小説「モーニングライダー」

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763モーニングライター

―― 一方その頃 ――

一方その頃、モーニング財団本部では。

「あの、あほコンビ。絶対これ見て参加するつもりになったんやわ」
中澤が、後藤が置いて行ったメモ用紙の
“優勝賞金1000万円”と書かれた所を指差して
ピラピラと保田に見せていた。

その時だった。
ピー
ピュルルルルー
「あ、この音は」
そう言って中澤が部屋の壁にかかったプラズマディスプレイ
の方を振り返って手元の通信装置のボタンを押した。
すると、壁の画面いっぱいに飯田の顔が映し出された。

764モーニングライター:03/01/11 01:26 ID:MPwkLuQ9

「裕ちゃん、裕ちゃん!今度ねカオリとノノ
レースに出る事になったから」
通信システムがつながるなり、唐突にそう言い出す飯田。
「今、何処にいるんや?」
思わず声が大きくなる中澤。
そんな何故か焦った様子の中澤に飯田は少し困惑する。
「え?それはね、レースの主催者との約束があって今は言えない
でもね優勝賞金1000万円だよ。
優勝したら裕ちゃんにも何か買ってあげるね」
「何を呑気な・・・
なぁ圭織。そのレースはなぁ・・・まぁええわ。とにかく至急戻ってきいや。
圭織にやってもらいたい重要な仕事について話があんねん」
中澤は必死の形相で飯田にそう伝えた。
765モーニングライター:03/01/11 01:28 ID:MPwkLuQ9

「ふーん、あ、ゴメン裕ちゃん今忙しいんだ。
その仕事の話はレース終わって戻ったら聞くから
それじゃまたね」
プチッ
「チョッ、圭織っ!圭織もっと重要な話があんねん!!」
通信システムに向かって大声で怒鳴る中澤。
「クソッ、あいつら、メインスイッチ切りやがった。
まあ、いいわ。どうせ圭織とノノには囮になって
潜入捜査して貰う予定だったし・・・」
そう言って中澤は諦め顔でつぶやいた。
「ただ、相手の目的が何なのか分からない以上、圭織達が危険よ」
保田のその言葉に、中澤も何か嫌な胸騒ぎを覚えた。
766モーニングライター:03/01/11 01:30 ID:MPwkLuQ9

「ふー危ない、危ない。
せっかくこれからレースに出ようって言うのに
なんか仕事を言いつけられる所だったよ」
飯田はノノに向かってそう言う。
「あ、裕ちゃん、1000万円って聞いて妬んでるのかも」
「なかざわさんも、きっと8段アイス食べたいのれすね」
「1000万円貰ったら裕ちゃんにも買ってやるといいわ」

中澤と保田が2人を真剣に心配している頃
飯田とノノは相変わらず呑気な事を言い合っていた。
767モーニングライター:03/01/11 01:33 ID:MPwkLuQ9

―― AM4:00新宿都庁前 ――

ブオン、ブオン
ボボボボボ
静かな街に野太いエンジンサウンドがこだまする。
ここはまだ薄暗い午前4時頃の新宿都庁前。
既に、キャノンボールレースに参加する参加車両が
路肩に集まり始めていた。
非公式な裏レースであったが既に20台以上の車が集まっていた。
集まっている車はフェラーリー360モデナ、
ランボルギーニムルシエラゴ、
ジャガーXKR、マセラティクーペGT等など
世界に名だたるスポーツモデルばかりだ。
それはある種、異常な光景であった。
「凄いよ、ノノ」
その光景を見た飯田は、そう感想を漏らした。

「凄いね・・・」
そして、ここにも飯田と同じ感想を持った人達がいた。
「ここにカローラなんかで乗りつけたら逆に目立っちゃうよ」
安倍と後藤は、無線でそう連絡をとりあうと、かなり離れた場所に
自分達のカローラランクスを停車させた。
768モーニングライター:03/01/11 01:35 ID:MPwkLuQ9

そしてスタートの午前4時半が近づいた時であった。
1台のベントレーが姿を現した。
飯田をはじめとした、そこに集まっていた皆が、
およそレース車両とは思えぬ、そのベントレーに注目した。
そして、そのベントレーはウインカーを出しながら
静かに路肩に車を寄せると、そこに停車した。

「ホホウ、いい車が揃っているじゃないか」
フルスモークのベントレーのリアシートに座った男が
部下に向かって嬉しそうに、そう話しかける。
「はい、先生」
先生と呼ばれたその男こそ
先程、飯田が尋ねたビルのついたての奥に居た男であった。

769モーニングライター:03/01/11 01:37 ID:MPwkLuQ9

しばらくすると停車したベントレーの助手席から
大きな旗を持った1人の男が降り立った。
そこに居た皆の視線が一斉にその男に集まる

「この旗が振られたらスタートして下さい!」
男は大声でそう叫んだ。

周りの車のドライバー達が自分の車の運転席に戻る中、
飯田も急いでモーニング2000の運転席に戻って準備する。
「なんか、ドキドキするね」
飯田はノノに向かってそう言った。

ブオーン、ブオーン
バリバリバリバリ
午前4時40分、予定よりも10分遅れて、大きな旗が振られ、
激しい爆音と共にキャノンボールレースはスタートした。
770モーニングライター:03/01/11 01:38 ID:MPwkLuQ9

各車、一斉に首都高の入り口に向かって発車した。
もちろんノノも。
しかし、ノノは・・・
「何よ、ここ。新宿駅じゃん」
「あれ?間違えたのれす・・・」
「ちょっとー、しっかりしてよー!」
飯田はそう言ってハンドルをバンバン叩いた。

新宿西口の首都高入り口を目指したノノは
何故か逆側の東口にあるスタジオアルタ前を通り、
そして再び都庁の前を通り過ぎ、
グルーっと回ってようやく首都高に入る。
その時間、AM5:00。
もはや、他の参加車もベントレーの姿もどこにもなかった。
「もー、出遅れちゃったじゃない」
飯田はそう言って嘆いた。