加護ちゃんのクローン手に入れたらどうする?

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「星に願いを..」

「すごく悩んだんやけど、やっぱり転校をしようと思てる。今のままだと、お仕事と
学校両方頑張るのは難しいし、娘。も学校も両方大事やし、どっちも頑張りたいねん」
「..うん」
「編入する学校は全寮制で校風もしっかりしてるし頑張れると思う..」

普通に考えればそうなんだ。あいぼんはまだ学生で、仕事だけ選ぶ事なんて出来ない。
好きでしている仕事とはいえ、週に何度も長距離の移動を強いられて学校と仕事を頑張る
なんて大変だ。平気な様子の彼女も知らない内に、心身ともに少しずつ無理をしているに
違いない。このままだといつか彼女はパンクしてしまう。それだけは避けなければいけない

「離れるのは、つらいけど...。解かってほしい」 彼女は僕の事を気遣ってくれている
彼女が一番大変なのに。その思いに胸が締め付けられる
「僕も、そうした方がいいと思う。今、あいぼんには仕事も勉強も大切だし、必要だと
思う。賛成するよ」
それを聞いた彼女は、微笑んだ。目には少し涙が浮かんでいた

「それとな..。」
「何?」
「ううん、なんでもないねん...。 向こうへ行っても、すぐ会えるよね?」
確かめるように彼女は聞く
「会えるよ。何時でも。大丈夫だよ。僕がこの世から消えるわけじゃないんだから」
僕は彼女を元気づけるために冗談半分で笑いながら答える
「..うん、絶対だよ。絶対だよ」
彼女は冗談と受け取れなかったのか、僕に約束をせがむように言った。

彼女の気持ちが強く伝わってきた。僕はそれに負けないぐらいの気持ちで彼女を抱きしめる。
何も言わなくても二人の意識が伝わる、伝わっている、そんな気がした。
何時までも二人は変わらない、そう思っていた。ずっと...

食卓には焼きたてトーストと熱々のオムレツ、新鮮なオレンジジュースが並べられている
いつもと変わらない朝食―。今日であいぼんがこの家を離れるというのに...

いつものように互いの指定席に向かい合わせに座わって、手を合わせる
「いただきま〜す!」 いつもより一層明るく振舞う彼女は、おそらく僕を、そして彼女自身も
元気付けようとしているに違いない。決断の日から彼女は強くなった気がする。彼女とは対照的
に、大切な新しい門出を祝わうべき立場の僕は、大人になれずに沈んだ表情を隠し切れずにいた

そんな僕に気付いた彼女は、わざとオムレツを口いっぱいに頬張り、モグモグ食べて
「う〜ん、美味いっ!ええダシ使ことる、このオムレツ。さすが海原さんところの息子さんや〜」
持ちネタ“加護ちゃんの京極さん”だ。以前二人でポッキーを食べた時に、このネタに僕が大笑い
した事を彼女は憶えていたのだろう。今回も僕を笑わせてくれた。彼女の明るさに僕は救われた
「ありがとう、あいぼん」と言うと、彼女は嬉しそうに笑い返した

引越しは全て事務所に任せてある。既に荷造りを前日に終えていた僕達二人は、午後に到着する
トラックを待つだけになった。こんな時は忙しい方がいい、別れの時を考えずに済むから..。昨日
のうちに済ませた部屋の掃除を、もう一度二人一緒にする事にする。彼女が掃除道具を取りに部屋を
出ると、僕は何も無い部屋に一人ぼっちになった。その瞬間、物凄い寂しさが襲ってきた。彼女の
存在が此処に居なくなるという現実、その重大さが胸に響く。彼女が部屋に帰ってくると、僕は反射
的に彼女を引き寄せ、抱きしめた 「何処にも行くな」 言えなかった言葉がストレートに出た。
叶うはずの無い願いと解かっていたからこそ心の奥底に閉まっていた僕の本音だった
「その気持ちすごくうれしい。・・・だいすき、だいすきだよ」 僕の腕の中で彼女が言った
素直な気持ちで向い合う二人... せめて今だけでも時がとまればいいのに...

無常にも二人を現実へ引き戻す玄関のチャイムが鳴る、引越し屋さんが来たのだろう
扉を開けると、何故かそこには引越し屋さんのツナギを来た矢口さんとミカちゃんと辻ちゃんが居た
ビックリしたが、思いがけない助っ人達の登場に彼女も僕も喜びを隠せない。最後だけど、みんなが
居て、嬉しくて、楽しくて、せつなくて、忘れられない引越しが始まった。