−−ねぇ笑って−−
そんな飯田の変化に驚いて目を大きく見開く保田とつんく。
つんくは嬉しそうに
「やったな、保田」
と保田の肩を叩いた。
そう言われた保田も
「久しぶりにカオリの笑顔見たよ。」
そう言って笑った。
ただ、飯田だけが皆、何が嬉しいのか分からず
ただボケ−ッとしていた。
「これって、ビデオで見たナイト2000でしょ?」
飯田は嬉しそうに、まるでピアノの塗装のようにぴかぴかに輝く
漆黒のトランザムのボディを触りまくる。
「でも、これはモーニング2000なの。」
と保田。
「モーニング2000んん?」
とそんな保田の言葉に怪訝そうな声をあげる飯田。
「飯田、よく聞いてくれ。」
つんくは改まったように飯田にこう話し掛けた。
「はい。」
「今日から、お前にこの車に乗って働いて貰う。」
「えーー!!。いいんですか!!」
つんくのその言葉を聞き、嬉しそうにジャンプする飯田。
飯田はモーニング2000の運転席のドアを開けると
早速、車に乗り込んだ。
そんな飯田に、つんくと保田は
モーニング2000の使い方について説明し始めた。
しかし、電脳装備満載のスーパーマシン、
その説明も難解でリハビリ状態に近かった飯田の頭は
早くもパニック状態に陥ってしまった。
まだ説明の10分の1にも達していない段階であったが
「もう分かったよ。私だって車の動かし方くらい覚えてるんですからね!」
と、今まで、まるで廃人のようにボーっとしていた人物とは思えぬ
元気な様子で、飯田はこう言い放った。
そして、そう言い放った飯田は突然、オートマチックトランスミッションの
ギアをドライブの位置に動かすと、いきなり車のアクセルを踏みこんだ。
「あっ」と驚きの声を上げる保田。
が、既に遅かった。
キャキャキャキャキャッ
キィィィー
ドカーン!
モーニング2000は激しいスキール音をたてて
猛烈に加速していき、モーニング2000の格納されていた
ガレージの大きな頑丈な鉄の扉をぶち破って停まった。
・
そして…
ハンドルに突っ伏していた飯田がおそるおそる顔を上げる。
飯田の車を囲むように、もうもうとあたりに埃が舞っているのが見えた。
そして後ろを振り返ってみると、ガレージの奥には
呆然と立ち尽くしているつんくと保田がいた。
飯田は2人と目があうと、はにかんだように笑って見せた。
「あの・・・。凄いですね・・・。」
飯田は申し訳なさそうにつんくに向かってこう言った。
そして、そう言われたつんくは
「まあ…、ご覧のように色々な事故から、
お前らを守ってくれる世界一安全な車や。」
と、ボロボロになったガレージの入り口の扉を片手で叩きながら
少し顔をひきつらせてこう答えた。
「確かに、ボディに傷ひとつない…塗装さえ傷ついてないよ!」
飯田はモーニング2000のドアを開けて車から降りると、
先程衝突したフロント部分に回り、あれだけぶつかってもなお、
まるで鏡のような光沢を放つそのボディをなでながらこう言った。
「でも世界一安全って…、今ぶつかったじゃないですか。
圭織はー、ぶつかる前に止まる方が安全だと思うんですけど−」
飯田はボロボロになったガレージの扉を指差す。
「それはメインスイッチを入れてからの話よ。
圭織、スイッチ入れて起動させる前に飛び出したんじゃない。」
保田は呆れ返ったようにこう言った。
「そもそも、この車は塗装されてないんや。」
つんくはそう言った。
「はぁ?だって、こうやってちゃんと黒く塗装が…」
飯田はもう訳が分からなかった。
「この車は無塗装なんや。塗装のように見えるけどな、
このボディの表面は分子結合殻と言う特殊な物質で補強されててな、
その強度はダイヤモンドよりも硬いと言われてんねん。
いかなる衝撃にも傷ひとつ付かへんのや。」
「それでな、その分子の配列を変化させてやる事で
表面の色も変化させる事が出きんねん。」
飯田は、またまた、よく分からない事を言い出した
という感じの眼差しでつんくを見つめた。
「今の状態は黒やけどな、その表面の分子配列によって
ボディの色を黒にしたり違う色にさせたりする事もできるんや。」
「もちろんこのガラス部分にも同じ技術を応用してある。」
そう言ってモーニング2000の窓ガラスを叩く。
「つんくさん!」
まるでどこかのセールスマンのように饒舌なつんくの説明を
突然、保田が遮るようにこう叫ぶ。
「圭織が、またショートしてます」
保田の言葉で我に返って飯田の方を見ると
飯田はまたしても宙を見つめ交信状態に陥っていた。
保田は運転席と言うよりも飛行機のコックピットに近いような
モーニング2000のドライビングシートに乗り込むと
メインコンピューターのスイッチをONにした。
<<ピピッ、ピーピピピ>>
コンピューターが起動し、モーニング2000のフロント部分に
埋め込まれていた赤いスキャナーが点灯し左右に往復しだした。
「おおっ、すげー、ナイト2000そのものだよー」
飯田はその様子を見て、ふっと我に返り、子供のようにはしゃぐと
運転席の保田をひきずりおろして運転席に乗り込んだ。
「ちゃんと光るんだ−、ダミーだと思ってたよ」と
まるでクリスマスツリーのようにぴかぴかと光っている
車内のあちこちのボタンをペタペタ触ってみる。
「ギャー!カオリッ!!。余計なボタン押しちゃ駄目よッ」
横で保田が叫ぶ。
「なによー、分かったよ。うん、絶対押さない。」
そう言うと飯田は両手を胸の上に固く押し当てた。
「カオリ、この車さ、時速100キロに達するのに
1秒かからないんだよ。
だからさ、ほんのちょっとアクセル踏むだけですっ飛んでくから
気をつけるのよ…」
横で保田が小姑のように口うるさく何かを言っている。
しかし、飯田は少しもこたえた様子はなく
「あとは、実際に使ってみながら覚えるよ。」
そう言って再びモーニング2000を発進させた。
「ちょっと!どこ行くつもりよ!まだ、重要な説明が残ってんのよ!!」
そう言ってむなしく叫ぶ保田の声がガレージ内にこだました。
本日はここまでです。
いよいよナイトライダーっぽくなってきた
295 :
未成年:01/12/30 22:02 ID:ZsBS+0za
3代目のファイアーバードってことは
見た目はナイト2000よりナイト4000に近いイメージだね。
どうも、作者です。
>>295 一応ナイト2000もモーニング2000も、同じ3代目のトランザムです。
途中マイナーチェンジで少し変化もありましたが3代目のファイヤーバード・
トランザムは11年間作られました。ですから見た目はナイト2000よりと言う事で。
確か上の方で書いてる方がいましたが、私もナイト4000の出てきた
あの作品はちょっと納得いきませんね。
更新します。
−− 驚異のスーパーコンピューター登場! −−
大声で叫ぶ保田の声を無視してガレージから飛び出した
飯田とモーニング2000。
海岸沿いの長い直線道路を黒塗りのトランザムが疾走して行く。
「これが、あのナイト2000と同じだとすると喋ったりして…」
「へいキット!って、さすがにそこまでは無理だよね。」
いくら技術が進歩したとは言え、流石にまだ自分で喋る車など
実現できていない事くらいは分かっている飯田は、
「ふっ、まさかね。」
と自分のバカな考えに思わず苦笑する。
「いいらさん」
「え?」
そんな飯田の耳に、今、明らかに辻の声が。
「辻!、辻なの?」
キャキャキャキャキャ
飯田は急ブレーキをかけると、モーニング2000の車内を
キョロキョロと見回した。
「えーっと。わたしのなまえは、Morning Indust…えー、
あのー忘れてしまいました。」
「こんなことならアヤカとかいう女の英語を
もっとまじめに聞いておけばよかったのれす。」
ブツブツ。
声の主は飯田にお構いなく独り言を続ける。
「ちょっと誰よっ?」
焦る飯田。
「あ、はい。私はれすね、モーニング インダ…うーん、
何とか…と言うれすね、もーにんぐ2000の
コンピューターの一部なのれすが、先程れすね、
アヤカとか言う人が私の名前を教えてくれたのれすが
忘れてしまったのれす。」
どうやら今飯田に向かって喋っているのはコンピューターらしい。
「辻…じゃないの…?」
恐る恐ると言う感じで、飯田はコンピューターに尋ねる。
「はい、れすから私はれふね、モーニング インダ…えー、
やっぱり思い出せないれす。
略して“のの”って呼んでくらさい。」
飯田に話し掛けてきた奇妙な声の主はこう言った。
すると突如、モーニング2000内のモニター画面のスイッチが入り
そこに何か文字が現れた。
--<<Hello! Morning Industry Two Thousand>>--
「ん?モーニング インダストリー トゥー サウザンド?」
飯田がそこに表示された文字を読みあげる。
「あっ!、ひょとしてお前が言いたかったのって…」
「そう、それれす!」
ノノと名乗ったコンピューターが、嬉しそうにそう答える。
「じゃ、お前が呼んでくれって言ってた“のの”って、
どこを略したのよ!」
「え?…。てへへ…」
飯田に突っ込まれて、声の主はコンピューターの癖に
恥ずかしそうにそう笑った。
「よく覚えていないのれすが、昔、
ノノと呼ばれていた記憶がかすかにあるのれす。」
とりあえず、モーニング2000のコンピューターだと言い張る
自称ノノはこう答えた。
「そうなの…。でも、何の略にもなってないじゃない。」
飯田はそういい返す。
「開発段階のコードネームか何かれすかね。
何の略かは分からないれす。」
「ふーん…」
よく分からないが飯田はとりあえず納得することにした。
「しかし、なによ、このコンピューター。
ぎこちない喋りのコンピューターは聞いた事あるけど
舌ったらずのコンピューターなんて始めて聞いたわ…」
飯田はこの奇妙なコンピューターの登場に目を丸くしていた。
「戻るよ」
飯田はモーニング2000を一気にスピンターンさせた…と
言いたい所であったが、運転技術の未熟な飯田は
一度ハンドルを一杯に切ると、ギコギコと小刻みに方向転換し
モーニング財団本部へと戻って行った。
ようやく、ここまで漕ぎ着ける事が出来ました。
本日はここまでですが、この先の展開に御期待ください。
これってののかお?
( ゜皿 ゜)<アケマシテオメデトウ
一応、保全しておきましょう
ののかお期待保全
新年、明けましておめでとうございます。
今年も頑張っていきます。それでは続きです。
−− 矢口真里 −−
「もー、何でこんな事しなきゃなんないのよー!」
そう言って大声で文句を言っているのは矢口だった。
「うるさい、働かざるもの食うべからず」
矢口は、つんくにそう命令されて、
飯田がモーニング2000でぶち破った
ガレージのドアの修復をさせられていた。
「矢口、ドア作るの好きやろ。昔テレビで見たで。
矢口工務店とか言ってやっとるの。」
つんくはそう言って矢口を冷やかす。
「別に好きな訳じゃありませんっ」
矢口は甲高い声でそう言ってつんくに反抗した。
「しかもテレビで見たって、一視聴者と同じじゃないですか」
ブツブツ…
今度は、つんくには聞こえないくらいの
ちっちゃな声でそう呟いていた。
−−モーニング財団本部−−
ここはモーニング財団本部のラウンジ。
中では、石川の運んできたお茶を飲みながら中澤が、
飯田の壊したドアを直している途中の矢口を捕まえて絡んでいた。
その奥はロフト状に中2階のようになっており
そこには無言でパソコンの画面を見ている保田の姿があった。
バタン
そこに荒々しく入ってくる飯田。
「何や、何や」
乱暴に開けられたドアの音に中澤が振り向く。
そこには仁王立ちになった飯田の姿があった。
「何で教えてくれなかったのよ!」
突然入ってきたかと思うと今度は怒鳴りだす飯田
「何をや?」
あっけにとられたように中澤がこう聞き返す。
「あれが喋れるって事をよ!」
「喋ったんか?」
「喋ったんかじゃないわよ!」
少し怒った様子の飯田。
「何をそんなに怒ってんねん。」
片手で髪の毛を掻きながらそう尋ねる中澤。
中澤からのその問いかけに、飯田は大きな瞳を潤ませ
ヒステリックな調子でこう叫んだ。
「何で私に黙ってたのよ!
しかもさ、何で辻そっくりな声なのよ!
私の…、私のあの辛い記憶をまた呼び戻そうって事なの?」
中澤は知っていた。
中澤、保田、矢口の3人は、つんくサンの指示の元、
特殊車両「モーニング2000」の開発に携わってきた。
特に保田、矢口は開発メンバーの一員として、
この数ヶ月睡眠時間を削ってきた。
当然、このモーニング2000については知らない訳がないのだ。
しかし、中澤は“つじ”という言葉が怖くて口に出せなかった。
そもそも前回の飯田の失踪の原因は、
中澤が不意に口にした辻の一件が原因なのだ。
それ以来、中澤は飯田に辻の話題どころか辻を連想させる事さえも
口に出来なかった。それは中澤だけでなくメンバー全員同じだった。
(つんくサンの言う通り、後はあの車に任せるしかない。)
そう思っていた。
しかし、飯田に問い詰められて困っている中澤を
見かねて保田がついに重い口を開いた。
保田は、それまで見ていたパソコンのモニターから静かに
顔を上げると、かけていた眼鏡を外しながらこう言った。
「実は、あのモーニング2000は辻なのよ」
「えっ!」
保田の意外な言葉に驚きを隠せない飯田。
「何よ、それ。訳わかんないよ!
何処が辻なのよ。車じゃない。」
混乱したように飯田がこう怒鳴る。
「正確に言うとね、あの車のコンピューターの中枢部分は
全て辻の脳を基に作られているの。」
「それでね、ただのコンピューターの人工知能を遥かに上回る
頭脳を持ったスーパーマシンが完成できたわ」
「・・・・・」
飯田は言葉が出なかった。
あの機械とは思えない舌ったらずの喋り。
コンピューターなのに教えられた自分の名前をも忘れてしまう
低性能ぶり。
それより何より飯田も間違えたほどの辻そっくりな声。
飯田は先程までの事を思い出してみる。
成る程、中身が辻だと思うと全て納得できる。
「でも…」
飯田がある疑問を口にする。
「圭ちゃん、普通のコンピューターを遥かに上回る頭脳って、
中身が辻だったら普通のパソコンの方が賢いんじゃないの?」
「・・・」
それに対して、何故か、何も答えない保田であった。
「昔、ノノと呼ばれていた記憶がかすかにあるのれす。」
という、あの車の言っていた事もこれで説明がつく。
あれは、開発段階のコードネームでも何でもない。
それ以前の辻の時代の脳の奥底に眠っていた
“辻希美”自身の記憶だったのだ。
そう考えていたら飯田はまた少し涙ぐんだ。