小説『OLやぐたんにせくはらするのだぴょーん』

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754L.O.D
浴室に響く心地よさ気な鼻歌。
市井の脳裏に浮かぶのは
かわいいあの子の笑顔だけ。
目の前にパフェがやってきた時の
ニマニマーっとした顔や
ついてたポッキーを自慢げに食べる辺り
なんかお子様っぽくて
またそれもいじらしい。
手を伸ばして、シャワーの栓を捻る。
シャンプーが流れ落ちてくその一方で
目をつぶりながら考える。
といっても、考えても考えても
あの子への思いは溢れ出すばかりで
どうしようもできない。
立ち上がり、浴槽に身を沈める。
ちょっと熱めのお湯。
「うぃー・・・・・・」
手で湯をすくい
顔にパシャッとかけ
長くなった髪を
後ろに持っていく。
濡れた髪はオールバックのようになり
ポタポタと水滴を背の方へと垂らした。
「言ってみようかな・・・・・・」
風呂から上がる。
タオルで身体を拭く。
自分の部屋へ行く。
携帯電話がそこにある。
ジッと見てみた。
ちょっとした操作で
あの子へつながる。
あの子の声が聞こえる。
かけてみよう。
出てくれるだろうか。
仕事中かな。
ワンコだけ。
仕事が終わったら
かけてくれるかも。
市井が携帯を握り締める。
指はボタンを押す。
コール音。
755L.O.D:01/12/16 19:00 ID:aMSInk8P
『紗耶香ーーーーー』
「裕ちゃぁーん」
・・・・・・中澤かよ。
『どないしてん?』
「いや、、、相談が、、、」
『なに?』
「時間あるの?」
『もう終わって、飲んでるところよっ』
「あー、、、んじゃ、、、、
 あのね、私さぁー、、、」
『やっと裕ちゃんへの愛に気付いたって?』
「違っ!」
『そやなぁ、紗耶香のファーストキスを奪って以来
 どこかでけじめをつけなあかんかな、と
 思ってた、うちも、うんうん』
「・・・・・・」
『で、そちらの親御さんにはいつ会いに行けば
 ええんやろか、、、、?』
「違うよ、裕ちゃん。私が好きなのは、、、辻」
『つぢ?』
「そう、辻」
『辻、、、、、、、なんでうちが辻に負けんねん!!』
「負けるとかそういう問題じゃ」
『辻なんか色気も知性もないただお子様やで!』
「言い過ぎだよ、、、、」
『そんなんやったら、キスの時
 歯ガツーン当たってまうで!!』
「そうかもね」
一瞬、ためらいがあって
中澤の声は変わっていた。
『そんなに好きなんか?』
「うん」
『あいつ、ごっつうといんよ』
「知ってる」
『付き合っても、そんなデートとか行けへんよ』
「かもね」
『ま、うちは止めへんよ』
「なっちですら止めなかったもんね」
『あれはミスったわ』
笑いが起きる。
電話の向こうの中澤はどんな顔をしてるんだろう。
痛いほど、愛されてる事が分かってる。
756L.O.D:01/12/16 19:01 ID:aMSInk8P
だけど、愛されてたからあの時も
自分の夢へと踏み出せた。
だから、今も愛してるからこそ
見ていてほしい。
自分の愛への第一歩を。
「今から、告ろうかなって思うんだ」
『そか』
「今日、一緒に飯食いに行ったんだけど
 なんかもうほんとかわいくて仕方なくて
 抱き締めたくてたまらなかった」
『・・・・・・』
「このままじゃ好きっていう気持ちで
 心が破裂して、死んじゃいそうだから
 言うだけ言ってみようかなって」
『、、、がんばりや』
妙に落ち着いた中澤の声は
心の熱を奪っていく。
「うちら、うまく行くかな?」
『あの子は、、、かわいい子やで』
「知ってる」
『まだ殴られた事ないやろ』
「え・・・・・・?」
『一発で意識飛びそうになるんよ』
「・・・・・・」
『喧嘩だけはせんようにな、、、ブッ』
切れた。
なんつー不吉な助言なんだ。
最初から最後まで実に中澤らしかったが
逆にそれが市井にしてみれば嬉しくて
そっとうなづいて
辻にかける。
1回
2回
3回。
757ねぇ、名乗って:01/12/16 22:39 ID:2hp1OB6v
最高です。
758L.O.D:01/12/16 23:33 ID:cK04s0wZ
辻は自分のベッドの上で
飼い犬のマロンと遊んでいた。
「へへぇーっ、気持ちいい?」
毛のあいだをくぐり抜けていく指。
じゃれあって、上に乗ってきたりする。
「おもーい、ののと同じになってきたのかーーー?」
鼻っつらに落ちてる携帯電話が震えてる。
「んしょ」
体勢を直して
通話ボタンを押す。
「はーい、辻でーす」
『市井だけど、、、』
「あ、こんばんは」
少し緊張した市井の声。
マロンはかまってもらえないのかと
去っていってしまう。
『今日のお店、どうだった?』
「すっごいおいしかったです」
『そっかぁ、あのさ・・・・・』
「?」
『実は、今日、辻に言いたい事があったんだ』
辻にはなんのことだか分からない。
仕事の事で怒られるわけがないし
元メンバーの市井さんが何を言いたいのか
なんだか分からなくて
受け身も取れていない。
『私さ、辻の事が好き、、、なんだよね』
(スキ?)
理解不能。
彼女はスキって言った。
スキってなに。
そして、この気まずい沈黙は?
スキ。
スキの意味は?
好きって事?
すき焼きのすきじゃないだろうし
ファンとして?
「ほぇ?」
気の抜けた声を出してしまった。
759L.O.D:01/12/16 23:34 ID:cK04s0wZ
『なんつーたらいいのかな、、、
 かわいいし、、、その、、、、
 付き合いたいっていうか、、、』
付き合う。
それは、彼氏と彼女になるって事。
んー、だけど、市井さんは女の人だから
彼女と彼女になるってわけだ。
『辻は、、、私の事、どう思ってる?』
どう。
どう思ってる。
彼女は先輩。
やめていった先輩。
OB 。
かっこよくて
輝いてた
元モーニング娘。
青色7のメインもやってたし
プッチモニのメインだった。
そして、ごっちんが今も好きな人。
「どう・・・・・・」
『あー、そうだよね、あんま話した事もないもんね』
苦笑いしてる。
昼間会った彼女の顔を思い出す。
笑顔がかわいかった。
色白で
涼しげな目。
だけど、笑うと顔全体から
元気が溢れてた。
『んじゃぁ、友達になろっ!』
「友達っ」
『うん、友達』
「はいっ」
『私もさ、一応、元メンバーだしさ
 なんか相談とかしてよ。
 ヒマだから、いつでもOKだしね』
「はい」
『遊びに行ったりしような』
「あのぉ」
『ん?』
「またおいしいお店連れてってください」
『おぅー、辻のために色々探しちゃうぞ』
「お願いしますー」
『うん、わかった。じゃ、また今度な』
「はい、おやすみなさーい」
電話が切れても、市井の声が耳の奥で聞こえる。
優しいお姉さんがもう1人増えた。
そんな感じなのだろうか・・・・・・