小説『OLやぐたんにせくはらするのだぴょーん』

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722L.O.D
『愛しい貴方へ』

「おいしい?」
この子とのデートはいつも食事。
「おいしいれすっ!」
「よかったぁ。雑誌で見つけてさぁ
 絶対、ののを連れてきてやろうと
 思ってたんだよねっ」
へへぇっーと弛んだ笑顔には
クリームがちょこんとついていて
手を伸ばして、それを舐める。
「仕事、どう?」
「忙しいですよぉ」
「ミニモニ。がんばってる?」
「新曲が出るんですよっ」
スプーンを持ったまま、探そうとバッグを漁り始める姿は
まるで幼児のようで苦笑いしながら
スプーンを取り、半分ほど食べ終わった
大きなパフェのガラスの器の中に
入れてやった。
涼しげな青のガラスは
窓の向うの歩く人並みをも映す。
「これです」
MDウォークマンを渡されて
イヤホンをつける。
「矢口、、、、がんばってるなぁ」
「リーダーはいっつもしんどい、しんどいって
 言ってるのれすよ」
「まぁ、あの年でミニモニ。はなぁ・・・・・・
 私は恥ずかしくてできねぇや」
「そうだ、保田さんからお手紙を貰ったんれすけど
 ののは読めませんでした。」
これまた立派な筆文字で
中学生の中でも
日本語識字能力の低い辻では
読めない事うけあ・・・・・・
「私も読めねぇ」
「・・・・・・」
「やっぱ絵はヘタだね」
手紙のはじっこに描かれた似顔絵。
しかも、筆で。
そして、その下には
今、辻の目の前にいる彼女の名前がつづられていた。
市井紗耶香。
723L.O.D:01/12/13 23:33 ID:ZyK+i/no
出会いはすれ違いから始まった。
たった一ヶ月の期間。
モーニング娘。という中にいただけ
辻もまだおとなしくて
周りの人が微妙に怖かった。
加護が一緒にいれば、別だが。
市井も新メンには話かけづらくて
新曲のレコーディングでも
アドバイスぐらいしか出来なかった。
そして、市井卒業。
再び顔を合わせたのは
同じくライブの時で
後藤の頭を撫でてる市井に飛びついてきて
いつものふにゃふにゃの笑顔で笑ってた。
話はその数日後から始まる。

後藤の携帯に一通のメール。
「あ、いちーちゃんからだ」
収録の合間で
お菓子を食べながら待っていた。
ヒマつぶしにはちょうどいい。
メールを開いてみる。
『辻の番号教えて、、、、?』
「なんでだろ?」
なんで、辻の番号?
すぐに返事が返ってくる。
『おいしいイタリアンの店見つけたんだ。
 誘いたいんだけども』
『なら、私を連れてってよー』
『後藤、スパゲティ、音立てて食うもん』
『・・・ふーんだ』
『今度のオフ遊んでやるから』
『やったぁー!じゃ、辻に聞いておいてあげるから』
『はいはい、ありがとな』
ちょうどよく外で遊んで帰ってきた辻を呼び
市井が御飯をおごってくれると話すと
考える間もなく首を縦に振った。
まぁ、心配することもない。
相手は元モーニング娘。だ。
724L.O.D:01/12/13 23:33 ID:ZyK+i/no
で、そのメールの相手、市井はというと
机に置いておいた携帯がメロディを鳴らす。
メールじゃない。
知らない番号。
しかも、ワンコじゃなくて
ずっと鳴ってる。
通話ボタンを押すと
元気な声が聞こえてくる。
『あのぉ、辻れすけどぉ』
「おっす」
『御飯おごってもらえるんですかぁ?』
(後藤の奴、話を曲げたな)
「そうなんだよ、すごいおいしい店見つけてさっ!
 辻がよろこびそうなパフェがあるんだっ」
しゃべってる内に驚きは高揚に変わり
一つ一つの言葉が跳ねるようになる。
『えっと、いちーさんは時間とか、、、』
「だいじょぶ、辻の休みに合わせてくれればいいから」
『はいっ、オフになったら
 絶対、絶対行きましょうねっ』
「うん。じゃぁねぇー」
電話が切れて
ほっと一息つく。
おいしい物となれば
見境のない辻でよかった。
これが吉澤辺りだったら
どう誘えばいいか分かりはしない。
いや、誘う事自体がナンセンスなのだが
市井の気持ちは止まらない。
あの子に伝えるために。
市井の目は携帯をジッと観てた。
今、さっきこの向こうにあの子がいた。
きっとあの時見せた笑顔と
同じくらい笑ってたと思う。
市井の頬もにやけてた。
725L.O.D:01/12/13 23:34 ID:ZyK+i/no
その日の夜中。
ベッドの上でうつらうつらしてた市井に
また電話。
「誰だよー、、、」
今度は矢口真里。
「はぁーい?」
『ちょっと紗耶香、どういう事だよぉ』
「あ?」
『おいらじゃなくて、辻!?』
「あー」
『辻かよ!』
「矢口、おもしろくない、、、」
『いや、そうじゃなくて
 辻だけ誘うなんて
 なんかあるんでしょーー!』
「別にぃ」
『そうかいそうかい、矢口には
 なんにも言ってくれないのかい。
 ・・・・・・はい』
電話口がザワついてる。
というか、明らかに安倍の声が聞こえた。
しかも、その他に複数の人間。
『紗耶香!今度は辻なの!?』
市井は耳から携帯を離す。
狛犬が吠えている。
「今度はってなんだよぉー。」
『他のメンバーにはみんな手つけておいて
 私だけじゃないのよっ!!』
怒る論点間違ってますよ、保田さん。
726L.O.D:01/12/13 23:35 ID:ZyK+i/no
『さーやかぁー、辻はねぇー
 ほんとめんこいよねぇーーー』
いきなりのライバル出現!?
どうも酔っぱらってるらしき安倍が
保田から電話を奪ったらしい。
「う、うん」
『かわいがってあげてねぇ、、、、、
 なちおパパは見守っててあげるから』
「ありがと、、、」
『圭織に変わるね』
「待って!」
市井は思わず叫ぶ。
『?』
「充電切れそうだから、圭織にはよろしく言っておいて!」
『あ、うん、分かったよー
 じゃぁねー』

  プチッ

「・・・・・・危なかった」
充電など切れそうもない。
当然である。
充電器につけたまま話してるんだから。
ただ圭織の説法を聞きはじめると
朝を迎える気がしたので
回避したのである。
賢明な策と言えよう。
携帯を置いて
枕を抱き寄せ
天井を眺めてた。
何度、この名をつぶやいたか。
「辻、、、希美」
ちっちゃくて
かわいらしい。
妄想も有り余って
枕にキスをする。
そんな夜。