――― 立ちふさがる強敵 ――
燃え盛るバイパーをしばらくの間見ていた飯田とノノであったが
再び車に乗り込むと、中央高速を爆走し始めていた。
ノノによる自動操縦モードから、飯田による運転に切り替えて
それまでの遅れを取り戻そうと、猛然と突き進むモーニング2000。
そんなモーニング2000の前に2台の真っ黒な
AMG仕様のメルセデスのセダンが立ち塞がった。
2台のメルセデスは、追い越し車線と走行車線の両方をふさぎ、
モーニング2000を、まさにブロックする形になった。
「何よ?」
行方をふさぐ2台のメルセデスに飯田はそう叫んだ。
今まで200kmを超えるスピードで走ってきたモーニング2000であったが
前に立ちふさがるメルセデスのために時速80km程度の
低速走行を余儀なくされていた。
「もー、一体何なのよー、急いでんのに!!」
一向に道を譲らないメルセデスに飯田はイライラしていた。
そうこうしている間にモーニング2000は長野県へと突入していた。
「やった、車線が一個増えた!」
そんな時、目の前に登坂車線が現れてその車線が3車線に増えた。
「お先にー」
モーニング2000は、本来は遅い車が走るための登坂車線へと飛び出すと
一気に加速した。
しかし、それと同時に
メルセデスも恐ろしいほどの加速で飯田とノノと併走しだした。
「え!!」
驚く飯田。
ひるんだ飯田がアクセルを戻した隙に
1台のメルセデスが登坂車線を行くモーニング2000を追い抜き
その目の前に割り込んできた。
「うわ危ない!!」
思わず急ブレーキをかける飯田
「ちょっと!何よー」
飯田は悲鳴を上げた。
目の前に1台、そして真横に1台とメルセデスにぴったりとつかれ
完全にブロックされる形で、再び低速走行を余儀なくされる飯田とノノ。
「なんかはめられたみたいれすね」
と言うノノの言葉に
「さっきのバイパーの一味かもね」
飯田も、2台のベンツが自分を陥れようとしている事にようやく感づく。
「なんかこのレース、どうやらただのレースじゃなさそうね」
飯田は口元に手を当て、静かにそうつぶやいた。
「やった!あれノノよ。」
ノノが低速走行している間に懸命に追跡していた安倍と後藤の
カローラランクスがようやく追いついた。
「あれ?でもあんなにゆっくり走って何してるんだろう?」
後藤がそう言って不思議そうに首をかしげた。
「こうなったら」
飯田はそう言うと、急にブレーキをかけた。
不意を突かれて、一瞬驚いた様子の2台のメルセデス。
「行くよ、ノノ。ターボブーストよっ」
「いいらさん、この距離ではむちゃれす」
「やるしかないでしょっ」
ピッ
飯田はそんなノノの忠告を無視して天井のボタンを押す。
それにあわせてモーニング2000は弾かれたように猛ダッシュし、
そして前を塞ぐメルセデスの頭上をジャンプして越えていった。
ヒューン
空を飛ぶモーニング2000。
ドカッ
メルセデスを越えたモーニング2000は激しくバウンドしながら
再びアスファルトに着地する。
「バイバーイ」
飯田はそう言ってひらひらと片手を振ると再び加速していった。
「あー、圭織やったね」
「相変わらず無茶するね」
後ろから尾行していた安倍と後藤は、その様子を冷静に見ながら
こんな事を話し合っていた。
―― ミニミニ大作戦――
一方、こちらは・・・
「どうにかして中の様子が知りたいなぁ」
そう言ってビルを見上げる加護。
「ようし」
「え、何がよしなんですか?」
急にボソリとつぶやいた矢口に加護が反応する。
「加護ちゃん、忍び込むよ」
「えー、どうするんですかぁ?」
その矢口の言葉に驚いた顔で尋ねる加護。
「フフフ、こっちにはこの見取り図があるのよ」
そう言って矢口は保田から転送されてきた詳細な見取り図の入った
メモリーカードを移した小型パソコンの画面を加護に見せると
「まぁまぁ、この天才矢口様に考えがあるなり。」
そう言ってニヤリと微笑んだ。
「私たち伊達にミニモニって呼ばれてた訳じゃないなりよ」
そう言って加護の方を振り返りながら喋る矢口。
矢口の名案というのにのせられて、2人はビルの通風孔にいた。
狭い通風孔の中をほふく前進で進む矢口と加護。
「はいー、ミニミニサイズでも幸せマキシマム」
「あん?別にこの状況、どう考えても幸せじゃないんだけどね。」
2人にはこんな事を言いながら狭いダクトの中を進んでいった。
小さなのぞき穴から、一つずつの部屋を覗いていく矢口と加護。
「矢口さーん」
小声で矢口の名前を呼ぶ加護
「んー、何だこの部屋は?」
矢口もその部屋の頭上で立ち止まった。
カチャカチャ
矢口は狭いダクトの中でもう1度、ビルの見取り図の入った
小型パソコンを取り出して改めて確認する。
その部屋にはパソコンやモニターが大量に並んでいた。
そして、その部屋に誰も居ない事を確認すると、矢口と加護は
天井の通気口のふたを静かに開け、その部屋に侵入した。
そのモニターには今までのキャノンボールレースの事故車の様子が
映し出されている。
「何よこれ・・・」
矢口は静かにつぶやいた。
何台も並んだモニターの周りに積み重ねられたビデオデッキ。
その周りには大量のビデオテープが積み上げられていた。
その内の1台のモニターには、車輪からドリルの刃を出して
マシンをクラッシュさせるダッジバイパーの映像が映っていた。
「これは・・・」
矢口が絶句した。
「しっ、誰か来るよ」
その部屋に向かって近づいてくる足音を敏感に感じ取った
矢口と加護の2人は、慌てて元来た通風孔へと身を隠す。
ガチャッ
というドアの音と供に3人の男たちがその部屋に入ってきた
「よーし、さっさと編集しろよ」
「平凡な日常生活の刺激に飢えた大金持ち様達が、
殺人ビデオの新作をお待ちかねだからな」
「へい」
狭い通気孔の中に身を隠して男達の会話を
盗み聞きしていた矢口と加護。
「分かったわ、ここは殺人ビデオ工場よ」
矢口が静かな口調でそうつぶやいた。
「え?」と加護
「このレースは、優勝賞金1千万円って言うのは
相手を釣るためのオトリで、
あくまでも殺人ビデオを撮るためのレースだったのよ」
興奮した口調で一気にまくし立てる矢口
「えっ・・・、じゃあ飯田さんは・・・」
と言いかける加護に
「はっ」
「圭織が、圭織も危ない!」
矢口もそう言って慌てた。