■ テスト その1

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208第二話 裏切り
矢口の体は上半身と下半身で、ちょうど半分に分かれて横たわっている。
「や、やっぱりすごいれすね、ごとうさん…。」
辻は後藤の目にも止まらぬ早業に驚いた。
石川などはこの一瞬の出来事に声も出ない。
しかし、一番驚いていたのは後藤真希本人だった。
後藤の両腕にあるはずのものが無かった。
(なに?今の…。手応えが全然ない…!)
その時、後藤の横腹に熱い感覚がはしった。
「うぐっ!」
後藤は膝から崩れ落ちた。
(…なんだ?これっ…。)
後藤の横腹にナイフが刺さっている。
その柄は矢口の手に握られていた。
209第二話 裏切り:01/12/14 22:42 ID:vByuWZSt
手?
矢口の手首から先だけが切り離れて、ナイフを掴んで後藤を刺した!?
「…ぐはっ!」
後藤はナイフを矢口の手首ごと引き抜いた。
大量の血が流れ出る。
「あーあ、もーちょっとで内臓もえぐってやったのにー。」
矢口の声がした。
すると、横たわっていた上半身と下半身、ナイフを持った手首が一つに集まる。
「“バラバラ肉”…。それがオイラが食べた“悪魔の実”の名前だよ!
 オイラは切っても切れないバラバラ人間なんだ!キャハハハ!」
その矢口の姿を見て辻が叫ぶ。
「あっ!ほんとうはちっちゃいじゃないれすか!」
くっついた矢口の本当の身長は、なんと辻よりも低かった。
「うるさーい!“シークレット胴”がバレちまった!」
210第二話 裏切り:01/12/14 22:43 ID:vByuWZSt
(…ちっ、能力者だって聞いてたのに…。つい、カッとしちゃって…。)
後藤は薄れゆく意識の中で、何とか言葉を搾り出す。
「じーつー、…ごめん、あたし…寝る。」
そう言うと後藤はうつ伏せに倒れこみ、爽やかな寝息を立て始めた。
「ZZZ………。」
後藤の唯一ともいえる弱点がこれである。
ある一定以上のダメージを受けると、体力回復の為に所構わず眠ってしまう。
こうなると体を揺すろうが、水をかけようが起きる事は無い。
過去に一度だけ、後藤は今と同じ状態になっていた。
「なんだよー。オイラのこと無視すんな!」
矢口が眠っている後藤の頭を蹴飛ばす。
「ごとうさん!」
辻が後藤を助けようと、矢口に向かって走り出す。
「おっと、お前の相手はオイラじゃないよ。出ておいでー、しげるー。」
矢口の背後で大きな影が動いた。
211第二話 裏切り:01/12/14 22:45 ID:vByuWZSt
巨大な熊だった。
その巨体は2階までゆうに届き、その毛皮はまっ黄色。
赤いベストを着込んだ姿は愛らしく、なぜか下は穿いていない。
『なんだよー、真里。さっきは黙ってろって言ってたのにさー。』
なんとこの熊、人間の言葉を話す。
「(カァァァーーー)ちょっと!名前で呼ばないでよ!なんか恥ずかしいじゃん!」
『(も、萌え〜)いいじゃんか。俺と真里の仲じゃんよ。』
「どんな仲だよ!」
『俺のこの心も体も、真里、お前の物だよ…。』
「もー!ちょっと、ヤメテー!顔が赤くなっちゃうじゃん!」
212第二話 裏切り:01/12/14 22:46 ID:vByuWZSt
辻は矢口としげるのやり取りをボーッと見ていた。
「くまさん、かわいいれすね…。」
そんな辻の腕を石川が引っ張る。
「ねえ、ののちゃん。今のうちに後藤さんを…。」
矢口としげるが哲学?をしている間に後藤を安全な場所に連れて行こうというのだ。
「あっ、そうれすね!」
そう言うと辻は後藤の足を掴み、すごい勢いで走り出した。
ズズズズズズーーーーーー!
後藤の体が引きずられ、土埃が巻き上がる。
「ちょっと、ののちゃん!そんなにして平気なの?」
石川が辻を追いかけながら心配して声をかける。
「へい。このぐらいじゃごとうさんはおきないれすよ。」
「ZZZ………。」
後藤はスヤスヤと眠っている。
(チャ、チャーミー、この人たちについていけないかも…。)