小説「モーニングライダー」

このエントリーをはてなブックマークに追加
336モーニングライター


−− 中澤と飯田 −−

「保田さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよっ」
先程、矢口が思いっきり投げた空き缶が命中し、
後頭部に出来た見事な“たんこぶ”を
石川に介抱して貰っている保田。
「イタタタタ!もっと優しくしなさいよ!」
「すっ、すみません」

トゥルゥルゥルゥルゥ
その時、モーニング財団本部の電話機が鳴った。

「はいはいはいはいはい」
扉を修理しようとしている22歳の矢口真里を
捕まえてじゃれ合っていた中澤裕子31歳は、
そう言いながら受話器を取った。
「はい、モーニング財団です。」
337モーニングライター:02/01/12 02:01 ID:LnyNT2DQ

飯田の受話器からは中澤の声が聞こえてきた。
「あのー、裕ちゃん?」
電話に出たのが中澤だと分かると飯田はこう言った。
「何や、圭織…。どしたん?」
突然、電話してきた飯田に対して
一体、何事かと不安そうな様子の中澤の声が聞こえる。

「あのー、ごめん、さっきは…。そのー、言い過ぎた…。」
思い切って飯田は中澤に向かってそう言った。
「え?なんや、カオリ。そのためにわざわざ電話してきたんか?」
なんだか、ほっとしたようにも感じられる中澤の声。
「え、うん、そうだけど…。あの、さっきの事、
気にしてるかなって思って…」
妙にしんみょうな飯田。
「ヌハハハハ、全然、何にも思ってへんよ。」
そんな飯田の様子がおかしくて、中澤はいつもの
“主”みたいな笑い声を立てながら飯田にこう言った。
338モーニングライター:02/01/12 02:05 ID:LnyNT2DQ

「それからな、圭織。わざわざ電話して来なくても
モーニング2000の通信システム使ったら、ここと
テレビ電話みたいに連絡できたのに…」
中澤はそう言う。
「え?」
驚く飯田。
「カオリ、さっき慌てて飛び出したから携帯も持ってなくて
わざわざコンビニから電話してたのに・・・」
飯田はそう言って嘆く。
「なんや、知らんかったんか?
モーニング2000は、ノノは何にも案内してくれへんかったのか?」
中澤は飯田にそう尋ねた。
「え、あ、そう言えば、カオリが少し黙っててって黙らせたかも…」
飯田は思い出そうとしてみる。
「それや。ノノは主人には忠実やねん。」
339モーニングライター:02/01/12 02:12 ID:LnyNT2DQ

「あぁーー!」
突然、電話の向こうから飯田の叫び声が響いてきた。
ガタンッ
受話器が壁か何かにぶつかるような音・・・
「おい、待てー!」
受話器から遠い所で飯田の叫ぶ声が聞こえる。

「なんや、どないした圭織!どうしたんや!」
飯田のただ事でない叫び声に、
中澤も大声で受話器に向かって叫ぶ。
しかし、それっきり飯田の声は聞こえなくなった。
340モーニングライター:02/01/12 02:16 ID:LnyNT2DQ

そんな中澤の様子に、矢口と保田も
慌てて電話の元に近寄ってきた。
「カオリッ、どないしたんや!なんか返事せえやっ!」
だが、中澤の必死の呼びかけにも飯田は応答しない。

ガチャガチャガチャ
しばらくして、受話器を拾いあげるような音が聞こえる。
そして
「裕ちゃん、大変だよ、ノノが誰かに盗まれて乗ってかれちゃったよ」
飯田がおろおろした声でそう言った。