石鹸の香りがする真っ白なシーツの感触が心地良い。
台所ではコトコトと鍋のふたが音を立てている。
こちらからは見えないが誰かの居る気配がする。
加護は身を起こそうとした。
「…痛っ!」
加護の左肩に激痛がはしる。思わず大声を出してしまった。
するとその声に気付いたらしく、台所から一人の少女がパタパタとやって来た。
背は加護より少し高いくらい、愛嬌のある丸顔をしている。
「目が覚めました?でも、まだ横になってたほうがいいですよ。」
優しくニッコリと微笑む。
加護は安心した。こんな笑顔を見せる者に悪い人間はいない。
その時、加護のベッドの下から小さな影が飛び出してきた。
「……!」
加護は目をつむって身を固くする。するとその影は加護の顔をペロペロと舐め出した。
それは小さな犬だった。丸顔の少女がその犬の頭を撫でる。
「この子が見つけてくれなかったら、あなた、助からなかったかもしれませんよ。」
「…そっか、ありがとな、お前。…アハハッ、くすぐったいわ…。」
560第二話 家族:02/02/09 18:22 ID:viwYzfuU
その少女はあさみと名乗った。
「多分、加護さんを襲ったのはあの連中の一人、ルルだと思いますよ。」
「あの連中て?」
「この島に居座っている海賊団、“T&Cボンバー”ですよ。悪い事は言いません。
 早くこの島から離れたほうが良いですよ。」
「…確かにアイツはヤバかったわー。体中から殺気がプンプンしとったで。」
加護はあの女、ルルの事を思い出した。それだけで今でも身震いがする。
「せやけどなー。梨華ちゃんを連れ戻すっちゅうのが、ののとの約束やしなー…。」
加護のその言葉にあさみの表情が強張った。
「加護さん?あなた今、梨華ちゃんって…。」
「そうや、石川梨華っちゅうのを探しとんねん。何か知っとるん?」
あさみはコクリとうなずいた。
「知ってるも何も…、あの海賊団の幹部ですよ。
 そして、あたしとは義姉妹の関係でもあります…。」
561第二話 家族:02/02/09 18:24 ID:viwYzfuU
「なんやて、梨華ちゃんがアイツらの一員やっちゅーんか!?」
「…そうですよ。あの子があの海賊団に入ってから、もう1年以上になります。」
「せやけど、梨華ちゃんはウチらの仲間やって…。」
あさみは加護のその言葉に暗い表情になった。
「…あの子に仲間なんていません…。」
「そんなワケないやろ!ウチらは確かに仲間やった!
 それにののは言うとった、梨華ちゃんは友達やって!」
加護にはあさみが何故そんな事を言うのか分からない。あさみに詰め寄った。
しかし、あさみの表情はますます暗くなるばかり。うっすらと目に涙を浮かべていた。
「あの子はすべてを捨てたんです!仲間も…、友達も…、普通の幸せをすべて…。
 だからもうあの子には係わらないでください!あの子を苦しめるだけですから…。」
「…ほな、ウチはもうひと眠りするわ。」
「えっ…?」
「ウチはケガ人やからな。悪いけどしばらく居させてもらうで…。」
加護は頭から毛布をかぶった。この島では明らかに異常な事が起きている。
石川が苦しんでいる。そして、この命の恩人のあさみも。放って置ける訳が無い。
後藤の事も気になるが、ソニンが付いているからとりあえず問題はないだろう。
(…のの、頼む!はよ来てくれ…!)
562第二話 家族:02/02/09 18:27 ID:viwYzfuU
T&Cボンバーが居座る屋敷の一室に石川の姿はあった。ほとんど眠っていなかった。
昨夜は、石川は飲めないのだが稲葉たちの酒に付き合わされ、
そのうえ今回旅して来た所の海図を早く描き上げる様に言われたからだ。
T&Cボンバーの目的はこの海を支配する事。その為には海図が欠かせない。
石川の描く海図は正確そのものだ。
体力自慢の集まったこの海賊団にとって、石川の存在はまさに必要不可欠だった。
(…コーヒーでも飲もうかな…。)
眠気覚ましだ。石川は階段を下りて大広間へと向かった。

石川が一人でコーヒーを飲んでいると、稲葉・信田・ルルの三人が騒々しくやって来た。
「あー、完全に二日酔いやわ…。ウップ…、気持ちワルー…。」
「あっちゃん、そんなに酒強くないんだから。あまり無茶するなよ。」
「そうアルよ。ルルは強いからいくら飲んでも平気アルけどネ。」
三人はそれぞれの椅子に腰掛けた。信田が石川を細い目で見つめる。
「石川、お前もう海図は描き終わったの?」
「…は、はい。あと少しで…。」
「あー、そんなん後でええわ。それより石川、水持ってきてくれへんか?」
稲葉は頭痛がするらしく、両手で頭を押さえている。
「あっ、はい。今すぐ…。」
石川が台所に行こうと席を立ったその時だった。
563第二話 家族:02/02/09 18:30 ID:viwYzfuU
バン!
広間の入り口の扉が勢い良く開かれた。広間にいた全員の視線が集まる。
そこには小湊が立っていた。その肩には一人の女性を担いでいる。
「ああ、小湊。見回りご苦労さん。…その女は?」
信田が小湊の肩を指差して尋ねた。小湊は広間の中央までやって来て女性を下ろした。
その顔を見て石川は驚いた。
(…ソニンさん!?どうしてここに…?)
小湊が担いできた女性はソニンだった。その体には十文字に深い傷が入っていた。
「途中で見つけたんでやっつけたっぺ。どう、ルル?これであたしの勝ちだっぺ!」
「何言ってるアル。ルルが仕留め損なったのは、こんなヤツじゃないアルよ。」
「…えっ?どういう事だっぺ?」
勝ち誇って浮かれていた小湊が正気に戻る。すると稲葉が何かを思い出したようだ。
「そうや、コイツは最近出てきよった賞金稼ぎやわ。なんかで見た気がするわ。
 …せやけど変やな。コイツは確か二人組やったはずやけど…。」
「そうアルか!それじゃあ昨日ルルが見た小娘。が片割れアルね!」
「いや、ちゃうわ。コイツ等は男女のコンビのはずや。」
その会話を黙って聞いていた信田が不審そうに石川を睨んだ。
「賞金稼ぎと謎の小娘。それに港から帰って来なかったお前…。
 なんか臭いね。石川、お前何か知ってるんじゃ…。」
564第二話 家族:02/02/09 18:32 ID:viwYzfuU
「…うっ!」
その時、ソニンが意識を取り戻した。
「小湊!お前、殺してなかったアルか?」
「そうだっぺ。こいつは強いっぺよ。でも本調子じゃなかったようだっぺ。
 だからもう一度、ちゃんと勝負をする為に連れてきたっぺ。」
「…そんなに強かった?それなら先にあたしにやらせてよ。」
「ズルいアルよ信田!ルルだって戦いたいアルよ!」
(…ホンマにコイツ等は単純なやっちゃで…。)
三人のやり取りを聞きながら稲葉はほくそ笑んでいた。
稲葉を除く三人は純粋に強さを、戦いを求めているだけだった。
そんな連中の方が扱いやすい。いくらでも思い通りにコントロール出来る。

ソニンは瞼を開けた。どうやら自分は生かされたらしい。
その目に飛び込んできたのは、まさしくあの手配書の連中、T&Cボンバーだった。
しかし、その四人のそばにいる娘。の姿にソニンは驚きを隠せない。
「石川さん!?どうしてコイツらと…?」
信田の目がますます鋭くなって石川を見据えた。
「石川…、どういう事だ?」
(しまった!)
石川は動揺した。しかし、必死の思いで平静を装う。
なんとかうまく言い逃れをしないと、今までのすべてが水の泡になってしまう。
565第二話 家族:02/02/09 18:35 ID:viwYzfuU
「…コイツらから船と宝を奪って来たんですよ〜♪
 まさか、ココまで追いかけて来るなんて、ホントにしつこいヤツですね〜♪」
(なっ…!)
ソニンには石川の言葉が信じられない。
「石川さん!辻さんはアナタの事を友達だって言ってたニダ!
 その気持ちをアナタは裏切るっていうの!?」
「…アタシには友達なんていないから。…そんなの必要ないから!」
(えっ…。)
稲葉が高らかに笑う。
「アッハッハッハ、そうや!この娘。は自分の家族さえも裏切れる娘。や!」
「……!」
石川の表情が険しく、そして悲しくなった。ソニンはその変化に何かを感じ取った。
「…とにかく、変な疑いかけられちゃ困るの。だから…。」
石川は腰に巻き付けていたベルトをスッと抜いた。
大量の金具が付いたそれは戦闘時にはムチへと姿をかえる。
バシッ!ベシッ!
石川はソニンの傷ついた体に容赦なくムチを叩きつける。
その表情は無表情。いや、無理やり感情を押し殺しているようにソニンには見えた。
せっかく生かしたソニンが殺されてはたまらない。小湊が石川を止める。
「お、おい。もう止めるっぺ、石川。疑って悪かったっぺ、なあ信田。」
「…あ、ああ…。」
「あー、ひどいアルねー。…とりあえず、地下室にでも閉じ込めとくアルか。」