「車か・・・。そう言えば…」
「え!そういえば?」
何かを思い出したかのような老人の口調に
思わず身を乗り出す矢口。
「ああ、そう言えば、あそこに誰かが捨てていったのか、
ずーっと長い間置いてあった錆付いたライトバンがあったんじゃが
あの日以来、姿を見ないな。」
「えっ?」
「おーい、婆さん!」
老人は家のほうに向かって大声でそう呼びかける。
しばらくして家の奥から1人のお婆さんが顔を出した。
「おやおや、お客さんかい?」
そう言って現れたのは、このお爺さんの奥さんなのだろうか
これまた感じのいいお婆さんだった。
「あ、こんにちは」
そう言って挨拶する吉澤。
その横で矢口と加護がペコリとおじぎをしている。
「おい、婆さん、あの松の木の下にあったライトバン
見なくなったなぁ」
「あぁ、そう言えばあの火事以来見かけませんねぇ」
「済みません、その話、もっと詳しく聞かせてもらえますか?」
お婆さんの出してくれたお茶とお茶菓子に夢中になっている加護を
よそに矢口は、その話に食いついた。
「そのライトバンってどこにあったんですか?」
老人に先導され、松の木の元まで来た矢口と吉澤。
加護はお婆さんと一緒に、先程の家でお茶菓子を御馳走になっていた。
「あぁ、あそこじゃ。あの雑草が生えてない一画があるじゃろう」
老人が指差した先には確かに畳1枚分くらいの大きさで
雑草の生え方が違う部分があった。
「あのー、矢口さんがあの時ミサイルを命中させたのって
そのライトバンで、青いコルベットは普通に逃げちゃってた…
何て事はないですよねぇ」
吉澤が小さな声でそう矢口に耳打ちする。
「じゃ何?私達がこの崖から落ちていくのを見たあの車って
ここにあった放置車両って事?」
矢口がそう言う。
あの時、矢口、吉澤、加護の3人が崖の下に落ちていくのを
見届けた燃え盛る車は、ここに放置されていた
ライトバンだったのだろうか?
「ありがとうございましたっ」
矢口はそう大声で老人に御礼を言って頭を下げると、
松の木のすぐ近くに停めてあった自分の
カローラランクスに走っていき、車に乗り込んだ。
吉澤も慌てて矢口のあとを追う。
「矢口さーん、どうしたんですか?いきなり」
吉澤は矢口の車の運転席のドアを開けて矢口にそう話し掛ける。
「ねぇ、もしよっすぃーがさっき言った事が本当だとしたら…」
「え?」
「圭織が見たって言うのは、私達が追ってた青いコルベットそのものよ」
そして矢口は無線機で、先程の老人の話を財団本部の中澤に報告した。
「あんたら、ちゃんと見届けたって言ってたやろー」
その報告を聞いた中澤は不満そうな口調でそう答えた。
「いやー、あの時、スポーツカーにしては
やけに形が違うなぁっていう気はしたんですよねぇ」
吉澤はそんな事を言い出した。
「何を今更・・・」
そう言う矢口
「矢口さんだって、あの時一緒に見てたじゃないですか」
吉澤がそう返す。
「だって、矢口、リムジンのトランクに
閉じ込められたまま見てたんだもん」
そう責任を擦り付け合うように言い合っている二人に
中澤は痺れを切らしてこう怒鳴った。
「何でもいいから、早く圭織と合流せえや!」
「そうだったよ、よっすぃー!私達も後を追うよ」
そう言ってランクスを発進させようとする矢口。
「ああ、矢口さん。加護!」
「あっ、そうだった。全く」
「カゴー!!行くよー!!」
矢口は大声で加護を呼んだ。