■ テスト その1

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451第一話 師弟
「なんだよ!そんなに夢が大事かよ!?そんなの諦めちまえばいいじゃんか…!」
吉澤には後藤の姿が信じられなかった。いや、恐かった。
「…うわーん!」
もう堪え切れない。辻はボロボロと涙をこぼす。
そして浜崎に飛び掛かった。
浜崎は僅かに動いてそれをかわす。
「あんたが残りの半分だね。よく我慢した、えらいよ。」
浜崎は晴れやかな笑顔で辻を見た。
「…よくも、よくもねーちゃんを!」
ユウキが刀を抜いて浜崎に切りかかる。
浜崎は長剣を鞘に収めながら軽くそれをかわす。
「お前、後藤の弟なの?だったら早く助けてやりな。アイツはまだ生きてるから。」
「…なっ!?」
ユウキは後藤が落ちた海面を見た。ブクブクと泡が浮かんでいる。
「……!」
ユウキは海に飛び込んだ。
浜崎は微かに出来た頬の傷から流れる血を拭った。
(まだ死ぬには早いよ。生き急ぐなよ、後藤真希…!)
452第一話 師弟:02/01/18 23:49 ID:FbjHlba0
ものの数秒もしない内に、ユウキは後藤を抱きかかえて海面に姿を現した。
そして、そばにあった小さな小舟に後藤を乗せる。
加護とソニンが飛び移った。
「…のの、大丈夫や!ごっちんはまだ生きとる!」
辻はヘナヘナと座り込んだ。
ソニンは急いで後藤に傷薬を塗る。ユウキはオロオロするばかり。
ふと、後藤が意識を取り戻した。
「…ごめん。あたし、負けちゃった…。」
もちろん力の差は戦う前から感じていた。
でも死ぬ気でやればなんとか埋められると思った。
しかし、気持ちだけではどうにもならない圧倒的な力の差。
(…なんだろ、なんだろこの気持ち…!?…悔しい!)
後藤の目から涙がこぼれ落ちる。
市井との約束を果たせなかった。自分の目標を、夢を達成出来なかった。
いや、それ以上に…
(こいつに…、こいつに勝ちたい…!)
453第一話 師弟:02/01/18 23:51 ID:FbjHlba0
「あたし、強くなる!もっともっと強くなる!
こいつはあたしが倒すんだ!今度は絶対に負けないから!」
「……。」
辻は涙を流しながら何度もうなずいている。
その時、浜崎が後藤の大剣をユウキに投げた。
「あゆはー、まだ当分、世界一でいるからー。いつでも相手してあげるー。
楽しみに待ってるよー。」
「あはっ、ありがとー…。」
後藤は心の底から感謝した。チェッ、本当に何枚も何枚も上手だな…。
辻は涙で頬を濡らしながら笑顔で叫んだ。
「…ののもまってます!ごとうさんはぜったいにかちます!」
「ありがとー、じーつー…。」
後藤は目蓋を閉じてぐったりとなった。ユウキが慌てる。
「わっ!ねーちゃん!?」
「……ZZZ。」
「大丈夫ニダ。眠ってるだけニダ…。」
浜崎は辻と後藤のやりとりを微笑ましく見ていた。
(…ユニットってのもいいもんだねー。ヨっちゃん、何してるかなー…?)
454第一話 師弟:02/01/18 23:53 ID:FbjHlba0
浜崎は帰ろうとしている。はたけが声をかけた。
「…なんや、オレを見逃してくれるんか?」
「…そっかー、まだいたんだねー。」
浜崎は面倒くさそうに振り返った。
「あゆはー、今すっごく機嫌がいいからー、お前なんか相手したくないね。
 それにあの人見たら、お前を始末するのはあゆの役目じゃないってねー。」
浜崎は保田の顔をチラッと見た。
保田が強い眼差しでそれに答える。
「ありがとう。そいつの始末をするのはウチらの役目だ。」
「頑張ってねー、海賊王の娘。さん。」
浜崎は自分の乗ってきた小舟に乗り移り、この場を立ち去った。
455第一話 師弟:02/01/18 23:56 ID:FbjHlba0
はたけが不敵に笑う。
「ハハハッ、誰かと思えば保田やないか!どーりで平家がこだわった訳や。
 オレを始末するやと?偉なったモンやのー。それにその足どないしたんや?
 どうやらあのアホらしい夢も、これでもう完全に終いやなー!」
「……!」
保田が唇を噛み締める。吉澤は両手のこぶしを力強く握り締めた。
(こいつ…!絶対に許さない!)
はたけが海兵たちに合図した。
「アイツさえおらんかったら怖いモンなんか無いわ!おう、お前ら!
 この船は“元”海賊の船や!せやからかまへん、奪うんや!」
海兵たちはゆっくりとレストラン船に近付いてくる。
その目にもう迷いはない。生き残る事だけを考えた獣の目。
フラフラな者が何人かいる。どうやら長く、何も口にして無いらしい。
それがどうした?こいつらはこの船を狙う侵略者だ。
信念を曲げるくらい容易い事だ。吉澤は覚悟を決めた。
「足場を出せ!この船を傷付けるワケにはいかない!」
その言葉に他のウェイターやコックたちが急いで船の中に戻る。
すると、海中から羽根のような広い足場が現れた。
「…なるほど、おもろい船やな。ますます欲しなったわ。やってまえ!」
はたけが叫んだ。海兵たちは次々と足場に上ってきた。
456第一話 師弟:02/01/18 23:58 ID:FbjHlba0
辻はある事に気付く。トロピカ〜ル号はまだ微かに遠くに見える。
「あいぼん!そのままごとうさんをつれて、りかちゃんをおいかけてくらさい!」
「なんやて!?あんなんほっとけばえーやんか!」
加護には辻が何故そんな事を言うのか分からない。
「…らって、りかちゃんはおともらちれす!」
辻は訴えるような目で加護を見つめた。その言葉に加護は弱い。
「くっ!…分かった!せやけど、のの、お前はどないすんねん!?」
「ののはよっすぃーがしんぱいれす…。」
辻には吉澤のさっきの言葉が引っかかっていた。
吉澤は夢があると言っていた。それなのにどうして諦めるなんて言える?
「のの、受け取れ!」
加護は辻に何かを投げた。それを受け取る辻。
ピンク色で二つ折り、なにやらボタンがたくさん付いている。
「それはウチが作った携帯式通信機や!それさえあれば遠くにいても話が出来る!
 離れとってもウチらは?がっとるんや!」
「あいぼん、ありがとう!」
「待っとるからな!ちゃんと連絡するんやで!」
加護たちの小舟は出発した。辻は大事そうにその携帯を懐にしまった。