いいかげん、保田を卒業させるスレ

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465【保田圭2011】
#21

「どうしてだろうね」

なつみは、窓の外を見たまま続けた。
まるで魂を抜き取られてしまったように、無表情に。
まるで誰かに操られているかのように、淡々と。

「みんな、後藤のために泣いていたのにね」
「...」

「あの時、気づいたんだ。ずっと憎んでたんだなって」
なつみは、ほんの少し顔をゆがめた。

「後藤の事、好きだと思い込もうとしていたんだなって」
なつみの顔が、醜く歪んだ。

「最低だね」
「なっち...」
「あの時だよ。あんな可哀想な姿を見て、ざまあみろって思ったんだよ」
「...」
「最低だね」

「私ね、なっち」
「...」
「あの時、後藤が化け物になってしまったって思った。そんなふうに思った」
「...」
「でも、そうじゃないよね」

「わかってる」
「...」
「後藤はかわいい女の子だよ」
「...」
「わかってる」

「私が言いたいのはそういう事じゃなくて」
「わかってる」
「...」
「あんな状況だったからって、言いたいんでしょ?」
「...」
「あんな状況だから、本音がでたんだよ」
「...」
「圭ちゃんは後藤の事、化け物みたいに思っちゃたんだね」
「...」
「私は、ざまあみろって思った」
「...」
「本音が出たんだよ」

「ねぇ、なっち」
「...」
「今でも、そう思ってるの?」

驚いたように、なつみは顔を上げた。
そして、ほんの少し笑った。
あざ笑うような、醜い笑いだった。

「どうなんだろ」
「今はそう思っていないよね」
「...」
「そうでしょ、なっち」
「...」

なつみはまた、窓の外に視線を移した。
その目は、救いを求めるような哀れな色になった。

視線の先には、裏庭でしゃがみ込んで植木鉢を覗く、ちびなっちがいた。
466【保田圭2011】:01/12/23 12:40 ID:44ZNNlfa
水平飛行に入り、ベルト着用のランプが消えた。
その途端、若いパーサーがやってきて言った。
「あの、保田圭さんですよね。サインいただいて良いですか」
「はい」

差し出された大きめの手帳の1ページに丁寧にサインする。
パーサーが食い入るように覗き込んでいる。
「本当は規則で禁止されてるんですけど。すいません」
「いいえ」
笑顔で、手帳を返す。
「ずっと応援してます。ありがとうございました」
「ありがとうございます」

彼女は大事そうに手帳を抱えると、踊るような足取りで去った。
彼女の先輩らしいパーサーが苦笑いで見送っている。
目があった。
詫びるような会釈に、笑顔で会釈を返す。

彼女に与える事の出来た小さな幸せに、きっと自分は満足すべきなのだろう。

数十秒の出会いの中で、彼女の笑顔しか知らない。
けれど若い彼女の心にもきっと、これまで生きてきた間に受けたいくつもの傷があるはずだ。
しかし、彼女は笑顔だった。

哀しみをあからさまに顔に出して生きている人間などいない。
それは、自分も同じ事だ。

きっと誰もが笑顔の下に、悲しみや苦しみを隠している。
そして、闇の部分も。

中澤裕子の心の闇。
曽根崎なつみの心の闇。

嫉妬や羨望。

醜い心に囚われて苦しむのは、その人が心正しく生きようとしている証拠だと思う。
なぜなら、その人が向き合っているのはきっと自分自身なのだから。

中澤裕子が憎んでいるのは、きっと保田圭ではない。
嫉妬に胸を焦がす、自分自身の心だ。

曽根崎なつみも同じ事だ。
あの夜、あの一瞬、後藤真希の不幸を喜んでしまったのは本当かもしれない。
けれど今、彼女を苦しめているのは、その一瞬の自分自身だ。
もうどこにもいない、幻の自分自身だ。

中澤の事は、時間が解決してくれるかもしれない。
二人が近い距離にいれば、中澤の心は変わっていくのかもしれない。

だが、なつみと後藤の場合はどうだろう。
二人が再び出会う事で、なつみの心は変わるだろうか。
囚われた闇から、抜け出す事が出来るだろうか。

室蘭と赤牟は、遠すぎる。
なつみと後藤の距離は、遠すぎる。

けれど、いつか二人の距離がゼロになる日が来ると信じたい。

そこには、闇を追い払う光があると信じたい。
467【保田圭2011】:01/12/23 12:40 ID:44ZNNlfa
ねぇ、後藤。
あんたの事、とても憎んでしまった人がいるんだ。

その人は、ほんの一瞬、あんたの不幸まで喜んでしまった。
その人は、ずっとずっとその事で苦しんできた。

どうする。
後藤なら、どうする。

許してあげてくれるよね。
救ってあげてくれるよね。

だってその人は、あんたの事とても愛しているんだから。
そうでなければきっと、あんなにも苦しみはしないから。

抜け出せない心の闇の中で、ずっとさまよい続けている。
そんな人を、見捨てたりはしないよね。
後藤なら、きっとそうだよね。

私、何にも出来なかった。
救ってあげる事が出来なかった。

私、その人の事、大好きなのに。
その人が苦しんでるのに、どうする事も出来なかった。

哀しいよ。
苦しいよ。
どうすればいいのか、わかんないんだ。

おかしいね。
いい大人なのに。
何にも出来ないなんて、情けないよね。

私じゃ、駄目なんだ。
きっと、駄目なんだと思う。

ねぇ、後藤。
お願いがある。

いつか、もっと時が流れたら。

その人があんたと会う日が来るのかもしれない。
もしも、その時が来たなら。

微笑んであげて欲しい。
それだけでいいから。
それだけで、きっとその人は救われるから。

お願いだよ、後藤。
お願いだよ。

[to be continued]

...and See You Soon, "Holy Day".