後藤真希の新曲 あれ、完全にぱくり

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177第九話

夢はまだおぼえている。
不快なことのない欲望の消える白の空間は居心地が良すぎて
ここから出られるならどこだって行くと思わせるほどに何もなくて。
孤独で退屈だった。
あの中の方が良いだなんて。
涙が一滴流れて、視界のゆらぎが取れる。
泣いちゃった。
真希と会ってから初めて落とした涙。
どんなに泣きそうになっても、絶対泣かないつもりだったのに。
でも。
きっとこれが最後。
自分を哀れんで泣くのは、これを最後にする――。
178第九話:01/12/06 23:08 ID:+t0S4Wc5

握った右手の中にはまだ汗をかいていた。
払いのけた先生の手も、まだなっちの横にあった。
私は先生を見て、そのまま矢口さん、飯田さん、保田さん、校長先生と順に見て
最後にまた先生の目を見つめた。
「先生」
「あ、あぁ」
手をゆっくり下ろしながら寺田先生は答えた。
手をはらいのけたことと泣いたことで、先生はちょっと動揺して見えた。
涙だけじゃなく色々と流れ落ちた気がする。
気分が、軽くなって高ぶってる。
私は。
私の意志で微笑んだ。
へらへらした笑いじゃなく、矢口さんにも負けないようなしっかりした極上の
つもりの笑顔をつくって言った。
「前に私が相談した内容、憶えてますか?」
179第九話:01/12/06 23:09 ID:+t0S4Wc5

下げる途中で先生の手がぴくっと止まって、一瞬校長先生を気にしたのがわかった。
わかったのは私達だけだと思うけど。
やっぱり。先生は気づいてたのに見ない振りをしたんだ。
「ん、あ、あぁ」
「私だけが悪いんですか?」
歯切れの悪い返事に、私はさらに続ける。
矢口さん達の顔もさっきのように笑ってはいなかった。
『良いね。こういうの嫌いじゃないよ』
勝ちにはならないだろうけど、ただ負けるより良い。ずっと良いと思う。
真希。
『うん?』
ありがと。私だけだったらこんなこと、絶対言えなかった。
180第九話:01/12/06 23:10 ID:+t0S4Wc5

「寺田先生」
校長先生の呼びかけに、すぐに答えはなかった。
「ちょっと私にはよく話が見えないんだが、相談の内容とは何ですか?」
「あ、はぁ。あの。実はこの安倍と矢口、保田達は折り合いが悪くてですね――」
「本当にそれが相談の内容ですか?」
「…いえ。違います」
先生が小さな声で少しずつ話し出すと、校長先生の眉間にしわが寄り出した。
「イジメ?」
校長先生に聞かれて、具体的にされたことの話を私がつけたす。
その度に場の空気は張り詰めていった。
「なんと…」
校長先生のそんな一言にさえ飯田さんの顔は青くなっていった。
矢口さんと保田さんが懸命に「偶然に落ちたカバンにつまづいて蹴ったことが
ありました」とか「手がすべって安倍さんの靴を濡らしただけです」と言っても
「そんな偶然は何度もないでしょう?」と一括された。
181第九話:01/12/06 23:11 ID:+t0S4Wc5

『やっと終わったね』
解放されたのは一時間ほど後だった。
結果、矢口さん達は厳重注意の形となり、次回発覚時はそれ相応の罰を。
寺田先生は後で校長先生が再度話しをしましょうと言われていた。
私は実際に怪我を負わせてしまったのでやっぱり停学になった。
三日間。今日から。
重い罰だけど、少しだけでも気が晴れたのが救い。
『私には誰が一番重い罰なのかもわかんなかったんだけど』
校長室を出る前にぺこりとおじぎをしたんだけど、校長先生は背中を見せるだけで
扉が閉まる直前にため息をしていた。
それがまるでなっちには、暴力沙汰が表沙汰にならずに良かった。なんて感じに
取れなくもなかったんだけど。
182第九話:01/12/06 23:12 ID:+t0S4Wc5

来た時は三人で、戻るのは四人だった。
――今度は私が一番後ろを歩いていたんだけど。
また授業の合間で誰も歩いていないけど、行きのときのような圧迫はない。
むしろ今圧迫を受けてるのは予定外だったって顔をしてる飯田さんと保田さんと
黙ったままなっちの前を歩く矢口さん。
『つまんない作戦立てるからだよ。黙っていれば良かったのに』
真希の言葉に私はちょっと微笑む。
なっちは黙っていなかったから良かったんだけどね。
『あはは。そうだね』
階段を上がって最初の踊り場。私達四人以外の人目が消えたときに、矢口さんが
ゆっくり振り向いた。
「おぼえてろよ。今度はこっちもタダじゃおかないからな」
『だからさぁ』
あきれたような真希の声。
『黙っていれば良いのに――!』
183第九話:01/12/06 23:14 ID:+t0S4Wc5



また景色がスローモーションになった。
えっ?
音もなく矢口さんに一歩寄って、右手で口をふさいだ。そのままそっと矢口さんを
壁に押しつける。
予定外の行動。
矢口さんの両手がなっちの右手首をつかもうとしてるけどそれより速く。
なっちの左手が矢口さんの目に向かう。
『次から一回ずつ』
だって。そんな。なんで――?
親指と中指で矢口さんの右目を開くと、間のひとさし指の爪で黒目を二度つついた。
『つっつく回数を増やしていくから』
飯田さん達が振り向く直前に矢口さんから離れる。
静かで音のしない行動は上靴と床を鳴らすこともなかった。
壁に張りついてる矢口さんを不思議に思った保田さんが言う。
「…矢口?」
すとん。
その声が合図。矢口さんは踊り場に崩れるように座り込んだ。