小説『OLやぐたんにせくはらするのだぴょーん』

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781L.O.D
昼間はあんなに聞こえた蝉の鳴き声は静かで
辻は1人で公園のブランコを漕ぐ。
家の近く。
一回だけ市井が遊びに来た事があって
この公園の事を覚えてたらしく
ここで待ち合わせした。
慌てた様子で電話の向こうからしゃべる市井の
声は少し震えていて
何があったのかは分からなかったが
早く会いたかった。
一緒に遊ぶようになって
二ヶ月近くが経っていた。
すごく自分を可愛がってくれるし
電話で色々な事を話した。
今の娘。の事や、娘。になる前の事
いっぱい話して
好きになった。
一緒にいると楽しい。
これはきっと好きなんだと思う。

  キィ

ブランコを漕ぐのをやめて
空を見ると、星は見えないが
大きな月は見えた。
雲一つない空。
「辻っ」
入り口から駆け寄ってくる市井の呼吸は乱れていたのに
辻を見つけたら、真直やってきて
力一杯抱き締めた。
辻も優しく腕を回す。
「辻は私の事好きっ?」
「えと、、、はい、、、」
「それってさ!付き合っていいって事っ?」
「うん、、、、」
「私が辻に感じてるドキドキ
 辻も感じてる?」
782L.O.D:01/12/21 16:45 ID:nnBdiOYt
市井の胸の中で目をつぶる。
聞こえてくるのは胸の鼓動。
走ってきたからか
それとも、一緒にいるからか
高鳴っていた。
「うん、、、、」
「キス、、、していい?」
「、、、、、、」
近付いてくる市井の吐息を感じた。
それは加護とふざけてするキスとは別のキス。
辻の身体がビクッと震えた。
「あっ、、、」
「?」
「あの、、、、」
「ごめん・・・・・・」
市井が少し寂しそうな顔をした。
肩を抱いてた手が離れる。
なぜか突然、キスが怖くなった。
きっと市井は好きなんだけど
このキスは違う気がして
拒んでしまった。
なんかすごく悪い事をした気がして
落ち込む。
「ごめんなさい、、、、」
「いや、いいんだ。私が早まっただけだし」
「でも、市井さんは、、」
「・・・・・・」
2人はベンチに座って
少し黙ってる。
虫の音だけが聞こえてくる。
頃合を見計らったように
市井が言う。
「後藤と喧嘩しちゃってさ」
「え?」
「後藤が私もいちーちゃんが好きとか
 言い出しちゃってさ・・・・・・」
「ごっちんは?」
「携帯の電源切られちゃった。
 そしたら、なんか急に辻に
 会いたくなっちゃって、、、」
「ん」
「ごめんな、こんな時間に」
「いいんです。落ち着きましたか?」
「あーっと、つ、、、、」
市井が言葉に詰まる。
辻は不思議そうな顔で見た。
783L.O.D:01/12/21 16:45 ID:nnBdiOYt
「ののって呼んでいい?」
「いいですよぉ」
「私はなんて呼んでもらおっかな」
「んー・・・・・・」
「なにがいいだろ」
「さやりん」
「お、なんかくすぐったい感じ」
「さーやりん」
辻がふざけたように甘い声で
そう呼ぶと、市井は満面の笑みを浮かべる。
「それでいっかー?」
「私の事も呼んでくださいよぉー」
「敬語もダメー」
「えー、じゃぁー呼んでー」
「のの」
「へへぇ」
くだけたような笑顔、
2人は手をつないで帰る。
途中で寄ったコンビニエンスストア。
2人で棚を見る。
辻がシュークリームをじっと見てた。
「食べる?」
「あ、、ダイエット中だから、、、」
「今日は記念日。おごってあげるから」
市井はそれを二つ手にレジへ向かう。
華奢な身体。
その背中に、胸が痛む。
(これが恋なのかな、、、?)
「のの、行くよ」
ボーッとしてて、声をかけられるまで気付かなかった。
走っていって、手を握る。
784L.O.D:01/12/21 16:46 ID:nnBdiOYt
コンビニの前。
コンクリートの段差に座る。
市井は袋を捨て、シュークリームをくれる。
「いっただきまーす」
1人1個。
辻はひさしぶりの甘いものに
心がウキウキしてくる。
一口食べると、ちょうどいい生クリームと
カスタードクリームの甘味が広がっていく。
皮もいい感じに焼けてて、良い。
市井の顔を見ると、口の周りにクリームがついてる。
「さやりん、クリームついてる」
不意に顔を近付ける。
(今、キスしたらクリームの味がするのかな、、、)
そんな事をフと思ってると
市井は驚いたらしく、身体を強張らせてた。
シュークリームを持ってる手とは
反対の手を市井の身体に添えて
唇を奪う。
それは思い通り、クリームの味がした。

その後の帰り道、2人はなにもしゃべらず
ゆっくりとした足取りで歩く。
そんな時間も、ただ手をつなぐ事だけで
市井の温もりがそこから伝わってきて
嬉しくなってくる。
家の前。
お別れの時間。
「じゃ、またね」
「ばいばい、さやりん」
「じゃなー、のの」
道の角を曲がって、姿が見えなくなるまで
手を振った。
そんな夜。