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「え?」
「え?」
「え?」
3方向から全く同じ疑問符つきの音がほぼ同時に聞こえる。
「サヤカ?」
不思議そうに尋ねるナツミ。そして、ヨシザワヒトミはすぐさま笑みを
戻す。
「まだ、2度しか会ったことのない客に向かって『ヒトミちゃん』だなん
て、馴れ馴れしいですね」
そして、そのヒトミに背後に立つ少女は私と同じように唖然としていた。
「いや、馴れ馴れしいってあんまりいい言葉じゃないですね。そうじゃなく
て、私すっごく嬉しいんですよ。あ〜、私日本語下手だなぁ‥」
ヨシザワヒトミは慌ててそう付け加えていた。私は少しだけ我に返り、
その声の方向を見る。
「すいません。つい、うっかり‥‥」
とりあえず笑う。上手く笑えたかどうかはわからない。
「んも〜、ビックリした。サヤカ、今日やっぱヘンだよね」
ナツミが隣で言う。
「サヤカさんって言うんですか。他に何かヘンなことあったんですか?」
ヒトミがナツミの方を見て尋ねる。
「それがね、数分間、宇宙と交信したみたいにボーッとしてたの、さっき」
ナツミは相手が客であっても気が少しでも許せる人間だという直感が働く
と、急にタメ口になる。その相手が年上でも年下でも変わらない。
純粋といえばそれまでだが、少々失礼な気もする。
「宇宙と交信ですか?おもしろい表現ですね」
「他のバイトの子でしょっちゅうボーッとしてる子がいて、その時、私はそ
んな風に言うんだけど、サヤカもちょうどそんな感じだったんだよ」
「へえ、そうなんですか。でもサヤカさんってそういう人には見えないけど
なぁ」
ナツミとヨシザワヒトミ――店員と客という離れた関係であるにも関わら
ず、ちょっとした友達と交わしているような軽いやりとりは続く。
私はそのヒトミの後ろに隠れるようにして立つ少女をちらちらと見ていた。
向こうも私のことに気づいているようだ。同じように私をちらちらと見て
いる。そしてこうしてこんなところで出会ったという事実に対して、愕然と
している。
だから決して人違いではないことを確信した。
そのヒトミの後ろにいる少女は、”ヒトミ”だった。
私と一緒に”マリア”で働いている新人のヒトミだ。
「おつりは1248円になります」
私を肴にした雑談を終え、ナツミがヨシザワヒトミに手渡す。
「ありがと、じゃ、また来るね」
そう言いながら出ようとするヒトミに対して、動こうとしないもう一人の
ヒトミ。一完歩でヒトミとヒトミはぶつかった。
「どうしたの?リカちゃん?」
ヨシザワヒトミは硬直しているヒトミに向かって眉をひそめながら言った。
「う、ううん、行こ。ヒトミちゃん‥‥」
我に返ったのか、今度はリカと呼ばれたその少女は、一瞬私の顔を再度見
て、ヒトミの前に出て先に店を出た。
「ありがとうございました!」
ナツミはお決まりの言葉を言う。
しかし、私はそのお決まりができずに去り行く二人の少女の後姿を呆然と
眺めていた。