小説『OLやぐたんにせくはらするのだぴょーん』

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639L.O.D
「寒っ」
一週間後の事。
私は、コートのえりを握った。
真っ白な空間がどこまでも続いていた。
それは、私の記憶の中では
館があって、マリやナツミがいた場所。
「なくなったんだぁ」
そう言葉に出す事で事実を受け入れようとしていた。
カサついた唇を指で撫でる。
マリの唇の感触を思い出すように。
「・・・・・・」
溢れ出す涙を止めれないが
私は独り言を言っていた。
「寒いんだから、凍っちゃうんだよ・・・・」
頬に伝い、その瞬間から凍っていく跡筋。
拭っても取れず
私の身体に刻み込まれていくようで
それが、私のマリへの愛なんだと思う。
「はぁ・・・・・・」
息が白く煙り、空に消えていく。
私の背が後ろを振り返り、
一歩、踏み出そうとした足を止めてしまった。
「リカちゃん・・・・・・」
「向かえに来たよ」
と、つぶやいて走り出し
私の首に腕を回す。
「いなくなっちゃう気がしたの、そのまま」
「・・・・・・」
「何も言わないでいなくなるなんて、やだよ」
「・・・・・・ごめん」
「最後に・・・・・キスして」
答えも待たずに突き出された唇に
私はそっとキスをした。
強く抱き締め、淡い息を吐き
少しだけ彼女の体温を感じる。
「もう戻らなきゃ、家に帰る汽車がなくなるや。
 ヒトミちゃんはまだここにいるの?」
「いや、わたしも戻るよ・・・・・」
「そっか。じゃぁ、駅まで送って?」
「いいよ」
私の方から手を握り
何もない平原を走り出した。
それが、彼女との最後の思い出。
640L.O.D:01/12/09 02:19 ID:HVuAzIPR
その日の夜。
私は、宿で最後の一本のお香を取り出す。
「買ってくればよかったなぁ」
火をつけると、ゆらゆらと煙が昇る。
キンモクセイの香り。
シャワーを浴びたままの濡れた身体。
部屋は暖房があるものの寒くて
ベッドに潜り込む。
「・・・・・・」
ひさしぶりに1人の夜かもしれない。
少し奮発して1人部屋でよかった。
私は、わけもなく興奮した肉棒を握り
グラインドし始める。
自慰。
店にいた時はそんな事をする気も起きなかったが
一週間もしてないと
なんか無駄に欲が起きてくる。
「ふあ」
漏れる声。
少しずつ速くなる手
胸を揉みしだく。
次第に下からも汁は溢れだし
音を立て始める。
いつの間にか眠っていた。
『エッチ』
頭の中に響くような声がして
我に帰る。
そこは、あの場所。
箱の中の世界の彼女も眠ってたらしく
こっちを見ていた。
「イッちゃったの?」
「たぶん」
「いいなぁ」
箱の中の私はその国では有名な人で
自由に出歩く事も出来ず
恋愛もままならないし
窮屈な生活を送ってるらしい。
「お仕事は辛い?」
彼女は首を横に振る。
「楽しいから」
「そっか」
やさしく笑う私。
彼女も笑う。
同じ顔をした
別な世界の私。
環境もなにもかもが違うのに
私は彼女と生きていた。
641L.O.D:01/12/09 02:36 ID:HVuAzIPR
二章終了書き込み忘れsage

新章、というか、最終章突入。
642ぼの ◆BONOl.Ok :01/12/09 02:43 ID:BebN52iV
急にお香が欲しくなった(w
643(((☆_☆)/:01/12/09 08:41 ID:E5FD7ey1
毎晩 djから困る・・・
644L.O.D:01/12/09 11:32 ID:IHaL4uG+
『nightmare』

小さい頃はその全てが夢だったらいいと
心のどこかで思っていた。
悪い悪い夢で
いつか目が覚めて
全ては本当の世界に帰ればいいと。
箱の向うの世界は本当の世界なのだろうか?

「ごっちーん?」
私は相棒 後藤真希を探す。
ラジオの仕事だっていうのに
ブースにもいないし
トイレにもいない。
もう少しで打ち合わせが始まってしまう。
走り回った。
ヒョンなタイミングで彼女は
廊下の向こうから顔を覗かせた。
「もぅ、仕事始まるよー」
「あぁ、ごめん」
ライターを仕舞う仕種。
隣に立った彼女からタバコの匂いがする。
「圭ちゃんですら仕事中は吸わないのに」
「クセだから」
そうつぶやいた後藤の目はひどく悲しい。
私は彼女の過去に何があったのか
それとこのタバコの事がどう関係してるのか
聞いた事は一度もない。
他人の心に踏み入る事など
ありえなかった。
娘。の楽屋にいれば
いつも一緒にいる安倍や矢口だって
ましてや、辻と加護だって
互いをどう思ってるのかなんて
分かりはしない。
そんな世界。
誰かを心の底から愛し
求め
忘れずに
思い続けるなんて
ありえない。
645L.O.D:01/12/09 11:32 ID:IHaL4uG+
私は、仕事の帰り道
深く息を吸い込んだ。
あの日、聞いた彼女の話。
真っ白な雪原の中で
全てに別れを告げ
抱き締めた時の事。
きっと、こんなに寒い時だったのだろう。
相手の名前はリカ。
石川にそっくりな少女。
立ち止まり、冬の空を見つめる。
ちらつく雪。
抱き締める真似をする腕は
空を切り
ただ空しさだけが襲ってくる。
「コンビニでも寄ろう」
雑誌を立ち読みして
財布を見てみると
若干の余裕。
おでんを買う。
無愛想な男性店員。
こんな時に自分の曲が流れてきたりして
ちょっと気まづくて
早足で店を出る。
家に帰り
部屋に入って
夜食を食べ終わり
片付けるものもなく
ベッドに横たわりながら
ボーっとする。
眠い。
枕元のボードの上。
キンモクセイのお香。
焚くと、すぐに眠れる。
そして、彼女に会える。
646L.O.D:01/12/09 11:33 ID:IHaL4uG+
同い年の
同じ格好をした
自分ではない
自分がそこにいる。
男性と女性を手に入れ
その美しさは
未分化ゆえの
不確かさ。
でも、私は彼女の事を素直に
綺麗だと思った。
ゆっくりと目を開けると
ヒトミは歌っていた。
「誰の歌?」
知ってるわけないのに聞いてみた。
「今日会ったストリートの人が歌ってたの」
「いい歌だね」
「友達になったんだ、マキっていうんだけどね
 笑顔がすごくかわいいんだ」
「その子ってさぁ、なんか魚ってる?」
「ウォ?」
「魚顔っていうか、、、」
「あぁー・・・・・・
 ひとみの世界にもいるの?」
「うん、友達」
「じゃぁ、私達も仲良くなれるかな?」
そう言って、はにかむ彼女はかわいらしい。
「あとね!」
声が一段高くなる。
「?」
「マリから手紙が来たの!」
「やったじゃん!」
「うん!」
私が入ってる箱をたぐりよせ
そっと抱き締める。
「一緒に暮らさないかって・・・・・・
 今、近くに住んでるんだって」
「よかったね」
彼女の顔を見ていると
といっても、まったくもって
自分の顔なのだが
なぜだか癒される。
私はこんなに笑えてるだろうか。
心の底から笑えてるだろうか。
647L.O.D:01/12/09 11:34 ID:IHaL4uG+
今日、調子いいかも。
一日で一章書けるかな?
648L.O.D:01/12/09 12:02 ID:IHaL4uG+
私は笑う。
作り笑いで笑う。
仕事だもの。
「お疲れさまでした」
そうつぶやいて、
その場をあとにする。
別にそれが普通の事だし。
「よっすぃー」
突然かけられた声に
驚きながら、振り向くと
矢口が立っていた。
私は視線を落とす。
「どうしたんすか?」
「御飯行かない?」
「焼肉?」
「なんでもこーい!」
ちっちゃくてかわいい人。
だけど、私より年上で
たまに頼れるお姉さん。
もう1人の私は
もう1人の彼女を愛し
彼女の物だとまで言う。
なにをすれば
なにをされれば
そんなに愛し
愛されるのか
思い合えるのか。
私は矢口のおごりという事で
いきつけの焼肉屋に連れていってもらった。
ウキウキとした表情で
肉をひっくり返す様は
半ば勇ましくもある。
「でだ」
「?」
「よっすぃー、身体大丈夫?」
「へ?」
「元気ないよ、最近」
メニューの牛タンを指差しながら
大丈夫かなぁとつぶやいてた
3秒前とはまったく違う顔。
「はぁ・・・・・・」
「仕事のこと?」
「まぁ」
「ほらぁ、一応、先輩なんだしさ
 なんでも言ってよ。」
649L.O.D:01/12/09 12:03 ID:IHaL4uG+
私はポツリポツリと夢の中で会う
もう1人の自分の事
別な世界の事。
ヒトミとマリの事
リカの事
今まで聞いた全てを話し
そして、もう1人の自分の存在が
今、ここにある自分の意味に
問いかけてる事を言う。
「そか・・・・・・」
矢口は箸を置く。
「考え過ぎですよね」
「でも、悩んじゃうよね。
 矢口もたまにあるよ。
 本当に私が笑ってるのは
 いつなんだろうって
 分からなくなる」
「矢口さんもですか?」
笑顔がかわいい人。
どんな話題でも真っ先に
明るい声で笑い
リアクションして
トークを進めて行く矢口。
「仕事だからさ、するって事もあるじゃん。
 プライベートですっごい嫌な事あって
 全然笑えない時なのに
 ラジオだったりとかさ
 DJ.マリーだったりさ
 来ちゃってたら
 やるしかないし」
「辛くないですか?」
「うーん、辛くないようにしてる。
 自分の時間ってのを大事にしたり
 リラックスできる時間だとか
 ちゃんと笑える時間を
 意識的に作ってるよ」
「そっかぁ」
「他人に相談する事も結構解消法になるよ。
 あっ!だけど、、圭織はダメ!!
 めちゃめちゃ長くなるから!!」
「あははっ」
笑えてる。
たぶん矢口さんの気づかい。
ちゃんと笑えてる気がする。
私の笑顔を見て
矢口さんは優しい笑みを浮かべた。
ここにいた。
私を思ってくれる人が。
650L.O.D:01/12/09 12:20 ID:IHaL4uG+
「じゃ、バイバイ」
最終列車で帰る彼女は私に手を振る。
歩き出そうと振り向く背を見て
私は声をかける。
「矢口さん!」
「?」
「待ってください!」
タクシーはまだ来ない。
「どうしたの?」
「・・・・・・」
無言で抱き締める
「え!?」
「このままじゃ人間不信になりそうでした。」
「・・・・・・よっすぃ」
「はぁ・・・・じゃぁ、おやすみなさい!」
断ち切るように私は離れた。
矢口はドギマギした顔で
去っていく。
腕の中に残る彼女の感触。
人の温もりを感じたのなんて
いつ以来だろう。
651L.O.D:01/12/09 12:21 ID:IHaL4uG+
生まれて
生きてきて
愛を感じた事なんて
もう覚えていない。
勉強や仕事に何もかも流されるように
単調な生活を繰り返すだけ。
自分にノルマを課して
一歩一歩、長い石段を踏むように
少しずつ死に近付くだけ。
そんな生活が嫌になった。
私は悪夢から脱出する。
「はぁあーいっ、よしこよぉん!」
自分を偽らずに。
「キャァーー、よっすぃ!」
「かっこいい!」
自由に。
自由に。
自由に。
例え、その場所が与えられた場所だとしても
押し込まれた空間だとしても
常に、自分を持ち続ける事。
そして、愛す事。
きっと自分を見てくれる人はいるから。
自分を大切に思ってくれる人はいるから。
自分の殻に閉じ篭らずに
アグレッシブに。
与えられるだけではなくて
ちゃんと与えて。
そうすれば、きっと伝わるから。
私は、箱の外の世界を見た。
自分じゃない自分を見た。
いつの間にか見失いかけてた自分を見た。
私はモーニング娘。吉澤ひとみ。
その前に、1人の女の子として
1人の人間として
ここに存在してる。
そう、あの箱の外に
もう1人の私がいるように
私は、大勢の中の1人ではなく
私は私。
652L.O.D:01/12/09 12:30 ID:IHaL4uG+
私は目を覚ます。
裸でベッドの上に横たわる2人。
私の顔を見て
微笑むマリ。
「ヒトミちゃん、笑ってたよ」
「楽しい夢を見たんです」
「どんなの?」
「もう1人の自分にまた会ってました」
「いいなぁ、マリも見たいな」
そう言いながら、身体をくっつけてくる。
私はそっとおでこにキスをする。
「愛してます」
「マリもだよ」
この世界もまた
混在するもう一つの世界に過ぎないとしても。
「ずっと一緒にいてください」
「離さないから」
誰かを思う事は同じ。
そして、皆、生きている。
「・・・・・・」
重ねられた唇。
例えば、毎日がつまらないと感じたり
意味がないと感じても
案外、フとした事で
それは開けていったりするもの。
毎日を生きるために
少しの笑顔と、愛を。

fin