小説『OLやぐたんにせくはらするのだぴょーん』

このエントリーをはてなブックマークに追加
792L.O.D
タクシーに飛び乗った保田は
考えられる限りの後藤の行動をシュミレートする。
その中で得られた答えは
・・・・・・どれも確証のない物ばかりだった。
きっと自分の所にはやってこないだろう。
吉澤の所に行くだろうか。
保田は吉澤の気持ちも知っていた。
一つの願いを込めて
電話をしてみた。
『はい』
「あー、吉澤、保田だけど」
『分かってますよ』
明るい笑い声。
「あんさー、、、後藤がさ」
『?』
「紗耶香にフラれてさぁ・・・・」
『はぁ、、、』
「携帯つかながらないんだよね」
『えっ!?』
「探すの手伝ってくれる?」
『当たり前っすよ!』
「どこにいると思う?」
『地元の友達のとこですかねー?』
「とりあえず、今さ
 あいつの家の方行ってるから。
 吉澤も頼んだね」
『はい』
793L.O.D:01/12/23 10:14 ID:A0WOjqVp
闇を走る。
息が切れる。
辺りを見回す。
いない。
それの繰り返し。
家を飛び出した後
どこにもいない。
足が運ぶまま
探す。
バレーをやっててよかった。
基礎体力だけはある。
深夜の街を疾走する少女、吉澤。
立ち止まる。
静まった街には
車の発進する音しか聞こえない。
人の話声はない。
街灯と時折あるコンビニの光だけが
闇に埋もれそうな街を照らし
走る足下を照らし
沈みそうな気持ちを
救ってる気がして
後藤を思う気持ちはなお膨らんでいく。
好きだった。
いつからか覚えてもいない。
プッチモニになって
仲良くなって
その辺りだろうか
テレビじゃつまらない顔をしてるのに
一緒にいて
笑ってくれた時の笑顔がかわいくて
好きになってたのかもしれない。
「ったく、、、どこ行ったんだよ、、、」
794L.O.D:01/12/23 10:15 ID:A0WOjqVp
膝に手を置き、息を整える。
結構、遠くまで来ていた。
ビニール袋のガサガサという音が聞こえて
顔をあげると
後藤がアイスキャンディーをしゃぶりながら歩いてた。
吉澤に気付き、走り出そうとしていた。
「ごっちん!!」
「やっ・・・・・・」
空いてる手を捕まえて
こっちを向かせた。
泣き腫らした目。
頬についた幾筋もの跡。
「なにやってんのさ・・・・・・」
「・・・・・・」
「携帯つながらないし」
「・・・・・・」
「保田さんが心配して、電話くれたんだよ」
「・・・・・・」
隙あらば逃げ出しそうな勢いの後藤を見兼ねて
吉澤は力づくで抱き締める。
「くぅっ、、、」
「なんで私のところに来てくれないのさぁ、、、」
「・・・・・・」
「友達でしょ、、、」
「うん・・・・・・」
「なんで来てくれないのさ、、、、」
後藤を抱いてた腕に力が入らなくなって
吉澤は泣き出してしまう。
なぜだか悲しくなってきた。
後藤に選ばれなかった。
なんか悔しくて
自分の思いとは裏腹に
後藤は自分の事をあまり好きじゃないのかとか
考えてしまって
道の真中で泣き崩れる。
「よっすぃー・・・・・・」
「うぅっ、、、ひくっ、、、、」
「ごめん、、、」
「ひっく、、、、うぁっ、、、、、」
「ごめん、、、ごめんねっ」
泣き止まない吉澤につられて
また涙が溢れ出す後藤。
しゃがみ、何をするでもなく
ただ泣いていた。
手から滑り落ちたアイスキャンディーは
真夏の暑さに少しずつ
コンクリートの上で溶けていた。
2人の涙もそんな風に
混ざりあって溶けてしまえれば
どんなに楽だろう。
思う者と思われる者
だけど、気持ちはすれ違ったまま
ただ涙は流れていた。
795L.O.D:01/12/23 10:19 ID:A0WOjqVp
ひさしぶりに更新出来た・・・・・・
ちょっと休憩で紺野SPでも見よ。
796L.O.D:01/12/23 12:23 ID:A0WOjqVp
レコーディングスタジオ。
市井の復帰のためのアルバムは少しずつ出来ていた。
別な仕事を終えてやってきた中澤が
スタジオに入ってくる。
「おはようございまーす」
「おはよう」
荷物を市井の座るソファに置いて
隣に腰掛ける。
「おはようさん」
「うっす」
「で、どうなのよ」
「なにが?」
「辻」
中澤はペットボトルのお茶を飲みながら
市井を見ると
彼女は頬を染めていた。
(ちきしょう、かわいいや)
市井のファーストキスを奪ったのは自分。
あの時も恥ずかしくて、頬を染めてたこの子。
いつもは、ちょっと男言葉で粋がってるのに
そういう事は恥ずかしがり屋で
そのリアクションが好きで
何度もキスした。
その内、市井も慣れてきて
しようとすると受け入れるのだが
やっぱりその度に頬を赤くして
そんな純情さを忘れないでほしいと
いつも思ってた。
それは、中澤にとって恋愛ではなかったが
メンバー愛ともまた違うものだった。
まるで母親のような、姉のような気分。
やはり市井は少し特別な人だったかも知れない。
797L.O.D:01/12/23 12:23 ID:A0WOjqVp
「最近、会えてないし、電話もなかなか出来なくてさぁ」
「気つけやー、寂しくて、加護辺りとくんずほぐれつしてるかもよ」
「くんずほぐれつって、もー、、、」
「圭織も辻の事好きやしなぁーー」
「そうなの!?」
「あいつなぁ、抱いて寝ると気持ちいいねん」
「えっ!?寝たの!!?」
「ちょうどいい感じにフカフカしてな、、、
 なっちもよかったけど。
 でも、やっぱサイズ的に矢口が一番やな」
「・・・・・・裕ちゃん」
つっこむ気も失せて
市井は苦笑した。
中澤裕子とはそういう人だ。
大人の余裕というやつなのだろうか
メンバーにキスしまくって
酒に酔えば、甘え、
時には真面目に怒って
本気で抱き締めてくれた。
涙もろくて
感動屋で
かわいい人。
「ま、うちはさ、紗耶香を応援するよ」
「へへ」
「鮭も海へ旅に出て、生まれた川に戻ってくる言うしな。
 やっぱこう色々な恋愛を経験して、最後は、、、、」
市井のグロスのついた唇をそっと
艶やかな紫に彩られたネイルの指で
撫でていく。
「うちのところに来るんやで」
「なんでだよ」
「いやなん?」
「矢口いるだろぉ。浮気になっちゃうぞ」
「矢口はあれやねん。ぬいぐるみみたいなもんやねん」
「なんじゃそりゃ」
中澤は立ち上がり、背伸びした。
「中澤さん、行こっか」
「お願いしまーす」
ブースに入る前に振り返って、一言。
「紗耶香」
「ん?」
「がんばりや」
798L.O.D:01/12/23 12:51 ID:A0WOjqVp
仕事帰り。
静かなバー。
芸能人も結構来てるらしくて
娘。がいても騒ぐ人などいない。
安倍としては、どちらかというと
居酒屋みたいな雰囲気の方が
好きなのだが
誘ってくれた飯田の意向に合わせた。
まぁ、こんな雰囲気で飲むのも
たまにはいいかも知れないし
嫌いってわけでもない。
「で、話って?」
リーダーになってからの飯田は
いつも気を張ってて
頑張ってた。
「あのね、、、」
「うん」
「圭織、紗耶香好きだったのね」
「うん」
「ずっと」
「やめてからも?」
「うん」
「圭織、バンドの人とかと付き合ってたじゃん」
「でもね、どっかで紗耶香の事が好きだったの
 夢に出てきたりとかね」
「ふーん・・・・・・」
口には出さない。
安倍も本当はそうだった。
寝る前のほんのちょっとした瞬間
あの頃と同じように
隣に紗耶香がいて
ちょっと手を握ったりして
居てくれたら
幸せな一時だった。
「おかしいよね」
「おかしいかな?」
799L.O.D:01/12/23 12:52 ID:A0WOjqVp
互いの顔は見ないで
ブランデーの収まってる棚に映る
自分達を見てた。
「最近ね、ちょっと収まってきたの」
「そっか」
「でもね、たまに寂しくなっちゃうんだ」
「うん」
「もう忘れるべきだよね」
「ねぇ」
安倍はフと問いたくなった。
「辻ちゃんの事は好きだったの?」
「え」
「入ってきた時、すごくかわいがってたじゃん。」
「あー」
「最近、あんまり話してないし」
「だってさ」
と、つぶやいて
飯田は俯き
言葉を濁した。
安倍は次の言葉を催促する事なく
間を持たせるように
カクテルを飲む。
少し辛め。
そんな気分だった。
甘い酒で酔うより
こんな話の時は
こういう味がいい。
「辻は紗耶香の物だから」
楽屋で嬉しそうに
紗耶香の事を話す辻。
今日は口が滑って
さやりんなんて呼んでた。
石川と吉澤にそれを突っ込まれて
照れていた。
ただのお子様から恋をする女の子の顔になっていく。
自分達もそんな事があったのだ。
そして、今、ここにいる。
「そだね」
安倍は短く答えた。