■ テスト その1

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444第一話 師弟
後藤は浜崎の乗る足場に飛び移った。
大剣を抜いて浜崎に剣先を向ける。
「あたしは世界一にならなきゃいけないんだ。だからちょこっと相手してよ。」
「後藤、何を…!」
保田には後藤の行動が理解できない。
「後藤って、まさかあの後藤真希…!」
吉澤は後藤の正体に気付いた。このイーストブルーの海で最強の剣士だ。
世界一の剣士と、この海最強の剣士。
その二人が、今この場で対峙している。
しわがれ声で浜崎が話す。
「いるんだよねー、こーいうのが。ちょっと名前が売れたからって勘違いするのがさー。」
「勘違いかどうか、やってみないと分かんないよ。」
浜崎は大きく溜息をついた。そして懐から果物ナイフを取り出す。
後藤の眉がピクリと上がる。
「…何のつもり?」
「あいにく、一番小さいのがこれしかないからー。これで相手してあげるー。」
445第一話 師弟:02/01/17 18:11 ID:XnhQaicV
(ふざけんなよ!)
後藤が大剣を大きく上段に振り上げる。そして一気に間合いを詰めて振り下ろす!
目にも止まらぬ速さ。辻も加護も吉澤も、そして保田でさえも。
誰もが真っ二つになる浜崎の姿を想像した。しかし…
「……!」
その光景を見た誰もが自分の目を疑った。
後藤の大剣が浜崎の果物ナイフの先端で、一点で受け止められている。
後藤も我が目を疑う。いや、それどころかピクリとも動かせない!
「…これで分かったー?」
浜崎が気だるそうに話した。後藤はやっと剣を離せた。
(…まさか、まさか…!)
経て続けに後藤は剣を振る。凄まじい手数だ。
周りの人間の目には後藤の剣の動きが捉えられない。
しかし、そのすべてを浜崎は涼しい顔で難なく受ける。
そして後藤は何度も何度も転がされ、何度も何度も立ち上がった。
辻と加護、ユウキとソニンには信じられない。
あの強かった後藤がまるで子供扱いだ。
(…こんなに、…こんなに差があるのかよ…!)
後藤が動揺している。いつもより動きが大きくなったその瞬間だった。
446第一話 師弟:02/01/17 18:13 ID:XnhQaicV
トン。
大きく剣を振り被った後藤の懐に浜崎が飛び込み、
後藤の胸に果物ナイフを突き立てた。
「ごとうさん!」
後藤は剣を振り上げたまま動きが止まった。
「…すごいね。あんた、強過ぎるよ…。」
「そー、アンタの負けー。…どうしたの?引かないとー、心臓に届いちゃうよー。」
浜崎は後藤の胸にナイフを刺したままだ。
後藤は一歩も下がらない。
「…なんかここで引いちゃうとさー、今まであたしを支えてくれた半分を
 見失っちゃうような気がしてさー…。」
「…あとの半分は?」
後藤は横目でチラッと辻を見た。
辻は必死で、唇を噛み締めて涙をこらえている。
「残りの半分が背中を押してくれたから、…だからあたしは絶対に引けない!」
447第一話 師弟:02/01/17 18:18 ID:XnhQaicV
吉澤には理解できない。辻に掴みかかった。
「おい、あいつを止めろよ!このままだと殺されちまうぞ!」
「れきません!ごとうさんのゆめれすから…!」
命懸けで夢に向かう娘。を誰がどうやって止められる?
「……。」
浜崎はナイフを引いた。後藤はやっと剣を降ろした。
ナイフをしまって背中の長剣を浜崎は抜いた。
「もう一太刀くらい討てるでしょ?この最強の剣、Dearestで、
 あゆの最高の力で相手してあげる。」
「…あはっ、ありがとー。」
後藤は剣を構え直した。不思議と眠気は感じない。
そうだ。自分の剣は一撃必殺だった。
先の事など考えちゃいない。この一撃に、残りのすべてを懸ける!
後藤が動く。これまでで最高の速さだ。
浜崎が迎え撃つ。
ドンッ!
一瞬の交錯!

(…ごめん、じーつー…。…いちーちゃん!)
ブシュッ!
後藤の胸から腹にかけて縦に傷が入り、霧状の血が吹き出た。
そして、ゆっくりと体勢を崩して海に沈んでいった。