「ノノできるんれすよ。」
ノノはそう言うと ピッー と言う音を立てて車内の
<TURBO BOOST>というボタンを点灯させた。
「何ができるのよーッっ!!!!」
そんな飯田の絶叫とともにモーニング2000は
まるで弾かれたようにグニャグニャのガードレールを
飛び越え、宙を飛んだ。
バシューッッ
「はうっ」
そして情けない程の飯田の言葉。
ガードレールを乗り越えて空高くジャンプしたノノは
そのすぐ下に走っていた道路の脇に作られた
砂利の敷き詰められた広いスペースに着地した。
ボウンッ
そのボディと同様に特殊な素材で作られたタイヤが
着地の激しい衝撃でバウンドする。
「おうぅっ」
これまた情けない飯田の声。
無事に着地したモーニング2000であったが
車の中の飯田は完全に放心状態であった。
そして、青いコルベットは・・・
テールゲートから地面に叩きつけられたかと思うと、
くの字状に変形したまま砂利の上を滑走し、
中にいたドライバーが脱出する間もなく
数十秒後に爆発した・・・・・・。
−− ノノかお −−
「・・・・・・・」
モーニング2000の車内には、口を大きく開け、
目も大きく見開いたまま微動だにしない飯田の姿があった。
「…やったね・・・。ノノ・・・」
着地してからしばらくたった後、しばらく放心状態にあった飯田は
ようやく我に返ると、こう言葉を漏らした。
「いいらさん…」
飯田の言葉を受けてノノがこう呼びかけた。
「何?ノノ」
「はじめてノノって呼んでくれましたね。」
「エッ・・・」
ノノからの思いがけない言葉に思わずこう答える飯田
「そうだったかな…?」
飯田は小さな声でそう呟いた。
「あのれすね…。何かノノはすごく変な気分なのれす。」
「・・・?」
ノノの言葉に困惑する飯田。
「ノノは、ずーっと昔からいいらさんに“ノノ”って
呼んで貰いたいと思ってたような気がするのれす。
うーん…うまく言えないんれすが、ノノが製造されるより、
ずーっとずーっと前から呼ばれたかったような気がするのれす。」
「・・・」
それを聞いて飯田は思わず涙ぐんだ。
「ノノはね、余計な事は思い出さなくていいんだよ。」
ノノの記憶回路には、あの事故を含め、それ以前の記憶は
一切残されていない。…はずであった。
しかし、今ノノの頭脳に確実に変化が起こっている。
何かを思い出そうとしているのだ。
「そうなのれすか。うーん、何か残念れす。」
「あれ?いいらさん、どうしたのれすか?泣いているのれすか?」
さすが高性能コンピューターというだけに主人の体調の変化に敏感だ。
まあ、そのようにプログラミングされているので当然だが。
「違うよ、バカ。目にね、目にごみが入っただけ。」
飯田は両手で目を拭って必死にごまかそうとする。
「ほぉ、人間も大変れすねぇ」
つい先程まで人間の感情を敏感に感じ取っていたノノとは
うってかわって、相変わらず呑気なノノに戻っていた。
「…ほんとはこういうロボットの役はいいらさんの役なのれすがねぇ」
「ん?何か言った?」
「いえ」