■ テスト その1

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135第二章
「すごいれす!ごとうさーん!」
辻が後藤の元に駆け付ける。と、後藤が急にふらつき剣にもたれかかる。
「ろうしたんれすか?」
「きゅ〜ん…、お腹すいた…。」
いくらずっと寝ていたとはいえ、さすがに丸三日間飲まず食わずでは当然だろう。
体に力が入らず、目の焦点も合っていない。
(そんな状態であんな真似が出来るのかよ…。)
小川はこの後藤真希という娘。の強さに心の底から驚いた。
自分なりに自信を持って田舎から出て来た。しかし、ナッチーに出会ってその自信は
あっという間に打ち砕かれた。そのナッチーを吹っ飛ばした辻、そしてこの後藤真希。
(チェッ、本当に世界って広いな…。まだまだ先は長い…か。)
136第二章:01/12/04 00:06 ID:gzeDlrUX
「う〜ん…、我々はいったい…?」
後藤に吹っ飛ばされた海兵達が目を覚ます。
そして大の字になって倒れている新垣大佐に気付く。
「ああっ!新垣大佐が…負けた…!」
と、海兵達が顔を見合わせる。そして全員に満面の笑みがこぼれる。
「「やった!」」
「新垣の支配の終わりだ…!」
海兵達は手に手をとって小躍りする。まるでお祭り騒ぎだ。
(そうか…、みんな新垣が怖かっただけなんだ。でも…。)
小川はその様子を見つめながら思った。
137第二章:01/12/04 00:07 ID:gzeDlrUX
騒ぎを眺めていた三人のそばに、一人の海兵が近づいてきた。
「私はこの海軍基地の副長だ。新垣大佐の恐怖からこの基地と、この街を
 救ってくれたことに感謝したい。」
小川は虫が良すぎると思った。
(アンタ達、海軍だろう。あんな奴一人にいいように…。いくら強くて怖いからって…)
小川は黙り込んでいた。後藤は腹が減って目が回っている。
「あのれすねー、おがわちゃんはかいぐんにはいりたいんれすよ。」
(なっ…!?)
138第二章:01/12/04 00:08 ID:gzeDlrUX
小川は辻を振り返った。副長が驚く。
「おお、それは本当かね!」
「へい!そうれすよね(にこにこ)。」
「そうか!異例な事ではあるが君の勇気はここにいる皆が知っている。
 是非、この近海の治安回復に力を貸して欲しい!」
辻は満面の笑みで小川を見つめる。小川は何か複雑な気分。
(チェッ…、そんな顔で見つめんなよ。もー…、しょうがないなー…。)
「フン!ここの海兵達はずいぶんたるんでんじゃないの。こんなんじゃ任せてらんないわ。
 アタシが鍛えなおしてやる。アタシは海軍将校になるんだから!」
「ハッハッハッ!頼もしい限りだ!その意気だ!」
139第二章:01/12/04 00:10 ID:gzeDlrUX
まだ日が高いにもかかわらず、海軍基地の中庭は宴の場と化した。
新垣大佐の恐怖からの解放、そして新しい仲間の歓迎といつになく大騒ぎだ。
小川は先輩海兵達に囲まれて談笑していた。
ふと気が付くと、辻と後藤の姿が見えない。二人は先程まで競い合うように料理に
食らいついていた。辻はついさっき食べたばかりだろう、とつっこむ気は無かった。
中庭をしばらく探すが見つからない。
「まさか!」
小川は港へと駆け出した。
140第二章:01/12/04 00:11 ID:gzeDlrUX
辻と後藤は船出の準備を済ませ、とはいっても食糧と水を積んだくらいだが、
出航しようとしていた。
「ホントにいいの?ちゃんと別れの挨拶しなくてさー。」
後藤が辻に声をかける。辻は後藤に顔を合わせずに答える。
「いいのれす。たのしそうれしたから…。」
「ふーん(あはっ、素直じゃないの)。じゃあ出すよ。」
後藤は明らかに寂しそうな辻を見ておかしくなった。そしてゆっくりと船を漕ぎ出す。
ゆっくり、ゆっくりと。すると小川が息を切らして港に現れた。
(よしっ!待ってたよっ♪)
141第二章:01/12/04 00:12 ID:gzeDlrUX
「ちょっと!なんでアンタ勝手に行っちゃうのよっ!」
小川が叫ぶ。辻は振り返らない。
「黙って行っちゃうなんてズルイじゃない!なんとか言いなさいよ!」
まだ辻は振り返らない。しかし、その体が小刻みに震えている。
「…アタシ決めたよ。何年かかるか分かんないけど、海軍将校になってアンタを
 とっ捕まえてやるんだから!それまで誰にも捕まんじゃないよ!“約束”だぞ!」
小川が涙を流していた。辻がやっと振り返る。その目にも涙が溢れていた。
「…ふん。おがわちゃんになんかつかまりませんよーら。ののはかいぞくおうに
 なるんれすよ!」
(フフッ、二人とも…)
後藤は二人のやりとりを微笑ましく見つめていた。小川が涙を拭う。
「…ねぇ、アタシ達離れちゃうけど、立場が違うけど、友達だよね?」
辻はボロボロ涙を流しながら答える。
「へい!もちろんれす!ずーっと、ずーっとともらちれす!」
二人は互いに見えなくなるまで手を振り続けていた。
142第二章:01/12/04 00:14 ID:gzeDlrUX
(なんか懐かしいなー、この二人見てると…。)
後藤は自分の事を思い出していた。市井が最初に旅に出た時もこんな感じ
だったかもしれない。
(あはっ、それに“約束”だって…。)
後藤は大切な守るべきものを思い出した。それは市井との約束。世界一のビッグ
になるという大きな約束。それとあともう一つ…。
(しょーがない、この後藤おねーさまが付き合ってあげるよ。)
目の前にいる、ちょこっと泣き虫の小さな勇気の大きな約束。
後藤は何とかしてやりたいと思った。と、急に辻が笑い出す。
「なんだよー、急にいったいどうしたの?」
「ぷぷぷ…、へんなごっつぁんれす…。うひゃひゃひゃ…。」
「なにそれー、何言ってんの…。あっ!」
後藤は海面に映った自分の顔に気付く。辻の書いた髭がまだクッキリと残っていた。
「さ・て・は、じーつー…。お前の仕業だなー!」
「ひ〜ん、ごめんなさーい!」

(いちーちゃん、和田さん、見つけたよ…。大切な守りたいもの…。)

第二章 第一話 完