谷澤動物病院側勝訴について その2

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「匿名幻想」の終焉〜2ちゃんねる敗訴に何を見るか〜
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■「2ちゃんねる」に誹謗中傷を書き込まれ、管理者が削除要求に応じなかったのは不当だとして、
都内の動物病院と経営者の獣医が、管理者「ひろゆき」に五百万円の損害賠償ならびに該当発言
削除を求める民事訴訟の判決が、去る6月26日、東京地裁であった。
■判決は、書き込みを名誉毀損と認め、管理者は、書き込みが名誉毀損に当たるかどうかの判断
をした上での削除義務を負うとして、「ひろゆき」に四百万円の支払いと該当発言の削除を命じた。
ちなみに現在係争中のDHCが提起した訴訟の請求額は六億円である。
■この判決が持つ意味は大きい。もし判決がリーズナブルなら、今後の類似訴訟にとっての見本と
なり、2ちゃんねるのように原則としてIPログを取らない「完全匿名掲示板」は、管理者にとって訴訟
リスクが多すぎるので、遠からずほぼ全面的に消滅すると予想される。

704 :02/07/14 01:19 ID:637N5U45

【訴訟の争点:立証責任の所在】
■結論から言う。判決は概ね妥当だ。説明しよう。壁の落書きに名誉毀損の落書きがあった場合、
誰も壁の設置者を悪いとは言わない。悪いのは明らかに書いた者だ。書いた者の特定ができない
場合でも、壁の設置者は落書き自体をを予見できないから、責任はない。
■だが壁の設置者が、そこに「自由に落書きしましょう」と宣言した場合には、書かれた内容につい
ての管理責任が生じる。公序良俗や個人の権利を侵害するようなもの(名誉毀損)については、
管理責任上の削除義務を負う。これが2ちゃんねるの場合に相当する。
■「殺せ」などの煽りや、家族構成など個人情報の晒しが、権利侵害に当たるのは自明だ。
問題はいわゆる評判や評価。最高裁判例にあるように内容が真実かつ公益的であれば権利侵害
(名誉毀損)に当たらない。では真実性と公益性の有無の立証責任を誰が負うか。
705 :02/07/14 01:19 ID:637N5U45
■立証責任を負う者は論理的に三者ありうる。(1)書かれた当事者、(2)書いた当事者、(3)壁(掲示板)
の設置者。皆さんはどう思うだろう。落書きの例が分かりやすいが、社会通念上も、最高裁判例上も、
書いた当事者が立証責任を負う。
■その上で、書いた当事者が立証責任を果たせなかった場合、すなわち真実性や公益性を証明
できなかった、壁(掲示板)の管理者は、書かれた当事者の要請に応じて書き込みを削除する義務を
負う。さて、ここまでは争点になりようがない。
■争点は何か。今回の場合、書いた当事者が誰かが分からないのだ。IPログすら残らない「完全匿名
掲示板」だからだ。書かれた当事者が、書いた当事者の責任を追及できないのだ。であるなら、書かれた
当事者と、掲示板の管理者の、どちらが立証責任を負うか。

706 :02/07/14 01:20 ID:637N5U45
【表現の自由ではなく責任の問題】
■ここでポイントになるのは匿名掲示板とは何かだ。エンドユーザー同士の身元が分からないのが
匿名掲示板だ。でも、メアドを登録する等の会員制にしたり、課金制にする場合は、ユーザー同士は
匿名でも、管理者側には(結果として)非匿名のデータベースが残る。
■これを「疑似匿名掲示板」と呼べる。IPログを記録し、裁判所命令等に応じてユーザーを追尾可能
にしておくのも「疑似匿名掲示板」だ。今回、判事が注目しているのは、ひろゆきが、疑似匿名掲示板
ではなく、完全匿名掲示板を、「あえて選択」している点だ。
■「疑似匿名掲示板」なら、書かれた当事者が、書いた当事者を、裁判所命令を経て責任追及できる。
誰が書き込んだかを事後的に追尾できない「完全匿名」をあえて選択したのは、ひろゆきだ。ならば、
ひろゆきが書き込みの真実性と公益性の立証責任を負う──。
707 :02/07/14 01:20 ID:637N5U45
■これが判決の理路だ。ひろゆき側は「完全匿名掲示板」に書き込まれた内容の真実性と公益性の
立証責任を負うのでは、事実上、「完全匿名掲示板」は運営不可能になり、よって、「完全匿名掲示板」
上の「表現の自由」が脅かされると、主張していた。
■報道で見た限りでは、識者のコメントも、関西大学の園田寿教授のものに見るように、同種のものが
多い。確かに、判決は「表現の自由」はもとより無制限ではないとし、紛争処理の最終機関たる裁判所
さえもが追尾できない匿名表現に、事実上の制約を加えた。
■追尾不可能な「完全匿名掲示板」をあえて設置するなら、その責任をとって、設置者や管理者が紛争が
起こった場合の立証責任を負い、立証責任を果たせないなら原状回復と損害賠償(と予防措置)の責任を
負え、という判決だからである。
708 :02/07/14 01:22 ID:637N5U45
■だが識者らは勘違いしているが、判決は「匿名表現に表現の自由を認めない」とはしていない。むしろ、
ユーザー同士の匿名性が確保された、しかし紛争処理においては裁判所命令でユーザーを追尾可能な
「疑似匿名掲示板」を、推奨しているといっていいほどだ。
■ITバブルの中で様々な幻想が語られた。リアル経済ならぬバーチャル経済しかり。ITによる失業者の
吸収しかり。「これからは2ちゃんねるの時代だ」のごとき匿名幻想しかり。IT社会はリアルワールドにおける
信頼と責任抜きにはありえないというだけの話だ。