−− 中澤と飯田 −−
「保田さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよっ」
先程、矢口が思いっきり投げた空き缶が命中し、
後頭部に出来た見事な“たんこぶ”を
石川に介抱して貰っている保田。
「イタタタタ!もっと優しくしなさいよ!」
「すっ、すみません」
トゥルゥルゥルゥルゥ
その時、モーニング財団本部の電話機が鳴った。
「はいはいはいはいはい」
扉を修理しようとしている22歳の矢口真里を
捕まえてじゃれ合っていた中澤裕子31歳は、
そう言いながら受話器を取った。
「はい、モーニング財団です。」
飯田の受話器からは中澤の声が聞こえてきた。
「あのー、裕ちゃん?」
電話に出たのが中澤だと分かると飯田はこう言った。
「何や、圭織…。どしたん?」
突然、電話してきた飯田に対して
一体、何事かと不安そうな様子の中澤の声が聞こえる。
「あのー、ごめん、さっきは…。そのー、言い過ぎた…。」
思い切って飯田は中澤に向かってそう言った。
「え?なんや、カオリ。そのためにわざわざ電話してきたんか?」
なんだか、ほっとしたようにも感じられる中澤の声。
「え、うん、そうだけど…。あの、さっきの事、
気にしてるかなって思って…」
妙にしんみょうな飯田。
「ヌハハハハ、全然、何にも思ってへんよ。」
そんな飯田の様子がおかしくて、中澤はいつもの
“主”みたいな笑い声を立てながら飯田にこう言った。
「それからな、圭織。わざわざ電話して来なくても
モーニング2000の通信システム使ったら、ここと
テレビ電話みたいに連絡できたのに…」
中澤はそう言う。
「え?」
驚く飯田。
「カオリ、さっき慌てて飛び出したから携帯も持ってなくて
わざわざコンビニから電話してたのに・・・」
飯田はそう言って嘆く。
「なんや、知らんかったんか?
モーニング2000は、ノノは何にも案内してくれへんかったのか?」
中澤は飯田にそう尋ねた。
「え、あ、そう言えば、カオリが少し黙っててって黙らせたかも…」
飯田は思い出そうとしてみる。
「それや。ノノは主人には忠実やねん。」
「あぁーー!」
突然、電話の向こうから飯田の叫び声が響いてきた。
ガタンッ
受話器が壁か何かにぶつかるような音・・・
「おい、待てー!」
受話器から遠い所で飯田の叫ぶ声が聞こえる。
「なんや、どないした圭織!どうしたんや!」
飯田のただ事でない叫び声に、
中澤も大声で受話器に向かって叫ぶ。
しかし、それっきり飯田の声は聞こえなくなった。
そんな中澤の様子に、矢口と保田も
慌てて電話の元に近寄ってきた。
「カオリッ、どないしたんや!なんか返事せえやっ!」
だが、中澤の必死の呼びかけにも飯田は応答しない。
ガチャガチャガチャ
しばらくして、受話器を拾いあげるような音が聞こえる。
そして
「裕ちゃん、大変だよ、ノノが誰かに盗まれて乗ってかれちゃったよ」
飯田がおろおろした声でそう言った。