――矢口と加護――
一方、こちらは中澤から怪しげなレースについての調査を
依頼された矢口と加護。
「ここがその怪しげなレースの主催者のビルだよ」
そう言って飯田がしたように、やはり大きなビルを見上げる小さな2人
「どうします?」
「どうしよう」
主催者のアジトに到着した2人は
そう言って途方に暮れていた。
ピーピーピー
その時だった。
矢口のカローラランクスの通信システムから呼び出し音が鳴りだした。
「なんなりか?」
外に出てビルを見上げていた矢口が、その音に
慌ててカローラランクスの運転席に戻る。
つられて加護も助手席に乗り込む。
「矢口、分かったわよ」
通信システムのモニターに顔を現わしたのは保田であった。
「分かったって、何が?」
「そのビルの見取り図よ」
矢口の問いかけに対してちょっと得意げにそう答える保田。
「やったぜ!けめこ」
そう言って喜ぶ矢口に保田は
「今データーを転送するわ」
と相変わらず得意げにコンピューターを操作した。
それから数分後・・・
「ねえ、圭ちゃん。ちっとも終わらないんだけど」
しばらくデーターが転送されてくるのをじっと待っていた矢口であったが
待ちきれなくなって保田を呼ぶ。
「はぁ?そりゃそうよ。そのビル35階分のデーターを全部転送してんだから」
「えー?」
「お、そろそろ終わるんじゃない」
「終わった所で作戦会議よ」
矢口・加護・保田の3名はモニターを介して作戦会議を始めた。
――迷走・飯田とノノ――
新宿で散々迷った飯田とノノであったが
一旦、首都高に乗ってしまったら後は早かった。
早朝の首都高をあっという間に走り抜け、
モーニング2000は、一路、中央高速道路へ。
すっかり運転をノノに任せた飯田は
「ねえ、ノノ。なんか音楽かけてよ」
ヘッドレストの後ろで両手を組んでくつろぎながら、
ノノに向かってそう言う。
「へい、じゃあ今のじょうきょうにぴったりの1番あった曲をかけるのれす」
そう言ってノノは、モーニング2000の
ミュージックサーバーシステムを検索した。
♪中央フリーウェイ 調布基地を追い越し ♪
モーニング2000のカーオーディオから流れてきたのは
ユーミンの「中央フリーウェイ」
♪中央フリーウェイ、右に見える競馬場
左はビール工場、この道はまるで滑走路♪
「あ、ここ!右に競馬場。あ、ビール工場も!丁度この場所だよ」
歌の歌詞とのタイミングぴったりで
東京競馬場の前を通り過ぎるモーニング2000。
「うわー、この歌の道ってホントにあるんだね」
「あるのれすよ」
「カオリ、ちょっと感動したよ」
飯田はレースの事はすっかり忘れて、窓ガラスにへばりついて感激していた。
ブチッ
「あれ?途中で切れたよ?」
「あれ?なんかおかしいのれす」
カチャッ
「あ、直った」
♪L・O・V・E ラヴリー保田♪
「何で毎回この曲なのよっ!!」
「や、やすださんに言って直してもらうのれす・・・」
「圭ちゃんに頼むからこんな風になるんじゃないの?」
・
「ヘークションっ!!ヘークションッッ!!」
「どした?圭ちゃん」
突然、大きなくしゃみを繰り返す保田に驚いて声をかける矢口。
「へーっく。きっと誰かが私の美貌に噂してるんだわ」
「・・・」
それから10分後。
時速200キロ近いスピードで中央高速を爆走するモーニング2000は
あっという間に八王子・相模湖と超え、山梨県に突入していた。
「えーと、さっき上野原インターを越えたから次は大月ね」
モーニング2000のカーナビを見ながら飯田がそう言う。
「ちょっと、ノノ!何でスピード緩めるのよ」
「あの。おなかがすいたんで、次の談合坂サービスエリアでごはん食べようと
おもったのれすが・・・」
「ダメ!」
飯田の厳しい口調にノノは談合坂行きを断念し、再び時速200kmへと
スピードを上げていった。
飯田を乗せたモーニング2000は、早くも
大月ジャンクションを越えようとしていた。
「あー!!駄目だよノノ。そっち行ったら河口湖だよ」
何故かフラフラと中央高速を河口湖方面へと行きそうになる
モーニング2000に慌てて飯田が大声をあげた。
「あぶない所れした」
「もー、頼むよノノ。しっかりしてよ。」
「河口湖と見たらそっちの方に行きたくなったのれす」
「もー、初日の出暴走の暴走族じゃないんだから・・・」
飯田とノノの迷走は、まだ始まったばかりであった。
―― 最初の敵 ――
「しかし、1台も他の参加車を見ないね」
「なんかこうねー、もっとデッドヒートみたいのが
したいんだよねー」
相変わらず運転をノノに任せヘッドレストの後ろで
両手を組んでくつろぎながら、そう言う飯田。
その頃、
飯田とノノを見張るためにずっと後を尾行していた安倍と後藤は。
「うわー、やっぱり私達の車じゃ駄目だ。
どんどん引き離されてくよー」
「さすが、ドリームカーね」
そんな事を言い合っている安倍と後藤の2台の
カローラランクスは、益々、ノノとのその差を広げられていった。
「ねえ、さっきトンネルを抜けた瞬間、なんかものすごいフラッシュが
光ったような気がしたんだけど・・・」
「ああ、ここのオービスれすね」
ノノは車内のモニターにオービスマップを映し出して飯田に見せる。
「え!じゃあさっきのスピード取締りのカメラだったんじゃない
やばいなぁ、映っちゃったよ」
そう言っておろおろとする飯田にノノはこう答える。
「だいじょうぶれすよ」
「え?」
「この車のガラスは特殊なのでカメラに映らないようにできまふから」
そう言うとノノは透明だった全てのウィンドウガラスを
一瞬にして真っ黒なスモークガラスに変えて見せた。
「あんたやっぱり凄いよ」
飯田はノノの説明に心底感心してそう言った。
※「オービス」・・・速度自動取り締まり機。
そして相変わらず物凄い勢いでかっ飛ばすモーニング2000は
そろそろ甲府へと差し掛かっていた。
「あ、あれ!都庁の前で見た1台じゃない?」
前方に参加車の1台と見られるマスタングを発見する飯田。
「やったー!1台事故ってるよ。よーし」
「わ、また事故ってる。これでまた順位アップだ」
と最初は無邪気に喜んでいた飯田であったが
次々にキャノンボールレースの参加車両が
クラッシュしているのを見て、次第に不審に思い始める。
「何か、レースの参加車ばっかりが事故ってるね」
そうノノに向かって感想を漏らす飯田。
「やっぱりレースって危険と隣りあわせなのね」
その時の飯田は、そう言って納得した。
しかし、その後、事故の理由が分かる事になった。
飯田の前を行く1台のダッジバイパー。
「やった!やっと普通に走る参加車に追いついたよ
これで、ようやくレースっぽくなってきたよ。」
と喜ぶ飯田。
しかし、そのバイパーを追い抜こうとしたその時であった。
バイパーのホイールからドリルが飛び出してきたのだ。
「な、何よ!」
チュイーン
バイパーはドリルを回転させながらモーニング2000に向けて近寄ってきた。
「分かったよ、今までの事故の理由が。全部、あの車が事故らせてたのよ!」
飯田はそう言って悲鳴を上げた。
なおも幅寄せしてくるバイパー。
「みんな、あの車にパンクさせられて、事故らされたんだわ。」
「許せない!来るんだったら来なさいよ!」
飯田はそう言って怒りをあらわにした。
バイパーのホイールから伸びたドリルがついに
ノノのタイヤに接触した。
ガリッガリガリガリ
バーン
しかし、ノノの特殊タイヤの前にはバイパーのドリルは
意味をなさなかった。
バイパーのドリルは逆にひん曲がり、その衝撃で
車体自体も吹っ飛ばされた。
ドーン
バイパーは、そのままガードレールに激突した。
「ノノっ、車停めて!」
キィィ
飯田はモーニング2000を路肩に寄せて停めると
バイパーに駆け寄る。
その時だった。
「いいらさん、逃げてください!ばくはつします」
衝突の衝撃で漏れ出しているガソリンを感知したノノが
飯田に向かって叫んだ。
「ええ!?」
たった今、バイパーに向かって駆け寄った飯田は
今度は逆方向に向かって走り出した。
「いいらさん、飛び込んでくらさい!」
ノノがそう言ってトランクのハッチバックを開く。
「え、何?トランクに飛び込めって言うの?無理よ。」
飯田はそう言ったものの、もう時間がないと判断し
ノノの言うままにトランクに向かって飛び込んだ。
ウィイイイイン
トランクハッチが閉まったその時だった。
ドカーン
ノノの後方で先程のバイパーが爆発した。
爆風をモロに受けたモーニング2000であったが
その特殊ボディには、無論傷ひとつつかなかった。
「うううー」
しかし、そんなモーニング2000のトランクの中で飯田がうめく。
「どうしました?いいらさん」
「ノノ狭いよー」
長身の飯田はモーニング2000の狭いトランクに
無理やりな体勢で閉じ込められて苦しそうにもがいていた。
たった今のその光景は、本部のビルにいるレースの主催者の
男たちの元にも届けられていた。
今までの映像は、先程のバイパーに取り付けられていた
車載カメラの映像によって全て主催者たちに筒抜けになっていたのだ。
ザザッザザー
しかし、爆発によって当然カメラも壊れ映像は途絶えた。
「くそっ」
周りで見ていた男たちはそうつぶやく。
「先生っ、申し訳ございません」
しかし、その映像をモニタリングしていた先生と呼ばれる男は
不敵な笑みを浮かべ
「これは凄い。こいつはいい映像が撮れるぞ。
あの黒いトランザムを追い続けるんだ!」
部下達にこう命じた。