小説『OLやぐたんにせくはらするのだぴょーん』

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685L.O.D
『Please cigarette & one more kiss.』

楽屋に漂う薄紫の煙。
それは、あの人も吸っていたタバコの匂い。
慣れた手付きで箱の底を叩き
また一本取り出す。
保田は見兼ねて
その手を掴む。
「もう、、やめな」
訪れる静寂。
誰も言葉を発しない。
バタバタと歩き回っていた辻と加護も
ただそこに立って、
その様を見ていた。
「・・・・・・」
後藤は言われた通り
取り出したタバコを箱に戻して
保田が見終わったらしき雑誌を取る。
うまく噛み合わない歯車。
全員がその痛みを味わっていた。

最初は、反りの合わない2人だった。
マイペースな後藤。
新メンとして入ってきたからには
ちゃんと教育しなきゃと躍起になってしまう中澤。
市井を挟み、時には飛び越え
ぶつかってしまう事も多々あった。
それがいつから、もっと別な物に変わっていったのだろう。
686L.O.D:01/12/10 21:46 ID:v5yMqHLI
2001年の正月ハロプロの打ち上げ。
会場を抜け出して、
後藤は階のロビーでジュースを飲んでいた。
「なんや、こんな所におったんか」
廊下の影から顔を出した中澤。
片手にはビールで少し酔っぱらっていた。
「タバコ吸うてもいいか?」
「うん」
カチッというライターの音。
「吸う?」
悪戯顔で、一本取り出し差し出した。
後藤は驚いて、中澤を見る。
「ん?」
「だって、後藤、未成年だよ」
「姉ちゃんのとか隠れて吸うてるやろ?」
「・・・・・・」
その指でタバコを挟む。
本当の事を目の前の人は知らない。
まだ一回もタバコなんて吸った事ない事を。
言ったら、怒られるかな?
けど、リーダーが薦めてるんだし
まぁ、いっか。
火が着いて
見よう見まねで吸ってみる。
先の方がオレンジ色の眩い灯を放ち
紙が焦げていく。
中澤はフゥーっと息を吐き、
ビールを一口含む。
「やっぱライブ終わった後の酒はうまいなぁ」
ポツリと言った後、タバコを握る後藤の手を掴み
唇を奪った。
「んぅっ・・・・・・」
「ふ・・・・・・」
ポップとタバコの苦味が
後藤の口の中を満たしてく。
あまりビールは得意じゃない。
687L.O.D:01/12/10 21:47 ID:v5yMqHLI
「ごっちーん」
「どうしたの?」
酔っぱらって、甘えてる。
優しく頭を撫でる。
「今日のごっちんかっこよかったでぇ」
「そう?」
「惚れるとこやったわ」
「へへっ」
「ほんまはもうとっくの間に惚れてるんやけどな・・・・・・」
「え?」
中澤は微笑む。
まるで、その言葉が嘘だったとでも言わんばかりに。
だけど、言葉を失った後藤を見る目に嘘はなかった。
「好きやねん」
「・・・・・」
まるでさらわれるようにスッと抱かれ
後藤はそれを拒まなかった。
「今夜、抱いてもええか?」
何がどうなのか分からない。
この人はモーニング娘。のリーダーで
娘。を一番愛してて
怒ると恐くて
お酒が大好きで
タバコも好きで・・・・・・
中澤裕子だ。
「嫌か?」
「嫌じゃないけど・・・・・・」
「女の子同士が嫌ってわけやないやろ。
 吉澤ともよーしてるし・・・・・・
 こないだ石川ともしてたやん。」
「じゃぁ、裕ちゃんだって・・・・・」
指が唇を塞ぐ。
「好きなんは、後藤だけや。
 愛してほしいねん・・・・・・」
潤んだ瞳は
男なら誰もがその場でOKしてしまいそうなほど
淫微な感じがして
後藤は自分の気持ちに整理がつかないまま
夜を迎える。
そう、この夜から2人は始まった。
688L.O.D:01/12/10 21:48 ID:v5yMqHLI
「はっ・・・・・ふあ」
「裕ちゃん・・・・・・」
「そこ・・・・ええわ・・・・・・」
暗闇の中で
白い肌が重なりあう
ピチャピチャと卑猥な音をわざと立てる後藤の舌。
手で口元を押さえるも
漏れる声を止める事も出来ず
中澤はされるがままになる。
「裕ちゃん、かわいいね」
「ごっちん、、、うまいなぁ、、、
 吉澤に仕込まれたんか?」
「聞かないで」
中澤が身体を少し起こし、胸に触れる。
年の割によく育った身体のラインを
やわらかく撫でていく指が
背に行った時
後藤は身体をしならせた。
「っ・・・・・・」
「感じてるん?」
「おかしーよね、、こんなとこ?」
「ええやん、かわいいで」
そのまま、上にいる後藤を抱き寄せて、
キスをしながら、背中を撫で回す。
「ひぅ・・・・・・」
「・・・・・・」
「はぁんっ・・・・・・」
「柔らかいなぁ」
力強く抱きすくめられ
後藤は逆に力を抜き
中澤に身体を預ける。
いつも吉澤としてるお互いを攻めるだけのセックスじゃなくて
ただ抱き締められるだけで気持ちいい。
これが大人なのかなと思う。
689L.O.D:01/12/10 21:49 ID:v5yMqHLI
休みの日にデートした。
仕事が終わったら、後藤の家で飲んだりした。
たまに中澤の家で後藤が料理してあげた。
やっぱり焼き魚は好きで
お母さんから一匹もらって
焼いてあげると
おいしそうに食べてくれて
すごく嬉しかった。
そんななにげない事が
積み重なっていく・・・・・・
それだけ思いは深まり
後藤にとって中澤はとてもとても
大切な人になっていって
毎日が中澤を中心に回り出した時だった。

中澤の卒業発表は本当に突然の事で
矢口はボロボロ泣きながら
中澤の身体を叩くし
辻、加護も声をあげて泣いていた。
みんな、みんな、泣いていた。
そんな中で中澤は1人1人を抱き締めた。
後藤の番
胸の中でつぶやく
「ズルいよぉ」
「すまんな」
離れる身体。
後藤は崩れ落ちる。
今、気付いた。
何度も重ね合わせた肌。
数えきれない位
耳元でささやかれた
『愛してる』の一言が
もう聞けなくなると思った瞬間
身体の力が全て抜けた。
失った。
今、一番大切な人が
この手から離れてく。
吉澤や保田が後藤の肩を抱く。
涙で霞む目に映ったのは
同じように泣いていた中澤の顔。
噛み締める唇に滲んだ血が
沁みて少し痛かった。
690L.O.D:01/12/10 21:54 ID:v5yMqHLI
流れてく日々を止める事も出来ず
卒業の日を迎える。
まだもうちょっとミュージカルの練習があって会えるけど
今日が事実上のお別れ。
会場に行く前に後藤はコンビニの前の自販機で
中澤が吸ってるタバコの箱を二個買った。
楽屋。
中澤はいつものようにもういた。
「おはよーございまーす」
「おはよ」
荷物を置いて
さりげなくタバコを取り出す。
「ねぇ」
中澤にかけた言葉。
「なん?」
「火貸して」
「なににつか・・・・・」
テーブルの上の後藤の手の中にある箱を見つけ
中澤は言葉を止め、バッグの中から
ライターを取り出した。
安そうな100円ライター。
「誕生日、ジッポ買ってあげればよかったかな?」
「あー、欲しいなぁ。でも、あれ、手入れ面倒くさそうやろ?」
「娘。命って入ってるの」
「彫りでか?」
「うん」
「なんや、暴走族みたいやな」
「似合ってるよ、裕ちゃんに」
そんな会話をしながら
後藤が中澤の手から受け取ろうとしたライターは
クルッと回って、中澤がホールドする。

  シュボッ

揺らぐ赤い炎。
「今回だけのサービスや」
後藤ははにかみながら
中澤がつけた火で
タバコを吸う。
「ったく、なんで同じ銘柄吸うねん。
 どっちのか分からなくなるやろ」
「いいじゃん・・・・・・」
その後はなにもなかったように誰もが振る舞う。
ライブが始まる数時間前の事。
691L.O.D:01/12/10 21:55 ID:v5yMqHLI
その日から後藤真希は笑顔を忘れた。
代わりにタバコを吸うようになった。
何かを待つ時も
いらついた時も
手持ち無沙汰な時
ポケットの中には
タバコと100円ライター。
身体に悪いと思っていても
誰も止められない。
それがなきゃ
彼女は彼女で無くなりそうな気が
みんなしているから。

end