雲ひとつ無い青い空、穏やかな風の中、一艘の船が海原をゆっくりと進む。
辻と後藤の船だ。なにやら言い争っている。
「あー、じーつー。お前が一人でバカみたいに食うから、
食糧が全然なくなっちゃったじゃんかー。」
「のののせいらけじゃないれす!ごとうさんこそ、「よーし、早食い競争だ。
負けないぞー。」って、ぜりーのいっきのみしたじゃないれすか!」
「あはー、そうだっけ?…とにかくお腹空いたよー。」
「へい。はらへったのれす…。」
どうやら二人は食糧を食い尽くしてしまったらしい。
かなりの量を積み込んでいたはずだが。
しかも辺りに島は見当たらない、ここは海のど真ん中。
「ところでさー、じーつー。この船どこ向かってんの?」
「へっ?」
辻はあまりにも意外な後藤の言葉に驚いた。
「…ご、ごとうさんがしってるかとおもってたんれすけろ。」
「あははは、後藤がそんなの分かるわけないじゃん。バカだなー。」
「…れも、ごとうさんはけいけんがほうふらって…。」
「あー、“あか組”の時のことー?あの時はそーゆー面倒くさいのは、
リーダーの裕ちゃんが全部やってくれてたから。」
そう、“あか組”時代の後藤といえば、強力なセンターとして名を轟かすが、
その実、食って、戦って、寝る。の繰り返しだけだった。
「………。」
「なんだよー、じーつー。そんなあからさまにガッカリされると、
ちょこっと傷つくじゃんかー。」
「そのゆうちゃんってひとは、いまろこにいるんれすか?」
「んあー、たしか、「昔のメンバーに会いたくなった。」って、その人の
故郷に行ったと思うけど…。」
二人がそんなやりとりをしながらも、船はゆっくりと進む。
というか流されている。
ふと、前方に船の影が現れた。
「あっ、ごとうさん!みてくらさい、あれ!」
「なにー?ただの船じゃん。」
「あのふねのひとに、みちをおしえてもらうんれすよ!」
後藤はポンと手を叩く。
「あっ、そーかー。じーつーなかなかやるじゃん。」
「ごとうさん…。」
辻は少し後藤に不安を感じたが、オールをその船に向けて力強く漕いだ。
近づいてくるにつれてその姿が明らかになる。
辻と後藤の船と大きさはほぼ同じ。
髪の茶色い、線の細い一人の娘。が縁にうつ伏せになっていた。
「…このひとそうなんれすか?」
「そうみたいだね。んじゃ、路、分かんないだろうし、行こうか。」
「あい。」
辻と後藤はその船の脇をとっとと通り過ぎようとする。
すると、うつ伏せになっていた娘。がカン高いアニメ声で呼び止める。
「…ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜(汗)。」
上げたその顔は何日も海を漂っていたのか、黒く焼けていた。
その肌の黒い娘。が話す。
「ああっこんなに広い海で人に出会えるなんてまるで夢でもみいるよう
ワタシ遭難してしまって水を一杯わけていただけませんか。」
「…随分、棒読みだなー。」
「(ビクッ!)…!」
「ひっく…、ひっく…。かわいそうれすね…。」
「…(おい、じーつー…。)。」
「(ホッ!)…。」
その肌の黒い娘。が続ける。
「ワタシこの先の島から来たんですけどその島が海賊に襲われてワタシの
宝と宝の地図を奪われて、グスン、グスン。」
「…涙、出てないよ…。」
「(ビクッ!)…!」
「ぷん、ぷん!ひろいやつれすね!ののはゆるせないれす!」
「…(おい、じーつー…。)。」
(やったっ♪チャーミーの演技、大成功!)
その娘。は石川梨華と名乗った。
「チャーミーって呼んでくださいねっ♪」
「「…。」」
辻と後藤は完全に無視した。
(ううっ(泣)。でもチャーミー負けない!ポジティブ、ポジティブ!)
石川は考えていた。
この二人が宝を持っていなかったのは残念だ。
しかし、この後藤真希という娘。持っている剣とその雰囲気。
かなり強いに違いない。
(この人だったら、もしかして…。)
そうこうしているうちに、二艘の船は石川の案内した島へと着いた。
港には人の姿が無く、町は静まり返っている。
「なんか、しずかなまちれすねー。」
「うん。海賊に襲われて、町の人はみんな逃げてるから。
それよりお腹すいてるんでしょ?こっちよっ♪」
「わーい!めしー、めしー!」
辻は飛び跳ねながら石川の後についていく。
後藤は考えていた。
辻は気付いていないが、石川は何か企んでいるだろう。
しかし、人を疑うことを知らない辻にとっては、いい社会勉強かもしれない。
何があっても守ってやれる。その自信が後藤にはあった。