1 :
夜勤 ★:
てすと その1
糞スレ
3 :
かぼ師匠 ◆ER..kabo :01/11/12 15:01 ID:vOB1rPqx
@ノハ@
( ‘д‘)<てすと その2
4 :
名無し募集中。。。:01/11/12 15:08 ID:hCDzxYPG
テスd
6 :
おーうぇん:01/11/14 18:16 ID:GrdMaiXZ
コソーリ
ここいただくよ。
7 :
ワン☆ピ〜ス:01/11/14 18:19 ID:GrdMaiXZ
まだそんなに遠くない昔、一人の海賊がいた。
その男は世界中をまたにかけ、この世のすべての富を手に入れたという。
いつしか人は彼をこう呼ぶようになった。
「海賊王 つんく」と。
8 :
ワン☆ピ〜ス:01/11/14 18:20 ID:GrdMaiXZ
しかしその彼も奢り、油断、脱税からか、海軍に捕まり処刑される事となった。
いまにも首を刎ねられようという時に、彼はゆっくりと話し始めた。
「あ〜やってもうた。ま〜好き放題やったからもう思い残す事なんてないわ。
しかし集めた富はとても使い切れるもんやなかったで。
この世界のどっかに隠してあるさかい、欲しかったらくれてやるわ!」
9 :
ワン☆ピ〜ス:01/11/14 18:21 ID:GrdMaiXZ
彼のこの言葉に男たちも娘。たちも海へと乗り出した。
時はまさに“大海賊時代”
10 :
第一章:01/11/14 18:22 ID:GrdMaiXZ
ここはとある小さな島のちいさな海沿いの街。
丘の上に一人のとても背の低い少女が立っている。
彼女は今まさに入港しようとする船に見入っていた。
「うわ〜、やっぱりかっこいいのれす。」
その船には海賊船の証、“ドクロ”の旗が掲げてあった
11 :
第一章:01/11/14 18:22 ID:GrdMaiXZ
船が接岸し、男たちが勢いよく飛び出してくる。
いつのまにか集まった街の人々と混ざり、港はまるでお祭りのようにごったがえす。
一番最後に、とても背が高く髪の長い美しい女性が降りてきた。
彼女は通称“長髪のカオリ”。たびたびこの島を訪れるこの海賊船の船長だ。
その美しさと不可思議な言動、何をしでかすか分からないところで、イーストブルーの
海では大変な有名人であり、人気者だ。
12 :
第一章:01/11/14 18:26 ID:GrdMaiXZ
「いいらさん、ひさしぶりなのれす。」
ここは街にある唯一の酒場。普段もそれなりに騒がしいが海の男達のおかげでひっくり
返るほどの忙しさだ。バカ騒ぎをしている仲間達を楽しそうにカウンター席から一人
見つめる“長髪のカオリ”に、先程丘の上にいた小さな少女が話し掛けた。
13 :
第一章:01/11/14 18:27 ID:GrdMaiXZ
「あー、つじー。久しぶりじゃーん。でも全然背が伸びてないねー。」
そう言いながらカオリは満面の笑みで辻の頭をグシャグシャと撫でる。
「てへてへ。」
頭を撫でられた辻はすごく嬉しそうな顔して照れくさそうに笑う。
カオリは会うといつも頭を撫でてくれる。これが辻はたまらなく好きだ。
14 :
第一章:01/11/14 18:28 ID:GrdMaiXZ
しかし辻はすぐに真剣な顔になり、こう言った。
「いいらさん、ののはもうじゅうよんさいになったのれす。おとななのれす。
いいらさんのかいぞくらんにはいってうみにれたいのれす。」
辻は以前から、カオリがこの街に来るたびそう言い続けてきた。海賊は辻の憧れであり、
その中でもとくに“長髪のカオリ”に憧れていた。
「うーん。カオリはー、つじにはまだ早いと思うんだー。だって辻、お酒も飲めない
じゃーん。」
「おさけはにがいからきらいなのれす。」
15 :
第一章:01/11/14 18:29 ID:GrdMaiXZ
「じゃーねー、そうだマスター。この子にミルクあげて。」
辻は顔をブルブル横に振り、
「ぎゅうにゅうはうしかられるからもっときらいなのれす!」
笑いながらカオリは言う。
「やっぱ全然お子ちゃまじゃーん。そうだなー、よし!」
カオリは何かを決めたらしい。
16 :
名無し募集中。。。:01/11/16 20:27 ID:s7gfcrgP
ヴァカデスカ?
ジャンプ系同人ヲタ
18 :
:01/11/16 22:46 ID:zgUV9fF2
しかしあれだな。始めたからにはちゃんとおとせよ?
モノガターリ モノガターリ
20 :
:01/11/17 00:25 ID:0iSJPrc7
で、続きは?
sage
sage
23 :
:01/11/17 18:47 ID:GroQvB28
sage
sage
sage
「やっぱ海賊はさー、おっきくて強くないといけないから、辻が牛乳飲めるようになって
身長150cm以上になったら連れてってあげるよ。」
「ひろいのれす!いいらさんはのののことがきらいなのれす!もういいのれす!」
辻は怒り、すごい勢いでドアを弾き飛ばし、走って酒場を出ていった。
あとに残されたカオリはその後ろ姿をじっと見つめていた。
(そんなわけないじゃん、つじ。おまえには平和で安全な生活を送って欲しいんだよ…。)
辻は自分の家に戻っていた。辻に両親はいない。家族は姉ただ一人だ。
その姉も滅多に帰っては来ない。もちろん今日もいなかった。
どうせまた顔を変な色に塗装した連中が集まる、“渋谷島”にでも行っているのだろう。
「ふん。もういいのれす。ののはひとりれもいくのれす。いろんなところにいって
いろんなおいしいものを・・・じゃなくて、かいぞくおうになるのれす!」
辻は旅の支度をしていた。
「そうら、このまえいいらさんにもらったふくをきていくのれす。」
辻はま新しい服に着替えた。女の子なのでもちろんお化粧道具も忘れない。
小さな体に不似合いな荷物を抱えて港へ歩く辻を、カオリの仲間が見かけた。
「あれ?あの子は・・・」
辻はこの島に立ち寄るカオリにいつも付きまとい、その存在で周りの雰囲気を変える。
カオリ海賊団でも人気者であった。なんとなく気になり、カオリにその事を知らせる。
「・・・あのバカ!」
カオリはすぐに店を飛び出し、港へと駆け出した。
辻はすでに海の上にいた。この街の住人なら一人に一艘の船は持っている。
しかし、辻のそれはとても小さく、まして辻自身、操船に慣れてはいなかった。
「ふう・・・、なかなかすすまないれすね。まあさきはながいのれす。
そうら!おけしょうしましょう♪」
辻はウキウキと化粧道具を取り出し、化粧を始めた。
「まずはマニキュアかられすね♪」
船の下に大きな黒い影が近づいていた。
「ふん♪ふん♪・・・」
ザッパァーーーーーーン!!!
突然海が大きく揺れ、水しぶきが立ち上がる。そしてその中から巨大な魚が現れた。
「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
辻は驚き、マニキュアを落とす。この近海によくいる巨大魚だ。辻のゆうに5倍はある。
その大きな口を広げ、辻目がけて襲い掛かる。
バキバキッ、ザッパァーーーーーーン!
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
辻の船が砕け散る。辻は海に投げ出された。
35 :
おーうぇん:01/11/21 06:28 ID:Kyv/7i3h
PCがいかれてファイルがなくなっちゃいました(鬱
ペースを上げたいのに連続投稿ってなんでしょう?
期待sage
sage
ブクブクブク…
「ぷはぁっっっ!」
水面に顔を出す辻。するとすぐ目の前にさっきの巨大魚が口を大きく開いている!
「……!」
恐い。恐怖で叫びが声にならない。体も氷ついたようにまったく動かない。
辻はやけに長く感じる一瞬の中で後悔していた。
(かってなことしちゃったせいれすね…、いいらさんごめんなさい…)
巨大魚の影が辻に覆い被さる。辻は目を閉じて死を覚悟した。
今にも飲み込まれようという時に、辻の体を力強く引く力があった!
辻には何が起こったか分からなかった。飲み込まれたかと思った体はまだ海面にある。
そして何かに強く抱かれている感覚がする。恐る恐る瞼を開けた。
「…いいらさん!」
辻はカオリに抱かれていた。巨大魚に飲み込まれそうな辻の体を引いたのはカオリだった。
しかし、辻がホッとするのもつかの間、巨大魚が二人まとめて飲み込もうと襲い掛かる。
辻はカオリにしがみつく。その時カオリはうつろな目でそいつを睨みつけた!
「ネェ、ワラッテ!!!」
辺りの空気がズシリと重たくなった。巨大魚の周りの空間がゆがむ。そして体がちぎれん
ばかりにねじれ始めた!今にもちぎれそうになった時、カオリは力を解いた。
巨大魚は逃げるように水中へと潜っていった。
「つじ、もうだいじょうぶだよ。」
「いいらさん、ありがとうござ…あっ!」
なんとカオリの左腕が肩からザックリと無くなっていた。どうやら辻を助けようとした
時に代わりに巨大魚に食いちぎられたらしい。
「うわぁーーーん!いいらさん!ごめんなさい!ごめんなさい!うわぁーーーん!」
大声で泣き出す辻。
「なんだよー、つじー。泣くなよーこんなんでさー。」
「だって…だって…、ひっく…ひっく…。」
辻の涙は止まらない。
「気にすんなよ。こんなの。どーせ、すぐに新しいのくっつけてもらうから。」
「ほんとれすか?ひっく…ひっく…。」
「スイリクリョウヨウダシネッ!」
「えっ?なんれすか?」
「なんでもないよ。ほら、とっとと街に帰るよ…。」
カオリの体はそういうものらしい。辻は良く分からなかったがそう理解すようにした。
港に着いた頃には、辻はもうずいぶんと落ち着いていた。
ところが、濡れた服を乾かそうと着替えようとした時、辻はまた急に泣き出した。
「なんだよー、つじー。アタシなら大丈夫だっつったろー。」
「うぇーん、ちがうのれす。ののはいいらさんがくれたふくにまにきゅあを
こぼしたのれす。ひっく、ひっく。ごめんなさい、ごめんなさい…。うわぁーん。」
見ると確かに辻の服にはベットリとマニキュアが付いている。
「いいよ、そんなの。またあげるから。」
「れも…、れも…。これはいいらさんがはじめてののにくれたものれす…。ひっく…。」
(そうだったっけ…、もう…。そんななこと気にしなくていいのに…。)
カオリは辻のその気持ちが嬉しいようで、あきれるようで、ムズ痒くなった
辻の涙は止まらない。
カオリは駆けつけた仲間に何かを頼んだ。頼まれた仲間はカオリの船から
小さな木箱を持って戻ってきた。カオリはそれを手に取り、
「ほらー、つじー。珍しいアメちゃんあげるから、もう泣くなー。」
すると辻はピタリと泣き止んだ。
「…あめちゃんれすか?(にっこり)」
「もー。ホントに調子がいいんだからー。」
そうは言ったが、カオリは辻のそんなところも好きだ。つられてカオリも笑顔になる。
木箱からアメを取り出して、大きく開けて待つ辻の口に放り込む。
「あまくて、うまいのれす。てへ、てへ。」
「あーーーっ!リーダー!それヤバイっすわ!それ“悪魔の実”でっせ!!」
カオリの仲間が叫ぶ。カオリと辻はポカンとする。
「なによー、それー。カオリそんなの知らなーい。」
「もごもご…。あまいのれす。」
「それは“悪魔の実”の中の“プニプニのアメ”っつって、食べた人間は
そのアメの能力を身に付けんやけど、一生泳げなくなるっちゅー話でっせ!。」
「えー、なにそれー。聞いてないよー、そんなのー。つじー、出しなさい!」
「(ごっくん)もうのみこんじゃったのれす。」
「「ええええええーーーーーー!!!」」
急に辻の顔色が悪くなる。そしてお腹が痛みだした。辺りをのたうちまわる。
「うううーん!いたい、いたいのれす!」
「つじー!大丈夫―?おーい、どうすればいいんだよー。」
「そんなんワシにも分かりませんわー。」
「だって、お前このなんとかのアメってのに詳しいんだろー?」
「うわさで聞いただけですわー。ワシかてー。」
そうカオリと仲間が言い合っているうちに、辻はケロッとした顔で、
「あれ?もういたくないのれす。」
「「エッ?」」
「なんだよー。心配かけさせんなよー。」
カオリはホッとして辻の頭をグシャグシャと撫でる。
「てへ、てへ。」
ところが、辻は何かに気付く。
「あっ!」
「どうした?つじ!まだどっか痛いの?」
「ちがうのれす!これをみてくらさい!」
そういうと辻はお腹のお肉をつまんでひっぱる、ひっぱる、ひぱる……
のびる、のびる、のびる!とても人間のものとは思えないくらい肉がのびる!
「ひろいのれす!のののおなかがこんなになってしまったのれす。
いいらさんのせいれす!ぷん、ぷん!」
「…ご、ごめん。つじ…(おい…、その腹はホントにカオリのせいか?)。」
それから数ヶ月が過ぎた。
もうカオリは辻を止めようとはしなかった。代わりに辻はカオリからいろいろな事を
教わった。海の事、海賊の事、16ビートの刻み方…。
それぞれ、10回づつは繰り返した。辻は目に見えて成長していた。
しかしカオリは辻を連れていかなかった。カオリは別れ際にこう言っていた。
「いい?つじ。つじは海賊王になりたいんだよね?カオリも目標なのさ。
海賊王ってのはね、いろいろな海賊、ユニットのセンターの中のセンターなんだ。
センターじゃなきゃなれないのさ。カオリのユニットのセンターはカオリ。
だからつじがカオリのユニットにいたら、つじは海賊王になれないんだよ。
つじも海賊王になりたいんだったら、自分のユニットを組んでセンターを
努めなきゃいけない。そう、つじとカオリはライバルなんだ。」
「う〜ん…、むつかしいのれす…。なんとなくわかったような…。」
「アノネツジ、フクロウハネ………。」
「もういいのれす。ののもゆにっとをくんれれヴゅーするのれす!」
カオリの話の後半部分はまったく訳が分からなかったが、辻にはカオリの気持ち
が分かったつもりだった。カオリは餞別に新しいオーバーオールをくれた。
(いいらさん、ののはきょうれヴゅーします。)
小さいけれど新しい船は手に入れた。
空は澄み切って限りなく青く、海は穏やかな波をたてている。絶好の航海日和だ。
カモメの群れが、新しく海の仲間になる娘。を歓迎するかのように舞っている。
辻は船をゆっくりと漕ぎ出した。カオリに教わった海賊の歌を思い出す。
(ほー、ほらゆこうぜ…。てへてへ、まらひとりれうたうのははずかしいれす…)
辻の小さな体は夢と希望でいっぱいにふくれあがっている。プニプニと。
「ののはかいぞくおうになるのれす!!!」
第一章 旅立ち 完
49 :
おーうぇん:01/11/22 18:57 ID:GJjBsB/Q
第一章 旅立ち(ののかお編)
は以上です。最近あまり見れない組み合わせなので寂しいですね。
この章にはこの二人しか出ませんでしたが、
第二章 出会い
でぞくぞくとメンバーが集まってきます。
更新は明日の予定です。
50 :
名無し募集中。。。:01/11/22 19:25 ID:p8hXHrA+
なんでなぎーがこんなに多いんだ?
何章まで続くんだsage
期待sage
空は昼とは思えないぐらい暗く、黒い雲に覆われ大粒の雨を降らす。
海は怒り狂ったように大きな波を立てていた。嵐だ。
辻の小さな船は風に舞う木の葉のように、荒波にもて遊ばれていた。
「うううう・・・、こわいれす。ののはおよげないんれすよ・・・。おちたらろうしましょう・・・。」
風はますます強くなり、波がうねりを増す。すると、前方に渦巻きが起きている!
「ひぃぃぃーーー!」
辻はオールを漕ぐ。水しぶきを上げるだけだ。船の向きは変わらない。
「ろうしましょう、ろうしましょう・・・。」
辻はオロオロするばかり。そして船はゆっくりと渦の中心へと消えていった・・・
ここはとある小さな島。何艘もの船が停泊している。
その中のひときわ大きな船に、海賊船の証である“ドクロ”のマークの旗が掲げてある。
「なんだべ?このホコリは・・・。」
声の主は、船の縁に指をはわせこう言った。
それを聞いた男たちが、急に怯えた顔つきになる。
「申し訳ございません!ナッチー様!隅から隅まで掃除したはず・・・ウグッ、(バタン)。」
答えた男が金棒で殴られ昏倒した。
「ねぇ〜、小川。この海で一番カワイイのは誰だべさ?」
金棒を肩に担ぎながら、隣にいた少女に問う。
小川と呼ばれた少女は一瞬、睨むような目をしたがすぐに笑顔になり、
「(チッ・・・。)それはもちろん、ナッチー様ですよー。ナッチー様の笑顔は天使です!」
もみ手をして答える。
「そうよねー、オ・ガ・ワ♪ほら、ほらー。かわいいナッチーが乗る船はきれいでないと
ダメっしょ。もっとちゃんと掃除するべさ!」
(フン!この単細胞めっ!)
「ん?なんか言った?小川。」
「いいえー。なんにも言ってませんよー(ニッコリ)。」
ナッチーはこの辺りの海で有名な海賊だ。そしてナッチー海賊団のセンターを努める。
しかし、そのピークは過ぎたとも言われている。
理由は過剰な栄養摂取による肥満・・・。
小川は岸辺を歩いていた。小川のこの船での仕事は食糧係。
ナッチーは岸辺に食糧専用の小屋を立てていて、大量の食糧を小川は管理している。
「チッ・・・。ちょっとデヴューが早いからって調子にのりやがって・・・。」
小川は海軍に入りたくて海に出てきた。海軍とはメジャーであり、
その将校といえば優れたソロの集まりだ。
しかし、今はナッチーに捕まりいいようにこき使われている。
こんなはずじゃないと思いつつも、何も出来ない自分にムシャクシャしていた。
「あー、ムカつく!いつか追い抜いて、打ちのめしてやる!もちろんソロでね!」
道端の小石を海に向けて蹴飛ばす。
ふと、浜辺に大きな木樽が流れ着いているのに気付く。
「なんだろ?あれ。」
小川は浜辺に降りていった。
その樽は湿っていた。どうやら昨日の嵐で流れ着いたらしい。
どうやら食糧樽のようだ。10人が10日間はもつほどの量が入っていそうだ。
「ラッキー♪いただき!」
小川はその樽を運ぼうとした。しかし、重い!ピクリとも動かない。
「ハァハァハァ・・・、なによこれ!こんな重い樽、いったい何が入ってんのよ!」
ボガッ!小川は樽をおもいっきり蹴飛ばす。すると、
バキッ!中から手が出てきた!
「ウキャーーーー!何よこれーーー!」
バキッ、バキッ、バッカーーーン!樽が木っ端微塵になり、中からなんと人が出てきた。
樽の中から出てきたのは辻だった。辻は大きく伸びをする。
「うーん、よくねむったのれす。」
小川は腰を抜かしている。
「ちょ、ちょっと!アンタなんなのよっ!非常識にもほどがあるってもんよ!」
「(グ〜)おなかすいたのれす・・・。」
「人の話を聞けよっ!」
二人は食糧小屋にいた。辻はむさぼるように食べ物に食らいつく。
「ふ〜ん、それで食糧を守ろうと、ってゆうか無くなったらもったいないから
って、樽の中に入って全部食べちゃうもんかね〜。」
「はぐ、はぐ。とうぜんれす!はらがへってはののはしんれしまうのれす!
いちにちはちしょくはひつようれすよ。」
辻は力強く答える。小川は唖然とした。
(こいつ・・・。ナッチーよりすごいかも・・・)
期待sage
期待sage
「もー!小川、遅いっしょ!何やってるべさ!ナッチー、腹減ったべ!」
ナッチーは甲板の上に優雅なソファーを置いて腰かけている。
昼食の時間をとっくに過ぎているのでかなり不機嫌だ。手足をバタつかせている。
すると、子分の一人が急いで駆けつけてきた。
「ナッチー様、大変ですぜ!小川が見たことも無い奴と一緒に食糧小屋へ
向かっているのを見ました!もしかすると、賞金稼ぎかもしれませんぜ!」
ナッチーの傍にいた男が叫ぶ。
「なんだと!この辺で賞金稼ぎといったらあの“センター狩り”の・・ハウッ!(バタッ!)。」
ナッチーの金棒で殴られ、昏倒した。
「ナッチーの前でその名前は禁句だべ。それにそいつは最近、海軍に捕まったって
話しだべさ。ナッチーのセンターは譲らないべさ!」
「も・・・もちろんですぜ!ナッチー様は永遠のセンターでさあ!」
「ふん!当然だべ!でも小川にはお仕置きしないとダメっしょ!行くべさ!」
ナッチーはのっそりと立ち上がった。
辻は大量の食糧をたいらげていた。小川は呆れて、もう気にしないことにした。
「そーいやー、名前聞いてなかったね。アタシは小川真琴。アンタは?」
「つじのぞみじゅうよんさいれす。ののってよんれくらさい。」
「げっ、アンタ同い年かよ?アタシと!全然ガキっぽいじゃん!」
「ののはがきじゃないれすよ!ぷん、ぷん!」
辻はほっぺたをプクーっと膨らまして不機嫌になった。小川は慌てて、
「ああ、ごめん。悪かった。ところでさ、アンタなんで旅してんの?
見たところ一人っきりみたいだし。」
「ののはかいぞくおうになるのれす。いまはひとりれすけろ、ゆにっとの
めんばーをぼしゅうちゅうなのれす。」
小川は目を丸くした。そして急に大笑いしだした。
「なにわらってるれすかー!ののなにもおかしいことゆってないれすよー!」
「キャハハハハハハ・・・。だって、海賊王なんてなれるわけ無いじゃん。
ユニットの中のユニット、センターの中のセンターだよ。意味分かってんの?」
辻は真剣な顔で話す。
「わかってるれす。ろれらけたいへんれむずかしいことか・・・。れも、ののはのののきもち
にうそついてゆめをあきらめるくらいなられヴゅーしないほうがましれす!」
小川の笑いが止まった。ショックだった。辻の言葉が胸に突き刺さる。
(アンタ・・・、そんなにまで・・・。それに引き換えアタシはどうだ?海軍で、ソロで
やろうって出てきたのにこんなところで・・・)
ボカーーーン!
食糧小屋の扉が吹っ飛ぶ。辻と小川は驚いて入り口を振り返る。
そこにはナッチーが引きつった笑顔で立っていた。
「オ・ガ・ワ・ちゃ〜ん、なにやってるべさ?もうお昼の時間はとっくに過ぎてるっしょ?」
「ひぃぃぃぃぃぃーーーーーー!」
小川の体がガクガクと震えだし、へたり込んだ。
「それに知らない奴をこんなところに連れてきて・・・。なんだ、まだガキだべさ。」
「がきじゃないれす!つじのぞみれす!おばちゃんこそられれすか!」
ナッチーの眉がピクッと動き、みるみる恐ろしい形相に変わる。天使の面影はもうない。
子分たちは身動きもとれない。全員の体が震えている。
「オ・ガ・ワー、このくそガキに教えてやるべさ。ナッチーが何者かって・・・。」
小川は恐ろしかった。一刻も早くこの場から逃げ出したかった。
いつものようにゴマをすれば、なんとか助かるだろう。
しかし、さっきの辻の言葉が心に響く。
(アタシはずっと自分にウソをついてきた。イヤなことも無理して笑って、
不満ばかり言って自分では何もしなくて・・・。アタシは・・・、アタシは・・・)
小川の中で何かがはじけた。
「うっさいわね!アンタなんて過去にすがってるだけじゃない!ムカつくんだよ!
そういうの!アタシはね、こんなところに居たくないの!海軍に、ソロになるの!」
すっとした。胸のつかえがおりた感じだ。しかし鬼の形相が頭の上にある。
「オ・ガ・ワー・・・。お仕置きだべさッ!」
ナッチーが金棒を振り上げる!別名“トウモロコシ”。棒に付けられたこぶがトウモロコシ
の実のように見えることからこう呼ばれる。その威力は大岩をも砕く。
小川のような娘。がくらえばひとたまりもない。
「けんかはらめれすよーーー!」
辻が叫んで走り出す。そして間一髪、“トウモロコシ”が小川に命中する寸前、
ナッチーに体当たり!
「プニプニの・・・はらーーー!!!」
ボッカーーーン!
「キャァァァーーーだべさーーー!!!」
辻の腹に弾き飛ばされたナッチーが小屋の壁を突き破り、はるか彼方へと飛んでいく。
「「ナッチー様がやられた!悪魔の実の能力者だ!ウワァーーー!」」
子分たちが蜘蛛の子を散らすかのように逃げていく。
「・・・ちょっとやりすぎちゃいました。まあいいのれす。らいじょうぶれすか・・・?」
「うん!ありがとう、ホントにありがとう!」
小川は自由を取り戻した。自分の意思で歩く勇気を得た気がする。
期待sage
期待sage
sage
辻と小川はこの辺境の海ではひときわ大きな島にやって来た。
ナッチー海賊団の船を一艘拝借してきた。
この島には海軍の支部がある。目的地の特に無い辻が、海軍に入りたい小川の為に
ここに行こうと言ってくれたからだ。二人は食堂にいた。
「やっぱりねー、いつまでも一人じゃヤバいって。海賊王になるかどうかは別として、
ちゃんとバランスのとれたメンバー、いろんなキャラクターをもった仲間を揃えないと
いくら悪魔の実の能力があるっつっても、これからとてもやっていけないよ。」
「はぐ、はぐ・・・。」
辻は料理に集中していて、小川には見向きもしない。
バンッ!
小川がテーブルを叩いた。
「ちょっと!あいっかわらず人の話を聞かないわね!」
「ふへ?なんかいいました?」
辻はやっと気付く。小川はあきれた様子で話を続ける。
「ところでさー、アンタはどんなユニットを組みたい訳?」
「そうれすねー・・・。」
辻はおっとりしているので、答えるのに少し時間がかかるのだ。
「あのれすねー、みんななかよしがいいれす。」
「(ズルッ)そうじゃなくてね、実力重視とか、ルックス重視とかあるでしょ!」
「へい。ののはまられヴゅーしたてなのれじつりょくやけいけんのあるひとが
めんばーになってくれればうれしいのれす。」
「ふーん、実力や経験のある人ねー。そんな人この辺に・・・。」
小川の顔が何かを思い出したように引き締まる。
「いたよ・・・!すごいのが、しかも今、この街に・・・!」
「えっ?ろんなひとれすか?」
「アンタ聞いた事がないの?“センター狩り”の後藤真希のことを・・・」
小川はゆっくりと話し始めた。
ほんのすこし前のことである。このイーストブルーの海は三組の海賊が競い合っていた。
それぞれの掲げる旗の色からそれらは、あか・青・黄と呼ばれていた。
後の世に言う第一次シャッフル時代、“三色志”である。
その三組の実力はほぼ互角で、抗争は長く続くかと思われたとき一人の娘。が現れた。
彼女はあか組に入ると、当時の実力者であった自分より倍の年齢と経験を持つ二人と、
自分より体重が二倍はある一人をあっさり押しのけ、センターの位置に座る。
そしてあっという間に青と黄を蹴落とし、トップの座に昇りつめたのだった。
その娘。こそが後藤真希。
ここイーストブルーの海では生ける伝説と化している。
しかし、あか組のあまりにも急な活動停止の後、彼女は賞金稼ぎをしているという。
そんな彼女がこの街にいる。
「すごいのれす!そんなひとがいたのれすか!」
辻の目はキラキラと輝いている。
「ぜひいちろあってみたいのれす!ろこにいるんれすか?」
「たしかつい最近、海軍に捕まったって聞いたけど・・・。」
「かいぐんれすね!いきましょう!」
辻はそそくさと席を立って、食堂の外へと出て行った。
「おい!ちょっと待て!ここの払いはどうすんだ?あぁっ!なんだよこの値段!
ちくしょー!それに場所知ってんのかよ!ほら待てー!」
小川はナッチー海賊団からくすねてきた金で支払いを済ませ、
辻が走り去った方向へと追いかけ始めた。
二人は海軍支部の前に着いていた。塀は高く、門は厳重に閉ざされている。
「ろこにいるんれしょうねー。はいってみましょうか。」
辻は正面から入ろうとする。小川はあわてて止める。
「バカ、何言ってんの。さっき『捕まった』って言ったでしょ?つまりなんか
悪いことしたって訳だろうから、すんなり会えるはずないよ。」
「じゃあどうしましょう?」
「とりあえず、中の様子が分かんないと。裏の方に周るわよ・・・って、おい!」
辻はぴょ〜んとジャンプして塀に飛び乗った。そして中をキョロキョロ見渡す。
「ちょっと何やってんのよ、アンタ!」
「らって、なかのようすみないとって・・・あっ、むこうにられかいますよ。」
辻は塀から飛び降り、塀の外を横に回りこんだ。
「もう、しょうがないわね!」
小川が後を追いかける。
塀で囲まれた建物のほぼ真横辺りに着いたとき、辻がまた塀に飛び乗る。
こんどは小川も苦労しながらだが塀に上った。中を見渡す。
「あそこれすよ。」
小川は辻が指差すほうを見た。
広い中庭のほぼ中央に大きな十字架が打ち付けられ、一人の少女が縛り付けられている。
「間違いない・・・。あの人が後藤真希だよ・・・。」
鼻筋がスッと通った、美しい顔立ち。すこしやつれてはいるが噂通りだ。
どうやらこちらにはまだ気付いていないようだ。
「でも、なんで捕まったんだろう・・・。アタシの聞いた後藤真希は、海賊はやっつけるけど
海軍に捕まるような悪いことはしないはずなのに・・・。」
「きいてきましょうか?」
「うん、そうだねえ・・・って、おい!」
辻はすでに中庭に飛び降り、中庭を中央に向かって駆け出していた。
(おいおい、マジかよ。これはホントにヤバイんじゃ・・・)
辻は後藤の目の前に立った。
「ごとうさんれすね?ののはつじのぞみっていいます。ののってよんれくらさい。」
「・・・・・・・・・。」
返事が無い。辻はうつむきかげんの後藤の顔を覗き込む。さっきより大きな声で、
「つじのぞみじゅうよんさいれす!ののってよんれくらさい!」
「ZZZ・・・・・・・・・。」
「ごとうさん・・・。」
更新だね
コックはもちろんあのメンバーですよね?
sage
sage
早く21巻を買わないとなぁ。
どうやら後藤は熟睡中らしい。
辻は後藤の肩をつかみ、前後に大きく揺さ振る。後藤の頭がガックンガックン揺れる。
(あ…あいつ、無茶すんなー…)
小川は緊張した面持ちで様子を見ている。しかし後藤は起きる様子が無い。
辻はどんどんエスカレート。暴走を始めるとNON STOPだ。
鼻をつまんだり、しまいには後藤の口の周りにヒゲの絵を書く。
「ぷぷぷ…、へんなおぢさんれす。うひゃひゃひゃ…。」
辻は腹を抱えて笑い転がる。
「…あんた、なにやってんの?」
「うひぃっ!」
辻はビクッとして縮こまる。後藤が目を覚ました。
「ふあ〜〜〜…、ムニュ、ムニュ。」
後藤はのん気に大あくび。辻は身を固めている。
「あれー、あんた誰―?それに、ここどこー?」
なんとものんびりしたものだ。辻のイタズラには気付いていないらしい。
「へい!つじのぞみじゅうよんさいれす!ののってよんれくらさい!」
「ふーん、辻ちゃんねー。あたしは後藤真希。ところでさー、ここどこ?」
「ふへ?」
「あれー?動けないよー。なにこれー?縛ってあんじゃん。」
後藤はやっと自分が十字架に括り付けられている事に気付く。
なにがなんだか分からないといった感じだ。辻も訳が分からない。
「あなたたち、なにやってんのッ!」
辻から見て右側、中庭の入口の方から声がした。
辻、後藤、小川の三人は一斉に声のした方に振り返る。
そこには背の低い少女が二人の海兵を引き連れていた。
「なにか騒がしいと思ったら、さては賞金稼ぎの仲間だな!
ここが新垣大佐の基地と知っての狼藉かっ!」
海兵の一人が叫ぶ。小川は思った。
(ヤバイ!見つかっちまった!サイアク!)
辻と後藤は相変わらず訳が分からない、といった顔をしている。
二人の海兵に挟まれた豆のような少女がゆっくりと話し出す。
「もう、そんなに大きな声出しちゃ下品よッ、ニィニィもパパも、
そういうのは好きじゃないワッ。LOVE、LOVE。」
「はっ、申し訳ございません。ニィニィ様…。」
そう、この海軍支部の支部長は新垣大佐。様々な権謀術数を繰り返し、
この地位まで昇り詰めた。今はその権力と財力を盾に色々と悪どい事をしているという。
そしてこの少女が新垣大佐の娘。で新垣里沙という。父親の持つ数々のコネを利用し、
ワガママし放題だ。しかし父親が恐ろしく、誰も文句を言えずにいた。
「ちょっとー。なんで後藤、縛られてんのー?」
後藤がちょっとムッとした感じで新垣に問う。
「あーら、後藤さん、シブトイですねー。もう丸三日もそのままなのに、まだ元気そうで。」
辻は驚く。
「えっ、みっかかんもしばられてたんれすかっ?」
後藤は首をかしげる。
「えー、そうなんだー。ずっと寝てたから分かんないやー。」
「そうですよ、後藤さんッ。港で寝ていたあなたを縛り上げてここに連れてきたのッ。」
「なんれそんなことをするんれすかっ!」
新垣がニヤリと笑う。
「あと一週間後にニィニィのデヴューイベントをするの。そこでね、後藤さん、
十日間飲まず食わずで弱ったあなたと、ニィニィが勝負をしてニィニィが勝つの。
そう、これ以上無い鮮烈なデヴューを飾るのよッ!LOVE、LOVE!」
辻と小川は驚いた。後藤は無表情。まるで自分の事ではないかのように。
「アンタねー!そんな事したって、天下の後藤真希に勝てるわけ無いじゃない!」
小川が叫ぶ。ところが新垣はさも当然のような顔をして、
「フンッ!そうかもねッ!でもニィニィが勝つ為にパパに手足の一本づつくらい
折っといてもらうわッ!後藤さん、あなたはかませ犬なのよッ!ウキャキャッ!」
小川は背筋が凍りつくような思いがした。
(ひどい…、なんて奴なの…)
後藤は相変わらず無表情だった。
(そっかー、あたし殺されちゃうんだー…。まあ、いっか。別にもう何も…)
「そんなのらめれす!」
辻が叫んだ。全員の視線が辻に集まる。
「ひきょうれす!せいせいろうろうとしょうぶしてくらさい!」
「フンッ!誰がするもんですか。ニィニィはトップへの道を一気に進むのよッ!
コネでねッ!」
辻の体が震えている。
「…もうゆるせねーのれす…。」
辻が新垣に飛びかかる!海兵の一人が間に入る。
「ニィニィ様になにを…ウグッ!」
辻のこぶしの一撃で男は吹っ飛ぶ。そして新垣の胸倉を捕まえ、倒して馬乗りになる。
「あなた!ニィニィにこんな事してただで済むと…ニィッ!」
辻のこぶしが新垣の頬を打つ。
「パパが黙ってない…ニィッ!」
続けざまに殴る。
「なんれそんなことするんれすか!ごとうしゃんがかわいそうれす!」
辻の頬を大粒の涙が流れていた。
残りの海兵の一人が建物に逃げ込む。
「だ、誰か。ニィニィ様がっ!」
辻の連打は止まらない。新垣を殴り続ける。
後藤は冷めた目でそれを見ていた。
(なんで泣いてんの…?関係無いじゃん、あんたには…)
93 :
おーうぇん:01/11/27 22:16 ID:o2hzmaFe
>>81 どのメンバーでしょう?(w
とりあえず、誰がどのキャラかはナシの方向で、
そのぐらいしかネタが無いのです。
でも、多分あってると思ふ。(バレバレ?)
ハァハァ
一心不乱に殴り続ける辻の肩に手を置く者がいた。
いつの間にか中庭に降りてきた小川だ。
「ちょっと、アタシにも一発殴らせて。」
「ほえっ?」
そういうと小川はすでにボロ雑巾のようになっていた新垣を殴りつける。
「ニィッ!」
「ふんっ、ちょっとスッキリしたわ。あのね、仲間を呼びにいった奴がいるわ。
はやく逃げないとヤバイ。後藤真希っていったらたしかスゴ腕の剣士。
どっかにあの人の剣が隠してあるはずよ。ねえ、どこにあんの!」
小川が新垣の胸倉を掴んで問いただす。
「ニィッ…!ニィニィのお部屋…。」
「よしっ!あんたはこのボロ雑巾を連れて剣を探してきて。アタシはそのうちに
縄を解いとくから!」
「へいっ!」
ズザザザザザーーーーー
辻は新垣を引きずって建物の中に入っていった。
「ニィィィーーー(ニィニィ…、死んじゃうかも…)!」
すぐに小川は後藤の縄を外しにかかる。
「アタシは小川麻琴。待ってて、すぐに解くから。」
「あんたもヤバイんだからさー。早く逃げた方がいいって。」
後藤は相変わらずどうでもいいといった感じで話す。
「いい訳ないじゃないっ!あんなの聞かされて黙ってらんないわよっ!」
小川は必死に縄を解こうとする。
(あーあ、こいつもかよ…。後藤の事なんてほっとけばいいのに…)
ここは最上階、新垣大佐の部屋だ。
さきほど逃げ出した海兵が息を切らして飛び込んできた。
「新垣大佐っ!大変です!」
新垣大佐が振り返る。さすがに海軍の大佐だ、圧倒的な威圧感。部屋の空気が引き締まる。
「…いったい何の騒ぎだ。」
「ハッ!賞金稼ぎの仲間が中庭に侵入し、暴れております!」
逃げてきた海兵が敬礼をして答える。
新垣大佐が窓の外を覗く。小川が後藤の縄を解こうとしているところだ。
「…撃て。」
新垣大佐がそう言うと、横に控えていた海兵がライフルを構え狙いを定めた。
バァーーーン
「キャァァァッ!」
ズザザザザーーー!
「うーん、ひろいれすねー。ののわかんないれすよー。」
辻はあてもなく建物の中を走りまわっていた。新垣を引きずりながら。
ボロ雑巾の新垣はさすがに我慢出来なくなり、
「・・・あの人の剣はニィニィのお部屋にあるから、もう引きずるのはヤメテッ!」
「あっ、そうれした。さいしょからおしえてくらさいよー。」
辻は小川がなぜ、新垣を連れて行けと言ったかまったく分かっていなかった。
新垣を小脇に抱えて走り出す。
「ちゃんとおしえてくらさいよ。」
「分かってるわよ…(ハァ…、ニィニィ、なんとか生きられそう…)。」
小川が倒れた。
「おいっ!おまえ大丈夫!?」
「大丈夫…、カスリ傷だよ…。」
小川が右肩を押さえて立ち上がる。血が出ている。弾が肩をかすめたらしい。
「だから早く逃げろって!後藤を助けて何の得があるってゆーの!?」
「そんなんじゃない!!」
(えっ…?)
「得とか損とかの問題じゃない!アタシは、海軍は誇り高いもんだと思ってた。
でもここの奴らは違った。アタシの信じてたものを、夢をヤツらは汚しやがった!
それがアタシには絶対に許せない!」
(あんた…)
「それにアイツはアンタを守ろうとした。アイツが守ろうとしたアンタを
見捨てる訳にはいかないんだよ!」
小川は必死に縄を解こうとする。しかし撃たれた腕に力が入らず、固く縛られた
結び目は全く解けそうに無い。
「ちくしょう…!アタシはこんな事も出来ないのかよ…!ちくしょう…!」
小川は泣いていた。ボロボロと涙をこぼす。
(信じるもの…。守りたいもの…。)
後藤は忘れかけていた何かを思い出した。
ガンガレ保全
103 :
名無し募集中。。。:01/11/28 23:53 ID:GgFPIt0e
丸 パ ク で す か ?
104 :
名無し募集中。。。:01/11/28 23:56 ID:nO5DPZaq
作者の都合により第二章は終了致しました。
ご愛読ありがとうございました。
連載打ち切りみたいなオチだなぁ。
ほぜむ
辺境の海の、そのまた辺境の小さな島の小さな村。
ここが後藤が育った村だ。この小さな村にしてはやけに大きな剣術道場があった。
この道場は数々の高名な剣士を育てた事で知る人ぞ知るという道場だ。
また、身寄りの無い子供たちを引き取り育てるという一面も持っていた。
その道場主の和田に後藤は弟と一緒に育てられた。両親の事は知らない。
ある日、後藤の苦手な心得を説く授業の時、和田が幼い後藤に尋ねた。
「真希。勇気とは何だと思う?人はなぜ、強くなりたいのだと思う?」
「そんなの、強い奴と戦いたいのが勇気。勝つのが楽しいから強くなりたいんじゃん。」
後藤はそれが当然だというように答えた。
和田が静かに笑う。
「ヒャヒャヒャ。真希ならそう言うと思ったよ。」
「なんだよー、和田さん。じゃあ答えは何なのー?」
後藤が少し膨れた顔をして和田に聞く。
和田がやさしい笑顔で話し出す。
「真希。先生はこう思うんだ。信じたものを貫く心、大切なものを守ろうとする心、
それが勇気。そしてその勇気が人を強くなりたいと思わせ、真の強さを身に付け
させるんじゃないか、とね。」
後藤はブスッとした顔をする。
「和田さーん。後藤にはよく分かんないよー。」
「ヒャヒャヒャッ、真希にもいつかきっと分かる日が来るさ…。」
さらに時は流れる。
和田道場の近くにある丘の上。時は“三色志”末期。二人の娘。が立っていた。
一人は美しく成長した後藤真希。もう一人はショートカットでボーイッシュな娘。だ。
「久しぶりだね、後藤。」
「うん、いちーちゃん。」
そう、この娘。の名前は市井紗耶香。和田道場での後藤の一年先輩にあたる。
両親のいない後藤と弟のユウキは、市井の事を時には姉のように、時には母のように
慕っていた。そして後藤とは互いに技を磨き合う良きライバルでもあった。
芝生に二人は並んで腰を下ろした。
「まさか、後藤が“あか組”に入るなんて思ってもみなかったよ。なんで?」
「へへーん。だっていちーちゃんと勝負したかったんだもーん。まだちゃんと
決着ついてないじゃん。」
「何言ってんだよ。後藤、アタシに一回も勝った事ないじゃん。よくゆーよ。」
「ふーんだ。今度こそ負けないんだから。べー。」
後藤は舌を出す。後藤は一度も市井に勝てた事が無かった。しかも市井はこの時
すでに“青組”のセンター、後藤はまだ“あか組”に入ったばかり。
その差は明らかに広がっていた。
「でもさー、ホントは市井としては、後藤には青組に入ってほしかったな。」
「えっ?」
市井は空を見上げながら話す。
「だってさ、身寄りのない市井にとって後藤とユウキはホントの姉弟みたいでさー。
ホントに“大切で守ってやりたい”って存在なんだもん。」
「いちーちゃん…。」
後藤は頭を傾け、市井の肩にのせる。
「よーし、こうなったからには後藤!どっちが世界一のビッグになるか勝負だゾ!」
「うん!いちーちゃん!」
二人はガッチリと握手をした。
「“約束”だよ、後藤。でもなー、甘えんぼさんの誰かさんにはムリかなー?」
「ぶー。」
「アハハハ、冗談だって。」
「もー…、ははは…。」
その夜の事だった。外は叩き付けるような雨が降り、雷がうなり声をあげていた。
後藤はいつものように、早くから布団の中でグッスリと寝っていた。
そこに道場の兄弟弟子がバタバタと走り込んできた。
「大変だ!後藤さん!ユウキが海に落ちた!」
後藤は寝ぼけている
「ムニュ、ムニュ…。何―?なんかあったのー?」
「ユウキが度胸試しだって言って、海岸の崖を登ったんだ!そしたら突風に煽られて…」
後藤はハッキリと目を覚ます。
「他のみんなは!?」
「さっき市井さんに言ったから、市井さんはもう行ってると思う。あと先生もさっき。」
(ユウキ、いちーちゃん…!)
後藤は嵐の中を駆け出した。
後藤が海岸に着いた時、すでに多くの村人が集まっていた。
人々で出来た輪の真ん中で、びしょ濡れのユウキが和田に抱かれて泣いている。
「ユウキ!大丈夫?」
後藤が息を切らせてやってきた。ユウキと和田が後藤に向き直る。
「・・・いちーちゃんは?」
「姉ちゃん…、ゴメン…。オレ…、オレ…!」
ユウキが泣きながら何か話そうとするが、全く言葉にならない。
代わりに和田が苦しそうに話し出す。
「真希…。市井は溺れていたユウキを助ける為に、海に飛び込んだんだ。そして、
後から追いついた私に、ユウキを手渡すと力尽きて…。」
後藤の体を衝撃が走った。和田の胸倉を掴む。
「和田さん…!なんで…?なんで…?」
「………!」
和田は苦しそうに押し黙る。師範代が後藤を止める。
「後藤!先生が悔しくない訳ないだろう!市井を一番可愛がっていたのは先生だぞ…。」
後藤はユウキに振り返る。
「ユウキ!あんたがバカな真似しなきゃ…!」
「ゴメン…!ホントにゴメン…!」
後藤は泣きじゃくるユウキを殴ろうとする。和田が制止する。
「真希!やめなさい!」
「だって…、だって…。」
後藤の目から涙が溢れ出す。
「市井が命懸けで守った命だ!傷つけて市井が喜ぶとでも思うのか!」
後藤はその場にへたり込んだ。もう涙が止まらない。
「いちーちゃん…!いちーちゃん…!」
嵐はますます力を増していた。
嵐が過ぎ去ってから数日間、結局、市井の遺体は見つからなかった。
村人総出での捜索の間に、後藤は和田から市井の最後だという言葉を聞かされた。
市井は和田にユウキを手渡す際、こう言い残し笑顔で波に飲み込まれたという。
(よかった…。ユウキをお願い…。それから真希に…、“約束”忘れんなよって…)
しかし、その時すでに後藤は深く心を閉ざしていた。
(いちーちゃんがいなきゃ、そんなの意味ないよ…)
それからの後藤は何かに取り憑かれたように闘いに明け暮れた。
その異常なまでの強さはまさしく狂戦士と呼ぶにふさわしかった。
まるで自分の死に場所を探しているかのように。
期待sage
ちゃむ・・・。
ほぜむ
後藤は、はっきりと思い出した。
(そーだよ…、今まで何やってたんだよ…。あたしは…。)
後藤を守るために戦った辻の勇気。自分の信じたものを貫く小川の勇気。
そして、ユウキを救うために命を投げ出した市井の勇気。
(あたし、全然いくじなしだったね…。)
後藤は確かに強くなった。しかし、それは死に恐怖を感じない、狂気じみた強さ。
生きる希望を考えない、愚かとしか言いようの無い強さであった。
(あはっ、こんなんじゃいちーちゃんに笑われちゃうよ…。)
今こそ胸を張って言える。
あたしにも、守らなきゃいけない大切なものがある。と。
「そこまでだっ!」
中庭の入り口から声がした。後藤と小川は振り返る。
そこには十数人の海兵を引き連れた新垣大佐がいた。
「しまった!遅かった!」
小川が焦る。新垣大佐がゆっくりと話し出した。
「まったく、俺様の神聖な庭でネズミ供がはしゃぎやがって…。」
新垣大佐はかなり不機嫌な様子だ。
「後藤真希だったな?せっかく娘のために役に立てばと思ったが…
もう許せん!構えろ!」
海兵達が一斉に銃を構える。新垣大佐がニヤリと笑う。
「死んでもらうぞ…。」
後藤は歯軋りをする。
(冗談じゃない!こんなところであたしは死ねない!)
ガシャーーーン!
建物の上のほうでガラスの割れる音がした。全員が一斉にそちらを見る。
「ありましたよー!」
なんと辻が、新垣の部屋のガラスを割って飛び降りてきた。
地面でプニッとワンバウンド、そして着地成功。
「これれすね、ごとうさん。」
辻が肩に担いだものを後藤に見せる。
「えっ、何?それが剣なの…?」
小川が驚く。後藤が頷く。
「そう、それがあたしの剣、“ドラゴン殺し”…。」
それは剣と呼ぶにはあまりにも長く、そして分厚かった。
長さは辻の背丈くらいあり、幅は辻が重なると…辻が少しはみ出るぐらい。
当然、並みの人間が片手で持てる代物ではない。
昔、ある剣匠がドラゴンに殺された愛娘の仇を撃とうと、地上最強の生物である
ドラゴンさえも倒せるように、と命を削って鍛え上げた魔剣。
それが後藤の剣だった。
後藤はこの大剣を持ち前の腕力で鮮やかに使いこなす。
道場の仲間には様々なタイプがいた。例えば市井は二刀流。流れるような剣さばきは
まさしく天才の域。ユウキなどは三刀流だ、などとマンガのような真似をしたりした。
そんな中後藤は一本の大剣を手にした。常に心がけるのは“一撃必殺”。
「なんだあいつは!?まだ仲間がいたのか!」
新垣大佐が怒りを露にする。さきほど中庭から逃げ出した海兵が叫ぶ。
「あっ!あいつです!あいつがニィニィ様を殴って…!」
「なんだと…!許せん!撃て!」
バババーーーン!!!
十数本の銃が一斉に辻めがけて火を噴く。後藤が叫ぶ。
「危ない!」
「ほえ?」
全弾、辻に命中!しかし、
プニプニプニン・・・
弾が体にめり込む、そして弾き飛ばす。後藤が目を丸くする。
「あ…、あんた、一体…?」
「てへてへ…、ののはぷににんげんなのれす。」
海兵達は動揺を隠せない。手から銃を落とす者もいる。
「「バ…、バケモノだ!悪魔の実の能力者だ!」」
「へー、すごいじゃん。後藤、初めて見たよ。」
後藤がのん気に感心する。
「あっ、そうだ。その剣でこの縄切ってよ。」
「へい。」
辻が剣を両手で抱えてよいしょと縄に押し当てる。
と、辻めがけて一本の槍が飛んできた!小川が叫ぶ。
「危ない!」
とっさに辻は側転をして身をかわす。間一髪で避けられた。
なんとその槍は新垣大佐の右手から伸びて出てきたものだった。
“ヤリ手の新垣”。新垣大佐はそう呼ばれていた。
今まで行ってきた手口もさることながら、本当に右手が“槍”になっている。
しかも、どういう原理か伸縮自在。
新垣大佐の連続突き!辻はなんとか側転を繰り返してかわす。
しかし、この距離で辻は反撃できない。辻のリーチは短い。しかもすでにバテ気味だ。
「なめやがって!お前ら何してる!かかれ!」
「「ハ…、ハイッツ!!」」
新垣大佐の言葉に正気を取り戻した海兵達が辻めがけて走り出した。
そして剣を抜き一斉に襲い掛かる!
と、辻の前に一つの影が現れた!
「下がってなよ…。」
ガキガキガキーーーン!!!
十数本の剣がすべて受け止められた。一本の大剣に。
後藤だった。
縄に押し当てられた剣を小川が渾身の力で押して、縄を断ち切ったのだった。
海兵達の剣は動かない。いや、動かせない!恐ろしいまでの圧迫感。
「…あんたたちに言ったんだけどな…。」
そう言うと後藤は剣を弾き返す。海兵の剣がすべて折れた。
同時に横に大きく薙ぎ払う。
ズドン!
海兵達は全員吹っ飛んだ。
「「す、すごい(れす)…。」」
辻と小川は呆気にとられた。辻は単純に感心した。小川は(次元が違う)と思った。
後藤がゆっくりと新垣大佐に向かって歩き出す。
新垣大佐が連続突きを繰り出す。
しかし…、当たらない!後藤はかわしているようには見えないのに、
すべての突きが紙一重で当たらない!新垣大佐が動揺する。
「バカな…!俺様は、俺様は…。」
フッ、と後藤の姿が新垣大佐の視界から消えた!
「なっ…!?………!」
後藤は新垣大佐の懐に現れた!新垣大佐が槍を後藤めがけて突き下ろす!
「俺様は新垣大佐だぞ!!!」
ドンッ!
横殴りの一閃!
………ドサッ。
新垣大佐の巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
それがどうした、あたしが後藤真希だ。
ほぜーん
135 :
第二章:01/12/04 00:05 ID:gzeDlrUX
「すごいれす!ごとうさーん!」
辻が後藤の元に駆け付ける。と、後藤が急にふらつき剣にもたれかかる。
「ろうしたんれすか?」
「きゅ〜ん…、お腹すいた…。」
いくらずっと寝ていたとはいえ、さすがに丸三日間飲まず食わずでは当然だろう。
体に力が入らず、目の焦点も合っていない。
(そんな状態であんな真似が出来るのかよ…。)
小川はこの後藤真希という娘。の強さに心の底から驚いた。
自分なりに自信を持って田舎から出て来た。しかし、ナッチーに出会ってその自信は
あっという間に打ち砕かれた。そのナッチーを吹っ飛ばした辻、そしてこの後藤真希。
(チェッ、本当に世界って広いな…。まだまだ先は長い…か。)
136 :
第二章:01/12/04 00:06 ID:gzeDlrUX
「う〜ん…、我々はいったい…?」
後藤に吹っ飛ばされた海兵達が目を覚ます。
そして大の字になって倒れている新垣大佐に気付く。
「ああっ!新垣大佐が…負けた…!」
と、海兵達が顔を見合わせる。そして全員に満面の笑みがこぼれる。
「「やった!」」
「新垣の支配の終わりだ…!」
海兵達は手に手をとって小躍りする。まるでお祭り騒ぎだ。
(そうか…、みんな新垣が怖かっただけなんだ。でも…。)
小川はその様子を見つめながら思った。
137 :
第二章:01/12/04 00:07 ID:gzeDlrUX
騒ぎを眺めていた三人のそばに、一人の海兵が近づいてきた。
「私はこの海軍基地の副長だ。新垣大佐の恐怖からこの基地と、この街を
救ってくれたことに感謝したい。」
小川は虫が良すぎると思った。
(アンタ達、海軍だろう。あんな奴一人にいいように…。いくら強くて怖いからって…)
小川は黙り込んでいた。後藤は腹が減って目が回っている。
「あのれすねー、おがわちゃんはかいぐんにはいりたいんれすよ。」
(なっ…!?)
138 :
第二章:01/12/04 00:08 ID:gzeDlrUX
小川は辻を振り返った。副長が驚く。
「おお、それは本当かね!」
「へい!そうれすよね(にこにこ)。」
「そうか!異例な事ではあるが君の勇気はここにいる皆が知っている。
是非、この近海の治安回復に力を貸して欲しい!」
辻は満面の笑みで小川を見つめる。小川は何か複雑な気分。
(チェッ…、そんな顔で見つめんなよ。もー…、しょうがないなー…。)
「フン!ここの海兵達はずいぶんたるんでんじゃないの。こんなんじゃ任せてらんないわ。
アタシが鍛えなおしてやる。アタシは海軍将校になるんだから!」
「ハッハッハッ!頼もしい限りだ!その意気だ!」
139 :
第二章:01/12/04 00:10 ID:gzeDlrUX
まだ日が高いにもかかわらず、海軍基地の中庭は宴の場と化した。
新垣大佐の恐怖からの解放、そして新しい仲間の歓迎といつになく大騒ぎだ。
小川は先輩海兵達に囲まれて談笑していた。
ふと気が付くと、辻と後藤の姿が見えない。二人は先程まで競い合うように料理に
食らいついていた。辻はついさっき食べたばかりだろう、とつっこむ気は無かった。
中庭をしばらく探すが見つからない。
「まさか!」
小川は港へと駆け出した。
140 :
第二章:01/12/04 00:11 ID:gzeDlrUX
辻と後藤は船出の準備を済ませ、とはいっても食糧と水を積んだくらいだが、
出航しようとしていた。
「ホントにいいの?ちゃんと別れの挨拶しなくてさー。」
後藤が辻に声をかける。辻は後藤に顔を合わせずに答える。
「いいのれす。たのしそうれしたから…。」
「ふーん(あはっ、素直じゃないの)。じゃあ出すよ。」
後藤は明らかに寂しそうな辻を見ておかしくなった。そしてゆっくりと船を漕ぎ出す。
ゆっくり、ゆっくりと。すると小川が息を切らして港に現れた。
(よしっ!待ってたよっ♪)
141 :
第二章:01/12/04 00:12 ID:gzeDlrUX
「ちょっと!なんでアンタ勝手に行っちゃうのよっ!」
小川が叫ぶ。辻は振り返らない。
「黙って行っちゃうなんてズルイじゃない!なんとか言いなさいよ!」
まだ辻は振り返らない。しかし、その体が小刻みに震えている。
「…アタシ決めたよ。何年かかるか分かんないけど、海軍将校になってアンタを
とっ捕まえてやるんだから!それまで誰にも捕まんじゃないよ!“約束”だぞ!」
小川が涙を流していた。辻がやっと振り返る。その目にも涙が溢れていた。
「…ふん。おがわちゃんになんかつかまりませんよーら。ののはかいぞくおうに
なるんれすよ!」
(フフッ、二人とも…)
後藤は二人のやりとりを微笑ましく見つめていた。小川が涙を拭う。
「…ねぇ、アタシ達離れちゃうけど、立場が違うけど、友達だよね?」
辻はボロボロ涙を流しながら答える。
「へい!もちろんれす!ずーっと、ずーっとともらちれす!」
二人は互いに見えなくなるまで手を振り続けていた。
142 :
第二章:01/12/04 00:14 ID:gzeDlrUX
(なんか懐かしいなー、この二人見てると…。)
後藤は自分の事を思い出していた。市井が最初に旅に出た時もこんな感じ
だったかもしれない。
(あはっ、それに“約束”だって…。)
後藤は大切な守るべきものを思い出した。それは市井との約束。世界一のビッグ
になるという大きな約束。それとあともう一つ…。
(しょーがない、この後藤おねーさまが付き合ってあげるよ。)
目の前にいる、ちょこっと泣き虫の小さな勇気の大きな約束。
後藤は何とかしてやりたいと思った。と、急に辻が笑い出す。
「なんだよー、急にいったいどうしたの?」
「ぷぷぷ…、へんなごっつぁんれす…。うひゃひゃひゃ…。」
「なにそれー、何言ってんの…。あっ!」
後藤は海面に映った自分の顔に気付く。辻の書いた髭がまだクッキリと残っていた。
「さ・て・は、じーつー…。お前の仕業だなー!」
「ひ〜ん、ごめんなさーい!」
(いちーちゃん、和田さん、見つけたよ…。大切な守りたいもの…。)
第二章 第一話 完
章題の付け方失敗しました。
ここは第二章「旅立ち」の第一話「勇気」ってことで。
「辻と後藤」好きでした。もうないのかなー?
あと「いちごま」。市井復活に合わせてみました。
次回の更新は外伝の予定。
このままじゃすまされない娘。がいるので(w
>143
また失(鬱
第二章は「出会い」でした
たのしみsage
海賊王に、俺はなる!!
やっぱりどうせなら後藤三刀流にしてほしかったなー
技は鬼斬りじゃなくて男斬りとかね(笑)
ナミは誰だろなー
棒使ってブランド大好き。。。
中澤かなー
まあサンジはヤツだろな(笑)
あっ!!!
チョッパーってどうなるんだろう(笑)
ワンピースって13人キャラ挙げるとしたらどんなのがいる?
たまにしか読まないんだよな。。。
小川は海軍基地に戻ってきた。副長が声をかける。
「おお、今日の主役が何処に行ってた?ん、どうした。目が赤いぞ?」
「いいえ、なんでもありません。」
小川は爽やかな笑顔で答えた。しかし、副長は何か勘付いたらしく、
「…そうか、良い友を持ったな。」
「は、はいっ(なんだ、お見通しかよ。大人ってすげーな…。)!」
副長が小川の肩を叩く。
「さあ、皆が待ってるぞ。今日は騒ぐぞ!」
「はいっ!」
小川は人の輪の中に戻っていった。海軍基地のすべてを笑い声が包んでいる。
しかし、その輪の中に入れずに離れて見つめる娘。が一人だけいた。
新垣里沙その人である。
「おい、あれ…。」
そんな新垣の姿に気付くものがいた。そこから急に場の空気が静まり、
やがてすべての視線が新垣に注がれた。
「………。」
新垣は押し黙ったままうつむいている。海兵の一人が副長に話し掛ける。
「副長、彼女の処遇はいかが致しましょう?」
副長は少し考えてから話し出した。
「…海軍の規定では彼女に罪は無い。しかし皆の気持ちを考えると…。」
そう、新垣は一週間後に入隊式を控えていた。しかし、それは新垣大佐の
独断で決めた事。正直なところ海兵達は新垣が気に入らなかった。
「ちょっと待ってください!」
大きな声で副長の話をさえぎる者がいた。小川だ。
「あいつの入隊式の時に、アタシをあいつと戦わせてください。お願いします!」
小川が頭を下げる。たしかに海軍の入隊式には、新人の力を見極める為の
決闘が行われる。そこで小川は新垣と闘いたいというのだ。
副長が困惑している。
「し、しかしな…。」
「それじゃ、アタシの入隊式で戦わせて下さい!お願いします!」
小川は再度、頭を下げる。今度はさっきより深く。
「…そ、そうか、まあ君がそこまで言うならいいだろう。」
副長は小川の勢いに負けた。
小川は新垣を睨みつける。
「聞いたとおりだよ。一週間後、アタシとお前の入隊式だ。そこでアタシに
勝ったら…、好きにすればいいよ。」
「………。」
新垣は相変わらずうつむいて黙り込んでいた。そのすぐそばを小川が通り過ぎる。
「…逃げんなよ。」
「…!」
新垣は小川に振り返る。しかし、小川は振り返らずに建物の中へと入っていった。
小川は新垣に怒りを覚えていた。
後藤にしようとしていたこと、卑劣極まりなく、海軍の誇りを傷つけた。
しかし、それだけではなかった。
小川の生まれ育った田舎は、ほとんどの人々が一生をそこで過ごす。
海に出て名を上げようなどという者はよっぽどの変わり者であり、まったくいない。
事実、海軍の将校はおろか、おたずね者の海賊なども出たことがない。
そんな土地で育った小川が旅に出るには、それ相応の実力を見せつけるしかなかった。
小川は血の滲む様な努力をした。
時には、氷水に足を入れたり、また時には、塩辛いショートケーキも食べた。
(それなのにアイツは、生まれた環境だけで…、親のコネだけで…。)
と、小川は急に頭を左右にブルブルと振る。
(あー、もう、やな感じ!もう寝よう…。)
あの騒ぎから三日が過ぎた。
新垣大佐は裁判を受けるために、海軍本部へと連行された。
平和な日常を取り戻し、海軍基地も通常の業務に戻っていた。
新垣はその間、ずっとベッドの中にいた。食事は運ばれていたが、食欲が無く、
あまり手をつけていなかった。
「…ワー、…ワー…。」
窓の外から掛け声が聞こえてきた。どうやら訓練も再開したらしい。
なんとなく、窓の下の中庭を見下ろす。小川がいた。
(…なに、あの人…。スゴク強い・・・!)
小川は海兵と剣術の訓練をしていた。海兵の剣を簡単に受け流し、弾き飛ばす。
当然だ。田舎では飛び抜けて強かった。海賊時代はあのナッチーに鍛えられた。
並みの海兵など相手にならない。
新垣はベッドに戻り、頭から毛布をかぶった。
(なによ、あの人いったい何がしたいってゆーの?)
新垣はハッとする。まさか、自分が後藤真希にしようとした事と同じ事、
さらし者、かませ犬にする気ではないか?
(イヤよッ、そんなのされるくらいなら海軍なんかになりたくないッ!)
新垣は枕を手元に引っぱり、抱えて泣き出した。すると枕元にあった写真立てが倒れた。
「………!」
新垣はその写真立てを起こす。そこには三人の姿が映っていた。
幼い新垣、それを抱きかかえる若かりし日の新垣大佐。彼に寄り添う一人の女性。
新垣は何かを思い出したようにベッドから起きた。
その日以来、新垣は人が変わったように剣術の訓練をした。
しかし、その手はおぼつかない。それもそうだ、新垣はこれまでろくに練習
してこなかった。
ダンスの練習の時なども上の空で、よく注意されたりした。ところが、新垣大佐が
娘。を溺愛するばかりに、その注意した先生を処分したりした。
そんなことが繰り返されたせいで、一人、また一人と新垣から離れていき、
新垣自身もふさぎ込んでいた。
今日ももちろん一人。入隊式は明日に迫っていた。
雨の中、慣れない手つきで剣を降り続ける新垣。そんな新垣を見つめる一つの影があった
いくつか水溜りが残るものの、昨日の雨はすっかり上がっていた。
中庭の周りは海兵達、それと聞きつけた街の人々で埋め尽くされていた。
左手に剣を携えた小川が中央ですでに待っていた。
そこへ短めの剣と軽い盾をもった新垣が姿を現す。すると、
「コネガキ氏ね!」
「コロヌ!」
「小川―、やっちまえー!」
と、様々なブーイングが乱れ飛ぶ。しかし、新垣の耳には入っていない。
新垣は集中していた。目の前の小川ただ一人に。
新垣が剣を振る。
ガキン!
しかし、小川に軽く弾き飛ばされた。小川の剣先が目の前に突き付けられる。
「…もう終わり?」
「いいぞー、小川―!」
歓声が沸き起こる。新垣がバタバタと慌てて剣を拾う。
そして小川に向かって突きを繰り出す。
小川は軽く身をかわし、すれ違いざまに新垣の足を払う。
バシャーーーン!
新垣は水溜りに転がり込んだ。その姿は泥水にまみれてグシャグシャだ。
「ハッハッハッ、いい気味だ!」
「自業自得だ!コネガキ!」
会場一杯に嘲笑が広がる。
新垣は水溜りからなかなか起き上がれないでいた。そんな新垣に小川が声をかける。
「あーあ、今度こそ終わりかな。そんな中途半端な気持ちで海軍になろうなんて…。」
小川はハッと身構える。新垣がものすごい形相で睨んでいた。
(中途半端な気持ちなんかじゃない!あたしは…、あたしは…!)
新垣の母は海兵だった。新垣大佐とは職場結婚といえる。仲むつまじい夫婦だった。
そんなある日、新垣大佐の留守中に海賊が基地を襲撃してきた。
手薄になった基地はあっという間に落とされる。その時に新垣の母は殺された。
幼い新垣を守るために、新垣を抱きかかえたまま背中を切られて。
それ以来、新垣大佐の必要以上の溺愛が始まり、すべてが狂った。
最初は海賊に復讐する為に海軍に入ろうとした。しかし、今は違う。
(ニィニィは、あの優しくて強かったママのようになりたいッ!)
新垣が小川に打ち込む。それを小川がかろうじて受ける。
(くっ、コイツ…!)
さっきまでとは比べ物にならない威力。そして迫力。小川があとずさる。
新垣が連続で打ち込んでくる。一瞬の隙をみて小川が剣を右手に持ち替える。
ガキッ!
新垣の剣が弾き飛ばされる。と同時にバランスを崩して倒れる。
小川が倒れた新垣に向かって叫ぶ。
「さあ!まだまだこれからだ!かかってこい!」
新垣は何度も何度も倒された。倒れるたびその姿は汚れ、
顔は汗と涙と泥でメチャクチャだ。
最初のうちはその姿を見て笑う者もいたが、今はもう誰も笑わない。
中庭に聞こえるのは剣と剣を打ち合う音と、二人の呼吸のみ。
いつしかそれは、小川が新垣に剣の稽古をつけているかにも見えた。
日がかなり西に傾いてきたそのときだった。
ガキッ!
小川の剣が弾き飛ばされる。そして新垣の剣先が小川に突き付けられる。
「あーあ、負けちゃったか。」
小川が悔しそうにつぶやく。
と、新垣が剣と盾を両手から落とし、前のめりに倒れそうになる。
それを小川が支えた。
「おめでとう。お前の勝ちだよ…。」
その瞬間、歓声が湧き上がる。
「やるじゃねーか、新垣!」
「ちくしょう!見直したぜ!」
中庭にいた全員が立ち上がり、拍手をする。新垣はなんとか一人で立った。
小川が笑顔で握手をしようと右手を差し出す。その肩には血が滲んでいた。
銃で撃たれた傷は完全に癒えていなかった。
新垣が驚く。
「あ…あなたそんな腕で…。」
「アタシは全力で戦った。きっとお前も全力で。ただそれだけだよ。」
小川が新垣の右手を取ってガッチリと握手する。歓声がひときわ大きくなる。
「なんかアタシさー、お前のこと、妬むってゆーか、僻むってゆーか、
そんな気持ちだったんだ。ゴメンね。」
小川が新垣にチョコンと頭を下げた。新垣の目からひときわ熱いものがこぼれた。
そんなことどうでも良かった。とにかく嬉しくてしょうがなかった。
父を恐れて誰もが避けていた自分に、全力でぶつかってくれた小川。
自分さえ努力すれば周りの人達に認めてもらえること。
そしてなによりも、力一杯頑張ったことが気持ちよかった。
新垣は小川にしがみつき大声で泣き出した。
(うわー、まいったなー。)
拍手と歓声は日が沈みきるまで鳴り止むことはなかった。
海軍の歴史に名を残す将軍となるこの二人。しかしそれはまだまだ先の話である。
外伝、一気に更新。
新垣もガムバレ
小川カコイイ
次回の更新は本編 第二章 第二話です。
期待sage
王女様は黒い人でひとつ
の の た ん は ど こ で す か ?
雲ひとつ無い青い空、穏やかな風の中、一艘の船が海原をゆっくりと進む。
辻と後藤の船だ。なにやら言い争っている。
「あー、じーつー。お前が一人でバカみたいに食うから、
食糧が全然なくなっちゃったじゃんかー。」
「のののせいらけじゃないれす!ごとうさんこそ、「よーし、早食い競争だ。
負けないぞー。」って、ぜりーのいっきのみしたじゃないれすか!」
「あはー、そうだっけ?…とにかくお腹空いたよー。」
「へい。はらへったのれす…。」
どうやら二人は食糧を食い尽くしてしまったらしい。
かなりの量を積み込んでいたはずだが。
しかも辺りに島は見当たらない、ここは海のど真ん中。
「ところでさー、じーつー。この船どこ向かってんの?」
「へっ?」
辻はあまりにも意外な後藤の言葉に驚いた。
「…ご、ごとうさんがしってるかとおもってたんれすけろ。」
「あははは、後藤がそんなの分かるわけないじゃん。バカだなー。」
「…れも、ごとうさんはけいけんがほうふらって…。」
「あー、“あか組”の時のことー?あの時はそーゆー面倒くさいのは、
リーダーの裕ちゃんが全部やってくれてたから。」
そう、“あか組”時代の後藤といえば、強力なセンターとして名を轟かすが、
その実、食って、戦って、寝る。の繰り返しだけだった。
「………。」
「なんだよー、じーつー。そんなあからさまにガッカリされると、
ちょこっと傷つくじゃんかー。」
「そのゆうちゃんってひとは、いまろこにいるんれすか?」
「んあー、たしか、「昔のメンバーに会いたくなった。」って、その人の
故郷に行ったと思うけど…。」
二人がそんなやりとりをしながらも、船はゆっくりと進む。
というか流されている。
ふと、前方に船の影が現れた。
「あっ、ごとうさん!みてくらさい、あれ!」
「なにー?ただの船じゃん。」
「あのふねのひとに、みちをおしえてもらうんれすよ!」
後藤はポンと手を叩く。
「あっ、そーかー。じーつーなかなかやるじゃん。」
「ごとうさん…。」
辻は少し後藤に不安を感じたが、オールをその船に向けて力強く漕いだ。
近づいてくるにつれてその姿が明らかになる。
辻と後藤の船と大きさはほぼ同じ。
髪の茶色い、線の細い一人の娘。が縁にうつ伏せになっていた。
「…このひとそうなんれすか?」
「そうみたいだね。んじゃ、路、分かんないだろうし、行こうか。」
「あい。」
辻と後藤はその船の脇をとっとと通り過ぎようとする。
すると、うつ伏せになっていた娘。がカン高いアニメ声で呼び止める。
「…ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜(汗)。」
上げたその顔は何日も海を漂っていたのか、黒く焼けていた。
その肌の黒い娘。が話す。
「ああっこんなに広い海で人に出会えるなんてまるで夢でもみいるよう
ワタシ遭難してしまって水を一杯わけていただけませんか。」
「…随分、棒読みだなー。」
「(ビクッ!)…!」
「ひっく…、ひっく…。かわいそうれすね…。」
「…(おい、じーつー…。)。」
「(ホッ!)…。」
その肌の黒い娘。が続ける。
「ワタシこの先の島から来たんですけどその島が海賊に襲われてワタシの
宝と宝の地図を奪われて、グスン、グスン。」
「…涙、出てないよ…。」
「(ビクッ!)…!」
「ぷん、ぷん!ひろいやつれすね!ののはゆるせないれす!」
「…(おい、じーつー…。)。」
(やったっ♪チャーミーの演技、大成功!)
その娘。は石川梨華と名乗った。
「チャーミーって呼んでくださいねっ♪」
「「…。」」
辻と後藤は完全に無視した。
(ううっ(泣)。でもチャーミー負けない!ポジティブ、ポジティブ!)
石川は考えていた。
この二人が宝を持っていなかったのは残念だ。
しかし、この後藤真希という娘。持っている剣とその雰囲気。
かなり強いに違いない。
(この人だったら、もしかして…。)
そうこうしているうちに、二艘の船は石川の案内した島へと着いた。
港には人の姿が無く、町は静まり返っている。
「なんか、しずかなまちれすねー。」
「うん。海賊に襲われて、町の人はみんな逃げてるから。
それよりお腹すいてるんでしょ?こっちよっ♪」
「わーい!めしー、めしー!」
辻は飛び跳ねながら石川の後についていく。
後藤は考えていた。
辻は気付いていないが、石川は何か企んでいるだろう。
しかし、人を疑うことを知らない辻にとっては、いい社会勉強かもしれない。
何があっても守ってやれる。その自信が後藤にはあった。
いきなりほぜむ
この町の中心にある一番大きな建物の屋上。
そこに海賊の一団が陣取っていた。
豪華な椅子に腰かけた、金髪の娘。がなにやら駄々をこねている。
「あーもう、ム・カ・ツ・ク!なんで牛タン食べちゃいけないんだよー!」
周りの男たちが迷惑そうな顔をしている。この娘。かなり騒がしい。
しかし、一人の男の声が金髪の娘。をたしなめる。
『しょうがないじゃんよー。今、色々とヤバイんだからさー。
脳みそ、スポンジになっちゃうかもよ。あっ、元からか…。』
「う・る・さー・い!お前はまだ黙ってろ!あー、つまんねー!
オイ、あれぶっ放せ!」
「「ハ、ハイッ!」」
男たちがいそいそと大砲の用意をする。
金髪の娘。が、かけ声をかけた。
「いくぞー!“セクシーキャノン”、…発射―――!」
石川に案内されて、辻と後藤は一軒の家に連れられていた。
「ちょっと待っててねっ。すぐに得意の焼きそば作るからっ♪」
そう言うと、石川はキッチンへと姿を消した。
辻と後藤は食堂のテーブルに座っている。
「わーい、わーい、めしー!めしー!」
(じーつー、さっきからそればっかじゃん…。)
後藤は半分呆れながら、キッチンにいる石川に声をかける。
「ねー、梨華ちゃん。さっきの話だけど、この町に来た海賊ってそんなに強いのー?」
石川は姿を見せずに答える。
「そうですよー♪なんでも“悪魔の実”シリーズの何かを食べたとかって…。」
その時だった。
ドカボカグワッシャーーーーーーン!!!
「ひぃぃぃーーー!」
「キャアアアーーー!!!」
(ちっ、いったい何が…!)
三人のいた家が粉々に吹っ飛んだ。キッチンも跡形も無い。
いや、それだけじゃなかった。
町の中央から真っ直ぐに建物という建物がすべて破壊されていた。
後藤は石川の胸倉を掴む。
「まさか、梨華ちゃん!あんたの仕業?」
石川は首を左右にもの凄い速さで振る。
「(こ、怖いっ!)あ、あの海賊の仕業ですよ〜。」
ガラッ。
瓦礫の中から辻が出てきた。
「ゆるせねーれす…。」
辻は怒っていた。
「のののめしをじゃまして、りかちゃんのうちをこんなにしたやつはゆるせねーれす!」
後藤は石川から手を離す。
この慌てぶりは石川の仕業じゃないだろう。
すると今度は、辻が石川の手を取った。
「りかちゃん、いきましょう。ぶっとばしてやるのれす!」
(エエエーーー!ウソーーー!?)
石川は抵抗した。しかし、辻の力にはかなわない。
ズルズル……
(イヤッ!行きたくないっ!イヤッ、イヤーーー!)
「キャハハハハハハ、サ・イ・コー!」
金髪の娘。が上機嫌に笑う。
周りの男たちが拍手をする。
「さ、さすが矢口様の“セクシーキャノン”!いつ見てもすばらしい威力です!」
「キャハハハ、そーだよ!オイラはこの“セクシーキャノン”と“悪魔の実”の
力で、この世のすべてを手に入れるのさ!キャハハハ!」
男たちにおだてられた娘。がますます上機嫌になって叫ぶ。
そう、この娘。の名は矢口真里。
この町を襲撃している海賊団のセンターを努めている。
「あー、ちょっとスッキリした!しょうがない、今日は豚しゃぶでガマンするか!
オイ!豚しゃぶパーティーだっ!」
「「おおーーー!!」」
大騒ぎをする海賊団の建物の下に、辻、後藤、石川の三人がやって来た。
「ゆるせねーれす!でぶをなめるんじゃねーれす!」
辻が大きな声で叫んだ。
その声に矢口が気付く。
「なんだよー。お前いったい誰だよ。」
「へい、つじのぞみじゅうよんさいれす!」
「…知らねーよ!」
「ア、アタシは石川梨華…。」
「お前、ウザい!」
(ガーン!…で、でも、チャーミー負けないっ!)
と、矢口の隣にいた男が叫ぶ。
「あっ、矢口様!あそこにいる娘。後藤真希ですぜ、センター狩りの!」
矢口がピクン、と反応する。
「後藤真希…だと?」
後藤は何かを思い出しそうになっていた。
(矢口…、どっかで聞いたような…。)
矢口が屋上から飛び降りてきた。
そして、後藤の目の前に近づき、睨みつける。
その身長は後藤と同じぐらい。
「そーか、お前がサヤカがいつも言ってた後藤真希かよ。」
後藤は、はっきりと思い出した。
(そーだ、いちーちゃんの“青組”の仲間の矢口真里…。)
二人は初対面だった。
なぜなら後藤が入ってからの“あか組”は“青組”と直接戦っていなかった。
矢口が後藤に向かって大声で叫ぶ。
「そーだ、思い出したよ!サヤカはお前に会いに行くって出てったんだ!
さては、お前がサヤカを騙したのかよ!サヤカを騙して殺しでもしたのかよ!?」
「なっ…!」
後藤は矢口のあまりにも意外な言葉にガク然とした。
「あ、あたし、そんな事しないっ!するはずがないっ!」
後藤は大声で切り返す。
そんな後藤を見て矢口は薄ら笑いを浮かべながら、
「そーか、じゃあサヤカは逃げたんだ!決戦が怖くなって逃げたんだ!
あいつは裏切り者のヒキョー者だ!」
「………!」
後藤は背中の大剣を抜いた。
(いちーちゃんを侮辱する奴は許せない!)
バスッ!
後藤の剣が矢口の胴体を真っ二つにした。
>182
は、早い…。多分いつもサンクス。
矢口の体は上半身と下半身で、ちょうど半分に分かれて横たわっている。
「や、やっぱりすごいれすね、ごとうさん…。」
辻は後藤の目にも止まらぬ早業に驚いた。
石川などはこの一瞬の出来事に声も出ない。
しかし、一番驚いていたのは後藤真希本人だった。
後藤の両腕にあるはずのものが無かった。
(なに?今の…。手応えが全然ない…!)
その時、後藤の横腹に熱い感覚がはしった。
「うぐっ!」
後藤は膝から崩れ落ちた。
(…なんだ?これっ…。)
後藤の横腹にナイフが刺さっている。
その柄は矢口の手に握られていた。
手?
矢口の手首から先だけが切り離れて、ナイフを掴んで後藤を刺した!?
「…ぐはっ!」
後藤はナイフを矢口の手首ごと引き抜いた。
大量の血が流れ出る。
「あーあ、もーちょっとで内臓もえぐってやったのにー。」
矢口の声がした。
すると、横たわっていた上半身と下半身、ナイフを持った手首が一つに集まる。
「“バラバラ肉”…。それがオイラが食べた“悪魔の実”の名前だよ!
オイラは切っても切れないバラバラ人間なんだ!キャハハハ!」
その矢口の姿を見て辻が叫ぶ。
「あっ!ほんとうはちっちゃいじゃないれすか!」
くっついた矢口の本当の身長は、なんと辻よりも低かった。
「うるさーい!“シークレット胴”がバレちまった!」
(…ちっ、能力者だって聞いてたのに…。つい、カッとしちゃって…。)
後藤は薄れゆく意識の中で、何とか言葉を搾り出す。
「じーつー、…ごめん、あたし…寝る。」
そう言うと後藤はうつ伏せに倒れこみ、爽やかな寝息を立て始めた。
「ZZZ………。」
後藤の唯一ともいえる弱点がこれである。
ある一定以上のダメージを受けると、体力回復の為に所構わず眠ってしまう。
こうなると体を揺すろうが、水をかけようが起きる事は無い。
過去に一度だけ、後藤は今と同じ状態になっていた。
「なんだよー。オイラのこと無視すんな!」
矢口が眠っている後藤の頭を蹴飛ばす。
「ごとうさん!」
辻が後藤を助けようと、矢口に向かって走り出す。
「おっと、お前の相手はオイラじゃないよ。出ておいでー、しげるー。」
矢口の背後で大きな影が動いた。
巨大な熊だった。
その巨体は2階までゆうに届き、その毛皮はまっ黄色。
赤いベストを着込んだ姿は愛らしく、なぜか下は穿いていない。
『なんだよー、真里。さっきは黙ってろって言ってたのにさー。』
なんとこの熊、人間の言葉を話す。
「(カァァァーーー)ちょっと!名前で呼ばないでよ!なんか恥ずかしいじゃん!」
『(も、萌え〜)いいじゃんか。俺と真里の仲じゃんよ。』
「どんな仲だよ!」
『俺のこの心も体も、真里、お前の物だよ…。』
「もー!ちょっと、ヤメテー!顔が赤くなっちゃうじゃん!」
辻は矢口としげるのやり取りをボーッと見ていた。
「くまさん、かわいいれすね…。」
そんな辻の腕を石川が引っ張る。
「ねえ、ののちゃん。今のうちに後藤さんを…。」
矢口としげるが哲学?をしている間に後藤を安全な場所に連れて行こうというのだ。
「あっ、そうれすね!」
そう言うと辻は後藤の足を掴み、すごい勢いで走り出した。
ズズズズズズーーーーーー!
後藤の体が引きずられ、土埃が巻き上がる。
「ちょっと、ののちゃん!そんなにして平気なの?」
石川が辻を追いかけながら心配して声をかける。
「へい。このぐらいじゃごとうさんはおきないれすよ。」
「ZZZ………。」
後藤はスヤスヤと眠っている。
(チャ、チャーミー、この人たちについていけないかも…。)
やっぱりキャノンじゃなくてビームでしょ
セクシービーム
辻と石川はなんとか気付かれずに後藤を運ぶことが出来た。
矢口としげるは議論に夢中になっており、
二人が話をしている間は、他の者は一言も発しない。
奇妙な海賊団だ。
町の中央部から離れた民家のベッドに後藤を寝かせる。
「ふう…、助かったね〜、ののちゃん。」
石川が辻を見るとその体がガタガタと震えていた。
「ちょっ…、どうしたの?ののちゃん!」
「の、のの、ごとうさんのけんをおいてきちゃったのれす。」
「(ホッ)なんだ、そんなの別にいいじゃない。」
石川は安心したが、辻は一段と険しい表情になる。
「いいわけねーのれす!ごとうさんにおこられるのれす!
ごとうさんはおこるとすげーおっかねーのれす!」
そう言うと、辻は石川の手を取った。
「りかちゃん、いきましょう。とりにいかないと。」
「エッ、なんでチャーミーも?」
石川は訳が分からない。
「らって、りかちゃんのおたからとちずもとりかえさないといけないれすよ。」
「あっ、あれは違うの…って、話を聞いて〜。」
抵抗する石川だが、もちろん、辻の力にはかなわない。
ズルズル……
(イヤッ!怖いっ!イヤッ、イヤーーー!)
『やっぱ、プーさん的にはー…って思うんだよね。』
「うーん、ビミョーだねー…。」
矢口としげるの議論はまだ続いていた。
そこへ、辻と石川が再び姿を現す。
「かえしてくらさい!」
辻が大声で叫んだ。
矢口としげるがそれに気付く。
「ハァ?なに言ってんの、お前?」
「ごとうさんのけんと、りかちゃんのおたからをかえしてくらさい!」
「ワケ分かんねー!あっ、後藤がいねーじゃん!もーアッタマ来た!
オイ!あいつらにぶっ放してやれ!」
男たちが黙々と大砲の用意をする。
「消し飛んじまえ!“セクシーキャノン”!」
ドーーーン!
矢口の掛け声と供に、大砲が辻と石川目がけて発射された。
「キャーーー、イヤーーー(アアッ、やっぱり美しい花の命は短いのねッ…)!」
石川は涙を浮かべながら、死を覚悟した。
その時、辻が大きく息を吸い込む。
辻の腹がまるで気球のように大きく膨らんだ。
「ぷにぷにのー…、ふーせんれす!」
バイ〜〜〜ン!
辻の腹に跳ね返された大砲の弾が、矢口目がけて一直線。
「ギャーーー!ウソーーー…!」
ボッカーーーン!!!
大砲の弾が爆音を轟かす。
爆発の威力で町一番の建物も粉々だ。
瓦礫のくずや、濃い土埃が舞っている。
目をつむって頭を抱えていた石川が、おそるおそる目蓋を開く。
大きな気球の辻の姿がそこにあった。
「の、ののちゃん。あなた一体…?」
「へい、ののはぷににんげんなのれす。」
そう言うと、辻はふーっと息を吐き、元の姿に戻った。
「ののちゃんも“悪魔の実”の能力者だったんだ…。」
石川は目を丸くした。
それにしてもすごい有様だ。
(あっ、もしかしたら、今のであの海賊もやられちゃったかな♪)
石川は矢口の宝物が手に入ると思って喜んだ。
「ゲホッ、ゲホッ。あーチクチョウ!ムチャしやがって…!」
矢口の声がした。
風が吹き、視界がひらけた。
『お、お前…。オレを盾にすんなよ…。』
「ゴメーン。だってしげるさー、『心も体も真里のものだよ。』って言ってたしー。」
なんと矢口はしげるを盾にして、爆発から免れたのだった。
ズシーン!
しげるが前のめりに倒れた。
「あっ!お前らー、しげるになんて事を…。」
矢口が怒りを露わにする。
石川が、がっかりしながら突っ込む。
「じ、自分でやったんじゃないですか〜。」
「うるさーい!お前に突っ込まれたくないよ!
「あーーーっ!」
急に辻が大声を上げる。
「うるせー!なんだよ!」
「いいらさんにもらったおーばーおーるがこわれちゃいました!」
見ると、辻の着ているオーバーオールが、さっき膨らんだ時にだろう、
金具が弾け飛んで外れていた。
「ぷん、ぷん!ゆるせねーれす!」
「お前が自分でやったんだろーが!…ってお前、今“飯田”って言わなかったか?」
「へい、いいましたよ。」
「それって、“飯田香織”のことか?」
「へい、いいらさんはのののきょういくがかりれ、ししょーれす!」
矢口の顔色が怒りでみるみる赤く染まる。
「そーか…、どーりでムカツクはずだよ。お前あのカオリの弟子か!
あの“裏切り者”のヒキョー者の…。」
時は三色志末期までさかのぼる。
ここはとある小さな島。
なにもなさそうな島には不釣合いなほどの数の船団が停泊していた。
その旗は青色に染められていた。
そう、“青組”の本隊である。
三色の中で最大の数を誇る“青組”がこの小さな島に陣取っていた。
船団の中の一段と大きな船の甲板で、二人の娘。が腰掛けて話していた。
一人は背の高い長髪の美しい娘。もう一人は背の低い茶髪の可愛らしい娘。
「ねー、カオリー。サヤカ、遅いねー。」
「そーだねー、矢口。どうしちゃったのかなー?」
この二人こそ、“青組”の大幹部。
背の高いほうの娘。が飯田香織で、背の低いほうの娘。が矢口真里。
二人はセンターの市井紗耶香の身を按じていた。
十日前に「家族に会いに行く。」と言って、一人で出て行ったきり、何の音沙汰もない。
“あか・青・黄”の三頭首の話し合い、いわゆる、三頭会談で決めた
決戦の日まで、残りもう一週間をきっていた。
「カオリ多分ねー、サヤカは路に迷ったんだと思うの。」
「キャハハハ!カオリじゃないんだから、サヤカに限ってそんな事ないよ!」
ただ、不安になるほど心配している訳ではなかった。
二人は信じていた。
ウチらの仲間、センターの市井紗耶香は必ず戻ってくる。
アイツが黙っていなくなるはずがない、と。
「でもさー、カオリなんか変な感じするから、やっぱ、ちょっとその辺見てくるよ。」
「エー!止めてよね、カオリー。カオリの変な予感って当たっちゃうんだもん…。」
飯田には矢口に理解できない不思議な力があった。
中でもどこからか電波をキャッチしているのか、彼女いわく“交信”をすると
さまざまな出来事を予感できた。
「ねぇ、矢口はどーすんの?」
出発の用意をしようと立ち上がった飯田が、矢口を見下ろして言う。
「うーん、オイラはねー、作りかけの新兵器があるからなー。
もうすぐ完成するんだ。これさえあればウチらは絶対勝てるよ!」
矢口は力強くガッツポーズをした。
飯田は少し悲しそうな顔をする。
「ねー矢口、カオリはね、本当は戦いたくないんだ。裕ちゃんの言ってたことも
よく分かるんだ。仲間同士で殺し合いなんて…。」
「そんなの!アタシだって同じだよ!」
矢口が立ち上がり、大声を張り上げる。
「アタシだって仲間と戦いたい訳じゃない!…でも、しょうがないじゃん!
考え方が違うんだから!カオリは“あの方”を裏切ったアイツらを許せるの!?」
「そ、それは絶対に許せないけど…。」
二人の間に気まずい空気が漂った。
「ゴメン、カオリ…。オイラちょっと取り乱しちゃった…。」
矢口が飯田に背を向けて弱々しく謝る。
「ううん、カオリこそゴメン…。大きな流れは止められない、か…。」
飯田は空を見上げた。
今のこの状況を“あの方”はどんな思いで見ているのだろう?
「じゃー、矢口。カオリちょっと行ってくるね。」
飯田が別の船に乗り移ろうとする。
矢口が笑顔で振り返る
「頼んだよ、カオリ。ちゃんと航海士のゆーこと聞くんだよ。」
「なにそれー?まるでカオリが方向音痴みたいじゃん。なんかムカツクー。」
「キャハハ!だって、カオリ本当に方向音痴じゃん!」
次の日のことだった。
矢口は船内で新兵器の開発に手を焼いていた。
「あー、もう!もーちょっとで出来るんだけどなー…。
この“セクシーキャノン”さえあれば、アイツらを…。」
そこへ、仲間の一人が慌ただしく駆け込んできた。
「矢口様!敵襲です!海軍本部の船が…!」
「なんだって…!」
矢口は驚いた。
海軍本部の船がこんな所に来るはずがない。
「そんなバカな…!」
矢口は急いで甲板に上がった。
遠くに見える船影はまさしく海軍本部のものだった。
ものすごいスピードでこちらに向かっている。
矢口は異変に気付く。
味方の船があまりにも少ない。
「オイ!他のみんなは?」
さきほどの仲間が恐る恐る答える。
「はい、他の四幹部の方たちは、あの船影を確認すると散り散りバラバラに…。」
ドンッ!
矢口が船の縁に両手を叩きつけた。
異人のミカとレファはまあ仕方がない。ヤツラは合理的に判断する生き物だ。
しかし、稲葉と小湊は許せない。
ただ、今はそれどころではではなかった。
「すぐに船を出せ!急ぐんだ!ウチらはまだ死ぬワケにはいかない!」
矢口の船は速かった。
矢口自らが、改造に改造を重ねた成果である。
海軍本部の最新鋭の船でも簡単に追いつかれはしない。
時折放たれる大砲の雨をかいくぐる。
逃げる船の上で矢口は考え込んでいた。
なんでこんな地図にも載っていないような島に海軍の船が?
しかも最終決戦の前、よりによってサヤカとカオリがいないときに。
カオリなんて昨日出て行ったばかりだ。
タイミングが良すぎるじゃないか!
(…まさか、オイラは、アタシは二人にも“裏切られた”の…!?)
その時だった。
ドーーーン!
「うわっ!」
矢口の船の後部に砲弾が命中した。
「まだ大丈夫だ!あきらめるな!」
矢口が仲間たちを励ます。
しかし、明らかに船足は鈍っていた。
ドーン!ドーン!
次々と砲弾が命中する。
(チクショウ…!許せない、許せない…!)
矢口の頬には悔し涙が流れていた。
矢口の船が沈むのに多くの時間を必要としなかった。
矢口は運良くとある島に流れ着いた。
しかし、何日もの漂流で、のどの渇きと空腹で体が動かない。
仲間に裏切られた、多くの仲間を失った。
矢口はまさに絶望の淵にいた。
そんな時、大きな黄色い熊が姿を現し、ゆっくりと矢口に近づいて来る。
(あーあ、アタシ、この熊に食べられて死んじゃうんだ…。)
矢口は死を覚悟した。
その熊は矢口の頬をペロペロと舐めだした。
「………!」
矢口が身を起こすと、その熊は一瞬ビクッとしたが、持っていた壺を差し出した。
その壺にはハチミツが入っていた。
「…お、お前…。」
これが矢口としげるの出会いだった。
矢口としげるはすぐに打ち解けた。
仲間に裏切られ、仲間を失った一人ぼっちの矢口。
“悪魔の実”を食べてしまったことにより、毛皮の色が変わり、
人間の言葉を話せるようになったせいで、他の熊から除け者にされたしげる。
似た者同士の二人だった。
それから二人は旅をする。
その途中で矢口は“悪魔の実”を食べ、多くのスタッフを手に入れた。
しかし、今でも本当に心を許すのは熊のしげるだけ。
「だからオイラは、オイラを裏切ったアイツらを許せない!」
バシュ、バシュ!
矢口のナイフを持った両手が切り離れ、辻めがけて飛んでいく。
「ののちゃん、危ない!」
石川が叫ぶ。
ズバ、ズバッ!
矢口の両手が辻の両腕を切りつける。
しかし、辻はうつむいたまま動かない。
「どーした?怖気づいたのかよ!」
矢口は空中に浮かんだ自分の手を自在に操り、何度も辻を切りつける。
辻の体にいくつもの切り傷がつくられ、血が流れ出ていた。
(チッ、なんだよ。これじゃまるで弱い者イジメじゃん…。)
矢口は不快な気分になって叫ぶ。
「オイ、お前!なんで抵抗しないんだよ!?」
辻は顔を上げた。
その顔は涙でグシャグシャになっていた。
「…らって、らって、いいらさんはそんなひきょうなことしません!
ののはしんじてます!…れも、れも、やぐちさんがかわいそうれす…!
らから、ののはろうしたらいいかわかりません…!うわーーーん!」
辻は大声で泣き出した。
信じてるだと?フザケんなよ。
たかだか少しの間、一緒にいたくらいで何が分かる。
こっちは何年も生死を共にして戦ってきた仲だ。
カオリの事はアタシの方が良く知っている。
「………!」
矢口はハッとした。
そうだ、アタシはカオリの事を良く知っている!
アイツはそんな事に頭の回るヤツじゃない!
そんな器用なマネが出来るようなヤツじゃない!
サヤカだってそうだ。
“あの方”を裏切ったアイツらを、一番憎んでいたのはサヤカじゃないか!
(こんなガキに同情されるなんてどうかしてた。それに仲間を信じてやれないなんて…。)
矢口の攻撃の手が止まった。
「オイ!お前もう十四歳やろー?泣くなー!」
「らって、らって…。ひっく、ひっく。」
「あー、もう!子供に泣かれるとホントに面倒くさいんだよ!
ほら、もう怒ってないからさー。」
「くすん、くすん、…ほんとれすか?」
矢口は辻に背を向けて答える。
「うん、ホント。…あのさー、そのさー、カオリ、元気だった?」
辻は笑顔で答える。
「へい!げんきれしたよ!なんか「カオリ、同じところ回ってるような気がする
んだよねー。不思議だなー。」っていってました。」
キャハッ、そうかカオリらしーや。
じゃあ、きっとサヤカも…。
「じゃあ、ごとうさんのけん、かえしてもらいますね。」
辻が後藤の剣を拾う。
「うん、ってゆーか勝手に置いてったんじゃん。」
「あとれすねー、りかちゃんのおたからとたからのちずもかえしてくらさい。」
(ヒィィィーーー!)
石川の背筋が凍り付いた。
辻のそばに駆け寄る
「な、何言ってるの?ののちゃん…!ウフフフ…。」
「え?らって…、うぐうぐ…。」
石川が辻の口を手でふさいだ。
矢口が不審そうに辻に尋ねる。
「オイラが持ってる地図っつったら、“グランドライン”の地図だけど…。
そんなとこに行って、お前どーすんの?」
辻の耳がピクンと動く。
…グランドライン?
そうだ。飯田に教わった、海賊王が通った路だ。
辻が石川の手を外して大きな声で答える。
「へい!ののはかいぞくおうになるのれす!」
周囲に沈黙が訪れた。
「キャハハハハハハ…!」
その沈黙を破ったのは矢口の笑い声だった。
辻がほっぺたを膨らまして抗議する。
「なんれすかー!?のの、おかしいことゆってないれすよー!」
「キャハハ…。オモシレー!いや、違う。そーゆー意味じゃなくって…。
サイコーだよ、お前!気に入った!」
「ほえ?」
辻には訳が分からない。
「やるよ、ホラッ!」
矢口は懐から丸めた地図を取り出し、辻に投げてよこした。
石川が驚く。
「エッ!?…いいんですか〜?」
「いいんだ、オイラは一度行ったことあるから。」
(それに、他にもっとやりたい事、見つけたし…。)
「…あとさー。」
矢口は辻と石川に背を向けてモジモジしながら言った。
「…後藤に謝っといてくんない?さっきは言い過ぎたって…。」
「…あーい!」
辻は満面の笑みで答えた。
辻と石川は、眠ったままの後藤と、
矢口に分けてもらった水と食糧を船に積み込んでいた。
残念ながら、宝は無い。
辻が宝と言おうとするたびに、石川がカン高い声を出して誤魔化していた。
不思議に思った辻だったが、食糧が手に入ったので宝のことはすっかり忘れた。
そんな二人を遠くから見つめる二つの影があった。
矢口としげるだった。
(仲間、か…。)
南向きの風に吹かれた矢口はセンチメンタル。
そんな矢口にしげるが声をかける。
『あのさー、そろそろここも飽きたし、どっか別のとこに行こーよ。
長い船旅もしたいなー。オレ、船酔いもガマンするし…。』
矢口の目頭が熱くなった。
やっぱりダメだなー。強がってたけど…。
「しょーがないなー!しげるがそこまで言うなら行くか!」
『(ボソッ)チェッ、素直じゃないなー。』
「なんか言った?」
『ううん、別に…。』
爽やかな南風が吹いていた。
(またみんなに、あの時の仲間に会いたい!)
第二章 第二話 完
徐々に明らかになりつつある、もう一つの物語。
もう少しかなー。
次回の更新は第二章 第三話です。
「…んあっ!」
後藤の体がビクッとなった。
高い所から落ちる夢でも見たのか。
上半身をムクリと起こす。その目はまだうつろだ。
辻と石川が見守る。
「…んあ〜、よく寝た…。」
後藤は大あくび。
しかし、すぐに顔が引き締まる。
「あっ!あいつはどうした!?」
キョロキョロ首を振る後藤を見て、辻と石川が顔を見合わせて吹き出した。
「なんだよー、なんで船、出てんのー?」
辻が後藤にさっきの出来事を説明する。
「うんとれすねー、…そのれすねー…。」
「…ぜっんぜん、分かんない。ちょっと、梨華ちゃーん…。」
後藤が石川に助けを求めた。
代わりに石川が説明する。
「そ〜なんですよ〜♪そしてその時、チャーミーは…。」
(…なんてこった、こっちもかよ…。)
後藤は二人の説明の下手さにちょこっとウンザリ。
結局、理解するのに小一時間かかってしまった。
「…そっか、そんな事があったんだ…
(いつか本当の事、教えてあげなきゃ。いちーちゃんはもう…。)。」
後藤はふとある事に気付く。
「そーいやさー、なんで梨華ちゃんついてきてんの?」
石川は正直に自分の事を話した。一部を除いて。
宝探しをしている事。
それも、かなりの量の宝がどうしても必要だという事。
そのために一人で旅をしているが、
ドジを踏んでばかりで全く手に入れていないという事。
そして、さっきのような事を考えると、やっぱり一人では心細いという事。
話し終えた石川は、恐る恐る上目遣いで二人を見た。
「なーんだ、そんな事なら最初っから言えばいいのに。変に疑ったじゃん。」
後藤は、呆れた、といった感じだ。
(…エッ!?)
「そうれすよ、ののもひとりぼっちじゃさみしいのれす。」
辻が、当然だ、といった感じで話す。
(ふ、二人とも…。)
ポンッ。
後藤が石川の肩を叩く。
「なんか、大事な理由が有るみたいだしね。話したくないなら別にいいけど。」
辻が石川の両手を取る。
「ののたちとりかちゃんはもうなかまれすよ。おともらちれす!」
にこにこと笑う辻の顔がそこにある。
石川の胸が熱くなった。
(…仲間、友達…!)
かなり昔に聞いた言葉、忘れかけていた響きだった。
なんと、石川は海図が読めるという。
石川の周りは体力自慢ばかりで、自然、華奢な石川が覚えるしかなかったからだ。
それを聞いた辻は大喜び。
「すごいのれす、りかちゃん!わーい、わーい!」
小さな船の上で、辻が石川の手を取って踊りだす。
そんな二人を見つめながら、後藤は別の事を考えていた。
あたしは辻を守ってやれなかった。
今回はなんともなかったからいいようなものの。
いや、そんなことは関係ない。
もっと強く…。もっともっと強くならないと…!
小さな島に朝が訪れようとしていた。
海を見渡す丘の上に、一人の娘。が立っていた。
背の低い、髪を二つのお団子にした黒目がちの娘。
「今日も、爽やかな朝やで、ホンマに…。」
(よっしゃ!今朝もやったるで!)
その娘。は村のほうへと駆け下りていった。
村の入り口の辺りから、大きな声で叫びだす。
「みんな大変やー!海賊がきよったー!
海賊が攻めてきよったでー!」
その娘。は叫び続けながら、村中を駆け回った。
祝、バロンドール受賞。
すいません、地図→海図にして読んでください。
ものすんごく面白いんでがんがってくらはい。
その娘。は村の中央広場のあたりで立ち止まった
「ウソやー!んなワケあるかいボケー!あはははーーー!」
すると、次々と民家から村人が飛び出してきた。
「この、嘘つき娘。!」
「待てこら、加護ー!」
加護と呼ばれた娘。は全速力で逃げ出す。
「捕まってたまるかい、アホー。あはははーーー。」
この娘。の名前は加護亜依。いつも皆を騒がせるやんちゃ娘。だ。
その逃げ足は恐ろしいほどのスピードで、村人の誰も追いつけない。
「くそっ、見失ったか…。」
「本当に逃げ足の速い奴だなー。」
結局、村人達は加護を追いかけるのを諦め、それぞれの家へと帰っていった。
その様子を木に登っていた加護が見ていた。
「あははは、今日も騙されよって、ホンマ単純なヤツらやで…。」
そこへ、三人の少女が姿を現す。
「「「おはようございます!おやびん!」」」
右から、村田・大谷・斉藤という、この村の子供たちだ。
「なんや、お前らか…って柴田はどないした?」
加護が木から飛び降りながら聞いた。
村田が答える。
「あの子最近「みんなの十倍、眠い。」って言ってましたから、まだ寝てるんじゃ…。」
「…ホンマ、しゃーないやっちゃなー…。」
加護は少し呆れ気味。
すると、そこへ一人の少女が大声を上げながら走ってくる。
「大変でーす!海賊が来ましたー!」
「なんや、柴田。同じ事やってもウケへんで。」
加護が、そんなん、パクリやん、といった顔をする。
息を切らせて柴田が話す。
「本当なんです!この目で見たんです!あれは確かに海賊旗でした!」
「…ほな、ウチはこれで…。」
加護は帰ろうとする。
「「「「逃げるなっ!」」」」
村田が叫ぶ。
「おやびんは本物の海賊になりたいんでしょ?」
大谷が叫ぶ。
「海賊が海賊にビビってどうすんですか!」
斉藤が叫ぶ。
「おやびん交代ねっ!」
ゴンッ!
加護が斉藤を殴った。
柴田が叫ぶ。
「相手はたった三人なんですから…!」
加護の黒目がキランと光る。
「なんや、それを先に言わんかい。よし、“あいぼん海賊団”出動や!」
「「「「おーっ!」」」」
>255
ありがとうございます。
なにより、こんな底スレを読んでくれたことに感謝です。
オレも読んでますよ
続き楽しみにしてます。
辻・後藤・石川の三人は小さな島に上陸した。
辻が感心している。
「ほんとにりかちゃんのいったとーり、しまがありましたね…。」
「あたり前じゃない、海図の通りに来たんだからっ♪」
そう言った石川はちょっと自慢げ。
役に立てて嬉しい、といった感じだ。
その時、後藤が何かに気付く。
「…ところでさー、さっきから気になってたんだけど、
あれ、何かなー。」
後藤の指差す方向に、倒れた大きな流木があった。
その上からのぞく、黒い二つのお団子。
「や、やばいっ、見つかってもーたがな…!」
大谷が加護に呆れる。
「おやびんがそんな頭してるからですよ!」
「うっさいわ、お前こそその金髪なんやねん!…って、オイ、逃げんなやー!」
四人の少女はそろってとんずら。
立ち上がった加護が一人取り残された。
辻・後藤・石川の三人の視線が加護に集まる。
ゆっくり加護が振り返り、自分を指差す。
「…ウチ?」
「「「うん。」」」
三人がうなずいた。
加護が三人の前までやって来た。
こうなったらもう開き直りだ。
「この村はウチら“あいぼん海賊団”のシマや!
勝手なマネはさせへんで!お前らいったい何者やねん!」
「へい!つじのぞみじゅうよんさいれす!ののってよんれくらさい!」
「アタシは石川梨華ですっ、チャーミーって呼んでくださ〜い♪」
「あたしは後藤真希、…呼び方はなんでもいいよ。」
三人は素直に答える。
加護は恐縮して頭を下げる。
「いやいや、これはこれはどーもご丁寧に…ってちゃうわ!」
辻は楽しくてしょうがなかった。
こんなにおもしろい娘。に初めて会った。
自分が持っていない何かを、この娘。は持っている。
それになんとなく、懐かしい感じがする。
加護が叫ぶ。
「お前らの目的はなんやっちゅうとんねん!」
「目的っていってもさー…。とりあえず、お腹すいてるしー…。」
後藤が加護に近づき、ひょいと加護を小脇に抱える。
「食べ物屋、案内してよ。ね、おやびん?」
後藤がウィンク。加護が手足をバタバタさせる。
「離さんかいコラー!ボケー!このうんこー!」
「誰がうんこじゃゴルァ!」
「…呼び方はなんでもえーゆーたやん…。」
ここは村の食べ物屋。
加護が三人を案内してきた。
加護の頭にはお団子が三つ。二つの髪の毛と、一つのたんこぶ。
「しかしあれやで、“グランドライン”を目指すっちゅうたらメチャメチャ
きっつい航海らしいで。あんなちっぽけな船やと話にならんで。」
加護が腕を組んでうんうんとうなずく。
それに石川が同意する。
「実は、チャーミーもそう思っていたんですよ〜♪」
加護はそれを無視して話す。
「でっかい船っちゅーたら、この村には一隻だけあるんやけど。
それはやらへんで、先約済みや。」
「それはられのふねなのれすか?」
「この村一番の金持ち、あややんちのもんや…。」
村はずれの低い丘。
小さな村からは想像もつかないような豪華な屋敷が建っていた。
風通しと日当たりの良い部屋の中。
ベッドの上に一人の少女が腰掛けていた。
「ねえ、アヤカさん…。」
その少女が、部屋の入り口に控えた執事らしき女性に話しかけた。
「なんですか、亜弥様?」
アヤカと呼ばれた執事が答えた。
「あたし、あいぼんに会いたいな…。」
この少女がこの屋敷の主、松浦亜弥。
どこか悪いらしく、一日中この部屋から出る事はない。
>263
ありがとうございます。励まされます。
「またその話ですか…。」
アヤカはため息をついて呆れる。
「彼女に関してあまりいい話は聞きませんよ。嘘つきだとか、下品だとか。
亜弥お嬢様にまでそんなのがうつったら、先代に申し訳が立ちません。」
松浦は不満げだ。アヤカに向かってイーッ、とする。
「ケチ!」
「なんと言われてもダメなものはダメです。
それに亜弥様。あまりおヘソを出してばかりいると、お腹こわしますよ。」
アヤカはそう言って部屋を出て行った。
松浦は枕を抱え込んだ。
(あーあ、つまんないの…)
コツン…。
松浦の部屋の窓に何かが当たる音がした。
松浦が窓を開けると、そこには木に登った加護がいた。
「あっ、あいぼん!今日も来てくれたんだ!」
松浦は大喜び。
加護は少し照れくさそうに笑いながら、
「当たり前やないか、ウチはこうと決めたらヤル娘。やで。」
「…ごめんね、あいぼん。ちゃんとお部屋に通してあげたいんだけど…。」
松浦が申し訳なさそうにする。
しかし、加護はそんなことにはお構いなしだ。
「ええがな、ええがな。そや、今日はウチが前に見た、
けったいな三人組の話したるわ…。」
「先に誰かが予約してるんじゃしょうがないね。
それにチャーミーたち、そんなお金持って無いし…。」
石川はガッカリしていた。
後藤は満腹になったのでお休み中。
辻は何かを思い出しそうで、なかなか思い出せない。
そこに、さっき逃げ出した四人の少女が現れた。
「「「「こらっ、海賊たち!おやびんをどこにやった!」」」」
石川が答える。
「あいぼんならさっき「大事な用事があったんや、ほな。」って、
どっかいっちゃったよ〜。」
柴田が思い出す。
「あっ、そうか。いつも亜弥お嬢様のところに行ってる時間だ。」
辻と石川は四人から話を聞いた。
つい数ヶ月前に松浦が両親を亡くした事。
それ以来、松浦が落ち込み、その上体調を崩して
屋敷から出てこなくなった事。
そんな松浦を元気付けようと、加護がいつも話し相手になっているという事。
「そうなんだ、あいぼんやさしいね…。」
石川が感動している。
ガタン。
辻が勢い良く立ち上がった。
「それじゃ、ののたちもげんきづけにいくのれす!
おやしきにあんないしてくらさい!」
「「「「おーっ!」」」」
辻と石川は、四人の少女に案内されて屋敷の前に来ていた。
門がしっかりと閉ざされている。
辻が大きな声で呼びかける。
「つじのぞみれーす!ちゃっきり、ちゃっきり、ちゃっきりなー!」
(((((なんじゃそりゃ…。)))))
全員、訳が分からない。
屋敷からは何の返事も無かった。
すると辻はぴょ〜んと塀を乗り越える。
「おじゃましまーす。」
「「「「「………。」」」」」
石川と四人は口がアングリ。
辻の暴走は誰にも止められない。
「…それでな、その三人っちゅうたらピンクのヅラかぶって、
見せパンしよんねんでー。ホンマ、アホかっちゅうねん。」
「アハハハ。…でもさー、あたしもそういうの一回やってみたいなー。
ねえ、あいぼん。一緒にやろーよ。」
加護はギクッとする。
「ウ、ウチはええわ。あややみたいに細かったらええけど、
ウチやったらお肉がはみ出てまうわ…。」
と、そこへ辻と石川、四人が姿を現す。
加護が石川を指差す。
「そーそー、そーいや、あーゆー感じの黒いのもおったわ、
…って、なんでお前らここにおんねん!」
「???」
石川は何がなんだか分からない。
辻は不思議な疎外感を味わっていた。
(ううっ、なんかはいりづらいのれす…。)
その時だった。
「そこで何してるっ!」
(しもたっ、見つかったっ!)
中庭に姿を現したのは執事のアヤカだった。
加護が木から飛び降りる。
「…アナタ、加護さんだったわね。こんなところで何してるの?」
「あ、あのな、ウチはこの屋敷に、
黄色いハチがBOON BOON BOONって入ってくのを見て…。」
「フフフ…、よくもまあそんなウソを…。アナタの父親のことも聞いてるわよ。」
アヤカは薄ら笑いを浮かべた。
「アナタは所詮、薄汚い犯罪者の娘。じゃない。
亜弥お嬢様とは住む世界が違うんだから、近づかないで欲しいわ。」
「…薄汚いやと…!」
加護の表情が強ばる。松浦が叫ぶ。
「言いすぎよ、アヤカさん!あいぼんに謝って!」
構わずアヤカは続ける。
「アナタには同情するわ。恨んでるでしょう?
妙なクスリに手を出して、アナタ達家族を崩壊させたバカ親父の事を。」
「おんどれ、それ以上おとんの事ゆーたら、うんこなげちゃうぞ!」
加護が怒りを露わにする。アヤカはなおも続ける。
「何を熱くなってるの?こんな時こそウソをつけば良いのに。
本当の親父は死んだとか、実は血がつながっていないとか…。」
「うっさいわ!」
加護は肩にかけたバッグから、乾燥した牛のフンを取り出してアヤカにぶつけた。
アヤカは大慌て。
「イヤッ、ばっちい!…な、なんて下品なの…!」
「ウチのおかんが愛した男や!二人がおったからウチが生まれたんや!
そんな二人をウチは誇りに思っとる!
せやから、おとんを悪う言うヤツは絶対許されへんねん!」
加護は唇を噛み締める。
辻は引っかかっていた何かをハッキリと思い出した。
「…そうれした、おもいらしたのれす…。」
加護はもう一度、アヤカに牛フンを投げ付けようとする。
「もうやめて、あいぼん!」
松浦だった。
「悪い人じゃないの、アヤカさんは…。ただ、あたしの為を思って…。」
「………。」
加護は動かない。
そんな加護に向かってアヤカが叫ぶ。
「ここはアナタのような下品な人が来る場所じゃないわ!二度と来ないで!」
「…二度と来るかい、ボケー!」
加護は振り返って走り出した。
その後姿を見つめる辻・石川・四人にアヤカが叫ぶ。
「アナタ達も出て行きなさい!」
加護は今朝の海を見渡す丘の上で座っていた。
「…ぶりんこうんこが…♪うっ、うっ…。」
加護の頬を涙が流れていた。
父親の事を悪く言われ、自分を抑える事が出来なかった。
この村で唯一の友達だった松浦に嫌われたかもしれない。
もう二度と松浦に会えないかもしれない。
そんな加護の元に、辻が現れた。
「…あいぼん、ないてるんれすか?」
加護は慌てて涙を拭う。
「アホか、んなワケあるかい。」
辻が隣に腰掛ける。
「ののれすね、たぶんあいぼんのぱぱにあったことありますよ。」
加護が驚く。
「なんや、それ。どーゆーこっちゃねん。」
辻の話はこうだった。
加護の父親は飯田香織の船に乗っている。
射撃の腕はカオリ海賊団随一のもので、射撃手を務めていた。
その顔は加護そっくりだったし、しゃべり方も同じだった。
そして以前、辻と同い年の娘。がいると話していた。
ムショ帰りでなんとなく気恥ずかしいので、
一山当てるまで帰れないと話していた。
「ののにあめをもってきてくれたのれす。てへ、てへ。」
辻が照れくさそうに笑った。
後藤が苦労した辻の説明を、加護は難なく理解する。
「そっか、飯田カオリの船に乗ってるんか…って大海賊やないか!
伝説の“海賊王の娘。たち”の一人やないか!」
加護はこれ以上ない、という程驚いた。
辻は何の事か分からないのでポカンとしている。
「…おとーちゃんも、頑張ってんなー(ウチかていつか、きっと…)…。」
「ねえ、あいぼん。さっきのうたはなんれすか?」
辻が興味津々に目を輝かせる。
「さっきのんか?ウチの作詞作曲やねん。なんや、教えて欲しいんか?」
加護は少し照れくさそうに答えた。
辻は満面の笑みで答える。
「へい!すっごくたのしそうなうたれした!あいぼん、おねがいします!」
辻はピョコンと頭を下げた。
「しゃーないなー。じつは振り付けもあるんやで…。」
加護はうれしそうに立ち上がる。
笑顔の辻も続いて立ち上がった。
「こうや、「ぶりんこうんこが輝いて見えるー…♪」。」
ฺ
☠ฺ
二人は踊り疲れて、芝生の上に座っていた。
「なんや、ののー。もっとチャキチャキ覚えんとアカンでー。」
「ののがおそいんじゃないれす。あいぼんがはやいんれすよ。」
二人は顔を見合わせる。
「「ぷぷっ…。」」
同時に大の字に寝転んだ。
「あははは…。すっごくたのしいのれす。」
「あははは…。ホンマや。」
加護は楽しくてしょうがなかった。
こんなに心の底から笑ったのは、いったい、いつ振りだろう。
二人が少しまったりしていると、崖の下からなにやら話し声が聞こえた。
「なんやろ…。」
二人は崖の下を見下ろす。
するとそこには松浦家の執事のアヤカと、背の低い四角い感じの少女がいた。
アヤカがその四角い少女に話す。
「それで、準備は進んでるんでしょうね。ミカ。」
四角い少女はミカというらしい。ミカが答える。
「イツデモOKヨ、「オジョウサマアンサツケイカク」。」
加護は驚いた。
(なんやて…、どーゆーこっちゃねん…!)
アヤカとミカの話はこうだった。
三色の大戦の後、気が合った異人同士でユニットを組んだ。
いろんな船や村を襲ったが、思ったよりパッとしない。
そこでアヤカは考えた。リスクを負わずに大金を手に入れる方法を。
アヤカはこの村の富豪の松浦の、語学の家庭教師として潜り込む。
両親は始末した。周りの人間の信頼は得た。後は亜弥を殺すだけだ。
明日、海賊団にこの村を襲わせ、ドサクサ紛れに亜弥を殺す。
ミカは疑問に思っていた。
「コンナニジカンヲカケテ、マワリクドイコトシナクテモ…。」
アヤカは呆れて答える。
「アタシはもう静かに暮らしたいの。アナタ達みたいに海賊じゃなくってね。
ちゃんと大学にもいきたいし。その為には平和にお金が欲しいのよ。
アナタの催眠術で、亜弥に遺言状さえ書かせればすべてうまくいくの。」
(あのボケ、こんな悪党やったんか…!)
加護はこぶしを握り締めた。
「…なんか、たいへんそうなかんじれすねー。」
辻はあまり良く分かっていないようだ。加護が説明する。
「当たり前やないか!あいつら、あややを殺そうとしてるんやで!」
それを聞いた辻は立ち上がり、大声で叫ぶ。
「そんなことしちゃらめれす!!!」
(アホッ、見つかってまうがな…!)
アヤカとミカが崖の上を見上げた。
「あら、加護さん…。こんな所でなにしてるの?」
アヤカがもの凄い形相で睨みつける。
(ヤ、ヤバイ…!)
「…マズイワネ、アヤカ。ココハマカセテ…。」
ミカが懐から何かを取り出した。
それは紐のついた輪っかだった。
「コノワッカヲ、ルック、ル〜ック。アナタハネムクナ〜ル。
ワン・ツー・ピョ〜ン!」
加護はとっさに目を伏せる。
しかし、辻は素直に見ていた。すると、
「…すぴー…。」
辻は眠りに落ちた。
「イエ〜イ、スーパークール!サイミンジュツ、バッチシ!」
ミカは成功に大喜び。
その時辻の体がバランスを崩し、崖の下にまっ逆さま。
「のの、危ない!」
プニン。
辻の体は地面に叩きつけられた。
「ん?なんか今、変な音がしたけど。…まあいいわ。この高さじゃ助からない。」
「ドウスル?アヤカ。モウヒトリイルケド…。」
アヤカが薄ら笑いで加護を見上げる。
「ほっとけばいいわ。あの娘。は何も出来ないから。」
加護は両手をついて、崖の下の辻の姿を見つめていた。
(のの…、くそっ!すまん、今は…!)
加護は立ち上がり、村に向かって坂を駆け下りた。
>291
ちょとワロタ。
300 :
名無し募集中。。。:01/12/25 00:19 ID:YQ6OFqBM
作者さんは一人もんですか?
すいません、上げてしまいました。なんていって謝ればいいのか……
ポキポキポッキー
何故だ
日はかなり西に傾いていた。
「ののちゃんとあいぼん、どこいっちゃったんだろうね〜?」
石川と四人の少女は道端で立ち尽くしていた。
すると、そこに後藤が現れた。
「もー、梨華ちゃん、ひどいじゃん。後藤の事、置いてっちゃうんだもん。」
「ご、ごめん、ごっちん。気持ち良さそうだったから…。」
石川は手を合わせて謝る。
「後藤、お金持ってないからさー。今までずっとお手伝いしてたよー。
みんな、お金払ってないんだもん。あー疲れたー。」
そんな六人の目の前を、加護がものすごい勢いで走り抜けた。
石川は不思議に思った。
「あれ〜、なんかあったのかな?それに、ののちゃんは?」
「???」
後藤はさっぱり分からない。
加護は村の中央広場で立ち止まった。
そして、大きな声で叫ぶ。
「みんな大変や!海賊が来るんや!明日海賊が攻めて来るんや!」
村人の何人かが民家から出てきた。
「こら、加護!またそんなウソばかりついて!」
「あんまり騒がすと、今度こそ承知しないぞ!」
村人達が加護を叱り付ける。
加護は必死になって叫ぶ。
「ホンマやねん!今度こそホンマに海賊が来よんねん!」
しかし、村人の誰一人として加護の言葉に耳を貸すものはいなかった。
それどころか、加護に向かって物を投げだす始末。
(くそっ、なんでやねん!なんでみんな信じてくれへんねん!)
加護は広場から駆けて出ていった。
(あーあ、あいぼん、もう来てくれないのかな…。)
松浦はベッドの中で、枕を抱えてうな垂れていた。
すると窓の向こうに、こちらに向かって走ってくる加護の姿が目に入った。
(あっ、あいぼん!やっぱり来てくれたんだ!)
松浦は喜んで窓から顔を出す。
加護が窓の下までやって来た。
「あやや!大変やねん!あのアヤカっちゅう奴は海賊やったんや!
お前を騙して殺すつもりなんや!今ならまだ間に合う、はよ逃げよ!」
松浦は驚いた。
「…どうして?どうしてそんな事言うの、あいぼん?
確かに、さっきのアヤカさんは言い過ぎだったと思う。
でもそんな仕返しするなんて卑怯だよ…。」
「ちゃうねん!ホンマやねん!信じてくれ、あやや!」
加護が必死になって叫ぶ。
松浦は涙を流していた。
「…そんなあいぼん、大っ嫌い!もう帰って…!」
加護は唇を噛み締めた。
涙が出そうだった。振り返り、走って松浦家を後にする。
(くそったれ!…ウチは、ウチは…!)
小さな加護を大きな後悔が襲っていた。
今までいいかげんな事ばかり言ってきたので、誰にも信じてもらえない。
友達だと信じていた松浦でさえも。
そして、今度こそ完全に松浦に嫌われた。
そんな加護の後ろ姿を松浦はずっと見続けていた。
(あいぼん、いったい、どうしちゃったの…?)
加護は後藤・石川・四人の少女のところに戻ってきた。
「いったい、どうしたんですか?おやびん…。」
柴田が不安そうに尋ねた。
加護は笑顔で答える。
「なんでもないわ。また、ちょっと騒ぎたかっただけや。」
「でも…。」
「ホンマになんでもないねん。もう遅いから、お前らは帰りや…。」
加護にそう言われ、四人の少女は後ろ髪を引かれる思いで、
何度も振り返りながら帰っていった。
するとそこへ、辻があくびをしながらひょっこり現れる。
加護は腰を抜かしそうになった。
「なんや、のの!お前、生きとったんか…!?」
「へい、ののはぷににんげんれすから。」
「???」
四人は海岸に来ていた。日はもうすでに落ちている。
後藤と石川は、辻と加護からすべてを聞かされた。
心なしか石川の様子がおかしい。
岩に腰掛けた加護が、両手のこぶしを固く握り締めて話す。
「…ウチがアホやった。自業自得や…。
でもウチは、ウチが育ったこの村が大好きやねん!
おとんとおかんの思い出が詰まったこの村を守りたいねん!
それに、友達も…(もう、嫌われてもーたけどな…。)!」
辻が立ち上がった。
「ののもてつらうのれす。」
(えっ?)
「そんなの聞かされちゃ、黙ってらんないね。」
「うん!チャーミーも頑張る!」
「…なんや、同情やったらお断りやで…。」
加護が強がる。
辻は首をかしげる。
「…ろうじょうってなんれすか?」
後藤は平然と話す。
「命懸けで守りたいんだろー?
だったら、あたしはお前がなんて言おうと手伝うよ。」
さっきから様子のおかしかった石川が、怒りを露わにする。
「海賊に村を襲わせるなんて許せないっ…!」
辻と後藤は驚いた。
こんな石川の姿を、二人は初めて見た。
「お、お前ら…。」
加護の胸に熱いものが込み上げていた。
夜が明けた。
四人は海岸から伸びる坂の上に陣取っていた。
「ヤツラはきっと、こっから来る思うねん。
ほんで、ここさえ守りきればなんとかなるはずや。」
この坂は一本道。そして左右は断崖絶壁。
全員、加護の言うことに納得した。
加護はバッグから何本もビンを取り出し、中の液体をドボドボと坂に流す。
「なんれすか?それ。」
「油や。この坂は急やからな。きっとよく滑りよんで。」
すべてのビンが空になる。かなりの範囲に油が広がった。
「…おそいれすねー。」
「ホンマやな。もしかして、今日は来−へんのかも…。」
辻と加護は集中力を切らしていた。
「ちょっと、静かにして!」
後藤が耳を澄ます。
「…聞こえる。大人数の歓声が、向こうの方から…!」
後藤の指差す方向。それはこの岬の反対側の方向だった。
「…昨日こっちで話しとったから、てっきりこっちやと…。しもたっ!」
加護はすぐに駆け出した。慌てて辻がそれを追う。
後藤も追いかけようとする。そのとき、石川が油で足を滑らした。
「キャッ!」
とっさに後藤の服を掴む。二人そろって坂を滑り落ちた。
「ちょっと、梨華ちゃん!なんてことすんの!」
「ご、ごめん。ごっちん…。」
後藤は坂を見上げた。
(ちっ!まずいな…。)
さっき見たらhtmlだったのでビクーリ。鯖移転に今、気が付いた。
しかし、久し振りに読んでみると…、
最初のほう、誤字脱字ひどいし、読みづらっ。
下手なのは変わんないけど、少しは読み易くなったかな?と自画自賛。
>300
モチロンソウヨ!(板尾嫁
まーしょうこりもなく、マターリ続けます。
「サア、ミンナ!オモウゾンブン、アバレルノヨ!」
「「おおーっ!」」
ミカ率いる海賊団、通称ココナッツ海賊団が上陸してきた。
場所は辻達のいた反対側の海岸。その地形はまったく同じだ。
かなりの大人数なので、少しもたついているようだ。
ゆっくりと坂を上る者が出始める。
そこに辻と加護が姿を現した。二人とも、もの凄いスピードだ。
「ここは絶対、通さへんで!」
「とおさへんれす!」
辻の姿を見てミカが驚く。
「ア、アナタ、ナンデイキテルノ…!」
「ののはぷににんげんれすから。」
「???」
ミカは訳が分からない。
「…ナンデモイイワ、ジャマスルモノハ、シマツスルダケ。ヤッテオシマイ!」
「「おおーっ!」」
ミカの掛け声で手下たちが、各々武器を手に取り坂を駆け上ってくる。
「来よった!やったるで、のの!」
「へい!あいぼん!」
加護がバッグからパチンコを取り出す。
その玉は牛のフンを丹念に練って固めたもの。硬さは鉛の硬度だ。
加護がパチンコを弾く。
「うわっ!」
手下が顔を押さえて倒れる。命中率は百発百中。
顔に当たれば目に火花が飛び散る。まさに、うんこが輝いて見える。
加護はまたバッグから何かを取り出す。それは“まきびし”だった。
大量のまきびしを坂にばら撒いた。踏んだ手下がもんどりうって倒れる。
(…絶対に、絶対にこの村は守る!)
ズルーーー。
後藤はまたしても坂を滑り落ちた。いったい、もう何回目だろう。
「ハア、ハア…。…早く行かないと…!」
後藤は二人が心配だった。
辻は能力者だ。大抵の相手なら何とかできるはず。
しかし、それはあくまで一対一での話。
戦闘経験の明らかに無さそうな辻では、大人数の相手は難しいだろう。
そして加護の力は正直知らない。
(あたしが行かなきゃ…、くそっ!)
その時、石川が油の上にうつ伏せに寝そべった。
「梨華ちゃん、何やってんの?」
「アタシを踏み台にして向こう側にジャンプしてっ!
ごっちんが行かなきゃ…。あの二人を守ってあげて!」
「梨華ちゃん…、分かった!」
後藤は石川の頭を踏み台にして大きくジャンプ。油の向こう側に着地した。
「後はまかせて。あの二人はあたしが絶対守るから!」
後藤は一気に坂を駆け上る。石川の顔は油まみれ。
(ウウッ…、何も頭を踏まなくても…。)
辻と加護は健闘していた。
加護は的確にパチンコを命中させ、運良く加護の的にならずに
上ってきた手下を、辻が体当たりで吹っ飛ばす。
見事なコンビネーションだ。
しかし、多勢に無勢。そして戦闘経験の足りなさから疲れが見えてきた。
徐々に押され始める。
疲れのせいで手元が狂い、加護が的を外した。
「しもた…、ぐわっ!」
加護が棍棒で殴られ倒れた。
「あいぼん!」
辻が加護に気を取られたその隙に、手下が近付き辻の肩を切りつける。
「ひんっ…!」
辻が肩を押さえて倒れこんだ。
「ハハハッ、ナカナカ、ガンバッタジャナイ!デモ、モウオシマイネ。
サア!ミンナ、イクワヨ!」
一番後ろにいたミカが笑った。
手下たちが辻と加護の横を通って坂を上る。
加護がその一人にしがみつく。
「…頼む!お願いや…、お願いやからこの村だけは…、うがっ!」
加護は腹を蹴飛ばされた。しかし、それでも離さない。
棍棒で何度も何度も殴られた。頭、体、腕…
(ウチが守るんや、絶対に守るんや…!)
その時だった。
ズドン!
坂の上まで来ていた手下たちが吹っ飛び、坂の下に転がり落ちる。
_
329 :
_ ◆Fuon97ik :01/12/28 16:59 ID:yq0t71Y/
1の写真で抜いたら、今日だけ「神」ってよんでくれますか?
紙!
後藤だった。
「遅くなった、ごめん!」
「ごとうさん!」
「…ホンマやで、頼むわ…。」
後藤は二人の姿を見た。
二人とも汗にまみれ、血を流している。とくに加護はボロボロだ。
「…頑張ったね、二人とも。後は任せなっ!」
後藤が動く。その剣がうなりをあげる。
ドン!
手下たちが数人、一度に倒れた。
(ゴトウッテ、マサカ、ゴトウマキ…!)
直接会ったことはなかったが、その話は聞いていた。
三色を制した最強の戦士。
アヤカは恐る恐る話していた。二度と戦いたくない相手だと。
そんな娘。が目の前にいる。
(ナンデ、コイツガ、コンナトコロニ…?)
(そーか、どっかで聞いた名前やと思ったけど…。)
加護は後藤の戦いぶりを見て思い出した。
後藤が剣を振るたびに、一人、また一人と手下たちが倒れる。
呆れんばかりの強さだ。
(…せやけど、人の噂っちゅーのもあてにならんもんやな…。)
加護が聞いた後藤の噂。
それは無関心、無表情の冷酷な戦闘マシーン。
戦場では敵味方問わず、その大剣で傷つけたという。
ところがどうだ。今、目の前で自分達のために戦っている。
加護は決意を新たにした。
(やっぱりウチは海に出たい!この目で世界中を見て周りたい!)
その戦いを木陰から見つめる四人の少女がいた。
村田・大谷・斉藤・柴田の四人だった。
加護の毎朝のいたずらがなかったので、気になってやって来たのだった。
「おやびんの言ってたこと、本当だったんだ…。」
「まさか、本当に海賊が来るなんて…。」
「じゃあ、もしかしてお嬢様も…!」
柴田が立ち上がった。
「あたし、お嬢様のところに行ってくる!」
柴田は村に向かって駆け出した。
(もう、だいたい片付いたかな…?)
後藤は戦況を確認する。
手下の半数以上は始末した。残りのザコは完全に戦意を喪失している。
そして、後ろにいる四角い女。あいつは戦闘タイプじゃないだろう。
後藤は剣を下げ、一息ついた。
「ごとうさーん!」
辻が後藤に駆け寄り、抱きついた。
後藤は笑顔で辻の頭をなでる。
「よしよし、もー大丈夫だからね。」
加護が倒れたまま後藤に声をかける。
「…ホンマ、格好よすぎんで、自分…。」
「なんだよー、ちゃんと謝ったじゃんかー。」
ミカはそんな三人の様子を見て思った。
(ナンダ、キイタハナシト、スコシチガウ。アノフタリナラ、モシカシテ…。)
ミカは船に向かって叫んだ。
「カモーン!ダニオー、レファ!」
ココナッツ海賊団の船、訳すと“情熱行き未来船”というらしい、
から二つの影が飛び出してきた。
一人はアンコ型のいかつい少女。雲竜型の構えをとっている。
もう一人は細長く、首も長い少女。白と黒で二色に塗られた球を足で器用に操っている。
後藤がいかつい少女に気付く。
「あっ、ダニオーじゃん。久し振りー。」
そう、後藤とダニオーは“あか組”時代に一緒に戦ったことがあった。
ダニオーが後藤に向かってなにやら叫ぶ。
「ё★$△@♀!」
「うわっ、相変わらず何言ってんだか分かんないよー。」
後藤は困惑した。“あか組”時代から、この異人の言葉はさっぱり分からない。
ミカが通訳する。
「ダニオーハ、コウイッテルワ。
「ダニオーノ、センターヲ、ウバッタオマエヲ、ユルサナイ!」ッテ。」
「えっ?ダニオーって元からセンターじゃないじゃん。…って、やばい!」
ダニオーが大きくジャンプした。
その体格からは想像も付かない跳躍力。かなりの高さだ。
「じーつー、離れて!」
後藤が辻を突き飛ばす。そして自らも急いでその場を離れる。
ドッゴーーーン!メキ、メキッ。
さっきまで後藤がいた場所にダニオーが着地した。
その両足は地面にめり込み、地割れがおきている。
(相変わらず、すごい威力…。)
後藤は思い出す。“ダニオー・スタンプ”だ。
ダニオーはこの技で数々の船を沈めてきた。時には自らも沈んだが。
ダニオーは両足を引き抜き、もう一度大きくジャンプ!
後藤は剣を構える。
(船だったら避けらんないけどね。落ちてくる場所も分かってるし…。)
その時、レファが後藤に向けて球を蹴った。
(そんなの、効かないよ!)
後藤は球を叩き切る。すると、中から粉が吹き出て後藤の視界を奪う。
「………!」
レファのするどいスライディングタックル!
そしてカニばさみ!
これはもちろんイエローカードだ。
後藤は動きを封じられた。
そこへ、ダニオーの巨体が落下してくる!
(しまった…!)
ドッシーーーン!
「ごとうさん!」
「…遅い。」
アヤカはイライラしていた。予定の時間はかなり過ぎている。
それなのに、松浦家に押し寄せて来るどころか、村を襲っている様子もない。
(何をモタモタしてるの?…場合によっては全員、殺す!)
アヤカは庭を通って松浦家を後にする。
その姿を松浦が部屋の窓から見ていた。
(あっ、アヤカさん、どこに…!)
松浦は驚いた。
アヤカの横顔。いつもの厳しい中にも優しさのあるものではなく、
それはまさに犯罪者、殺人鬼のものであった。
(なに、今の?あたしの知ってるアヤカさんじゃない…!)
松浦は嫌な胸騒ぎがした。このドキドキは、なぜ止まらない?
アヤカが出て行って少し経った頃、柴田が息を切らしてやって来た。
「お嬢様!海賊が来たんです!村の誰も信じてくれなかったけど…、
おやびんは戦っているんです!おやびんの話は本当だったんです!」
柴田が涙ながらに訴える。
松浦の体に衝撃が走る。この目で確かめるしかない。
「…案内して!急ぎましょう!」
ダニオーは地面に尻餅をついていた。
その尻はめり込み、やはり地割れが起きている。
(…助かった。けど…。)
後藤の体にベットリと付いた油のおかげで、
ダニオーの両足が滑り、直撃を免れたのだった。
(アバラの何本かはイッたかな。…くそっ!眠いっ!)
後藤はレファに向かって剣を振る。
しかし、レファは素早い動きでそれをかわし、新しい球を取りに行く。
ダニオーは立ち上がり身構える。
後藤も剣を構えるが、激しい睡魔に襲われ、少し足元がおぼつかない。
(…もう一回喰らったら、さすがにヤバイな…。)
ダニオーはそんな後藤の姿を見て、勝利を確信したようだ。
レファと目を合わせると、またしても大きくジャンプ!
そして、レファは後藤に向けて球を蹴る!
後藤は僅かに動いてそれをかわす。
そこにレファのするどいスライディングタックル!
(ワンパターンなんだよ!この単細胞っ!)
後藤はジャンプでそれをかわす。
そして空中で剣を振り、レファの両足を叩き切る!
「Oh…!」
着地した後藤は両足を踏ん張り、ダニオーの落下地点に剣先を向ける。
「No―――!」
ドシュッ!
ダニオーの串刺しの出来上がり。
「…ヒャ、ヒャクマンエン…(ガクッ。)。」
ダニオーの息の根が止まった。どうやら金で雇われていたらしい。
(マ、マサカ、アノフタリデモ、カナワナイナンテ…!)
ミカは足が震えていた。
アヤカの話と少し様子が違うが、間違いない。この娘。こそ後藤真希。
最強最悪の戦闘マシーンだ。とても勝てる相手ではない。
後藤はダニオーから剣を引き抜く。そして戦況の再確認。
(どうやら、今度こそ終わったかな…。)
すると後藤は、急に地面に仰向けに倒れた。
「ごとうさん!」
辻が駆け寄る。後藤が眠そうに辻に話す。
「…んあー。ちょっと5分だけ…。ZZZ…。」
後藤は眠りに落ちた。体力回復モードだ。
加護は倒れたままで笑う。
「あははっ、なんちゅーやっちゃ。ホンマに…。」
「何やってんのっ!お前たちっ!」
全員が坂の上を見上げる。アヤカがそこに立っていた。
その形相は恐ろしく、怒りに体を震わせている。
「…これはどういう事?ミカ。」
「ソ、ソレハ、コイツラガ、ジャマヲシテ…。」
ミカが弁解する。アヤカは表情を変えない。
「このガキが抵抗してくるくらい分かってたわ。
アンタたち、こんなガキ二人に足止め喰らうなんてどういう事?」
「チガウノ、アヤカ!ゴトウマキガ…!」
アヤカの背筋が凍った。その名前を聞くだけで、今でも震えがくる。
アヤカは辻の傍に倒れている娘。を見た。確かにあの後藤真希だ。
(…なんでこいつがこんな所に…!これじゃ足止め喰らっても仕方ない…!)
しかしどういう事か、後藤は動けないようだ。
アヤカは胸を撫で下ろす。
(そうか、ダニオーとレファの二人がかりで相打ちか。)
助かった。金で雇った二人がこんな働きをしてくれて、その上命を落とした。
計算外の出来事だが、こんなにラッキーな結果になろうとは。
(フフフ、この計画は間違いなく成功する。)
その時だった。
「アヤカさん!もうやめて!」
アヤカは後ろを振り返る。
加護が信じられない、といった顔で叫ぶ。
「あやや!それに柴田!なんでや…?」
そこには松浦と小さな柴田が立っていた。
アヤカは凍りつくような目で松浦を見つめる。
「あら、バカなお嬢様がノコノコと。
そんなに慌てなくても、ちゃんと殺してあげるわよ。」
松浦の背筋が凍りついた。
「どうして、どうしてなの…!」
アヤカはすべてを話した。
すべてはこの村に来たときから始まっていた。
松浦はもちろん、その両親、村人たちの単純さに笑いが止まらなかった事。
自ら松浦の両親を手にかけた事。
「…あとはお前が遺書さえ遺して死ねば、すべてが丸く収まるのよ…。」
松浦は膝から崩れ落ちた。
ショックだった。涙が溢れ出した。
両親を殺された事、ずっと騙されていた事ももちろんだ。
だが、それ以上に…
「ごめんなさい!あいぼん!…あたし、あなたを信じてあげなくて…!」
友達を信じてやれなかった事。深い後悔が松浦を襲う。
自分はひどい事を言ったのに、自分を守る為にボロボロになっている加護。
「なんや、そんなんどーでもええねん。」
(あいぼん…。)
「ウチらは友達やん。友達の為に体張るんわ当たり前やんか。」
松浦はその言葉に救われた。こんな自分でも、まだ友達と呼んでくれる。
24時間経過のため保全
保全
「何やってるの、ミカ!早く済ましちゃいなさい!」
「ワ、ワカッタワ。アヤカ。」
アヤカに促され、ミカは松浦に近付こうと坂を上る。
しかし、後藤の事が気になってその足取りは重たい。
「あいぼん海賊団!おるんやろ!?」
加護が大声で叫んだ。
木陰から三人が飛び出してくる。
「「「はいっ!」」」
「よっしゃ、あやや連れてここから離れろ!」
四人の少女は加護の言葉に驚きを隠せない。松浦もだ。
「…そんな、あいぼん。あたしだって…。」
「アホか、足手まといやっちゅうねん。はよいかんと、
ホンマにもう二度と話しに行かへんで。」
加護は笑顔で松浦を見上げる。松浦は頷く。
「…うん、分かったよ、あいぼん。」
四人の少女は不安そうだ。加護が声をかける。
「あいぼん海賊団!お前らが頼りや、あややを頼むで!」
「「「「…はいっ!」」」」
松浦と四人の少女は駆け出した。
「チッ、小ざかしいマネを…。」
アヤカがそれを追いかけようと振り返る。
その時、後頭部にパチンコが命中し、目から火花が飛び散った。
アヤカは加護に振り返る。
「き、貴様、一度ならず二度までも…、殺す!」
アヤカが素早い動きで加護に近付き、その腹を思い切り蹴っ飛ばす。
「うぐっ!」
「あいぼん!」
辻がアヤカに飛び掛かる。アヤカは簡単にそれをかわす。
その横をミカが駆け抜けた。
加護が息も絶え絶えに辻に話す。
「…ちゃうわ、のの。コイツやない、あの四角いんをやってくれ…。」
「あいぼん…。わかったのれす!」
辻がミカを追いかけようとする。
その前にアヤカが大きく両手を広げて立ちふさがった。
「おっと、ここは通さないわよ。これ以上計画が狂ったらたまらない。」
アヤカは格闘タイプだ。
その技のほとんどは三色時代に、ある人物に叩き込まれた。
ダンスのようなステップで軽やかに敵を倒す。
辻の突撃!ダンシング・アヤカ!
アヤカは時間を稼いでいるように見える。余裕の表情だ。
(くそっ!こんな場合ちゃうわ…!)
加護は立ち上がろうとする。しかし、体がいうことをきかない。
這いずりながら坂を少しづつ上る。
そんな加護の姿をアヤカは冷めた目で見る。
「そんな体で何をしようっていうの?アタシ達にかなうワケないじゃない。」
「そんなん関係あるかい!」
アヤカはその迫力に気おされる。
加護は涙を流していた。
「ウチはあややの友達なんや、アイツらのおやびんなんや!
友達が、おやびんが守ってやらんでどないすんねん!」
(なんだ、こいつ…?)
アヤカは呆れて物も言えない。
そこへ辻が殴りかかる。
アヤカはその辻の腕を取り、背負い投げのようにして地面に叩きつける。
「ひんっ!」
アヤカは辻を見下して言う。
「お前だってそうだ。見ない顔だし、関係のないお前がなんで戦うの?」
辻は涙を流しながらアヤカを睨み付ける。
「ともらちがないてるかられす!」
加護は辻のその言葉に驚いた。
二人は昨日初めて出会った。
同い年、同じ背格好の二人。
辻が感じた懐かしさ、加護が感じた充実感。
決して、加護の父親のおかげというだけではなかった。
出会うべくして出会った二人。
そう、この出会いこそ This is 運命。
(あはっ、もーうるさくって寝られやしない…。)
後藤がゆっくりと起き上がる。
「じーつー!加護おんぶしてあいつ追いかけろ!」
アヤカが後藤に気付く。
「ア、アナタ、生きてたの…!?」
「ごとうさん!」
辻が後藤に振り返った。
後藤は立ち上がり、剣を手に取った。
「早くしなよ。時間がないんだから。」
「へい!」
辻は加護の傍にいくと、ひょいとおんぶして一気に駆け出す。
アヤカは足が震えていた。
「なんでそんな事を!?アナタはクールな戦闘マシーンじゃ…!」
「後藤は別にクールじゃないよ。普通の女の子だよ。」
後藤がアヤカにゆっくりと近付く。
アヤカは一歩も動けない。
「どうして!?アナタには関係のない事じゃない!」
後藤は微かに微笑んで剣を構えた。
「あはっ、あいつらが泣いてるから、かなっ?」
「………!」
アヤカは確信した。
計画の失敗と、自らの命運が尽きた事を。
>347,348,349
保全感謝です。
加護は走る辻に背負われている。
辻がさっき言ってくれた言葉が、加護の胸に響いていた。
(なんや、のの。照れるやないか…。)
加護はこの村に同年代の友達がいなかった。
父親の事をからかわれたり、悪く言われるたびにケンカしていたからだ。
しかし、それでも決して加護はひねくれる事はなかった。
両親を信じて、誇りに思っていればこそだった。
数年前、加護が母親を亡くしたとき、一緒になって泣いてくれた少女。
それが松浦だった。
みんなにやさしい松浦自身は覚えていないかもしれない。
何日も暗く落ち込み、泣き続けていた加護にかけてくれた言葉。
(あいぼん、もう泣かないで…。泣いたらきっと、お母さんが悲しむから…。)
強く生きるチカラを与えてくれたその言葉。
だから松浦が両親を亡くしたとき、加護は真っ先に駆けつけた。
松浦が寂しくならないように、毎日毎日、話し相手になっていた。
加護にとって、友達とは松浦ただ一人だった。
しかし、辻は言ってくれた。
自分の事を、友達だ、と。
辻の肩にはバッサリと切り傷があり、まだ血が出ている。
何の見返りも求めず、体を張ってこの村と自分を守る為に戦ってくれた。
ギュッ。
加護の両腕に力が入る。
「…あいぼん、ちょっとくるしいれすよ。」
辻が走りながら加護に振り返ろうとする。
慌てて加護が辻の顔を前に向かせる。
「しっかりつかまっとらんと落ちるやろー。それにちゃんと前見て走らな。」
「おった、あそこや!」
加護の指差す方向、四人の少女が倒れている。
ミカが松浦の首を捕まえ、目の前に紐のついた輪っかをぶら下げている。
「のの!このまま真っ直ぐ!」
「へい!」
辻の背中で加護がパチンコを構える。
「くらえ!このボケ!」
加護がパチンコを弾く。
その狙いは違わず、紐を持つミカの手に命中した。
「Oh…!」
ミカが輪っかを落とし、松浦を離して手を押さえる。
慌てて拾おうとしたその目の前に、辻と加護の二人が仁王立ち。
「さー、どー料理したろうかな…。」
「りょーりしたるのれす…。」
ミカは天を仰いだ。
「No…。」
二人は容赦無くミカを料理した。殴る蹴るは当たり前。
「この、金魚のフンが!」
「おまえなんかいなくてもいいのれす!」
そして、とどめはもちろん、
「ぷにぷにのー、はらー!」
ボッカーーーン!
ボロボロになったミカは遥か彼方に吹っ飛んだ。
どうやら四人は眠らされただけのようだった。
起きた四人と松浦に向かって加護が話した。
今日の海賊の襲撃は無かった事にする。
いたずらに村のみんなを不安にさせるような事はしたくない。
四人の少女はブーブー言っている。松浦が話す。
「…あいぼんがそれでいいんだったら、あたしはそれでいいよ。」
「それでええんや。ぜーんぶウチのネタやった、っちゅう事や。」
加護が笑顔で答えた。
そんな加護の顔を見ると、四人も納得するしかなかった。
その横で辻が腕を組んでなにやら考え込んでいる。
「なんや、のの。どないしたん?」
「うーん、なんかわすれてるきがするのれす…。」
二人は顔を見合わせた。
「「あっつ!!」」
ズルー。
「…ウェ〜ン、上れない、上れないよ〜(シク、シク)…。」
石川はまだ油の坂と格闘していた。
石川は落ち込んでいる。
「(シク、シク)人間って、悲しいね…。」
結局、自分は何の役にも立てなかった。
辻と加護がヒソヒソと話す。
「なんや、めっちゃネガティブやんか。どないしたん?」
「へい。ののにはわからないのれす。」
と、その時、
「僕には分かる!」
後藤だった。やさしく石川の肩を抱く。
「梨華ちゃんの気持ち、僕には分かる。梨華ちゃんがいなかったら、
後藤も坂を上れなかったしね。ほら、元気出して。」
「…ありがとう、ごっちん!梨華、頑張る♪」
石川は機嫌を取り戻した。
加護がヒソヒソと話す。
「ごっちん、落ちたん梨華ちゃんのせーやん。それにそのキャラおかしいで。」
「あはー、いーじゃん、別に。機嫌直ったんだし。」
「じゃーん!これがトロピカ〜ル号でーすっ!」
松浦が船に案内してくれた。
中規模の帆船だ。
赤・黄・緑のラスタカラーで派手に着色され、マストはなんと椰子の木だ。
「わー、かっこいーのれす!」
「キャ〜、カワイイ♪」
(こんなんで、いーのかな…?)
三者三様の感想だ。
「ほんとにもらっていいんれすか?」
「うん、もちろん!あたしの、ううん、この村の恩人だもん。」
松浦は加護の顔を見た。
本当は二人でいつか旅をする時のためにとっておいた船だ。
しかし、加護が辻たちにあげようと言った。
もちろん、松浦がそれに反対するはずがない。
「旅に必要なものはだいたい積んであるから。」
松浦が笑顔で話す。
辻・後藤・石川の三人は船に乗り込んだ。
「ワ〜、本当だ。これだと一ヶ月くらいは平気だね。ありがとう♪」
辻が加護に振り返る。
「…あいぼんはいかないんれすか?」
全員の視線が加護に集まる。
加護はうつむいていた。
(…ウチかて、一緒に行きたい!
お前と一緒に世界中を見て周りたい!せやけど…。)
加護は松浦の顔を見た。
松浦は優しく微笑んでいた。しかし、その目に涙が浮かんでいる。
「ねえ、あいぼん。あたし、ずっと嘘ついてたんだ…。」
「あたし、本当はどこも悪くないんだ…。でも寂しくて、病気だとかって
言ったら、きっとあいぼんがいつも来てくれるだろうって…。」
松浦は両手で顔を押さえた。
「なんや、そんなん。ウチが気付いてへんとでも思ってたんか?」
(えっ?)
「そんなん、関係ないねん。ウチがあややと話したかったからや。」
(あいぼん…。)
松浦は涙を拭った。
「…じゃあ、あいぼん。もう一つだけ、あたしの嘘を聞いて。」
「えっ?」
松浦は笑顔で話す。
「あいぼんなんか大っ嫌い。だからもう二度と帰ってこないで。」
(あやや…。ありがとう!)
加護は船に飛び乗った。そして松浦に振り返る。
「あやや!ウチはこの目で世界中を見てくる!そして絶対帰ってくる!
そん時はあやや、聞いたこともないようなごっつい話したるから!」
加護は松浦に向かって笑顔で手を振る。
松浦も笑顔で手を振り返す。
帆が風を受け、ゆっくりと船が進みだした。
そこに村田・大谷・柴田・斉藤の四人が駆けつけた。
「あいぼん海賊団!今日で解散や!お前らも元気でな!」
加護は涙を流して手を振る。
四人の少女も泣きじゃくりながら、大きく手を振っている。
加護の気持ちを知っているので誰も止めようとはしない。
船の速度が上がった。
(あいぼん、いってらっしゃい!)
加護と松浦・四人の少女は互いに見えなくなるまで手を振っていた。
第二章 第三話 完
367 :
おまけ:02/01/03 22:30 ID:jEDh/mES
「せやけど、このお宝、どー山分けする?」
ココナッツ海賊団から頂いたお宝だ。
パッとしない連中だったが、そこそこ貯めこんでいた。
「んあー、後藤はさー、梨華ちゃんにほとんどあげようと思うけど。
梨華ちゃん、欲しがってたし。じーつーは?」
「ののもそれれいいれす。」
「なんや二人とも欲がないなー。しゃーないな、ウチもそれでえーわ。」
石川の瞳がウルウルする。
「み、みんな…。」
辻がふとあることに気付く。
「そーいえば、あいぼんのぱちんこのたま、なくなっちゃいましたね。」
「おっ、えーことゆーた。そやな、お宝の代わりっちゅうたらなんやけど、
ここは梨華ちゃんにモリモリふんばってもらわなアカンな。」
石川は動揺する。
「えっ…。そ、そんなの、しないよ…。」
おまけ 完
ここはちょっと長くなってしまいました。
まあ永遠の親友の出会いってことで。
次回の更新は第三章 第一話です。
バレバレのヤツの登場と、
もう一つの物語がけっこう明らかになります。
369 :
保全要員:02/01/04 16:34 ID:HWPD7eX5
ほぜ〜ん
test
見渡す限りの青い空。
すがすがしい風に帆を膨らませ、船はゆっくりと進む。
甲板で加護がなにやら作っている。
それを興味深く見つめる辻。
後藤は椰子の木の木陰、船の後部でお昼寝中。
船室から石川が顔を出す。
「みんな〜、ご飯出来たよ〜♪」
「わーい、めしー!」
「もー、遅いっちゅうねん。お腹と背中がくっついてまうわ。」
辻と加護の二人は即座に反応。
しかし、後藤は、
「ZZZ…。」
「あれ〜、ごっちんはいいのかな〜?」
「ほっといたらえーねん。寝とるほーが悪い。」
辻と加護はテーブルに付いた。
「じゃ〜ん!チャーミー特製の焼きそばだよ〜♪」
石川がテーブルの上に皿を置いた。
辻と加護の表情が歪む。
「うげっ!といれくせーのれす!」
「アホかっ!こんなモン、誰が食うかいボケッ!」
加護が窓から焼きそばを投げ捨てる。
魚たちがエサかと集まってきた。すると、
プカー…
焼きそばを食べた魚たちが腹を上にして浮かび上がった。
「…お、お前、殺す気かっ!」
(な、なんで…、シクシク…。)
その時、甲板から若い男の声がした。
「こらっ!海賊たち、出て来いっ!」
「なんや?騒々しいな…。」
辻・加護・石川の三人は船室から出た。
するとそこには若い男女のコンビが立っていた。
三人はその男の顔を見て驚く。
「…ごとうさん?」
そう、その顔はまさしく後藤真希。しかし、こちらは明らかに男だ。
「…ユウキ、知り合いニダか?」
片割れの女が、後藤似の男に話した。
後藤似の男が答える。
「オレはこんなヤツら知らねーよ!問答無用!ソニン、行くぞ!」
ユウキと呼ばれた男が、刀を振り上げて襲い掛かってきた。
とっさに三人は身をかわす。
男の振った刀によって、船の手すりが切り落とされた。
「…いきなり何しよんねん!このアホ!」
男が不敵に笑う。
「はははっ。海賊専門の賞金稼ぎユニット、ユウキとソニンとはオレ達のことだ!」
辻は訳が分からないといった顔をしている。
「ごとうさん!?」
「のの、こいつはごっちんちゃうで!やってまえ!」
ユウキが辻の目の前で刀を振り上げる。
「こんな名も無い海賊にやられるかよ!」
刀を振り下ろす!
しかし、それより速く辻の体当たり!
「ぷにぷにのー、はらー!」
ボッカーーーン!
ユウキは遥か彼方へと吹っ飛んだ。
「ユウキ!」
ソニンがユウキの飛ばされた方向を見て叫んだ。
ユウキはかなり遠く離れた海に落ちたようだ。
「んあー、もーうるさいなー。何かあったのー?」
後藤があくびをしながら姿を現した。
その姿を見てソニンが驚く。
「えっ、真希さん!?…なんで!?」
後藤がソニンの姿に気付く。
「あー、ソニンさんじゃーん。久し振りー。どーしたの?こんなトコで。」
バシャバシャバシャ。ザッパーン!
遠くに飛ばされたはずのユウキが、もの凄い速さで泳いで戻ってきた。
「…ハァ、ハァ。よくもやりやがったな!許さねえ…。」
後藤がユウキの姿に驚く。
「あっ、ユウキじゃん。お前まで何やってんの?」
「えっ、ねーちゃん?…なんで…?」
そう、後藤真希とユウキは実の姉弟だ。
似ているのも無理はない。似すぎとも言えるが。
そして、ソニンは和田道場でのユウキの同期。
年はソニンが上だが、後藤のほうが先輩だ。
後藤が尋ねる。
「二人そろって何やってんのー?」
「聞いてくださいよ、真希さーん。」
ソニンが後藤に泣きついた。
「ユウキったら、和田さんとケンカしテムニカ、飛び出して来たニダ…。」
「ちょっと、何やってんの?ユウキ!」
ゴツン!
後藤がユウキの頭を殴った。
「痛いなー、ねーちゃん。だってさー…。」
市井のあの一件以来、ユウキは死にもの狂いで泳ぎの練習をした。
さっきの異常なまでのスピードの泳ぎはその賜物だ。
自分さえしっかりしていれば市井を死なせることはなかった。
命懸けで守ってもらったこの命。
それなら今度は自分が守る番だ。
もう絶対、誰も海で死なせはしない。
その思い、責任からユウキは必死だった。
そして実際、ユウキはいくつもの海難事故から何人もの人々を救った。
そんなユウキを和田は微笑ましく見ていた。
市井の意思、勇気は確実に受け継がれて生きていると。
しかし、和田は同時に複雑な思いを抱いていた。
人の命を救う勇気。
それは疑うべくもなく素晴らしいことだ。
だが、和田はユウキを道場の跡継ぎとして期待していた。
それなのに、肝心の剣術のほうがおろそかになっている。
見かねた和田がユウキを叱りつけると、ユウキは飛び出していった。
そんなユウキを心配した和田が、ちょうど旅に出るところだったソニンに
ユウキを追わせ、戻るように説得するよう頼んだのだった。
ところが、同期のソニンの説得などにユウキは応じない。
そこでしょうがなく、ソニンはユウキと一緒に行動しているのだった。
「またお前はー、みんなに迷惑ばっかりかけて!」
後藤がまたユウキを殴ろうとする。
ユウキは慌てて身をかわす。
「いーじゃん、いーじゃん、少しくらいさー。飽きたらまた帰るから。」
「もー、しょうがないなー。ソニンさん、ゴメンね。このバカのせいで…。」
後藤はソニンに頭を下げた。
ソニンは慌てる。
「そ、そんな。頭下げないでください。全然、気にしてないニダ…。」
ソニンにとって後藤は憧れの存在だ。
市井が出て行ってからの道場で、後藤に並ぶものは誰一人としていなかった。
そんな人に頭を下げられるほうが恐れ多い。
ところがユウキはのん気なもんだ。
「この先に、確か海上レストランってのがあるはずだぜ。みんなで行こー!」
「わーい、めしー!」
「えー事ゆーた、後藤2号。まともなもん食うでー!」
(ウウッ…、シクシク…。)
ほぜん
「わ〜、美味しいね、これ〜♪」
ここは海上レストラン。
大型の船をレストラン用に改造したものだ。
四人掛けのテーブルに辻・加護・石川、
後藤・ユウキ・ソニンの三人づつに別れて座っている。
「アタシ、本格的なイタリアンって初めてなんだ〜♪あっ、これなんだろ〜?」
石川はすっかり機嫌を直し、料理に舌鼓を打つ。
辻と加護がヒソヒソと話す。
「…なんや、ホンマに調子のいいやっちゃなー。」
「れも、りかちゃんのそんなところもかわいいれすよ。」
辻は石川が喜んでいるのを見て、まるで自分の事のように嬉しい。
「なー、オレの言ったとおり来て良かったろー?」
ユウキは自慢気だ。
「ナニ言ってるニダ。ユウキも初めて来たくせニダ。」
運ばれた皿の上はすべて片付いた。
全員、満腹満足だ。
後藤はいつものように食後のお休み。
「それにしてもさ〜、後はやっぱり甘い物だね〜♪」
「あっ、ののもたべたいのれす!うぇいたーさーん!」
辻が大きな声で白いスーツ姿のウェイターを呼び付けた。
その背はスラリと高く、髪を後ろでまとめている。
かなりの男前だが、れっきとした娘。だ。
そのウェイターが、辻たちのテーブルにやって来た。
「なんですか、お嬢さん?」
「あまいものがたべたいのれす。あいすをくらさい。
こーんなふうに、はちらんにかさねてほしいのれす。」
辻が小さな体で大きくジャスチャーをした。
「はははっ、そんなお客さん初めてだよ。まかせて、他のみなさんは?」
ウェイターが笑顔で尋ねる。
「ウチは普通のんでええわ。」
ユウキとソニンも普通で良いと言う。
心なしか石川の様子がおかしい。
なにやらモジモジしている。
「りかちゃんはろうします?」
「ア、アタシはいい…。」
加護が不思議そうにする。
「なんや?梨華ちゃんが最初に言ってたやんか。どないしたん?」
「な、なんでも無いよ。…もうお腹いっぱいだから。」
石川は明らかに動揺している。
「そちらの方はお休みのようだし…、それではすぐにお持ち致します。」
ウェイターはかしこまって頭を下げると、
スーツの裏地を広げて見せながらターンして、テーブルを後にした。
「なんや?えらいキザなやっちゃなー。」
加護は少し呆れ気味。
そのウェイターの後ろ姿を熱い視線で見つめる石川。
ウェイターは厨房へと姿を消した。
石川はその扉を見つめながら、胸を両手で押さえている。
(アアッ、なんてステキなお方…。なにかしら?胸がいっぱい。
ドキドキする…。もしかして、これって…。)
そんな石川の姿を見て、辻が不思議そうにする。
「…ねぇ、あいぼん。りかちゃんのめがはーとがたになってますよ。」
「なんや、悪いもんでも食ったんか?さっきの焼きそばとちゃうか?」
ウェイターがアイスを持ってテーブルに戻って来た。
辻の目の前には高く積まれた八段アイス。
「わーい、わーい!」
辻は無邪気に大はしゃぎ。
「はははっ、そんなに喜んでもらえると、こっちも嬉しいよ。」
ウェイターが笑顔で話す。と、熱い視線に気付く。
石川とウェイターの目と目が合った。
とっさに石川は視線をそらす。その顔は真っ赤だ。
ウェイターが何か勘付いたらしく、ニヤリと微笑む。
「あたしの名前は吉澤ひとみ。美しいお嬢さん、あなたのお名前は?」
「ア、アタシは石川梨華…(ドキドキ)。」
石川はうつむきながら答えた。
まだ両手で胸を押さえている。
吉澤が石川の肩に手を置いた。
「おー、心が痛むというのかい?…んー、ベイベー。それは恋、恋煩いさ!
きっと、僕と出会ったから君は恋をしたんだね…。」
石川の胸は爆発寸前。
激しく鼓動を打っている。
もう完全に我を忘れている。
(キャー、…もう、どうにでもして…♪)
そんな石川を、口の周りをアイスでベタベタにした辻が不思議そうに見ている。
「…ねぇ、あいぼん。りかちゃんこんろは、
めをつむってくちをとがらせてますよ。」
「そーゆーことかいな。のの、ウチらにはまだ分からんでえーハナシやな。」
まだ幼さの残る加護にとっては、恋愛ってなあに?だ。
バアン!
その時、レストランの入り口のドアが激しく開かれた。
一斉に視線が集まる。
そこにはボロボロの海兵の格好をした、一人の女性が立っていた。
吉澤も石川から手を離して、その海兵を見つめる。
石川は期待していた事が起きないので、うっすらと目蓋を開ける。
するとそこには、そっぽを向いた吉澤の姿。
石川はほっぺたを膨らませて少しムッとする。
(…もう、理解して、女の子…。)
ほぜむ
その海兵は足元をふらつかせながらも、なんとかテーブルに付いた。
「…なあ、ここはレストランやろ?もう何日も、何も食べてへんねん。
なんでもええから持ってきてくれんか…。」
海兵は弱々しく、そばにいた男のウェイターに頼んだ。
そのウェイターは汚い物でも見るような顔をしている。
「…失礼ですが、お客様、代金はお持ちでらっしゃいますか?」
「…見ての通りや、今は持ってへん。せやけどウチは海兵や、
ツケといてくれんか…?」
ウェイターの顔つきが一段と険しくなる。
「では、お持ちではないんですね…。」
ガツッ!
「ウグッ!」
ウェイターが海兵を殴りつけた。
海兵が椅子ごと倒れて、床に転がる。
「持ってないだと?ツケにしろだと?こんなに広い海なんだ、
逃げられちゃたまんねぇ。海兵なんか関係ねぇ、うちは現金商売なんだよ!」
ウェイターが大きく啖呵を切る。
「おー、いいぞー!」
周りの客から歓声と拍手が起こった。
普段、威張り散らしている海兵たちに不満を持つ者は少なくない。
海兵がウェイターに懇願する。
「…頼む!なんでもええねん!このままやとウチだけやない、後の皆も…!」
「しつこいぞ!」
ドカッ!
「グッ!」
ウェイターが海兵の腹を蹴り上げた。
「哀れなもんだな海兵さんよ。これが本当の“落ち武者”って奴か?」
客たちから笑いが起こる。
その一部始終を、辻たちは不快な思いで見ていた。
「…ひろいのれす、なにもそこまれしなくても…。」
すると、スッと吉澤が辻たちのテーブルを離れて厨房に消えた。
そしてすぐにベーグルとゆで卵を持って戻って来た。
海兵のところに近づく吉澤。
それをウェイターが止める。
「…なんのつもりだ、吉澤?お前、また勝手な事するつもりか?」
吉澤はウェイターに見向きもしない。
「…こいつは腹を空かしてるんだろう?だったら食わせるのがレストランだろ。」
ウェイターが吉澤の胸倉を掴む。
「お前!ちょっと長くここに居るからって何様のつもりだ!」
「お前に何が分かる!死ぬほどの空腹ってやつを味わった事あるのかよ!」
吉澤がウェイターを睨み付けた。
その時だった。
「うるさいよ!お前たち!」
二人を厳しく叱り付ける声がした。
フロア中の視線が厨房から出てきた娘。に集まる。
「…保田オーナー…!」
ウェイターがかしこまる。吉澤は見向きもしない。
石川が驚く。
「あ、あの人、足…。」
そう、この海上レストランのオーナー兼、料理長の保田圭。
昔、ある船の料理番を務めたことで、この世界で知らない者はいない。
その左足は木で作られた義足になっている。
「まったく、お前らはいつもいつも…。お客さんに迷惑だってのが
分かんないの?…ちょっと、吉澤!聞いてんの!?」
保田がゆっくりと吉澤に近づく。
「あたしはこの海兵が腹へってるってゆーから、
飯を食わせようとしただけだよ。」
吉澤がやっと振り返って保田に答えた。
保田がその海兵の姿に驚く。
「ま、まさか、みっちゃん…!?一体どーしたの?」
「…圭ちゃん!?…さよか、ここ圭ちゃんの店やったんか…。」
海兵が顔を上げた。その顔も驚きに満ちている。
保田が海兵に近付き、膝を付いた。
「みっちゃん、みんな心配したんだよ。急にいなくなっちゃうから…。」
この海兵の名前は平家充代。
昔、保田と同じ船に乗っていた。
その後も三色の一つ、“黄色”で共に戦った古い付き合いだ。
保田は懐かしい仲間の姿に喜びを隠せない。
「よかったよ、みっちゃん。それにしても何、その格好?なんかのギャグ?」
「…ウチは今、海軍におんねん…。」
「何それ?どーゆー事?悪い冗談よしてよ!ちゃんと教えて!」
平家は言葉を絞りだすようにつぶやいた。
「…ウチは今、はたけさんの船に乗っとる…。」
保田の体に衝撃が走った。
みるみる表情が険しくなる。平家の胸倉を掴んだ。
「…まさか、みっちゃん!お前が、全部…!?」
「…許してくれとは言わん!…ウチが全部悪いんや…。」
保田の中で不可解だった事、点と点が思い出される。
「なんで!?アイツは“あの方”を裏切ったんだぞ!」
「…しゃーないねん。ウチは愛してもーたんや、はたけさんを…。」
「……!」
完全に繋がった。モヤモヤしていた出来事のすべてが。
説得したはずの安倍の事。
最後の大戦の直前に、平家が姿を消した事。
そして、最終決戦の終盤。後藤と安倍の一騎打ちが、
今、まさに決着を迎えんという時に、アイツらが現れた事…。
保田の体は怒りに震えている。
「それじゃあ、まさか、“青組”が来なかったのも…。」
「……。」
平家は無言でうなずいた。
保田は込み上げて来る怒りを抑え切れない。
しかし、平家の気持ちはみんな気付いていた。
あの船の仲間内で、みんなまるで自分の事のように願っていた。
(みっちゃんの思い、届くといいね…。幸せになれるといいね…)
保田は平家の胸倉から手を離した。
立ち上がって平家を見下す。
「みっちゃん、もうお前を責める気はないよ。
…だけど、絶対に許せない!お前はウチらを、仲間を裏切ったんだ!
もう二度と、ウチらの前に顔を見せないでくれ…。」
「……。」
平家は無言で立ち上がった。
そして、ふら付きながらレストランの出口に向かった。
「どうしたんだよ、オバチャン!?腹へってる奴を追い返すのかよ!」
吉澤は驚きを隠せない。保田に詰め寄った。
保田は目を合わせようとしない。
「オバチャンだって知ってるだろ!?死ぬほどの空腹を…!」
「…うるさい!」
ドガッ!
ガッシャーーーン!
保田が吉澤を蹴り飛ばした。
吉澤が吹っ飛び、後藤たちのテーブルをなぎ倒す。
「お前に何が分かる!?何も知らないヤツが口出しするな!」
明らかに保田の様子がおかしい。
こんな保田の姿を、吉澤は前に一度だけ見たことがあった。
吉澤はなんとか立ち上がる。
「そうだよ、分かんないよ!…今日のオバチャン、おかしいよ!」
吉澤はベーグルとゆで卵を持って、平家を追いかけた。
その後ろ姿を見つめる保田。
(…クソッ…!)
ちょっとネタばらし過ぎかも。
後でこっち書くとき苦労しそう(w
ところで、吉澤と平家って互いになんて呼び合ってるのかな?
知ってる人がもしいたら教えてホスィ…。
。 〇 o 〇
o 。 o 〇 〇 。
〇
。 〇。 。
。
。
o 〇
〇 〇
。 o 〇
>>407 吉→平家 「平家さん」
平家→吉 「よっすぃー」
「ヘッチャラ平家よろしくよっすぃー」に限っていえばこんな感じです
「…あいぼん。」
「うん。」
辻と加護の二人は吉澤の後を追いかけた。
後藤のテーブルにいた三人は、椅子ごと倒れている。
石川がユウキを助け起こす。
「大丈夫〜?」
「…イテテテ、なんなんだよ?この店は…。」
ユウキの懐からこぼれ出したのか、大量の写真が床にばら撒かれていた。
その内の一枚に石川が気付く。
手に取り、じっと凝視する。その表情は険しい。
「ああ、それさ、手配書っつって、そいつらやっつければ
そこに書いてある金額が貰えんだ。おもしろいだろ?
…今、見てんのは最近また暴れ出したヤツらみたいだね。」
その時、やっと後藤が目を覚ました。
「…んあー、あれー?なんであたし倒れてんのー?」
体を起こして周りを見渡す。保田の姿が視界に入った。
(あれっ?あの人…。)
hozen
吉澤と平家はレストランの裏手にいた。
平家は涙を流しながら、ベーグルとゆで卵をむさぼっている。
吉澤はやさしくそれを見守っている。
「あははは、あんまり急ぐと喉に詰まるよ。」
「…ン、ンググッ…!」
平家は喉を詰まらせた。
「わっ、言わんこっちゃない。すぐ水持ってくるから待ってて…。」
その時、スッとグラスに入った水を差し出す手。
辻だった。
平家はグラスを奪うように手に取り、一気に喉に流し込んだ。
「めっちゃ腹空かしとるモンに、んなモサモサしたモン食わすなや。」
加護が吉澤に突っ込む。
吉澤はテレ笑い。
「へへっ、そうだったね。うっかりしてた。」
平家は食べるのを止めた。まだ半分残っている。
吉澤が気を使う。
「あれっ?もしかして、口に合わなかった?」
「…ううん、ちゃうねん。こんなに美味いベーグル初めてやわ。
せやから、あの人にも食べさせてやりたいねん…。」
平家はもったいなさそうに食べかけのベーグルを見つめた。
「ホンマにありがとう!この借りは絶対返すから。」
「…そ、そんなのいいよー。当たり前の事しただけだから…。」
吉澤は照れくさそうにしている。しかし、平家は収まりがつかない。
「ホンマに感謝してるんや。ウチは平家充代っちゅうねん。
せめて名前だけでも教えてんか?」
「あ、あたし?吉澤ひとみだけど…。」
「吉澤さん…!ホンマにありがとう!」
「な、なんか照れくさいなー。その呼ばれ方…。」
辻と加護が海を見てなにやらはしゃいでいる。
「あっ、またとびはねたのれす!よっすぃー、あれはなんてさかなれすか?」
「ホンマ綺麗やなー。よっすぃー、教えてや。」
「…よっすぃーって誰の事だよ…。」
吉澤は二人に呆れながら突っ込む。
辻と加護は振り返って当然のような顔をしている。
「“吉澤”やから“よっすぃー”やん。愛嬌あってえーんちゃう?」
「へい、ののもよっすぃーのほうがいいやすいし、すきなのれす。」
(…まったく、これだから子供ってヤツは…。)
吉澤は完全に二人のペースに巻き込まれた。
平家に向き直って笑顔で話す。
「さん付けって照れくさいからさー。もう、よっすぃーでいいや。」
「よっすぃー…。」
「そーいえばさー、平家さん、だっけ。
オバチャンと知り合いみたいだけど何かあったの?」
吉澤は気になっていた。取り乱していた保田の姿を。
「…ごめん、よっすぃー…。それは、その事だけは話したないねん…。」
平家は申し訳なさそうに答えた。
吉澤は慌てる。
「あーっと、話したくないならいいよ。こっちこそゴメン…。」
辻と加護が吉澤の目の前にやってきた。
「人が話したないこと聞くなや。デリカシーの無いやっちゃなー。」
「ほんとれすよ。くうきってもんをよんれくらさい。」
(だー。もー、なんなんだよコイツらはー…。)
吉澤は二人に突っ込まれて困惑した。
「…ふーん。みんなで“グランドライン”目指してるんだ。かっけーな…。」
吉澤は辻と加護から話を聞いた。
小さな二人が旅をしているのが不思議だったからだ。
吉澤は空を見上げた。
「知ってる?グランドラインに棲む幻の魚“ごなつよ”って…。」
辻と加護、平家は首を横に振る。
「へへっ、こーんなに大きくて長くてさー、真っ黒ですっげーかっけーんだ。
みんなはそんなのいないって言うけど、あたしは絶対いるって信じてる。
そいつを料理して食べるのがあたしの夢なんだ…。」
吉澤は身振り手振りを交えて楽しそうに話した。
さっきのキザな姿はどこにもない。無邪気な子供のようにキラキラと輝く瞳。
辻が吉澤の顔を見て嬉しそうにしている。
「…じゃあ、よっすぃーもいっしょにいきましょう。」
(えっ?)
「そやな。どーせ行き先が一緒やったら、人数多いほうが楽しいで。」
加護も辻に同意する。吉澤の胸が熱くなる。しかし…
「誘ってくれてありがとう。でも、あたしはここから離れる訳にはいかないんだ…。」
保田は自分の部屋に戻っていた。
椅子に腰掛け、デスクに突っ伏している。
確かに、平家に不振な点はいくつかあった。しかしそれでも、誰が仲間を疑えようか?
離れ離れになっても、敵と味方に別れても、その信念は互いに理解し合っていた。
結局、平家は友情よりも愛情を取ったということか…。
そうだ。他のみんなは一体…?
様々な思いが保田の中を駆け巡る。
コン、コン。
保田の部屋のドアをノックする音がした。
今は誰とも話したくない。保田はノックを無視した。
ドン、ドン!
ノックの音が一段と強くなった。
「うるさい!…開いてるよ!」
保田はうっとおしいと思いながらも、諦めて返事をした。
「…おじゃましまーす。」
部屋に入ってきた娘。の姿に保田は驚いた。
「…後藤!…なんでここに…!?」
「へへーん、けーちゃんヒサブリー。」
「…?お前、なんか感じ変わったね。まあいっか、座りなよ。」
保田は後藤にソファーを薦めた。
後藤はソファーに腰掛けた。向かい側に保田が座る。
「本当にヒサブリだね…。大戦の時以来か…。」
「あれっ?あの時後藤、けーちゃんに会ってないよ。それよりその足どーしたの?」
二人は何度か顔を合わせた事があった。保田がたびたび赤組を訪ねていたからだ。
後藤は保田の左足が気になっていた。
記憶の中にある保田の左足は、もちろん義足などではない。
「これ?まあちょっとね…。それより、裕ちゃんはどうしてる?」
「んあー、確か昔の仲間に会いたくなったって、どっか行っちゃった。」
(そっか、じゃあきっと、あの娘。の所だな…。
遠いな…。今のアタシじゃとても行けない…。)
保田はその場所に思いを巡らせた。
すると後藤は何かを強く決意したように話し始めた。
「…あのさ、けーちゃん。あの時は何も言えなかったけど、いちーちゃんは…。」
>409
ありがとうございます。早速、使わさせてもらいました。
ラジオの入らない地域在住なので助かりました。感謝です。
ほぜ
hoze
レストランの表側でなにやら騒ぎが起きていた。
「…なんだろ?騒がしいな…。」
吉澤を先頭に、辻・加護・平家が船の前方に向かって歩き出す。
叫び声が聞こえてきた。
「なんだ、あのデカい船は…!?」
「海軍の船か?でもあれは…?」
その声に平家が動揺する。
「…あの人や。…アカン!あの二人を会わせたらアカン!」
平家は船の前方に駆け出した。
「…ちょっとゴメン。騒々しいな…。」
保田は後藤の話を遮ってソファーから立ち上がり、窓から顔を出した。
窓の下には辻・加護・吉澤の三人。そして走り出した平家。
保田は吉澤に声をかけた。
「吉澤!何があった?」
「分かんない!なんかデカい海軍の船が来たって…。」
吉澤は保田を見上げて答えた。
(海軍の船…?みっちゃん…?…まさか!?)
保田は後藤に振り返った。
「悪い、後藤!話は後だ!」
辻・加護・吉澤の三人は船の前方に着いた。
「なんだよ、アレ…!?」
吉澤は自分の目を疑った。
その船は紛れもなく海軍の船。
それも本部直属の上級将校のみ、乗る事が許された大戦艦だ。
しかし、何本もあったはずのマストがすべて折られ、帆は切れ端が残るのみ。
船体のいたるところに傷やはがれた跡がある。無残な有様だ。
(この船がこんなになるって、嵐…?台風…?いや、それでもこれほどは…。)
常識はずれな破壊の有様に吉澤は驚きを隠せない。
「あっ、さっきのねーちゃんや!」
加護が指差す方向。
平家が小舟で戦艦に渡り、甲板から降りたはしごを昇っていた。
その時、保田がやって来た。少し遅れて後藤も到着。
保田が戦艦を見上げる。平家が甲板に乗り込むところだった。
(みっちゃん…!やっぱりそうか!この船にはヤツが…!)
甲板には何人もの海兵が倒れていた。
その目はうつろで唇が乾ききっている。
もう何日も、何も口にしていない姿だった。
一人の海兵が平家の姿に気付く。
「…曹長、助けて…。」
「…スマン…。」
平家は目を合わさずに急ぎ足で船室に向かった。
船室には一人の男が入り口を背にして、豪華なソファーに腰掛けていた。
その髪は長く、金色に染められている。
「…はたけさん、今戻りました。」
平家がその後姿に声を掛けた。男がゆっくりと振り返る。
「…やっと見つけたで、他の船を…。これでなんとか助かる…。
平家、お前もうハナシつけて来たんか…?」
はたけと呼ばれたこの男。以前はある海賊団にいた。
ところがある日、何人かの仲間と共謀してその頭を裏切り、その首を差し出した。
それと引き換えに今の地位を手に入れた男。
さっき甲板にいた海兵たちよりもまだまだ血色が良い。
平家は首を横に振った。
「…スイマセン、出来ませんでした…。」
はたけの表情が険しくなる。立ち上がって平家に詰め寄った。
「なんやと!オレは海軍本部の大佐や!オレの命令が聞けへんちゅうんか!?」
「そんなんちゃいます!今はこれだけでも…。」
平家は懐から食べかけの半分残ったベーグルを取り出した。
「…なめとんのか!」
はたけは平家の手を叩いた。
「あっ!」
床に落ちるベーグル。それをはたけが踏み潰す。
平家がはたけを睨みつける。
「…はたけさん!なんて事を…!」
「なんやその目は…。決めたで、奪うんや。あの船丸ごと奪ったる!」
平家の体に衝撃が走る。はたけにしがみついた。
「あの船だけは…、あの船だけは勘弁してください!他の船すぐに見つけますから!」
「…うるさいわ!」
ガツッ!
はたけが平家を殴り倒した。平家が壁に激突する。
「お前いつから口答えするようになったんや。黙って見とれ。」
(…圭ちゃん!…スマン!ホンマにスマン…!)
殴られた頬を押さえる平家。その頬を涙が伝わっていた。
はたけは甲板に出た。
倒れている海兵だちに呼びかける。
「お前ら起きろ!今からあの船を奪う!」
それを聞いた海兵たちが耳を疑う。
「はたけ大佐…!い、今なんと…?」
「…聞こえへんかったんか?あそこの船を奪うんや。」
はたけは面倒くさそうに繰り返した。
海兵たちは信じられないといった顔をしている。
「…出来ません!我々は誇り高き海軍です!そのような略奪行為は許されません!」
はたけの表情が険しくなる。
「…出来へんちゅうんか?」
パン!
はたけがその海兵の頭を銃で撃ち抜いた。即死だ。
「「……!」」
「上官の命令は絶対や!オレに歯向かう奴はこうなるんや!
お前ら助かりたいんやろ!?そんなら言う事聞けや!」
所詮、汚い事をしてこの地位を手に入れた男だ。
立場が変わっても、その性根までは変わってはいない。
その事はここにいる海兵たち誰もが分かっていた。
しかし、死の恐怖に極限まで追い込まれた彼らに選択の余地はなかった。
そのやりとりは吉澤たちにも聞こえていた。
「…なんで?なんで海軍がこの船を襲うの…?」
信じられない。納得がいかない。
ところが、この状況の中でやけに落ち着き払った声がした。
「…アイツにしたら、そのぐらい当然だろうね。」
吉澤は振り返った。保田だった。
(オバチャン…!一体この人は…?)
その時、ユウキとソニンが慌ててやって来た。
「大変だみんな!石川のアネキがいなくなった!」
「なんやて?どーゆーこっちゃ!」
辻・加護・後藤の三人が振り返った。
「一枚の手配書をじっと見てたニダ。そしたら急に飛び出して…。」
「あっ!あれみんなの船だろ!?」
ユウキの指差す方向。トロピカ〜ル号が進んでいる。まだそんなに離れていない。
「あのアマ、こんな時になんちゅー事しよんねん!」
その時だった。
キン!
何かを剣で切ったような音が響いた。そして…
グシャッ!メキメキ!バッシャ?-ン!
海軍の戦艦が真っ二つになったかと思うと、一瞬にして粉々に砕け散る!
海兵たちは海に投げ出された。
「なんや?何が起こったんや!?うわっ…!」
はたけも同様に海に投げ出された。
「何?一体、何が起こったの!?」
目の前で起こった出来事が吉澤には信じられない。
いや、ここにいるすべての人間、常に冷静な保田でさえ呆気にとられている。
人知を超えた破壊の力。
嵐?竜巻?
そんなものなど起きてはいない。空は青く晴れ渡っている。
この一瞬に何が起きた?
ユウキは辺りを見渡す。
さすがに鍛えられた海兵だちだ。溺れるものなど一人もいない。
いや、一人だけいた。長い金髪の男、はたけが苦しそうにもがいている。
「待ってろ!今助ける!」
ユウキが海に飛び込もうとする。その腕を吉澤が掴む。
「何するつもり!?アイツはこの船を襲う気だよ!」
「…そんなの関係ない!」
ユウキは吉澤の手を振りほどいた。
「目の前で人が溺れているのをほったらかしに出来るかよ!
もうイヤなんだ!人が溺れ死ぬのはもうたくさんだ!」
(ユウキ、お前…。)
まだユウキは過去に捕われている。
後藤にとってもそれは辛く悲しい出来事だった。
しかし、人はいつか必ず過去を乗り越えなければならない。
ユウキは海に飛び込んだ。そして足場になりそうな破片の上にはたけを乗せた。
「お前、何着てんだよ!そんな重たいモン脱げよ!」
「…助かったで、ボウズ…。」
ガッ!
はたけが裏拳でユウキを殴り飛ばした。
「ユウキ!」
広い足場となった破片の上に転がったユウキだが、すぐに立ち上がった。
「…チッ、そう来るかよ…。」
口から流れた血を拭う。ユウキは刀を抜いた。
その時、戦艦の破片の向こう側から小舟に乗った一人の女が現れた。
ゆっくりと近づいて来るその女。
髪は金髪で大きな色眼鏡を掛けている。
「…まさか、こんな化け物がなんでこんな所に…!?」
保田は自分の目を疑った。
いや、しかし、コイツの仕業なら納得がいく。
はたけもその女の姿に気付いた。
その体が恐怖に震え出す。
「…まさか!お前、まだ生きとったんか…!」
その女は眠たそうなしわがれ声で答えた。
「ちょっと時間かかったけどねー。でもあゆはー、あのくらい平気―。」
保田はこの女を知っている。僅かの間だが同じ船に乗っていた事がある。
「あゆだ…!浜崎あゆみだ!コイツこそ世界一の化け物…!」
石川は揺れるトロピカ〜ル号の船室にいた。
あの手配書によって現実に引き戻された。
その写真の連中は、最近また暴れ出したという。
急いで帰らなければいけない。
その思いから勝手に船を使ってしまった。
元々、自分にはみんなと仲良く旅をする資格など無い。
そうだ。アタシはずっと一人ぼっちだった。
これからもそれは変わりはしない。
割り切ったつもりだった。
しかし、思い出すのは楽しかった四人での旅の日々。
辻の笑顔、後藤の寝顔、加護のいたずら…
(…イヤだよ、こんなのって…。)
石川の頬を大粒の涙が伝う。
辻の言ってくれた言葉が胸に響く。
(…また仲間って、友達って呼んでくれるかな…?)
「なあ!もうオレは何もせーへんさかい!見逃してくれ!
お前にやられてから海兵たちも死ぬ寸前なんや!頼む!助けてくれ!」
はたけは土下座した。相変わらず震えが止まらない。
「…なんだよ、コイツ。情けねーな。」
ユウキは刀を収めた。
浜崎は戦艦の破片で出来た足場に乗った。しわがれ声で話す。
「あゆはー、つんくさんを裏切ったお前らをー、許す気はないよー。」
「……!」
この場にいるすべての人間の動きが止まった。
つんくとは、あの偉大な海賊王の名前だ。
たしか海賊王はその仲間たちに裏切られて殺された。
その裏切り者の一人がここで土下座しているはたけ。
そして保田圭。彼女は伝説の“海賊王の娘。たち”の八人の内の一人。
三色時代の中心メンバーを経て現在に至る。
浜崎はほんの僅かな間だけ、海賊王の船に乗っていた。
その恩を忘れていない浜崎が、はたけを倒そうとしているのだった。
吉澤は三人の関係を理解した。しかし、まだ分からない事だらけだ。
「でも、どうやってあの船を…!?」
「背中に背負ってるだろ。あれでさ…。」
保田が吉澤に答えた。浜崎の背には一本の長剣が背負われている。
「…まさか!あんなの一本で…!?」
(なるほど、確かに世界一だ…。)
後藤はさっきから体の震えが止まらない。
恐怖?いや、武者震いだ。
後藤は決意した。今は周りの事など目に入らない。
「あのさ、じーつー。あたし、お前に会うずっと前にある人と約束したんだ。
世界一になるって。こんなに早くチャンスが来るとは思わなかったけどね。
…行ってきてもいいかな…?」
辻は後藤の顔を真っ直ぐに見た。
そこには自らの夢を貫かんとする、強い意志の瞳があった。
そんな目をした人間を引き止める言葉を辻は知らない。
「…へい、いってらっさい…!」
辻はこぼれ落ちそうになる涙を必死でこらえながら笑顔で返事した。
後藤は爽やかな笑顔でそれに答えた。
「うん、行ってきます!」
>433さん
こんなスレがあったんですね。
正直、知りませんでした。
こんなネタバレ&パロディーもので良かったら、
どうぞよろしくお願いします。
後藤は浜崎の乗る足場に飛び移った。
大剣を抜いて浜崎に剣先を向ける。
「あたしは世界一にならなきゃいけないんだ。だからちょこっと相手してよ。」
「後藤、何を…!」
保田には後藤の行動が理解できない。
「後藤って、まさかあの後藤真希…!」
吉澤は後藤の正体に気付いた。このイーストブルーの海で最強の剣士だ。
世界一の剣士と、この海最強の剣士。
その二人が、今この場で対峙している。
しわがれ声で浜崎が話す。
「いるんだよねー、こーいうのが。ちょっと名前が売れたからって勘違いするのがさー。」
「勘違いかどうか、やってみないと分かんないよ。」
浜崎は大きく溜息をついた。そして懐から果物ナイフを取り出す。
後藤の眉がピクリと上がる。
「…何のつもり?」
「あいにく、一番小さいのがこれしかないからー。これで相手してあげるー。」
(ふざけんなよ!)
後藤が大剣を大きく上段に振り上げる。そして一気に間合いを詰めて振り下ろす!
目にも止まらぬ速さ。辻も加護も吉澤も、そして保田でさえも。
誰もが真っ二つになる浜崎の姿を想像した。しかし…
「……!」
その光景を見た誰もが自分の目を疑った。
後藤の大剣が浜崎の果物ナイフの先端で、一点で受け止められている。
後藤も我が目を疑う。いや、それどころかピクリとも動かせない!
「…これで分かったー?」
浜崎が気だるそうに話した。後藤はやっと剣を離せた。
(…まさか、まさか…!)
経て続けに後藤は剣を振る。凄まじい手数だ。
周りの人間の目には後藤の剣の動きが捉えられない。
しかし、そのすべてを浜崎は涼しい顔で難なく受ける。
そして後藤は何度も何度も転がされ、何度も何度も立ち上がった。
辻と加護、ユウキとソニンには信じられない。
あの強かった後藤がまるで子供扱いだ。
(…こんなに、…こんなに差があるのかよ…!)
後藤が動揺している。いつもより動きが大きくなったその瞬間だった。
トン。
大きく剣を振り被った後藤の懐に浜崎が飛び込み、
後藤の胸に果物ナイフを突き立てた。
「ごとうさん!」
後藤は剣を振り上げたまま動きが止まった。
「…すごいね。あんた、強過ぎるよ…。」
「そー、アンタの負けー。…どうしたの?引かないとー、心臓に届いちゃうよー。」
浜崎は後藤の胸にナイフを刺したままだ。
後藤は一歩も下がらない。
「…なんかここで引いちゃうとさー、今まであたしを支えてくれた半分を
見失っちゃうような気がしてさー…。」
「…あとの半分は?」
後藤は横目でチラッと辻を見た。
辻は必死で、唇を噛み締めて涙をこらえている。
「残りの半分が背中を押してくれたから、…だからあたしは絶対に引けない!」
吉澤には理解できない。辻に掴みかかった。
「おい、あいつを止めろよ!このままだと殺されちまうぞ!」
「れきません!ごとうさんのゆめれすから…!」
命懸けで夢に向かう娘。を誰がどうやって止められる?
「……。」
浜崎はナイフを引いた。後藤はやっと剣を降ろした。
ナイフをしまって背中の長剣を浜崎は抜いた。
「もう一太刀くらい討てるでしょ?この最強の剣、Dearestで、
あゆの最高の力で相手してあげる。」
「…あはっ、ありがとー。」
後藤は剣を構え直した。不思議と眠気は感じない。
そうだ。自分の剣は一撃必殺だった。
先の事など考えちゃいない。この一撃に、残りのすべてを懸ける!
後藤が動く。これまでで最高の速さだ。
浜崎が迎え撃つ。
ドンッ!
一瞬の交錯!
(…ごめん、じーつー…。…いちーちゃん!)
ブシュッ!
後藤の胸から腹にかけて縦に傷が入り、霧状の血が吹き出た。
そして、ゆっくりと体勢を崩して海に沈んでいった。
「なんだよ!そんなに夢が大事かよ!?そんなの諦めちまえばいいじゃんか…!」
吉澤には後藤の姿が信じられなかった。いや、恐かった。
「…うわーん!」
もう堪え切れない。辻はボロボロと涙をこぼす。
そして浜崎に飛び掛かった。
浜崎は僅かに動いてそれをかわす。
「あんたが残りの半分だね。よく我慢した、えらいよ。」
浜崎は晴れやかな笑顔で辻を見た。
「…よくも、よくもねーちゃんを!」
ユウキが刀を抜いて浜崎に切りかかる。
浜崎は長剣を鞘に収めながら軽くそれをかわす。
「お前、後藤の弟なの?だったら早く助けてやりな。アイツはまだ生きてるから。」
「…なっ!?」
ユウキは後藤が落ちた海面を見た。ブクブクと泡が浮かんでいる。
「……!」
ユウキは海に飛び込んだ。
浜崎は微かに出来た頬の傷から流れる血を拭った。
(まだ死ぬには早いよ。生き急ぐなよ、後藤真希…!)
ものの数秒もしない内に、ユウキは後藤を抱きかかえて海面に姿を現した。
そして、そばにあった小さな小舟に後藤を乗せる。
加護とソニンが飛び移った。
「…のの、大丈夫や!ごっちんはまだ生きとる!」
辻はヘナヘナと座り込んだ。
ソニンは急いで後藤に傷薬を塗る。ユウキはオロオロするばかり。
ふと、後藤が意識を取り戻した。
「…ごめん。あたし、負けちゃった…。」
もちろん力の差は戦う前から感じていた。
でも死ぬ気でやればなんとか埋められると思った。
しかし、気持ちだけではどうにもならない圧倒的な力の差。
(…なんだろ、なんだろこの気持ち…!?…悔しい!)
後藤の目から涙がこぼれ落ちる。
市井との約束を果たせなかった。自分の目標を、夢を達成出来なかった。
いや、それ以上に…
(こいつに…、こいつに勝ちたい…!)
「あたし、強くなる!もっともっと強くなる!
こいつはあたしが倒すんだ!今度は絶対に負けないから!」
「……。」
辻は涙を流しながら何度もうなずいている。
その時、浜崎が後藤の大剣をユウキに投げた。
「あゆはー、まだ当分、世界一でいるからー。いつでも相手してあげるー。
楽しみに待ってるよー。」
「あはっ、ありがとー…。」
後藤は心の底から感謝した。チェッ、本当に何枚も何枚も上手だな…。
辻は涙で頬を濡らしながら笑顔で叫んだ。
「…ののもまってます!ごとうさんはぜったいにかちます!」
「ありがとー、じーつー…。」
後藤は目蓋を閉じてぐったりとなった。ユウキが慌てる。
「わっ!ねーちゃん!?」
「……ZZZ。」
「大丈夫ニダ。眠ってるだけニダ…。」
浜崎は辻と後藤のやりとりを微笑ましく見ていた。
(…ユニットってのもいいもんだねー。ヨっちゃん、何してるかなー…?)
浜崎は帰ろうとしている。はたけが声をかけた。
「…なんや、オレを見逃してくれるんか?」
「…そっかー、まだいたんだねー。」
浜崎は面倒くさそうに振り返った。
「あゆはー、今すっごく機嫌がいいからー、お前なんか相手したくないね。
それにあの人見たら、お前を始末するのはあゆの役目じゃないってねー。」
浜崎は保田の顔をチラッと見た。
保田が強い眼差しでそれに答える。
「ありがとう。そいつの始末をするのはウチらの役目だ。」
「頑張ってねー、海賊王の娘。さん。」
浜崎は自分の乗ってきた小舟に乗り移り、この場を立ち去った。
はたけが不敵に笑う。
「ハハハッ、誰かと思えば保田やないか!どーりで平家がこだわった訳や。
オレを始末するやと?偉なったモンやのー。それにその足どないしたんや?
どうやらあのアホらしい夢も、これでもう完全に終いやなー!」
「……!」
保田が唇を噛み締める。吉澤は両手のこぶしを力強く握り締めた。
(こいつ…!絶対に許さない!)
はたけが海兵たちに合図した。
「アイツさえおらんかったら怖いモンなんか無いわ!おう、お前ら!
この船は“元”海賊の船や!せやからかまへん、奪うんや!」
海兵たちはゆっくりとレストラン船に近付いてくる。
その目にもう迷いはない。生き残る事だけを考えた獣の目。
フラフラな者が何人かいる。どうやら長く、何も口にして無いらしい。
それがどうした?こいつらはこの船を狙う侵略者だ。
信念を曲げるくらい容易い事だ。吉澤は覚悟を決めた。
「足場を出せ!この船を傷付けるワケにはいかない!」
その言葉に他のウェイターやコックたちが急いで船の中に戻る。
すると、海中から羽根のような広い足場が現れた。
「…なるほど、おもろい船やな。ますます欲しなったわ。やってまえ!」
はたけが叫んだ。海兵たちは次々と足場に上ってきた。
辻はある事に気付く。トロピカ〜ル号はまだ微かに遠くに見える。
「あいぼん!そのままごとうさんをつれて、りかちゃんをおいかけてくらさい!」
「なんやて!?あんなんほっとけばえーやんか!」
加護には辻が何故そんな事を言うのか分からない。
「…らって、りかちゃんはおともらちれす!」
辻は訴えるような目で加護を見つめた。その言葉に加護は弱い。
「くっ!…分かった!せやけど、のの、お前はどないすんねん!?」
「ののはよっすぃーがしんぱいれす…。」
辻には吉澤のさっきの言葉が引っかかっていた。
吉澤は夢があると言っていた。それなのにどうして諦めるなんて言える?
「のの、受け取れ!」
加護は辻に何かを投げた。それを受け取る辻。
ピンク色で二つ折り、なにやらボタンがたくさん付いている。
「それはウチが作った携帯式通信機や!それさえあれば遠くにいても話が出来る!
離れとってもウチらは?がっとるんや!」
「あいぼん、ありがとう!」
「待っとるからな!ちゃんと連絡するんやで!」
加護たちの小舟は出発した。辻は大事そうにその携帯を懐にしまった。
>456
下から4行目。なんで?が出るんだろう?
ここは ?→繋 で。
459 :
保全:02/01/19 23:36 ID:UFGQhxKa
保全
462 :
保全:02/01/20 22:53 ID:Ozc1I20s
h
先手必勝。吉澤が海兵の群れに飛び込む。
ドカッ!
ズダダダーン!
一番手前の海兵に前蹴りを食らわす。そいつ共々、数人が将棋倒しになった。
右横から海兵が吉澤を切り付ける。
吉澤はそれを軽やかなバックステップでかわし、
右足かかとで相手の右こめかみに鋭い後ろ回し蹴り。
ゴッ!
海兵は崩れ落ちた。海兵たちに微かな動揺が広がる。
「クソッ!」
吉澤の正面から別の海兵が突きを繰り出す。吉澤は上体を反らしてかわす。
周りから一度に数人の海兵が襲い掛かる。
吉澤はそのまま後ろに手を付いて逆立ちの状態。
そこから両手を軸に長い両足を広げて回転した。
ズバババッ!
「「グワッ!」」
海兵たちは吉澤を中心とした大きな円の形に倒れた。
「…よっすぃー、つよいのれす。」
辻はなんとなく吉澤の動きに見覚えがあった。
軽やかな身のこなし。踊るようなステップ。
そうだ、加護の村で戦ったアヤカに似ている。
しかし、アヤカよりも数段、ダイナミックで力強い。
はたけはある娘。の昔の姿を思い出す。
「…そうか!保田、お前の技か…!」
「フン。教えたのは、ほんのさわりくらいだけどね。」
その通りだった。
海賊王の船ではほとんどの者がなんらかの武器、或いは特技を持っていた。
そんな中、保田の技は日頃の鍛練から繰り出される体術だった。
“黄色”時代に保田はアヤカにそれを教え、その後、吉澤にも伝えた。
それから吉澤は一人で特訓を繰り返し、技を磨き上げたのだった。
「ののもまけないれすよ!」
辻が海兵に飛び掛かる。海兵が横に大きく剣を薙ぎ払う。
それを素早く身を屈めてかわし、懐に潜り込む。
ズン!
辻のこぶしが海兵の腹に食い込む。
海兵の体がくの字に折れ曲がって崩れ落ちた。
その勢いで続けて二、三人の海兵を倒した。
すると、いつの間にか周りをぐるりと取り囲まれている。
「……。」
以前の辻ならパニックだったかもしれない。
しかし、今の辻は動じない。後藤、今の吉澤と数人相手の戦い方を見てきた。
辻の吸収力はまるでスポンジのようだ。
元々が真っ白な上に、生来の素直な性格が加わり驚くべき成長を促す。
鋭い動きで慌てず確実に倒していく。辻のスピードには誰もついていけない。
(へー、あいつ、なかなかやるじゃん。)
吉澤は素直に感心した。
あんなに小さな辻が海兵数人を相手にしている。
(だてに“グランドライン”は目指しちゃいないってことか…。)
吉澤も次々と海兵たちを倒していく。
二人だけでほとんどの海兵を戦闘不能にした。
「…クソッ!お前ら、小娘。二人に何しとるんや!しっかりせんかい!」
はたけは苛立ちを隠せない。
最初から海兵たちは空腹だった。本当の実力は発揮出来ない。
いや、それを考慮してもこの二人の娘。は強い。
残りの海兵たちは明らかに戦闘意欲を失っていた。
(…あとはあいつを倒すだけ…。)
吉澤ははたけと対峙する。鋭い視線ではたけを睨み付けた。
「お前は絶対に許せない!」
吉澤が一気に間合いを詰めた。保田が叫ぶ。
「吉澤、待て!」
ドゴオッ!
吉澤の右回し蹴りがはたけの腹にヒットした。しかし…
「…うあっ!」
蹴りを入れた吉澤の方が倒れて転がった。右足を押さえている。
はたけは余裕の笑みを浮かべながら着ていた服をひきちぎった。
その下には全身、鋼鉄の鎧を身に纏っていた。
「ハハハッ、そんな蹴りでオレに勝てるとでも思ったか?
オレは今まで戦場で傷付いたことは無いんや。」
「…くそっ!」
保田は知っていた。はたけは海賊王の船で戦闘の中心メンバーだった。
頑丈な鎧を生かした突破力は凄まじく、
その守備力で敵の攻撃から何度も海賊王の身を守った。
(…なのにどうして、どうして裏切ったんだ…!?)
はたけは背中に背負った、これまた大きく分厚い鋼鉄の盾を手に取り構えた。
「…死ね!」
ドシュシュッ!
はたけの盾から無数の短い槍が飛び出す。
吉澤は横に転がって槍をかわした。
まだ足が痺れている。だが、幸い折れてはいないようだ。
辻がはたけに向かって走り出す。
はたけが今度は辻に盾を向けて槍を放つ。辻はそれを側転でかわした。
(ガラ空き!)
吉澤は痺れる足をなんとか抑えて、一気にはたけとの間合いを詰めた。
ゴッ!
「…がっ!」
吉澤の蹴りがはたけのむきだしの顔面にヒットした。
はたけは片膝を付いた。海兵たちと同様にはたけも何日も何も口にしていない。
本来のパワー溢れる攻撃は鳴りを潜め、動きも緩慢だ。
(とどめだ…!)
吉澤ははたけの脳天にかかとを叩き付けようと、高々と足を振り上げた。
その時だった。
「やめろ、よっすぃー!これを見るんや!」
吉澤は横目で声のした方をチラッと見た。そしてゆっくりと足を下ろして向き直った。
「どういうつもりだ、平家さん!?」
平家がいつの間にか保田に近付き、義足を折って床に倒していた。
その頭には銃口が突き付けられている。
「…落ちる所まで落ちちまったね、みっちゃん…。」
保田は憐れむ様な目で平家を見つめた。
平家は保田と視線を合わせようとしない。
「…もう戻られへんねん。ウチはあの人がやられる所は見たない。…頼むわ。
この船を譲ってくれんか?そしたらウチらはもう何もせーへんさかい…。」
「…虫が良すぎんじゃない…?」
「そーやな、保田。確かにそれは虫が良すぎるわ…。」
ゴッ!
はたけが吉澤を盾で殴り飛ばした。
「はたけさん!?」
はたけは立ち上がった。鼻が折れているらしく、鼻血が止まらない。
「ここまでコケにされて許せるかいボケ!コイツは絶対に殺すんや!」
「お前ら、そいつを押さえとれ!」
はたけが海兵に命令した。吉澤を海兵二人が両脇からガッチリと捕まえる。
吉澤は今の一撃で口の中を切ったのか、口から血を吐き出した。
ゴッ!
はたけがもう一度、吉澤を盾で殴り付けた。
吉澤ははたけを睨みつける。しかし、保田の事を考えると手も足も出せない。
「…なんやその目は?じっくりいたぶって、それから殺してやるからな!」
はたけは何度も吉澤を殴りつけた。吉澤は両手のこぶしを強く握り締めている。
「よっすぃー!」
辻がはたけに飛び掛かる。
ドゴッ!
はたけはかろうじて辻のこぶしを盾で受け止めた。
「おい!圭ちゃんがどないなってもえーんか!?」
平家が叫ぶ。しかし、辻は構わず再びはたけに飛び掛かる。
「やめろ!やめてくれ!」
吉澤の悲痛な叫びだった。辻の動きが止まる。
「なんれれすか!?このままらとよっすぃーが、…ゆめはろうするんれすか!?」
「…そんなのどうだっていいんだ!この船さえ、オバチャンさえ無事だったら、
あたしの体なんて…、夢なんてどーだっていいんだよ…!」
hozen
473 :
ほぜ:02/01/23 10:22 ID:+K2kMzxA
ほぜ
時は三色の終わりまで遡る。
海は荒れていた。叩き付けるような雨が降り、風はますます強くなるばかり。
まるで今の自分の気持ちを表わしているようだ、と保田は思った。
大戦の戦場から帰る船の上で保田はイライラしていた。
なぜあそこで海軍の船団が現れる?二人の決着はどうなった?
いや、それだけではない。
自分は結局、何一つ出来なかった。
安倍を止める、と中澤の前で大見得を切って出て来たのに、
止めるどころかあそこまでやらせてしまった。
そして、最後は自分まで中澤に助けられた。
己の無力さに腹が立って仕方がなかった。
そんな保田に見張りの男が声をかける。
「保田様、前方に商船が見えます!いかがいたしましょう?」
「…やるよ!船を寄せろ!…アタシ一人でやる。」
「は、はいっ!」
いつもの保田からは考えられない言葉だった。
しかし、今の保田は何かをしていないと気が狂いそうだった。
この憤りの捌け口を略奪という、普段は忌み嫌う行為で誤魔化そうとしていた。
保田に狙われた商船の厨房に一人の娘。がいた。
その娘。はなにやら楽しそうに力説している。
「…だから本当にいるんだってー、“ごなつよ”はー。絶対、“グランドライン”の
どっかに世界中の魚が集まる“オールブルー”って海があって、
そこに“ごなつよ”は棲んでるんだよ。」
周りのコックたちは半ば呆れ気味だ。一人のコックが笑う。
「ハハハッ、またその話かよ。そんなバカみたいなことばかり言ってんじゃないぞ。」
「お前、人の夢を笑うな!」
笑われた娘。はそのコックに掴みかかる。周りのコックたちがそれを止める。
「やめろ、吉澤!」
「だって、こいつが…!」
「いいかげんにしろ!確かに“オールブルー”は俺たち海のコックの憧れだ。
だけどもっと現実を見ろ!お前、料理の腕が全然上がってないじゃないか!」
「……。」
それを言われると吉澤は何も言い返せない。
吉澤は料理をするよりも、厨房から出て女性たちに声をかけている方が多かった。
その時だった。
「大変だ!海賊だ、海賊船が近付いてくる!」
甲板から大きな叫び声がした。
それから数分もしない内に、今度は怒声と罵声、
甲板を力強く踏みしめる足音が聞こえた。甲板は戦場と化しているようだ。
「…くそっ!」
吉澤は我慢できない。甲板に駆け上がった。
「……!」
すべて終わっていた。甲板の上では用心棒たちが全員倒されていた。
あまりにも決着が早過ぎる。どうやら相手のレベルが違うらしい。
相手は何人いる?吉澤は周囲を見渡す。
「…まさか!?」
大きく揺れる船、どしゃ降りの雨の中、甲板に立つのは一人の娘。のみ。
雷が鳴り響く。その娘。が吉澤に振り返る。
「……!」
その眼光は怒りに満ち溢れていた。見つめられただけで大抵の者は振るえ上がる。
吉澤も圧倒的な迫力に恐怖を覚えた。凍り付きそうだった。
これが吉澤ひとみと保田圭の初めての出会いだった。
「なんで!?なんでこんな事するの!?」
吉澤が保田に向かって叫んだ。海賊相手にこんな質問もないだろう。
しかし吉澤は保田から、普通の海賊とは違う何かを微妙に感じ取っていた。
「…まだ戦えるヤツがいたの?いいよ、相手してあげる。」
「……!」
敵う訳がない。手練の用心棒たちをあっという間に倒した娘。だ。
吉澤の足は震えていた。しかし…
「こんなの、こんなの間違ってる…!」
吉澤は保田に向かって走り出した。保田は両腕を組んだままだ。
ドッ!
「うぐっ!」
保田の蹴りが吉澤の腹に突き刺さる。吉澤は甲板に転がった。
ガッ!
保田が倒れた吉澤の頭を蹴り上げた。
「…何も間違っちゃいない。今の世の中、力を持つ者しか何も言う資格が無い。
だから無力な者は何もかも諦めるしかないんだ…。」
保田は悲しい瞳をしている。その言葉はまるで自分に言い聞かせているかのようだった。
「…そんなの納得がいかない…。」
吉澤は激しい痛みに耐えながら言葉を絞り出した。
最初の蹴りでアバラの何本かは折れているだろう。
保田はそんな吉澤を無表情に冷めた目で見下す。
「確かに強くなけりゃ生き残れないよ!だけど弱いモンだって必死で生きてるんだ!
あたしだって弱いよ…。でも絶対に諦めたりしない!あたしには夢があるから…!」
「……!」
保田は思い出した。
かつては自分もどうしようもなく弱かった。しかし、夢があった。
それを叶える為に懸命になって努力した。そのおかげで今の力を手に入れた。
一連の出来事のせいですっかり忘れかけていた。その夢はまだ叶えられていない。
(…こんなガキに説教くらうなんてね…。フフッ、情けない…。)
その時、波が一段と高くなった。船が横倒しになるくらい大きく揺れる。
吉澤は何かに掴まろうとするが激痛で体がうまく動かない。
「あっ!」
吉澤は海に投げ出された。
「…くそっ!」
バキッ!
保田はこの商船のマストを一発の蹴りでへし折った。
そしてそれを抱えながら、自らも吉澤の後を追って海に飛び込んだ。
海はただただ荒れ狂うばかりだった。
吉澤は目を覚ました。いったいどのくらい眠っていたのだろう?
「…ここは?」
「…フン。やっとお目覚めかい。」
吉澤はその声に驚いた。体を起こそうとする。
「…痛っ!」
吉澤の体に激痛が走る。まだ骨はくっついていない様だ。
「まだ動ける訳ないだろ。誰の蹴りをもらったと思ってんの?」
保田は呆れた様子で吉澤を見つめる。
吉澤はなんとか首だけ起こして辺りを見渡した。
辺りは何もない岩場。どうやら海のど真ん中にある岩山のようだ。
船の破片らしき木のくずや、布の切れ端が散乱している。
「ここに打ち上げられたのはアタシとお前の二人だけだ。」
「…それじゃあ、他のみんなは…?」
「分からない。助かったかもしれないし、そうじゃないかも。
まあ、この有り様を見たら大体予想はつくけどね…。」
(…そんな、そんなことって…。)
「…あのさ、お前の夢ってヤツ、聞かせてくんない?」
保田は吉澤の目を真っ直ぐに見ている。
あの時の恐怖を与える視線ではない。とても優しい眼差しだった。
吉澤は自然と、すんなりと話し始めた。
「…ふーん、いいね。すっごく大きな夢だ。」
吉澤が話し終えた時、保田はなにやら楽しそうに晴れやかな顔をしていた。
「ねぇ、アタシの夢ってヤツ、聞きたい?」
「…ううん、別に…。」
ゴツン。
保田が吉澤を殴り付けた。
「痛いなー、何すんだよー。」
「たった二人っきりなんだ。少しくらい話し相手になれよ。」
(…もー、なんだよこのオバチャンはー…。)
普段の保田なら自分からこんな事など話はしない。
今のこの状況で少しおかしくなっていたのかもしれない。
少しでも気を紛らわしたかったのか、ゆっくりと話し始めた。
保田の夢。
それは歌って踊れる踊り子になる事だった。それも世界トップクラスの。
偉大な海賊王はその強さや人徳もさる事ながら、同時に世界一の
歌い手、踊り手としても知られていた。
保田はそんな海賊王に憧れて、懸命の努力の末、彼の船に乗る事を許されたのだった。
吉澤はその保田の話を聞いて瞳を輝かせている。
「へー、かっけーじゃん。」
「…笑わないの?」
「なんで笑うのさ?人の夢を笑う奴は絶対に許せないよ。」
「……!」
保田は嬉しかった。保田の夢を聞いたほとんどの者が笑っていた。
あの船の幹部たち、はたけだってそうだ。お前なんかには絶対に無理だと。
笑わなかったのはほんの一握り、海賊王とあの仲間たちだけだった。
海賊王は保田の実力を認めつつあったが、はたけたち幹部の猛烈な反対を抑えきれず、
不本意にも保田を料理番としてしか船に乗せておくことが出来なかった。
しかし、保田は決して諦めたりはしなかった。
与えられた仕事もキッチリとこなしながら、毎日、夜遅くにも鍛錬は怠らなかった。
(…フフッ、コイツ…。)
保田はある決心をした。
立ち上がり、側にあった二つの袋の内、大きい方を手にした。
「この岩山は下から反り返るようになってるから、降りたら絶対に戻れない。
だからじっと助けを待つしかないね。その袋に食糧が普通に食べて五日分くらいは
入ってるから、それまでなんとか食い繋ぐんだよ。」
「なんだよー、そっちの方が大っきいじゃん。」
「生意気言うんじゃないよ。そんな事言ってると、お前食っちまうぞ。」
「……。」
吉澤の身が縮こまる。初めて会った時の鬼の形相を思い出す。
ところが保田はカラッとした笑顔をしていた。
「バカ、冗談に決まってるだろ。」
「…全然、冗談に聞こえないんだけど。顔、恐いから…。」
「フン、それだけ軽口叩けるようなら大丈夫だね。それじゃアタシは反対側の
方見てるから、船が来たらちゃんと知らせるんだよ。」
そう言い残すと、保田は大きな袋を担いで岩山の反対側へと姿を消した。
吉澤はまだ起き上がれない。しかし、元々楽観的な性格だ。
五日分の食糧がある。切り詰めれば二十日分くらいにはなるだろう。
それに幸い、あの嵐の日に出来たのだろう。水溜まりには豊富に水があった。
これだけあればなんとかなる。そのうちきっと船は通る。必ず助かる。
ちょうど十日が過ぎた頃、小さな嵐がやって来た。
その雨の中、かなり遠くの方に一隻の船影が見えた。
吉澤は大きな声で船を呼ぶ。しかし、雷にその声は掻き消された。
船の帆の切れ端を大きく振った。しかしドス黒い雲と雨で見えているかどうか分からない。
結局、その船は岩山に立ち寄る事無く去っていった。
あっという間にひと月が過ぎた。
見渡す限りの水平線にはあの日以来、船の影一つ見える事はなかった。
食糧はすでに食べ尽くした。最後の方はカビが生えていたが、構わず口にした。
激しい空腹が吉澤を襲う。
(…せめて水だけでも…、腹を満たさないと…。)
しかしあれ以来、一滴の雨も降っていない。
水溜まりの水は確実に無くなりつつあり、少しイヤな匂いがし始めていた。
そんなの気にしてる場合じゃない。吉澤は両手で水を汲み上げた。
岩山の反対側では保田も激しい空腹に襲われていた。
苦しい、これだけ待っても船は来ない。もう二度と通らないのでは?
とっとと死んでしまった方がどれだけ楽になれる?
後ろ向きの考えばかりが頭をよぎる。
(…イヤ、ダメだ!)
保田はそんな気持ちを振り払うかのように激しく頭を振った。
(諦めちゃいけない!アイツが助かるのを見届けるまでは…!)
吉澤は保田の夢を笑わなかった。
それは保田にとってあの仲間たちと同じ存在である事を意味した。
自分の命と引き換えにしてでも守ってやりたい存在。
しかし、今のままでは確実に餓死してしまう。それでは何の意味も無い。
保田は心を決めた。自分の左足を愛しそうに優しく撫でる。
(…フフッ、今までお疲れ様…。所詮、夢は夢だったってね…。
…サヨナラ、アタシの青春時代…!)
保田は鋭く尖った岩を両手で抱え上げた。あの仲間たちの顔を思い出す。
…1…
大きく岩を振り被り上げた。
(ゴメンみんな、こうするしかなかったんだ。もうみんなと踊れないね…。)
…2…
自分の左足に狙いを定めた。
(でも後悔なんてしないよ。あんな夢なんかより、ずっとずっと大切だから…。)
…3!
グシャッ…!
さらに半月が過ぎた。一向に船の通る気配は無い。
苦しい。当然だ。水だけでもつ訳がない。
肉は削ぎれ落ち、頬はこけてゲッソリと痩せ細っていた。
(もうだめだ。死ぬ…。)
吉澤は諦めかけていた。その時ふとある事を思い出す。
確か保田の持っていた袋は自分の物より倍の大きさはあった。
もしかしたら、まだ少しくらいは残っているかもしれない。
簡単に分けてくれるとは思えないが、何もしないで死ぬよりはましだ。
いざとなったら殺してでも…
吉澤は保田が歩いていった方向にフラフラと歩き出した。
吉澤が岩山の反対側に着いた時、保田は海に向かって座っていた。
その後ろには大きな袋がそのまま残っていた。
(どういうこと?全然中身が減ってない…。)
吉澤は保田に気付かれない様に袋に忍び寄り、それを開けた。
「……!」
中には宝石や貴金属、宝物がギッシリと詰まっていた。
「…笑っちまうだろ?それだけの宝があっても何も食えないなんて…。」
保田はとっくに吉澤に気付いていた。しかし振り返ろうとしない。
「…そんな、あれで、あたしので全部だったの…?」
「…そうだ。」
「じゃあ、どうやって今まで…?」
吉澤は保田の正面に回り込んだ。そこで吉澤は信じられない光景を目の当りにした。
「…まさか、自分の足、…食ったのかよ!?」
保田の左足は膝から下がすっかり無くなっていた。
船の帆の切れ端を包帯代わりに無造作に巻き付けていた。
吉澤は保田にしがみつく。
「なんで…、なんであたしなんか…!?」
「…お前は笑わなかっただろ。だからさ…。」
たったそのくらいの事で?吉澤には理解が出来ない。
「…夢は、あの夢はどうすんだよ!?」
吉澤の瞳からは大粒の涙が溢れ出ていた。
そんな吉澤に、保田はこれ以上無いというくらいの最高の笑顔で答えた。
「身の程知らずな夢見てたから、きっと神様がお仕置きしたんだ…。
だから吉澤、気にすんな!」
二人が奇跡的に救出されたのはそれから二日後のことだった。
十日目の嵐の日に現れた船に吉澤の思いは確かに届いていた。
助けられた船の上で保田は吉澤に話した。
海のど真ん中にレストランを作る。
金持ちだろうが貧乏人だろうが、そんなの関係ない。
腹を空かせたヤツにいつでも腹一杯食わせてやる。
アタシの新しい目標だと。
それに吉澤はついて来た。
保田圭という人物。
このとてつもなく大きな命の恩人と、彼女の新しい生き甲斐である
真新しいレストランに自らの一生を捧げんが為に。
訂正。
>>486 (誤)大きく岩を振り被り上げた。→(正)大きく岩を振り被った。
テスト
hozen
う
「…あたしのせいでオバチャンは夢を諦めたんだ…。
それなのにあたし一人で夢なんか見れるかよ!」
(…このバカ…!)
保田は顔を伏せた。
レストランの従業員の誰もが初めて耳にした。
吉澤と保田の間にはこんなにも壮絶な過去があり、何物にも代え難い強い絆が存在する事を。
辻はボロボロと涙を流しながら、首を左右にブルブルと大きく振った。
「…れもののは、それはちがうとおもいます…!」
「なんだと、お前なんかに何が分かる!?」
吉澤は辻を睨み付けた。辻もその迫力に負けないくらいの強い視線で答える。
「ゆめをあきらめた、…あきらめるしかなかったおばちゃんらからこそ、
よっすぃーにはゆめをあきらめないれほしいんらとおもいます…!
ゆめをかなえてほしいんらとおもいます!」
辻は飯田圭織と小川麻琴の事を思い出していた。
本当は二人と離れたくなかった。ずっと一緒にいたかった。
しかし、彼女らには夢があった。
それを叶える為にはどうしても別れなければならなかった。
そしてさっきの後藤真希。
悔しいけれど、最初からなんとなく勝敗は分かっていた。でも止めなかった。
自分のせいで諦めないで欲しいから。夢を叶えて欲しいから。
本当に大切で、大好きな人たちだから…
「……!」
吉澤はショックだった。ついさっきの辻と後藤の姿を思い出す。
何度も何度も倒されながらも諦めなかった後藤真希。
そして、そんな後藤の姿を必死の思いで見守り続けた辻。
(…なんだよ。そんな事言ったってあたしには…。)
吉澤にも辻の言う事は痛いほどよく分かる。でも自分には…
その時、保田が顔を上げた。
「…本当にバカだね、お前って…。」
(オバチャン…?)
吉澤を見つめるその瞳は情けなくて呆れ返っている。
「悪いけどさー、吉澤。アタシ、足手まといって大っ嫌いなんだ。
アタシがお前の足枷になってるなら、こんなチンケな命、アタシはいらない…!」
(…オバチャン、何を…!?)
保田は首だけを動かして平家を真っ直ぐに見つめた。
「みっちゃん!引き金を引け!アタシの命、くれてやる!」
「オバチャン!止めろ!…ウグッ!」
はたけの強烈な盾の一撃で、吉澤は二人の海兵共々吹っ飛んだ。
「…茶番は終いにしようや。コイツはどーやらワレが痛めつけられるより、
保田がやられる方が堪えるらしいな。平家、望み通りしたれや…。」
(…くそっ!)
吉澤は体が動かない。本調子ではないとはいえ、はたけにあれだけやられれば当然だ。
平家の銃を持つ手が震えていた。
「…どうしたの、みっちゃん?アイツを自由にしてやってくれ…。」
「何しとるんや、平家!?はよせんかい!」
ゴトッ。
平家は銃を床に落とした。その顔は涙でグショグショになっていた。
「…出来ません!…裏切ってもーたけど、仲間を殺すなんて出来ません…!
それによっすぃーは命の恩人や、恩を仇で返すような真似は出来ません!」
「みっちゃん…。」
「平家!お前、オレを裏切るっちゅーんか!」
平家ははたけに懇願した。
「はたけさん、もう止めにしよ。他の船すぐに見つけるから…。この船だけはもう…!」
「…そんなん、オレが聞くとでも思うんか?」
「はたけさん…!」
「残念やで平家。オレの命令を聞かへんヤツは殺すしかないなー。皆殺しや!」
はたけはそう言うと、巨大な盾を床に置き、そこから弦楽器のような物を取り出した。
保田はそれに見覚えがあった。
(…まさか、またアレか!?ウチらの大切な仲間の命を奪ったあの毒ガス…!)
はたけは弦楽器を構えた。
それには六本の弦が張られてあり、ボディには一つの丸い穴が空いて入る。
「平家、マスクを捨てるんや…。」
はたけはこの毒ガスを何度か使っていた。その威力は巨象をも数分で死に至らしめる。
効かなかったのはつい最近の一人だけ。
だが相手は化け物だ。何故生きていたかは考えたくもない。
その為、はたけに従う海兵たちは全員、ガスマスクを所持していた。
平家はそっとマスクを床に置いた。海兵たちは一斉にマスクを身に付けた。
「…死ねや!」
はたけはマスクを付けて弦楽器を弾きだした。激しく荒れ狂う死の旋律。
弦楽器のボディの穴からもの凄い勢いで紫色のガスがもうもうと吹き出てくる。
辻は稲妻の速さで吉澤を捕まえていた二人からマスクを奪った。
一つを動けない吉澤の顔に付ける。そして、もう一つを保田の方に投げた。
しまった。自分の分が無い。
「ろうしましょう、ろうしましょう…。」
オロオロする辻。
ふと、その足元にマスクが転がって来た。
「たすかったのれす…。」
辻は急いでそれを拾って身に付けた。
レストランの客や従業員は海に飛び込む者、船の後部に逃げる者と様々だった。
いったいどれだけの時間が過ぎたのだろう?
視覚を奪われ、聴覚を大音量の楽器で刺激される。
これだけで参ってしまっても不思議でない。
この場にいる誰もが時間の感覚を失っていた。
はたけの演奏が止んだ。
やわらかな海風が吹いた。
立ち込めるガスを運び去る。徐々に視界が開けてきた。
「…離せ!みっちゃん…!離せ!」
保田の声がする。吉澤はほっとした。しかし、目にした光景に吉澤は驚く。
「平家さん…!?」
なんと平家が自分の分のマスクを保田の顔に押し当てていた。
そして渾身の力で保田を押え込んでいる。
どうやら辻が投げたマスクはそのまま投げ返したようだ。
あの毒ガスの地獄の中で何も付けずに耐えていた。
「…ゴフッ…!」
平家が口から大量の血を吐き出し倒れ込んだ。
「みっちゃん!」
保田は平家を腕の中に抱き抱えた。
吉澤が痛む体で這いずって、二人の元へとやって来た。
「平家さん…!」
平家の顔色はみるみる悪くなる。息も絶え絶えに言葉を絞り出した。
「…よっすぃー…、…これで借りは…、返せたかな…?」
「……!」
吉澤は言葉を失った。
(借りってまさか、たかがあのくらいの事で…?)
「みっちゃん、もう喋るな!」
平家は声を頼りに保田の顔を見た。しかし、その焦点は定まっていない。
最後の力を振り絞って保田にしがみ付いた。
「…圭ちゃん、…ホンマにゴメン…。…みんなに、みんなに謝りたかっ…、ゴボッ!。」
「みっちゃん!」
「平家さん!」
「……。」
二人の呼びかけにはもう応じない。平家は息を引き取った。
hozen
(なんだよ…。そんな風に返されたって…、命と引き換えにだなんて…。
そんなの…、そんなの迷惑だよ…!)
平家のとった行動が吉澤の胸に重くのしかかる。
吉澤は助けたなんて考えてもいなかった。当然の事をしたまでだ。
しかし、平家にとってはまさに地獄の底から救われた気持ちだったのだろう。
でもそれなら、救われた命ならどうして生きてくれない?
生きてこそ、生き抜いて笑顔を見せてくれる事こそ最高の恩返しじゃないか!
「……!」
吉澤はハッとした。
自らが犠牲になって、己の命を捨て去る事での恩返し。
それは、今まさに自分がやろうとしていた事だった。
辻の言葉が胸に響く。
長くそばにいる自分こそ、保田の気持ちを一番理解していると思っていた。
だがそれは大間違いだった。
それどころか自分が過去を引き摺ってここに居る事で、
逆に保田に辛い思いをさせていたのかもしれない。
(…あたしは、…あたしは本当にバカだった…!)
「…ホンマ、最後の最後で余計なマネしよって…。」
はたけが呆れ返っている。
保田は平家の目、鼻、口から流れ出ていた血を拭き取った。
(…みっちゃん、お前はバカな女だよ…。ついてく男を、愛する男を間違えたよ…。
こんなヤツの為にウチらを裏切って、本当に幸せだった?)
保田は平家の開いたままの目蓋を閉じて、そっと床に寝かせた。
はたけはそんな平家の姿を見ても薄ら笑いを浮かべたままだ。
「まあえーわ、今まで良う働いてくれたで。散々、楽しませてもろたしな。」
(この外道がっ…!)
保田は片足ではたけに向かって飛び掛かった。
そして残った右足で強烈な回し蹴りを繰り出す。
ドゴオッ!
はたけはかろうじて盾で防いだ。しかし、大きくバランスを崩す。
絶好のチャンスだ。しかし…
着地した保田は床に寝転んだまま。当然だ。片足のみで連続の攻撃が出来るわけが無い。
なんとか体勢を立て直したはたけが保田の顔を踏みつける。
「ハハハッ!これでお終いや!この船はオレのもんや!」
(…くそっ!コイツだけは…、コイツだけは絶対に許せない…!)
保田は歯軋りをした。しかし、今の自分ではさっきの一撃が精一杯だ。
その時、吉澤がゆっくりと立ち上がった。
「…もうこれ以上、この船の、オバチャンの…、…あたしの夢を邪魔するな!」
吉澤の中で何かが切れた。一気に間合いを詰める。
保田を人質にしてはたけは油断していた。
ドゴオッ!
しかし、吉澤の鋭い蹴りもはたけの盾に防がれた。
一瞬、ホッとするはたけ。ところが…
ドゴッ!ドゴッ!
吉澤は盾の上から何度も蹴りを叩き付ける。はたけの反撃を許さない。
そんな力で蹴り続けると足は粉々に砕けてしまう。しかし、吉澤は構わない。
(…なんやコイツは…、頭おかしいんか…?)
はたけが不気味な恐怖を感じたその時だった。
ドゴッ!
はたけの盾の防御が腕ごと弾かれた。
(…しまっ…!)
ベキッ!
「…ほげっ!」
吉澤の渾身の蹴りがはたけの顎を砕いた。
はたけは両膝を付いた。脳が揺れて足腰が立たない。
(…とどめ…!)
ところが、吉澤も膝からガクンと倒れ込んだ。
はたけにいいように殴られ、頑丈な盾の上から何度も蹴るという無茶をした。
その体はボロボロだ。両足の骨も折れているかもしれない。
「…うおおおーっ!オゲふぁ…オゲふぁ負げふぇんご!」
はたけが雄叫びをあげた。口からは歯が零れ落ち、大量の血が流れ出ている。
震える足を押さえて立ち上がった。そして吉澤に襲い掛かる。
(くそっ!あと一撃…、あと一撃でいいんだ…!)
その時、吉澤の目の前に吹く小さな一陣の風。
「ぷにぷにのー、はらーーー!」
ボッカーーーン!
辻の強烈な体当たり!はたけは遥か彼方へと吹っ飛んだ。
バッシャーーーン!
遠く離れた海に落ちたはたけ。重たい鎧を身に着けている為、うまく泳げない。
なんとかもがいて船らしき物にしがみついた。
「…ゼェ、ゼェ、…だぐがっだ…。」
「…お前の顔なんてー、見たくないって言わなかったっけー?」
はたけは驚愕した。この気だるい声は、よりによってこの女の船とは…!
「…あがが…!」
はたけは助けを請うが恐怖と砕けた顎のせいで言葉にならない。
浜崎は無表情に長剣を抜いた。
トンとはたけの胸を突く。そして鞘に戻した。
その場を立ち去る浜崎。
(…フフッ、詰めが甘いねー…。)
バン!
はたけの肉体は鎧ごと粉々に弾け飛んだ。あとは小魚たちの餌となるだけだ。
数日が過ぎた。
あの海兵たちに罪は無い。保田はそう言って彼らに食事を与えた。
海兵たちは涙を流しながら感謝の言葉を繰り返した。
平家の亡骸は小舟に乗せ、火を付けて海へと流した。
すべての事を保田はテキパキと処理した。
それはまるで、その深い悲しみを紛らわしているかのようだった。
吉澤の体は順調に回復していた。幸い、足の骨は何ともなかった。
体の丈夫さだけならもうアタシ以上だな、と保田は軽く笑って呆れていた。
辻が何度も顔を出していたが、一人で過ごす時間がほとんどだった。
色々な事を考え、思い出していた。
辻の言葉。平家の姿。そして、保田と過ごした二人での日々…
「…よしっ!」
吉澤はある決心をして、ベッドから飛び起きた。
その日の真夜中の事だった。
辻と吉澤の二人は吉澤用の小舟に乗り込んでいた。
吉澤がいそいそと船出の支度をしている。
辻があくびをしながら吉澤に尋ねた。
「…ふぁ〜。よっすぃー、ほんとになにもいわないれいいのれすか?」
「へへっ、なんか別れの挨拶って照れ臭いじゃん…。」
吉澤は手を休めずに答えた。その時だった。
「…おい、吉澤!そこにいるの?」
明かりを持った保田が姿を現した。吉澤の手が止まる。
「…まったく、部屋にいないと思ったら…。」
「…あのさ、オバチャン。今まで本当に…。」
「何言ってんだよ?さっさと行って来い!」
(えっ…!)
「お前、まだまだ料理ヘタクソだからさー。アタシが“ごなつよ”料理してやるよ。
だから絶対、見つけて来い!それまで帰ってくんじゃないよ!」
「…オバチャン…!」
吉澤の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
今まで抑えてきた感情が一気に溢れ出てきた。
辻が嬉しそうに保田に向かって手を振る。
「ののも、またきていいれすか?おばちゃん!」
「お前まで言うなっ!アタシはまだ21だっ!…まあいっか、またおいで。
うまいもん腹一杯、食わせてやるよ!」
「わーい!おばちゃん、ありがとう!」
「…あのなー、…もういいや。…吉澤の事、頼んだよ。
こいつバカだから世話かけると思うけど…。」
保田のその目にも涙が浮かんでいた。
「…オバチャン!いって来ます…!」
「おう!いって来い!」
辻と吉澤の二人は小舟を出した。
自分の夢はもう自分一人だけのものじゃない。
絶対にこの手で掴んで帰って来る。吉澤はそう強く心に誓っていた。
第三章 第一話 完
更新してる間にIDが変わってチョト嬉しい。
ここは中身変えようかとも思ったけど、元ネタで二番目に好きなエピソード
なのでやっぱりそのまま書きました。
だから、ここまでのキャラの中ではダーヤスが一番カコイイと思ってます。
次回の更新はチョト迷いつつ 第三章 第二話 です。
穏やかな陽気と心地良い風の下、小さな舟は進んでいた。
石川が何処に向かったかは分からないが、そこは二人はのん気なもんだ。
とりあえず、同じ方向に進めば何とかなるだろう。
大胆というか大雑把というか、そんな気持ちで舟を進める。
辻と吉澤の二人は並んで大の字に寝そべっていた。
吉澤がふとある事を思い出す。
「…そーいえばさー、辻、加護から何か貰ってなかったっけ?」
「…あっ!」
辻はピョコンと飛び起きた。
そして懐から、加護から貰った携帯を取り出した。
「すっかりわすれてたのれす。あいぼんにれんらくしないと…。」
辻は急いで携帯をパッカと開く。中には紙が挟んであった。
紙に書かれた番号をプッシュする。吉澤が横から興味深そうに覗き込む。
『リンリンリン、ツーツーツー、リンリンリン、プルルルル〜、…ガチャッ。』
「つながったのれす!もしもし、あいぼん…!」
『…こちら、ミニモニ。留守番電話サービスセンターです。メッセージの…。』
「「……。」」
どうやら加護は電源を切っているか、電波の届かない所にいるらしい。
仕方が無いので辻は諦めて電話を切った。
すると、急に不安が胸に込み上げて来た。
本当にみんなと合流できるのだろうか?この方向で合っているのだろうか?
そんな辻をよそに、吉澤は相変わらずのんびりしている。
今のこの状況を理解しているのかどうか。
そんな二人の舟に、遠くから激しい水飛沫を上げながら
凄いスピードで近付く何かがいた。
辻と吉澤はその何かに気付いて身構える。
ザバーーーン!
その何かが舟に乗り上がる。二人は大量の水飛沫を浴びた。
「…プハァ!…やっと追いついたぜ…!」
その声に二人は驚き、目を丸くする。
「後藤2号!?」
「…なんだよそれー。オレにはちゃんとユウキって名前があるんだから…。」
なんと、ユウキが泳いでやって来たのだった。
辻は気になっていた事を尋ねる。
「ごとうさんは、らいじょうぶれすか?」
「ウン。いつも以上によく寝てる。あとは安静にしてさえすれば平気だと思う。」
「…よかったのれす…。」
辻は胸を撫で下ろした。吉澤が優しく肩に手を置く。
「…うん、本当に良かったね。」
「へい!」
ところが、ユウキは急に真剣な表情に変わった。
「それよりさー、行き先なんだけど、ちょっとヤバイ所らしいんだ。」
「どういう事…?」
ユウキの話はこうだった。
石川を追いかけている間にソニンはある事を思い出した。
この方向にはある島がある。石川はおそらくそこに向かっているのだろう。
そしてそこには、確か石川が手配書で見ていた海賊たちがいるはずだ。
しかも、その海賊たちはかなりヤバイ奴等だという。
「…なんかソニンが真剣な顔してたから、オレも急いで戻って来たんだ。
一回レストランまで行ったからメチャメチャ疲れたよー。」
そう言ったかと思うと、ユウキは大の字に寝転んだ。
どうやらずっと休まずに泳いで来たらしい。辻と吉澤は開いた口が塞がらない。
「…こいつもある意味、化け物かもね…。」
「へい。」
ところがユウキは平然としたもんだ。
「へん。このぐらいオレにとっちゃ朝メシ前さっ。
…そーいや、メシ食ってないよー。腹減ったよー。何か食わせろよー。」
コロッと急に、ユウキは手足をバタバタと動かしてぐずり出した。
もちろん、これには辻も大賛成だ。
「あっ!ののもっ!ののもはらへったのれす!」
(…やれやれ、保母さんってこんな気持ちかなー?)
吉澤は二人に軽く呆れながらも、食事の支度にとりかかった。
この吉澤の小舟には簡単な物くらいは作れる簡易キッチンが付いている。
「とりあえず、急ぎだろうからこんなんで…。」
吉澤は手際良く料理を済ませて戻って来た。
辻とユウキの目の前には湯気の立つ山盛りのパスタ。
すると辻は、そのパスタにドバドバとパルメザンチーズをかけだした。
ユウキが信じられないといった顔をする。
「えーっ?これにチーズってかけるかなー?」
「うるせーのれす!ぺぺろんちーのにちーずかけたっていいらろー!」
辻がキレた。食べ物に対するこだわりはハンパじゃない。
空気の読めない吉澤も、さすがにここは二人に割って入る。
「まあまあ、2号。人それぞれ好みがあるんだし。早く食べないと冷めちゃうぞ。」
「そーれすよ。いったらっきまーす!」
大きく口を開けてパスタを頬張る辻とユウキ。しかし、その動きがピタリと止まる。
「どーしたの?ちょっと辛かったかな…?」
「…よっすぃー、これあまいのれす…。」
辻とユウキはひどく不味そうな顔をしている。
(やばっ!塩と砂糖を間違えたかな…?)
しかし、吉澤は自分のNGを認めようとしない。
「違うってー、これが新しい味なんだからー。例えて言うなら…ケミストリー。」
「「……。」」
ちょうど同じ頃、加護とソニンはとある小さな島に着いていた。
後藤はまだぐっすりと寝っている。
一時は高熱を出したりして心配したが、どうやら回復に向かっているようだ。
「あっ、ウチらの船や!」
島の周りの様子を見ていると、加護がトロピカ〜ル号を見つけた。
それは小さな入り江にひっそりと停められていた。
加護は小舟を寄せて、トロピカ〜ル号に乗り移る。
もちろん、そこに石川の姿は無く、宝もすべて持ち去られていた。
「ダメや、おらへん!…上がって探すしかないわ!」
加護がソニンに呼びかけた。ソニンは頷く。
「そうね。…でも、真希さんをこのままにはしておけないニダ。」
「そやな。そんならとりあえず休めそうなトコ探してくるわ。」
「頼むニダ。ここにはヤバいヤツらがいるから気を付けて…。」
「まかせとき!ウチの逃げ足は誰にも追いつかれへんさかい。」
加護は笑顔でピース。船を飛び降り、人がいそうな所へと駆け出した。
526 :
名無し募集中。。。:02/02/02 20:51 ID:ehJW1/4Q
・・・
527 :
通行人さん@無名タレント:02/02/03 00:33 ID:q6ni7R7z
>>622 ∋o
oノノハヾ
从‘D‘)<ぱくるな
ノハヽヽ
从~○~)
529 :
a:02/02/03 01:55 ID:H1+IAxgY
ノハヽヽ
从~ O ~)
530 :
あ:02/02/03 01:59 ID:H1+IAxgY
ノハヽヽ
从~O~)
533 :
a:02/02/03 18:28 ID:x0A2MgJM
534 :
q:02/02/03 18:29 ID:x0A2MgJM
なんか変なのが棲み付いたな。
まあ最近読んでる人もいないみたいだったし、
こっちは一旦打ち切りとします。では。
536 :
:02/02/03 20:00 ID:74C/j8f6
>>535 まじっすか?
次の話を楽しみに待ってたんですが・・・
でも、決めてしまったことなら仕方ないですね・・ (´・ω・`)ショボーン
えー。読んでますよ。どうか書いてください。
待ってますので。
539 :
名無し:02/02/05 13:00 ID:Y1nZPbQO
いちよ保全
レスして下さった方々には、何と感謝の言葉を述べて良いか分かりません。
おかげ様で頭を冷やす事が出来ました。
元々、書きたくて書き始めたんじゃねーか。
せっかくのオリジナルのエピソードが、まだ全然、書き切れてねーよ。
こっち中途半端にしちまったら、もう一つの方なんて書ける訳ねーじゃん。
と、いう訳で続けさせて頂きます。
>536さん
元気出して下さい(w
ここの話はちょっといじっちゃってるんでご期待に添えるかどうか…。
徐々にトーンはもう一つの物語の方に近付いています。
>537さん
ありがとうございます。でも、まだまだ続けます。
>538さん
暖かいお言葉、誠にありがとうございます。
引き続き、この駄文にお付き合い下されば幸いです。
>539さん
保全ありがとうございます。
長文失礼しました。それでは本日分の更新です。
空は厚い雲で覆われている。今にも雨が降り出しそうだ。
「…なんやねん、コレ…!」
加護はある町の入り口に立っていた。いや、かつては町だった場所だ。
建物はすべて破壊され、焼き尽くされていた。
加護はゆっくりと、以前は賑わっていたであろう大通りを歩く。
まだそんなに日が経っていないのか、血溜まりが所々に残っていた。
この臭気にやられて、加護は胃の中の物を戻しそうになる。
(…ダメや、アカン。早いトコ別の場所、探さな…。)
加護は急いで立ち去ろうとした。
すると、いつから居たのか、背後から加護を呼び止める異国訛りの声。
「待つアル。マダ、生き残りがいたアルか。」
(しまった!)
加護は振り返りながら大きく跳んで距離をとる。
そこには大きな口で笑う、ショートカットの女が手下を数人引き連れていた。
加護の背筋が凍り付いた。その佇まいだけで分かる。この女はかなり強い。
恐らく、この町を壊滅させたのはこの女の仕業だろう。
とても自分がどうこう出来るようなレベルの相手じゃない。
「…今すぐ殺してあげるアルよ…。」
キラッ。
女の手が光った。
バシュッ!
「うがっ!」
加護の左肩が大きく切り裂かれた。
危なかった。一瞬、動くのが遅かったら首が飛んでいただろう。
見切った訳ではない。観察眼の鋭い加護の、生命の危機を知らせる本能のみがなせる業。
(…くそっ!なんやねんコレ…?)
この間合いでどうやって?分かるのは鋭い刃物で切られたという事実のみ。
加護はバッグから握りこぶし大の丸い玉を取り出した。
バン!
それを地面に叩きつける。すると煙がモクモクと立ち上がった。
「…チッ!煙り玉か…!」
女は不意を突かれて視界を奪われる。煙がはれた時にはすでに加護の姿はなかった。
「…フン。まあいいアル。どうせコノ島から、ワタシ達からは逃げられナイ…。」
激しい雨が降り始めていた。
(…助かった。これで後はつけられへんはずや…。)
加護はこのどしゃ降りの雨に感謝した。
肩から流れ落ちた血の跡を、雨が洗い流してくれる。
かなりの距離を走ってきた。出来るだけ街道は通らずに、林の中を抜けて。
しばらくすると、かなりの広さの草原に出た。
どうやら牧場のようだ。周りを垣根で囲っている。
「…ハァ、ハァ…。…アカン、倒れたらアカン…。」
ここで自分が倒れたら後藤はどうなる?それに辻との約束は?
しかし、加護の意思とは裏腹に足が前に進まない。膝がガクガクと震えだす。
視界が歪む。目が霞んでいた。肩からの出血のせいで完全に貧血状態だ。
バシャッ…
加護は意識を失い、そのままぬかるんだ水溜りに倒れこんだ。
容赦なく叩きつける雨の中、加護の小さな体は動かなくなった。
この島のほぼ中央に位置する大きな屋敷。石川の姿はそこにあった。
急な雨に降られてしまった。濡れた髪をタオルで拭きながら大広間への扉を開ける。
広間の中では三人の女性が並んで、豪華な装飾を施された椅子に腰掛けていた。
真ん中に腰掛けた、大きな口の女が前歯を光らせて石川の姿に気付く。
「おお、石川やないか。いつ戻ったんや?」
「は、はい…、ついさっき…。」
「…おかしいね、港には見張りを立ててるから報告があるはずなんだけど…。」
隣に腰掛けた、ガッチリとした体格の女が石川を細い目で見据える。
その時、石川の後ろで勢い良く扉が開かれた。
「アー、ひどい雨アルねー。もうビショビショよー。」
髪も服もびしょ濡れになった女がタオルを持って飛び込んできた。
その姿を見て、体格の良い女の反対側に腰掛けていた女が声をかける。
「聞いたっぺよ、ルル。お前、ガキを仕留め損ねたんだっぺ?」
「うるさいアルよ、小湊。ちょっと油断しただけアルね。」
そうだ。今入ってきたこの女は、ついさっき加護を傷付けた女だ。
二人の間に険悪なムードが漂う。見かねた体格の良い女が間に入る。
「止めろ、二人とも。ウチらは今は仲間なんだ。そうだろ、稲葉?」
「そうやな、信田の言う通りや。止めときや。」
稲葉と呼ばれた口の大きな女の一言で、小港とルルは大人しくなった。
「久し振りにウチらの測量士さんが帰って来たんや。祝宴でもしよか、なあ石川?」
この島を恐怖に貶めている海賊団。その中心メンバーがここに集結していた
四人の首領の稲葉・信田・小湊・ルル、そして幹部の石川梨華。
ソニンは後藤をトロピカ〜ル号の船室のベッドに移していた。
辺りはすでに暗くなっている。それに加えてどしゃ降りの雨。
加護の事が心配だ。しかし、後藤をこのまま一人で残して行く訳にはいかない。
「…真希さん、早く目を覚まして…。」
後藤はまた熱をぶり返し、大量の汗をかいていた。
ソニンは服を破って包帯代わりにしていた布を外す。
(真希さん…、綺麗…。)
ソニンは目を奪われた。
後藤の白い肌、そして服の上からは分からなかったが、
細い身体の割には比較的大きく、形の良く整った二つの乳房が露わになった。
同じ女性でありながら、見惚れてしまう程の美しさ。
無意識にソニンは後藤の体に真っ直ぐに縦に入った傷を撫でる。
「……!」
後藤の体が痛みにビクッと動いた。ソニンは正気を取り戻す。
(…アタシ、何してるニダ…。)
ソニンは手早く後藤の汗を拭き、傷薬を塗って新しい包帯を巻きつけた。
そして、椅子をベッドの横に持ってきて腰掛けた。
ソニンは目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。
外はすでに明るくなっていた。昨日の雨のおかげか、空気が澄んで爽やかな朝だ。
ソニンは後藤の額に手を乗せる。熱は無い。汗もかいていないようだ。
「…良かった。」
ひと安心して、ソニンは甲板に出た。大きく伸びをする。
結局、加護は戻ってこなかった。ソニンの胸に不安がよぎる。
するとその時、遠くから船に近付く数人の影があった。
ソニンは目を凝らす。そして驚愕した。
真ん中にいる女。そいつは石川が見ていた手配書に載っていた四人の内の一人だ。
こんな状態の後藤が見つかったらマズイ。
かといって、船を出すと加護が帰ってくる場所が無くなってしまう。
ソニンはある事を決意した。眠り続ける後藤に向かって優しく微笑む。
(真希さん、ゴメンなさい。少しの間、一人にしちゃいますネ…。)
ソニンは腰の刀を確かめた。とにかく、今は自分のやれる事をやるだけだ。
タン!
軽やかに船を飛び降りる。そして、全速力で駆け出した。
ソニンはわざと見つかる様に走っていた。女の周りにいた男たちが叫ぶ。
「小湊様!あそこに怪しい奴が!」
「追うっぺ!…あたしはルルみたいなヘマはしないっぺよ。」
今日は小湊が見回りの日だった。小湊は張り切っていた。
昨日、ルルが仕留め損なった奴がどこかにいるに違いない。
そいつを始末すれば、立場は確実に自分の方が上になる。
男たちを引き連れてソニンの後を追いかけた。
ソニンは全員ついてきた事を確認しながら、追いつかれない様に、
それでいて離れすぎない様に走った。
(…このくらいでいいかな…?)
船からはかなり離れた。恐らく、船に人がいる事には気付いていないはず。
ソニンだって腕には自信がある。だてに厳しい修行を積んではいない。
精神面の弱かったソニンだが、怪しい陰陽師の祈祷によってそれも克服した。
後藤が旅立ってからの道場のエースはソニンだった。
和田道場で旅に出るのを許されるのは一人前の剣士のみ。
それにここなら自分の力を十分に発揮できる。ソニンは林の中で立ち止まった。
小湊のキャラってこんなんで良かったかな?
まあ、東北(確か福島?)訛りと言う事で。
549 :
536:02/02/05 23:38 ID:6XL1bMzi
* ⊂⊃*.
.* | * . " ".
ノハハノ ""☆". "
へ川●´ー`). / " "
彡〜ノ つ つ /<再開、ありがとう…。
彡 / ____|
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小湊たちはソニンを囲むように立ち止まった。小湊が不敵に笑う。
「フフッ、観念したっぺか…?」
「そうネ、もう走るのは疲れたニダ。だからここで眠ってもらうニダ。」
穏やかだったソニンの目がみるみる鋭くなって集中力が高まる。
腰の刀をゆっくりと抜いた。完全な臨戦態勢、戦士の表情に変わった。
(…ほう、これはなかなか…。)
小湊はその変化に気付く。こいつは予想外の腕前だ。
これならルルが仕留め損なっても仕方がないか?話とは少し違う気がするが。
「お前たち、やるっぺよ!」
ソニンは背後を取られない様に一本の木を背にしていた。
ところが急にクルッと木に向かって振り返る。その背中に男たちが襲いかかった!
ドガカッ!
男たちの攻撃はすべて木に受け止められた。ソニンが消えた?
男たちが我が目を疑ったその時だった。
ズババッ!
「「ぐわっ!」」
ソニンの刀が男たちの背中を切り裂いた。
男たちは訳も分からぬうちに、ソニンの一撃によってすべて倒された。
小湊だけが見ていた。
ソニンが木に足を架けてバック宙をして、男たちの背後に回ったのを。
「…なかなか器用な真似をするっぺね。でも、二度は通用しないっぺよ。」
小湊は腰に二本の刀を下げていた。そのうちの一本を抜いた。
ソニンは驚いた。この世界で刀を使う剣士は珍しい。
少なくとも和田道場以外では見た事が無かった。それに二本の刀の意味は…?
「小湊流の真髄を見せてやるっぺよ…。」
いったい、どこの田舎の流派だろうか。ソニンは聞いたことがない。
小湊が一瞬にして間合いを詰めた。
(速い!)
ギン!
ソニンはかろうじて小湊の太刀を受け止めた。腕が痺れる。
思わず刀を落としそうになった。重い、それでいて速い。
刀でこれほどまでの打ち込みをする人間に、ソニンは今まで会った事が無かった。
これはとても侮れない。ソニンは更に集中力を高めた。
キン、キン!
二人が刀を打ち合う音が林の中に響き渡る。
かなりの時間打ち合っていた。実力はほぼ互角だろうか。
いや、ソニンの額や首筋には大量の汗が浮かび上がり、疲労の色は隠せない。
それに対して小湊の方は汗一つかいていない。涼しい余裕の表情だ。
(…くそっ!こんなに差があるなんて…!)
ソニンは自分の犯した重大なミスに気付いた。
この四人組はあの“三色”の生き残りだ。そして、その個々の持つ実力だけなら、
あの伝説の娘。たちを凌ぐとまで言われていた存在。
過信だった。元々自分ごときが敵う相手ではなかった。
小湊はソニンの太刀筋からある人物を思い出していた。
「…そうか!お前の太刀は市井に似てるっぺ!さては和田道場のもんだっぺ?」
「それがどうしたニダ!」
「市井とは決着がつけられなかったっぺ。それなら代わりにお前でもいい…。
小湊流が和田道場を超える、記念すべき日だっぺ!」
「……!」
それならなおさらソニンは引き下がれない。
偉大な先輩達が築き上げてきた誇り高き看板だ。自分が汚す訳にはいかない。
二人の打ち合いが止まった。
ソニンは小さく後ろに跳んで距離をとる。そして刀を上段に構えた。
「…どうやら最後の一太刀ってとこだっぺ?いいわ、受けてやるっぺ!」
小湊は中段の構え。どんな攻撃にも対処出来るように神経を張り巡らせる。
林の中に静寂が訪れた。二人の気だけがますます高ぶる。
(…くらうニダ!舞羅武返し!)
ソニンが刀を振り下ろす!しかし、小湊は僅かに下がってかわしていた。
確かに鋭く速かったが、その太刀筋は完全に見切られていた。
(あたしの勝ちだっぺ!)
小湊が勝利を確信したその時だった。
ソニンの刀の刃が上を向く。小湊の体中の毛という毛が逆立った。
(…まずい!)
ソニンの刀が音速の域に達する!
ズバッ!
下から振り上げたソニンの刀は空を切り裂いていた。
届かなかった。いや、微かに小湊の薄皮一枚を切っただけだ。
ソニンの肉体はすでに限界に達していた。
後藤の看病でまともな睡眠をとれなかったし、なにより小湊との実力差が響いていた。
そんな状態で使えるような技ではなかった。
ソニンはガクリと膝を落とした。
(…こいつ…!)
小湊の体にはまだ鳥肌が立っていた。冷や汗が止まらない。
こんなスリルを味わったのはあの娘。たちと戦った時以来だ。
だが、ソニンはもう動けない様だ。小湊の勝ちだ。しかし…
(…万全の状態で戦ってみたかったっぺよ…。)
小湊はうっすらとついた傷から流れた血を拭った。
「剣士として礼を尽くすっぺ。誰にも見せた事のない最高の技で仕留めてやるっぺ!」
小湊は腰に差したもう一本の刀を抜いて、両手に二本の刀を構えた。
ソニンはその姿に我が目を疑う。
「…まさか、そんなバカな!それはあの人の…!」
「新・小湊流奥義…!」
バシュッ!
>>536さん
こちらこそありがとう。
なっちが元気そうで嬉しい(W 次の出番もよろしくね。
557 :
名無し:02/02/07 22:51 ID:XMjdzEIs
hozen
楽しみに読んでますんで頑張って下さい。
再開おめ。
(…ここは…?)
加護はベッドの中で目を覚ました。どうやら民家の一室のようだ。
洗いたての石鹸の香りがする真っ白なシーツの感触が心地良い。
台所ではコトコトと鍋のふたが音を立てている。
こちらからは見えないが誰かの居る気配がする。
加護は身を起こそうとした。
「…痛っ!」
加護の左肩に激痛がはしる。思わず大声を出してしまった。
するとその声に気付いたらしく、台所から一人の少女がパタパタとやって来た。
背は加護より少し高いくらい、愛嬌のある丸顔をしている。
「目が覚めました?でも、まだ横になってたほうがいいですよ。」
優しくニッコリと微笑む。
加護は安心した。こんな笑顔を見せる者に悪い人間はいない。
その時、加護のベッドの下から小さな影が飛び出してきた。
「……!」
加護は目をつむって身を固くする。するとその影は加護の顔をペロペロと舐め出した。
それは小さな犬だった。丸顔の少女がその犬の頭を撫でる。
「この子が見つけてくれなかったら、あなた、助からなかったかもしれませんよ。」
「…そっか、ありがとな、お前。…アハハッ、くすぐったいわ…。」
その少女はあさみと名乗った。
「多分、加護さんを襲ったのはあの連中の一人、ルルだと思いますよ。」
「あの連中て?」
「この島に居座っている海賊団、“T&Cボンバー”ですよ。悪い事は言いません。
早くこの島から離れたほうが良いですよ。」
「…確かにアイツはヤバかったわー。体中から殺気がプンプンしとったで。」
加護はあの女、ルルの事を思い出した。それだけで今でも身震いがする。
「せやけどなー。梨華ちゃんを連れ戻すっちゅうのが、ののとの約束やしなー…。」
加護のその言葉にあさみの表情が強張った。
「加護さん?あなた今、梨華ちゃんって…。」
「そうや、石川梨華っちゅうのを探しとんねん。何か知っとるん?」
あさみはコクリとうなずいた。
「知ってるも何も…、あの海賊団の幹部ですよ。
そして、あたしとは義姉妹の関係でもあります…。」
「なんやて、梨華ちゃんがアイツらの一員やっちゅーんか!?」
「…そうですよ。あの子があの海賊団に入ってから、もう1年以上になります。」
「せやけど、梨華ちゃんはウチらの仲間やって…。」
あさみは加護のその言葉に暗い表情になった。
「…あの子に仲間なんていません…。」
「そんなワケないやろ!ウチらは確かに仲間やった!
それにののは言うとった、梨華ちゃんは友達やって!」
加護にはあさみが何故そんな事を言うのか分からない。あさみに詰め寄った。
しかし、あさみの表情はますます暗くなるばかり。うっすらと目に涙を浮かべていた。
「あの子はすべてを捨てたんです!仲間も…、友達も…、普通の幸せをすべて…。
だからもうあの子には係わらないでください!あの子を苦しめるだけですから…。」
「…ほな、ウチはもうひと眠りするわ。」
「えっ…?」
「ウチはケガ人やからな。悪いけどしばらく居させてもらうで…。」
加護は頭から毛布をかぶった。この島では明らかに異常な事が起きている。
石川が苦しんでいる。そして、この命の恩人のあさみも。放って置ける訳が無い。
後藤の事も気になるが、ソニンが付いているからとりあえず問題はないだろう。
(…のの、頼む!はよ来てくれ…!)
T&Cボンバーが居座る屋敷の一室に石川の姿はあった。ほとんど眠っていなかった。
昨夜は、石川は飲めないのだが稲葉たちの酒に付き合わされ、
そのうえ今回旅して来た所の海図を早く描き上げる様に言われたからだ。
T&Cボンバーの目的はこの海を支配する事。その為には海図が欠かせない。
石川の描く海図は正確そのものだ。
体力自慢の集まったこの海賊団にとって、石川の存在はまさに必要不可欠だった。
(…コーヒーでも飲もうかな…。)
眠気覚ましだ。石川は階段を下りて大広間へと向かった。
石川が一人でコーヒーを飲んでいると、稲葉・信田・ルルの三人が騒々しくやって来た。
「あー、完全に二日酔いやわ…。ウップ…、気持ちワルー…。」
「あっちゃん、そんなに酒強くないんだから。あまり無茶するなよ。」
「そうアルよ。ルルは強いからいくら飲んでも平気アルけどネ。」
三人はそれぞれの椅子に腰掛けた。信田が石川を細い目で見つめる。
「石川、お前もう海図は描き終わったの?」
「…は、はい。あと少しで…。」
「あー、そんなん後でええわ。それより石川、水持ってきてくれへんか?」
稲葉は頭痛がするらしく、両手で頭を押さえている。
「あっ、はい。今すぐ…。」
石川が台所に行こうと席を立ったその時だった。
バン!
広間の入り口の扉が勢い良く開かれた。広間にいた全員の視線が集まる。
そこには小湊が立っていた。その肩には一人の女性を担いでいる。
「ああ、小湊。見回りご苦労さん。…その女は?」
信田が小湊の肩を指差して尋ねた。小湊は広間の中央までやって来て女性を下ろした。
その顔を見て石川は驚いた。
(…ソニンさん!?どうしてここに…?)
小湊が担いできた女性はソニンだった。その体には十文字に深い傷が入っていた。
「途中で見つけたんでやっつけたっぺ。どう、ルル?これであたしの勝ちだっぺ!」
「何言ってるアル。ルルが仕留め損なったのは、こんなヤツじゃないアルよ。」
「…えっ?どういう事だっぺ?」
勝ち誇って浮かれていた小湊が正気に戻る。すると稲葉が何かを思い出したようだ。
「そうや、コイツは最近出てきよった賞金稼ぎやわ。なんかで見た気がするわ。
…せやけど変やな。コイツは確か二人組やったはずやけど…。」
「そうアルか!それじゃあ昨日ルルが見た小娘。が片割れアルね!」
「いや、ちゃうわ。コイツ等は男女のコンビのはずや。」
その会話を黙って聞いていた信田が不審そうに石川を睨んだ。
「賞金稼ぎと謎の小娘。それに港から帰って来なかったお前…。
なんか臭いね。石川、お前何か知ってるんじゃ…。」
「…うっ!」
その時、ソニンが意識を取り戻した。
「小湊!お前、殺してなかったアルか?」
「そうだっぺ。こいつは強いっぺよ。でも本調子じゃなかったようだっぺ。
だからもう一度、ちゃんと勝負をする為に連れてきたっぺ。」
「…そんなに強かった?それなら先にあたしにやらせてよ。」
「ズルいアルよ信田!ルルだって戦いたいアルよ!」
(…ホンマにコイツ等は単純なやっちゃで…。)
三人のやり取りを聞きながら稲葉はほくそ笑んでいた。
稲葉を除く三人は純粋に強さを、戦いを求めているだけだった。
そんな連中の方が扱いやすい。いくらでも思い通りにコントロール出来る。
ソニンは瞼を開けた。どうやら自分は生かされたらしい。
その目に飛び込んできたのは、まさしくあの手配書の連中、T&Cボンバーだった。
しかし、その四人のそばにいる娘。の姿にソニンは驚きを隠せない。
「石川さん!?どうしてコイツらと…?」
信田の目がますます鋭くなって石川を見据えた。
「石川…、どういう事だ?」
(しまった!)
石川は動揺した。しかし、必死の思いで平静を装う。
なんとかうまく言い逃れをしないと、今までのすべてが水の泡になってしまう。
「…コイツらから船と宝を奪って来たんですよ〜♪
まさか、ココまで追いかけて来るなんて、ホントにしつこいヤツですね〜♪」
(なっ…!)
ソニンには石川の言葉が信じられない。
「石川さん!辻さんはアナタの事を友達だって言ってたニダ!
その気持ちをアナタは裏切るっていうの!?」
「…アタシには友達なんていないから。…そんなの必要ないから!」
(えっ…。)
稲葉が高らかに笑う。
「アッハッハッハ、そうや!この娘。は自分の家族さえも裏切れる娘。や!」
「……!」
石川の表情が険しく、そして悲しくなった。ソニンはその変化に何かを感じ取った。
「…とにかく、変な疑いかけられちゃ困るの。だから…。」
石川は腰に巻き付けていたベルトをスッと抜いた。
大量の金具が付いたそれは戦闘時にはムチへと姿をかえる。
バシッ!ベシッ!
石川はソニンの傷ついた体に容赦なくムチを叩きつける。
その表情は無表情。いや、無理やり感情を押し殺しているようにソニンには見えた。
せっかく生かしたソニンが殺されてはたまらない。小湊が石川を止める。
「お、おい。もう止めるっぺ、石川。疑って悪かったっぺ、なあ信田。」
「…あ、ああ…。」
「あー、ひどいアルねー。…とりあえず、地下室にでも閉じ込めとくアルか。」
>>557さん
ありがとうございます。
ご期待に添えられるように書き続けたいと思います。
>>558さん
お騒がせしました(w
引き続き読んでやってください。
567 :
保全:02/02/10 14:13 ID:+87InL7g
(^▽^)/〜⌒ヾ ピシッピシッ
「…護さん、起きてください。加護さん。」
加護はあさみに揺り起こされた。いつの間にか本当に眠ってしまっていた。
しかも、もうすでに日が高い。どうやら丸一日、寝ていたらしい。
「加護さん、バッグの中から何か音がしてますよ…。」
あさみが加護のバッグを枕元に持ってきた。
『リンリンリン、リンリンリン…』
着信音だ。加護は寝ぼけた頭で電話を取る。
「…もし、もし、もし…。」
『はろー、はろー、はろー!』
「…誰ですか?」
『らっれれしょう!』
加護ははっきりと目を覚ました。この声を忘れるはずがない。
待ちに待ったこの電話。思わず笑顔がこぼれる。
「加っ護ちゃんです♪」
『つっじちゃんれす♪』
辻からの電話だった。
「なんや、ののー。待っとったんやでー。今、何処におるんー?」
『へい、あともうすこしれしまにつくとおもいますよ。』
辻の話によると、ユウキが船を引っ張って泳いでくれたおかげで、
かなり時間の短縮が出来たという。
「そーかいな。2号、頑張れよー!」
すると、受話器の向こうから微かに「2号ってゆーな!」という声が聞こえた。
『そうそう、よっすぃーもきたんれすよ。かわりますね…。』
『ハァーイ!マイ、ネーム、イズ、ヒトミ、ヨシザ〜ワ!』
「…自分、こんなキャラやったっけ?…まあええわ。元気そうで何よりや。」
加護は簡潔にトロピカ〜ル号の停泊している場所と、
そこからこの牧場までの道のりを説明した。
辻の携帯の充電が切れる頃だと判断したからだ。
「…くわしい話は後や!とにかく急いでくれ、頼むで!」
『わかったのれす、あいぼん!…そーいえば、やんばるくいなって…プツッ。』
(なんなんだ…?)
加護には辻が最後に何を言いたかったのか分からなかった。
>>567さん
こ、これはまるで挿絵のようだ…
でも笑顔じゃないから(w
>>568さん
同じく。
今回はかなり短くてスマソ。次回は大量更新の予定です。
572 :
保全:02/02/11 22:33 ID:L6GVFkUn
hozen
あさみの牧場のそばにある集落。その集落の中では比較的大きな、
しかし、あくまで質素な家があった。そこに若い男が息を切らせて駆け込んできた。
「義剛さん!ヤツらが来ました!」
「…そうだべか。もうひと月たったべか…。」
この男がこの集落“花畑村”の村長の義剛だ。この村の村長は選挙によって選ばれる。
そして義剛は村長と言うには決して裕福ではなかった。
なぜなら、義剛は幼くして親を亡くした子供たちを多く引き取り、育てていたからだ。
村人たちはそんな義剛に尊敬の念を抱き、多大なる信頼を寄せていた。
「…皆を集めるべ。今月分を持って来る様に…。」
花畑村の中央広場ではルルが数人の手下を引き連れていた。
続々と村人たちがやって来た。その手にはそれぞれ金を持っている。
「ヨシ、ヨシ。ミンナ今月も素直でよろしいアルね。」
T&Cボンバーは毎月決まった日に、島にあるそれぞれの町や村から
上納金と呼ぶ金を集めていた。
それは来たる戦いに備えると同時に、支配を強化するという側面もあった。
今月のこの村の担当はルルだ。ルルは上機嫌で金を数えていた。
「確かにアイツや!ウチを傷付けたんわ…!」
加護とあさみは建物の影からその様子を見ていた。
上納金を納めに来たあさみに加護はついて来たのだった。
「あたし達は毎月こうやって自分の命を買ってるんです。
そして、一人でも払えなかったら、加護さん、あなたが見た町のように…。」
「……!」
加護は背筋がゾッとした。ルルと出会った町の光景を思い出した。
あさみの話によると、ルルはたった一人であの町を壊滅させたという。
そんな女と同じくらいの力を持つ者があと三人もいる。
(確かにコレは大人しくしといた方が正解やで…。)
その時、義剛が広場に姿を現し、ルルに金を手渡した。ルルが義剛を鋭い目で見据える。
「…遅かったアルね、村長さん。でも、コレじゃ足りないアル。」
「どういう事だべ?いつもと変わらないべ…。」
義剛は普段とは違うルルの様子に身を硬くした。
「とぼけたって無駄アルよ。また新しいガキを拾って来たアルね?ルルは見たアル。」
「…まさか!」
加護はルルの言葉に驚愕した。それは自分の事を言っているらしい。
義剛は身に覚えのない事を言われて驚きを隠せない。
「知らないべ!何かの間違いだべ!」
「それならそれで良いアル。お前の所のガキを一人殺せば済む事アルね。」
「なっ…!貴様!そんな事は絶対にさせないべ!」
義剛は思わずルルの胸倉を掴んだ。しまった。しかし後悔してもすでに遅い。
「…これは立派な反逆アルね!」
ルルが義剛の胸倉を掴み返した。
そしてそのまま片手で義剛を持ち上げ、頭から地面に叩き付けた。
「ぐはっ!」
義剛の頭から血が噴き出した。
「「義剛さん!」」
村の若者たちが義剛を助けようとする。しかし、義剛がそれを制した。
「皆、止めるべ!戦う事で、命を投げ出す事で支配を拒むなら、あの時そうしてたべ。
でもオラ達はあの子に誓ったべ!生きる為に、耐え忍ぶ戦いをしようと…!」
「「……!」」
村人達は全員、その子の姿を思い出した。生きなければ、生きてさえいれば…
「フフッ、最初から大人しくしてれば良かったアル。でも、お前は見せしめアルよ…。」
ルルはもう一度、義剛を高々と持ち上げた。
その時だった。
「くそったれ、このボケ!」
大きな叫び声がした。それと同時にルルの顔面に生卵が命中。
「…うわっ、目が…!」
目に卵とかけらが入ったらしい。ルルは義剛から手を離し、痛む目を懸命にこする。
あさみは突然の出来事に我が目を疑った。
「…加護さん、いつの間にうちの卵を…?」
もっと他に思うことがあるはずだが。とにかく、加護がルルに卵を投げつけたのだった。
「アホか、お前!ウチは関係ないんじゃ、ボケ!」
怖い。足がガクガク震えている。
自分ごときが敵わない相手だという事くらい分かりきっている。
でも、自分のせいで人が一人殺されそうになっている。これをみすみす放っておけるか?
「…貴様…!一度ならず、二度までも…!」
なんとか片目だけは回復したルルが、加護を怒りの形相で睨みつける。
その様子に手下たちが慌て出した。
「…まずい!また上納金の取り口を減らしちまったら、稲葉様に殺されちまうぞ!」
男たちが必死になってルルにしがみ付いて、そのまま村の外へと連れ去ろうとする。
しかし、ルルは収まりがつかない。
「村長!貴様かガキの命を差し出すアル!さもなければ、村中の人間を殺すアルよ!」
加護とあさみは牧場の家に戻っていた。
あさみはなにやら色々バッグに詰め込んでいる加護に声をかけた。
「加護さん、…本当に行くんですか?」
「…ウチが蒔いた種や。ウチが刈り取らんでどないすんねん…。」
加護は心を決めていた。自分が死ぬ事でこの人たちが救われるならそれで良い。
いや、ただで死んでたまるもんか。少しでも傷付けておけば、あとはみんながきっと…
その時、あさみの家のドアがゆっくりと開いた。
「じゃまするべ…。」
義剛だった。義剛は加護の姿を見つけると、近付いて、そして深々と頭を下げた。
「すまないべ。こんな事に巻き込んちまって…。」
「なんでおっちゃんが謝んねん!?悪いのはウチや!悪いのはアイツらやんか!」
加護には義剛がどうして頭を下げるのか理解が出来ない。
しかしそんな加護に、義剛は優しい笑顔を見せる。
「…娘。、両親は?」
「…おかんは死んでもーた。おとんは…、…もうずっと会うてへん…。」
「そうか…。」
そう言うと義剛は加護の頭を優しく撫でた。
何人も両親のいない子供を見てきた義剛だ。
加護からも微妙な何かを感じ取っていたのだろう。
「…おっちゃん…。…うわーん!」
加護は義剛の胸に飛び込んで大声で泣き出した。
義剛はそれを優しく受け止める。
「…義剛さん。ゴメンなさい…。あたしが勝手な事したばっかりに…。」
あさみが今にも泣き出しそうな顔で義剛に謝罪した。
しかし、義剛は首を横に振る。
「オラが、あの子が困っている人を見捨てろって教えたべか?
お前は何も間違ってないべ、あさみ…。」
「義剛さん…。…うぐっ、ひっく…。」
あさみも泣きながら義剛の胸に飛び込んだ。
(あったかい…。)
加護は義剛の胸の中で、何年ぶりかの父親のぬくもりを感じていた。
泣き続ける二人を義剛は黙って、ただただ優しく抱きしめていた。
帰り際に義剛はひと言だけ言い残して行った。
(馬鹿な事は考えるな。まだまだ若いお前たちだ。生きてさえいればきっと…。)
加護とあさみは泣き疲れて床に座り込んでいた。
義剛は加護が命を投げ出すことを絶対に許さない。
しかしこのままではきっと、義剛がアイツらの所に行くだろう。
「…ウチはいったい、どないすればえーんや…?」
その時、ドアをノックする音がした。
あさみが赤い目を擦りながらドアを開ける。そこに立つ四人の姿。
それはまさしく、加護が今一番、会いたかった人達だった。
「のの!ごっちん!それに、よっすぃー!」
「…オレもいるんだけど…。」
そんなの目に入らない。加護は辻に思いっきり抱きついた。辻が照れくさそうに笑う。
「てへてへ、あいぼん、くるしいれすよ…。」
「…会いたかった。ありがとう、ありがとう…。」
加護の目にはまた涙が浮かび上がっていた。そんな加護に後藤が声をかける。
「加護。ソニンさんの姿が見当たらないんだけど。お前、何か知らない?」
「えっ…?」
加護の体にまた新たな衝撃が走る。
まさか、自分のいない間にソニンがヤツらにやられてしまったのか?
その時、三度、ドアが開かれた。全員が振り返る。
「…みんな、やっぱり…。」
そこには汗だくの石川が立っていた。その背中にはソニンをおぶっている。
稲葉たちが外出している間を見計らって、ソニンを連れ出したのだった。
「ソニン!」
ユウキが石川に駆け寄った。ソニンは体中傷だらけだが、気絶しているだけのようだ。
「いったい誰が!?」
石川はソニンをベッドに寝かせた。
「…この刀傷はT&Cボンバーの小湊…。」
「くそっ!アイツか!」
ユウキはすべてを聞かないうちに飛び出していった。
「…そして、あとの傷はアタシよ…。」
(…なっ!)
全員、石川の言葉が信じられない。後藤が石川の胸倉を掴んだ。
「梨華ちゃん、どういう事!?」
石川はその後藤の手を、普段の石川からは考えられない力で叩いた。
そして、鋭い眼差しで後藤を睨みつける。
「そのままよ!アタシがソニンさんを傷付けたの!ここに来られちゃ迷惑なの!
船だったら返すから!とっととみんな、この島から出て行って!」
「梨華ちゃん…。」
後藤は驚いた。明らかにこの石川は様子がおかしい。
辻が悲しそうな目で石川を見つめる。
「…れも、りかちゃんは…。」
その辻の言葉を加護がさえぎる。
「梨華ちゃん、すまん!ウチはやらかしてもーた…。」
加護はさっき村で起こった出来事を石川に話した。石川の顔がみるみる青ざめる。
「…そんな、そんな…!」
「すまん、梨華ちゃん!ホンマにすまん!」
石川は外に向かって駆け出そうとして、一瞬、立ち止まって振り返った。
「もし義剛さんが死んじゃったら、村のみんなに何かあったら、絶対に許さない!」
「……!」
加護は石川の怒りの形相に、何も言えなくなった。吉澤が石川に声をかける。
「どこ行くの、梨華ちゃん?あたしも一緒に行くよ。」
「うるさい!アタシの事なんてほっといて!」
(ガーン!ちょっと、いや、かなりショック…。)
石川は全速力で走り出した。辻がその後を追いかけようとする。
「りかちゃん、まってくらさい…!」
「待って下さい!」
その辻をあさみが呼び止めた。
「みなさんにお話します。この島に起こった出来事のすべてを。
そしたらあの娘。の言う通り、この島から出て行って下さい…。」
大量でもなかったですね(w
ちょっと調べ物をしてたので昨日は更新出来ませんでした。
結局、見つからなかったんだけど、
カントリーのオリメン(りんね除く)ってなんて名前だったでしょう?
もし、知ってる人がいたら教えてホスィ…
>>577 訂正 十行目 巻き込んちまって→巻き込んじまって
584 :
:02/02/12 22:01 ID:27rRooeB
>>585さん
素早いレス、本当にありがとうございます。
これですっきりして眠れます(w
ちょっと手直しをして、出来れば明日、更新いたします。では。
585→584さんの間違いです。
hozen
やっぱり今日は無理そうなので、自らh
@ノハ@
Д`](0^〜^)( ´Д`)( ´D`) (´д` )三 (0゚v゚0 )
時は今から二年ほど前、“三色”の大戦の直後へと遡る。
この島は、花畑村はごく平凡などこにでもある平穏な村だった。
花畑村の外れにある牧場。あさみは数匹の犬とフリスビーをして遊んでいた。
まるで犬と心が通じ合っているかのように見事な技を繰り返す。
そして、はちきれんばかりの笑顔をしていた。
「キャーーー!やっぱりイヤーーー!」
その時、家の隣の鶏小屋からカン高い叫び声がした。
あさみがそちらを振り返ると、小屋を飛び出して駆け寄って来る石川の姿。
その石川の後から一人の女性が追いかけて出て来た。
「こらー!梨華ちゃん、待ちなさーい!あさみー、捕まえてー!」
「は、はいっ!」
やれやれ、またか。と思いながらも、あさみはその女性の言葉に従う。
あさみが石川を取り押さえると、その女性が二人の元にやって来た。
石川が涙ながらに訴える。
「ゴメンなさい、りんねさん!だってアタシ、ニワトリが、鳥がダメなんだもん…!」
そう、この女性の名前はりんね。この牧場の主人である。
そして、石川とあさみの母親だ。しかし三人とも、その血は繋がっていない。
「…まったく。だから今日はせめてヒヨコだけでもって言ってるじゃない。」
りんねは石川の隙をみて、その両手にヒヨコを乗せた。
「イヤーーー!」
石川は手にヒヨコを乗せたままあたふたしている。
ヒヨコを放せば良いのに、そんな事はまるっきり頭にないようだ。
それを見たりんねが楽しそうにニヤリと笑う。
「あさみー、ちょっとコレ、おもしろいよー。」
「そうですね、りんねさん。」
調子に乗った二人はさらに石川の肩にもヒヨコを乗せる。
(キャーーー!)
石川の体が文字通り凍りついた。一歩も動けない。そして…
バタン。
石川が気を失って倒れ込んだ。りんねとあさみは大慌て。
「わっ、ちょっとやり過ぎちゃった!あさみ、家まで運ぶよ…。」
石川はベッドで意識を取り戻した。あさみが石川に呆れている。
「梨華ちゃん。うちは牧場なんだからさー、ヒヨコくらいで勘弁してよ。」
「まあまあ、あさみー。今日はウチらも悪いんだし、そのくらいにしときなよー。」
りんねがあさみをたしなめた。しかし、その顔は軽く笑っている。
そんな二人の態度に石川は腹が立った。
「…なによ!好きで牧場になんているんじゃないもん!うち貧乏だし…。
どうせ血が繋がってないんだから、もっと他の家の方が良かった!」
パン!
(…えっ?)
りんねが石川の頬を叩いた。石川は驚いた。あさみもだ。
今までりんねは二人の顔を叩いた事がなかった。
どんなに悪い事をしても、お尻をムチで軽く叩くだけだった。
それに、こんなにも怒りを露わにしているりんねの姿を二人は初めて見た。
「血が繋がっていないからって何!?そんなのどーだっていいじゃない!
…そんなに家が嫌だったら、どこへでも出て行っちゃえ!」
「…出てくもん!」
石川は家を飛び出していった。オロオロしていたあさみが石川の事をかばう。
「りんねさん、梨華ちゃんは本気であんなこと言ってないよ。だから…。」
「…ゴメン、あさみ。ちょっと大人げなかったね。あの娘。呼び戻してくんない?
美味しい物でも食べて仲直りしようって…。」
「はい!」
「コラ、石川!お前、オラのYシャツ、アイロンで焦がしちまったべ!?」
「ゴ、ゴメンなさい!つい、うっかり…。」
石川は義剛の家におしかけていた。少し手伝いをすると、すぐこの有様だ。
「…まったく。…りんねが心配してるべ。早く帰るべや。」
しかし、石川はなにやら思いつめた顔をしている。
「…アタシ達がいない方が幸せだと思うの。アタシ達のせいで貧乏だし…。」
「…そんな事、りんねはこれっぽっちも思ってないべ。」
(えっ?)
「いい機会だべ。教えてやるべ。お前達がこの村にやって来た時のことを…。」
りんねは義剛の元で育てられた子供の一人だった。
すくすくと元気に育ったりんねは、同じ時期に義剛の家にいた二人と海に出る。
しかし、一人は不運な海難事故で命を落とし、
もう一人は呪われた過去のせいで自ら命を絶った。
生きる希望を失くしたりんねは帰る途中、戦乱に巻き込まれた町を通る。
その町での唯一の生き残りが、まだ物心の付かない石川とあさみの二人だった。
りんねはその二人に昔の自分を重ねて見たのかも知れない。
そして、義剛から貰った抱えきれないほどの幸せを二人にも分け与えたかったのだろう。
義剛の反対を押し切って、りんねは自分で二人を育てることを決めた。
「…りんねは言ってたべ。お前達が自分の生きる希望だと。
だからお前達には血よりも濃い“絆”がある…!」
(そうだったんだ…。りんねさん…。)
石川は初めて耳にした。りんねの思いが胸の中に染み渡る。
その時、あさみが姿を現した。
「梨華ちゃん、やっぱりここにいたんだ。りんねさんが待ってるよ。
美味しい鳥料理でも食べて仲直りしようって…。」
すると石川の顔がほころび目が輝く。
「えっ、ホント?アタシ、トリ肉、大好きっ♪」
(本っ当、調子がいーんだから…。)
あさみは心配して少し損したような気分だ。義剛が優しく石川の背中を押す。
「さっ、お家へお帰り…。」
その時だった。
村の若者達が息を切らせて義剛の元へとやって来た。
「大変だ、義剛さん!海賊が来た!しかも…!」
彼らの話によるとその海賊は四艘の船で現れたという。
しかも、その帆の色は青が二枚に赤と黄色がそれぞれ一枚ずつ。
あの“三色”が生き残っている?そして、一緒に行動している?
「そんなバカな!“三色”はもう全滅したはずだべ!」
手直ししたとこは次回更新します。
>>589さん
ズレトル(w あさみのAAって初めて見ました。
次も期待。
hozen
( 0^v^0) g(T▽T)g (⌒ ー⌒ )
稲葉たちの動きは速かった。村人たちが抵抗の準備をする暇さえ与えなかった。
「この村がウチらの野望の出発点や!みんな、異論は無いな?」
稲葉があとの三人に向かって叫んだ。信田・小湊・ルルの三人が頷く。
「…まさか、あたしがこいつと組むなんて思ってもみなかったけどね。」
「ナニ言ってるアル。ソレはルルの台詞アルよ。」
この二人はあの大戦で直接戦っていた。信田は“あか”、ルルは“黄色”の一員として。
「あたしは不完全燃焼だっぺ。せっかくの新しい技が泣いてるっぺよ。」
稲葉と小湊は海軍の艦隊が“青色”の本拠地に来た時に逃げ出していた。
小湊はある剣士との決着をつけるまで死ぬ訳にはいかなかった。
この三人には共通点もあった。自分の実力に圧倒的な自信を持ちながらも、
それぞれのユニットでセンターに立つことがなかった。
その不満に上手くつけこんだのが稲葉だ。三人にはこの海を制した後、
新たな強敵を求めて“グランドライン”に乗り込むと言ってある。
しかし、そんな危険を冒すつもりはサラサラ無い。
稲葉の目的はとにかく金を集めて贅沢な暮らしをすること。
海軍の本部もほとんど来なければ、とんでもなく強い海賊もいないこの海なら安心だ。
(フフッ…。ホンマに扱いやすいヤツらやで…。)
稲葉はほくそ笑んだ。広場に集めた村人たちに向かって叫ぶ。
「大人ひとり十万、ガキひとり五万や!今日は急なハナシやろうから
払えへんかったヤツだけ殺したる!大サービスや、とっとと持って来い!」
その話を聞いた義剛は驚愕した。
海軍の広報によると、“青色”は早々に海軍によって殲滅され、
“あか”と“黄色”の対決は僅かの差で“あか”の勝利に終わったが、
それも海軍が残らず始末したと言っていた。
どうやらそれはまるっきり嘘だったようだ。面子を保つためにワザと嘘の情報を…
この海で最強最悪の海賊団がまだ残っていた。しかも今度は手を組んでいる。
そんなヤツらに対抗できる力など無い。義剛は決意した。
「石川、あさみ!お前たちは裏から逃げるべ!もうすぐヤツらがここに来る…!」
「…どうやら全員分、集まったらしいなー。せやけど村長さん。自分、
こない沢山ガキ拾っとったらこれから毎月大変やで。同情するわ、アハハッ!」
「……!」
義剛は歯軋りをして、こぶしを握り締めた。
コイツらはこの村に居座るつもりらしい。そして毎月毎月、金を奪い取るというのだ。
だがとりあえず村人に被害は出ていない。あとはりんねの家さえ見つからなければ…
その時だった。
「あっちゃん。村の外れにまだ家が在るみたいだ。料理してる煙が出てるよ。」
信田がりんねの家から立ち上がる煙に気付いた。稲葉がその視線の先を追う。
「…ホンマやな。うっかり見過ごすとこやったで。行こか!」
(しまった!)
石川とあさみは林の中を自分たちの家に向かって走っていた。
義剛の家の裏で隠れて話を聞いて、りんねの危険を感じたからだ。
「あさみちゃん、急ごう!りんねさんに知らせないと…!」
「うん、梨華ちゃん!」
もうすぐ家に着くというところだった。
「二人とも、待つべ!」
二人を呼び止める声がした。二人が振り返ると義剛が息を切らせて追いついた。
「いいか、二人ともよく聞くべ。お前たちとりんねには親子だという証拠がない。だから
今の内にこの村を、この島を出るんだべ。それ以外にお前たち三人が助かる道はない!」
石川の体に衝撃が走った。涙がボロボロと零れ落ちる。
「…イヤだよ!アタシこの村好きだもん!この牧場が好きだもん!
貧乏だからダメなの?りんねさんの子供でいちゃダメなの…!?」
「一緒にいなくても“絆”は繋がっとるべ!生きることが先決だべ!」
義剛も必死だった。懸命に涙をこらえていたあさみが石川の手を引く。
「…行こう、梨華ちゃん。」
「あさみちゃん!?」
「それでりんねさんが助かるならそれでいいじゃない!それでいいんだよ、きっと…。」
その時、牧場からなにやら騒ぎが起こり始めた。
「くそっ!いいか、お前たちは絶対に来るな!早く島から逃げるべや!」
義剛はそう言い残すと、りんねの家に向かって走り出した。
りんねは料理に集中していた。
「よしっ、オーブンのローストチキンはあと十分くらいだし、
クリームシチューもいい感じ…。」
ドン、ドン!
その時、ドアを強くノックする音がした。
「……。」
おかしい。この家に訪ねて来る人はほとんどいない。石川やあさみ、義剛はノックしない。
ノックをしたのは稲葉だった。りんねの家の前に海賊たちが集まっていた。
「…開いてるよー。」
ドアの向こうから声がした。稲葉がドアを開ける。
ドッ!
稲葉は飛び出してきた影に仰向けに倒された。そして、その口に銃口を咥えさせられる。
「あたしも元は海賊なんだ。“三色”の残党が何の用?」
危機を敏感に察知したりんねの形勢逆転の一手だった。しかし、稲葉は高笑いだ。
「アハハハ!」
「何がおかしい!?」
バキッ!
稲葉が銃口を噛み砕いた。その前歯は鉄すらものともしない。りんねは我が目を疑う。
「こんなんでウチを殺せるとでも思ったか!?それがおかしいてかなわんわ!」
(くそっ!)
りんねは腰に差していたムチ、乗馬用のムチだ。それを抜いて稲葉に打ちつける。
ガブッ!
しかし、それも稲葉に噛み付かれた。そして…
ブチッ!
あっけなく噛み千切られた。稲葉の目が狂気に染まる。
「えー加減にしーや!」
りんねの腕を掴んで引き摺り倒す。そしてその腕を力強く踏みつけた。
ベキッ!
「うあああっ…!」
一撃で腕がへし折れた。それでも構わず稲葉は何度も何度も踏みつける。
(…駄目だ、確実に殺される…!…あさみ、梨華ちゃん…!)
その時、義剛が姿を現した。りんねのところへ駆け寄る。
「馬鹿もん!命を無駄にするな!金で解決出来る問題もあるべや!」
「…よ、義剛さん…。」
義剛が倒れたりんねを抱きかかえる。金と聞いて稲葉が正気を取り戻した。
「そうや。大人ひとり十万、ガキひとり五万や。家族分払えば見逃したる。」
(りんね、全財産いくらある?)
(…足りない、掻き集めても十万ちょっと…。)
(そうか、ならそれで十分だべ。)
(えっ…!)
義剛は立ち上がった。
「りんね、早く大人ひとり分払っちまうべ。良かった、これで村は全員無事だべ。」
「…確かにこいつはひとり身だね。結婚も出産も記録されてないよ。」
信田が村の名簿を見ながら稲葉に話す。
「そうか、ほな十万払うんや。それとも、死ぬか?」
りんねは家の中から金を掻き集めてきた。稲葉がそれを数える。
「…確かに十万受け取ったで。」
「良かった。これで助けてくれるんだね。…子供ふたりで十万。
あたしの娘。たちの分だよ。」
用が済んで帰ろうとしていた稲葉たちの動きが止まった。
「…あぁ!?」
「りんね!何を言い出すべ!」
義剛は驚きを隠せない。りんねはボロボロと涙を流していた。
「ゴメンなさい、義剛さん…。家族がいないなんて言えないよ。あたし、
あの娘。たちの母親だもん…。たとえ命を落としても、そんな嘘はつけないよ…。」
「「りんねさん!」」
石川とあさみが飛び出してきた。そして、りんねの胸に飛び込む。
りんねはそれをしっかりと受け止めた。折れてきしむ腕を曲げて。
「ゴメンね、二人とも…。あたし母親らしい事、何一つしてやれなかった…。」
あさみが涙を零しながら首を横に振る。
「そんな事ないよ!りんねさん、死なないで!」
石川が顔中をグショグショにしながらりんねにしがみつく。
「イヤだよ!アタシ、ヒヨコだって我慢するから!ニワトリだって我慢するから…!」
「お前たち…、まだ…。」
義剛は自分の甘さに腹が立った。この二人が大人しく出て行くはずがなかった。
稲葉の目が再び狂気に染められた。
「…コレがお前のガキどもやな…。」
「そう。…この娘。たちには手を出さないんだよね?」
「そうや、お前が大人しく死ねばな。」
その時、村人たちが手に手に鍬や鎌を持って現れた。
「りんねを助けるんだ!」
「戦うぞ!」
稲葉は面倒臭そうに三人に声をかける。
「…ハァ。みんな、適当に相手したってや。せやけど、くれぐれも殺すなよ。」
「「「OK。」」」
信田・小湊・ルルの三人が中心となって村人たちを蹴散らす。
稲葉はりんねの頭に銃を突き付けた。
「これが最初の見せしめや。…しょーもない愛に死ね!」
「あさみ、梨華ちゃん!」
「「はい!」」
石川とあさみは涙が止まらない。そんな二人にりんねは優しく微笑んだ。
「二人とも…、大好き!」
ドン、ドン、ドン…!
稲葉の銃が火を吹いた。
何が起こっても諦めないで。
ネガティブになっちゃダメ、ポジティブに生きないと。
生きてさえいれば、いつかきっと良い事がある。
心の底から笑える日が来る。
お前たちに出会ったあたしのように。
二人とも、本当にありがとう…
「りんねさん!」
石川の胸にりんねとの楽しい思い出が走馬灯のように蘇る。
初めてのハッピーバースデイを祝ってもらった事。
村の運動会の時、学ラン姿で応援してくれた事。
そのおかげで石川は張り切れた。
落ち込みがちな石川をりんねはいつも元気付けてくれた。
そう、石川にとってりんねは常に心の応援団だった。
「ウワァーーーン!」
石川とあさみは動かなくなったりんねの体にしがみついた。
そんな石川の姿を見て稲葉がほくそ笑む。
「おや、よー見たらこの娘。なかなか可愛いやんか。
ウチらに何か足らへんと思ったら、ビジュアル担当がおらへんかったな。」
それを聞いたルルが怒りを露わにする。
「ちょっと、ルルを一緒にしないで欲しいアルね!お前らよりマシアルよ!」
((…こいつ、いつか殺す…!))
信田と小湊がルルを睨みつける。稲葉がなんとかそれをなだめた。
「…とにかく、この娘。は貴重やで。連れてこか。」
稲葉が石川を抱え上げた。
「イヤッ!誰か助けて!」
「くそっ!梨華ちゃんを離せ!」
あさみが稲葉にしがみつく。しかし、軽く跳ね除けられた。
「石川!今助けるべ!」
義剛が稲葉に襲い掛かる。その前に信田が立ち塞がった。
「…無駄だ。」
ドッ!ゴッ!ガッ!
信田の連続攻撃に義剛は手も足も出せない。
それに他の村人たちも、小湊やルルたちに傷付けられている。
自分の為に人が傷付くのを石川は我慢出来ない。
「…もうヤメて、みんな!お願いだから…、もう誰も死なないで!」
稲葉がいやらしく微笑んでいる。
「みんな、ほどほどにしときや。ここは最初の金づるや…。」
村人たちは圧倒的な力に打ちのめされて、誰一人として動ける者はいなくなった。
そして、その海賊団、T&Cボンバーは村を立ち去った。
その数日後、村の男たちは広場に集まっていた。
なんとか動けるようになってはいるが、全員、全身傷だらけだ。
話によると、この数日の間に島にある他の町や村もすべて襲われたらしい。
そして、この島の中央部にある屋敷に居座ったT&Cボンバーは、
近海を治める海軍支部の艦隊を一瞬の内に沈めたという。
しかし、村人たちの心は一つだった。石川を助ける。
あんな娘。を見捨てる事など、義剛の意思が息づくこの村の者に出来るわけがない。
今まさに、全員でT&Cボンバーの屋敷に向かわんとした時、石川が姿を現した。
「梨華ちゃん!」
「石川!良かった、無事だったべか!」
駆け寄ってきたあさみたちに石川はボソッとつぶやいた。
「…アタシ、あのユニットに入る…。測量士になって海図を描くの…。」
その場にいた全員が耳を疑った。義剛が石川の腕を掴む。
「あいつらに何かされたべか?脅されたべか!?」
「…ウウン、違う。…ホラ、こんなにお金もらえるんだよ…。」
石川はそう言うと、懐から義剛ですら見たこともないような札束を取り出した。
「梨華ちゃん!」
あさみが石川に飛びかかった。
「あいつらのユニットに入るなんて絶対に許さない!あいつらが何をしたか
分かってんの!?りんねさんを殺したんだよ!」
「そんなの分かってるよ!」
「分かってないよ!りんねさんがどういう気持ちで死んだのか…!」
義剛はあさみの肩に手を置いた。
「もういいべ…、あさみ…。」
「義剛さん…。」
義剛は石川を睨みつける。こんな義剛の顔を石川は初めて見た。
「出て行け石川!もう二度とこの村に足を踏み入れるな!」
「……!」
石川は走り出した。その顔は何かを必死で堪えているようにあさみには見えた。
義剛が怒りも露わにつぶやく。
「…所詮、石川にとってりんねは母親じゃなかったという事だべか…!」
石川が走り去った方向は海を見渡せる岬、りんねの墓のある場所だ。
あさみがその場所に行くと、石川が墓の前に座り込んでいた。
「梨華ちゃん…。」
「…あさみちゃん、りんねさん言ってたよね。生きてさえいれば良い事があるって…。
心の底から笑える日が来るって…。」
「…うん。」
石川は話し始めた。
稲葉は一億払えば花畑村を石川に売ると言った。
つまり、自分たちが手を出さなくするという事だ。
ただし、その金が払えるまでは測量士として海図を描くのが条件だという。
あさみはそれを聞いて驚いた。
「…そんな、そんな大金、一生働いても払えるかどうか…。」
「ウン。でも一人でやるんだ。村のみんなは毎月の事で精一杯だし…。
誰かに助けを求めたら、また人が傷付くもん…。そんなの見たくないもん…。」
あさみは石川の強い覚悟を知った。だからさっき村であんな事を…
「辛いよ、一人で戦うなんて…。」
「…平気。もう決めたから…。ポジティブに生きるって…。
いつか絶対、心の底から笑ってやるって決めたから…。」
やっぱり手直ししなかった方にしました。
なんかやり過ぎな気がしたので。申し訳。
>>597さん
オモロイです。次もひっそりと期待しています。
( 0TvT)( T▽T) (⌒ ー⌒ ) ¬_(`w´ )
_土_ ( ) (゚v゚0 )
「…それからあの娘。はたったひとりで、孤独な戦いを始めたんです…。」
辻と加護、吉澤は涙を流していた。
あの石川の明るい笑顔の裏には、こんなにも辛い過去があった。
そして、これほどまでの過酷な戦いを強いられていた。
石川の苦悩に気付いてやれなかった自分たちが腹立たしかった。
そんな中、とくに後藤の様子がおかしかった。明らかに動揺している。
(…なんてこった…。あたしのせいだ…。)
後藤は信田という名前の人物をよく知っている。
当然だ。後藤と信田は“あか組”で共に戦った間柄だ。
そして、その信田と“三色”の残党がこの島を荒らしている。
あの決戦は避けられたかもしれない戦いだった。
自分があの時、中澤の言う事さえ聞いていれば…。後藤はゆっくりと立ち上がった。
「…あたし、行かなくちゃ…。」
辻・加護・吉澤の三人が頷いて同じく立ち上がった。あさみは驚きを隠せない。
「本当に行くんですか?みなさん、あいつらが恐くないんですか?」
「…ウチは恐いで。せやけど、みんながおる。こんなにも頼もしい仲間がおるんや。
ウチはひとりやない。…それに、な、のの?」
「へい!りかちゃんもなかまれす!ともらちれす!」
「そーゆーこっちゃ。梨華ちゃんもひとりやないんや!」
「……!」
あさみはまた涙が出そうになった。あんなにひどい事をして、冷たい言葉を浴びせた
石川をまだ仲間だと、友達だと呼んでくれる人たちがいる。
石川は走っていた。ソニンをおぶって来た道を全速力で駆け戻る。
足がもつれそうになるほど疲れているが、そんな事気にしている場合じゃない。
このままでは義剛が、村のみんながどういう事になるか。
かといって、加護を差し出すことなんて出来るわけがない。
気が動転して言ってしまった言葉を、石川は激しく後悔していた。
(…アタシが、アタシがなんとかしなきゃ…。)
石川が屋敷の前に着いたそのときだった。
ドッゴーン!
屋敷の塀を打ち破って、ひとりの少年が飛び出してきた。
「…くそっ!紙一重か…(ガクッ。)!」
どうやらユウキが殴り込みをして、信田にあっさりやられてしまったらしい。
息はあるようなので、石川はとりあえず放って置くことにした。
開きっ放しの門をくぐると、T&Cボンバーの四人は中庭に集まっていた。
「ルルさん、ヤメて下さい!義剛さんを殺すのは…!あの村を襲うのは!」
「そうネ。あのガキさえ殺せれば、ルルは何もしないアルよ。」
ルルは平然と無表情に答えた。本気だ。その冷たさが石川の体を凍りつかせる。
「稲葉さん!ルルさんを止めて下さい!」
「…そーはゆーけどなー。いくらウチかて、あない怒ったルルは止められへんで。」
稲葉は興味なさそうに鼻をほじる。代わりになる村ならいくらでもある。
「…そんな…、そんな!だって、お金さえ集めれば村には何もしないって…!」
「そうやったなー。もちろん約束は破らへんで。
今ウチの目の前に一億持ってきたら、考えたってやるけどなー。」
稲葉は鼻毛を数本抜いてフッと吹いた。
石川は巨大な金槌に打たれたような気分だった。
そんな事出来るわけがない。この間のココナッツの宝など二百万にも満たなかった。
「…卑怯者!そんなに…、そんなに弱い者イジメが楽しいの…!?」
パン!
稲葉が石川の頬を打った。
「えー加減にせんかい!お前はいつもどーり黙って言う事聞いとればえーんじゃ!」
稲葉の目が狂気に染まっていた。それはまさしく、りんねを殺した時のものだった。
石川は打たれた頬を手で押さえる。その頬には涙が伝わっていた。痛いから?いや違う。
(…悔しい、悔しい…!)
自分はルルを、稲葉を止める事が出来ない。でも義剛が来るのを止めれば。
時間さえたてばルルの気が変わるかもしれない。なんとかなるかもしれない。
ほんの僅かな望みを胸に、石川は花畑村へと走った。
義剛は村の広場にいた。村人たちのすべてが集まっている。
「…皆。これから何があっても、オラが死んでも、決して諦めたら駄目だべ。」
義剛は静だった。その表情は覚悟を決めた男の顔だ。
「何言ってんだよ、義剛さん。あんたひとりで死なせる訳にはいかないよ。」
「そうそう、あんたが支えなんだ。止めたってついてくからな。」
村の若者たちだった。この村の若者の多くは義剛の元で育てられた。
「フフッ、馬鹿な息子たちだべ。だども決して、手を出すんじゃないべよ。」
その時、汗だくの石川が息を切らせてやって来た。
「…ハァ、ハァ。…義剛さん、早まちゃダメ!生き抜かなきゃ…!
なんとかするから!アタシがきっとなんとかするから…!」
石川は出来る限りの笑顔で義剛を見つめる。義剛が優しく微笑んだ。
「…石川。…もういいべ。無駄だってことくらい分かってるべ。
今までオラたちの命をひとりで背負って、よく戦った…!」
義剛たちはあさみから聞いていた。石川がなぜT&Cボンバーの一員になったのかを。
しかし、それを石川に知られてしまうと、村人たちの期待が石川の重荷になると考え、
みんなで知らないふりをしていたというのだ。
「お前にとってあのユニットに入る事は、身を切られるより辛かったべや?」
「義剛さん…!」
「お前はこの島から出るべ。お前は強くなった。きっと他の場所でも生きていけるべ。」
石川の目から堪えていた涙が再び溢れ出した。
「そんな事出来ないよ!…義剛さん、死んじゃうんだよ…。」
「…分かってるべ。だども、オラの命で皆が救われるなら本望だべや。
お前たちを救ったあの子のように…。」
義剛と村の若者たちはT&Cボンバーの屋敷へと向かった。
石川は立ち上がれない。涙が止まらない。
自分ひとりでみんなを助けるだって?みんなの命を背負ってるだって?
よくもそんな事が言えたもんだ。結局、何も出来なかったじゃないか。
おかしくって、情けなくって、腹が立ってしょうがない。
石川は自分の無力さに打ちひしがれていた。
そんな石川の元に、辻・後藤・加護・吉澤の四人が姿を現した。
「…なによ、みんな帰ってって言ったじゃない。みんなには関係ないじゃない!」
「うん、後藤には関係ないね。だけどソニンさんの敵を討たなきゃいけないから。」
「そやな。ウチも一回アイツにやられとるからな。仕返しせなアカンねん。」
(…へー、なるほどね。)
吉澤は後藤と加護の言葉に感心した。これなら石川の負担にはならないかも。
それなら自分は何と言おうか、と思ったその時だった。
「りかちゃんはともらちれすから!たいせつなひとれすから!」
(あちゃー、やっちゃったよ…。)
吉澤は後藤と加護の顔を見た。二人は一瞬、困った顔をしたが、すぐに笑顔になった。
最初から辻に対して小細工なんて求めるほうがおかしい。
いつも真っ直ぐに自分の感情をぶつける辻だ。そんな辻だからこそ、自分もついてきた。
「そーだよ。みんな梨華ちゃんが好きだから、梨華ちゃんを泣かせるやつが許せないんだ。
あたしだって会ったばかりだけど、その気持ちは他の誰にも負けないよ。」
(み、みんな…!)
石川の涙の粒がひときわ大きくなった。こんなに情けない自分でも、
好きだと言ってくれる。大切だと言ってくれる。友達だと言ってくれる。
>>613,614さん
ありがとうございます。
でもなんか無理にやらせてるようで悪い気がしてきた(w
どうぞ気軽に読んでやってください。
保全。の一言だけでも励みになるようなヤツですので(w
( ゚Д゚)y―┛~~ 休憩
⊂⌒ノハハノ
⊂川o″-゛)⊃ ふにゃ〜
Tare Konno
好み
624 :
h:02/02/20 16:39 ID:yBV1xYXz
h
義剛たちが屋敷の前に着くと、閉ざされた門の前でユウキが座り込んでいた。
「…通してくれないべか?」
「あんた、その顔死ぬ気だろ?そんなの通す訳にはいかないね。
オレはここである人たちを待ってるんだ。」
「…ある人たちって…?」
「もうすぐ、きっとここにやって来る。この海最強の剣士と、海賊王を裏切った
極悪の海軍大佐を倒した連中がね。諦めるのはそれからでも遅くないんじゃん?」
この海最強の剣士といえばあの娘。しかいない。確かにその娘。ならこの連中を
倒せるかもしれない。しかし、その娘。が本当にこの島に?
「来た!」
ユウキが義剛たちの後ろからやって来る四人の人影に気付いた。
義剛たちが振り返る。するとそこには辻・後藤・加護・吉澤の姿があった。
「お前、なんで…?」
義剛は加護の姿に驚いた。自分は加護を、村の皆を救う為にここに来たのに。
そんな義剛に加護は笑顔で答える。
「おっちゃんには関係ないで。きっちりケジメとらなアカンねん。それに頼もしい
仲間がおる。ウチは弱いけど、コイツらと一緒やったら強くなれる!」
「……!」
義剛は絶句した。加護の晴れやかな表情から込み上げてくる自信。
そして、一緒にいる娘。とくに大剣を背負った娘。から漂う圧倒的な威圧感。
それはあの連中をも凌ぐほどの強烈なオーラだった。
「…みなさん、待ってくださーい!」
その時、あさみが犬ぞりを走らせて追い着いてきた。
「後藤さん、ソニンさんがあなたにこれをって…。」
あさみは大事そうに抱えていた刀を後藤に差し出した。
「…どういう事?」
「みんなが出て行った後にソニンさんが意識を取り戻したんです。
そしたら後藤さんにこれを渡してくれって。きっと役に立つはずだからって。」
「そう…、分かった!ありがとう、あさみちゃん!」
ソニンの気持ちを無視出来ない。後藤は刀を受け取り、腰に差した。
「待ってだぜ、ねーちゃん!」
ユウキが笑顔で四人を迎えた。後藤はそのボロボロな姿に呆れ返っている。
「…お前さー…。」
「おっととっと、言いたい事は分かってるぜ。でも、その話は後だ。
まずはあの連中を始末してからだよ…。」
義剛は気付いた。噂にだけは聞いていた、この海最強の剣士の姿に。
「…後藤って、あの後藤真希だべか…?」
「そうです。この娘。こそ、あの“三色”を制した後藤真希さんです。
…そしてみなさんは、梨華ちゃんの大切な友達です!」
そう言ったあさみの表情は晴れやかに、そして自信に満ち溢れていた。
ドッゴーン!
門が打ち破られて、その破片が稲葉たちの元へと飛んで来た。
それを叩き落としながら稲葉が叫ぶ。
「何や!?どこのどいつの仕業や!?」
強引に開けられた門から入って来る四人の姿。それを見てルルがニヤリを笑う。
「フフフ、ガキが自ら死にに来たアルね。“三度目の正直”アルよ…。」
「アホか。そない簡単にやられてたまるかっちゅーねん。」
加護とルルは互いにやる気満々だ。信田が後藤を睨み付ける。
「久し振りだね。あの時は裕ちゃんに邪魔されたけど、今こそ決着を着けてやる!」
そう言ったかと思うと、大きく跳んで後藤に襲い掛かってきた。
空中で体を捻らせ、後藤に蹴りを叩き付ける!
ゴッ!
その信田の蹴りは後藤の目の前で、蹴りによって止められた。
「…貴様!」
「お前の相手はごっちんじゃないよ。お前なんて、あたしで充分お釣りがくるね。」
吉澤だった。吉澤は後藤の体調が気になっていた。
それに何か含む所もあるだろうと、信田の相手を買って出た。
「でかい口叩くやつだね。あとで後悔するなよ!」
信田が吉澤に向き直って、怒りも露わに叫んだ。
「それじゃあ、ののはあいつれすね…。」
辻が小湊に向かおうとする。そんな辻を見て、後藤がスッと前に出た。
「…ごとうさん?」
「悪い、じーつー。あいつはあたしにやらせて。」
ソニンの魂を受け取った後藤だ。それが小湊を倒せと言っている。
そんな後藤の姿を見て小湊は薄ら笑いを浮かべていた。
「これは光栄だっぺ。あの有名な後藤真希、自らのご指名とはね。
お前も倒せば、小湊流が上だって完全に証明されるっぺ!」
「別にー。そんなの興味ないね。」
そう、後藤には道場の看板を背負っているなんて気持ちはさらさら無い。
それどころか道場の禁を破ったくらいだ。
和田道場で旅に出るのを許されるのは十五歳以上からだった。
ところが、後藤が和田の制止を振り切って旅に出たのは十三歳の時。
しかも当時の後藤の髪は金色。その外見からあらぬ噂を立てられたものだ。
背中の大剣を後藤は抜いた。小湊も腰の刀、二本の内の一本を抜いた。
後藤は小湊の二本の刀に気付く。
(…まさか、ね。そんなはずはない…。)
二人の剣士は静かに向かい合った。
そうすると、辻の相手は自然と残った稲葉になる。
だが稲葉は戦いに興味が無いらしく、椅子から立ちあがる気配も無い。
辻が稲葉に向かおうとしたその時だった。
「くらえ、ボケ!」
加護の先制攻撃!
ルルに向かって卵をパチンコで弾く。しかもそれが見事に顔面に命中した。
「“二度あることは、三度ある”や。このアホー。」
加護はルルに向かってもの凄い勢いでお尻ペンペンをする。
ルルはまたまたコケにされて怒りが抑えきれない。
ベタベタになった顔を拭いながら、もの凄い形相で加護を睨みつけた。
「…き、貴様!絶対に殺す…!」
ルルが腕を振り上げる。
「ドアホー、こっちじゃい、このうんこたれー。」
それを見た加護は一目散に門の外へと逃げ出した。
初めて見た時は分からなかったが、加護はルルの技を読んでいた。
ここでルルを暴れさせると、他のみんなにまで迷惑がかかる。
そう思った加護の懸命の策だった。
「…クソッ!待つアルよ!」
頭に血が昇り切ったルルは全速力で加護を追いかける。
こうして二人の、とんでもない速さの追いかけっこが始まった。
「加護さん…!」
加護の身を按じたあさみが犬ぞりを走らせて、二人のあとを追いかけた。
>>622さん
やっぱりしんどかったみたいですね(w
でももし気が向いたらまたやって欲しいです。楽しいので。
>>623さん
(好んで読んでくれてると解釈して…)
こーゆー熱いのが好きで好んで、楽しんで書いとります。
元ネタよりも熱くしたる!
>>624さん
hに感謝です。
やっとこぎつけた戦闘シーン。どうしてもこの組合せにしたかった。
次回の更新は 吉澤VS信田です。
631 :
_:02/02/21 01:00 ID:WTzl+WtF
小説投票スレで投票したら自演っていわれちゃったよ。
作者タンごめんね。
がんがって下さい。更新待ち。
@ノハ@
.( ‘д‘ )__Y⊃ ≡O☆(ルДル )∠!
633 :
保全:02/02/22 22:46 ID:H7GlPyx/
hozen
先手を打ったのはのは信田だ。素早い伸身前転を繰り返して吉澤に近付く。
(…なんだよ、それっ…!)
吉澤は回転する信田に狙いを定めて前蹴りを繰り出す。
すると、その吉澤の動きを読んでいたかのごとく、
信田がその蹴りを大きく飛び越えた。
(しまった…!)
ガツッ!
信田は回転の威力をそのまま利用し、吉澤の肩にかかとを叩き付けた。
思わず片膝をつく吉澤。信田の攻撃の手は緩まない。
今度は大きくジャンプをし、伸身で捻りを加えながら両足で吉澤に突っ込んでくる!
ズンッ!
「うぐっ…!」
信田の両足が吉澤の腹にめり込む。苦しい。息が詰まって動けない。
しかし、信田は休ませてはくれない。信田の強烈な回し蹴り!
ドガッ!
吉澤はかろうじて両腕でガードしたものの、そのまま大きく弾き飛ばされた。
(…くそっ、なんて動きだ…!)
こんな動きは初めて見た。速く、そして空間を立体的に使う戦い方。
とても予測がつかないアクロバット殺法に吉澤は困惑していた。
そんな吉澤の姿を見て信田は余裕の笑みを浮かべる。
「フフッ、準備運動くらいでそのザマじゃしょうがないね。
さっきの大口はどこにいった?」
「気を付けて、よっすぃー!信田はその技で“最東の島国”を制した事があるから!」
信田の戦い振りを見て、後藤がやっとそれを思い出して叫んだ。
(…遅いって。そーいう事は先に言ってよね、ごっちん…。)
吉澤は後藤に軽く呆れながら立ち上がる。
その打たれ強さは、はたけとの戦いで証明済みだ。
このくらいならまだ平気。あと数発も食らえば分からないが。
「…お前の曲芸くらいで一番になれる島国なんて、
ある人だったら片足でかるく朝メシ前だね…。」
「…まだそんなへらず口を…。いいよ、本気でやってやる!」
プライドを傷付けられた信田が吉澤に襲い掛かる。
吉澤も反撃を試みるが、信田の動きにはなかなかついていけない。
ガードを固めた吉澤を、一方的に信田が攻撃する。
そんな展開になっていた。しかし、そんな状態も長くは続かない。
ゴッ!
ガードの隙間を縫って、信田のサマーソルトキックが吉澤の顎にヒットした。
「…が!」
仰向けに倒れる吉澤。信田がそれを見下す。
「…これで分かったろ?お前ごときじゃ相手にならないって。」
(…へへっ、オバチャン。あんた、やっぱかっけーよ…。)
自分がこれほど一方的にやられる相手。そんな連中と保田は戦っていた。
保田はセンターに立つ事は叶わなかったが、サブとしてその実力を存分に発揮していた。
そんな保田の力を自分は奪ってしまった。だから保田の技を受け継ぐ決意をした。
ここで負けてしまったら、師匠に会わせる顔が無い。
(…あたしは絶対に負けない!負けるわけにはいかないんだ!)
吉澤は仰向けに大の字になりながら、なにやらボソリとつぶやいた。
「……なぁ……。」
「…なんだって?聞こえない。」
聞き取れなかった信田が吉澤に聞きなおした。吉澤はもう一度つぶやく。
「…い〜なぁ〜、それ…。」
(…なんだ…?)
吉澤は体を折り曲げて、その戻る反動を利用して立ち上がった。
そして、信田に向かって大声で叫ぶ。
「うらやますうぃーーー!」
「……!」
信田には吉澤が何を言っているのか分からない。
打たれすぎて頭がおかしくなったのか?
「…ひとおもいに楽にしてやるよ!」
信田は吉澤に近付き、側宙の勢いを利用した回転蹴り!
ガツッ!
しかし、その蹴りは吉澤の蹴り、それも側宙の回転蹴りで受け止められた。
背中から地面に落ちる二人。信田は驚きの表情だ。
「…き、貴様…!」
信田は素早く立ち上がって大きくジャンプ。吉澤もそれに続く。
空中で伸身の捻りを加えたドロップキックを繰り出す信田!
ドゴオッ!
二人はまたもや背中から地面に落ちた。
またしても信田の蹴りは吉澤の蹴りによって受け止められた。
いや、正確にいうと吉澤の繰り出す信田の技で。
「お前、ひとの技をパクんな!」
信田が怒りを露わに叫んだ。その通りだった。
吉澤は信田の技を羨ましがり、それをそのままパクったのだった。
しかし、並の人間ならひと目見ただけで信田の技を真似する事など出来ない。
保田が何年もかけて築き上げた技を、僅か一年足らずでマスターした吉澤だ。
その潜在能力、才能は並外れている。
もし海賊王が生きていたなら“天才的だ”と評したことだろう。
「…許さん、許さん!」
信田は怒りを隠せない。当然だろう。
血と汗と涙の努力で築き上げた自慢の技を、いとも簡単に真似されてしまった。
そんなはずがない。出来るわけがない。
ズタズタに切り裂かれたプライドをなんとか保とうと、連続で技を繰り出す。
バック転からのバイシクルキック。
前宙からのかかと落とし。
大きく跳んで、伸身の回転を利用した頭突き等々…
しかし、そのすべてが吉澤によって真似され、ことごとく相討ちになる。
(…馬鹿な、そんな馬鹿な…!)
信田の胸に訪れた動揺が、心と体のバランスを崩したその時だった。
ピキッ…
「…はぐっ…!」
信田の腰椎が悲鳴を上げた。信田の持病だ。
このせいで信田は各国の代表が集まる武闘大会で、その実力を発揮出来なかった。
しかし、今さら繰り出した技を引く事は出来ない。
(しまった…!)
ドッゴオーン!
吉澤の繰り出す信田の技が、信田の体にヒットした。
地面に叩きつけられる信田。
「…ぐぐっ…!」
起き上がろうとするが、なかなか起き上がれない。
まさか、己の技を食らおうとは… 己の技がこれほど強烈だとは…
そんな信田の目の前に吉澤が立った。その顔はニカッと笑っている。
「…あたしで充分、お釣りがきたよね?」
「……!」
吉澤は自分が食らった信田の技を次々と繰り出す。
やると決めたからには徹底的だ。それも保田に教わった。
信田はかわすことも、受けることも出来ないサンドバック状態だ。そして…
ドガッ!
ボゴボゴボッカーーーン!
吉澤の渾身の蹴りが信田を弾き飛ばし、屋敷の壁を次々と打ち破った。
信田はもう立ち上がれない。完全に再起不能だ。
吉澤は息を切らしていた。
駄目かと思った。勝てないかと思った。それほどの強敵だった。
だがこの足にはっきりと残る強烈なあの感触。
「…おっしゃーーー!」
吉澤は大声で叫んだ。それは確かな勝利の雄叫びだった。
>>631さん
ちょっと話が見えないけど…
とにかく、励ましのお言葉に感謝です。
>>632さん
ルルが…(w オモロイです。激ワラでした。
>>633さん
もしかして632さんかな?いつも保全感謝です。
元ネタあるのに更新遅くて本当に申し訳。
次回の更新は 加護VSルルです。
≡(0^〜^) ⊃☆⊂ (`▽´; ) ≡
≡└ \⊃ ⊂/ ┘≡
643 :
_:02/02/23 13:43 ID:wxQh+6jq
チョッパーが誰なのかなー
娘。で語るワンピースだから意味がある、俺は好きだよ
てか、そろそろage時
加護は走っていた。その逃げ足は本人が言った通りものすごく速い。
本気で走ればルルを引き離すことなど容易い事だ。
だが加護はわざと離れないように走っていた。
それはまるで、ルルをどこかにおびき寄せているかのようだった。
加護は走る先に木が深々と生い茂った森を見つけた。
(あそこやっ!)
その森に飛び込む加護。
少し遅れて、息を切らせたルルがその森の前にやって来た。
「…フフフ、バカな小娘。アルね。袋のネズミとはまさにこの事アル…。」
ルルは不気味な薄ら笑いを浮かべながら、森の中へと入っていった。
その姿を確認した加護が二本の木の間から叫ぶ。
「かかったな!お前の武器は飛び道具やろ!
こない障害物の多いとこやったら使われへんはずや!」
「フフフ、ご名答。それは“鏢”と呼ばれるルルの国での手裏剣アルね。
でも鏢にはこういう使い方もあるアルよ…。」
そう言うとルルは懐から縄を取り出し、鋭く磨かれた刃物をその端に結んだ。
*鏢…中国における手裏剣のような物。通常は弾道安定のために布が付いている。
(…なんや、何するつもりや?)
ルルは縄を小さく回し始めた。それはヒュンヒュンと不気味な音を立てる。
「“流星錘”これが鏢のもう一つの使い方アルよ!」
ルルは縄を投げた。加護に向かって銀色に輝く刃物が襲い掛かる!
(やばい…!)
加護はとっさに木陰に飛び込む。直前まで加護の顔があった場所を刃物が通り過ぎた。
肝を冷やした加護だが、そんな直線的な攻撃を何度も食らうほどバカじゃない。
加護が反撃のパチンコを構えたその時だった。
バシュッ!
「うがっ…!」
加護は左腕を押さえて倒れこんだ。かわしたはずの刃物によって切りつけられた。
(…なんでや?なんでや…?)
加護は傷を押さえながらその場を離れる。
縄を引いて戻した場合、刃物はその通った軌道を戻るだけのはず。
自分はそんなところに立ってはいなかった。それなのになぜ…?
ヒュン!
困惑している加護にルルの流星錘が再び襲い掛かる!
加護は木陰に身を隠す。その横を通り過ぎる刃物。
しかしその時、加護は信じられない光景を目の当たりにした。
「…まさか、そんなアホな…!」
*流星錘…縄の先端に金属製の錘(鏢など)をつけた武器。
片方だけの物は単流星、両端の物は双流星とも呼ばれる。
その刃物はまるで生きているかのように加護に振り返った。
(…やばい!)
加護は慌てて別の木陰に身を移す。しかし、刃物はその後をつける。
これがルルの流星錘だ。
ルルはその縄を巧みに操り、まるで獲物を狙う蛇のように敵を追い詰める。
「アハハハッ!これがルルの国の、四千年の歴史の技アルよ!」
そうだ。ルルが使う武器。いわゆる暗器を使う者は暗殺を生業とした者だ。
ルルはその中でも特に優れた暗殺者だった。
時の皇帝を暗殺したのはルルだという噂さえある。
加護は木々の間をジグザグに縫って走る。そのあと追いかけ続ける刃物。
「アハハハッ!いくら逃げても無駄アルよ!お前が死ぬまで追いかけるアル!」
ルルは縄を操りながら高笑いだ。しかし、加護には考えがあった。
クルッと方向転換をし、ルルに向かって走り出す。もちろん刃物はその後をつける。
その時、加護がパチンコを弾いた!
バン!
手刀でそれを叩くルル。すると、モクモクと煙が立ち上がった。視界が閉ざされる。
(…煙玉…、しまった!)
片腕を離したルルは上手くコントロール出来ない。流星錘が一直線に襲い掛かる!
バシュッ!
「…やったか…?」
加護は左腕を押さえて座り込む。血が滴り落ちていた。
おとといやられた肩の傷も開いていた。これ以上戦うのは正直辛い。
「…グオオオ…!」
ルルのうめき声だ。煙がはれた。ルルの姿が加護の目に飛び込んで来た。
その腹には流星錘がブッスリと突き刺さっていた。
(…やった!)
その姿に加護は勝利を確信した。ところが…
「…ウガァ!」
ブシュッ!
ルルが深々と刺さった刃物を強引に引き抜いた。大量の血が噴き出す。
刃物を地面に叩きつけ、恐ろしい形相で加護を睨みつける。
「…このぐらいで勝ったと思うなヨ!勝負はマダマダこれからアル…!」
「……!」
加護はその姿に恐怖した。背筋が凍りついた。今すぐにでも逃げ出したかった。
だがそういう訳にはいかない。
自分のせいで義剛が、あの限りなく優しい男が殺されそうになっている。
それを放って置く事など出来るわけがない。
それにみんなが石川の為に戦っている。ここで自分だけ逃げ出してしまったら、
どうやってみんなに顔を合わせられる?
みんなと笑って旅をする資格なんて無くなってしまう!
(ウチは絶対に逃げられへん!コイツに勝って、またみんなと旅をするんや!)
ルルは懐からまた新しい武器を取り出した。
それは金属製の輪っか。握る所以外は鋭い刃物になっている。
「この“圏”で貴様を切り刻んでヤル!」
ルルは加護に飛びかかる。その速さはとても重傷を負った人のものとは思えない。
しかし、スピードだけなら加護の方が上だ。素早く身をかわす。
ズバッ!…ズシーン!
加護が立っていた後ろの木が、ルルに切られて大きな音を立てて倒れた。
「……!」
とんでもない切れ味だ。一撃でも食らえばひとたまりもない。
加護はパチンコを弾く。
キン!
しかし、その鉛の玉はいとも容易くルルに弾かれる。
さすがに同じ投射攻撃の使い手だ。集中さえしていればなかなか当たりはしない。
(…直接攻撃しかないな。今のアイツやったらウチでもきっと…。)
加護は接近戦を覚悟した。そうするとあの武器がやっかいだ。
素早く身をかわす加護。それを追いかけながら圏を振るルル。
森の木々は次々と倒されていった。その一本に加護は躓いてしまった。
(…しもた!)
*圏…金属製の輪っか。直径30cmくらいで握って使う。元々は踊りの道具らしい。
ドカッ!
「うぐっ…!」
ルルの強烈な蹴りによって、加護は街道へと飛ばされた。
素早く立ち上がった加護だったが、ルルに首根っこを捕まえられた。
「…くそっ!離さんかい、ボケ!グッ…!」
ルルは加護を黙らせようと喉に指を食い込ませる。加護の息が詰まった。
「鬼ごっこはお終いアルね。…死ね!」
ルルが不敵に笑って、圏を振り上げたその時だった。
「加護さん、危なーい!」
あさみが犬ぞりを走らせて現れた。怒涛の犬ぞり!
ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!
「…ウゲッ!」
強烈な四回ダメージ!ルルの体は大きく宙に飛ばされた。
(…おおきに!助かったで、あさみちゃん!)
加護はバッグから大きなハンマーを取り出した。
地面に叩きつけられたルルの体にそのハンマーを思い切り振り下ろす!
「くらえ、加護ぴょんハンマーじゃ!」
ズン!
ルルの体に叩きつけられたそのハンマーは、その体を内部から、内臓を粉々に砕いた。
ルルは白目をむいて意識を失っていた。
やった、勝った。加護の体に喜びが込み上げる。
最初会った時は恐ろしくて目も合わせる事が出来なかった。
二度目はただただ夢中だった。正直、なぜあんな事をしたのか覚えていない。
そして三度目。もちろん怖かった。
でも心強い仲間がいた。彼女らの仲間でいる為には自分にもっと自信が必要だった。
だから頑張った。そして今なら胸を張って言える、自分もあのユニットの一員だと。
「加護さん、やりましたね!」
あさみが駆け寄って来た。その笑顔を見た瞬間、加護の目から涙が零れた。
加護はあさみに抱きついて大声で泣き出した。
「…加護さん?…よく頑張りましたね…。」
あさみは加護の頭をやさしく撫でる。
やっぱりまだまだ幼い加護だ。緊張の糸が切れたらしい。
あさみは加護の小さな体を抱きしめながら確信していた。
加護は将来、きっと世界に名を轟かす大きな人物になる。
そして、自分たちはきっと、今のこの恐怖から解き放たれる。
(…そうですよね、加護さん。)
日はやがて西に傾きかけていた。
久々の連日の更新。少し頑張った(w
>>642さん
信田が最初、ヤッスーに見えた(w 相変わらずのクオリティ。ホント、うまいっすね。
>>643さん
それはまだ内緒(w ただ一つだけいうと仲間になるのは現メンです。
そしてそこのエピソードはかなり熱いものに仕上がっております。
>>644さん
ありがとうございます。
娘。のキャラって、なんかワンピのキャラに合ってますよね?
まあこれを書き始めると長文になちゃうので、それはまた後で書きます。
次回の更新は 後藤VS小湊です。 しかし、主人公は一体…
653 :
_:02/02/23 23:49 ID:A61nUClZ
>>652 乙かれっす。チョッパー編楽しみにしてます。
本編でも主人公さっぱり出ないときもあるんでしかたないですね。
脇が結構強力だから。。。
ミ @ノハ@
( ル▽ル)つ──────三◇ 三( ‘д ‘ ;)
655 :
☆:02/02/25 15:34 ID:XMn60sBH
・
花畑村の広場にひとり佇む娘。がいた。石川だ。
ちょうど辻たちはT&Cボンバーと戦っている頃だろう。
思えば出会った時から自分は辻を騙していた。本当の事を隠し続けていた。
それなのに辻はこれっぽっちも疑いの目を向ける事はなかった。
辻は石川を信じていた。いや、辻だけではない。他のみんなも。
(…アタシも行かなきゃ…。)
今度は自分が辻を、みんなを信じる番だ。
もう弱音は吐き尽くした。涙も涸れるほど泣いた。
信頼できる仲間たちが自分の為に戦っている。
自分ひとり何もしない訳にはいかない。
今度こそ、本当に心の底からの笑顔を勝ち取るんだ。
(…もうアタシは、ひとりなんかじゃない!)
石川は屋敷へ向かって走り出した。
「…あれれれ…?」
吉澤は急にふらついてバタンと仰向けに倒れた。辻が駆け寄る。
「らいじょうぶれすか?よっすぃー…。」
「…へへっ、ちょっと限界みたい…。ごめん、二人とも…。」
当然だろう。吉澤もほんの数日前にあの死闘を繰り広げたばかりだ。
いくら丈夫な体とはいえ完治している訳ではなかった。
そのうえ信田の攻撃をあれだけ受けてしまった。その体はボロボロだ。
辻がブンブンと首を横に振る。後藤が優しく微笑む。
「ううん、ありがとーよっすぃー。本当に助かったよ。」
「へへっ、お世辞でもそう言ってもらえるとうれしいな。じゃあ、お言葉に甘えて…。」
そう言ったかと思うと、吉澤は瞳を閉じた。どうやら気を失ったようだ。
お世辞だなんてとんでもない。後藤は心の底から吉澤に感謝していた。
後藤は信田の強さをよく知っている。今は最もやりたくない相手だった。
あれだけ動かれるとやっかいだし、捕らえるのに時間がかかってしまう。
正直な所、今の自分にはあまり時間が無い。今にも浜崎にやられた傷が開きそうだ。
目の前の剣士を瞬殺して、そのまま一気にあの出っ歯も倒す。
後藤はそう心に決めていた。
ギン!ギン!
大剣と刀の打ち合う音が辺りに響き渡る。小湊が一方的に攻めていた。
「どうしたっぺ!?人の噂なんてこんなもんだっぺか!?」
(…チェッ、参ったな…。こいつ、けっこー強いや…。)
後藤は防戦一方だ。それもそのはず。
最初の一太刀で決めようとした後藤だったが、
大剣を振りかざした瞬間、あの傷が開いてしまった。
勢いを失ったその太刀は当然のように小湊にかわされる。
そしてこの状態に持ち込まれてしまった。
(くそっ…!こんなにこいつが重たいなんて…。)
いつもなら片手でも操ることの出来るこの大剣が今はやけに重たい。
それに加えて、傷が開いた事による睡魔が後藤を襲い始めていた。
しかし、そこはさすがの後藤真希だ。
小湊の鋭い太刀も、突きも確実にさばいていた。
膠着状態。そんな状態がしばらく続いていた。
小湊は刀を引いた。その額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
「…ふう。これじゃあ、らちが開かないってもんだっぺ。」
さすがに最強とまで謳われた剣士だ。その守りはなかなか崩せない。
後藤は剣を下段に下げる。いや、その剣先は地面に付いていた。
重い。眠い。全身に油汗が浮かんでいた。
唯一の救いといえば、怪我が小湊に気付かれていないという事だけだ。
「しょうがないっぺ、あの技を使うしかないっぺね…。」
そう言うと小湊は腰に差したもう一本の刀を抜いて、両手に二本の刀を構えた。
後藤はその姿に我が目を疑う。
「…まさか!そんなバカな…!」
「新・小湊流奥義、合頭蛮打威斬!」
小湊は二本の刀の先を合わせて突きを繰り出す!
後藤は重たい大剣を構えて僅かに下がる。さらに踏み込む小湊!
ギン!
小湊の一の太刀!左手の刀を横に薙ぎ払い、後藤の大剣の守りを弾く!
(しまった…!)
そこへ小湊の二の太刀!後藤の頭上に右手の刀を振り下ろす!
「もらったっぺ!」
「…ごとうさん!」
ギン!
「…そんな、馬鹿な…!」
小湊には信じられなかった。
いや、周りの誰もが縦に切り裂かれる後藤の姿を思い浮かべた。
しかし、後藤は刀で小湊の太刀を受け止めていた。
かわす事も出来ず、大剣を戻して防ぐ事も出来ないと瞬時に判断した後藤は
自ら大剣を手放し、とっさに腰に差していたソニンの刀を抜いたのだった。
普通の剣士なら己の剣を手放す事など出来はしない。それは小湊にとっても同じ事。
数々の死地を乗り越えてきた後藤だからこそ迷わず出来た。
「……!」
小湊の背筋に悪寒が走った。思わず大きく後ろに跳ぶ。
(…なんだっぺ?この感じ…。)
その異常な感覚は後藤によってもたらされたものだった。
後藤の怒りは頂点に達していた。その怒りのオーラが周囲を包む。
(二刀流だって?冗談じゃない!それはあの人の技だ。
あの人とあたしのふたりで磨き上げた剣だ…!)
時は後藤の幼少期に遡る。
和田道場の稽古場でふたりの娘。が仕合いをしていた。
ひとりは幼い後藤真希、もうひとりは同じく幼い市井紗耶香。
ふたりは互いに、その両手に竹刀を持っていた。そう、後藤も以前は二刀流だった。
バシッ!
「あっ!」
後藤の竹刀が叩き落とされた。市井の竹刀の先が後藤の喉元に突き付けられる。
「へへーん、これでちょうど市井の百戦百勝かな?」
市井はうっすらと浮かんだ汗を拭う。そんな市井に後藤はほっぺたを膨らます。
「ぶー。いちーちゃん、もう一回やろーよー。次こそ…。」
「今日はもうお終い。だって後藤、まだ二刀流の事全然分かってないじゃん。」
「もー。いつも言ってるけど、何なのそれー?」
市井の言う通りだった。後藤はただ幼くしてこの道場のトップに立った市井に
憧れて二刀流を選んだだけだった。そんなに深くは考えていない。
しかし、そんな後藤が市井にとってはわがままな妹のようで本当に愛しい。
「…しょーがないなー。二刀流の基本は○なんだゾ。見てなよ。
ホラ、○、○、○○○…。」
さらに時は流れ、市井が旅立った次の日の事だった。
朝も早くから後藤は和田の部屋におしかけていた。
「和田さーん。後藤、どーやったらいちーちゃんに勝てるのかなー?」
後藤は結局、市井に一度も勝てなかった。
千回までは数えていたが、それ以降は面倒くさくて数えてはいない。
「そうだなー、市井の二刀流はほぼ完成の域だからな。今更追い抜くのは無理だな。」
「じゃあ後藤はどーすればいいのー?」
「三刀流でもやるか?ユウキみたいに。」
「やだよー。あいつみたいに前歯折りたくないもん。」
ユウキはこの前、両手に二本と口に一本の刀を咥える三刀流を実行した。
しかし口に咥えた刀に力強く打ち込まれ、前歯を折ってしまった。
乳歯だったのがせめてもの幸いだ。
その時、和田がいやらしく笑った。
「先生は下半身で三刀流だけどなっ…。ヒャヒャヒャ…!」
「(ボソッ。)このエロおやじ…。」
後藤は鋭い軽蔑の眼差しで和田を睨みつけた。
「…オホン。…それじゃあこういうのはどうだ?」
気を取り直した和田が紙と筆を用意して、一気に四つの文字を書いた。
「…いち・げき・ひっさつ…?」
「そうだ。文字通り僅かひと太刀で相手を倒す最強の剣、それが“一撃必殺”だ。」
後藤はそれを聞いて目を輝かせる。
「へー、なんか格好いいじゃん!」
「確かにこのほうが真希には合ってるかもしれないな。だけどその一撃を
かわされた時には危険を伴う諸刃の剣だ。それでもいいのか?」
「うん、それで強くなれるなら。どうしてもいちーちゃんに勝ちたいんだ!」
後藤の表情は真剣そのものだ。市井に認めて貰いたい。ただそれだけの思いだった。
「…そうか、分かった。」
そう言うと和田はスッと立ち上がり、棚の奥から長い両手持ちの大剣を持ってきた。
それを後藤に手渡す。後藤は鞘から抜いて両手でそれを掲げた。
「一撃必殺に刀はむかない。より長いリーチ、より強力な破壊力が必要だ。
うちにはこんなバスタードソードくらいしかないけど、世界のどこかには
あのドラゴンをも倒せる大剣があるって話だ。」
「和田さん…、ありがとう!あたし、やってみる!」
こうして後藤は大剣を手にして二刀流を封印した。
もう一度市井と戦い、その手に勝利を収める日を夢見て…
(…お前は一番やっちゃいけない事をやった。お前ごときが気安く使うな!)
後藤は門の側で戦いを見守っていたユウキに振り返った。
「ユウキ!お前の刀をあたしによこせ!」
「…は、はい!」
ユウキはその剣幕に驚きながらも後藤の言う通りに刀を投げる。
後藤はそれを受け取り、スラリと抜いて両手に刀を構えた。
「…久し振りに見るぜ、ねーちゃんの二刀流…。」
ユウキは以前の姉の姿を思い出した。それはそのままあの当時の構えだ。
その後藤の構えを見て、小湊もある娘。を思い出していた。
「…まさか、…市井紗耶香…?」
まさに市井のそれだった。小湊が一度だけ戦い、その敗北を覚悟した唯一の剣士。
小湊の体が小刻みに震える。武者震い?いや違う。まさか…、恐怖…?
(見せてやるよ!本当の二刀流を!)
後藤が動く。それは小湊の直線的なものとは全く違う、円を基本とした動き。
それは誰にも真似する事の出来ない剣の舞、超高度な乱舞。
「……!」
小湊は受けきる事が出来ない。当然だ。小湊の二刀流は市井のを見てただ真似たもの。
それに引き換え、後藤のそれは十年以上、互いに信頼し尊敬しあって磨き上げたもの。
ひと太刀ひと太刀の重みが違う。
後藤は二本の刀を携えて佇んでいた。
その足元にはズタズタに切り裂かれた小湊の体が横たわっている。
圧倒的な力の差、完全なる勝利だ。
怒りに震えた後藤は、まさに阿修羅のごとく猛り狂った。
しかし、後藤は小湊に不思議と感謝の念を抱いていた。
忘れかけていた柔の剣。円の動きを思い出させてくれた。
自分ひとりで磨き上げた、直線的で破壊力のある剛の剣。
それと市井とふたりで磨き上げた、鋭く洗練された円の動きの柔の剣。
この二つをうまく融合させれば、きっともう一段、
いや、おそらく何段も強くなれる。
あいつが、あの浜崎が待つ高みへずっとずっと近づける。
後藤は天を仰いだ。
(いちーちゃん、あたし強くなれる。今よりずっと強くなれる!)
後藤が大剣を選んだのはこういうわけでした。
>>653さん
ご期待ください(w ただこのペースだとまだまだ先になりそう…
>>654さん
まさにそんな感じ(w 本当にオモロイっす。
次回の更新は、やっと主人公の出番です。
\ ( ´V) ミ/
⊂/ つ (´Д` ;)∠!
(0^〜^0) うらやますうぃーーー! が、お気に入りw
もうちょっとしたらage
落ちたら、また違う氏にスレで続けて下さい、見つけます
>>668 この板では「板内の全てのスレを比較して最終書き込み時刻の古かったスレ」から
dat逝きということになっています。
したがって、このスレがスレッド一覧の底の方に沈んでいても(仮に一番下でも)
書き込み時刻が新しければdat逝きにはなりません。
スレ保全の為にageる必要は必ずしもありません。
\ ( ´Д) / \ Σ(´V` ;) |
Д`] ⊂ つ ⊂ つ
hozen
>>669 羊がそんな板だったなんて・・・、今の今まで知らなかったw;
さんくす
673 :
辻 希美:02/02/27 19:34 ID:QJ+HNtDY
「…きゅ〜ん…。」
そう言ったかと思うと後藤はバタンと倒れ込んだ。辻が駆け寄る。
「ごとうさん!」
「…ZZZ。」
どうやら後藤は眠ってしまったらしい。
小湊の刀を直接受ける事は無かったが、浜崎にやられた傷が再び重度のダメージとなった。
立っているのもやっとだったろう。ひどい汗をかいている。
辻は服の袖で後藤のその汗を拭く。そして立ち上がって稲葉を睨み付けた。
(あとはののにまかせてくらさい…!)
自分が稲葉を倒せばすべてが終わる。石川を呪縛から解き放つ事が出来る!
辻は稲葉に歩み寄る。しかし、稲葉はそんな辻を冷ややかな目で見据える。
「…またどえらい事してくれたもんやなー。まあ遅かれ早かれこうなってもらう
つもりやったけどな。せやけど、あの後藤を道連れにしてくれただけでも良しとしよか。」
「……!」
辻には稲葉の言う事が信じられない。仲間がやられて何故そんな事が言える?
「…おまえはひとれなしれす!」
「なんとでも言うたらえーわ。せやけど、ウチは戦わへんで。お前ら、やってまうんや!」
稲葉は集まっていた手下どもに促す。その半数以上は後藤の大戦時の強さを知っていた。
直接見なかった者もその噂だけは聞いている。だから恐ろしくて動けなかった。
しかし今、その後藤は倒れている。残っているのは小娘。ひとり。何も恐れる事はない。
674 :
辻希美:02/02/27 19:37 ID:QJ+HNtDY
T&Cボンバーの手下たちが武器を手に取り襲い掛かる!
(…まずいのれす!)
後藤と吉澤の身の危険を感じた辻は、倒れたままの二人を塀の側まで引き摺った。
すぐさま振り返って手下どもを向かい撃つ!
ズン!
辻のこぶしの一撃で一人の男が崩れ落ちた。男たちに動揺が広がる。
「何しとるんや!相手は小娘。ひとりや!束になってかかってまえ!」
稲葉の檄に我に返る男たち。そうだ、こんな小娘。よりも稲葉のほうが恐ろしい。
辻は周りを取り囲まれる。背後を守りながらの戦いを強いられる事となった。
辻は明らかに強くなった。一対一では何度も戦った。
大人数相手の戦いも経験した。しかし、こんな経験は初めてだ。
辻の強さはそのスピードを生かしたフットワークと一発のパワーにある。
だがこの状態では自慢の足は使えない。
一人一人を確実に倒していくが、それだけでは追い着かない。
辻の体には無数の傷が付けられ、そのスタミナも奪われていた。
「…ひきょうなのれす!ちゃんとたたかってくらさい!」
辻は稲葉に向かって叫ぶ。しかし、稲葉はいやらしい笑いを浮かべるだけだ。
(…ゆるせない、…ゆるせない!)
そんな辻の一瞬の隙を突き、一人の男が眠る後藤に襲いかかった!
「…しまった!」
675 :
辻希美:02/02/27 19:39 ID:QJ+HNtDY
「…ウワッ!」
男が顔を抑えて倒れ込む。その足元に転がる小さな鉛の玉。
こんな武器を使う人物を辻は一人しか知らない。
「…あいぼん!」
「大の大人が寄って集って小娘。一人に何さらしとんねん。」
加護だった。あさみの犬ぞりに乗って戻って来た加護のパチンコだ。
義剛たちはその姿に驚きを隠せない。
「あさみ、まさか…。」
「はい!加護さんはあのルルを倒したんです!」
バチィッ!
「グワッ…!」
辻を取り囲む輪の外側にいた男が背中を押さえて倒れ込む。
そこに現れた娘。の姿に辻は思わず笑みが零れる。
「…りかちゃん!」
石川だった。石川のムチによる痛烈な一撃だ。
「アタシだってみんなの仲間だもん!友達だもん!
みんなみたいに強くないけど…、アタシだって戦う!」
676 :
辻希美:02/02/27 19:42 ID:QJ+HNtDY
石川の言葉に加護が頷き、さらに数発のパチンコを弾く。
「そうや!梨華ちゃんはひとりやないんや!ウチらは仲間や、友達なんや!」
石川が男たちに次々とムチを叩き付ける。
「ありがとう、あいぼん!ののちゃん待ってて、今助けるから!」
ふたりの娘。の攻撃によって辻を囲む輪が乱れ出す。
しかし、いかんせん多勢に無勢だ。辻はまだ囲みを突破する事が出来ずにいた。
「…あたしも戦います!」
「あさみ!」
あさみが輪の中に飛び込む。それを見た義剛、花畑村の男たちは心を決めた。
恐ろしい四人の内の三人までも倒してくれた娘。たち。
暗い闇に閉ざされた道のりだった。そこにこの娘。たちが一筋の光明を差し込んでくれた。
あとは自分たちの力でその光を、眩い未来をこの手に掴み獲るだけだ!
「…みんな、オラたちも戦うべ!」
「「オオーッ!」」
花畑村の男たちが立ち上がった。辻を囲む輪を一気に押し崩す。
村人たちの加勢に石川は喜びを隠せない。思わず嬉し涙が零れそうになる。
「みんな、ありがとう!…ののちゃん、お願い!アイツを、稲葉を倒して!」
「そうや、のの!雑魚はウチらに任せろ!お前やったら出来る!やってまえ!」
「…りかちゃん、…あいぼん、ありがとう!」
辻は二人の言葉に勇気づけられた。自分のやるべき事は一つだけだ。
677 :
辻希美:02/02/27 19:44 ID:QJ+HNtDY
稲葉は明らかに動揺していた。この状況が信じられない。
「…なんでや、なんで村の連中まで…。」
自分の支配に間違いは無かったはずだ。
金を取る事で力を奪い、恐怖を与える事で希望を奪い去った。
反乱など起こるはずが無かった。それなのに、今のこの有り様はどういう事だ?
そんな稲葉の目の前に辻がゆっくりと歩いて来る。
「…お前らが、お前らが余計な事さえせーへんかったら…!」
稲葉は銃を構えた。しかし、辻は構わずそのまま進む。
ドン、ドン!
稲葉の銃が火を吹いた!しかし…
プニ、プニン…
辻の腹にめり込んだ弾丸は、あらぬ方向へと弾かれた。
「…まさか、能力者…!?」
稲葉が辻はただ者ではないと気付いたその時だった。
ゴツッ!
「…うげっ!」
辻の右こぶしの一撃が稲葉の顔面を捉えた。
678 :
辻希美:02/02/27 19:49 ID:QJ+HNtDY
「…おまえらけはぜったいにゆるさねーのれす!」
辻の怒りは頂点に達していた。その卑怯な手口はもちろんだ。
しかしそれ以上に、稲葉は仲間がやられてもへらへらと笑っていた。
「おまえはなかまをなんらとおもってるのれすか!?」
稲葉は辻の一撃で口の中を切ったのだろう。唾と一緒に血をペッと吹き出した。
「…お前かて一緒やろ!後藤やそこの頬袋みたな強いヤツがおったら助かるやろ!
石川やそこの団子頭みたいなヤツがおったら便利やろ!せやから一緒におるんと
ちゃうんか!?それは結局、利用してるだけなんちゃうんか!」
「そんなんじゃない!」
稲葉はその辻の剣幕にビクッとなった。
確かに辻は後藤のように圧倒的な強さを持ち合わせていない。
石川のように海図が読める訳ではない。加護のようにどこにも無い物を作り出す
能力はないし、吉澤のように料理を作れる訳ではない(あまり美味くは無いが)。
だからもちろん、みんなが居てくれて本当にありがたい。
みんなに助けてもらっているという事は痛いほど身に染みている。
だがそれだけで一緒にいる訳ではない。そんな事なんか本当は全然関係ない!
「みんなのことがすきらから…、らいすきらかららーーー!」
>>667,670さん
惜しい!ここは市井を出して欲しかった。
でもユウキがいつも半分なのに(w
>>668さん
ありがとうございます。もちろんしぶとく続けます(w
>>669,672さん
自分も知らなかった(w 安心して、sage進行出来ます。
他、保全目的の書き込みに感謝です。
次回の更新でこの戦いに終止符が打たれます。
\ ヽ^∀^ノ (´Д` ;)、
⊂ ─○ _ノノZ乙
@ノハ@
( ‘д‘ )__Yつ ≡ο☆::)゚Д゚) ( ´D`) (゚Д゚ ) (゚Д゚(::☆ι〜⌒ヾ_(^▽^ )
682 :
:02/02/28 17:27 ID:N20lT5sF
hozen
゜ミ (`D´ )
( `w´)_┏━※ === Σ((( \
保全sage
685 :
稲葉:02/03/01 21:02 ID:tH5983KX
加護と石川の活躍と村人たちの加勢によって大勢はほぼ決していた。
T&Cボンバーの手下たちは倒れる者、逃げ出す者が続出している。
どうやら自分の野望は潰えてしまったらしい。そう稲葉は悟っていた。
しかし、稲葉は往生際の悪い女だ。
そう易々と喜ばせてたまるもんか。一人でも多く道連れにしてやる。
少なくとも、目の前の小娘。だけは殺さないと気が済まない。
(甘っちょろいことぬかしよって…!)
稲葉はまだ十代の頃、多くの仲間と“グランドライン”に乗り込んだ事があった。
しかし、その仲間は次々と稲葉の元を去っていった。
ある者はその路を諦め、またある者はその命を落とした。
稲葉は“グランドライン”が、海賊を続けていく事がどれだけ厳しい事かを
身を持って知っている。利用できる者は何でも利用する。
仲間であろうと何であろうと。それが稲葉の導き出した答えだった。
だからそんな仲良しユニットがうまくいくはずがない。
その程度の心構えしか持っていない辻が憎らしくて仕方がなかった。
(どーやら打撃系の攻撃は通用せーへんな…。)
銃弾を弾くほどの腹だ。いくら殴っても効かないだろう。
それなら自分にはコレがある。食いちぎってやるまでだ。
686 :
歯:02/03/01 21:06 ID:tH5983KX
稲葉は低い体勢に身構えた。辻がじりじりと間合いを詰める。
その時、稲葉が辻に向かって飛び掛かった!
(あまいのれす…!)
そのスピードは確かに速いが、辻は落ち着いて右のカウンターを合わせる。
稲葉の顔面と辻の右こぶしが激突した!
「…うあああっ!」
悲鳴を上げたのはなんと辻の方だった。
見ると、辻のこぶしは稲葉の口にガッチリと咥え込まれている。
その辻の手にメリメリと稲葉の前歯が食い込んでいた。
「うあああーーー!」
ズン!
辻は左のこぶしを稲葉のボディに叩き込んだ。
「…ウゲッ!」
稲葉は息が詰まって咥えた口を離した。少し咳き込んで辻を睨み付ける。
「…クソッ…、なかなかヤルやんけ…!」
辻は痛む右手を押さえる。今のひと噛みは骨にまで達していた。
まずい、もう右手は使いものにならない。
687 :
恐怖:02/03/01 21:09 ID:tH5983KX
稲葉が再び襲い掛かる!それを素早くかわす辻!
ガブッ!
稲葉は辻が立っていた後ろにあった太い石柱に噛み付いた。
辻はそれを狙っていた。これなら稲葉の歯もきっと砕けるはずだ。しかし…
ガリッ、ボリッ、ゴリッ!
なんと稲葉はその石柱を丸ごと噛み砕いてしまった。
想像を絶するその歯の強度と顎の強さ。その光景が辻には信じられなかった。
辻の体を初めてともいえる恐怖が襲ったその時だった。
ガブッ!
「…うがあああー!」
反応が遅れた辻に稲葉が素早く飛び掛かり、その肩に噛み付いたのだった。
痛みに苦しむ辻は左のこぶしを稲葉のボディに叩き込もうとする。
しかし、その手は稲葉の右手によって封じられた。
「…ファファファ、ファケ!ファフェケ(ハハハ、泣け!わめけ!)!」
「…い、や、ら…!」
自分がここで泣いてしまったら負けを認めた事になってしまう。
みんながあんなにボロボロになって自分を信じて託してくれた。だから絶対に泣かない。
しかし、そんな辻の思いとは裏腹に、稲葉の歯は辻の肩にメリメリと食い込む。
肩が今にもちぎれそうだ。体に力がまるで入らない。徐々に意識が遠のく。
(…ごめんなさい…、ののはもう…。)
688 :
絶望:02/03/01 21:11 ID:tH5983KX
辻がその胸に絶望を感じ、諦めかけたその時だった。
シュルッ!
「…グ、…ゲホッ!」
稲葉の首にムチが巻き付き、それをきつく締め上げた。
息が出来なくなった稲葉は思わず辻の肩から歯を離す。
「諦めないで、ののちゃん!ののちゃんだって一人じゃないよ!」
石川はムチを力強く引っ張り、稲葉の首を締め上げる。
「…なめんな!」
「キャッ!」
稲葉はそのムチを利用して、一本背負いの要領で石川を地面に叩き付ける。
そしてその腹を思い切り蹴り上げた。
「…アッ!」
「お前はいつも通り大人しくしとりゃえーんじゃ!」
稲葉は悶絶している石川を何度も何度も蹴りつける。
「みんな、石川を助けるぞ!」
村人たちが石川を救おうと、稲葉の周りを取り囲む。
「…ザコは引っ込んどれ!」
稲葉は村人たちを殴り付け、投げ飛ばし、蹴り上げる。村人たちが敵うはずがない。
深手を負った辻は動けない。肩を押さえ、うずくまる辻の目に悔し涙が浮かんでいた。
自分が弱いばかりに期待に応えられず、石川や村人たちまで危険にさらしてしまった。
(…ののは…、…ののは…!)
689 :
決意:02/03/01 21:13 ID:tH5983KX
ポン。
そんな辻の頭に優しく手を置く者がいた。
「…ごとうさん…。」
「…よく頑張ったね…、えらいよ…。」
後藤だった。後藤はふらつきながら大剣を引き摺ずって稲葉の元へと歩く。
「ごとうさん、けがは…!?」
「…だいじょーぶ、…くっついた。」
「……!」
そんなはずがない。現に今も血が滴り落ちている。
辻はもう涙を抑える事が出来ない。その頬を大粒の涙が伝う。
稲葉の言うとおりだ。自分は甘かった。
結局、自分ひとりの力では何も出来なかった。
(…ののも、…ののもつよくなりたい…!)
稲葉は立ち上がった後藤に一瞬、驚きの表情を見せたが、すぐに平静を取り戻した。
後藤はその大剣を構えることすら出来ない状態。風が吹いただけでも倒れそうだ。
「…あんましなー、なめんなよ!」
ガキッ!
後藤はかろうじて稲葉の歯を大剣で受け止めた。さすがの稲葉もこれは噛み砕けない。
しかし、まともに戦う事は不可能だ。後藤の目は霞んでいた。
(…一瞬でいい…、ほんの一瞬、動きが止まれば…!)
690 :
勝利!:02/03/01 21:16 ID:tH5983KX
その時、ほんの一瞬、稲葉の動きが止まった。その足にはムチが巻き付いている。
稲葉は驚きを隠せない。
「…そんな、アホな!」
「…アタシだって戦ってるんだ…。忘れてもらっちゃ困るよ…。」
石川のムチだ。稲葉に倒され、ボロボロになるまで蹴られた石川が
懸命にその手を伸ばして稲葉の足にムチを巻き付けたのだった。
(…さんきゅー、梨華ちゃん。さいこーだよ…。)
後藤の大剣が唸りを上げる。
この場にいるすべての人々の、魂と希望をその剣先に乗せて!
ズドン!
「…ゲボッ…!」
稲葉は自分の体を正面から真っ直ぐに貫いた大剣を見つめる。
誤算だった。まさかあの石川に最後の最後で足をすくわれようとは。
いつもは一発殴れば大人しくなっていた。泣いて何も言えなくなっていた。
そんな石川がこんな抵抗を見せようとは…、こんなにも強くなっていようとは…!
ズズッ…
後藤は大剣を引き抜く。稲葉の体がゆっくりと崩れ落ちた。
「…やった、やったぞ!」
「そうだ、俺たちは自由だ!」
花畑村の男たちが喜びを噛み締める。
誰もが諦めかけていた。その希望を失いかけていた。
しかし今、この手にはっきりと希望を、未来を掴み取る事が出来た。
それもこれもみんな、この娘。たちのおかげだ。
村の男たちの視線が石川に集まる。石川はあさみの肩を借りてなんとか立ち上がった。
少し照れくさそうに両手を一度胸に当て、それから大きく前に差し出した!
「みんな、ハッピ〜〜〜♪」
村人たちは互いに顔を見合わせる。その誰もが満面の笑顔だ。
「「ハッピー!ウオー!」」
戦いの喧騒は一瞬にしてお祭り騒ぎへと変わった。手に手を取って踊りだす者たち。
この島にある他の町や村に、この喜びを伝えようと走り出す者たち。
島のすべてがハッピーに包まれるのは時間の問題だ。
そんな中、義剛は静かに空を見上げていた。
日はすでに落ちかけ、暗くなった空に一番星が出ている。
(…りんね、見てるべか…?)
りんねが命と引き換えにして守った娘。が、こんなにも強く成長してくれた。
そして花畑村を、この島を、いや、この海を救ってくれた。
(…お前らは最高の親子だべ。な、りんね…。)
一番星は一晩中、明るく瞬いていた。
それはまるで、子供たちの成長を喜ぶ母親の笑顔のようだった。
第三章 第二話 完
>>680,681,683さん
リクに応えてくれてサンクスです。更新遅くてホントにスマソ。
>>682,684さん
保全に感謝です。安心して書く方に集中できます。
辻は稲葉に勝つことが出来ませんでした。その事が…
しかし、ここで本編は少しお休み。
次回の更新は 外伝その2 です。あの娘。たちが再び登場します。
!! ☆
( ´D`)──○~>´ )三
(; ´D) ( ´Д`) (`w´ )
ひなまちゅり
( 0^v^0)\( ^▽^)/
\( )丿( )丿( )>\( )
爽やかな南風の下、一艘の帆船がその快速を走らせていた。
その甲板に立つのは背の低い金髪の娘。
そう、伝説の娘。のひとりにして、
このANN-S海賊団のセンターを務める矢口真里だ。
「…たしかあいつさー、この辺から来たって言ってたよねー?」
『…そ、そうだよ。…ウップ!…今あんまし話しかけんなよー…。』
陸の上では生意気な口を利くしげるも、海の上ではこの有様だ。
“悪魔の実”のせいでカナヅチになってしまった上に船酔いがひどいらしい。
「もー、情けないなー。」
矢口はしげるのそんな姿に肩をすくめて前方に向き直る。
辻と石川の話から考えると、辻はこの方角からやって来たはずだ。
ふたりと後藤が出航した後、矢口は慌ただしく支度をして海に出た。
そろそろ辻が後藤と出会った街がある島に着くころだ。
(確かこの島には海軍の支部があるんだよね…。)
別に海軍など恐れはしないが、目的がある今は相手をするのが面倒だ。
その時マストの上部にある見張り台から、見張りの男の声がした。
「矢口様、一艘の船が近付いてきます!海軍です!」
「…って、いきなりかよ!」
矢口は船の後部にやって来た。確かに海軍の船だ。
双眼鏡を覗いて相手を確認する。
すると、その船の船首にはふたりの娘。が立っていた。
ひとの娘。は顎を大きくしゃくれさせて、何やら息巻いている。
もうひとりは豆のような娘。だ。
矢口の耳にそのふたりの声が聞こえてきた。
「里沙ちゃん、ウチらの初陣だからね!かかってこい、オラー!」
「うん、麻琴ちゃん!頑張ろう!」
どうやらふたりは新人らしい。矢口は大きくため息をついた。
「…ハァ、元気が良いのは認めるけどねー。
悪いけど相手してるヒマないからさー。…オイ、アレぶっ放せ。」
矢口はスタッフに促す。いつものように黙々と準備をするスタッフ。
船は大きく旋回する。船側の大砲が海軍の船を捉えた。
「オラッ!セクシーキャノンだ!」
ドーーーン!
真っ直ぐに飛んでくる砲弾の様に、しゃくれと豆は互いに抱き合う。
「「イヤーーー!」」
ボッカーーーン!
矢口の大砲は百発百中。見事に海軍の船を粉々に破壊した。
「キャハッ、…でも、これじゃあダメなんだよなー…。」
いつもの矢口ならここで高笑いだ。
しかし今は、何か思う事があるらしい。
元気の無い矢口をしげるやスタッフが心配したその時だった。
「バーカ!お前らみたいな新人に、オイラがやられてたまるかっつーの!」
ズルッ!
ANN-S海賊団の一同はズッこけた。心配して損した気分だ。
矢口にコケにされた海軍のふたりの娘。は、船の破片にしがみ付いて浮かんでいた。
「お前にだけは言われたくねーよ!次こそとっ捕まえてやる!」
「もう一回言ってやって、麻琴ちゃん!」
あっけなくやられてもまだ元気だ。なかなか打たれ強い娘。たちらしい。
そんなふたりに矢口は少しだけ好感を持った。
しかし、いかんせん実力が伴っていないのが玉にキズだ。
「今度、喧嘩を売るときは相手を見てからにしなー!海の先輩からの忠告だー!」
「「……!」」
矢口の船は進路を戻す。まだまだこの旅の先は長い、かな…?
矢口の旅が始まりました。話の展開上、どうしても必要なので。
>>693,694,696さん
いつもながら感謝です。みんなのハッピーが伝わってきます。
>>695 そういやそうだった。ただそのネタは使いづらい…
次回の更新も 外伝その2 の続きです。次はあの娘。が…
訂正
>>698 四行目 ひとの娘。→ひとりの娘。
( 〜^◇^) / \ ∬`▽´∬ (・e・ )
 ̄ ̄ ̄(τ) ̄/ \ ̄(τ) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
hozen
( 〜^◇^)\⌒ヾ∠ ・〜\ (( 从⌒从 ))/ ∬x▽x∬
 ̄ ̄ ̄(τ)( - 三ニ=− 煤E((⌒ 从 ∵ )) ))ζ/; (ё)
〜〜〜〜//〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜/〜〜〜〜\\〜〜〜
「…なんだよー。結局、手がかり無しかよー!」
船の甲板で矢口は駄々をこねていた。
辻と後藤が出会ったこの街では、飯田の情報は何も手に入らなかったからだ。
矢口はご機嫌ななめ。こうなるといつもうるさいのがますます騒がしくなる。
なんとか機嫌を直させようと、スタッフは色々と考える。
「矢口様!クイズをやりませんか?ことわざや漢字を…。」
「うるさーい!この天才な矢口さんに恥かかせようってーの!?」
「…そ、それじゃあ、映画でも見てその感想を…。」
「ウザイ!どーせ途中で寝ちゃうんだし、テキトーな事しか言わねーぞ!」
矢口の機嫌はますます悪くなるばかり。スタッフは困惑している。
その時、ひとりのスタッフがある事を思い出した。
「…そうだ、矢口様!この近くの島に温泉があるらしいですよ!
しかもそこはあまり人の来ない、秘湯で露天でサウナ付きだって話です!」
その言葉に矢口の耳がピクリと動き、キラキラと目を輝かせる。
「いーじゃん!そーゆーのを待ってたんだよ!
…まあそんなに急ぐ旅でもないし、いっちょ行ってみよーか!」
「「オーッ!」」
矢口の機嫌が直ったようなのでスタッフたちは胸を撫で下ろす。
そんな中、しげるはひとりいやらしい笑みを浮かべていた。
(…温泉、…露天、ムフフフ…。)
『何すんだよー、真里ー。離せよー。』
しげるはマストにロープで固く縛り付けられている。
「ダメだってー。しげるどーせ覗きにくるつもりだろー?
嫁入り前の娘。の肌を見せる訳にはいかないわ〜ん♪」
『違うってー。もし途中で何かあったら危ないだろー?。
だからボディーガードなんですー。』
「…じゃあ、そのカメラは何だよ?」
矢口はしげるが首から下げたカメラを指差す。
『(しまった!)…こ、これは違うんだって。別に写真誌に売って
ニャンニャンだとかって…。ヒィィィー…!』
矢口は腕を飛ばしてしげるの喉元にナイフを突き付けた。
「何の事かなー?…よけーな事言ったら殺す…!」
『(こ、こえー…。)』
矢口は明るい声と爽やかな笑顔。しかし、その目は全く笑っていない。
それどころか確かな殺意がしげるには感じ取れた。
船を降りた矢口はひとり、お風呂セットを小脇に抱えて
緩い坂道を歩いていた。
木々が深々と生い茂り、木漏れ日が道を照らしている。
聞こえてくるのは小鳥たちのさえずりと小川のせせらぎ、
風に揺られた葉の擦れる音。
「うんうん、なんかいい感じー。それらしくなって来たよー。」
すると道の真ん中に、最近立てられたらしき看板が目に入った。
「なになに…、「これより先、危険!立入禁止だべさ!」だって?
フザケんなよ。ここまで来て引き返せるかっつーの。」
そう言うと矢口は看板を引っこ抜き、道の脇へと投げ捨てた。
(…でも、どっかで見たような訛りだなー…。)
徐々に険しくなってきた坂道を再び上り始める。
この先を少しいけば目的の温泉があるはずだ。
坂を上りきった所にその温泉はあった。
矢口が想像していたよりもその湯船は広いようだ。
向かい側は濃い湯けむりに覆われて全く見えない。
「ヤッホ〜イ!まさにこれぞ秘湯ってカ・ン・ジ!チェキラッチョ〜イ!」
ハイテンションになった矢口が上着を脱ぎ捨て、下着姿になったその時だった。
「誰だべ、そこにいるのは!?」
立ち込める湯けむりの中から警戒の意志を伝える声がした。
その声に驚いた矢口は慌ててバスタオルで前を隠す。
声はすれども姿は見えず。それにしても、なんとなく聞き覚えのあるような…
「うるさーい!あの看板立てたのお前だなー!?そっちこそ誰だよ!?」
矢口は簡単に引き下がらない。その正体を確かめようと目を凝らす。
すると、声の主はジャブジャブとお湯を掻き分けてやって来た。
「…もー、ここはなっち専用の温泉にしようと思ってたのにー…。」
(えっ…、なっちって…?)
この声と独特な訛り。はっきりと矢口は思い出した。まさしくあの娘。だ。
湯けむりの中から現れた娘。は矢口の姿を見て素っ頓狂な声を上げる。
「あれま、ひょっとしてやぐちー!?きゃー、ヒサブリー!」
「なっち!?ホントになっちなの…、って丸見えだよ!」
その娘。はあの海賊王の船での仲間、安倍なつみだった。
“三色”に分かれた後のあの“三頭会談”以来、およそ2年ぶりの再会だ。
「…ちょっと、なっち!前隠すぐらいしなよ!こっちが恥ずかしいじゃん…。」
矢口は両手で顔を覆う。安倍は生まれたままの姿、つまり素っ裸だ。
その柔らかそうな白い肌は同じ娘。の目から見ても眩しい。
形の良く整った乳房はツンと上を向き、
ウェストからお尻にかけてのラインはまさに女性の官能的な美しさ。
大人の女性としての色香を存分に漂わせている。
しかし、当の本人は全く気にしていない様子だ。
まるで少女、いや、天使のような笑顔で矢口を急かす。
「なに言ってるべさ。知らない仲でもないっしょ。
ほらほらー、やぐちも早くそんなの脱ぐべさー。」
「…もー、分かったからー。そんなに急がせないでよ…。」
天使の笑顔と女性的な色香。この絶妙なバランスが安倍の最大の魅力だ。
矢口は下着を脱ぎながら改めてそれを感じていた。
(…それにしても、なっちってこんなに胸大っきかったけ…?それになんか、
“三色”の時よりずっと痩せて復活…、ううん、前よりずっと綺麗になってる…。)
二人は並んで肩までお湯につかった。矢口は前にバスタオルを当てたままだ。
「…ところでさー、なんでなっちはこんな所にいるの?」
「実はねー、なっち、こーんな小っこい娘。の腹に吹っ飛ばされちまったべさ。
したっけ、ちょうどこの温泉に落っこっちまったって訳だべさ。」
あっけらかんと安倍は話す。それが矢口には意外だった。
あの“三色”の時の安倍は神経質でなにか不安定な感じを思わせていた。
「…へー、なっちを吹っ飛ばすヤツって大したヤツだなー。
しかも腹で…って、もしかしてアイツかよ!?」
矢口は辻の事を身振り手振りを交えて説明した。
「なまらビックリだべさ!やぐちもあの娘。に会ってたなんて…。」
「もう怒ってないのー?」
安倍は優しい笑顔で頷き、空を見上げた。
「…なんか思いっ切り吹っ飛ばされたおかげでスカッとしたべさ。
モヤモヤしてた色んな事が全部ふっ切れたような感じだべ…。」
「フーン、…じゃあさ、裕ちゃんの事も許してあげられる?」
すると安倍は急に深刻な顔つきに変わった。
「…それはまだ分かんない…。でも今なら裕ちゃんの話も聞いてあげられる。
ちゃんと話し合いが出来ると思う…。」
「…そっか…。」
矢口は思った。安倍はまだあの事を重く引き摺っている。中澤を疑っている。
しかし、頑なだった安倍の心も変わりつつあるようだ。
「あとねー、あとねー、聞いてー、やぐちー。」
「うんうん、ちゃんと聞いてるよー。」
安倍はまるで子供のように矢口に甘える。年は安倍のほうが上なのだが。
しかし、矢口のほうも満更ではないようだ。心からの笑顔で安倍に応える。
「ちょっと見ててね…。」
そう言うと安倍は立ち上がり、矢口が脱いだ服のある所へと歩いた。
そこで矢口が持ってきたナイフを手に取り、大きく頭上に放り投げた。
ナイフが真っ直ぐ安倍の頭に落ちてくる!
「なっち、危ない…!」
今から腕を飛ばしても間に合わない。矢口が両手で目を覆おうとしたその時だった!
SALAッ…
(…エッ…。)
なんとナイフは安倍の髪に触れた瞬間、SALAッと方向を変えて落ちてしまった。
「これがなっちが身に付けた“悪魔の実”の力だべさ。なっちにはもうどんな
投射攻撃も効かないべ。“SALA SALAのシャンプーとボディーソープ”。
この温泉に備え付けてあったんだけど、
あんましいい匂いがしたんで飲んじまったべさ。」
「…へー、そうなんだ。先に言ってよね…、ってそんなん飲むなよ!」
どうやら矢口が感じた安倍の変化は“悪魔の実”による所もあるらしい。
安倍のルックスはその時その時で激しく変化していた。
海賊王の船時代のか細く守ってあげたくなるような容姿。
“三色”からその後の巨大化時代。いわゆるナッチーがここに当たる。
そして今のなっち。完全にその美貌を取り戻していた。
いや、以前のそれを上回る健康的な明るさが眩しいくらいに美しい。
その笑顔はまさしく地上に舞い降りた天使そのものだ。
そんな安倍は矢口につっこまれてもケラケラと笑っている。
逆にそれが嬉しくてたまらないらしい。すぐに矢口の所へと戻ってきた。
まるで子犬が甘えるように矢口にぴたりとくっつく。
「そーいえばさー、その娘。と一緒に小川って娘。もいなかった?」
「ううん、一緒にいたのは後藤真希と、…あと変なキショイのだけだよ。」
先ほどぶっ飛ばした海兵がその小川だという事に矢口は気付かない。
「へー、後藤かー…。なまら強かったなー。もう一回、ちゃんと勝負したいべさ…。」
「キャハッ、オイラはアイツに勝ったよ。」
「えー、本当かなー…?」
「ホントだって!…不意打ちだけどね…。だってアイツおっかねーんだもん!
こーんな顔して睨んでくんだよ!」
と、矢口は両手で目を横に引っ張り、魚のような顔マネをした。
「あははは、…でもさー、不意打ちでも凄いべさ。
あの時の後藤には隙なんて全然なかったべ。」
「うん、実はねー、オイラも“悪魔の実”を食べたんだー。」
「えっ…。」
安倍は矢口の意外な言葉に驚いた。見た目は全然、変わっているように見えない。
「その能力ってのがねー、…これだよっ!」
バシュッ!
矢口は右腕を飛ばして素早い動きでナイフを掴み、一本の木の陰に向けて操った。
『ギャーーー!』
木陰からしげるが飛び出してきた。矢口の腕がその後を追いかける。
大きなしげるは動きが遅い。矢口の腕がしげるの喉元にナイフを突き付けた。
「お前!来るなっつたろー!」
『…ご、ごめん!つい出来心で…。』
あっ気に取られていた安倍が正気を取り戻す。そして、笑顔で矢口に抱きついた。
「すごいべさー、やぐちー!」
「ちょ、ちょっと、なっち!変なトコ触んないでよ!アッ、イヤッ…!」
「恥ずかしがる事ないべさー。やぐちの温もりを感じたいんだべさ♪」
安倍は矢口にぴったりとくっつき、バスタオルの下でその体をモゾモゾとまさぐる。
『(ハァハァ…、たまんねぇ…。)』
前屈みになったしげるはカメラを構える。すると目の前にナイフを持った矢口の手。
「お前妙なマネしてみろ、ホントに刺すからな!あっち向いてろ!…アッ、ダメッ…!」
『(シクシク…、これじゃ生殺しだよ…。)』
温泉に背を向けたしげるの後ろで、矢口と安倍はしばらくの間じゃれあっていた。
矢口と安倍のふたりはしげるに乗って矢口の船に戻っていた。
ふたりは背中の流しっこをしたり、
サウナに入ったりと数時間に及んでじゃれあっていた。
船にやって来た安倍は矢口のベッドでスヤスヤと眠っている。
矢口はそんな安倍の柔らかいほっぺたを軽く突っつく。
「…うーん…。」
安倍は寝返りを打って突つかれた場所をポリポリと掻く。
(…キャハッ、なっちってホント、カワイーな…。)
“三色”が終わってからの安倍はずっとひとりだったという。
寂しがりやの安倍の事だ。よほど心細かったに違いない。
だからいつもより余計に矢口に甘えてきたのかもしれない。
(もうずっと一緒だよ、なっち…。)
矢口は安倍に自分の旅の目的を話した。
安倍は当然のように二つ返事でついてくると言った。
心強い仲間。それも一番、気の合う仲間と再会できた。
幸先の良いスタートだ。疲れもとれてリフレッシュも出来た。
矢口は甲板に出てスタッフに大きな声で指示を出す。
「オイッスー!次、行ってみよー!」
矢口の旅はまだまだ続く。こんな感じのも書いてみました。
>>702,704さん
海賊らしく海戦を書いてみたんですが、すごい、大作っすね(w
まあ矢口にかかれば小川&新垣などはそんなもんです。
>>703さん
保全に感謝です。
次回も 外伝その2 の続き。今度はあの娘。が再登場します。
( `.∀´) 創作本編、期待よっ!
∬ 〜〜( 〜^◇^)〜 (´ー`● )〜〜∬ (´^ヽ
〜 ∬ ^^~^~~~~~ ∬ ~~^^~^~^~ 〜 (⌒)(゙゙゙)~
/~゙゙ヾ⌒`ゝ-(~´`(⌒(⌒~ヽ~⌒`ゝ-(~´`(⌒
ほぜーん
スタッフたちは困惑していた。
船はどうやらとんでもない辺境まで来てしまったらしい。
指揮を執る娘。を遠巻きに見つめている。
今この船の行き先を決めているのは安倍だった。
矢口は安倍に進路を任せ、新兵器を開発すると言って船底の船室に篭っていた。
安倍は矢口の様に優れた航海術を身に付けてはいない。
その上、情報が何も無いとあってはどうする事も出来ない。
それなら深く考えても意味が無い。安倍は勝手気ままに船を動かしていた。
すると、遥か水平線から一隻の帆船が現す。
「安倍様、海賊です!青い帆を張った海賊船です!」
見張りのスタッフが望遠鏡を覗きながら叫んだ。
安倍はその知らせに目を丸くする。
「青い帆ってもしかして…。スピードを上げるっしょ!あの船に近付くべさ!」
二隻の船は互いの顔が確認できるくらいまで近付いた。
安倍の予想通りだった。
青い帆を張った船の甲板に立つのは背が高く髪の長いあの娘。
伝説の八人の娘。のひとり、飯田圭織だった。
不思議な何かがふたりを引き合わせたらしい。人はそれを“腐れ縁”と呼ぶ。
「かおりー、ヒサブリー!会いたかったべさー!」
安倍は笑顔で飯田に大きく手を振った。
しかし、飯田の表情は硬い。大きな瞳で安倍を睨み付ける。
「ここで会ったが百年目、…ううん、ホントは百年なんて経ってないけど…。
確か、そんなことわざあったよね?
…違うの、カオリが言いたいのはそんな事じゃなくって…。」
「……。」
安倍は飯田とはかなり長い付き合いなのだが、
相変わらずその言いたい事は分かりづらい。
「…とにかくねー、決着を着けようって事なの!ねぇ、撃って!」
飯田は射撃手に指示を出した。射撃手がそれに応える。
ドーン!
「まずいべさ!船を廻すべ!急ぐっしょ!」
安倍の指示にスタッフ総出で船を動かす。帆の向きを変え、舵を一杯にとる。
砲弾は安倍の船の帆を掠めて後ろの海へと沈んでいった。
「いきなり何するべさ!いくらかおりでも許さないっしょ!」
「…ガガガガ…!」
どうやら飯田は半分壊れてしまったらしい。こうなると何を言っても通じない。
しかも今、この船は大砲を取り外してあるし、飯田の船は常に風上にある。
「…しょうがないべ。船を寄せるべさ!実力行使だべ!」
安倍の船は飯田の船に向かって真っ直ぐ突き進む。
ドーン!
飯田の船の大砲が再び火を吹く。しかし…
SALAッ…
船首に立った安倍の能力によって、砲弾はあらぬ方向へと飛んでいく。
「きゃははは!へたれリーダーの船の射撃手は、これもまたへたれって話だべさ!」
安倍は何気に毒舌だ。意識してはいないのだろうが、それが火種となる事がたまにある。
「むっかー!ほな、本気でやったるわ!」
飯田の船の射撃手は怒り心頭。続け様に大砲を放つ!
ドーン!ドーン!
SALAッ…、SALAッ…
「なんでや!?なんで当たらへんねん…!?」
安倍が手に入れたこの力は艦隊戦においてほぼ無敵の威力を発揮する。
飯田の船の乗組員に動揺が広がったその時だった。
ドン!
安倍は船の船首を飯田の船の横っ腹にぶつけた。大きく揺れる二隻の船。
「みんなはそのまま待機して!こっからはなっち一人でやるべさ!」
そう言うと安倍は軽やかな身のこなしで飯田の船に乗り移った。
飯田の船の乗組員が安倍を取り囲む。しかし、安倍は平然としていた。
安倍の本来の実力は白兵戦で発揮される。
その強さは伝説の娘。たちの中でも抜きん出ていた。
しかも今の安倍には投射攻撃が効かない。
大人数相手でも恐れる事は何も無い。いくらでも暴れられる。
しかしカッとした安倍だったが、その目的までは忘れていない。
敵を倒す訳ではない。あくまで戦いを止めさせるだけ。それには…
安倍は素早い動きで囲いを突破し、飯田のそばに駆け寄る。
「…ガガガガ…!」
まだ飯田は故障中だ。
飯田もそれなりの力を持ってはいるが、こんな状態では何も出来ない。
安倍は飯田の頭上を一回転して飛び越え、その背後にまわった。
「かおり、ごめん!」
ゴツッ!
「…ガガガガ…、プシュー…!」
飯田は安倍の金棒、“トウモロコシ”の一撃によって崩れ落ちた。
乗組員は一斉に白旗を挙げる。この腐れ縁勝負、安倍の勝ち。
その時、矢口が船底から出てきた。そして目の前の光景に我が目を疑う。
「…ちょっと、なっち!何やってんの!?カオリじゃん、それ…!」
「…ウーン…。」
「あっ、やぐち!かおり、気がついたべさ!」
ベッドに寝かせていた飯田の様子を見守っていた安倍が船底に声をかけた。
すると、矢口は急いで階段を駆け上って来た。
「もー。なっち、やり過ぎだよー。…カオリ、大丈夫?」
矢口は飯田の顔を覗き込む。飯田はその大きな瞳をパッチリと開いた。
そしてふたりの顔を交互に見たかと思うと、ボロボロと涙を流し始めた。
「…カオリ、負けちゃったの?矢口もなっちに負けちゃったの…?」
「「……!」」
矢口と安倍は互いに顔を見合わせた。そして、同時に腹を抱えて笑い出した。
飯田はそんなふたりの様子を見て膨れっ面だ。
「ふたりして何笑ってんのー?なんかムカツクー。」
どうやら飯田はまだ“三色”の争いが続いていると思い込んでいたらしい。
飯田らしいといえば飯田らしい。やはりどこか大きくズレている。
乗組員や立ち寄った港の人々から何度もその話は耳にしていたはずなのだが、
全く聞く耳を持たなかった。いや、自分の属する“青組”が真っ先に負けた
という事実を認めたくなかったというのが本音だろう。
それに加えて、腐れ縁と呼ばれる安倍に対して持つ剥き出しのライバル心。
それが飯田を戦いに駆り立ててしまったのかもしれない。
「カオリさー、サヤカのこと探しに行ってから今まで何やってたのー?」
矢口は飯田に問い詰める。それが不思議で仕方がなかった。
飯田はのんびりとした口調でゆっくりと答える。
「あのねー、カオリねー、この辺の人たちに頼まれてさー、
この近くに棲んでるさー、緑色をした謎の恐竜の子供と
赤い毛むくじゃらの雪男の事を調べてー、それが一年くらいかかってねー。
それからー、そいつらを退治するのにー、また一年くらいかかっちゃったの。」
「「……。」」
矢口と安倍は開いた口が塞がらない。
あの娘。たちが血で血を洗う戦いを繰り広げている間に、
飯田はひとりで全く別の事をしていたという。
それがまさに飯田らしいといえば飯田らしいのだが。
呆れて物も言えないふたりに対してなぜか飯田が腹を立てる。
「なにー?ふたりともー。めっちゃ大変な冒険だったんだからー。
緑の恐竜の子供なんて、何でも出来ちゃうスポーツマンで
めっちゃ強かったんだからー。」
「「……。」」
「…フーン、ふたりともあの娘。に会ったんだ…。」
飯田は矢口と安倍から旅の目的とふたりが再会したいきさつを聞いた。
そこに出てきた娘。の話に思わず笑顔が零れる。
(ののたんもとうとうデヴューしたんだね…。)
あんなに寂しがりやで泣き虫だった弟子が海に出て来た。
そして、立派な仲間と一緒に旅をしている。それだけでも嬉しい。
しかしそれ以上に、離れ離れになっていた矢口と安倍を引き会わせてくれた。
ふたりと自分を再び巡り会わせてくれた。
そのきっかけが辻だった。そう、辻がこのみんなを導いてくれた。
それが嬉しくて仕方がない。
(…やっぱりカオリの思った通りだ。あの娘。はきっと…。)
その時、飯田の胸に妙な不安がよぎった。
「矢口!確かつじに海図を渡したって言ったよね!?それってまさかアレ!?」
「うん、そーだよー。オイラが持ってた“グランドライン”の海図っつったら
アレしかないじゃん…。」
すると矢口も何かを思い出したらしく、急に真剣な顔つきに変わった。
「…ヤバイ!言うの忘れてた!あそこの入口にはアイツが居るんだった!」
「そーだよ!まずいよ、矢口!間に合うかどうか分かんないけど、急ごう!」
安倍には何のことやらさっぱりだが、ふたりの慌てぶりになんとなくソワソワする。
「そーだべ!急ぐっしょ!かおり、風を頼むべさ!…って、どこ行くべさ?」
なっち大暴れ(w
>>716さん
ダーヤスありがとう(w もちろんダーヤスの出番もまだあります。
>>717さん
すごい、また大作が…(w いつもホントに頭が下がります。
>>718さん
保全に感謝です。
次回の更新も 外伝その2。残りの再登場娘。といえば…
// ! ミ
(゚Д゚ )(゚Д゚ ) 三 ※ (゜皿 ゜ ) (´ー`● )__┃
(●´ー`●) ちゅう♪
test
test
常に吹き続ける追い風に乗って、二隻の船は並走していた。
矢口が見た辻たちの舟はほんの小さな物だった。
この風さえあれば数日の遅れくらいは取り戻せるはずだ。
しかし、矢口が辻たちと別れてからすでに十日は過ぎている。
とにかく急がなければならない。さもないと、とんでもない事になってしまう。
矢口と安倍は矢口の船、飯田は自分の船に乗っていた。
ふと飯田が何かを思い出したらしく、大きな声で矢口に呼びかける。
「ねぇ、矢口!矢口はカオリの腕、新しいの作れないかなー?」
飯田は辻を助けたときに左腕を失っていた。
そのせいで緑色をした恐竜の子供に苦戦を強いられたという訳だ。
「ゴメン、カオリ!オイラにはまだムリだよ。
…やっぱりあの人か、もしかしたら裕ちゃんだったら出来るかも…。」
「…そっかー。そしたらさー、後でみんなでさー。
裕ちゃんの事、探さない?カオリ、ヒサブリに会いたいよ。」
申し訳なさそうにしている矢口に飯田は笑顔で返す。
飯田の体はその大部分が人工的に作られたものだ。
もちろん初めからそうだった訳ではない。ある事故がきっかけで命を落としかけた
飯田を救うために、ある人物が作り上げた半人造人間。それが飯田圭織だ。
その際に飯田は不思議な能力を与えられた。この風もそのひとつ。
そして、その飯田を救った人物に矢口は船の改造や兵器の開発を教わった。
海賊王の船に乗っていた世界一の医師であり、科学者であったその男に。
この海の海図、広さや島の位置関係は矢口の頭にすべて入っている。
いちいち島や港に立ち寄ってその位置を確かめる必要などない。
すでに一週間、二隻の船は快走していた。
しかし、それが今回は裏目に出てしまった。
矢口の船と飯田の船、共に水と食糧が尽きてしまった。
しかもここは海のど真ん中。一番近くの島でも三日の航海は必要だろう。
それに加えて、飯田はずっと能力を使い続けていた為に極度の疲労に陥っていた。
「かおり、大丈夫だべか!?」
「…ウン。まだ平気…。…急がなきゃね。」
飯田はそう言ってはいるが目の下の“くま”が真っ黒だ。さすがに限界だろう。
(チクショー…!オイラのミスだ…。)
矢口は唇を噛み締める。航海に関して安倍と飯田の二人は矢口に任せきりだ。
それは矢口の航海術に全幅の信頼を寄せているからこそである。
このまま強引に突き進むか、それとも一旦、近くの島に立ち寄るか。
矢口が判断に迷ったその時だった。
「矢口様!前方に小さな船団が見えます!…なんでしょう?
真ん中の一番大きな船に“海上レストラン”って看板が…!?」
見張りのスタッフが大声で叫んだ。矢口は首を傾げる。
「…そんなのいつの間に出来たんだろ…?…まあいっか、
レストランだったら好都合だ。カオリ、あそこに一旦立ち寄るよ!」
どうやら店はえらく繁盛しているらしい。
広い店内は満席で予約も一杯らしく、矢口たちはかなり待たされていた。
イライラした矢口はひとりのウェイターにつっかかる。
「オイ、いつまで待たせんだよ!こっちは腹空かせてんだからな!」
「ア゛ー…、そ、そ、そう言われましても…。ア゛ー…。」
そのウェイター、横を大きく刈り上げた金髪のモヒカン頭で
細いタレ目の間抜け顔がどもりながら戸惑う。どうやら新人らしい。
「…ダメだ。お前じゃ話になんない。責任者、出て来ーい!」
大きな声で矢口は叫ぶ。店の迷惑など知ったこっちゃない。
間抜け顔のウェイターは大慌て。厨房の方に振り返る。
すると厨房からひとりの娘。が不機嫌そうに出て来て、厳しい口調で叱り付ける。
「うるさいよ!他のお客さんに迷惑だろ!」
その娘。の姿に矢口・安倍・飯田の三人は目を丸くして驚きの声をあげる。
「「「圭ちゃん!?」」」
「…エッ、みんな!?揃いも揃って一体どーしたの!?」
そう、この海上レストランのオーナー兼、料理長の保田圭。
彼女も伝説の娘。のひとりであり、こうして四人が揃うのはやはり約二年ぶりの事だった。
再会に喜んだ保田は今いる客を早々に帰し、予約をすべて後日にまわした。
今日のこのレストランは完全に貸し切り状態だ。
矢口の船のスタッフと飯田の船の乗組員が入り乱れて、
数日振りの食事に舌鼓を打ち、酒を飲んで盛り上がっている。
矢口・安倍・飯田・保田の四人は同じテーブルに付いていた。
三人は保田の左足が気になっていた。もちろん、以前の保田は擬足などではない。
保田はあっけらかんとその理由を話した。それはいかにも保田らしい話だった。
そしてその表情には後悔は微塵も感じられない。
三人はそれですべて納得した。特に飯田は自分も同じような理由で左腕を失っていた。
「…そーいえばさ、ついこの間、みっちゃんが来たんだ…。」
保田は平家から聞いたすべてを話した。
平家は仲間を裏切ってはたけの元に走った。
そして安倍を騙すことによって、伝説の娘。を三つに分断させて戦わせた。
海軍に“青組”を襲撃させたのも平家の仕業だ。
しかし最後は保田の命を救う為に自らの命を投げ出した。
「…みっちゃん、最後にこう言ってた。「みんなに謝りたかった。」って…。」
信じられない。三人の思いは共通だった。重い沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは他でもない、騙され続けていた安倍だった。
「…みっちゃん、いい子だったのにね…。」
そのひと言によって矢口と飯田もその怒りを露わにする。
「そーだよ!みっちゃんは悪くないよ!悪いのは全部アイツらじゃん!」
「ウン。カオリもそー思う。アイツら絶対に許せない!」
「……!」
保田は三人の言葉に思わず体が震え、胸が熱くなった。
いくら平家のはたけに対する気持ちを知っていたからといって、
簡単に許せるような事ではないはずだ。
それなのに誰一人として平家を責めようとはしない。
それどころか平家を擁護する発言をしている。
(フフフ…、やっぱり最高だよ、みんな…。)
心の底から保田はそう思った。
本当にこのみんなと出会えて良かった。
このみんなの仲間だという事が
自分にとって一番の誇りであり、最高の宝物だ。
なんか今日はやけに重いのでこれだけで。
>>727さん
相変わらずうまい。オモロイっす。
>>728さん
IDが…。ナースマンとタイムリーっすね(w
次回の更新は 外伝その2 の最後。バーウッ○ストックです。
|~~~| 皿
川 `〜` )||( ●´ー`)( 〜^◇^) (`.∀´ ) 卩 (´△`)
懐かしい思い出話に花が咲き、時が経つのをすっかり忘れていた。
いつの間にか日は落ちて外は真っ暗になっていた。
保田はふとある事を思い出す。
「そーいえばさ、なっちとカオリはもう二十歳になったんだよね。
新しくバーカウンターも作ったんだけど、そっちで一杯やんない?」
「あっ、カオリさんせー。なっちも飲もうよー。」
「うーん。なっち、飲んだ事ないけど…。いっか、今日はめでたい日だべさ。」
すると矢口が不満の声をあげる。
「ブー。ズルイよー、みんなしてオイラを除け者かよー。」
「しょうがないじゃん、矢口はまだ未成年なんだから。
アタシの店で飲ませるワケにはいかないね。」
そう、矢口はまだ十九歳だ。保田はこういう所にはこだわるタイプらしい。
すると安倍が矢口を軽くからかう。
「きゃはっ、そうだべさ。こっからは大人の時間だべさ♪」
「チェー、なっちまでコドモ扱いかよー。なんかムカツクー。…まあいっか。
オイラは新兵器の開発があるから、みんなテキトーにやっといて。」
そう言うと矢口はテーブルを離れて出口へと向かった。
真新しいバーカウンターに立つバーテンはさっきの間抜け顔のモヒカンだった。
そしてカウンターの隅ではメガネをかけた小太りのコックが
仕事終わりの一杯だろう、ちびちびと酒を飲んでいた。
保田の話によると、そのふたりは吉澤が旅立った後にやって来た新人だという。
間抜け顔のモヒカン頭がウド、小太りのメガネが天野というらしい。
「ワァーオウ、いらっしゃーい!どうぞ、どうぞ、ア゛ー…。」
ウドがやや興奮しながら三人に席を勧めた。
「…ねぇ、圭ちゃん。コイツ、ホントに大丈夫なのー?」
「人手が足りてたらこんなの雇わなかったんだけどね…。」
はたけの襲撃がこんな所にも影響していた。
従業員の中には怪我をした者もいれば逃げ出した者もいる。
そして何より、吉澤が旅に出てしまった。
いなくなってから始めて気付く、意外に大きな吉澤の存在。
しかし、いつまでもそんな事は言ってられない。
夢を掴むために旅に出た吉澤。
その帰って来る場所が寂れて潰れでもしたら話にならない。
だからこのふたりを新しく雇った。
ところがふたり合わせても吉澤ひとり分の働きすら出来ない。
保田の新しい頭痛の種だった。
「アタシはいつもの赤ワイン。カオリは?」
「カオリねー。ビール、コップに半分くらいでねー、楽しくなっちゃうのー。」
「じゃあ軽いカクテルにしよっか。」
「ううん。熱燗。」
「エ゛、エ゛ー!あ、あ、熱燗!?」
バーテンのウドは大慌てだ。そんな酒はここには置いていない。
その慌てぶりを見て飯田はカラカラと笑う。
「アハハハ、ウッソー。カオタン、てきとーでいいよ。」
「もー、カオリは相変わらずだなー…。なっちは何にする?」
安倍は棚やカウンターに置かれたボトルを興味深そうに眺めている。
「…なっちねー。そこの“銀座のレモネード”ってやつにするべさ。」
こっそり聞き耳を立てていた天野は大笑いだ。
「銀座のレモネードってなんだよ!これは“チンザノ”って読むの!アハハハ!」
「むかっ!なんだべ、圭ちゃん!この馴れ馴れしいやつは!」
天野にからかわれた安倍は不満げだ。
「おだまり、天野!お前なんか全然面白くないんだから!」
「……!」
保田に叱られた天野は何も言い返せない。それは明らかに核心を突いていた。
ちょうどその頃、矢口はまた船室に篭っていた。
目の前にあるのは矢口自慢のあの大砲。いや、その自慢はすでに過去のものだ。
確かにこの大砲の破壊力・射程・精度など、どれをとっても世界トップクラスだ。
しかし、辻にあっけなくはね返されてしまった。
やはり能力者には常識が通用しない。確かアイツも妙な能力を持っているはず。
「…弾き返せない程の貫通力、常識外れな破壊力が必要だ…。」
残された時間は少ない。矢口は急いで製造に取りかかった。
安倍と飯田、保田の三人は完全に出来あがっていた。
飯田は上目遣いで髪をかき上げる。保田は手元がおぼつかなくなっていた。
特に安倍が壊れていた。勧められるままにブランデーのストレートを飲んで
「あ゛あ゛あ゛ーーー!」
と叫んでよだれを零し、顔を真っ赤にして笑ったかと思うと急に泣き出したりした。
かなり酒グセの悪い三人だ。ウドと天野はいつの間にかいなくなっていた。
三人はそれぞれの恋愛感や思い出の歌など色々な事を話した。
すると保田が急に思い出したように安倍に話す。
「…そーいえばさ。カオリは知らないかもしれないけど、
みっちゃんと同じくらいの時に後藤もここに来たよ。」
それを聞いたふたりはびっくり仰天。一気に酔いが醒めた気分だ。
「なまらビックリだべさ!」
「エー!じゃあさー、つじって娘。も一緒にいなかったー?」
ふたりの変化に保田も驚く。こちらも酔いが吹っ飛んだ。
「何、どういう事?なんで二人ともその娘。の事、知ってんの?」
安倍と飯田は代わる代わる、保田にこれまでの事を説明した。
酒で鈍った思考力で保田はなんとか理解する。
「…そっか。みんなあの娘。に会ってたんだ。それで一緒になって…。
凄いね。あの娘。がウチらを導いてくれたんだ…。」
保田は感慨深げにグラスを傾ける。
安倍と飯田は微笑みながら全く同じ事を考えていた。
辻がいなければ、こうしてまた一緒になんていられなかったかもしれない。
「…それじゃふたりは急がなきゃね…、ってその前に…。」
保田はニタァ〜ッと笑って新しいボトルを手に取った。
「…もう一杯、いく?」
「ウン!」
「だべ!」
三人はそれぞれグラスを手に取った。
「「「か〜んぱい、ベイベー!」」」
全然、酔いは醒めていなかった。結局、三人は東の空が明るくなるまで飲んでいた。
「何やってんだよー、みんなしてー!」
矢口はカンカンだ。当然だろう。ひとりだけ真面目に先の事を考えていたからだ。
「…ちょっと、矢口。カンベンして…。カオリ、頭が痛いの…。」
「なっちもだべさ…。気持ちが悪いべ…。」
ふたりは完全に二日酔いだ。急がなければいけないにもかかわらず。
ところが保田はシャキッとしている。さすがに年季が違うらしい。
「圭ちゃんはどうすんの?」
安倍と飯田を先に船に乗せ、最後に自分の船に乗り込んだ矢口が尋ねた。
保田は優しく微笑んで自分の左足をさする。
「…今のアタシじゃみんなの足手まといになるから。でもアタシの代わりなら
アイツがいる。アタシはアイツを、吉澤を信じてる。もちろん、みんなもね。
…それに、誰かがみんなの帰る場所を用意しとかなきゃダメだろ?」
それを聞いた三人は互いに笑顔で顔を見合わせた。
保田にこれほどまで言わせる娘。に会うのも楽しみだ。
「オイラたちも絶対、帰って来るからね!そん時は裕ちゃんも、みんな一緒だよ!」
保田は中澤の居場所を後藤の話から推測していた。それは三人にも納得のいく場所だった。
「オウ!楽しみに待ってるよ!…チュッ。」
「オエー!」
「何するべさ!なっち、吐きそうだって言ってるべ!」
「ちょっとー、圭ちゃん、ヤメテよー。オエー…。」
三人はいつものノリだ。それが保田にとっては本当に嬉しかった。
保田は二隻の船が見えなくなるまで、ひとり朝もやの中で佇んでいた。
(頼んだよ、みんな…。)
外伝その2 完
>>737さん
ヤスの包丁が(w
次回の更新は 本編 第三章 第三話 です。
川#`〜`)||__日 ( #´ー`)__日 日__(`.∀´# )
( `. 3´)/ 〜♥ (^△^〜 ) (´△`●; ) ||(`△`; jl||
 ̄ ̄ ̄ ̄|====| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
____________占_占___________________ (∀´ )__
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外伝2いいねぇ〜
>>745‐747
(゚д゚)ウマー
749 :
名無し募集中。。。:02/03/13 15:00 ID:HirFuqur
a
hozen
あの壮絶な戦いの日の夜、島のそれぞれの町や村では
盛大なお祭り騒ぎが繰り広げられていた。
そして島を救った英雄の娘。たちを一目見ようと、
一言でもお礼を言おうと島の住民たちは花畑村を続々と訪れていた。
しかし辻・後藤・加護・吉澤の四人は村の病院に入院していた。
後藤と吉澤は瀕死の重体で意識が無い。
辻と加護もかなりの重傷なので比較的怪我の軽い、
それでいてこの島の出身である石川がその応対に追われていた。
注目を浴びた石川のテンションは上がりっ放しで最高潮。
“ハッピ〜♪”はもちろん、しまいには奇妙な踊りを踊り出す始末。
「ボイン、ボイン、ボイ〜ン♪」
「「……。」」
さすがにこれには島の住民たちも開いた口が塞がらなかった。
あさみも恥ずかしくてまともに見る事が出来ず、思わず両手で顔を覆う。
しかし、興奮からさめた石川は全く覚えていないというのだった。
後々これは島の勇者の踊りとして、毎年この日に踊られる事となる。
あの戦いから二日後の事だ。お祭り騒ぎはまだまだ続いていた。
後藤と吉澤は意識を取り戻した。辻と加護も順調な回復を見せる。
村の医師にはとっては信じられない四人の回復力だった。
そんな中、ユウキとソニンが別れを言いに病院にやって来た。
「オレ、和田さんに謝るよ。もう一回、修行させてもらえるように頼んでみる。」
ユウキは己の力の無さを痛感していた。
この程度の力では自分が信じた道を貫く事など到底ムリな話だ。
和田に名付けてもらった“ユウキ”という名前を汚してしまう。
だから今度は和田に認めてもらえるようになってから海に出る。
ユウキの新たな決意だった。一方、ソニンはどうかというと、
「…ホントはソロの方が良いニダ…。」
ひとりで帰って謝ると坊主頭にされてしまうかもしれない。
それが嫌なユウキに付き合わされてしまうらしい。
しかし口ではそう言ってはいるが、ソニンの方も満更ではない。
それにソニン自身も小湊に負けた事がショックだった。
こちらも修行のやり直しだ。
そんなふたりに後藤は優しい笑顔で頷き、和田への伝言を頼んだ。
世界一にはまだまだ全然届かなかった。しかし、守りたい大切なものを見つけた。
それを守る為に強くなりたい、いや、必ず強くなるという事を。
ユウキとソニンが旅立った次の日の事だ。
辻と加護はすでに退院してあさみの家に寝泊まりしていた。
義剛は自分の家か村の唯一の宿を薦めたのだが、
ふたりが石川と一緒にいたいと言うのでそれ以上何も言わなかった。
加護はすでに以前の元気を取り戻していた。
鍋の中に丸ごとのニワトリを入れたり、それを触った手で石川に触れたりと
普段通りのいたずらをして石川を困らせていた。
しかし、どうも辻の様子がおかしい。
いつもなら加護と一緒になって石川をからかうのだが、
ぼんやりと宙を見つめたり、大きく溜息をついたりしている。
加護はなんとか元気付けようと、色々話しかけるのだが完全に上の空だ。
「…きっとまだちゃんとケガが治ってないんだよ。
もうしばらくしたら、いつもの元気なののちゃんに戻るよ。」
「…うん、そやな。今はそっとしといたほーがええみたいやな…。」
石川にそう言われて加護はしばらく辻を見守る事にした。
あの戦いから五日が過ぎた。
後藤と吉澤もすっかり体調を取り戻し、病室からは笑い声が聞こえてくる。
「…んあー。それで、その時のけーちゃんの顔ったらさー、あははは…。」
「あははは、子泣きじじいって。…い〜なぁ〜。」
共通の知り合いがいれば話も盛り上がるというものだ。
それにふたりは同い年。そして互いにその実力を認め合う仲だ。
あっという間に打ち解けて、まるで数年来の親友のように見える。
後藤はいつの間にか眠りについていた。
(…本当によく寝るなー…。)
吉澤はその寝顔を見ながら変な所に感心していた。
するとそこへ辻が見舞いに訪れた。しかし、何やら思いつめた表情をしている。
「どーした〜、のの〜?…お熱、計りましょうか〜?」
吉澤は看護婦のマネをして辻を元気付けようと話しかける。
しかし、辻はうつむいたまま何も答えない。
(…まいったなー。…そうだ。ここはひとつ、世界のジョークで…。)
困り果てた吉澤が得意のジョークを言おうとしたその時だ。
小刻みに体を震わせながら辻が言葉を絞り出した。
「…ののも、つよくなりたいれす…。」
吉澤にはなぜ辻がそんな事を言うのか分からない。
「…別に辻は強くなくてもいいよ、戦うのはあたしとごっちんだけで…。」
「それじゃ、いやなのれす!」
「……!」
吉澤はその剣幕に驚いた。辻は目に涙を溜めて訴える。
「…ののがよわいばっかりに、みんなやむらのひとたちをきけんなめに
あわせてしまったのれす…。」
どうやら辻は自分が稲葉に勝てなかった事に責任を感じているらしい。
だから強くなる為に吉澤に鍛えてもらいたいというのだ。
普段はニブイ吉澤もさすがにそれを理解した。
「別に辻のせいじゃないよ。悪いのは全部あいつらなんだから…。」
「…れも、…れも…!」
辻だってそのくらい分かっている。勝てなかった事自体が問題なのではなかった。
目の前で村人たちが痛めつけられ、仲間たちがボロボロな体で戦っている。
それなのに自分は怖くて動けなかった。自分の力に自信が無かったからだ。
「…ののらって、…みんなを、…みんなのことを…!」
辻はうつむいたまま涙をボロボロと零す。
最後はまるで言葉になっていなかったが、吉澤にははっきりとこう聞こえた。
―――みんなのことをまもりたい―――
吉澤は何も言えなかった。辻の気持ちは良く分かる。
しかしだからといって辻を戦わせるのは本意ではない。
危険な事は自分に任せておけばいいという気持ちがあるからだ。
(…うーん、どうしよう…。)
吉澤がかける言葉を失い、困惑したその時だった。
「…いいじゃん、よっすぃー。鍛えてあげなよ。」
「ごっちん?」
後藤が目を覚ました。
いや、本当は辻が病室に入って来た時から気付いていた。
後藤は体を起こして辻を真っ直ぐに見据える。
「あたしも付き合ってあげる。でも今はお腹空いてるから午後からね。
…覚悟しろよー、手加減なしだからなー。」
「あい!」
辻は笑顔で涙を拭いて、病室から飛ぶように出て行った。
その後ろ姿を見つめるふたり。
「…いいの?ごっちん…。」
「んあー。あいつが強くなりたいって言ってんだから、好きにさせてあげようよ。」
後藤は満面の笑みで応えた。後藤は嬉しくて仕方がなかった。
辻が自分たちの事を守りたいと言ってくれた。
それは辻にとって、自分たちが何物にも代え難い大切な存在だという事だ。
そんな辻の勇気に何とかして応えてやりたいと思った。
「…いい、辻。あたしとごっちんが手本見せるからね。」
「へい!」
後藤と吉澤は病院を抜け出して辻の特訓に付き合っていた。
しかし、どちらかというとふたりは天才肌だ。
人に教えるのはあまり得意ではない。そこでとりあえず見て覚えさせようという訳だ。
吉澤は全身の力を抜いてリラックスした構え。
対する後藤は、さすがにまだ大剣は持てないらしく一本の普通の剣を両手で構える。
先に動いたのは後藤だ。間合いを詰めて上段から剣を振り下ろす!
それを小さくスウェーバックして見切る吉澤。そして素早く右の回し蹴りを繰り出す!
ゴッ!
後藤はその蹴りを剣の柄の尻で受け止めた。と、同時に吉澤は
右足をそのままに、下から後藤の顎めがけて左足を振り上げる!
「……!」
それを右に大きく上体を反らしてかわす後藤。
そしてそのままの体勢で下から吉澤の足を切り付ける!
バシュッ!
後藤の剣は空を切った。吉澤は左足を振り上げた勢いをそのまま利用して
後ろに手を付き、バック転をしてかわしていた。
ふたりは大きく距離をとる。その表情は楽しげに笑っていた。
「…すごいよ、よっすぃー!あの体勢から蹴りがくるなんて思わなかったー!」
「それはこっちのセリフだってー。あの二発目をかわして
しかも反撃されるなんて、けっこーショック…。」
ふたりは互いの強さを再確認した。それが楽しくて仕方がない。
「んあー、まぐれだってー。…もう一回、いくよー!」
「おっす!かかってこーい!」
ふたりが間合いを詰めようとしたその時だった。
「もう!はやすぎてぜんぜんみえないのれす!」
辻が両腕を組んでほっぺたを膨らませていた。
ふたりの攻防は僅か一瞬。まばたきするくらいの間だった。
いくら辻も強くなっているとはいえ、とてもついていけるようなレベルではない。
「「ご、ごめん…。」」
調子に乗っていたふたりは素直に謝る。自分たちが楽しんでいる場合じゃない。
やはりこれでは駄目らしい。後藤と吉澤は交代で辻の相手をする事にした。
あの戦いからちょうど一週間が過ぎた。旅立ちの朝だ。
とくに急ぐ旅ではないが、いつまでもこの島に留まっている訳にもいかない。
それに出来るだけ早く辻にあの戦いを忘れさせてやりたかった。
港には大勢の島の人々が詰め掛けていた。盛大な見送りだ。
辻・後藤・加護・吉澤の四人はすでにトロピカ〜ル号の上。
石川はあさみと義剛のふたりと別れを惜しんでいた。
「本当にいっちゃうの、梨華ちゃん?」
「ウン。だってアタシもみんなの友達だもん。…それにね。やりたい事見つけたんだ。」
「何だべか?やりたい事って。」
「アタシね、キャスターになる♪」
「「……。」」
あさみと義剛は石川のあまりにも突拍子もない言葉に開いた口が塞がらない。
しかし、石川は構わず晴れ晴れとした笑顔で話し続ける。
「きっとののちゃんは海賊王になる。そしてごっちんは世界一になる。
あいぼんも、よっすぃーもきっと凄い事をすると思うの。
だからアタシがそれを見て、ひとりでも多くの人にみんなの活躍を伝えるの♪」
あさみと義剛はやっと理解した。心の底から応援したくなるすばらしい夢だ。
ただアドリブの利かない石川がどこまで出来るか不安ではあるが。
石川は船に飛び乗った。そして集まった人々に小さく手を振り、お馴染みのあの言葉。
「チャオ〜♪ハッピ〜♪」
「「チャオー!ハッピー!」」
人々は船の影が見えなくなるまでその言葉を繰り返していた。
>>745-747さん
ヤッスー大活躍(w オモロイっす。
>>748さん
そう言ってもらえると嬉しい(w
なんせここはほとんどオリジナルだったので。
>>750さん
hozenに感謝です。
ヽ( ^▽^)ノ "
(へ ) (;0∩vT)∩ (Д゚l||)(Д゚l||)(Д゚l||)
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Д`] 从 `ё`) (´Д` )
| ∪ | || ̄| つ⌒ー
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( `D) (^〜^0;)>
三 ( ´Д) ミ/ (((^〜^0)
三 / つ // ∪ (゚D゚ )
765 :
_:02/03/16 23:35 ID:LszuAMNU
話はけっこー楽しみなんだけど「義剛」という単語が出てくるだけで
ムカツク。
頭の中で変換して読んでる。はやくチョッパー編始まらないかなぁ...
辻の特訓は船の上に場所を移して続けられていた。
甲板で後藤と吉澤は代わる代わる辻の相手を務める。今は吉澤が相手をしていた。
辻が吉澤との間合いを一気に詰める。
吉澤はその辻に狙いを定めて右足で前蹴りを繰り出す。
辻はダッキングでそれをかいくぐり、吉澤の右側に回りこんだ。
そして、がら空きになった吉澤の横腹に左のレバーブローを叩き込む!
(…やばっ!)
吉澤はとっさに辻の手を取り、それに体を巻き付けるようにして
辻を引きずり倒す。そして腕ひしぎ逆十字。
「ひーん!」
ガッチリと決まったそれから逃れる事は不可能だ。辻は吉澤の足にタップした。
吉澤は技を解いて立ち上がり、辻に手を差し伸べる。
「…もう!まらてはつかわないって、いったじゃないれすか!」
辻はほっぺたを膨らませて抗議しながら吉澤の手を取り立ち上がる。
「いやー、ごめんごめん。ついうっかりね…。あははは。」
吉澤は笑って誤魔化す。しかし、心の内では大きく動揺していた。
辻の成長のスピードは想像以上だ。
すでに余裕を持って相手する事が出来なくなっていた。
「…よーし、次は後藤が相手だぞー。」
「へい!」
続いて後藤が辻の前に立った。辻はペコリと頭を下げて構えをとる。
そんなふたりを吉澤は甲板に腰を下ろしながら見つめていた。
(…まったく、なんて元気だよ…。)
いつの間にか辻はそのスタミナ不足まで完全に克服していた。
吉澤と後藤は交代で相手をしているのだが、ひとりの辻のほうがまだまだ元気だ。
いくら病み上がりだという事を考慮しても、それは驚くべき事だった。
そんな三人を石川と加護はデッキの上から見下ろしていた。
「ののちゃん、元気出たみたいでよかったね♪」
石川はあんなに落ち込んでいた辻が元気一杯に体を動かして
汗をかいているのを見て、まるで自分の事のように嬉しい。
しかも時折、笑顔を見せて大きな笑い声まで聞こえるようになっていた。
「…うん、そやな…。」
「…あいぼん?」
加護の素っ気ない返事に石川は不思議そうにその顔を覗き込む。
「なんでもないわ。…ほな、ウチは作るモンあるさかい…。」
加護はそう言い残すと船室へと姿を消した。それを見送る石川。
(…どうしちゃったんだろ、あいぼん…?)
加護の姿は船底にある作業用の一室、通称“あいぼん工場”にあった。
(なんやねん、のの。最近全然、遊んでくれへんやんけ…。)
辻が後藤と吉澤を見舞いに行った日以来、ふたりの時間は全く無くなっていた。
食事の時でさえも辻は後藤や吉澤と戦い方について話をしていた。
確かに辻は元気を取り戻した。
それはもちろん加護にとっても喜ばしい事だ。
しかし、そのキラキラと輝く瞳に自分の姿は映っていないように加護には思えた。
もちろん辻にはそんなつもりは無い。
辻が特訓をしているのはみんなを守れるくらいの力が欲しいからであり、
その中には当然、加護の事も含まれている。
しかし不器用な辻はひとつの事にしか集中出来ないし、
仲間であると同時に良きライバルでもある加護には照れくさくて言いづらい。
その為、何も言って貰えない加護はそんな辻の思いに全く気付かない。
自分を置いて辻がどこか遠くに行ってしまうような気がしていた。
ふたりの間に微妙なすれ違いが起こり始めていた。
次の日の事だった。
加護がデッキに出ると、珍しく辻がひとりで海を眺めていた。
近付く加護に気付いた辻は笑顔でそれを迎える。
「のの、一体どないしたん?あない特訓ばっかりせんでもえーやんか。」
加護は正直に思っていた疑問をぶつけた。
やはりまだ話すのは照れくさい。辻は笑って誤魔化そうとする。
「てへてへ、ないしょなのれす。」
それを聞いた加護の表情が見る見る険しくなった。
「なんやねん、それ!ムカツクわ!」
「…あいぼん?」
「ウチらは仲間ちゃうんか!?友達なんちゃうんか!?
それやのになんで話されへんねん!?」
辻は加護のその剣幕に驚いた。懸命になって加護に謝る。
「ごめんなのれす、あいぼん!ののはつよくなりたくて、
つよくなってみんなをまもりたくて…!」
「そんなん、ののの役目ちゃうやろ!?ユニットには
それぞれ役割っちゅうモンがあるんちゃうんか!?」
「れも…、れも…!」
その時、甲板から辻を呼ぶ吉澤の声がした。
「おーい、辻ー!そろそろ始めるよー!」
辻と加護はそちらを振り返る。そして加護は冷たい視線を辻に戻した。
「…どないしたんや?はよ行ったらえーやんか。
強うなりたいんやろ?…はよ行けや!」
「あいぼん…。」
加護にきつくそう言われ、辻は今にも泣き出しそうな顔を
しながら甲板へと降りていった。加護は唇を噛み締めていた。
(…ちゃうねん!…ちゃうねん!)
自分の言いたかった事はそんな事ではない。
せっかく辻が本当の気持ちを話してくれそうだったのに、
頭に血が上って思いもよらない事を口走ってしまった。
加護は激しい後悔に襲われていた。そこに石川が姿を現す。
「どうしたの〜、あいぼん?あ〜、さてはののちゃんと喧嘩でもしたな〜?」
「…うっさいわ!」
ズン!
「…ウッ!」
加護のカンチョーが石川に炸裂した。石川はお尻を押さえて倒れ込む。
「そんなんちゃうわ、アホ!」
加護は大きな音を立てて船室へのドアを閉めた。ひとり取り残された石川。
(…ウウッ、シクシク…。な、なんで…?)
その数日後、船はあるひとつの島に立ち寄っていた。
石川の話によると、この島がイーストブルーの最後の島で
“グランドライン”の入り口の島でもあるという。
しかもあの偉大な海賊王が生まれ、そして処刑された街がある島だ。
この島から“大海賊時代”が始まった。
後藤と吉澤は、これから先は長い航海になるという石川の話から
必要な食糧などを大量に仕入れる為に早々と船を降りた。
辻にはどうしても見に行きたい所があった。それは海賊王が処刑された場所。
「…ねぇ、あいぼん。いっしょにいかないれすか?」
辻は加護を誘ってみた。あの日以来、ぎこちない状態が続いていた。
「…ウチはええわ。なぁ、梨華ちゃん。ちょっとウチに付き合ってんか?
色々と買い揃えたいモンがあんねん。」
「エッ…、ウ、ウン。」
加護は石川の手を引っ張るようにして町の中へと早足で歩いた。
「…あいぼん…。」
そのふたりの後姿を見送る辻。やっぱり自分は加護に嫌われてしまった。
今にも涙が溢れ出しそうだった。
>>761-764さん
いつも本当にありがとうございます。
ソニンの顔文字が結構ショッキングでした(w
>>765さん
ま、ソイツがいなかったらカン娘も無かったって事で。
@ノハ@
( ^▽)( ‘д )
 ̄|| ̄|| ̄|| ̄|| ̄|| ( ´D) \__(Д ` )
ハ@ ( T▽)
) (⌒
⊂_) )U
@ノハ@
( TD) (▽^;三;^▽) ( ‘д )
この街には海軍本部直轄の基地があった。
その基地を治めるのは本部直属の大佐たいせー。この街で生まれた男だ。
彼は以前、この街の幼なじみ数人と供に海賊として海に出た。
そしてそのユニットは世界の頂点を極めた。
そう、たいせーははたけと同じく海賊王つんくと行動を供にし、
そして最後はつんくを裏切ってその首を差し出す事で今の地位を手に入れた。
何故たいせーがつんくを裏切ったのかは誰も分からない。
いや、それ以前に誰もその事について調べようとする者はいなかった。
ほんの数人の娘。たちを除いて。
だが本来なら、いくら海賊だったとはいえ街の英雄でもあったつんくを裏切った
たいせーを街の人々がそう簡単に受け入れる事など出来はしないだろう。
しかし、たいせーには街の人々を従わせられるだけの力があった。
いや、人々はその誰もが気付かない内にたいせーによる支配を
まるで当然のように、ずっと以前からそうであったかのように受け入れていた。
そのたいせーの部屋にひとりの海兵が飛び込んできた。
「たいせー大佐、海賊がやって来ました!それもあのはたけ大佐の船を
沈めた海賊のようです!」
はたけの船に乗っていた海兵たちのほとんどがこの基地に来ていた。
そして彼らは、自分たちの船が沈められたのは小さな海賊団のせいだと話していた。
本当は浜崎のせいなのだが、それを言ってしまうと体裁を保つ為に
浜崎の討伐に行かなければならなくなってしまう。
そんな恐ろしい事はとても出来ない。出来れば二度と顔も見たくない女だ。
そこで出たのが辻と後藤、吉澤の名前だった。
確かに後藤も恐ろしいが浜崎ほどではない。現に浜崎には手も足も出なかった。
そして辻と吉澤には痛めつけられた個人的な恨みがある。
なんとも身勝手な話ではあるが、自らの保身を第一に考えた
彼らにとっては至極当然の話であった。
そして運悪く、三人の顔を知っている海兵が港の見張りに立っていた為に
見つかってしまったのであった。
入口に背を向けて腰掛けていたたいせーがその椅子ごと振り返る。
まず目がいくのはそのヘアースタイル。おでこは大きく禿げ上がり、
横も大きく刈り上げている。短いモヒカンといった感じだ。
そしてその顔のパーツといえば目・鼻・口それぞれ小さく、耳だけが異様に大きい。
海軍本部の大佐にしては線が細く、どことなく頼りない印象を受ける。
「…なんや、騒がしいな。どーせザコなんやから、そない慌てんなや。」
「ハ、ハイッ!失礼しました!」
飛び込んできた海兵は直立をして敬礼した。
「しゃーないな。突っ込む事しか知らんアホやったけど、
あれでも一応、仲間やったからな。はたけの仇は討たなあかんか。」
たいせーは海兵たちの報告を信じきっていた。無理も無い。
“三色”の大戦の終盤、後藤と安倍の一騎打ちをたいせーは見ていた。
あの伝説の娘。たちはたいせーにとってやっかいな存在だった。
その中でも安倍の戦闘力は脅威だった。だから平家を使って安倍を孤立させた。
三つにまで分かれたのは予想外だったが、計画はすべて順調だった。
しかしそれは恐れていたもうひとりの娘。と突然姿を現した娘。によって打ち崩される。
その突然現れた娘。が後藤だった。その力は安倍とほぼ互角の戦いを演じるほどだった。
それだけの実力があればはたけがやられても納得がいく。
しかしその後藤の力も今の自分ならば何という事もない。
「まずは港を閉鎖するんや。それからアイツにもちゃんと声かけるんやで。行くで!」
「ハイッ!」
辻はこの街のほぼ中央に位置する広場に来ていた。
港から真っ直ぐに続く道の終わりにこの広場はあり、
突き当たりにやぐらのように高い処刑台が建てられている。
その台の上には海賊王が愛用し、そしてそこに縛られたまま運ばれてきたという
世界でただ一つのひとり用寝台、通称“シングルベッド”が置かれていた。
そして今では多くの人々が訪れる有名な観光スポットとなっている。
ここであの偉大な海賊王が処刑され、大海賊時代が始まった。
処刑台も“シングルベッド”も月日の経過と風雨に晒された事により
かなり傷んではいるが、その持つ重い歴史に圧倒されて辻の気持ちは高ぶっていた。
「…すごい、…すごいのれす…!」
なんとかと煙は高い所が好き、ではないが、放送禁止とまで言われた辻だ。
どうしてもあの“シングルベッド”に触りたく、
そして横になりたくなってしまった。
こうなると辻は自分を抑える事が出来ない。
(てへてへ、ちょっとくらいいいれすよね…。)
多くの人々が見守る中、辻は処刑台を上り始めた。
「…よっこいしょっ!」
吉澤は担いできた大きな荷物を船に積み込んだ。
そして陸に立つ後藤に振り返る。
「これで全部だっけー?」
「うん、そーだよー。」
「OK牧場!」
吉澤は軽い身のこなしで船から陸へと飛び移る。
「それじゃあさー、うちらも例の場所、行ってみよっか?」
「んあー、後藤はあんまし興味無いけどねー。」
「まあまあ、せっかく来たんだし、ついでだよ。ついで。」
あまり気のすすまない後藤の背中を吉澤は後ろから押して歩き始めた。
「…そーいやさー、ごっちんは気付いてた?
辻と加護の様子がおかしかったの…。」
「うん。知ってたよー。…でもあいつらふたりの問題だからねー。
自分たちで解決するしかないと思うんだー。」
「…そっか、うちらが口出しする話じゃないよね…、
ってごっちん、自分でも歩けよー!」
後藤はずっと吉澤に体重をかけて押されるがままだった。
「あはー、だってこのほーが楽なんだもーん。」
加護と石川は街で一番大きなデパートに来ていた。
「なぁ、梨華ちゃん。これなんかののに似合うんちゃうかな?」
「あっ。あのマネキン、ののにそっくりやんか。めっちゃオモロイわ。」
さっきから加護が口にするのは辻の事ばかり。それを石川は微笑ましく見つめていた。
(もう、素直じゃないんだからっ♪)
色々見て回ったふたりだったが、まだ何も買ってはいない。
歩き疲れたふたりはアイスを買ってベンチに腰掛けていた。
「…そーいや、ののは八段アイスが好きやったな…。」
加護がアイスを見つめながら溜息をつく。そんな加護の顔を石川が覗き込む。
「あいぼん、意地張ってちゃダメだよ。喧嘩するのは悪い事じゃないけど、
ちゃんと話合わなきゃ。ののちゃんにも話せなかった理由があるんだと思う。」
加護は石川の顔をじっと見つめていた。
とその時、石川のアイスを持つ手を下から押し上げた。
「キャッ!」
不意をつかれた石川の顔は自分のアイスでベットリだ。
「コラッ!あいぼん!」
石川は加護を叩こうとするが、加護はすでにベンチを離れて石川を見て笑っていた。
「あははは…。まさか梨華ちゃんに説教されるとは思ってへんかったわ。
せやけどありがとな。ちょっと待っててや。買うてくるモンあるさかい!」
そう言うと加護は元気に跳ねるように走っていった。それを見送る石川。
(ウウッ…。何もこんなコトしなくても…。)
>>773-775さん
いつも本当にありがとうございます。
とくに775なんて書き足りなかった
トコまでフォローして貰って感謝感激です。
,一-、
┏━━┓
三\(; ゚Д゚)/ ┃ ┃つ
/|_____
|_____/| (´D` )
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/ ⊃∪ \
@ノハ@
( ^▽)○ ( ‘д ‘) ○
⊃∇ ⊃∇
辻は処刑台の上に立っていた。空は透き通るように青く雲ひとつない。
真っ直ぐ先に海が見える。そこから来る潮風が心地良い。
(かいぞくおうはさいごに、このけしきをみたのれすね…。)
珍しく辻は感慨深げだ。しかしそれも長くは続かない。
辻はぴょ〜んと飛んで“シングルベッド”に寝そべった。
「…う〜ん。おもってたより、ねごごちはわるいれすね…。」
当然だ。布団もシーツも何も敷いていなければ、あちこちガタもきている。
それでも辻は何度か寝返りをうってみる。
少しでも憧れの海賊王の気持ちに近付いてみたいらしい。
その時だった。
ガシャン!
「ぐっ…!」
ベッドに横たわる辻の首がガッチリと固定されてしまった。
「おもろいやっちゃなー。わざわざ自分から首を当てがっとるなんて…。」
辻は声の主を睨み付ける。それはあのたいせーだった。
この“シングルベッド”の枕元には海賊王が処刑された当時のまま、
首を固定して動けなくする留め具が残されていた。
それをたいせーはそのまま利用したのだった。
広場はあっという間に海兵たちで埋め尽くされた。
さすがに本部直轄基地の海兵たちだ。
その動きは統制がとれて一糸の乱れも無い。
「ふーっ、ふーっ!」
辻は渾身の力で逃れようとする。しかしビクとも動かない。
当然だろう。あの海賊王も外す事が出来なかった代物だ。
最も彼には外すつもりなど毛頭無かったが。
「はたけの仇は討たせてもらうで。せやけどひとまずお前には
おとりになってもらうわ。仲間をおびき寄せる為のな…。」
たいせーはいやらしくニヤリと微笑んだ。
「お前ら、これより小娘。海賊の処刑を行う!大々的に宣伝するんや!
こいつの仲間がやってくるようにな!」
「「ハイッ!」」
数人の海兵が大声で叫びながら広場を飛び出す。
辻の体に戦慄が走った。そうだ。この男は海軍だ。
海軍の大佐を倒した自分たちが狙われるのは当然の事だった。
その事について全く考えていなかった。
そして今、自分は人質として捕われている。
辻はちぎれそうになるくらい強く唇を噛み締めた。
(ののは…!ののは…!)
後藤と吉澤はふたり並んで歩いていた。
すると広場の方からひとりの海兵が大声で叫びながら走ってくる。
「今から処刑を行うぞ!小娘。海賊の処刑だ!」
それを聞いたふたりは驚きを隠せない。後藤は吉澤の顔を見る。
「小娘。海賊って、まさか!?」
「うん!とりあえず、あいつとっ捕まえて聞き出そう!」
吉澤はそう言うやいなや、素早くその海兵に近付いて腕を後ろに捻り上げ、
そのまま路地裏に引き摺り込んだ。そこで後藤が大剣を海兵の喉元に突き付ける。
「おい、どういう事だ!?詳しく教えろ…!」
加護と石川はデパートを後にして処刑台広場の方へと向かっていた。
「ねぇ、あいぼん。何買ったのか教えてよ〜♪」
「へへっ、内緒や。…それより梨華ちゃん、なんか向こうが騒がしいな。」
処刑台広場から海兵が街の人々に向かって叫びながら走ってくる。
「小娘。海賊の処刑だ!派手にやるぞ!」
それを聞いたふたりは互いに顔を見合わせる。
「「まさか!?」」
辻は何度も首の留め具を外そうと力を込めるがビクともしない。
「無駄や、大人しゅうしとれ。心配せんでも仲間も一緒に殺したるさかい。」
(…みんな、きちゃらめれす…!こないれくらさい…!)
その時、港からの入口に立つ海兵たちが数人一度に吹っ飛んだ。
「「うわっ!」」
海兵たちの隊列を乱したのはふたりの娘。そう、後藤と吉澤だった。
「つじ!今、助ける!」
「待ってろよ!すぐ行くから!」
ふたりの強力な娘。の襲撃によって海兵たちは後退を余儀なくされる。
それを見たたいせーは怒り心頭だ。
「あいつは…、後藤か!お前ら、何しとるんや!取り囲んでやってまえ!」
他の入口を見張っていた海兵たちも動員してふたりを取り囲む。
ここの海兵たちははたけの時とは違って体調は万全だ。
いくら後藤と吉澤でもなかなかその厚い囲みを突破する事が出来ない。
その時、手薄になった入口から加護と石川が姿を現した。
ビチイッ!
「ぐわっ!」
石川が海兵にムチを叩き付けた。海兵が顔を押さえて地面に転がる。
「ののちゃん!すぐ助けるからね!」
まただ。自分が情けないばかりに、またみんなを危険に晒してしまった。
自分の命なんかより、ずっとずっと大切な仲間なのに。
もう我慢が出来ない。辻の頬をくやし涙が伝っていた。
「…みんな、もういいのれす…!ののをおいてにげてくらさい…!」
「うるさい、黙れ!」
(ごとうさん…!?)
後藤が海兵を数人一度に叩き切る。
「あたしはお前を守るって決めたんだ!だから絶対に守る!」
吉澤が海兵を蹴り飛ばす。
「お前、あたしに諦めるなって言っただろ!だからお前も諦めんなよ!」
石川が海兵にムチを叩き付ける。
「ののちゃんアタシの事、大切だって言ってくれたよね!
アタシにだってののちゃんが大切だもん!だから頑張って!」
「みんな…。」
それぞれの自分への思いが胸に染み渡る。体が震えそうになるくらい嬉しい。
しかしただひとり、押し黙ってうつむいている娘。がいた。加護だ。
(…やっぱりあいぼんはのののこと、きらいになったのれすね…。)
別に辻は自分がどうなろうと構わない。しかし加護との事だけが心残りだ。
その時、加護が顔を上げた。うっすらと目に涙を浮かべている。
「フザケんなや、のの!」
(…えっ…!?)
「先に死んでまうモンはええわい!せやけどな!残されたモンは
どないすればええねん!?残されたウチは一人でどないしたら
ええんや!?お前のおらんユニットなんか…、お前のおらん世界なんか、
面白くもなんともないんや!」
(あいぼん…!)
加護は懐からパチンコを取り出し、海兵に向かってそれを弾く。
「待っとれ、のの!今助けるから!ウチが絶対に助けるから!」
「…あいぼん…!」
良かった。自分は加護に嫌われている訳ではなかった。
それが分かっただけで充分だ。もう何も思い残す事は無い。
「…あいぼん、…みんな、ありがとう…。」
辻は涙ながらに微笑んだ。
「……!」
それを見たたいせーは驚愕した。どんなに大物で極悪だった海賊だろうと、
ひと度処刑台に上れば恐怖し命乞いをするものだ。それをしなかったどころか
笑った人間をたいせーはひとりしか知らない。そう、あの海賊王だ。
(…こいつは、今殺しとかなアカン…!)
たいせーは腰から剣を抜き、それを大きく振り上げた。
>>783-786さん
すごい、いつもホントに高いクオリティでありがとうございます。
次回の更新はここの話のクライマックスです。
Σ ( ´D` ) |
⊂/⌒\⊃ (j`_ ` j)
|___ ∪∪___| ( )
ほぜーん
(D` )ノ
(0^〜^)( ´Д)__/ (Д゚ )(Д゚ ) ∩∩ ̄
( ´D`)ノ @ノハ@
∩∩ ̄ ( ゚Д) 〜⌒ヾ__(▽^ ) ( ‘д ‘ )
その時だった。
「セクシーーー、ビーーーム!」
――――――ドオ!
広場一帯が青白く輝いた。天空を光の帯が駆け巡り処刑台を打ち抜く。
ボッカーーーン!
その光は処刑台だけにとどまらず、後ろに建ついくつもの建物を貫いて
遥か彼方へと消えていった。処刑台は崩れ落ち、さらにその上に
後ろにあった建物の瓦礫が落ちてくる。
すべてを打ち抜く貫通力と圧倒的な熱量、破壊力。
広場にいた人々はその光が発せられた元を辿る。
そこに立つのは背の低い金髪の娘。と大きな黄色い熊。そう、矢口としげるだ。
「キャハハハッ、どーだっ!この完全なオーバーテクノロジー!
見様見真似で造ってみたけど大・成・功!オイッ!もう一発ぶっ放せ!」
『ダメだ、真里!今ので砲身が焼け焦げてもう撃てない!』
しげるが後ろで支えている大砲の砲身がドロドロに溶けていた。
どうやら強力すぎる破壊力にその砲身自体が耐え切れなかったらしい。
「チクショー!たった一発だけかよ!仕方ない、こっからは白兵戦だ!いくぞ!」
『オウ!』
後藤はいきなり現れた矢口の姿に驚きを隠せない。
「やぐっつぁん!?なんで…?」
「オイッスー!ごっつぁん、ヒサブリ!こないだはゴメンね、
って、そんなん後だ!早く辻ちゃん助けてやりな!」
矢口は笑顔でそう答えると、しげると供に海兵の群れに飛び込んだ。
そうだ。辻の体は山のように積まれた瓦礫の下だ。早く助け出さないとまずい。
すでに加護・石川・吉澤の三人は瓦礫をどかしにかかっている。
後藤が駆け寄ろうとしたその時だ。ひとりの娘。が風のように現れた。
「任せるべさ!」
ドン!
その娘。の金棒のひと振りによって瓦礫の山は一瞬にして消し飛ぶ。
同時になにやら痩せた男のような物も吹っ飛んだようだ。
後藤はその金棒を手にした娘。の姿に我が目を疑う。
「なっつぁんまで、なんで…!?」
そう、あの三色の最後で互いに命を削りあった相手。安倍なつみだ。
「ヒサブリだべさ、ごっつぁん。詳しい話は後だべ。
まずはこの娘。を助けるのが先決だべさ!」
瓦礫の下から現れた辻はぐったりとして動かない。どうやら気を失っているようだ。
安倍が矢口の加勢をする為に海兵の群れに飛び込む。
「ごっつぁん!ここはウチらに任せて、早く辻を連れて港へ行くべさ!」
「でもこの様子じゃ多分、港は閉鎖されて…。」
これだけ訓練された海兵たちだ。
それを見落としているとは後藤には考えられない。
そこへ数人の海兵を相手にしながらの矢口の声が飛ぶ。
「大丈夫!オイラたちの仲間がちゃんと待ってるから!」
「……!」
後藤は迷っていた。一度は敵として戦ったふたりを信じていいのか?
しかし、こんな危険を冒してまで自分たちを罠にはめる理由などない。
「ごっちん!信用して良いの!?」
吉澤が後藤に問いかける。それに答えたのは石川だ。
「平気だよ、よっすぃー!矢口さんは信用出来るよ!」
「梨華ちゃん…!」
そうだ。迷う事など何もなかった。このふたりも、自分たちも思いはひとつ。
辻を守る。
それだけだ。その気持ちに疑う所は何も無い。
矢口と安倍。自分を眠らせるくらいに痛めつけたふたりが力を貸してくれる。
これほど心強い事は無い。後藤は心を決めた。
「加護と梨華ちゃんはつじをお願い!」
「よっしゃ!」
「ウン!」
加護と石川が辻の両脇を抱えて立ち上がらせる。
「よっすぃーは前を突破して!後ろはあたしが引き受けた!」
「OK牧場!」
吉澤がもの凄い勢いで海兵の囲いを突き破る。それに続く辻を支えた加護と石川。
そして追いすがる海兵を後藤が切り倒す。
「ヒュ〜♪なかなかのコンビネーションじゃん。しげる、援護だ!」
『オッケーイ。』
矢口に促され、しげるは大きく息を吸い込んだ。
ウオォーーー!
しげるの雄叫び!
海兵たちの身が縮こまり、その動きが止まった。
まるでマネキンのようになった海兵たちの間を五人は真っ直ぐに駆け抜ける。
「ありがとう、ふたりとも!この借りは必ず返すから!」
後藤が矢口と安倍に振り返って小さく頭を下げる。ふたりは笑顔でそれを見送った。
僅かに追いすがる海兵たちを蹴散らしながら五人は港へとやって来た。
そこに立つのは娘。にしてはかなり長身なほうの吉澤よりも背が高く髪の長い娘。
後藤・石川・加護・吉澤の四人は初対面だがその容姿だけで分かる。
あの矢口と安倍の仲間。そう、伝説の娘。のひとり、飯田圭織だ。
飯田は我が娘。を見るような優しい眼差しで辻に近付く。
「つじー。すごいじゃーん。こんなすごい仲間に巡り合えてさー。
カオリ、ホントに嬉しーよ。」
そう言いながら飯田は辻の頭を右手で優しく撫でる。
気を失っている辻が心なしか微笑んだように他の四人には思えた。その時だ。
「飯田さん!ウチ、加護っていいます!ウチの…!」
「そっかー。今おじさん、海軍の船、沈めてるトコだからいないんだー。ゴメンねー。」
そう言うと飯田は加護の頭も優しく撫でた。思わず加護の顔にも笑顔が零れる。
(そっか。今は会えへんけど、旅さえしとれば、生きてさえおれば、
いつかまたきっと会える!今はののを安全なトコに連れて行くのが先や。)
そんな加護の気持ちをまるで読んだかのように飯田は話す。
「そう、生きてさえいれば、諦めてさえいなかったら
絶対にまた会えるよ。ウチら三人だって、圭ちゃんだってそうだったから。」
それを聞いた吉澤は目を丸くする。
「えーっ!オバチャンに会って来たんですかーっ!?」
「うん、圭ちゃん、言ってたよ。いつか必ず帰ってくるみんなの事を待ってるって…。」
五人はトロピカ〜ル号に乗り込んだ。辻はまだ気を失っている。
陸に立つ飯田が四人に笑顔で呼びかける。
「みんなー!これからもさー、つじと仲良くしてやってねー!」
四人は笑顔で頷いた。とくに加護は強く大きく頷いていた。
(のの、お前はホンマに凄いやっちゃで…。)
後藤と吉澤、そして戦闘が得意でない石川までもが命懸けで危険に立ち向かった。
それどころではない。あの伝説の娘。の三人が辻を助ける為に駆けつけた。
辻が羨ましい?辻にやきもちを妬いている?
そんなんじゃない。
自分が一番、辻の事を考えている。自分こそ一番、辻を守ってやりたいと思っている。
辻の為ならいくらでも自分の命など投げ出せる。
友達だと言ってくれたから。辻の事が大好きだから。
(ウチが一番の友達なんや!一番の親友なんや!)
飯田は足を肩幅に開いて大きく息を吸い込み、うつろな目をして叫んだ。
ディアァァァーーー!
海から陸に向かって吹いていた風がピタリと止んだ。すると今度は陸から海へと
強い風が吹き始めた。それに帆をいっぱいに膨らませてトロピカ〜ル号は海に出る。
(頑張れよ、ののたん!また会おうね!)
急に吹き始めた強風に矢口と安倍は互いに顔を見合わせる。
「カオリ、上手くやったみたいだね!」
「うん!後はこっちを片付けるだけだべさ!」
矢口と安倍、しげるの奮闘によって海兵たちは完全に打ち崩されていた。
雌雄はほぼ決している。ふたりに残された目的はあとひとつだけ。
「…この風は飯田の仕業か。全く、用意周到なこっちゃで…。」
瓦礫を掻き分けてたいせーが立ち上がった。
「年貢の納め時だよ!オイラたちふたりにひとりで勝てるとでも思うのか!?」
「そうだべさ!つんくさんの仇、今こそ討つべさ!」
矢口と安倍はたいせーに向かって身構える。しかし、たいせーは余裕の笑みだ。
「まーな。確かに安倍ひとりでもしんどいのに、うるさいのがおったら
敵わんわ。せやけど、いつオレがひとりやって言った?」
「「……!」」
ふたりにはたいせーが何を言っているのか分からない。
裏切り者の三人の内、すでにふたりが死んでいるにも関わらず。
その時だった。
バシュッ!
「やぐち!」
突然現れた影に矢口の首が切り落とされた。地面に転がる矢口の首。
と、それを追いかける体。首を拾い上げて小脇に抱える。
「ビックリしたー!イキナリ何すんだよー!」
そうだ。矢口の能力は“バラバラ”だ。
知ってはいても心臓に悪い。安倍はほっと胸を撫で下ろした。
しかし、そこに立つ影、いや、娘。の姿に我が目を疑う。
「…そんな、…まさか!?」
矢口も自分を切った娘。の姿に気付く。
「まさか…!?まさか…!?」
忘れるはずが無い。見間違えるはずが無い。
少し髪が伸びてこそいるが、その顔と両手に構えた二本の刀。
あの時のあの娘。そのままだ。
「…ちっ、能力者か。やっかいな…。」
「遅かったやないか、市井…。」
たいせーがニヤリと笑う。矢口と安倍には信じられない。
しかし、目の前に叩きつけられた非情な現実から逃れる術は無かった。
「サヤカ!オマエ…、オマエ、本当に裏切ったのかよ…!?」
飯田の風に吹かれたトロピカ〜ル号からはみるみる島が見えなくなっていた。
これだけ離れてしまえば簡単に追い着かれはしない。
しかもあの娘。たちの援護付きとくればもう安心だ。
辻を囲むように四人は甲板に座り込んでいた。
「…うーん…。」
どうやら辻が意識を取り戻したようだ。四人はその顔を覗き込む。
辻は体を起こしてそれぞれの顔を順番に見た。笑顔で見守る四人。
すると急に辻はボロボロと涙を零して泣き出した。四人はあっ気に取られる。
「どないしたんや、のの?ワケ分からんで…。」
「…ひっく、ひっく、のののせいれ、またみんなをきけんなめにあわせて
しまったのれす…。ののはおちこぼれなのれす…。ひっく、ひっく…。」
どうやら辻はまた自分に責任を感じているらしい。
「ごとうさんは、すごいおーらがあるのれす。りかちゃんは、かわいくてすたいるが
いいのれす。よっすぃーは、かっけーくておとこまえなのれす。あいぼんは、
あたまのかいてんがはやくてけいさんずくなのれす…。」
(計算ずくっちゅーのはホメ言葉なんか?)
「…それなのに、ののがこのゆにっとのせんたーれいいのれすか…?
ほんとにそれれいいのれすか?…うわーん!」
辻は大声で泣き出した。
「なんやねん、のの。そないアホな事、言うとったら承知せーへんで。」
(…あいぼん?)
加護が辻の両手を優しく握る。そしてお揃いの紅白の手袋を取り出した。
「ホラ。コレ片っぽづつしよーや。友情のあかしやで。照れくさいけどな…。」
吉澤が優しく辻の肩を抱く。
「あたしはお前に会わなかったら、たぶん一生、あのレストランで自分を抑えたまま、
オバチャンを苦しめたままでいたと思う。お前はあたしとオバチャンの恩人なんだ。
だからあたしはお前についてくって決めたんだ。」
石川がハンカチで優しく辻の涙を拭く。
「そーだよ♪アタシだって、みんながいなかったら今頃どうなっていたか分かんない。
でもののちゃんがアタシを信じてくれたから村を救う事が出来たと思うの。
アタシもののちゃんを信じてる。ののちゃんの事が大好き♪」
後藤が優しい笑顔でみんなを見守っている。
「あんましつまんない事、言ってんじゃないの。みんなお前に出会って変わったんだ。
お前がいなかったら集まらなかった。みんなお前に導かれたんだ。」
「…みんな…!」
辻の瞳からより大きく、より熱い涙が溢れ出す。
(いいらさん!ののはれう゛ゅーして、ほんとによかったのれす…!)
最高だ。最高の仲間たちだ。海に出たおかげでこれほどまでの、自分の身に余るほどの
素晴らしい仲間に巡り会う事が出来た。このみんなとなら歌える。
そう、あの海賊王が作詞作曲をし、すべての人々に愛されたあの歌を。
HOー、ほら行こうぜ!そうだ、みんな行こうぜ!…
五人の歌声は風に乗って遥か遠くまで、いつまでもいつまでも響き渡っていた。
ワン☆ピ〜ス! 第一部 完
以上で第一部イーストブルー(ハロプロ・UFA)編終了です。
これから辻たちのユニットはグランドライン(芸能界)の文字通り荒波に乗り出します。
やっぱり復活、市井紗耶香。詳しくはもうひとつの物語で語られます。
それから出てこなかったメンバーは、もちろんこの先に出てきます。
しかし、思ってたよりも長かった(w もしかしてこの板で一番長いかも。
結構しんどかったんで、若干、燃え尽きた感も正直あります。
ここで終わるのも綺麗かな、なんて思ったりして。
なにしろ文が下手くそなのが非常に痛い(w そんな訳で再開は今のところ未定です。
読んで下さった方々、保全して下さった方々に感謝です。
そしていつも素晴らしいAAを提供してくださった保全さん。
あなたのおかげで楽しく続ける事が出来ました。ありがとうございました。
ここではちょっと容量が足りないので、再開は別スレですると思います。
その際はこっちにURLを貼り付けます。
それではまた他の氏にスレを乗っ取るその日まで。
おつかれー、すげー面白かったよ
やっぱ、こーいう話好きw
書き慣れてる感じがする反面、適当にバラまかれた漫画ネタの
ギャップが、個人的にツボにハマっておもろかった
次回作、期待してます。落ちたら、総合スレか何かにURL張ってね
出来れば、圭たんの出番も増やしてねw
三( ´Å)三( 〜^◇^) Σ(Д ` )__/ (Д゚ )(Д゚ )
@ノハ@
(^〜^0) (▽^ )(D- )(‘д ‘ ) (Д ` )三 (^◇^〜 )(´ー`● )__┃
彡 彡
彡 《 《 ( ( ( (皿 ゜ )
_ ( ;●´ー)┃ \ ヽ^∀^ノ /
(^◇^〜)⊂ | | ⊃ ⊂ ⊃
@ノハ@
\(0^〜^) \( ‘д ‘) \( ´D`) \( ´Д`) \( ^▽^)
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/ | | | |ヽ
(・-・o川 ・・・お疲れ様でした・・・
と u )
宜 (⌒)(⌒)
/ | | | |ヽ
(・-・o川
(ゝ と )
宜 (⌒)(⌒)
びみょーに違うところが好き
818 :
_:02/03/30 16:50 ID:YXnCurRK
えーん、また書いてよーん
チョッパー編楽しみにしてるんだよー
819 :
名無し募集中。。。:02/04/01 19:02 ID:ReEtCWD6
保全age
保全
hozen
ほぜん
ホゼン
ほじぇーん
825 :
名無し募集中。。。:02/04/12 19:13 ID:QSpL7lUB
保全age
久々に来てもうないかと思ってたらまだ生き残ってた(w
>>810さん
全然慣れてないっすよ。コイツがお初です。楽しんでもらえて幸いです。
>>811-816さん
怒涛のAAオモロイっす。
>>816は「コンコンを宜しく」ってことっすかね?
それならOK。コンコンはこの後出てきます。
>>818さん
そうです。ビミョーに違います。
>>817さん
そうっすね。やっぱ一番好きなエピソードを書かない訳にはいかない。
他、保全目的の書き込みに感謝です。
なにかと色々バタバタしていたせいでこの板にすら来れなかった。
待ってる人なんてほとんどいないと思うけど、ほんの少しでも
いらっしゃったら続けたいと思います。
とりあえず、来週あたりに再開の予定です。