■ テスト その1

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237第二話 裏切り
「だからオイラは、オイラを裏切ったアイツらを許せない!」
バシュ、バシュ!
矢口のナイフを持った両手が切り離れ、辻めがけて飛んでいく。
「ののちゃん、危ない!」
石川が叫ぶ。
ズバ、ズバッ!
矢口の両手が辻の両腕を切りつける。
しかし、辻はうつむいたまま動かない。
「どーした?怖気づいたのかよ!」
矢口は空中に浮かんだ自分の手を自在に操り、何度も辻を切りつける。
辻の体にいくつもの切り傷がつくられ、血が流れ出ていた。
238第二話 裏切り:01/12/17 21:21 ID:/r5TU4cO
(チッ、なんだよ。これじゃまるで弱い者イジメじゃん…。)
矢口は不快な気分になって叫ぶ。
「オイ、お前!なんで抵抗しないんだよ!?」
辻は顔を上げた。
その顔は涙でグシャグシャになっていた。
「…らって、らって、いいらさんはそんなひきょうなことしません!
 ののはしんじてます!…れも、れも、やぐちさんがかわいそうれす…!
 らから、ののはろうしたらいいかわかりません…!うわーーーん!」
辻は大声で泣き出した。
239第二話 裏切り:01/12/17 21:22 ID:/r5TU4cO
信じてるだと?フザケんなよ。
たかだか少しの間、一緒にいたくらいで何が分かる。
こっちは何年も生死を共にして戦ってきた仲だ。
カオリの事はアタシの方が良く知っている。
「………!」
矢口はハッとした。
そうだ、アタシはカオリの事を良く知っている!
アイツはそんな事に頭の回るヤツじゃない!
そんな器用なマネが出来るようなヤツじゃない!
サヤカだってそうだ。
“あの方”を裏切ったアイツらを、一番憎んでいたのはサヤカじゃないか!
240第二話 裏切り:01/12/17 21:24 ID:/r5TU4cO
(こんなガキに同情されるなんてどうかしてた。それに仲間を信じてやれないなんて…。)
矢口の攻撃の手が止まった。
「オイ!お前もう十四歳やろー?泣くなー!」
「らって、らって…。ひっく、ひっく。」
「あー、もう!子供に泣かれるとホントに面倒くさいんだよ!
 ほら、もう怒ってないからさー。」
「くすん、くすん、…ほんとれすか?」
矢口は辻に背を向けて答える。
「うん、ホント。…あのさー、そのさー、カオリ、元気だった?」
辻は笑顔で答える。
「へい!げんきれしたよ!なんか「カオリ、同じところ回ってるような気がする
 んだよねー。不思議だなー。」っていってました。」
キャハッ、そうかカオリらしーや。
じゃあ、きっとサヤカも…。
241第二話 裏切り:01/12/17 21:26 ID:/r5TU4cO
「じゃあ、ごとうさんのけん、かえしてもらいますね。」
辻が後藤の剣を拾う。
「うん、ってゆーか勝手に置いてったんじゃん。」
「あとれすねー、りかちゃんのおたからとたからのちずもかえしてくらさい。」
(ヒィィィーーー!)
石川の背筋が凍り付いた。
辻のそばに駆け寄る
「な、何言ってるの?ののちゃん…!ウフフフ…。」
「え?らって…、うぐうぐ…。」
石川が辻の口を手でふさいだ。
242第二話 裏切り:01/12/17 21:27 ID:/r5TU4cO
矢口が不審そうに辻に尋ねる。
「オイラが持ってる地図っつったら、“グランドライン”の地図だけど…。
 そんなとこに行って、お前どーすんの?」
辻の耳がピクンと動く。
…グランドライン?
そうだ。飯田に教わった、海賊王が通った路だ。
辻が石川の手を外して大きな声で答える。
「へい!ののはかいぞくおうになるのれす!」
周囲に沈黙が訪れた。
243第二話 裏切り:01/12/17 21:29 ID:/r5TU4cO
「キャハハハハハハ…!」
その沈黙を破ったのは矢口の笑い声だった。
辻がほっぺたを膨らまして抗議する。
「なんれすかー!?のの、おかしいことゆってないれすよー!」
「キャハハ…。オモシレー!いや、違う。そーゆー意味じゃなくって…。
サイコーだよ、お前!気に入った!」
「ほえ?」
辻には訳が分からない。
「やるよ、ホラッ!」
矢口は懐から丸めた地図を取り出し、辻に投げてよこした。
石川が驚く。
「エッ!?…いいんですか〜?」
「いいんだ、オイラは一度行ったことあるから。」
(それに、他にもっとやりたい事、見つけたし…。)
「…あとさー。」
矢口は辻と石川に背を向けてモジモジしながら言った。
「…後藤に謝っといてくんない?さっきは言い過ぎたって…。」
「…あーい!」
辻は満面の笑みで答えた。
244第二話 裏切り:01/12/17 21:31 ID:/r5TU4cO
辻と石川は、眠ったままの後藤と、
矢口に分けてもらった水と食糧を船に積み込んでいた。
残念ながら、宝は無い。
辻が宝と言おうとするたびに、石川がカン高い声を出して誤魔化していた。
不思議に思った辻だったが、食糧が手に入ったので宝のことはすっかり忘れた。
そんな二人を遠くから見つめる二つの影があった。
矢口としげるだった。
(仲間、か…。)
南向きの風に吹かれた矢口はセンチメンタル。
そんな矢口にしげるが声をかける。
『あのさー、そろそろここも飽きたし、どっか別のとこに行こーよ。
 長い船旅もしたいなー。オレ、船酔いもガマンするし…。』
矢口の目頭が熱くなった。
やっぱりダメだなー。強がってたけど…。
「しょーがないなー!しげるがそこまで言うなら行くか!」
『(ボソッ)チェッ、素直じゃないなー。』
「なんか言った?」
『ううん、別に…。』
爽やかな南風が吹いていた。

(またみんなに、あの時の仲間に会いたい!)

第二章 第二話 完