後藤真希の新曲 あれ、完全にぱくり

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210第九話

飯田さんと保田さんが矢口さんに向かって階段を駆け降りる横を、真希は
前を向き背筋まで伸ばして階段をのぼり、通り過ぎる。
横目で見ることすらない。まるで昨日の放課後と同じ光景。
違うのは――真希だけ。
…なんで?
『なにが?』
頭に響く声はいつもの真希で、悪びれた様子もない。
なにが、って今のは別に真希には、身体には被害はなかったじゃない!
なのになんで矢口さんにあんなことを。
『だって苛々するじゃん。あの子の態度』
その聞き覚えのある言葉は、なっちの胸に刺さる。それだけで?
――ムカつくんだよ! 何なの、お前!?
――ずっと安倍のことむかついてたんだ。
『そっ。それだけ』
とんっ。
最後の一段だけ跳ねるようにして階段をのぼり終えた真希が、私の顔で笑う。
『りっぱな理由でしょ?』
211第九話:01/12/18 00:51 ID:SMg9cBnh

しんと静まりかえった廊下を今度はなっちが歩く。
真希と同じに歩いてるはずなのに、何が違うのか上靴は歩く度に小さく鳴った。
『安心してよ。あれ以上はこの身体の負担になるからしないって』
そうじゃない。
気に入らないから手を出すってのは、一番やって欲しくない行動なの。
やられた方の気持ちを考えて欲しいから。
これだけは譲れない、と真希に伝えようとした時、頭に響いた。
『さっきさ、違うのは真希だけ、って言ってたけど、なっちもじゃない』
えっ?
不意に聞こえた声に立ち止まる。
なっちは昨日と同じだよ。真希が身体を動かすのを止められなくて…。
『そんなことない。だってさぁ』
私の言葉はまたさえぎられた。ふふっ、ってふくみ笑いの後に真希が続けた言葉は、
なっち自身を惑わせて、刺さる。
『昨日のなっちはもっと真剣に、やめて、って言ってたもん』
212第九話:01/12/18 00:55 ID:SMg9cBnh
一瞬で顔が赤くなり、そしてそれを 隠せない。
それはさ、矢口さんに仕返しができたことを喜ばなかったの?
って言われると嘘になるよ。
でも、あんなやり方で仕返しなんてしたくない。
『なっちさぁ、私に隠し事はできないんだから』
知ってた。…つもりだった。
心臓が大きく鳴って、私は早足で歩き出す。
『嘘になるよ、なぁんて。復讐したかったんでしょ、ずっと』
やめて。
勝手なこと言わないで――!
耳を手でふさいでも、真希の声は止まらない。
『正直になりなさい』
静かな廊下を足音も気にせず走り出してすぐ、足が止まった。
耳をふさいでた手がゆっくり降りてきて、私の胸を覆う。真希がささやいた。
『真希さんが力になってあげるから』
213第九話:01/12/18 00:58 ID:SMg9cBnh
笑顔が見えた――気がした。
おとといまで止まっていた真希は歩き出していて、今にも走り出しそうに見える。
なのになっちは、真希に手をひかれた分しか進んでいない。
この身体を自由に動かせる真希はなっちの手を離して急ぐこともできるのに。
真希は追いつける距離で振り向いて、私を待ってくれている。
そんなの、真希だけだよ。
真希だけがなっちを上に引き上げてくれる。
今わかった。
って言うか、なんで今までわかんなかったんだろう?
真希と居ることがあってるか間違ってるかなんてわからない。結局ずっと迷うんだ。
なっちがどう思うか。それだけ。
なっちは――。
214第九話:01/12/18 01:00 ID:SMg9cBnh

ごまかしのきかないひとつの身体。
言わなくても通じてくれるふたつの心。
真希が楽しく笑ってるなら、なっちも明るい気持ちになる。
なっちが哀しく落ち込んでいれば、真希も暗い気持ちになる。
もう真希にも自分にも言い訳なんてすることない。思った通りに。
「真希」
私は声を出した。久しぶりだ。学校に居るのに、ひとり言でもないのに、誰に
言われたでもないのに、自分から進んで――声を出すなんて。
「お願い」
見た目はひとりなのにまるで誰かに問いかけるような言い方。
矢口さん達に聞かれたら、気色悪がられて変な目で見られるだろうな。
『そしたらまたそのぶん黒目をつっつけば良いって』
あはは。そっか。
ちょっと沈黙。息を吸って、吐く。
「真希」
『うん』
おいていかないで。
「なっちと、並んで」私は小さく声にする。「一緒に、歩こう」