見渡す限りの青い空。
すがすがしい風に帆を膨らませ、船はゆっくりと進む。
甲板で加護がなにやら作っている。
それを興味深く見つめる辻。
後藤は椰子の木の木陰、船の後部でお昼寝中。
船室から石川が顔を出す。
「みんな〜、ご飯出来たよ〜♪」
「わーい、めしー!」
「もー、遅いっちゅうねん。お腹と背中がくっついてまうわ。」
辻と加護の二人は即座に反応。
しかし、後藤は、
「ZZZ…。」
「あれ〜、ごっちんはいいのかな〜?」
「ほっといたらえーねん。寝とるほーが悪い。」
辻と加護はテーブルに付いた。
「じゃ〜ん!チャーミー特製の焼きそばだよ〜♪」
石川がテーブルの上に皿を置いた。
辻と加護の表情が歪む。
「うげっ!といれくせーのれす!」
「アホかっ!こんなモン、誰が食うかいボケッ!」
加護が窓から焼きそばを投げ捨てる。
魚たちがエサかと集まってきた。すると、
プカー…
焼きそばを食べた魚たちが腹を上にして浮かび上がった。
「…お、お前、殺す気かっ!」
(な、なんで…、シクシク…。)
その時、甲板から若い男の声がした。
「こらっ!海賊たち、出て来いっ!」
「なんや?騒々しいな…。」
辻・加護・石川の三人は船室から出た。
するとそこには若い男女のコンビが立っていた。
三人はその男の顔を見て驚く。
「…ごとうさん?」
そう、その顔はまさしく後藤真希。しかし、こちらは明らかに男だ。
「…ユウキ、知り合いニダか?」
片割れの女が、後藤似の男に話した。
後藤似の男が答える。
「オレはこんなヤツら知らねーよ!問答無用!ソニン、行くぞ!」
ユウキと呼ばれた男が、刀を振り上げて襲い掛かってきた。
とっさに三人は身をかわす。
男の振った刀によって、船の手すりが切り落とされた。
「…いきなり何しよんねん!このアホ!」
男が不敵に笑う。
「はははっ。海賊専門の賞金稼ぎユニット、ユウキとソニンとはオレ達のことだ!」
辻は訳が分からないといった顔をしている。
「ごとうさん!?」
「のの、こいつはごっちんちゃうで!やってまえ!」
ユウキが辻の目の前で刀を振り上げる。
「こんな名も無い海賊にやられるかよ!」
刀を振り下ろす!
しかし、それより速く辻の体当たり!
「ぷにぷにのー、はらー!」
ボッカーーーン!
ユウキは遥か彼方へと吹っ飛んだ。
「ユウキ!」
ソニンがユウキの飛ばされた方向を見て叫んだ。
ユウキはかなり遠く離れた海に落ちたようだ。
「んあー、もーうるさいなー。何かあったのー?」
後藤があくびをしながら姿を現した。
その姿を見てソニンが驚く。
「えっ、真希さん!?…なんで!?」
後藤がソニンの姿に気付く。
「あー、ソニンさんじゃーん。久し振りー。どーしたの?こんなトコで。」
バシャバシャバシャ。ザッパーン!
遠くに飛ばされたはずのユウキが、もの凄い速さで泳いで戻ってきた。
「…ハァ、ハァ。よくもやりやがったな!許さねえ…。」
後藤がユウキの姿に驚く。
「あっ、ユウキじゃん。お前まで何やってんの?」
「えっ、ねーちゃん?…なんで…?」
そう、後藤真希とユウキは実の姉弟だ。
似ているのも無理はない。似すぎとも言えるが。
そして、ソニンは和田道場でのユウキの同期。
年はソニンが上だが、後藤のほうが先輩だ。
後藤が尋ねる。
「二人そろって何やってんのー?」
「聞いてくださいよ、真希さーん。」
ソニンが後藤に泣きついた。
「ユウキったら、和田さんとケンカしテムニカ、飛び出して来たニダ…。」
「ちょっと、何やってんの?ユウキ!」
ゴツン!
後藤がユウキの頭を殴った。
「痛いなー、ねーちゃん。だってさー…。」
市井のあの一件以来、ユウキは死にもの狂いで泳ぎの練習をした。
さっきの異常なまでのスピードの泳ぎはその賜物だ。
自分さえしっかりしていれば市井を死なせることはなかった。
命懸けで守ってもらったこの命。
それなら今度は自分が守る番だ。
もう絶対、誰も海で死なせはしない。
その思い、責任からユウキは必死だった。
そして実際、ユウキはいくつもの海難事故から何人もの人々を救った。
そんなユウキを和田は微笑ましく見ていた。
市井の意思、勇気は確実に受け継がれて生きていると。
しかし、和田は同時に複雑な思いを抱いていた。
人の命を救う勇気。
それは疑うべくもなく素晴らしいことだ。
だが、和田はユウキを道場の跡継ぎとして期待していた。
それなのに、肝心の剣術のほうがおろそかになっている。
見かねた和田がユウキを叱りつけると、ユウキは飛び出していった。
そんなユウキを心配した和田が、ちょうど旅に出るところだったソニンに
ユウキを追わせ、戻るように説得するよう頼んだのだった。
ところが、同期のソニンの説得などにユウキは応じない。
そこでしょうがなく、ソニンはユウキと一緒に行動しているのだった。
「またお前はー、みんなに迷惑ばっかりかけて!」
後藤がまたユウキを殴ろうとする。
ユウキは慌てて身をかわす。
「いーじゃん、いーじゃん、少しくらいさー。飽きたらまた帰るから。」
「もー、しょうがないなー。ソニンさん、ゴメンね。このバカのせいで…。」
後藤はソニンに頭を下げた。
ソニンは慌てる。
「そ、そんな。頭下げないでください。全然、気にしてないニダ…。」
ソニンにとって後藤は憧れの存在だ。
市井が出て行ってからの道場で、後藤に並ぶものは誰一人としていなかった。
そんな人に頭を下げられるほうが恐れ多い。
ところがユウキはのん気なもんだ。
「この先に、確か海上レストランってのがあるはずだぜ。みんなで行こー!」
「わーい、めしー!」
「えー事ゆーた、後藤2号。まともなもん食うでー!」
(ウウッ…、シクシク…。)