■ テスト その1

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424第一話 師弟
レストランの表側でなにやら騒ぎが起きていた。
「…なんだろ?騒がしいな…。」
吉澤を先頭に、辻・加護・平家が船の前方に向かって歩き出す。
叫び声が聞こえてきた。
「なんだ、あのデカい船は…!?」
「海軍の船か?でもあれは…?」
その声に平家が動揺する。
「…あの人や。…アカン!あの二人を会わせたらアカン!」
平家は船の前方に駆け出した。

「…ちょっとゴメン。騒々しいな…。」
保田は後藤の話を遮ってソファーから立ち上がり、窓から顔を出した。
窓の下には辻・加護・吉澤の三人。そして走り出した平家。
保田は吉澤に声をかけた。
「吉澤!何があった?」
「分かんない!なんかデカい海軍の船が来たって…。」
吉澤は保田を見上げて答えた。
(海軍の船…?みっちゃん…?…まさか!?)
保田は後藤に振り返った。
「悪い、後藤!話は後だ!」
425第一話 師弟:02/01/13 20:59 ID:/Ry2gjk7
辻・加護・吉澤の三人は船の前方に着いた。
「なんだよ、アレ…!?」
吉澤は自分の目を疑った。
その船は紛れもなく海軍の船。
それも本部直属の上級将校のみ、乗る事が許された大戦艦だ。
しかし、何本もあったはずのマストがすべて折られ、帆は切れ端が残るのみ。
船体のいたるところに傷やはがれた跡がある。無残な有様だ。
(この船がこんなになるって、嵐…?台風…?いや、それでもこれほどは…。)
常識はずれな破壊の有様に吉澤は驚きを隠せない。
「あっ、さっきのねーちゃんや!」
加護が指差す方向。
平家が小舟で戦艦に渡り、甲板から降りたはしごを昇っていた。
その時、保田がやって来た。少し遅れて後藤も到着。
保田が戦艦を見上げる。平家が甲板に乗り込むところだった。
(みっちゃん…!やっぱりそうか!この船にはヤツが…!)
426第一話 師弟:02/01/13 21:02 ID:/Ry2gjk7
甲板には何人もの海兵が倒れていた。
その目はうつろで唇が乾ききっている。
もう何日も、何も口にしていない姿だった。
一人の海兵が平家の姿に気付く。
「…曹長、助けて…。」
「…スマン…。」
平家は目を合わさずに急ぎ足で船室に向かった。
船室には一人の男が入り口を背にして、豪華なソファーに腰掛けていた。
その髪は長く、金色に染められている。
「…はたけさん、今戻りました。」
平家がその後姿に声を掛けた。男がゆっくりと振り返る。
「…やっと見つけたで、他の船を…。これでなんとか助かる…。
 平家、お前もうハナシつけて来たんか…?」
はたけと呼ばれたこの男。以前はある海賊団にいた。
ところがある日、何人かの仲間と共謀してその頭を裏切り、その首を差し出した。
それと引き換えに今の地位を手に入れた男。
さっき甲板にいた海兵たちよりもまだまだ血色が良い。
427第一話 師弟:02/01/13 21:04 ID:/Ry2gjk7
平家は首を横に振った。
「…スイマセン、出来ませんでした…。」
はたけの表情が険しくなる。立ち上がって平家に詰め寄った。
「なんやと!オレは海軍本部の大佐や!オレの命令が聞けへんちゅうんか!?」
「そんなんちゃいます!今はこれだけでも…。」
平家は懐から食べかけの半分残ったベーグルを取り出した。
「…なめとんのか!」
はたけは平家の手を叩いた。
「あっ!」
床に落ちるベーグル。それをはたけが踏み潰す。
平家がはたけを睨みつける。
「…はたけさん!なんて事を…!」
「なんやその目は…。決めたで、奪うんや。あの船丸ごと奪ったる!」
平家の体に衝撃が走る。はたけにしがみついた。
「あの船だけは…、あの船だけは勘弁してください!他の船すぐに見つけますから!」
「…うるさいわ!」
ガツッ!
はたけが平家を殴り倒した。平家が壁に激突する。
「お前いつから口答えするようになったんや。黙って見とれ。」
(…圭ちゃん!…スマン!ホンマにスマン…!)
殴られた頬を押さえる平家。その頬を涙が伝わっていた。