小説『OLやぐたんにせくはらするのだぴょーん』

このエントリーをはてなブックマークに追加
744L.O.D
オフは突然やってくる物である。
雑誌の取材がキャンセル。
辻は携帯を手に取る。
「かけんの?」
矢口がニマニマしてる。
もう約束してから二週間が経っている。
「・・・・・・」

  カタッ

携帯は机の上に置かれて
辻は楽屋を出ていってしまった。
「ののっ?」
加護が開け放たれたドアの外を見た時には
もう辻の影もなかった。
「紗耶香の気持ちも分かるけど
 辻としてもよく知らない人と
 御飯食べに行くのはねぇ・・・・」
保田が溜息まじりに言う。
「私、行っちゃおうかなぁー」
雑誌をパラパラとめくっていた後藤が
本当に今、思い付いたようにつぶやいた。
「ダ、ダメだってば!」
矢口が短い腕を伸ばして、主張。
「なんでー?辻が行かないってんだからさぁ。
 いちーちゃんと御飯食べたぁーい」
「ダメッ!」
石川はそのやり取りから目を反らすと、
椅子に座り、少し沈んだ顔の
吉澤を見つける。
彼女は後藤を見てた。
(ははーん)
石川は後藤の肩を叩き
「まぁまぁ、ごっちん」
顔を掴んで、吉澤へ向ける。
「今日は彼と御飯に行ったら、どう?」
「んー・・・・・・」
「行こ!!」
745L.O.D:01/12/15 00:40 ID:9U3Dtc+I
石川の意を汲んでくれたのか
吉澤はとびっきりの笑顔で
後藤に腕を絡める。
「お腹空いちゃってさ!」
「んじゃぁ、よっすぃーに付き合う」
「行ってらっしゃーい」
明るく見送ろうとする石川。
すれ違い様、耳元で囁く。
「ありがと」
2人の姿が見えなくなって
矢口は石川の脇腹を殴る。
「よくやった、石川っ!」
「あうっ!」
「あ、ごめん、痛かった?」
予想以上に顔を歪めたので
慌てふためく矢口。
「ううん、大丈夫です」
いつの間にか誰ともなく無言になり
沈黙の後、飯田がポツリと言った。
「紗耶香なんて、もういない人なのにね
 ・・・・・・おかしいよね」
いつまでも素直に市井を思い続けれる
後藤に自分達を重ねてる。
心のどこかで
もうあんな恋は二度と
出来ないじゃないか
って疑ってた。
746L.O.D:01/12/15 00:41 ID:9U3Dtc+I
タレントクロークのソファに座って
ポケットに入ってた小銭で買った
オレンジジュースを飲む。
その気持ちは辻にとって
初めての体験である。
例えるなら
デートに誘うため
女の子の家に電話をかける
男の子みたいな
甘酸っぱくて
もどかしい緊張。
それは、心地よくて、怖い。
不思議な感じ。
最初は何を言おう。
どうやって切ろう。
思いは加速して
会った時の事なんかも考えてしまう。
堂々巡りの悩みは尽きない。
そこに通りかかるは
さっき送りだされたはずの
後藤と吉澤。
「あー、、のの」
吉澤はやっぱり辻が心配で
声をかけてみた。
案の定、不安そうな表情を浮かべてた。
「怖い?」
「・・・・・・」
「いちーちゃんは、待ってるよ」
あんな事を言ってた後藤が
辻の横に座って
その肩を抱き寄せた。
「後藤が保証する。
 いちーちゃんはきっと
 おいしいもの食べさせてくれる」
「・・・・・・」
俯いた辻の顔。
おいしいものと聞いても
元気を出さないなんて
そうとう病んでいる。
吉澤は後藤の裾を引っ張り、耳を借りる。
(市井さんにうちらも行っていいか聞いたら?)
(よっすぃ、ナーイス)
後藤がその場を離れる。
吉澤は短い吐息を吐いて
自分に笑った。
(なにしてるんだろ)
後藤に思いを打ち明けた事はなかった。
後藤が市井を未だに思ってる事も知ってるから。
性格が為してるものなのか
なんてお人好しなんだろう。
747L.O.D:01/12/15 00:45 ID:9U3Dtc+I
『おぅ、後藤』
「あんねーオフになったんだけどぉ
 辻がね、1人じゃ不安だっていうのね」
『・・・・で、後藤も一緒』
「よっすぃも」
『分かりました、場所はね・・・・・・』
「うん、OK。待ってるから」
走って戻ると、辻は少し元気を取り戻してて
吉澤とつつき合って、笑ってた。
「ね、辻、一緒にごはん行く?」
「ごっちんとよっすぃと一緒?」
「うん」
「行くっ」
後藤は吉澤の耳に顔を寄せる。
(ありがと)
悲しげな笑みを浮かべる吉澤。
そのありがとうは、何に対して述べられたのか
後藤が市井に会える事に対するなら
それは、喜ぶ事は出来ない。
だけど、不安は次の一言で少しだけ
霧散した感じが
吉澤にはした。
(いちーちゃんが喜ぶよ)
後藤の目は、はしゃいでる辻を見ていたのだった・・・・・・
748L.O.D:01/12/15 00:47 ID:9U3Dtc+I
今日の更新終了。
749L.O.D:01/12/15 18:33 ID:z21q2YhZ
とある大きな通りの一角にある
コ−ヒ−の専門店に入る三人。
「ここれすかぁ?」
アメリカンスタイルの少し古ぼけた木目が
なんともいい味を出してる壁やら天井やらを見回す辻。
「ううん」
「?」
思い掛けない後藤の返答に
辻はメニューを見ようとした目を
後藤に向ける。
「後藤さぁ、店の場所忘れちゃって
 無駄に歩くのもやだからさ
 その店、教えてくれた人呼んだんだ」
「ふーん」
疑う事もなく辻はまたメニューを見る。
「飲み物頼みなよ、のの」
「えーっとぉ」

20分ほど過ぎた頃
自動ドアが開いて
細身の女の子が入ってくる。
真っ白なハットに
鮮やかな青色のシャツを合わせて
さっそうと歩けばかっこいいのに
よたよたと迷いながら歩く。
後藤が席から身を乗り出し
手招くと、その人は気付いたようで
こっちに向かってきて
辻の前に座った。
「よっす」
メロンフロートのスプーンは氷とアイスの
微妙に美味しい所に刺さったまま。
「あっ」
辻はキョトンとした顔で
彼女を見てる。
750L.O.D:01/12/15 18:33 ID:z21q2YhZ
「おいしそうだなぁ、私もなんか飲むかな」
ハットを脱ぐと、前会った時より
伸びた明るい茶色の髪の毛が
サラリと流れて
肩口にかかる。
吉澤から受け取ったメニューを開く。
その先に見える顔。
「あーっ、アイスカフェラテ」
「かしこまりました」
市井はこちらへ向き直り
誰となく問う。
「雑誌キャンセルになった?」
「うん」
「そうです」
「・・・・・・」
「って、辻ちゃん、それ食っちゃって
 パフェ食べれるの?」
「・・・・・・」
「の、のの?」
「あー・・・・」
「・・・・・?」
「大丈夫れす」
後藤が伏し目がちに笑う。
見てしまったから。
あの日、自分に笑いかけてくれたのと
同じくらいの笑みを
いや、それよりももっと
優しい笑みを浮かべる
今も忘れれない人が目の前にいる。
だけど、素直に笑う事が出来た。
それは、後藤が知らない誰かに向けられた笑顔じゃなかったから。
悔しいけど、市井が辻を好きなら
応援しようと思えるから。
「どしたのさぁー、辻ぃ。
 笑って、笑って!」
ちょっと考える風に小首を傾げて
悩む仕種。
「辻はかわいいなぁ」
市井の一言。
辻の顔がちょっとほころぶ。
かわいいと言われていやな子は
そうそういない。
751L.O.D:01/12/15 18:34 ID:z21q2YhZ
その後も、後藤と吉澤はうまくフォローしながら
市井と辻の会話をスムーズにつなげてこうとして一苦労。
市井が連れていってくれた
イタリアンのお店はすごくおいしかったし
デザートのジェラートもすごく上品な味で
石川でも連れてきたら
喜ぶんじゃないかと思った。
別れ際、市井はハットをかぶり直しながら、聞く。
しっかりと辻を見ながら。
「美味しかった?」
「あいっ」
「よかった」
「じゃ、いちーちゃん、
 うちらもう時間だから」
「おぅ、気をつけてな」
「いちーちゃんこそね」
「ありがとうございましたぁ」
歩き出す三人。
市井は手を振っている。
辻は笑顔で手を振り返してる。
しばらく歩いて
後藤が振り返れば
彼女の背中が遠くに見えた。
まるで、それは今の自分と彼女を
揶揄してるようで
少し悲しくなった。