狂牛病日本でも発見。

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道新Today11月号より
「突如襲った狂牛病の恐怖 食品の安全度は?
プリオンの権威・金子清俊博士に聞く」

肉を食べるパフォーマンスで「安全」を訴えるのではなく、納得できる根拠を教え
て欲しいというのが、多くの消費者の願いだ。やはり、狂牛病の専門家に、一つひ
とつの事柄について理論的な説明をしてもらう必要がある。
そこで話を聞いたのは、国立精神神経センター神経研究所(東京)の金子清俊博士。
金子博士は、異常化すれば狂牛病の病原となるタンパク質プリオンの発見で、1997年
にノーベル医学生理学賞を受賞した米カリフォルニア大、スタンリー・プルシナー
教授の研究チームの一員。ヤコブ病の研究では世界でもトップレベルの科学者だ。
肉骨粉などを通じての汚染が心配される食物の安全性について聞いた。

●牛乳
【答え】安全。
【理由】牛乳には異常プリオンを運ぶ分子が存在しない。
【補足】これまで牛乳で感染した実験データは、世界で1件も無い。

●牛肉(精肉)
【答え】現時点では100%安全とは言い切れない。
【理由】肉そのものの問題ではなく、牛の解体時に(異常プリオンが蓄積した恐れ
のある)脊髄からの汚染の恐れがある。
【補足】厚生労働省は、脊髄が飛散する「背割り解体」を見直す方針。また、異常
プリオンが蓄積される恐れのある、生後30ヶ月以上の牛の検査を実施予定。これら
が徹底されれば安全といえる。
●牛の脳、脊髄小腸の一部など
【答え】異常プリオンが蓄積している可能性があり、安全とは言えない。
【理由】英国などでの人への感染例がある。
【補足】狂牛病感染牛を排除さえできれば、必ずしも食用を禁ずる必要はないだろう。

●豚
【答え】安全。
【理由】実験では、濃厚な狂牛病汚染飼料を与えても、豚は発症しない。
【補足】狂牛病にかかった牛の脳を豚の脳へ直接注射した実験では発症例がある。

●鶏肉
【答え】安全。
【理由】プリオンたんぱくの配列が哺乳類とは大きく異なる。
【補足】卵も安全。異常プリオンは卵をつくるアミノ酸にならない。

●養殖魚
【答え】安全。
【理由】鶏肉と同様に、プリオンたんぱくの配列が哺乳類とは大きく異なる。

●野菜、植物
【答え】安全。
【理由】汚染された肉骨粉が肥料として畑にまかれても、異常プリオンは植物を
つくるアミノ酸には変化しない。

●ビーフエキス、ゼラチン、牛脂などを含む加工食品
【答え】わからない
【理由】個々のメーカーが、どの部位を使っているか分からないから。
【補足】厚生労働省は各メーカーに、危険部位が混入していないかどうか調べ、混
入していた場合は商品を自主回収するよう指示。
これらの答えを示しながらも金子博士は「基本的には、牛と人には種の壁があるので、
牛の異常プリオンが原因で人がヤコブ病にかかる確率は極めて低いのです」と説明する。
さらに「牛の部位による感染力の強さや、それをどのくらいの量食べたかによって確
率は変わります。イギリスで発症者が多く出たのは、十万頭単位の感染牛が十年にも
わたり市場に流通し、繰り返し人の口に入ったからです。今の日本とは明らかに状況
が異なります」と強調する。
やっと少し安心できる話が聞けたようだ。「もう一つ、知ってもらいたいのは、人に
は異常プリオンを一定量までは排出する能力が備わっているということ。『ちょっと
でも異常プリオンを口にしてしまったらどんどんたまる一方』と思っている人が多い
ようですが、そうではないんです」
金子博士は「消費者の方々が牛を食べないとか、牛乳を飲まないとかする必要はあり
ません」とも断言する。
「狂牛病と関係ない、自然発生型のヤコブ病は百万人に1人の割合、つまり日本では
年間約百人の人が発症します。これに対して狂牛病由来の異型ヤコブ病の発症者数は、
イギリスでさえ過去6年間で百人程度です。これを見ると、個人レベルで考えれば日
本では、狂牛病騒ぎによってヤコブ病にかかるリスクが特に高まるという話にはなり
ません」
ただ、それはあくまで個人レベルで考えた場合の安全性。「もちろん、政府にはもっ
と慎重な考えをとってもらう必要があります。そういう意味では、厚生労働省の対応
は適切に取られていると思います」と話している。