宴のあと・・・。

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15フレディ
『2ちゃんねらーのフレディ』

春が過ぎて、夏が来ました。

PCを買ってもらったフレディは、この春、大きな匿名掲示板のラウンジ板のなか、
初めてレスを書き込みました。
そして夏にはもう、荒らしも覚えた、りっぱな厨房に成長しました。
五つの捨てハンを自在に操り、力強くいきがっています。

フレディは、数え切れないほどの名無しさんに、とりまかれていました。
はじめフレディは、名無しさんはどれも同一人物だと思っていましたが、やがて、
ひとつとして、同じ名無しさんではないことに、気がづきました。スレ立てした
名無しさん、コピペ荒らしの名無しさん、すぐ上の名無しさんはネカマです。
みんな新学期に親にPCをねだっていっしょに2ちゃんに雪崩れてきました。
荒らしに誘われて、ゴルァゴルァ、煽ったりもしました。マジスレへの荒らしには、
じっとしているのがよいということも覚えました。お祭が起こるといっせいにレスを
付け合ってよろこびました。
16フレディ:01/09/02 06:18 ID:MHhK76S6
フレディの親友は、ダニエルです。だれよりも議論好きで、昔からいるような顔を
しています。煽ることが好きで、怒らせ上手でした。ダニエルはフレディに、
いろいろ教えてくれました。フレディが2ちゃんの厨房だ、ということ。2ちゃんの
削除人は、ボランディアながらも、荒らしをあぼーんすることで、管理人とともに
頑張っていて、だから2ちゃんが訴えられないこと。荒らしやすいのは悲惨な1のいる
スレで、マターリ固定ハンがあいさつするのは雑談スレであること。荒らしや煽りや
騙りが、秩序なく、2ちゃんを巡回していること。そしてあめぞう以来の歴史のこと
など、みんなダニエルが教えてくれたことです。

フレディは「2ちゃんに参加できて、よかったな」と思うようになりました。
いつでも名無しさんがたくさんいるし、匿名で書き込めるし、ニュース速報は
玉石混合で、その上、親身になってくれるマジレスも申し分なく、モナーやギコ猫の
AAは微笑を誘い出してくれるからです。

夏になると、フレディは、ますますうれしくなりました。お日さまが昇るまでPCに
向かい、沈むのを待って眠れるので、テレホタイムにたくさん遊べます。そこら
じゅうを荒らしまくるのは、なんて気持ちがよいのでしょう。夜がふけるにつれ、
住民たちはますます熱くなって相手をしてくれるのですから、フレディは気持ちが
よくて、夢をみている気分です。
17フレディ:01/09/02 06:19 ID:MHhK76S6
2ちゃんに、刺激を求めて、大ぜいの名無しさんがやってきました。
ダニエルは立ち上がり「さあ、知恵をしぼって、みんなで特定の板に襲撃を
かけよう」と呼びかけました。
フレディは、ダニエルに、たずねました。「どうして、そんなことをするの?」
するとダニエルは「退屈にうんざりしている名無したちに、楽しい遊び場を与えて
あげると、みんなよろこぶんだよ。」と言いました。ダニエルの言ったとおり
でした。ラウンジ板に、厨房や消防が、集まって来ました。ドキュソたちも
来ました。自慢のAAを披露する人もいます。フレディたちは、直リンを貼って、
楽しい襲撃スレッドを、教えてあげました。
「フレディ、これも厨房の遊びなんだよ。」
ダニエルの話を聞いて、フレディはますます嬉しくなりました。固定ハンたちは
トップに出ないでsage進行で、ひきこもりのつらさを話しているようです。
厨房たちは、コピペを貼ったり、名前を騙ったり、いたずらもするけれど、
嘲笑したり暴走したり、生き生きしています。

けれど、楽しい夏はかけ足で通り過ぎていきました。たちまち鯖に負担がかかり、
八月の終わりのある晩、とつぜん、2ちゃん閉鎖の噂がおそって来ました。
フレディも、多くの名無しさんも、荒らしも煽りも、ぶるぶるふるえました。
みんなの顔に、後悔の念が浮かびました。朝になると、UNIX板のおかげで、なんとか
持ち直しました。

「終わりがきたのだ。」とダニエルが言いました。
もうすぐ2ちゃんがなくなる前兆だそうです。
18フレディ:01/09/02 06:21 ID:MHhK76S6
掲示板一覧のいくつもの板の表示が一気に白抜きあぼーんされました。
2ちゃんねるはまるごと蜂の巣をつついたような、騒がしさです。そこで、
ある名無しさんは苺ちゃんねるに、べつの名無しさんはメガBBSに、
ほかの名無しさんはス連の避難所、固定ハンはcocoa板の避難所へ、そして
フレディはダニエルと一緒に、ニュース速報板と批判要望板へ移りました。
なんてみごとな強制ID表示でしょう。

匿名性を大切にした、同じ板の、同じスレッドの、それも同じ名無しさんなのに、
どうしてちがうID表示をするのか、フレディにはふしぎでした。
「それはね──」とダニエルが言いました。「名前欄のクッキーは同じ名無しでも、
IPがちがえば、表示されるIDもちがう。ホストの名義もちがう。日にち、接続場所、
ダイアル回線、なにひとつ同じIDはないんだ。だから自作自演できないよう、みんな
ちがうIDを表示してしまうのさ。」

2ちゃんが変わったのは、そのあとでした。夏の間、笑いながら遊び場を提供して
くれていたひろゆき氏が、別人のように、ダンマリを決め込んで、名無しさんたちを
翻弄させているのです。名無しさんはこらえきれずにはじき出され、2ちゃんを
見切り、つぎつぎと散っていきました。

「ひどいよう」「ネタだよね?」名無しさんたちはおびえました。そこへ、
飛びがちなニュース速報板の中から、ダニエルのカキコが、とぎれとぎれに、
見つかりました。

「みんな、引っこしをする時がきたんだよ。とうとう閉鎖になるんだ。ぼくたちは、
ひとり残らず、2ちゃんからいなくなるんだ。」

フレディは悲しくなりました。ここはフレディにとって、居心地のよい夢のような
掲示板だったからです。
「ぼくもここからいなくなるの?」
「そうだよ。ぼくたちは2ちゃんねらーとして、厨房の遊びをぜんぶやった。
自作自演がばれて嘲笑をもらい、名無しや固定ハンのマジレスにはげまされて、
板のためにも鯖のためにも大量に転送量(料)がかかりすぎたのさ。だから、
引っこすのだよ。」ダニエルは答えました。
「ダニエル、きみも引っこすの?」とフレディはたずねました。
「ぼくも引っこすよ。」「それはいつ?」「ぼくのばんが来たらね。」
「ぼくはいやだ! ぼくはここにいるよ!」とフレディは、ageと入れて叫びました。
19フレディ:01/09/02 06:22 ID:MHhK76S6
多くの固定ハンも名無しさんも荒らしも、そのとき、が来て、引っこして
いきました。見ていると一時閉鎖にさからって、「羊」にしがみつく
「モー娘。(狼)」もいるし、あっさりはなれる板住民もいます。
やがて2ちゃんは板をあぼーんしつづけ、裸どうぜんになりました。
残っているのは、ニュース速報板と批判要望板だけです。
「引っこしをするとか、ここからいなくなるとか、きみは書いていたけど
それは──」とフレディは胸がいっぱいになりました。
「2ちゃんねらーをやめる、ということでしょ?」
ダニエルはレスをつけてきません。
「ぼく、厨房をやめるのがこわいよ。」とフレディが書きました。
「そのとおりだね。」とダニエルが答えました。「まだ経験したことがないことは、
こわいと思うものだ。でも考えてごらん。ネットは変化しつづけているんだ。
変化しないものは、ひとつもないんだよ。トップ画像が書き換えられて
売る出される。名無しは任意IDから強制IDになり散る。変化するって自然な
ことなんだ。きみは2ちゃんねらーになるとき、こわかったかい? 厨房から
荒らしになるとき、こわくなかったろう? ぼくたちも変化しつづけているんだ。
2ちゃん閉鎖というのも、変わることの一つなのだよ。」

変化するって自然なことだと聞いて、フレディはすこし安心しました。
2ちゃんにはもう、ニュース速報板しか残っていません。
「この板も閉鎖なの?」
「いつかは閉鎖さ。でも“過去ログ”はGoogleで検索できるのだよ。」と
ダニエルは答えました。

最後の板が閉鎖し、2ちゃんも閉鎖する。そうなると、春に参加して夏の終わりに
はじき出されてしまうフレディの2ちゃんライフには、どういう意味があると
いうのでしょう。
「ねえ、ダニエル。ぼくは2ちゃんを知ってよかったのだろうか。」とフレディは
たずねました。ダニエルは禿げしく肯定しました。
「ぼくらは、春から夏の終わりまでの間、ほんとうによく荒らしたし、
よく煽ったよね。まわりにはドキュソや無職やひきこもりがいた。デムパや
犯罪者もいた。2ちゃんねらーでオフ会を開いたり、ニュース速報には素早く
情報をうぷしてマスコミの目を楽しませたりもしたよね。それはどんなに、
楽しかったことだろう。それはどんなに、幸せだったことだろう。」
20フレディ:01/09/02 06:22 ID:MHhK76S6
その日の夕暮れ、最後の祭の中を、ダニエルは2ちゃんをはなれていきました。
「さようなら、フレディ。」
ダニエルはブラクラへの直リンを残して、ゆっくり、静かに、いなくなりました。

フレディの画面が、飛びました。

次のリロードはできませんでした。あぼーんです。やわらかでまっ白でしずかな
「File Not Found」画面が、じんと冷たく身にしみました。その日は一日中
どんよりした鬱だ氏のうなきもちでした。日は早く暮れました。フレディは自分が
色あせて枯れてきたように思いました。一筋の涙がほほをつたいます。
明け方フレディはもういちど「お気に入り」の2ちゃんねるにアクセスして
みました。蛍の光のBGMのなか、「2ちゃん閉鎖しました。。。」とひとこと
表示されるだけでした。
フレディは、ネットの中をしばらく泳いで、それからそっとPCを閉じました。

そのときはじめてフレディは、2ちゃんの全体の姿を感じました。なんて
荒唐無稽な情報に溢れた、素晴らしい掲示板だったのでしょう。これなら
いつまでも記憶にのこるにちがいありません。フレディはダニエルから聞いた
“過去ログ”のGoogle検索を思い出しました。“キャッシュ”というのは、
2ちゃんが閉じてからも読めるのだ、ということでした。

フレディがたどり着いた答えは自分の掲示板の立ち上げです。2ちゃんの
スレッド方式は、意外とすぐに真似できました。設立した掲示板は、
ID表示されない居心地のよいところにしたかったのです。フレディは満足し、
宣伝コピペを貼りまくりました。
フレディは知らなかったのですが──
秋が終わると冬休みになって、リアル厨房がどっと押し寄せ、
元2ちゃんねらーのフレディは、その厨房にまじり、名無しさんに溶け込んで、
掲示板の管理に右往左往することになるのです。

「2ちゃんねらー魂」は無意識のこころの中の、目には見えないところで、
新しい掲示板を生み出そうと、準備をしています。ひろゆき氏の意志をついで、
寸分の狂いもなく“2ちゃんねる”を変化・再生させつづけているのです。
かつて、あめぞうから、2ちゃんねるが生まれたように。。。

また、厨房の夏が、めぐってきました。