後藤真希の新曲 あれ、完全にぱくり

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476第五話 さよなら青い鳥

耳に入ってから、瞬きをするくらいの時間を遅れて、言葉が形になった。
返さない? それって。
「なっちの中には戻さないってこと?」
亜依ちゃんはこくん、とうなづきかけて「違う違う」と急いで首を横に振った。
「おばちゃんに返さないんやなくて、もうここから出さないねん」
「ウソついちゃってごめんなさい」
亜依ちゃんが背中にまわした手鏡を出してきて、ののちゃんはぺこっと謝ってくれた。
私はこれがふたりの可愛い冗談だと――思おうとしてた。
477第五話:02/03/11 21:49 ID:FypI6xfV

「え? だって、なんで?」
聞きながら私はだんだんうつむいていき、ふたりの顔が視界からそれた。
顔もちょっとへらへら笑い出してる。落ち着かなくて髪をかきあげる。
「だって、さっき亜依ちゃん――」
「おばちゃん、魔鬼はな」
なっちの声をさえぎって話す亜依ちゃんの言葉に、そっと顔をあげた。
「たくさんの人間の人生をメチャメチャにしてきた鬼なんやねんで」
はっ、とした。
霊を追い出してほしいだけなら、魔鬼の名前なんて確認する必要がない。
わざわざリュックまで持って手鏡を持ち歩く必要だってない。
『魔鬼』を捕らえたかったんだ。
478第五話:02/03/11 21:51 ID:FypI6xfV

「知らんかもしれへんけど、昔は本当にひどい事をいっぱいしてたらしいんや」
知ってる。
――りっぱな理由でしょ?
亜依ちゃんの言葉が真希との記憶を呼び起こす。
「友達言うてたから迷ったんやけど、やっぱりこうすることにした」
――人の首なんて片手でちぎり落とせたよ。
心臓がドクン、と痛いほど大きく鳴った。
「あの、こうするのがお姉ちゃんのためだと思って」
――子供が死んで、泣き叫ぶ親の顔が見てみたい。
おでこにはうっすら汗をかいていた。
ちゃぶ台に両ひじをついて、両手で自分の顔をおおう。
間違ってない。
昔の文献を見るかぎり、魔鬼を封印しなきゃいけないという考えは間違ってない。
夜行バスの中で夢を見て、頭のすみでそう考えて手首をおさえてた自分もいたのに。
…。
どうしてだろう?
今のなっちはあの子達を泣かせてでも鏡を、真希を奪い返したいと思ってる――。
479第五話:02/03/11 21:52 ID:FypI6xfV

ののちゃんの言葉ですっと体温がさがる。べたべたした汗も一瞬でひいた。
「だってそのままだったら、結婚とかきっとできないよ?」
そうだ。
…どうして今まで考えなかったんだろう?
こんな身体の人と結婚したいかと言われれば、絶対したくないって人がほとんどだと
思う。また汗をかきだした。息苦しくなる。
子供だってそうだ。ちゃんと人間の子が産まれるのかすらわかんない。
「今はええかも知れへんけど、おばちゃん、将来きっと後悔する思うて」
将来。
その言葉を聞いた瞬間、なっちの過去がなっちの中を通り抜けた。
顔をおおってた手をはずす。
視界が広がって、はっきり見えた。呼吸を楽にしたなっちの目に飛び込んで来たのは
手をつないで心配するようになっちを覗き込むふたつのおだんご頭。
…ごめんね。
480第五話:02/03/11 21:53 ID:FypI6xfV

「ごめんね」
ちゃぶ台の上でそっと手を組んで。
笑顔をつくった。今、出来る限りせいいっぱいの極上の笑顔のつもり。
「なっちねぇ、つい最近までイジメられてたんだ」
亜依ちゃんとののちゃんは手をつないだまま顔を見あわせてうなづいた。
ちゃぶ台のそばに座り直し、鏡を真横に伏せて置いて。
「ちょっとだけだけど、自殺も考えたんだよ」
ののちゃんは亜依ちゃんに視線を映した。亜依ちゃんは口唇をとがらせていた。
「…それで?」
「でも真希がさ、なっちの代わりになっちの身体で仕返ししてくれたの」
ごめんね。
「完全に解決ってわけじゃないけど。真希がいなかったら、なっちにはさ」
なっちの将来を気遣ってくれたのに本当にごめん。
――なっち、すぐ出してよ? 長く居たくないから。
待たせちゃったね。
今度はなっちが、真希のために役に立ってあげなきゃいけないのに。
「将来なんてなかった――!」
ののちゃんの身体がぴくっと動く。その瞬間、私は片ひざを起こした。
ちゃぶ台に左手をつく。湯飲みが倒れた。
亜依ちゃんの動きを右手で抑えつける。
頭からつっこむようになりながら左手を手鏡に伸ばす。
「だめっ!」
スローモーションにならなかった。左手はたたみを――鏡のあった場所を叩いただけ。
481第五話:02/03/11 21:55 ID:FypI6xfV

目には天井と自分の足がうつっていた。…あれ?
起き上がるにはどうしたら良いのかな、なんて思っていたら。
「…おばちゃん、重い」
「えっ?」
なっちの下から聞こえてきたそんな声が聞こえて、あわてて横に動くと
ちゃぶ台と亜依ちゃんから落っこちた。
「ごめんね。痛くなかった?」なんてねっころがったまま謝るなっちに、亜依ちゃんは
「たいじょうぶ」と首を左右に動かしながら答えた。顔が赤くなる。ごめんねぇ。
――それより! 手鏡は?
亜依ちゃんもなっちと同じく見失ったようで床をキョロキョロと見渡してた。
「残念でしたぁ」
息切れに混じって聞こえたその声に、亜依ちゃんと同時に視線を向ける。
ののちゃん。
胸の前に両手で、ののちゃんが手鏡を抱きかかえていた。
482第五話:02/03/11 21:56 ID:FypI6xfV

「こう見えても、のの、スポーツ得意なんだから」
取りかえそうと手を伸ばしかけて気づいた。
ののちゃんの手が鏡の面にふれている。
…さわっても平気なの?
そう思った瞬間。亜依ちゃんが叫んだ。
「のの!」
「だてにバレー部に入ってる――」
「鏡の部分にさわったらあかん!」
「えっ? あっ。えっ? …えぇ――っ?」
ののちゃんの顔が赤くなり、口唇がちょっとだけ前に出るのが見えた。「んぅ、ん――っ!」
遅かった…。
何が起きてるか手に取るようにわかって、ちょっと恥ずかしくなる。
「大丈夫か、のの! 痛いんか?」
亜依ちゃんのその言葉にこっそり首を振った。痛くはないよ、どっちかって言うと――。
…言えません。