小説『OLやぐたんにせくはらするのだぴょーん』

このエントリーをはてなブックマークに追加
699L.O.D
今、私の手元には一冊の本がある。
まだ店頭にも並んでいない貴重な物と言えるだろう。
それ以前にこの本はもっと重要な意味を持っている。
著者は中澤裕子。
出版は宝島社。
ある種、娘。時代から持ちつ持たれつの関係ともいえる
両者が手を組み、出した本のタイトルは
『Underground Morining musume。』
そう、これは長い間
モーニング娘。を引っ張ってきた
中澤裕子本人が書いた告白本である。
モーニング娘。にまつわるあらゆる話題が
ここには詰め込まれており
売れる事は間違いないが
それは、モーニング娘。自体の抹消さえ
孕んでいたと言っても過言ではない。

この本の最初の一文は
こう綴られている。

『モーニング娘。は決して仲良くはなかった』
700L.O.D:01/12/11 21:23 ID:61pu8m65


  パシンッ!!

シンと静まった楽屋に響いた張り詰めた音。
叩かれた矢口は赤くなった頬を押さえ
睨み付けた。
「ギャァギャァうるさいんだよっ」
安倍はそう言い放ち、
それ以上の怒りは足下にあった
椅子にぶつけた。
大きな音を立てて
壁にぶつかる椅子。
すぐ真横に座ってた飯田は怯えた目で
彼女の行方を追う。
反対側に座ってた後藤は
少しだけ市井の方に身を寄せる。
保田は矢口に声をかけ
中澤はただそれを傍観していた。
石黒が抜けた後のモーニング娘。
安倍のイラつきは誰が見ても尋常ではない。
それは、ふるさとの失敗
後藤の加入、ラブマの成功
それらが織り成す
安倍のメインの座を揺るぎが
不安となって
吐き出されていたのだった。
市井は立ち上がり
ドアを開け放つ。
いたくなかった。
「いちーちゃんっ!」
後藤がその後を追ってこようとしたが
彼女は目の前でドアを閉める。
走っていた。
駆け込んだのは、トイレ。
「っかは・・・・・・!!」
さっき食べた弁当を全部吐き出す。
気持ち悪い。
ソロデビューの話が事務所から来ている。
あんな状況の娘。からは切り離して
音楽に専念できるという。
それは、今の市井にとって
ものすごく宝石のように
輝いてみえたが
後藤の事が気になった。
まだ意外と幼い後藤は
自分を頼っていたし
そうしないと
あの空間の中で
押しつぶされてしまうのではないかと
思ってしまうから。
701L.O.D:01/12/11 21:24 ID:61pu8m65
映画『ピンチランナー』がクランクインして
しばらくした頃の事。
安倍が走るシーンが終わって
肩で息をしてた。
「お疲れ」
市井は声をかける。
安倍は曖昧な笑顔を向けた。
その時だった。
「近寄るな、デブ。臭い。」
生理で具合悪そうにしていて
それまでバスの中で寝ていた
最高に不機嫌な後藤が
次のシーンを録るために現れながら
かけた言葉。
スタッフも他のメンバーも凍りつく。
震える安倍の身体。
「なっち!?」
思い出される幼き頃の記憶。
靴を隠され
教科書をよごされ
いじめられた日々。
トラウマとなったまま
かさぶたになり
治ったと思い込むようにしていただけの事。
後藤の一言が安倍を壊す。
ウザったそうに髪をかき上げ
台本を置いた姿は
今まで見せた事がないほど
狂気を帯びていた。
702L.O.D:01/12/11 21:24 ID:61pu8m65
メンバーの増加
市井の脱退と
後藤にも様々な不安がのしかかる。
その内に神経は研ぎすまされた刃と化していく。
「ごとうさ・・・・・・」
自分が教育係にあたってる加護は完全無視。
辻はとりあえず放置。
同じ年の吉澤はガンを飛ばして寄せつけない。
石川にいたってはあからさまにいじめた。
新メンと同じ部屋は絶対に嫌がり
コンサートや地方の部屋は
先輩メンバーの仲の悪くない人と
必ず一緒になった。
保田が風呂から上がり
ベッドを見ると
ロクに着替えもせず
眠っていた。
(寝てる顔は可愛いのにね)
「後藤!」
「・・・・・・」
「寝るんだったら、着替えな」
「ん・・・・・」
「風呂入るんだったら、まだあったかいから」
肩を掴み、揺らす。
嫌がり、反対を向く。
「ちょっと!」
「うるさいなぁ!!」
手を振払われ
保田はカッとなって
後藤の頭を殴った。
「痛っ!」
「どこの誰がそんなわがままに教育したのよ!
 紗耶香が見たら、呆れるわよ。」
「・・・・・・」
涙が溢れだして、止まらない。
自分でも何にイラ立ち
反抗してるのか分からなかった。
ただ、新メンと馴れ合う事で
市井の匂いが娘。から消えていき
そして、自分の存在する意味すら
消えてしまいそうに感じたから。
「とりあえず、着替えるなり
 風呂入るなりしなさい」
保田の言葉が心に響く。
後藤は素直にうなづいた。
703L.O.D:01/12/11 21:25 ID:61pu8m65
その後の娘。は中澤がいたおかげで
誰もぶつかる事なく保っていたのだが
それも崩れる日が来る。
飯田はずっと眠れなくなっていた。
仕事があるし
寝なきゃいけないけど
布団に入っても
寝つけなくて
また起きてきて
絵を描いていた。
描いてはまた、新しいキャンバスを取り出す。
内々に告げられた次期リーダーの話と
ソロデビューの話。
自信がない。
その言葉が思い浮かぶと
すごく頭が痛くなってきて
カウンターに置いてある
ケースから二錠、薬を取り出して
水を注ぎ、飲み干した。
しばらくすれば、頭痛は治まる。
筆を置いて、ソファに寝転がる。
このまま眠ってしまったら
どんなに楽だろうか。
手の中に、まだケースはあって
その鎮痛剤とは別の薬が入ってる。
こないだ病院に行ってきて
もらったらばっかりだから
新しいのがいっぱいあった。
それを飲んで、
このまま楽になってしまえたら
そう、思いながら
少しだけ目をつぶった。
704L.O.D:01/12/11 21:28 ID:61pu8m65
本はそこまでしか書かれていない。
本当に、中澤裕子が知る娘。の隅々が描かれた本は
何のために描かれたのか。
中学生だろうがなんだろうが
深夜まで働かせるような
労働環境の悪い事務所のため?
それとも、可愛らしいアイドル モーニング娘。に
夢を抱くヲタクや子供の幻想を壊すため?
もしくは、そんな娘。をずっと見る事しか
してこなかった自分への罰なのかも知れない。

あなたは、この本を読みますか?

end