−− 圭織の行方 −−
飯田圭織を追うように、モーニング財団本部から
5台のトヨタ・カローラランクスが一斉に飛び出して行く。
このカローラランクスは、モーニング財団の機動車として
財団総帥のつんくが調達してきた特殊車両である。
モーニング財団本部のガレージには、何故か全く同じ
このカローラランクスがメンバー全員分揃えられている。
このクルマの発売直後のCMのキャラクターがつんくだった事もあり
メンバー達はタダでトヨタから貰って来たのでは?と
密かに思ってはいたが、車に乗れるだけで充分満足であると考える
メンバー達は特に何も言わなかった。
中澤、安倍、矢口、後藤、吉澤…。
失踪した飯田を探して、メンバー達の
カローラランクスが街中を駆け回る。
「どや、なんか情報あったか?」
「だめだよー、全然見つからないよ。」
カローラランクスの無線機を使って情報交換するメンバー達。
「ほんま、どこ行ったんや・・・」
メンバー達は必死に飯田を捜索した。
しかし、そんなメンバー達の必死の捜索にもかかわらず
飯田の姿は見つけられなかった。
数日後、とある精神科の病院に
飯田に良く似た娘がいるという情報をつかむまで…。
そんな聞き込みの情報を元に、中澤と安倍の2人が
その精神科の病院に向かった。
安倍と中澤の2台のカローラランクスが病院の入り口に到着する。
中澤は車から降りると、何階か建ての病院をまぶしそうに見上げた。
中澤は病院の雰囲気が苦手だった。
「裕ちゃん、行くよ」
しかし、後ろから、安倍に声を掛けられ中澤も後に続いた。
受付けで、それらしい人物が入院していると聞かされて、
お世辞にも若いとは言えぬ年輩の看護婦さんに案内されるままに、
長い廊下を歩いて行く中澤と安倍。
建てられてからかなりの年数が経っていると思われるその病院は
雰囲気も暗く、正直、中澤には耐えられない雰囲気だった。
長い廊下の突き当たりの部屋まで案内すると
看護婦さんは、2人をその部屋の中へと招き入れた。
果たして、そこにいたのは飯田圭織本人だった。
「お友達の方ですかな?」
不意に、後ろから長い白衣をきた初老の医師が安倍に話し掛けてきた。
「え?あ、はい。ずっと、ずっと彼女の事探してたんです。」
急に話し掛けられて慌てながらも、安倍はそう答えた。
「そうですか。実は数日前ですが、街で訳のわからない事を
口走りながら大暴れしている大女がいる。と
警察の方達に連れて来られましてな…」
「・・・・・」
中澤と安倍は無言でお互いの顔を見合わせた。
精神病院の医師は、なおも続ける。
「彼女が最初にここに連れられてきた時には
興奮して手がつけられなかったんじゃが
鎮静剤と精神安定剤を投薬したら随分落ち着いてくれましてな。」
「ただ、それから、ずっとあの調子じゃ」
その医師は飯田の方を指差した。
中澤と安倍は医師の指差した方を見る。
そこにはただ一点をじっと見つめたまま口をぽかんと開けて
ボーッとしている飯田の姿があった。
「圭織!圭織っ!」
中澤が飯田の体を揺さぶりながら呼びかける。
「ん?あ、裕ちゃん…」
中澤の呼びかけに驚いたように応じる飯田であったが、
目はうつろで相変わらずボーっとしたままであった。
初老の医師はこう言った
「何かこの娘は心に相当大きなショックを受けたのじゃないのかな?」
その医師の言葉に中澤と安倍は、
再びお互いの顔をじっと見つめあった。
「実は…」
中澤が事の顛末を精神病院の医師に話し始めた。
・
・
「そうでしたか…。そんな事があったのですか。」
中澤の話を聞き終えたその医師は、全てを悟ったかのようにこう言った。
「彼女、圭織君にとって、その娘さんの存在はかけがえのない物だったんじゃな。」
「・・・」
中澤と安倍は何も答える事が出来なかった。
「焦らずに、ゆっくりと圭織君の傷が癒えるのを待つしかないじゃろうな。」
先生は静かにこう言った。
思わず涙がこみ上げてきそうになる中澤。
「あの、彼女、これからもずっとこのままなんですか・・・?
彼女、どうしたら元に戻るんですか?」
たまらなくなった中澤が、こう医師に尋ねる。
「彼女が受けたショックを自分自身で克服する。それしかないじゃろうな。
そして、それを克服した時に彼女は元のようになるだろう。」
そう言った先生は、付け加えるようにこう続けた。
「でもな、彼女なら大丈夫じゃ。きっと、この境遇を乗り越えて
一回りも二周りも大きな人間になれるじゃろう。」
初老の医師はそう言いきった。
「はぁ・・・」
中澤と安倍は、2人して、ただボケ−ッとしている飯田を見つめていた。