■ テスト その1

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551第三章 絆
小湊たちはソニンを囲むように立ち止まった。小湊が不敵に笑う。
「フフッ、観念したっぺか…?」
「そうネ、もう走るのは疲れたニダ。だからここで眠ってもらうニダ。」
穏やかだったソニンの目がみるみる鋭くなって集中力が高まる。
腰の刀をゆっくりと抜いた。完全な臨戦態勢、戦士の表情に変わった。
(…ほう、これはなかなか…。)
小湊はその変化に気付く。こいつは予想外の腕前だ。
これならルルが仕留め損なっても仕方がないか?話とは少し違う気がするが。
「お前たち、やるっぺよ!」
ソニンは背後を取られない様に一本の木を背にしていた。
ところが急にクルッと木に向かって振り返る。その背中に男たちが襲いかかった!
ドガカッ!
男たちの攻撃はすべて木に受け止められた。ソニンが消えた?
男たちが我が目を疑ったその時だった。
ズババッ!
「「ぐわっ!」」
ソニンの刀が男たちの背中を切り裂いた。
男たちは訳も分からぬうちに、ソニンの一撃によってすべて倒された。
552第三章 絆:02/02/06 19:26 ID:Nc7nEbYa
小湊だけが見ていた。
ソニンが木に足を架けてバック宙をして、男たちの背後に回ったのを。
「…なかなか器用な真似をするっぺね。でも、二度は通用しないっぺよ。」
小湊は腰に二本の刀を下げていた。そのうちの一本を抜いた。
ソニンは驚いた。この世界で刀を使う剣士は珍しい。
少なくとも和田道場以外では見た事が無かった。それに二本の刀の意味は…?
「小湊流の真髄を見せてやるっぺよ…。」
いったい、どこの田舎の流派だろうか。ソニンは聞いたことがない。
小湊が一瞬にして間合いを詰めた。
(速い!)
ギン!
ソニンはかろうじて小湊の太刀を受け止めた。腕が痺れる。
思わず刀を落としそうになった。重い、それでいて速い。
刀でこれほどまでの打ち込みをする人間に、ソニンは今まで会った事が無かった。
これはとても侮れない。ソニンは更に集中力を高めた。
553第三章 絆:02/02/06 19:28 ID:Nc7nEbYa
キン、キン!
二人が刀を打ち合う音が林の中に響き渡る。
かなりの時間打ち合っていた。実力はほぼ互角だろうか。
いや、ソニンの額や首筋には大量の汗が浮かび上がり、疲労の色は隠せない。
それに対して小湊の方は汗一つかいていない。涼しい余裕の表情だ。
(…くそっ!こんなに差があるなんて…!)
ソニンは自分の犯した重大なミスに気付いた。
この四人組はあの“三色”の生き残りだ。そして、その個々の持つ実力だけなら、
あの伝説の娘。たちを凌ぐとまで言われていた存在。
過信だった。元々自分ごときが敵う相手ではなかった。

小湊はソニンの太刀筋からある人物を思い出していた。
「…そうか!お前の太刀は市井に似てるっぺ!さては和田道場のもんだっぺ?」
「それがどうしたニダ!」
「市井とは決着がつけられなかったっぺ。それなら代わりにお前でもいい…。
 小湊流が和田道場を超える、記念すべき日だっぺ!」
「……!」
それならなおさらソニンは引き下がれない。
偉大な先輩達が築き上げてきた誇り高き看板だ。自分が汚す訳にはいかない。
554第三章 絆:02/02/06 19:33 ID:Nc7nEbYa
二人の打ち合いが止まった。
ソニンは小さく後ろに跳んで距離をとる。そして刀を上段に構えた。
「…どうやら最後の一太刀ってとこだっぺ?いいわ、受けてやるっぺ!」
小湊は中段の構え。どんな攻撃にも対処出来るように神経を張り巡らせる。
林の中に静寂が訪れた。二人の気だけがますます高ぶる。
(…くらうニダ!舞羅武返し!)
ソニンが刀を振り下ろす!しかし、小湊は僅かに下がってかわしていた。
確かに鋭く速かったが、その太刀筋は完全に見切られていた。
(あたしの勝ちだっぺ!)
小湊が勝利を確信したその時だった。
ソニンの刀の刃が上を向く。小湊の体中の毛という毛が逆立った。
(…まずい!)
ソニンの刀が音速の域に達する!

ズバッ!
555第三章 絆:02/02/06 19:36 ID:Nc7nEbYa
下から振り上げたソニンの刀は空を切り裂いていた。
届かなかった。いや、微かに小湊の薄皮一枚を切っただけだ。
ソニンの肉体はすでに限界に達していた。
後藤の看病でまともな睡眠をとれなかったし、なにより小湊との実力差が響いていた。
そんな状態で使えるような技ではなかった。
ソニンはガクリと膝を落とした。
(…こいつ…!)
小湊の体にはまだ鳥肌が立っていた。冷や汗が止まらない。
こんなスリルを味わったのはあの娘。たちと戦った時以来だ。
だが、ソニンはもう動けない様だ。小湊の勝ちだ。しかし…
(…万全の状態で戦ってみたかったっぺよ…。)
小湊はうっすらとついた傷から流れた血を拭った。
「剣士として礼を尽くすっぺ。誰にも見せた事のない最高の技で仕留めてやるっぺ!」
小湊は腰に差したもう一本の刀を抜いて、両手に二本の刀を構えた。
ソニンはその姿に我が目を疑う。
「…まさか、そんなバカな!それはあの人の…!」
「新・小湊流奥義…!」

バシュッ!