■ テスト その1

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308第三話 嘘つき
日はかなり西に傾いていた。
「ののちゃんとあいぼん、どこいっちゃったんだろうね〜?」
石川と四人の少女は道端で立ち尽くしていた。
すると、そこに後藤が現れた。
「もー、梨華ちゃん、ひどいじゃん。後藤の事、置いてっちゃうんだもん。」
「ご、ごめん、ごっちん。気持ち良さそうだったから…。」
石川は手を合わせて謝る。
「後藤、お金持ってないからさー。今までずっとお手伝いしてたよー。
みんな、お金払ってないんだもん。あー疲れたー。」
そんな六人の目の前を、加護がものすごい勢いで走り抜けた。
石川は不思議に思った。
「あれ〜、なんかあったのかな?それに、ののちゃんは?」
「???」
後藤はさっぱり分からない。
309第三話 嘘つき:01/12/26 22:40 ID:YhHJIrT6
加護は村の中央広場で立ち止まった。
そして、大きな声で叫ぶ。
「みんな大変や!海賊が来るんや!明日海賊が攻めて来るんや!」
村人の何人かが民家から出てきた。
「こら、加護!またそんなウソばかりついて!」
「あんまり騒がすと、今度こそ承知しないぞ!」
村人達が加護を叱り付ける。
加護は必死になって叫ぶ。
「ホンマやねん!今度こそホンマに海賊が来よんねん!」
しかし、村人の誰一人として加護の言葉に耳を貸すものはいなかった。
それどころか、加護に向かって物を投げだす始末。
(くそっ、なんでやねん!なんでみんな信じてくれへんねん!)
加護は広場から駆けて出ていった。
310第三話 嘘つき:01/12/26 22:42 ID:YhHJIrT6
(あーあ、あいぼん、もう来てくれないのかな…。)
松浦はベッドの中で、枕を抱えてうな垂れていた。
すると窓の向こうに、こちらに向かって走ってくる加護の姿が目に入った。
(あっ、あいぼん!やっぱり来てくれたんだ!)
松浦は喜んで窓から顔を出す。
加護が窓の下までやって来た。
「あやや!大変やねん!あのアヤカっちゅう奴は海賊やったんや!
お前を騙して殺すつもりなんや!今ならまだ間に合う、はよ逃げよ!」
松浦は驚いた。
「…どうして?どうしてそんな事言うの、あいぼん?
確かに、さっきのアヤカさんは言い過ぎだったと思う。
でもそんな仕返しするなんて卑怯だよ…。」
311第三話 嘘つき:01/12/26 22:44 ID:YhHJIrT6
「ちゃうねん!ホンマやねん!信じてくれ、あやや!」
加護が必死になって叫ぶ。
松浦は涙を流していた。
「…そんなあいぼん、大っ嫌い!もう帰って…!」
加護は唇を噛み締めた。
涙が出そうだった。振り返り、走って松浦家を後にする。
(くそったれ!…ウチは、ウチは…!)
小さな加護を大きな後悔が襲っていた。
今までいいかげんな事ばかり言ってきたので、誰にも信じてもらえない。
友達だと信じていた松浦でさえも。
そして、今度こそ完全に松浦に嫌われた。
そんな加護の後ろ姿を松浦はずっと見続けていた。
(あいぼん、いったい、どうしちゃったの…?)
312第三話 嘘つき:01/12/26 22:46 ID:YhHJIrT6
加護は後藤・石川・四人の少女のところに戻ってきた。
「いったい、どうしたんですか?おやびん…。」
柴田が不安そうに尋ねた。
加護は笑顔で答える。
「なんでもないわ。また、ちょっと騒ぎたかっただけや。」
「でも…。」
「ホンマになんでもないねん。もう遅いから、お前らは帰りや…。」
加護にそう言われ、四人の少女は後ろ髪を引かれる思いで、
何度も振り返りながら帰っていった。
するとそこへ、辻があくびをしながらひょっこり現れる。
加護は腰を抜かしそうになった。
「なんや、のの!お前、生きとったんか…!?」
「へい、ののはぷににんげんれすから。」
「???」
313第三話 嘘つき:01/12/26 22:48 ID:YhHJIrT6
四人は海岸に来ていた。日はもうすでに落ちている。
後藤と石川は、辻と加護からすべてを聞かされた。
心なしか石川の様子がおかしい。
岩に腰掛けた加護が、両手のこぶしを固く握り締めて話す。
「…ウチがアホやった。自業自得や…。
でもウチは、ウチが育ったこの村が大好きやねん!
おとんとおかんの思い出が詰まったこの村を守りたいねん!
それに、友達も…(もう、嫌われてもーたけどな…。)!」
辻が立ち上がった。
「ののもてつらうのれす。」
(えっ?)
「そんなの聞かされちゃ、黙ってらんないね。」
「うん!チャーミーも頑張る!」
314第三話 嘘つき:01/12/26 22:50 ID:YhHJIrT6
「…なんや、同情やったらお断りやで…。」
加護が強がる。
辻は首をかしげる。
「…ろうじょうってなんれすか?」
後藤は平然と話す。
「命懸けで守りたいんだろー?
だったら、あたしはお前がなんて言おうと手伝うよ。」
さっきから様子のおかしかった石川が、怒りを露わにする。
「海賊に村を襲わせるなんて許せないっ…!」
辻と後藤は驚いた。
こんな石川の姿を、二人は初めて見た。
「お、お前ら…。」
加護の胸に熱いものが込み上げていた。
315第三話 嘘つき:01/12/26 22:52 ID:YhHJIrT6
夜が明けた。
四人は海岸から伸びる坂の上に陣取っていた。
「ヤツラはきっと、こっから来る思うねん。
 ほんで、ここさえ守りきればなんとかなるはずや。」
この坂は一本道。そして左右は断崖絶壁。
全員、加護の言うことに納得した。
加護はバッグから何本もビンを取り出し、中の液体をドボドボと坂に流す。
「なんれすか?それ。」
「油や。この坂は急やからな。きっとよく滑りよんで。」
すべてのビンが空になる。かなりの範囲に油が広がった。
316第三話 嘘つき:01/12/26 22:54 ID:YhHJIrT6
「…おそいれすねー。」
「ホンマやな。もしかして、今日は来−へんのかも…。」
辻と加護は集中力を切らしていた。
「ちょっと、静かにして!」
後藤が耳を澄ます。
「…聞こえる。大人数の歓声が、向こうの方から…!」
後藤の指差す方向。それはこの岬の反対側の方向だった。
「…昨日こっちで話しとったから、てっきりこっちやと…。しもたっ!」
加護はすぐに駆け出した。慌てて辻がそれを追う。
後藤も追いかけようとする。そのとき、石川が油で足を滑らした。
「キャッ!」
とっさに後藤の服を掴む。二人そろって坂を滑り落ちた。
「ちょっと、梨華ちゃん!なんてことすんの!」
「ご、ごめん。ごっちん…。」
後藤は坂を見上げた。
(ちっ!まずいな…。)