452>>
「ごっごめんなさい、ごめんなさい……。」
子供のように泣きじゃくる後藤。
外見からは想像もつかないその姿に、市井の心は揺らいだ。
可愛い・・・。
とっさに浮かんだその気持ちを振り払うが、後藤の涙を見るとますますその想いは
強くなるのを感じた。
誰だってミスはおかす。しかし今回の事は市井がしっかりしていれば未然に防げた
事だった。それだけに、市井は責任を感じている。
自分の中に芽生えた後藤への気持ちを、市井はその罪悪感とすりかえることで納得
しようとしていた。
「後藤、もういいよ、顔上げな。」
ハンカチでそっと後藤の涙をぬぐってやる。
そのやさしさがうれしいのか、泣きながら笑おうとするが、ますます泣けてしまう。
「ひっ、うっ・・・ご、ごめんなさい。」
「後藤がこんなに泣き虫だったなんてね。意外だったよ。」
泣き笑いの顔も可愛い―。
市井は自分の胸の鼓動が早くなるのに戸惑った。
「いっ、いちーさん…ホントに、ひっく、ごめ…。」
「それ以上言わないの。さ、泣き止んでよ。でなきゃこっちが泣きたくなるから。」
市井は思わず人差し指で後藤を制した。
濡れたような後藤の唇を指でくすぐると、後藤はびっくりしたようにようやく泣き
止む。そのまま、涙で潤んだ瞳で市井を見つめた。
「市井…さん?」
「…。」
無意識の行動だった。市井は、そっと手をそえた後藤の唇に、自分の唇を重ねていた。
ほんの少し、触れるだけのキス。
しかしその瞬間は、時間が止まったような気がした。